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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第十話 居候はツライよ

お疲れ様です。


本日の投稿になります。




 朝一番に相応しい明るく爽快な陽射しが降り注ぐと大地も朗らかな笑みを浮かべ、その上で暮らす人々も柔和な顔へと変化する。


 まぁ人には感情というものが存在するので皆一様とまではいかないが、それでもこの平和な里で暮らす人々は陽性であると断定出来る表情を浮かべ。各々が目的地へと足を運んでいた。



「ダン!! おはよう!!」


 正面から向かい来た里の青年からすれ違い様に声を掛けられたので。


「おう!! おはよう!! 今日も元気そうだな!!」


 彼に倣い、彼以上の声量と笑顔で挨拶を返してあげた。


「あはは!! そっちもな!! 今日は畦畔けいはんの雑草刈りがあるから遅れるなよ――」


「わぁってるって。そっちも彼女とイチャイチャし過ぎて遅れるなよ??」


「や、喧しい!! 朝からそんな事するかっ!!」



 どうだか……。昨今の若者は四六時中盛りに盛っていますからねぇ。


 顔を真っ赤に染めて大股で去って行く彼の背を見送ると現在居候させて頂いている我が相棒の家へと足を進めた。



 この里で暮らす様になって本日で……。三十日目か。


 ここへ来てから数日の間は里の皆との間に見えない壁を感じたが、里の仕事を手伝う内にそれは徐々に破壊され今では世間話をするまでの仲となった。


 やれ誰かさんの娘が可愛い。やれ汎用虫の美味しい焼き方等々。


 その世間話は多岐に渡るが、会話を続けている内にこの里の全貌が明らかになった。



 鷲を祖先とする者達がこの里で暮らしておりその数は約六百名。鳥も様々な種類があるように鷲にも沢山の種類がある。


 ハンナの様に強い種もあれば、里の薬師でもありハンナの幼馴染でもあるクルリの様に戦闘に不向きな種もいる。里の真なる目的は三つ首を倒す事であるが、それ以外の日は自然の恵みに感謝して日々を暮らすのだ。



 この平和な日々を守る為、ハンナは戦士の日課である鍛錬へと今日も朝も早くからそんなに眉を尖らせて疲れないのかと問いたくなる顰め面を引っ提げて出掛けて行った。


 まぁ里の平和を守るのが彼の役割でもあり、常に戦士の心を胸に抱くのは大切だと思うけどさ。


 俺と話す時くらいは気を抜けよと言ってやりたいものだ。



「四角四面のハンナちゃんには無理な注文かしらねっ」


 米がパンパンに詰まった麻袋を胸に抱え、里の通りを朗らかな速度で歩みつつポツリと言葉を漏らした。


「あ、ダン!! おはよう!!」


「おはよ――っす。今日も元気一杯だね」


 里の通りの脇に建つ家から顔馴染の女性が弾む様に出て来たので軽い口調で挨拶を交わす。


「卵持って行く!?」


「卵……ね」



 皆さんご存知の通り、自然界の鳥は卵から生まれて来る。


 卵が割れてそこから雛鳥が誕生して親鳥へこの世に生まれた事を知らせる為にピィピィ鳴くのだ。


 そしてこの里で暮らす人々は人の姿をしているが真の姿は鷲。


 自然界に存在する鷲はその例に漏れず卵から孵り、この世に生まれ落ちる。それが指し示す意味は……。



「あはは!! まぁだ心配しているの?? 安心しなって。鶏卵だからさ」


「この里に来てから鶏を見た事無いんだけど??」



 半信半疑……。いや、二信八疑の面持ちを浮かべて彼女へ問う。



「大丈夫大丈夫!! ほら、持って行きなって!!」


 人を疑う顔を浮かべている俺に幾つかの鶏卵が入った袋を渡してくれる。


「お、おぉ……。それなら有難く頂くよ」


「どういたしましてっ!!」


「――――。本当に鶏卵の……」


「さぁ――って!! 今日は忙しくなりそうだなぁ――っと!!」



 俺が全てを言い終える前に彼女は目を疑う速さで家の戸を閉めてしまった。


 ま、まぁ――……。人を疑うのは良く無いし。偶には騙されたと思って食べましょうかね。



「いやいや、これが何処から生まれたのか。その理由は深く考えなきゃ駄目だろ」



 産み主不明の卵が入った袋と米が入った袋を両手に持ち。



「ただいま――!!」


 我が友と共に暮らす家へと足を踏み入れた。


「っと。相棒はまだ朝稽古中か……」



 シンっと静まり返った玄関口の脇に米の入った麻袋を置き、その足で調理場へと向かい。



「まぁっ!! あの子ったらまた洗いもしないで!!」



 そして調理場に放置してある昨晩の食器の姿を捉えると世の主婦全員が一度は口に出したであろう台詞を吐いてやった。



 全く……。真面目そうに見えて私生活はいい加減なんだからっ。


 家事は分担って口を酸っぱくして言っても聞きやしないんだもん。



 ハンナと暮らす様になってあの横着者の性格と生活の全体像が見えて来た。



 彼は里の戦士であり、三つ首を倒す役割を担い里の者から尊敬の眼差しを向けられているが。その実、家の中では結構いい加減だ。


 家事はほぼ出来ないし、料理もからっきし。唯一出来る家事と言えばありきたりな掃除と包丁の研ぎ程度。


 この一階建ての家には二つの部屋と食事をする居間擬きの空間があるのだが、自分の部屋だけを綺麗にする事に努め。他の場所には手をつけていなかった。


 それでは共に暮らす以前の問題なので素敵な白の前掛けを装備し、腰に両手を添えてこう言ってやった。



『外で気を張るのは分かりますけどね?? あなたはいい大人なのですよ?? 里の者から戦士と呼ばれ、尊敬されている者の家がこの有様じゃあ他所に顔向けが出来ないでしょうに。それに私生活の乱れは心の乱れにも繋がるの。先ずは出来る範囲でいいから家の掃除に……』



『居候の分際で喧しい』



 主婦の愚痴は強面夫のたった一言で玉砕されてしまった。



 まぁ、つい最近まで自分一人であった家に他人が転がり込んで来るんだ。ハンナの言い分は分かるけども……。



「全部俺に任せるのはお門違いじゃあありませんかね!?!?」



 綺麗に洗い終えた食器をキチンと棚に戻し、更に桶から水を汲んで土鍋の中へ入れながら叫んでやった。


 食いしん坊の白頭鷲の三食の世話、家の周りと部屋の掃除。果ては近所付き合いの苦情の処理。


 俺は只の居候の身分であって彼の身内でもなければ里の一員でも無いのです!!


 そう叫んでやりたいが……。



「ふぅっ。御米の研ぎはこれ位にして。次は竈に火を入れるか」



 その実、赤の他人である俺を頼ってくれる事が物凄く嬉しかった。


 この里に住む人達は本当に良くしてくれている。俺があっと言う間に馴染んだのは自分のちゃらんぽらんな性格じゃなくて、ここに住む人達の人間性が最たる理由であろう。


 このまま何事も無く季節が過ぎて行き、大陸の不思議と危険を知って行きたいのだが。そうは問屋が卸さん。



 里の者達が恐れる三つ首がいつ目を覚ますのか不明瞭なのだ。



 俺も里の戦士達みたいにこの里を守ってあげたいよな……。


 たかが人間の分際で生意気だと叫ばれようが、一宿一飯の礼じゃないけど。微力ながら力添えをしたい。


 それが人の人情であろう。



「――――。おっ、後少しで炊けそうだな」



 土鍋で炊く御米の音が変化したので火から外して、居間擬きに食器類を並べて行くと。



「今戻ったぞ」


 この家の家主が少々疲れた顔で帰って来た。


「も――。あなた。いつも言っているでしょう?? ぶっきらぼうな台詞じゃなくて、ただいまって言いなさいって」


 前掛けを外さず、しっかりと腰に手を当てて溜息を放つ。


「喧しい。ここは俺の家だ。何を言おうが勝手だろう」


「そういう問題じゃあないんですっ。普遍的な倫理観の問題なのっ。ハンナがいつか家庭を持って、子供と妻が居る家にそんな怖い顔と台詞を吐いて戻って来たら家族が怖がるでしょう??」


「早く飯の用意をしろ」



 ま、まぁっ!! この子ったら!!



「言う事を聞かない子にはご飯をあげませんよ!?」


 家庭を顧みない夫特有の所作で乱雑に椅子を引いて座る我儘で大きな子に叫んでやる。


「ンッ……。ンッ……。ふぅ――……。何か言ったか??」


 食卓の上に置いてあったヤカンから水をコップへ移し、それを一気に飲み終えて話す。


「はぁ――……。もういいや。ほい、今日の朝ご飯は炊き立て御飯と、産み主不明の卵を使った卵掛け御飯な……」



 敷板の上にアツアツの土鍋を乗せ、産み主不明の卵を食卓の上に乗せてやった。



「ほぅっ……。口喧しいが料理の腕だけは確かだな」


 俺が土鍋の蓋を開くと尖っていた眉が微かに丸まり、水色の瞳が腹ペコの小僧の様に光輝く。


「そりゃどうも。それじゃあ……。頂きます!!!!」



 俺達に命を与えてくれる大地の恵みと生命に対して礼を述べると、早速木製のお椀に炊き立てのご飯を盛ってあげた。



「ふぅむ……。自画自賛じゃないけども。上手に炊けたな」


 美しい輝きを放つ米粒を見つめるとついついうっとりしてしまう。


「貴様の腕は関係無い。肥沃な大地が育んだ米だ。美味くて当然だろう」


「あ、あのねぇ。あの訳の分からん虫しか焼く事が出来ないお前さんに言われたくねぇよ」



 ホッカホカの蒸気を放つ御米ちゃんを早速一口頂いて話す。


 んっ……。うっまぁいっ!! 仄かな甘味が最高っ!!


 この御米ちゃんの美味さに比べたらあの汎用虫はんようちゅうの形容し難い食感と味とは大違いだ。




 汎用虫の大きさは大人の手の平程度で外皮は白濁色、自然界に存在する芋虫と同じく体全体と小さな足を使って移動をする。


 今からこれを食うのかよという意味合いを籠め、ハンナから手渡され己の手の平で蠢く汎用虫を眺めつつこう問うた。


『えっと……。コレ、本当に食えるの??』


『あぁ、美味いぞ』



 俺が問いたかったのは美味い不味い以前の問題では無く、体に害はないのかという意味だったのですけども……。


 戦の最前線から撤退する兵の如く引き腰であった俺に対し、彼は若干得意気な鼻息を漏らすと熱した鉄鍋に汎用虫を男らしい所作で投入。



『ギニィィ……ッ!!』


 大変静かな室内に汎用虫の断末魔の叫び声が響くがハンナはそれに構うことなく菜箸を使用して微妙に太い円筒状の体を転がし、アツアツの鉄鍋の上で汎用中を焼き殺し。


『ほら、出来たぞ。食え』


 出来立てホヤホヤの蒸気を放つ微妙に焦げた汎用虫の死体を俺に翳した。


『い、頂きます……』


 郷に入っては郷に従え。


 この言葉に従い、中々口を開けたがらない体に強烈な鞭を放ち汎用虫の死体を口の中に迎えた。



『はっふ……。うぅん……。ン゛ッ……!?。ォェッ』



 前歯で汎用虫のパリパリの外皮を裂くと、大変粘度の高いトロォォっとした液体が舌の上に零れ落ちる。生理的嫌悪感を抱かせる液体から舌が逃れようとしても体液はいつまでも舌にしがみ付いて離れてくれなかった。


 塩っ辛い体液と微妙な苦みを醸し出す外皮。


 それに加えて焼け残った細い体毛の触感と吐き気を催す臭みが鼻の奥を突き。


 汎用虫の口付近の小さな牙のジャリッとした食感が頑張って抑えていた嗚咽感にトドメを刺してしまった。



『美味いだろ??』


 とてんでもねぇ美男子イケメンが汎用虫の死体をモッチャモッチャと咀嚼しながら俺に問う。


『うん……。控え目に言ってもクソ不味い』


『何!? 貴様の舌は腐っているのか!?』


『く、口の中のモノを飲み込んでから話せや!!!!』


 黒と白濁色が混ざり合い、食欲が一切合切喪失してしまう色合いを放つ彼の口内から目を逸らして叫んでやったのだ。



 アレしか食う物がなければ我慢して食うけど、それ以外に食う物があれば今後二度と口にしないぞ。




「ふんっ……」


 ハンナが疲労を籠めた吐息を吐くと産み主不明の卵をパカっと割り、とろみのある黄味と白身をアツアツ御飯と混ぜ合わせて行く。


「超簡単な料理だけどさ。朝には持って来いだろ??」


「あぁ。簡単に摂取出来て、尚且つ栄養価も高い。勉強になったのは確かだな」


「気になっていたんだけど……。俺が来る前、御飯はどうしていたの??」



 彼に倣い、卵と御飯をかき混ぜながら問う。



「自分で用意していた」


 はい、絶対嘘!!


「お、お前なぁ……。もう少し真面な嘘を付けよ……」



 頑是ない子供でももう少し真面な嘘を付くぞ??



「う、嘘では無い!!」


「そうやって声を荒げる所がまた怪しい……。所で話は変わるんだけどさ」


 食事の手を止め、ちょいと真面目な口調となって話す。


「ふぁんだ??」


「口の中に物を入れて話すなって教わらなかったの?? ちょっと前……。いいや。この里に来てからずっと考えていたんだけど。俺もハンナの手伝いを出来ないかな??」



 よそ者が何を言う。


 その程度の力でよく言えたものだな。



 罵詈雑言を浴びせられようが世話になっている里に少しでも恩返しをしたい。俺なりに考え、俺なりの忠義を果たそうと考えているのだ。



「俺の手伝い?? それは……。里の戦士になりたいというのか??」


「いいや、違うよ。この里で暮らす素敵な人達を滅ぼそうとする三つ首に対して俺にも何か出来る事があるんじゃないかなぁって考えているのさ。ほら、例えば作戦参謀役とか!?」


「調子に乗るな」



 あら、御免なさい。



「前にも言ったがこの大陸では単純な力の強弱が生死を別つ。貴様の力では我々里の戦士の足元にも及ばない。矮小な力の者を戦場へ連れて行く訳にはいかぬのだ」


「じゃ、じゃあある程度の力を備えればハンナについて行ってもいいのか!?」


「ある程度……。まぁ……。そうはそうなのだが……」



 箸の手を止めて口元に手を置いて何やら深く考え込む姿勢を取る。


 凡そ俺が付けるべき強さの総量を考えているのだろうが……。それだけ深く考え込むって事は、俺が弱過ぎるって事だよね??


 向こうの大陸じゃあまぁまぁの強さだったのになぁ――……。所変われば強さの尺度も変わるってか。


 心急く思いでハンナの重い口が開くのを待って居ると。



「おはよ――!! 今日も良い天気だよね!!!!」


 彼の口よりも先に家の口が開き、ハンナの幼馴染であるクルリが眩い元気を振り撒いてやって来た。


「おはよ――っす。今日も朝から元気一杯だな」


「北の森から薬草を採って来てからね!! その元気が継続中……。ん?? ハンナ、どうしたの?? 食事の手を止めて」


「あぁ、実はさ」



 まだまだ考え中の彼に代わってここまでに至った経緯を説明してあげる。



「――――。ってな訳で、戦士にはなれないけど。その脇で支える冒険者になる為にはどの程度の力を付ければいいのか尋ねたんだよ」


「そうなんだ。畑仕事している人から聞いたけど、ダンは余裕で力仕事をこなせるし。馬鹿みたいに体力があるなぁって褒めてたよ??」



 馬鹿、付ける必要があったのかしら??



「力が無い人じゃ畑仕事は出来ないし、力があっても里の戦士にはなれないけどぉ……。意見役にはなれるんじゃないのかな?? ほら、ダンって私達が気付かない事によく気が付くし」


 クルリがそう話すとハンナの隣に腰掛ける。


「確かにそれはあるが……。戦になればやはり自分の身を守る程度の力は必要なる」


「じゃ、じゃあ!! それに相応しい力を持てばハンナと一緒に戦える!?」



 漸く重たい口を開いた彼に問う。



「ま、まぁ……。そうなるかも知れんな。最終判断は長に任せるが……」


「それなら結構!! 戦場で生き抜く術を教えてくれよ!!」


 意気揚々と席を立ち上がり、ハンナの左手側の椅子に腰かけてやった。


「俺は自分の稽古で忙しいから無理だ」


 な、なんだよ。


 此処に来て出し渋るのはよくないぞ??


「あ、それなら軍鶏の里はどうかな?? ほら、あそこの人達は来るべく戦いに備えて鍛えているじゃん」


「軍鶏??」


 ハンナ越しにクルリへと問う。



「ここから南へ下った場所にある里でさ。皆が皆ハンナみたいに戦いの事しか考えていない人達の集まりなんだ。敵に対してはとても厳しいけど、強さを求める人達には寛容的でね?? 実際、この里からも何人か教えを請いに出ているんだよ」



「へぇ!! そうなんだ!! じゃあ俺もそこへ……」


「駄目だ。軍鶏の里の稽古はダンの力では厳し過ぎる」



 意気揚々と参加の是非を問おうとしたら速攻で断られてしまった。



「厳しいのは上等さ!! なぁ、頼むよ……。この大陸の一大事が間も無くやってくるんだろう?? 幾つもの策を講じるべきだとは思わないかい??」


「ダンの言う通りよ。一方向からじゃなくて多角的に物事を捉えられる人が居てもいいんじゃない??」



 子供のお出掛けに対して渋る父親を説得しようとして、煌びやかな瞳を浮かべた二人の子供が父親の左右から懇願する。



「う、む……。しかし……」



 おっ、この流れは……。


 あと一押しで落ちる雰囲気を醸し出したハンナの姿を捉えると、クルリと瞳を刹那に交わして追い打ちを開始した。



「ハンナが戦場で格好良く戦っている勇姿を是が非でもこの両目で捉えたいんだ。戦いの邪魔は決してしない。それは約束する」


「それに一緒に暮らしていく中である程度の強さを持っていた方がいろんな場所に行けるじゃん。ほら、三つ首を倒して平和になったら」



 さぁさぁ……。そろそろ堕ちちゃいましょう!!


 俺はハンナの左腕。クルリは彼の右腕の袖をクイクイと引っ張ると。



「あ――鬱陶しい!! 分かった!! 軍鶏の里へは連れて行ってやる!! だが、稽古の申し出を断られたら即刻帰るからな!!」


 両側から絡みつく手を乱雑に払い、漸く稽古のお許しを頂けた。



「有難う!! ハンナのそういう所が好き――っ!!」


 彼の体をきゅっと抱き着こうとするが。


「止めろ。気色悪い」


 やんわりと押し返されてしまった。


「ちぃぇ……。ケチ――」


「朝食を終えたら軍鶏の里へ発つ。必要最低限の用意をしておけ」


「あ、それは無理。今日は田圃で中干してて、畦畔の雑草刈りをしなきゃいけないから」


「中干??」



 大変カッコ良い水色の瞳がパチパチと閉じては開く。



「里の戦士なのに知らないの――?? 稲の根を強くしなきゃいけないから一旦田圃の水を抜いて大地を乾かすんだよ。その間に田圃の雑草を抜いて、畦畔の草を刈り取って虫が付かない様にするんだ」


 ちょいと自慢げに話してやった。


「戦士には必要無い知識だ」


「生きてく上では必要な知識さ。ほれ、お前さんがモクモク食べている御米ちゃんはそういった知識がなければ育たないんだぞ??」


「う、む……」



 俺に論破されてしまい、ちょいと尻窄む姿がまぁ可愛い事で。



「あはは!! ハンナ、ダンの事本当に気に入っているんだね!!」


「お!? そうなのかい!? 相棒!!」


「誰が相棒だ。俺は貴様の相棒になった覚えは無いぞ」


 ツンケンした態度のままで食べかけの卵掛け御飯にがっつく。


「またまたぁ。口では辛辣な言葉を言ってるけどさ、ダンの事気に入っているんでしょ??」



 クルリが机の上で頬杖をつきながら話す。



「そうなの??」


「うん。ハンナはさ、ほらこういう性格じゃん。里の皆は彼の事を尊敬しているけど、ちょっと取っつきにくいかなぁって考えている人も多いんだ。それに……。家族が居なくなっちゃって私以外には家に入れなくなっちゃったんだけどぉ……」


 ははぁん。そういう事かっ。


「ハンナちゃん。お母さんは嬉しいわよ?? 立派に育ってくれて」


 彼の肩に手をポンっと乗せて言ってやった。


「喧しい。俺は里の戦士であり、人の見本となる様にと教わった。貴様の様にヘラヘラと笑みを振り撒く訳にはいかぬのだ」


 俺の手を邪険に払いつつ話す。


「前々から気になっていたけど。里の戦士になる条件って何??」



「えっと――……。私達はほら、鷲の血を受け継ぐ魔物でしょ?? 里の戦士になる為には鷲の中でも古代種と呼ばれる血を引き尚且つ長が認める実力を示す事。ハンナは史上最年少で戦士になったんだよ」


「我々戦士は年上を敬い、里の者に敬意を払い、精神を研ぎ済ませて強さを求め里に尽くす。それが戦士の定めだ」


「ふぅん。そうなんだ……。因みに、ハンナって今何歳??」


「二十二歳だ」


「―――――。へぇ……。そうなんだぁ」



 二十二。


 その数字を捉えた刹那。思わず口角がニィっと上がってしまう。



「な、なんだ。その気色悪い笑みは……」


「はい!! 戦士ハンナ!! 戦士の教えは年上を敬うのですよね!?」


「そうだが……。ま、まさか!?」


「えへへ。私ぃ……。二十五歳のピチピチ青年なのぉ。だ、か、らっ。敬えよおらああ――――!!!!」



 さぁ、敬え、奉れ!!!!


 そう言わんばかりに仰々しく立ち上がり両手をバッ!! と開いてやった。



「ふ、ふんっ。それはあくまでも里の内部の話だ。よそ者である貴様には適用しない」


「テメェ!! ずりぃぞ!! そんなの売り文句に買い文句じゃねぇか!!」


「あはは!! ハンナ――。これはダンの勝ちかな。それに年上を敬うのは大人として常識だよ??」


「く、くっ……。この馬鹿を敬わなければならないのか!?」


「馬鹿ってなんだよ!! 馬鹿って!! お母さんはそんな大人に育てた覚えはありませんよ!?」



 往生際が悪い横着者の体をヒシと抱き締めて言ってやった。



「こ、この!! 絡みつくな!!」


「あ、じゃあ私もついでにっ」


「や、止めろ!! 食事が出来んだろうが!!!!」



 朝一番にちょいと相応しくない喧噪が狭い家屋の中に響く。


 きっと近所の方々は朝一番から何をやってんだと顔を顰めるだろうが、ごめんなさいね?? 物凄く楽しいからもうちょっと楽しませてくれ。


 彼に払われようが何度も立ち上がり、女の柔肉の感触で顔を真っ赤に染めている彼に向かって何度も雄らしい突貫を続けていた。




お疲れ様でした。


このまま横着な白頭鷲さんと日常パートを書いても良かったのですが、次の御話からは本話でも触れた通り軍鶏の里へと出掛けます。



さて、昨日はいつも通り日曜日のルーティーンをこなしていたのですが……。愛車を洗車している最中に。


「あ、美味しいうどんを食べたい」 と。


頭とお腹が強烈な願望を叫んでしまいました。その辺りのうどん屋さんで食べ慣れたうどんを食しても良かったのですが折角なら本場のうどんが食べたいと考えに至り……。



ゴールデンウイークは四国へうどんを食べに行くことにしました!!!!


勿論、日帰りで!!



朝早くに出発して夜遅くまで四国を満喫すれば渋滞に巻き込まれる事も無く帰ってこれますし、そして何気に四国初上陸です!!


うどん、若鳥、温泉等々。思いつく限りを楽しもうかと考えています!!


今から燥ぎ過ぎて怪我をしない様に気を付けますね。



そしてブックマークをして頂き有難う御座います!!


執筆活動の嬉しい励みとなりました!!!!



それでは皆様、お休みなさいませ。

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