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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第十三話 一人前に認められる条件 その一

お疲れ様です。


本日の前半部分の投稿になります。




 軍鶏の里でお世話になる前にハンナからこう聞いた。


『この大陸には種類に富んだ者共が住んでいる』


 彼の言った通り、確かにこの大陸には様々な種類の鳥類達が住んでいる様だ。


 ある日は。


『初めまして!! 俺の名はハインド!! 夜鷹の魔物だ!!』


『え――っと……。ハインドさん、だっけ?? 姿が見当たらないので可能であれば姿を見せて仰って頂けます??』


『お――!! 悪い悪い!! 俺は此処だぞ!!』


 木の枝のコブに化けていた夜鷹さんが姿を現して大袈裟に翼をはためかせる。


『今日はお前達に隠密訓練の指導を施す!! 先ずは俺が森の中で隠れるからお前達は手分けして探してみろ!!』



 里の近くにある森の中で夜鷹の魔物からかくれんぼという名の指導を受けるも。



『ふぅん、この森はこんな感じなのか。おっ?? 何か見付けた??』


『ピピッ!!』


『げぇっ、それ汎用虫じゃん。俺はいらないから皆で……』


『いい加減に見付けろよ!!!! さっきからずぅっと散歩気分で森の中を歩き回りやがって!!』


 辛い訓練の日々の中、突如として舞い降りた楽しい森林散歩を満喫させて貰った。



 またある日は。



『ぜ――んぜんなっていません!! 相手に攻撃を与えるのではなく、その向こう側へ穿つ様に前蹴りを放つのですっ!!』


『わ、分かりましたから俺の目を直視して凄まないで下さい……』


『へっ!? べ、別に凄んでいませんよ!?』



 目付きが異常に恐ろしい火食鳥さんから体がボロボロになるまで前蹴りの熱血指導を受け賜った。



 筋肉モリモリの軍鶏、しゃがれた声の烏、隠れ上手の夜鷹、そして前蹴りに対して異様に執着する火食鳥等々。


 多種多様な鳥類から訓練を受け続け、この里に訪れてから本日で三十日が経った。


 共に汗を流し、共に同じ釜の飯を食っているヒヨコ達との絆もある程度深まり。今では何となぁくだが彼等が何を言いたいのか鳴き声一つで理解出来るようになってきた。


 俺が本来求めていた自分の身は自分で守れるだけの強さを手に入れたかと問われれば……。まぁそれには少し疑問が残るな。


 だが、此処に来る前よりも確実に強くなっていると思う。


 枯れた枝みたいな腕の野郎がたった数日で巨木を彷彿とさせる腕に成長出来ない様に、強くなる為には毎日の積み重ねが大切だ。


 本日もその積み重ねを行うべく、フワモコの黄色の毛を持つヒヨコちゃん達と共に行動していた。



「じゃあ次はこの問題を解いてみようか。じゃあ……。はい、ピョン太!! 解いてみろ!!」


 俺の右肩に留まり、地面に描かれた数式を鋭い瞳で見下ろす彼に問うてやる。


「ピ、ピィ――……。ピピピピピ!!!!」


「はい、残念。答えは六でした――」



 頑張って鳴き声と翼を同時に五回動かした彼に不正解を告げてやった。



「ピィ――!!!! ピピッ!!」

『合っているだろ!?』



 そう言わんばかりにまぁまぁ硬い嘴で俺の耳を突く。



「いてて……。いやいや、三×二だから答えは六だよ。いいか?? ここに三つの石があるとする」


 木の棒の先端で地面に三つの石の画を描く。


「これを一塊として括って……。ほいでもう一つ同じ塊が此処にあるとする」


 そしてその横に全く同じ形の石を三つ描き。



「掛け算ってのは同じ数を何回足すのか。それを簡単にしただけの話なんだよ。例えば……。三×九だと。三足す三足す三足す……って九回も足し算を書いていたら滅茶苦茶面倒になるだろ?? それをこの数式である×を描く事によって略しているんだ」



 加算の数式を上に、乗算の数式を下に描いて大変分かり易く説明してあげた。



「「「ピィィイイ――――!!!!」」」

『はいはい!! そういう事ね!!』



 俺の双肩から大変陽性な鳴き声が放たれ、それと同時にきゃわいい翼が仰々しくピコピコと動いた。



「理解してくれて結構。じゃあ今度は……。これをピー助に解いて貰おうかなぁ!!」



 いつものお返しじゃあないけども、二桁同士の乗算を地面に描いてやる。


 ふふふ……。三歳児が十二×十三を解ける訳があるまいて。


 とぉっても心地良い優越感に浸り、小さな枝を加えて顔を顰めているピー助を見下ろしてやった。



「フッムゥ……。ムッ!!!!」



 頑張って咥える枝を器用に動かして地面に数字を描く。


 その数字は……。



「ぷっ!! クスス……。はい、残念でしたぁぁあ。答えは百五十六でしたぁ!!」


 百十五と描かれた数字を手で消して真の正解である百五十六を男らしい書式で描いてやった。


「まぁしょうがないよねっ!! 三歳児にはちょぉぉっと難しかったかもぉ」


 右手で口元を抑えてクスクスと笑っていると俺の態度が気に障ったのか。


「ムゥゥ……。フゥゥゥウウンッ!!」


 あの化け物へと形態変化。


「ピ――ピピッ」

「ピッ!!」



 これから起こる悲劇を想像してか、双肩に留まっていたピョン太達が颯爽と降りてしまった。



「ちょ、ちょっと待て!! 形態変化は卑怯だぞ!?」


 俺の胸倉をグッっと掴み上げ、宙に浮かされたまま顔は超かわいいヒヨコだけど首から下はゴリゴリの筋肉質のヒヨコ擬きへ叫んでやる。


「ゴッフゥ……。フゥ??」

『人の間違いを笑うのは……。ちょっと失礼じゃあないのかい??』



 慌てふためく俺に対して首を傾げる。



「わ、分かった!! 笑ったのは謝るから下ろして!!」


「チッ……」

『次は容赦しないからな??』


「はぁ――。助かった……」


 ヒヨコ擬きに凄まれ、大変恐縮した心のまま地面に降りると大きな溜息を漏らした。


「ピィ――」

『笑ったダンが悪いんだよ??』


 いつもは柔和な目付きのピヨ美がちょいと円らな瞳を尖らせて鳴く。


「まぁ笑った俺が悪いのは承知しているけどさっ。さて!! 次の問題を解きますよ――!!」


「「「ピピ――ッ!!!!」」」


 地面に胡坐をかいて座り、可愛いヒヨコちゃん達に囲まれて新たなる数式を描き始めると。



「――――。随分と馴染んでいるな」


 男性の澄んだ声が訓練場の中に響いた。


「ハンナ!!」


 久し振りに聞く彼の声に陽性な感情が湧き、何だか訝し気な顔を浮かべている俺達を見つめているハンナの下へと駆け出した。


「十日振りじゃん!! 元気にしてたか!?」


 彼の肩を元気良く叩いて言ってやる。


「口喧しい貴様が居ないお陰か好調だ」


「またまたぁ。本当は俺が居なくて寂しいんでしょう――??」


「止めろ。気色悪い」


 彼の体をきゅっと抱き締めてやろうとしたらスルリと逃げられてしまった。



「それより訓練の経過はどうだ??」


「まぁまぁな進捗具合って所かしらね。毎朝の走り込みで基礎体力の向上そして……」


 今日までに受けて来た訓練の数々をちょいと離れた位置で静聴しているハンナへと説明してやる。


「――――。ってな訳で、各地に散らばっている鳥類さん達のありがぁ――い指導の御蔭様でこうして逞しく成長しているのよ」


 程々に育った腕の筋肉をどうだと言わんばかりに見せてやるが。


「夜鷹の隠密行動、火食鳥の前蹴りに烏の魔法指導か……。お前達も中々に厳しい訓練を受けている様だな」



 横着で素直じゃない白頭鷲の魔物は俺の横を通過すると、ちいちゃなヒヨコ達に温かな視線を送って彼等の頭を優しく撫でてしまった。



「ちょ、ちょっと待って!! そこは俺を褒める所じゃないの!?」


「貴様は大人だ。努力するのが当然だが、彼等はまだ齢三つ。音を上げる処か歯を食いしばって指導に耐えているのは素晴らしい事なのだぞ」



 いや、そりゃあ分かりますけども……。


 西瓜の種程度の優しさを与えてくれてもいいんじゃね??



「ピ、ピィィ……」


「ふふ、甘えた声だな」


 超絶美男子に頭を撫でられて恍惚の声を漏らすピヨ美。


「フゥゥ――……ッ」


「ハ、ハンナ。その辺にしておけって……」


 そしてそれを超絶不機嫌な顔で見つめているピー助の表情を捉えて肝を冷やしていると。



「お――、揃っているな」


 里の方角からベルナルドさんが大変ゆるりとした歩調で此方にやって来た。


「あ、お疲れ様です。どうされました??」


「グヌヌヌゥ……ッ!!」



 今にも形態変化して美男子に襲い掛かろうとしているピー助から視線を外して彼の下へと向かう。



「うむっ。本日の指導内容を伝えようと思ってな」


「了解しました。お――い!! 皆さん、ベルナルドさんから指示がありますよ――!!」



 訓練場の中で和気藹々と過ごすヒヨコちゃん達に母性溢れる声で召集命令を出した。



「「「ピピッ!!」」」


 日頃の指導の成果そして俺の生活指導のお陰もあってか、ベルナルドさんの前で一糸乱れぬ隊列を組む。


「うむっ。悪くないな」


「有難う御座います。それで、本日はどういった内容の指導を施してくれるのでしょうか」



 さ、流石に今日は火食鳥のイロン先生は来ないよね??


 前蹴りのし過ぎで足の裏の筋肉がまだまだ不機嫌なので……。あの馬鹿げた前蹴りの訓練に食らいつく根性と体力は残っていないぞ。


 少しだけ硬い唾をゴックンと飲み終えると、いつもより若干強張った顔で俺達の顔をゆるりと見回しているベルナルドさんが徐に口を開いた。



「本日は……。ここから南へと下り、広大な森へ足を踏み込んで暴兎ぼうとを討伐して来い」



 ぼ、暴兎??


 聞き慣れない……。いや、初耳の単語を受けて首を傾げると。



「「「ピ、ピェェ……」」」


 ピー助を除くヒヨコちゃん達が恐れ戦く声を出して、サァっと顔を青ざめてしまった。


「お、長。彼等にはまだ暴兎の相手は早過ぎるのでは??」



 傍観を決めていたハンナがベルナルドさんに慌てて詰め寄る。



「一対一の対決では無く六名で一体を討伐して来いと言っているのだ」


「いや、それでも……」


「なぁ、ハンナ。その暴兎ってのはどんな奴なんだ??」




「軍鶏の里から下った森に生息する野生生物だ。各個体がそれぞれの縄張りを持ち、その縄張りの中で行動する兎なのだが……。縄張りに入って来た者には容赦なく襲い掛かり、相手が絶命するまで両の拳を叩き付ける。普通の兎と異なり、二足歩行を可能として徒手格闘を最も得意とする。白い毛に覆われた装甲は見た目よりも硬く、鍛え抜かれた脚力から繰り出す素早い動き、そして剛腕から放たれる拳は鉄をも砕く。軍鶏の里から暴兎討伐に出掛けた者の中には実力が及ばず、帰らぬ者となった者もいるのだ」




「な、な、成程……。名に恥じぬ強さをお持ちの兎ちゃんなのねっ」



 だから慌てて詰め寄ったのね……。先程よりも更に硬度を高めた硬い生唾をゴックンと飲み込んで言ってやった。



「で、でもどうして急に俺達にそんな危険な指示を出すのですか??」


「軍鶏の里では一人前になる為に様々な条件の一つとして暴兎討伐が含まれている。今のお前達の実力なら討伐出来ると判断した結果だ」


「長から認められるのは嬉しいですけどぉ。も、勿論引率はしますよ?? で、でも大事なお子様達を危険な目に遭わせるのは御両親達に申し訳ないかとぉ……。そ、そうだよな??」


「「「ピィェ……」」」


 引き腰になっているピョン太達と同じく大変弱気な口調で話すと。



「――――――。フンッ」



 ピー助が俺の姿を見て、あろうことか鼻で笑いやがった。



「こ、この野郎!! 今、鼻で笑ったよな!?」


 三歳児に突っかかる大人もどうかなぁ――っと思いますけども!! 今のは見過ごせませんよ!?


「ピッピピ……」

『弱者を笑って何が悪い』



「はい、出ました――!! 唐突な俺最強宣言っ。あのね?? お前さん一人で突っ込んで死ぬのは勝手だけど。俺には四人のヒヨコを預かっている保護者としての責任があるの。森の中で朽ち果てたら親御さん達に申し訳が立たないだろ??」



「ピ――」

『それは建前だろう??』



「違います――!! 本音ですぅ――!! たかが兎一匹に俺がビビる訳ねぇだろうが!!」



「ピョピュォッ??」

『痩せ我慢するな。ほら、足が震えているぞ??』



「これは武者震いですっ!! あぁ、そうかよ。やってやろうじゃねぇか!! ベルナルドさん暴兎討伐の件、確と承りました!!」



 弱気な自分を追い出し、覚悟を決めて覇気ある声で恐ろしい獣の討伐の一件を了承してあげた。



「うむっ!! 良い返事だ!! 森の中で数日間過ごす場合もある。装備と準備を整え一時間後に里の南出入口に集合だ」


「了解しました!! おらぁっ!! ヒヨコ共!! 大将から命令が下ったぞ!! 早速行動開始だぁぁああ――!!」


 戦士の雄叫びを放つと。


「「「ピッピピィ――――!!!!」」」


 俺の覇気に合わせてピョン太達が威勢の良い声を上げてくれた。



「よっしゃ!! 先ずはぁ……。っと、何だ?? ハンナ。気持ち悪い目で俺を見つめて」



 まるで珍種の生物を見つめる様な驚きと嫌悪が入り混じった瞳の色を浮かべている相棒に問うてやる。



「あ、いや。貴様が普通にヒヨコ達と会話をしている事に驚いただけだ」


「全部が全部分かる訳じゃねぇよ。鳴き声の口調と語尾、そしてヒヨコちゃん達の目を見て何となる理解しているだけだって」


「それにしても人の身で彼等の言葉を理解するのは疑問が残るぞ……」



 一か月も寝食を共にすれば鼓膜にヒヨコの鳴き声が染み付いちゃって離れてくれないし。多分そこから俺の頭が鳴き声の分析を始めて、鳴き声と言葉の連動性の構築と破壊を繰り返して何んとなく理解出来るようになっちゃったのだろう。



「ピ――!! ピッピ!!」

『早くしろ!! このノロマ!!』


「喧しい!! お母さんはお父さんと御話しなきゃいけないの!! お前は黙って準備してろ!!」


 俺に向かって叫んだピー助へ更に強い声量で言い返してやった。



「俺は彼等の父親になった覚えはないぞ……」



 ヒヨコの鳴き声がピーチクパーチク喧しく鳴り響く訓練場の中でお父さんが巨大な溜息を吐く。


 それはこれからの俺達に対しての心配の意味を含めたものなのか、将又只の疲労なのか。それは定かではないが酷くこの場に合った所作に映った。



 難題を与えられたが俺一人で討伐する訳じゃないし、それに筋骨隆々のピー助も居る事だし……。何とかなるよね??


 これは拙い希望的観測だが、果たして常軌を逸した兎擬きと対峙した時に正常な思考でいられるのだろうか??


 幾つもの不安と危惧と憂慮が心の中で混ざり合い膨れ上がると否応なしに足取りが重くなってしまう。


 大人である俺でも抱いてしまう負の感情。


 まだ齢三つのあの子達はもっと不安で苛まれているであろう。


 俺がビビってどうするんだよ。こういう時こそ頼れる逞しい背中を見せて、安心させてやるのが真の男って奴なのさ!!


「ふぅ……。よしっ!! 行くか!!」


 弱気な心を追い出して強き心に入れ替えると、荷物を纏めに覇気ある歩調でヒヨコ共の喧しい鳴き声が響く平屋へと向って行った。



お疲れ様でした。


文字数が一万文字を超えてしまった為、分けての投稿になります。


現在後半部分の編集作業中ですので、次の投稿まで今暫くお待ち下さいませ。

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