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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第九話 禽鳥の国 その一

お疲れ様です。


本日の投稿になります。




 白頭鷲の全てを見通す鋭い瞳に捉えられ続けると息をするのも憚れる強烈な緊張感が砂浜の上に広がり、鉄の硬度と同程度の硬さの唾を遅々とした所作で喉の奥へと送り込む。


 まるで金縛りにあったかのように全く動こうとしない体に新鮮な空気を送り込むと大変ぎこちない所作で口を開き、己の考えを明確に表示した。



「えっと……。あんたは俺を助けてくれたのかい??」



 天然自然の動物に声を掛けても無駄である。


 何故なら動植物達は言葉を発せぬ事は自明の理であるから。しかし、空から舞い降りた巨大な白頭鷲の右足には人工物である剣の鞘が紐で括りつけられていた。


 自然が人工物を身に着ける。


 つまり、あの神々しい姿の白頭鷲は魔物であり意思疎通を可能としていると予想されるのだ。


 まぁ……。あんな馬鹿げた大きさの動物は世界広しと言えども早々見つからない。というか確実に存在しないだろう。


 両翼を左右に広げれば優に二十メートルは越えるんじゃないの??



「貴様は人間か??」



 ほ、ほら喋った!!


 警戒心を一切解かず、鋭い瞳を此方に向けたまま嘴を開くと男性の澄んだ声が響いた。



「お、おう。訳合って西の大陸、アイリス大陸から船に乗って海を渡って来たんだよ」


「船……。その船は見当たらぬが」


「到着寸前に難破しちまったさ。海に投げ出され、荒波に飲まれながら命辛々この大陸に到着したんだ」


「そうか」



「「……」」



 そこまで話すと再び硬い緊張感が漂う無言の時間が訪れてしまった。


 この白頭鷲はどうやら俺に対して敵意は無い様だな……。それならちょいと色々尋ねてみようか。



「えっと……。俺の名前はダンって言うんだ。あんたの名前は??」


「……」



 無視です!?


 何も言わぬまま俺の姿を爪先から頭の天辺までじぃっと注視している。



「ま、まぁ初対面なのにいきなり名前を尋ねるのはちょっと不躾だよね。俺がこの大陸に来た目的は冒険をする為だ。未だ見ぬ土地を求めて突き進みこの世の不思議、謎、危険を知りたいが為にここへ足を運んだ。よそ者が我が物顔で跋扈していたらそりゃあ気に食わないかと思うけど……。この大陸で冒険をさせて貰える許可を頂けるかな??」



 遜った口調でそう話すと。



「――――。おさに尋ねてみろ」


 巨体から発せられたとは思えぬ超絶小さい声が聞こえた。


「長?? その人は何処に居るんだい??」


「我々の里に居る」


「それじゃあ、えっと……。君の里へ行きたいんだけどその道筋は……」


 俺がそこまで話すと。


「……」



 白頭鷲が素敵な青が広がる大空へ向かって行こうとして巨大な翼をはためかせた。



「ちょ、ちょっと!! まだ話は途中ですよ!?」


 白頭鷲が鋭い爪で掴む蟹の死骸へ慌てて駆け出し。


「とうっ!!!!」



 大人の胴体程の大きさの節足にしがみついてやった。



「う、うぉぉおおおお!?!?」



 まるで夏の嵐を彷彿させる突風が吹き荒れると巨大な蟹がふわぁっと浮かんで大空へと舞い上がり、燕の飛翔速度を優に超える速度で飛行を開始してしまった。



「いやいやいやいや!! 鷲さんよ!! 俺がしがみ付いているのは知っているよね!?」


 地上に生える木々があっと言う間に見えなくなり、空に薄っすらと浮かぶ雲が俺達を見付けるとギョっと目玉を開き慌てて道を譲ろうとする。


「貴様が勝手にしがみ付いただけだろう」



 横着な白頭鷲はどうやら大変我儘ちゃんの様ですね。


 更に飛翔速度を上げると雲を霧散させて俺の事などお構いなしに東方向へと進んで行くもの。



「そ、それは分かっているけどさぁ!! もうちょっと労わるとかしないの!?」


「……」



 だから!! 無視は止めて!!


 何の為にお前さんの口はついているの!?



 人生初の飛行で驚き、慄き、叫び倒そうが我儘な鷲ちゃんはグングン飛翔速度を上昇させて己の目的地へと向かって行ってしまう。



 もしかして里へ行くのでは無くて俺を巣に持ち帰る気では?? ほら、鷲って確か雛に新鮮な肉を与えて育てるのでしょう??


 蟹の甲殻をグチャグチャに砕き、人肉と混ぜ合わせて巨大な雛に与える親鳥のを想像すると背筋にいやぁな汗が噴き出してしまう。



 さり気なくお願いして下ろして貰おうかしら?? それに……。


 人間には体力という概念が存在しますので蟹の節足を掴むのもそろそろ限界に近付いて来た頃。



 足元に人工物が見えて来た。



 空高い位置だから小さく見えるが地上に降り立って見ればまぁまぁな広さを誇る村であろうと想像出来る。


 このぶっきらぼうな鷲ちゃんは足元に存在する村を目指していたのだろうか??


 振り落とされぬ様に蟹の節足にしがみ付き大地を見下ろしていると何を考えたのか知らんが……。巨大な白頭鷲が足元の村へ目掛けて急降下するではありませんか!!!!



「い、いやぁぁああああ――――!!!! 落ちるぅぅうう――!!!!」



 四肢全ての力を捻り出して妙に生臭い蟹の節足をヒシと抱き締めて呆れた加速に抵抗。


 耳をつんざく突風の音が鳴りやむとほぼ同時。



「ぐえっ!?」



 物理の法則に従い俺の体は柔らかい土の香りがする大地に投げ出されてしまった。



 はぁ――……。


 人生で初めてかも知れない。土の匂いに安堵感を覚えるなんて……。


 俯せのまま大地と熱い抱擁を交わして朗らかな気分に包まれた。



「お、おい……。人間だぜ」


「久し振りに見るわね。数十年振りかしら??」


「あぁ――!! ハンナだ!!」


「おぉ!! 砂蟹を捉えたのか!? 流石戦士ハンナだ!!」



 大地の女神と熱き抱擁を交わして視界が真っ暗になっているので何が起こっているのか知らんが、どうやら俺と白頭鷲。そして蟹の死骸を取り囲む様に人だかりが形成されている様だ。


 四方八方から驚きと感心、更に高揚した声が響いている。


 その様子を確かめるべく相手に警戒心を与えぬ遅々とした所作で面を上げると。



「「「……」」」



 人だかりの輪を形成する人々が皆一様に驚いた顔で俺を見下ろしていた。


 彼等は普遍的な服で身を包み、ある者は驚いた顔で俺を見下ろし。ある者は興味津々といった様子で俺の顔を直視。


 またある者は。



「あはは!! ふつうの人間だ!!」



 小さな御手手をパっと開いて俺の頭をペシペシと叩いていた。



「えっと……。皆さん、初めましてダンと言います。自分は西の大陸からこの大陸へ向かって船で渡っている最中に難破してしまいました。命辛々砂浜に到着した後、この妙にデカイ蟹と戦闘を繰り広げていた所で此方の白頭鷲に救われました。彼が何も言わず飛び発ったので置いて行かれは不味いと考え、蟹に必死にしがみ付いてこの村へ到着してしまいました。宜しければ村に滞在する許可、並びに大陸を冒険する許可を頂けないでしょうか??」



 初対面の人には遜り親切丁寧な口調を心掛ける。


 キチンと足を折り畳み、いい歳の大人であれば誰しもが備えている処世術を披露してあげた。


 勿論。



「船でわたってきたの!? お兄さんすごいね!!!!」



 相変わらずお子ちゃまに頭を叩かれたままでだ。



「そっか。だから砂蟹を捕らえる事が出来たんだ」


 要領がいったかの様に一人の男性がポツリと言葉を漏らす。


「と、言いますと??」


「あ、いや。ハンナが捕らえた砂蟹は別名、『隠れ蟹』 とも呼ばれてね?? 魔物の魔力を感知すると砂の奥深くへ隠れてしまうんだ。臆病な性格で中々捕らえる事が出来なくてさ」


 へぇ、じゃあ俺が人間であるが故にこの非常識な蟹は襲い掛かって来たのか。


「俺達が驚いているのは君……。ダンって言ったか。ダンが生き残った事に驚き、更にハンナがこの里へ連れて来た事に驚いているのさ」



 里の者が白頭鷲へ視線を送る。



「ハンナ!! 後で砂蟹を捕らえた話を聞かせてよ!!」


「こりゃあ見事な砂蟹だ。新鮮な肉だしきっと舌が驚く美味さだぞ!!」


「それに立派なこの装甲……。これならいい防具が作れるかも知れないな」



 白頭鷲と蟹を中心として歓喜の輪が出来ていた。



「先程から彼の事を戦士と呼んでいますけど……。彼は特別な役職に就いていると??」


「ん?? あぁ――……。まぁその他諸々はこの里の長に聞けばいいよ。お――い!! ハンナ!! このよそ者を長の下へ連れて行ってくれ!!!!」


 里の者が白頭鷲に叫ぶと。


「あぁ、分かった」


 ハンナと呼ばれた白頭鷲から強烈な光が迸りその数秒後。一人の男性が光の中から姿を現した。



 美しい空を彷彿させる濃い青の長髪を後ろに纏め、端整な顔には思わず背筋がゾクっとしてしまう切れ長の美しい水色の瞳が二つ。


 男らしい体躯でありながらも体に流れる線は刀の研ぎ澄まされた曲線の様に完成されている。


 黒みがかった青のズボン、茶の皮の上着、そして腰に剣を装備。


 武に精通していない者でも彼は間違いなく歴戦の勇士であると確知出来てしまう程の圧を放ち、男らしい堂々とした歩みでポカンと口を開いている俺の下へ歩んで来た。



 あれが……。神々しい白頭鷲の人間の姿、か。


 とんでもねぇ美男子イケメンじゃねぇか!!!!



 神様よぉ……。ちょいと不公平じゃないかい?? 俺にもあそこまでとは言わないがも――少し美顔度を上昇させてくれても良かったんじゃね。



「ダンと言ったか……。先程も言ったがこの里の滞在、そして冒険の許可を頂く為に今から貴様には里の長に会って貰う。くれぐれも粗相の無いようにな」


「お、おぉ。それは分かったんだけど。せめてもう少しゆっくり飛んでも良かったんじゃないの??」


「ダンの頭叩きやす――い!!!!」



 いい加減叩き飽きなさいよと思わず突っ込みたくなる男児の手をやんわりと押し退けて話す。



「あの程度の速度で振り落とされればどの道この大陸では生きてはいけぬ」


「つまり……。俺は試されたって訳??」


「そう捉えて貰っても構わん。ついて来い」



 仏頂面の美男子がぶっきらぼうに言葉を吐くと里の北側へ続く道を歩いて行く。



「あ、おい。待ってくれよ」


 待つ素振も見せてくれない彼に置いて行かれぬ様に慌ただしく立ち上がり。


「ダン!! ばいば――いっ!!!!」


「バ、バイバーイ……」



 あははと愛想笑い浮かべて男児に手を振り速足の彼の背に続いて大自然の中に存在する文化の中を歩き始めた。



 おぉ――……。何処からどう見ても普通の村って感じだよねぇ。



 急降下する前に上空からパッと見た感じでは、里の中には東西南北に繋がる大きな通りが確認出来た。恐らく俺達はその通りを利用して北上しているのだろう。


 基本的には一階建ての家屋が通りの脇に連なり、道を歩く者共の両手には作物やら野生動物の肉。そして鍬や鎌等の農具やら果ては殺傷能力の高そうな剣まで多様多種な物を運んでいる。


 それから想像するに恐らく彼等はこの里で自給自足の生活を営んでいるのだろう。



「なぁ、ハンナ。この里の者は自給自足で生活しているのかい??」


 今し方思いついた考えを彼の背に問うてみる。


「そうだ。ある者は狩へ出掛け動物の肉を、ある者は肥沃な大地で育った作物を収穫。それぞれがそれぞれの役割を担ってこの里は成立している」


 ふぅん、やっぱりそうか。


「衣服だけはどうにもならない事があるので調達班がそちらの大陸へ渡り調達している」


「だから向こうの大陸とほぼ変わらぬ服装をしているのか。でもさぁ――。なぁんか皆背が高くない??」



 向こうの大陸では俺の背はまぁまぁ高い方だと自負していたが、この里の男性達は俺と同じ位か頭半分程高いからね。


 実際、ハンナだって俺の身長である百八十よりも大きいし。



「我々の祖先は誇り高き鷲。身体能力は他の種に比べて高く、それが人間の姿になっても影響しているのだ」


「へぇ、そうなんだ。今、他の種って言ったけど。この大陸にはこんな素敵な村が幾つも点在するのかい??」



「こんにちは!!」



 すれ違いざまに眩い笑みを送ってくれた女児に軽く手を上げ、柔和な笑みを送りつつ問うてやる。



「貴様の想像する通りだ。この大陸は『禽鳥きんちょうの国』 とも呼ばれ。鳥類を祖先に持つ魔物達が支配しているのだ」


「支配……。ハンナ達が鳥類を祖先に持たない他の魔物を従えているって事??」


「そういう意味では無い、単純な強さの話だ。この大陸は貴様が想像しているよりも強さが生死に直結する。例えるのなら砂浜での戦闘だ」



 あぁ、あの砂蟹との戦いか。



「あのまま戦っていたら恐らく勝っていただろ??」


「多分、な。だが砂蟹の新鮮な肉を求めて平原から獰猛な野獣が押し寄せ、海からは別種の蟹や軟体生物が押し寄せて来る。西の大陸から訪れた者達が命を落とす大半の場所はあの砂浜だ。貴様は運が良いと呼べるだろう」



 げぇっ……。あんな綺麗な場所なのに見方を変えれば死が蔓延る恐ろしい場所に映るのね。


 ここは俺の常識が通用しない非常識が跋扈する大陸だ。



『見知らぬ場所での無知は死に直結する』



 これを心と体の髄に叩き込んで冒険を続けるとしますか……。



「そう言えば礼をまだ言っていなかったな。有難うね、助けてくれて」


 此方に向かって一切振り向こうとしない彼の背に向かって礼を述べると。


「ふ、ふんっ。別に礼など不要だ。俺はただ単純に砂蟹を狩っただけだ」


 これまでの無感情な言葉の数々に比べ、本の微かに陽性な感情を含めた言葉を放ってくれた。



 あらまっ。冷静な面持ちと相反して照れ屋さんなのかもしれない。


 大変分かり易い言い訳を受け取ると心に朗らかな感情が湧く。



 物凄く強い魔物だろうが俺達人間と変わらぬ温かい心を持っていてくれる。


 それが本当に嬉しい。


 この大陸に来てよかった。彼の背に今一度礼を伝えようとしたその時。



「着いたぞ。長が住む家だ」


 ちょいとボロっちぃ家の前でハンナが漸く速足を停止させた。


「先程も言ったがくれぐれも粗相の無いようにな」


「分かってるって。此処に来るまでの会話と雰囲気で俺がどんな人物か、ある程度の想像は出来ただろ??」



 他人様の土地で横着を働く無頼漢、犯罪上等の悪人であれば里の重要人物である長に合わせて貰える訳ないし。


 つまり俺はこの里の長に会って対話を出来るだけの資格を有しているって判断出来る訳さ。



「想像に任せる。失礼します、ハンナです。長はいらっしゃいますか??」


 彼が静かに戸を叩くと。


「――――。話はもう既に耳に入っている。入れ」


 俺よりも頭一個分背が高い男性が静かに戸を開いてぬぅっと現れ、俺達に対して手を招いた。


「分かりました。よし、ついて来い」


「あ、あぁ。お邪魔しま――す……」



 これが男の声かよと思わず突っ込みたくなる小さな声を放つとたどたどしい所作で戸を潜り、昼なのに随分と薄暗い廊下を進んで行った。



お疲れ様でした。


来月の大型連休は何をしようかなぁっとプロット執筆中に考えているのですが……。一向に妙案が浮かんできませんね。


例年通り近場で買い物を済ますべきか、将又まだ見ぬ土地へ向かって地元の方々がこぞって利用する街の御飯屋で舌を唸らせるのか。


連載を楽しみにしている読者様の為にも投稿は続けたいですし、偶には羽目を外せよと悪魔の囁きを放つ自分もいます。


非常に悩ましいです……。




それでは皆様、お休みなさいませ。


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