表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
831/1227

第十二話 それぞれがそれぞれの強さへと向かって

お疲れ様です。


週末の夜にそっと投稿を添えさせて頂きます。




 人は太陽が沈んだら翌日に備えて床に就き、太陽が目覚めたのなら睡魔の甘い誘惑を振り切り妙に重たい瞼を開いて渋々起床する。


 日がな一日お日様の陽射しを浴びて己に課された使命を果たして嬉しい労働の汗を流し、仲間と共に朗らかな笑みを浮かべて幸せな日常を謳歌する。


 これが感情と思考を持つ生物の普遍的な生活循環だ。


 まぁお月様が元気な時間に活動する人もいるだろうが大多数の人に当て嵌まる生活循環であろう。


 普遍的な文化の中で生活する人間とちょいと毛色は違うが、俺もその生活循環に従って行動している。



『ヴェゴッゴゥ――――!!』


『っ!?』


 まだまだ太陽が眠り足りないと愚痴を零す時間帯に差し掛かると耳障りな鶏擬きの鳴き声が里に響く。


『皆さん!! 朝ですよ!! 起きましょうね!!』


『ピ、ピィ……』


 その声を受け取ると飛蝗も驚く速度で上半身を起こして狭い室内で眠りこけるヒヨコちゃん共を優しい言葉で目覚めさせ。


 夏の陽射しが降り注ぐ大地の上で未熟な者達と共に一段階強くなる為に汗を流す。


 ヒヨコちゃん達の瞬きが異様に長くなって来る夕刻には世のお母様方に倣い、彼等の為に寝床を用意。


『ふぅ――。皆気持ち良さそうに眠っていますねっ』


 各自がキチンと眠りに就いたのを確認すると疲れとも安堵とも捉えられる長い吐息を吐いて床に就くのだ。



 この生活循環の繰り返しを行い本日で十五日目。



 軍鶏の里でも俺の顔は知れ渡り、今に至ってはヒヨコちゃん達の善き先生として捉えられていた。


 彼等の身の回りの世話を行うついでに強くなり里の者達と交流を深めて絆を強くする。


 一石二鳥処か三鳥、いや四鳥なのだが……。


 この身の回りの世話が意外と厄介なのですよ。


 食事の提供、毛繕いの補佐、更に言葉や簡単な算数も教えなきゃいけないし。


 これらは俺に与えられた課題なのでつべこべ言わず、アレコレと文句も言わず日々行うのが必然なのですが。毎日クソ真面目に行っている律儀な自分に改めて気付かされてしまう。



『この先に待ち構えている危険な冒険に備えての鍛錬』



 恐らく無意識の内にこれを意識しているのでしょう。


 早くハンナと一緒に色々お出掛けしたいし。その為には、自分の身は自分で守れる程度の強さを身に着けないといけませんからね!!



「ふぅ――……。よっし、朝の走り込みはこれで終了だな。平屋に帰って朝飯にしよう!!」


 朝の日課である里の外周を走る稽古を終えると額に浮かぶ汗を拭い、一呼吸整えると足元のヒヨコちゃん達へそう話す。


「「「ピィ……。ピィ……」」」


 小さな体で長距離を走るのは相当堪えたのか。


「フゥ……」


 十万年に一度の天才児と呼ばれるピー助以外の者は体全体で息をして草臥れ果てていた。


「流石天才児だな。ピー助はまだまだ走り足りないって感じ??」


 他のヒヨコちゃんより一回り大きな体を突く。


「ンムゥ……」

『気安く触れるな』



 そう言わんばかりにちいちゃな翼を動かして俺の指を邪険に跳ね除けてしまった。



「ま、まぁっ!! この子ったら!! お母さんの絡みを蔑ろにしてはいけないんですよ!?」


 腰に手を当てて、巨大な鼻息を吹き出す。


「フンッ……」



 この年頃になると自我が芽生え始め、何でも嫌がる傾向が見られるからなぁ……。


 姿形は変わるがこの子達も人と変わらぬ感情を持っている。


 それを汲み取って優しく接するのが大人の務めでしょうね。


 視線一つで蟻を卒倒させる事を可能とした鋭い瞳を浮かべるピー助を見下ろしていると。



「ピ……。ピィィィィ……」



 ヒヨコちゃん達の中で紅一点。


 ピヨ美が今にも死にそうな足取りで里の入り口へと帰って来た。



「お疲れさ――ん!! 今日も頑張って走り抜きましたね!!」



 俺の足元で大袈裟にバタッと倒れた彼女へ労いの言葉を掛けてあげる。



「ゼェ……。ゼェ……」

『私の事は放っておいて……。疲れ過ぎて話す気にもならないわ……』



 ちいちゃな翼をフリフリと動かし、そっとしておいてくれと合図を出した。


 ピヨ美は女の子だし、男の子よりも体力が劣るのは致し方ないが。それでも懸命に食らいつこうとする姿は胸にジンっと響くものがあるよね。



 娘の成長を日に日に感じ取る母親の朗らかな気持ちを抱いていると。



「ピッピッピ――」


「ピピッ!!」


「「「ピピピピ――――ッ!!!!」」」



 意地悪大好きなピョン太。


 そのお付きのピッピと、太っちょのピコ坊がピヨ美を指差して笑い転げた。


 まぁまぁこの子達ったら……。どうして仲間の努力を笑うのかしらねぇ。


 お母さんはそんな風に育てた覚えはありませんよと、辛口な台詞を吐こうとした刹那。



「フゥ゛――……」



 ピー助が視線一つで獰猛な野獣を撃退出来てしまいそうな、超絶鋭い視線を浮かべた。



「ピーピッピ……」

『さ、さぁ――って。朝ご飯を食べに行こうかな――っと』



 流石の意地悪三兄弟もピー助には勝てぬと判断したのか。居心地悪そうな気配を醸し出すと里の中へヨチヨチ歩行で向って行ってしまった。



「さっすがピー助。視線一つで相手を制圧するなんてやるじゃないか」


 彼の前でちょこんとしゃがみ込み、フワフワの毛を突こうとするが。


「ピッ」

『触れたら刺す』


 鋭い嘴の先端で俺の指を穿とうとしたので慌てて指を引っ込めた。


「あっぶねぇなぁ。さてと、ここで喋っていても腹が膨れる訳じゃないし。俺達も朝飯にしようか」


「ピィ……」

『あ、有難う……』


 ピヨ美が恋に落ちる約二秒前の乙女のウットリとした瞳を浮かべると。


「フ、フンッ……」


 それを満更でも無い顔で受け止めているピー助を尻目に我らが使用している平屋へと足を向けた。



 この生活を始めたばかりの時は正直何で俺が齢三つのガキ共の世話をせにゃならんのだと考えていたが……。


 彼等と共に生活を続けていく内にその考えは百八十度変わった。


 齢三つといえども彼等は既にこの里の一員となる資格を得る為に日々切磋琢磨を続け、大人達顔負けの厳しい課題を己に課していた。


 顔を顰め、痛みに耐え、昨日の自分よりも強くなろうとする姿は手本にしたくなる程に美しく映ったのだ。



「おはようダン!! 朝の稽古は終わりか!?」


 日に焼けた浅黒い肌の男性からちょいと朝に相応しくない声量の挨拶が放たれる。


「おはようさん。走り込みを終えたから今から食事だよ」


「そうか!! 卵と米は既に平屋に置いてあるから好きに使ってくれ!!」


「有難うよ!! 大切に使わせ貰うさ!!」



 この里で獲れた正真正銘の鶏卵、それと引き換えに他の里で得た米、更に近くの森で獲れた野草。栄養満点の食事を想像するとお腹ちゃんの機嫌が悪くなってしまいますよ。



「坊主達もしっかり食べて大きくなるんだぞ!?」


 俺の後ろに続くピー助とピヨ美にそう声を掛けると。


「「ピッ!!!!」」


 威勢の良い返事で彼の言葉に応えた。


「ピー助、俺が声を掛けた時もそうやって覇気ある声で返事してくれよ」


「フンッ……」


 こ、こいつめ……。絶対俺の事を見下しているだろ……。


「いいのかなぁ――?? 一人前と認めて貰えない様にベルナルドさんに告げ口しちゃうぞ――??」


 俺がクスクスと笑って揶揄ってやると。


「ムゥゥッ……。フッゥゥウウンッ!!」



 首から上は超かわいいヒヨコちゃん、首から下はゴッリゴリの筋骨隆々の姿へ形態変化。


 俺の頭を異様にデカイ手の平でぎゅっと掴んでしまった。



「分かった!! 俺が悪かった!! だから首を捻じ切ろうとするな!!」


「フゥゥン」

『分かれば良い』


 やれやれといった感じで巨大な吐息を吐くと元のきゃわいいヒヨコの姿へと戻ってくれた。


 いてて……。朝一番から寝違いそうになっちゃったよ……。



「一人前の道のりは厳しいけど頑張れよ?? それじゃ俺は野草の採取に行って来るわ!!」


「いってらっしゃ――い!! 野生生物には気を付けるんですよ――!!」


 ニコッ!! と素敵な笑みを浮かべて里の外へ駆けて行った彼を見送ってあげた。



 一人前ねぇ……。


 俺に言っているのかそれともピー助達に言っているのやら。



「それじゃ行こうか」



 里の外へ元気良く駆けて行く彼の背に別れを告げると俺達が寝食を共にしている平屋へと足を向けた。



 この里では大人達に認められ、一人前になるまでは名を与えられない。


 ピー助達には個人を特定する為に俺が便宜上名を与えたのだ。


 どうしたら一人前に認められるのかは定かでは無いが……。その目的達成の為か将又大人達が強くなる為なのか。


 この里には他の里から指導を施す為にちょくちょく来訪者がやって来る。


 先日は……。あぁ、からすの里からやって来たっけ。


 胡散臭さを醸し出す全身真っ黒な服を身に纏い、怪しさ全開の猫背で俺達の前に現れた。


 彼がピー助達に魔法の指導を施す前。



『ふふふ……。君達ぃ……。ものすごぉく美味しそうな体だねぇ』


『『『ピピィ……』』』



 しゃがれた男性の声が放たれるとピー助以外はビビっていたな。



 この里で暮らしていると嫌でも体を動かさざるを得ないし、強くなっている実感は無いけど確実に成長している実感はある。


 一日でも早く一人前になる為に俺達は今日も汗を流して一日を過ごすのだ。



「おっしゃ!! ピョン太達が待っているし。平屋の前まで競争だな!!」


 朝の走り込みで草臥れ果てている足にグっと気合を注入すると、ピー助達よりも先に平屋へ向かって駆けてやる。


「ピィッ!!!!」

『俺の前を走るな!!』


「うっぉ!? 相変わらずはえぇな!?」



 ピー助が馬鹿げた回転速度で小さな足を交互に動かして俺を颯爽と抜かして行く。



「お母さんはまだまだ負ける訳にはいきません!!」



 大人の実力をまざまざと見せつけてやりましょうかね!!


 馬鹿げた速さで駆けているヒヨコを颯爽と追い抜くと、これでもかと腕を振って里の通りを駆け抜けて行く。


 勿論。



「ピ、ピィィイイ――――!!!!」

『置いていかないでよ――!!』



 疲労困憊のピヨ美の悲壮感溢れる叫び声を背に受けたままでだ。































 ◇




 共に切磋琢磨を続ける者達と失った体力を補う為に朝食を終えると、午前からの稽古に備え土の香りが充満する慎ましい広さの訓練場の上で軽い柔軟を続けていた。


 うむ……。まだまだ各関節に違和感が残っているな……。


 無理も無い。


 普通の人間ならとっくに音を上げてしまう程の運動量をこなしているのだ。


 それでも俺の体が元気に動いてくれるのは幼い頃から始めた農作業やら馬鹿げた遊びで培った体力のおかげであろう。


 基礎体力の重要さを改めて実感。


 筋疲労と体の節々に生じる違和感を解す為に屈伸運動を続けていると。



「ピピッ」


 ピヨ美が俺のふくらはぎ辺りをちいちゃな嘴で突いて来た。


「どした?? ピヨ美」



「ピ――、ピッ」

『今日はどんな先生が来るか聞いていない??』


 円らな瞳で俺を見上げて首を傾げる。



「あ――、聞いていないな。でも安心しなよ。先日来てくれたこわぁい烏の先生じゃないみたいだし」


「ピィッ!!!!」

『怖く無かったもん!!』


 そう言わんばかりに細くて小さな右足で俺の踝を蹴飛ばす。


「あはは、わりぃわりぃ。多分もう直ぐじゃない?? ほら、やって来……」



 可愛らしくプリプリ怒るピヨ美から視線を外すと有り得ない光景を捉えてしまった。


 人は目の前に信じられない光景が広がるとすべからく口を馬鹿みたいにポカンと開く。


 俺もその例に漏れる事無く、パッカァンと御口を開いて驚愕の事実を目の当たりにしていた。



 お、おいおい。誰がこの世の理を越えた超生命体を連れて来いっていったんだよ……。



「お待たせ――!! 今日は火食鳥ヒクイドリのイロン先生がやって来てくれたぞ――!!」



 俺達が使用する慎ましい広さの訓練場に里の者が招かれざる客を引き連れて来てしまった。



「…………」



 足元から頭の天辺までの体高は目測で凡そ二メートル強。


 艶を帯びた黒き羽で巨大な胴体を包み、首の羽毛は薄っすらと青く。頭には立派な黄金色の鶏冠が目立つ。


 巨躯を支える逞しい二本の足の先には鋭利なナイフの切っ先を彷彿とさせる、それはちょっと過剰過ぎるだろと思わず突っ込みたくなる攻撃力に特化した爪が備えられていた。


 重厚感溢れる全体像、人を寄せ付けぬ覇気、そして……。



『死にたい奴だけ掛かって来い』



 一睨みするだけで気の弱い奴なら失神させられるであろう殺気に満ち溢れた恐ろしい二つの目。


 あの火食鳥さんはきっと間違えてこっちに来ちゃったんでしょう。


 う、うん。きっとそうだよ。だって怖すぎるしっ……。



「えぇっと……。こっちはヒヨコ達の訓練場だよ??」


 お前さんは場違いであると、大変やんわりとした口調で超生命体を連れて来た里の者に告げてやるが。


「へ?? 間違いじゃないよ?? 今日はこっちで指導を施す様に長から聞いていたし」


 う、嘘でしょう!? こんなべらぼうな相手と訓練しなきゃいけないの!?


「へ、へぇ――。そ、そうなんだ」


「イロン先生!! 後は宜しく――!!」



 案内役である里の者が軽快な笑みを浮かべて訓練場を去って行くと。



「「「……」」」



 ものすごぉく気まずい空気が漂い始めた。



 い、いやいや。


 人を殺すような目で見つめていないで何か仰って下さいよ。


 あの瞳の威力に耐えられなくなったのか。



「「「ピィィ……」」」


 ピョン太達がスっと視線を外し、地面の小石を見下ろしていた。



 俺も彼等に倣い視線を外したいが……。大の大人が視線一つ程度でビビる訳にもいかず。足が震え出すのを懸命に堪え、火食鳥さんの言葉を待っていた。



「初めまして。私の名前はイロンと申します」



 お、女!?!?


 鋭く尖った嘴が開くと想像とは真逆の大変きゃわいい声が響いて再び度肝を抜かされそうになった。



「あ、ど、どうも。俺の名前はダンと申します。そして彼等は……」


 この里の掟でまだ彼等には正式な名は与えられていない、そして俺が便宜上付けている名の説明を終えると。


「フフ、可愛い名を与えられましたね」


 大変高い位置からぬぅっと頭が下りて来て地上付近でカタカタと震えるヒヨコちゃん達の頭をやんわりと突いた。


「あれ?? この里の掟は御存知なのですか??」


「えぇ、何度もこの里に訪れていますので」


「そうなのですか……。今日は一体どんな指導の予定で??」


「本日は……。そうですね。私達火食鳥の得意技である前蹴りをお教えいたしましょうか」



 強過ぎる目力で俺の瞳を直視して話す。



 前蹴り、ですか……。


 恐ろし過ぎる瞳からスっと視線を外してイロン先生の足元へ視線を落とす。



「私共の爪先には鋭利な爪が備わっています。魔物の姿である時はこれを使用して襲い掛かって来た相手を絶命させます」


 でしょうね。


 その逞しい足から馬鹿げた速度で蹴りを放てば、あっちの世界へ歯向かった者共を送り込むのは容易いでしょう。


 死神さんも楽だよなぁ……。死体の痛んだ形状から速攻で犯人を特定出来るのだから。



「そうだ!! 指導を施す前に、私の技を見てみます??」


『結構です』

「ぜ、是非お願いします!!」



 心の声とは真逆の声を放ち、眼前に迫った恐ろしい顔にそう言ってあげた。



「ではダンさん。あそこの木の板を持って来て下さいっ」


「へ、へいっ!!」


 いつまでもうだつの上がらないチンピラの子分の台詞を吐くと、訓練場の隅で寂しそうに横たわっている木の板を手に持ち瞬き一つの間に戻って来た。


「お待たせしました!!」


「ふふ、そんなに慌てなくても構いませんよ??」



 その恐ろし過ぎる瞳で命令されたら誰だって素早く行動に至るって……。



「では、その板を体の前に立てて下さい」


「こんな感じです??」


 俺の背丈程の木の板を地面に立ててあげる。


「いいですね。では、早速披露しましょうか。ヒヨコさん達はこちらの位置で見ていて下さいね」



「「「ピ、ピッ!!」」」


 威圧感溢れる瞳に従いピー助達が木の板の死角へと移動して行く。


「ダンさん。決して板から手を外さないで下さいよ?? 足元が狂って射殺してしまう恐れがありますから」


「ちょ、ちょっと待って!! だったらこの木の板を安全な位置に立てかけて……」


「では……。行きますよ!!!!」



 俺の話を聞きなさいよね!!!!



「はぁっ!!!!」



 丁寧な口調とは裏腹に意外と横着なイロン先生が気合溢れた言葉を放った刹那。



「いぃっ!?!?」



 眼前に立てている木の板に衝撃が迸り、俺の喉元辺りに過剰な殺傷能力を備えた鋭い爪が現れた。


 あ、あ、あっぶねぇぇええ!!


 後数センチ進んでいれば俺の喉元を貫いていたじゃん!!



「ふぅっ……。木の板だと柔らか過ぎるから加減出来るかどうか心配でしたけど、何んとかなりましたねっ」


 木の板からスポっと爪が抜かれると、空いた穴には摩擦熱によって白む湯気が漂っていた。


 も、もしもこれが俺の喉元に直撃していたと思うと……。


 木の板から放たれる焦げ臭い香りが背の肌を泡立たせ、大変冷たい汗が流れ落ちて行った。



「「「ピッピピ――!!!!」」」

『すげぇえええ!!』


 イロン先生の強烈過ぎる前蹴りにピョン太達の歓声が湧く。


「あ、あのねぇ!! もう少し手加減して打ちなさいよ!!」


 乱雑に木の板を放り捨てて叫んでやった。


「この里の者達は真なる強さを求めています。ある程度の手加減は必要ですが私達は彼等の手本となる故、手心を加えるのはお門違いかと??」



 長い首の先にある恐ろしい顔がキュっと横に曲がる。



「そ、そういう問題じゃないのです!! 後少しで俺の喉元に突き刺さっていたんですよ!?」



 今もプスプスと白い湯気を放つ木の板を指差して叫んでやった。



「ふふっ、その時はその時です。さっ!! 皆さん、私が見ていてあげますから神をも蹴り殺す素敵な前蹴りを覚えましょうねっ!!」


「「「ピ――――ッ!!!!」」」


「理不尽だ!!」


 歓喜に湧くヒヨコ達の叫び声に負けじと己の素直な感情を放つが。



「牽制の為の前蹴りは軸足に体重を残して……。相手を倒す時に使用する際は体重を前に掛けて下さい!!」


「「ピッ!! ピッ!!」」


「そうです!! 初めてにしては筋が良いですよ!!!!」



 強面火食鳥のイロン先生の熱血指導が始まり、俺の願いは審議に掛ける前に却下されてしまった。



「ほら、ダンさんも参加して下さい。生温い行動をする様なら酷い躾を施しても構わないと許可を得ていますので……」


 酷いし、躾!?


「わ、分かりました!! よし、皆!! 頑張りましょうね!!」


 キチンと横一列に並ぶピー助達の列へと加わり。


「せいっ!! せぇぇええいっ!!」


 気迫溢れる前蹴りを披露してあげた。


「ダンさんも筋がいいですね!! よぉしっ、今日は日が暮れるまで前蹴りを続けましょう!!」


「「「ピッ!?」」」


「日が暮れるまで!?」



 皆一様に目を丸めてイロン先生の顔を見つめるが。



「何か不味い事でも??」


「「「ピ、ピィ……」」」


「い、いえ。異論はありません……」



 殺気に満ちた目を直視出来ず、言われるがままに前蹴りを開始した。


 今、さり気なく訓練場の端で横たわっている穴の開いた板に視線を送ったよな?? それが指す意味は……。


『惨たらしい死体になりたくなければ私の指示に従え』


 多分、こういう事でしょうね。


 殺気と覇気と怒気に塗れた瞳から放たれる圧に俺達は抗う術を持たず、只々彼女の言われた通りに汗を流し続け。


 体内の水分を全て出し尽くし、太陽が大欠伸をして床に就く時間まで彼女の恐ろしい熱血指導は続いたのだった。




お疲れ様でした。


現代編と違い過去編の訓練は流す感じで行きたいと考えております。勿論、大切な話は書きますが余り長々と書いていると読者様達に。


『早く現代の話を書けよ!!』 と。お叱りの声が光る画面越しに届きそうなので……。



先日罹患した風邪の調子はまぁまぁ良くなってきましたが、まだ喉の調子が良くありませんね。市販の薬とポカリで癒している現状です。


今日は早めに就寝して明日に備えようと考えております。


皆さんも体調管理には気を付けて下さいね??



それでは皆様、良い週末をお過ごし下さいませ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ