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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第八話 手荒い歓迎

お疲れ様です。


本日の投稿になります。




 夏らしく爽快に晴れ渡った空から網膜の奥がやたら痛んでしまう強き光が降り注ぎ、何処からともなく吹く風が海水に塗れた衣服と髪の毛を乾かしてくれる。


 己の体重が四倍程度に膨れ上がったのではないかと首を傾げたくなる重さを誇る体を引っ提げ。



『ちぃっ……。運の良い人ですね』



 まだ俺の命を奪う事を諦めきれず、両足に頑張って絡みつく海の女神様の手を乱雑に蹴り飛ばすとサラサラの砂浜に倒れ込んだ。



「ぜぇっ……。ぜぇっ……。な、何んとか生き延びたな……。やっぱりバタ足最強っ!!」



 熱砂の上に横たわりながら本家本元の救世主様である救命浮環うきわを体から外し、本当に優しくキュっと抱いてあげた。


 この救命浮環がなければ今頃俺の体は海底へと沈んで海の藻屑と化していただろうさ。



「有難うねっ!! 救命浮環ちゃん。んぅ――ッ!! マッ!!」



 これでもかと唇を尖らせて無表情な救命浮環にお礼の口付けをしてやった。



「ふぅ――。ここがマルケトル大陸、か」



 救命浮環を枕代わりにして取り敢えず左右に頭を動かして様子を窺う。


 この大変寝心地の良い砂浜は終わりが見えない程に南北へずぅっと続き、顎を頑張って空へクイっと向けると百八十度変わった景色にはこれまた終わりが見えない草原を捉えた。


 港町みたいな場所は見当たらず、更に平原にも街らしき影は見当たらない。


 つまり俺は何も無い場所に到着しちまったのかしらね??



「よっと!! 先ずは荷物の確認を済ませましょうか!!」



 最低限の体力の回復を終えると肩から掛けていた袋を砂浜の上に下ろして移動の準備を整える。


 えっと……。


 おやっさんから貰った刃厚が太い短剣、酒が入った鉄製の水筒、ビチャビチャに濡れた火打石。


 カッチカチのパン擬きは海水を吸ってボロ屑に変化しているから食べられないよな。


 そして現金は金貨五枚に銀貨十数枚。そしてまぁまぁ多い銅貨。


 こっちの大陸の物価は知らないがこれだけあれば当面の間はもつだろう。



 だが、それはあくまでも文明社会の中の話である。



 海の女神様のクソッタレな気紛れによって難破して命辛々泳ぎ着いたもののまだまだ大自然の中に身を置いている状況は変わっていない。


 大自然の中では人間の力はほぼ無力であると思い知らされたので早い所文明の香りが漂う場所まで向かわないといけないな。



「よっしゃ。取り敢えず東へ向かおう!!」


 短剣を収めてある革製のベルトを腰に巻き、己を発奮させる為に両頬をパチンと叩くと。


「いってぇ!?」


 頬の痛みよりも強い痛みが右太ももに走った。



「は?? 何だよ。蟹か……」



 大人の拳の大きさの蟹が右の鋏で俺の太腿を攻撃している。


 俺の事を敵と勘違いしちゃったのかしらね??



「お前さん。この大陸の住人かい??」



 横着な鋏を外し。右手で甲羅をきゅっと掴み上げて真っ黒な瞳に問うてやる。


 昨今は犬や猫、そして鼠等がさも当然の如く言葉を話す。この大陸に住む魔物達がどんな姿をしているのか分からないので取り敢えず人語で問うてやるが。



『放せ!! この無礼者が!!』



 この紫色をした蟹はどうやら只の蟹の様ですね。


 左右の鋏を頑張って動かして俺の指を千切り取ろうと画策していた。



「わ――ってるよっと。ほら、海へお帰りっ」



 少し離れた位置の波際へ蟹を放り投げ、その勢いで砂浜の上に両足を突き立てた。



「さてと!! 出発しましょう!!」


 恐ろしい力を持った海に背を向け、未開の大地を勇ましい足取りで進んで行く。



 あの地図にはマルケトル大陸の東方向にバツ印が刻まれていた。


 一体あの印の意味は何だろう?? それに他の大陸にもバツ印が刻まれていたし……。


 まぁそれを確かめに此処へ足を運んだ訳なのだが。


 調べ終える前にくたばっちまったら元も子もないので兎に角話の分かる人、若しくは人と会話を可能とする魔物に聞き込みを開始しましょうかね。


 頭の中で今回の大冒険のきっかけとなったあの地図を思い浮かべつつサクサクと、大変小気味良い音を奏でる砂浜の上を歩いていると。



「ん……?? 何だ、あれ」



 真正面の砂浜が秒を追う毎に徐々に膨れ上がっている不自然な姿を捉えた。


 最初は数十センチ程度の砂山だったのが、足を止めて注意深く観察している内にその高さは俺の背丈を優に超えてしまう高さまでに膨れ上がってしまう。


 お、おいおい。いきなり爆発とかしないよね??



「……」



 腰を深く落として咄嗟に反応出来る姿勢を保持し続けていると、砂山の膨張が止み。本当に静かな時間が訪れた。



 な、何も無いのかしら??


 それなら素通りさせて頂きますけど??



 何だか妙に硬くなってしまった生唾をゴックンと飲み干すと同時。



「……っ」


 砂山の頂点から二つの黒き丸がぴょこんと生え出て来た。


「は?? 何、あれ」



 その黒き丸にはよ――く見ると支えになっている棒状の物が確認出来。その棒状の物は砂山の中へと続いている。


 ちょっと待て。あの既視感を覚える二つの黒き丸は……。


 先程の蟹ちゃんのクリクリとした可愛い目玉が脳裏を過って行く。だが……。蟹の甲羅は大きくても精々人間の足幅程度の大きさだ。


 まぁ節足と鋏を広げればそれなりに大きいが、それでも俺の背を超える体躯は有り得ない。


 そう……。有り得ないのだ。



「――――。あ、あはは……。随分と御立派に育ちましたなぁ……」



 砂山がサァっと崩れ落ちると、その中から俺の想像した通りの巨大な蟹が出現した。


 体高約二メートル。


 今は体の真正面に収めてある両の鋏をガバッ!! と開けば十メートルを超える横幅に膨れ上がるだろう。


 鉄製の剣では全く歯が立たないだろうと速攻で看破出来てしまう重厚な装甲。


 体表面は普通の蟹とは一線を画して淡い紫色に染まり、巨体を支える四肢は赤みがかった青色で重厚感溢れる体全体をガッシリと支えている。


 初めて見る大きさの蟹に圧倒され、ポカンとしたまま口を開いていると。



「ギィッ!!」



 何を考えたのか知らんが……。いきなり俺に向かって右の鋏を突き出して来やがった!!



「あっぶねぇな!! 当たったら怪我をするだろ!?」



 咄嗟に回避して巨大蟹から距離を取る。


 この大きさで今の攻撃速度か……。こりゃ迂闊に相手の間合いに入れないな。



「よぉ!! 初めまして!! いきなり尋ねて悪いけどさ。この辺りに街ってないかな??」


 戦闘態勢を継続したまま尋ねるが。


「……ッ」



 どうやら奴さんは魔物では無く、天然自然が生み出した超生物らしい。


 口から微かな泡をブクブクと吐き、真っ黒な御目目ちゃんで俺の体を捉え続けていた。



「魔物じゃないとなると……。お前さん、もしかして俺の事食うつもり?? それとも勝手に縄張りに入った事を怒って……」


「ギギィッ!!!!」


「最後まで言わせろ!!」



 この野郎!! 馬鹿の一つ覚えみたいに鋏を突き出して来やがって!!


 鋏の攻撃範囲から下がり、再び戦闘態勢を整える。



 幾らデカくても蟹は蟹。


 真正面に向かって来る速さはクソみてぇに遅い、若しくは個体によっては前進出来ない。つまり相手を正面に捉え続けていれば致命傷を負う事は無いのさっ。


 問題はどうやってこの危機を乗り越えるかだな……。


 相手は話の通じない野性。


 頭をペコペコ下げて降参を宣言しても頭からムシャムシャと食べられ、和解の為に金銭を提示すればあの巨大な鋏で体を両断され、左右に広がる砂浜へ向かって駆け出せばあっと言う間に追いつかれちまう。



 詰まる所、俺にはアイツを倒すしか生き残る道は残されていないのか?? それとも様子を窺いつつ逃げ遂せるべきか。



 ここはよそ様が住む大陸だ。出来れば事を荒立てる真似は控えたいのが人情なんですけどもぉ……。


 頭の中に浮かぶ幾つかの選択肢の取捨選択に戸惑っていると。



「ギィッ……」



 ちょいと遠い位置にいる蟹ちゃんが巨大な体をグッと下げた。


 おっ?? 俺を食う事を諦めて帰ってくれるのかな??



「――――。えっ??」



 空を自由に舞う鳥が平泳ぎで水面をスイスイと泳ぐ、蟻がすっと立ち上がり二足歩行で全力疾走する、海から上がった魚が平然と口から呼吸をして仙人に説教をブチかます等々。


 天然自然の環境下ではまず起こり得ない事が突如として目の前に現れれば誰だって呆気に取られようさ。


 巨大な蟹ちゃんが下げた体をグン!! っと伸ばすとその反動を生かした見事な跳躍で空高く舞い上がり。


 俺の体目掛けて飛び掛かって来やがった!!



「不自然過ぎるだろうがっ!!」


 思いっきり冷たい汗を飛ばして後方の砂地目掛けて飛び出し。


「ケ、ケホッ……。蟹が跳躍するなんておかしいでしょう!?」



 目の前でモウモウと揺れる土煙へ向かって叫んでやった。


 い、いかん。こっちの大陸では俺が今まで培ってきた常識は通用せん!!


 常に非常識を疑わなければ確実にられる!!



「ギィ!!」



 ほら、さっそく非常識が襲って来やがったぜ!!


 目の前の土煙の中から巨大な鋏が襲来。


 半身の姿勢で初撃を回避するついでに短剣の切っ先で鋏の装甲を切り付けてやった。



「かった!!!!」



 手に感じたのは鉄や銅等の硬化質な感触だ。


 鉄よりも硬い物質を鉄で切り裂けって……。これも非常識じゃね??


 そして、俺の攻撃が気に食わなかったのか。



「グギィィイイイイ!!!!」



 たぁくさんの足を器用に動かして非常識な前面走行を開始。


 瞬く間に距離を詰められてしまった。


 ま、不味い!! 馬鹿みたいに広いコイツの攻撃範囲にすっぽりと収まっちまった!!



「ギィッ!!」



 当然、そう来ますよね……!!


 漸く千載一遇の機会を掴み取った非常識な蟹が上空から俺の体目掛けて鋏の先端を鋭く突き下ろして来た。


 左右どちらかに飛び込んで躱すか!? い、いや。それだと次の攻撃を躱せる保証はねぇ!!


 後ろに下がってもどうせ直ぐに距離を詰められて鋏の乱撃が襲い来る。



『じゃあこの攻撃を男らしく真正面から受け止めてみたら??』 と。



 一番有り得ない選択肢を提示した大馬鹿野郎の誘いを振り切ると、ピッコォンと妙案が閃いた。


 そうだよ……。前だよ、前!!



「ぜぇぇいい!!!!」


 鋏が砂浜に着弾するよりも前に蟹ちゃんの甲羅の真下へ飛び込み。


「おらぁぁああ!! 人間様を怒らせると痛いしっぺ返しが襲い掛かって来ますよ――!!」



 四肢の関節目掛けて短剣を突き刺してやった。


 硬化質な感触ではなくて、このニュルっとした肉々しく生々しい感触……。



「ギェェイイ!?!?」


「手応えありっ!!」



 巨大な蟹ちゃんが耳をつんざく叫び声擬きを放つと、この戦いが始まってから初めての後退を見せた。


 自然の中に生きる野生動物は危機察知能力に長けている。


 そりゃそうさ。常に生と死の狭間に身を置いてるのだから嫌でも身に着けなければならない。


 そして奴は今……。偶発的に発生した危機から遠ざかった。


 これが意味する事はたった一つ。



「ほっほぅ?? お前さん、関節が弱点なのかぁ……」


 こちらもこの戦いが始まってから初めての笑みを浮かべてやった。


「「……」」


 互いに一歩踏み出すことに躊躇しつつ、それでも決して警戒を解かず戦闘態勢を継続させる。



 あの非常識な蟹の弱点は理解したが問題はどうやって倒すかだよな??


 甲羅から生える足を一本一本叮嚀に切り落として、んで止めは目玉か口の中に短剣を捻じ込めばあれだけ巨大な蟹でも絶命に至るだろう。


 残す課題は俺の体力と……。勇気っ!!



「ふぅ――……。落ち着けよ……」



 荒れ狂う心の波を鎮めさせる為に大きく呼吸をして、弱気で臆病な感情を含ませた息を吐き捨てた。



 心を鎮めろ……。相手の一挙手一投足を自分の心に映せ。


 相手の行動をよく見て、覚えて、己の体の髄に叩き込むんだ!!


 自分に強くそう言い聞かせ、相手を打ち倒す姿を想像している最中。



「ギギギギィィイイイ!!!!」



 巨大な蟹が防御を捨てて攻撃力に全振りした構えで突進して来やがった!!


 こ、こいつ!! なりふり構わず襲い掛かって来やがったな!?


 こっちはまだ考え中だって――の!!


「ギシャッ!!」


 左の鋏が地面と平行に襲い来るが。


「ふぅっ!!」


 相手の攻撃を屈んで紙一重で回避。続けて右の鋏が空高い位置から振り下ろされるものの。


「んぅっ!!!!」


 半身の姿勢で回避する事に成功した。



 よ、よし!! 漸く攻撃の速さに目が慣れて来た!!!!


 後は……。乾坤一擲の一撃を見舞うのみっ!!



「ギィィイイ!!」


 左の鋏が美しい軌道を描いて真正面から襲来。


「貰ったぁぁああ――――!!」


 右足をスッと下げて攻撃を回避すると真正面に残った蟹の鋏の関節目掛けて、鋭い一閃を放ってやった。


「ギギィィェェエエエエ――ッ!?!?」



 おっしゃああ!! 半壊させてやったぜ!!


 左の鋏の付け根から大量の白濁の液体が砂浜へと零れ落ち、蟹の断末魔の叫び声が美しい空の下で響き渡った。



「この野郎……。よくも今まで好き勝手に攻撃してくれたな??」


「……ッ」


 俺からジリジリと下がって行く蟹へと向かい遅々とした歩みで近付く。


「人様が下手に出りゃあ付け上がりやがって……。焼いて食うぞ!!!! この蟹定食がぁぁああ――――ッ!!!!」



 右手に握る短剣に力を籠め、ありったけの気合を己自身に注入すると眼前の勝利へと向かって駆けて行く。


 さぁ……。調理してやるぜ!!!! 甲羅カチ割ってフワフワの味噌を取り出してやるからな!?



「ギギッ!!」


「逃げんじゃねぇぇええ――!!!!」



 戦意喪失気味の蟹が砂浜へ潜って逃げ出そうとした刹那。



「ッ!!!!」

「どわぁぁああああっ!?!?」



 上空から巨大な影が常軌を逸した速度で飛来。


 その風圧によって面白い角度で吹き飛ばされてしまった。



「いつつ……。一体何が……」



 己は坂を転げ落ちるダンゴ虫か?? と。


 俺の友人なら絶対指を差してそう馬鹿笑いするであろう回転が停止すると、砂浜の上で舞い起こる砂塵を注視した。



「お、おいおい……。勘弁してくれよ……」



 海からやってくる潮風が土埃を払い、その中から現れた新たなる超生物に対して思わず嘆いた。



「……」



 白き頭の口先に生えた嘴はこの世の全ての盾を貫く鋭さを備え、森羅万象を見通す力を持った黒き瞳が俺を捉えて放してくれない。


 神々しさを感じさせる気高き黒の巨大な翼は強烈な嵐を呼び、黄色い足に生えた四本の爪は獲物の命を断つのには少々大袈裟な攻撃力を完備している。


 その証拠に。


「ギ、ギギィ……」



 足に生えた爪は鉄の硬度さえ跳ね除けた蟹の甲羅をいとも容易く貫き絶命させているのだから。


 あ、駄目だ……。こりゃ勝てねぇ……。



 美しき砂浜に突如として空から舞い降りた白頭鷲。



 あの気高く見える超生物は俺に福音を齎す神の使いなのか、将又俺の命を刈り取りに来た死神なのか……。


 それは定かでは無いが森羅万象を捉える鋭い瞳に睨まれると俺は抗う事を諦め、熱射が照り付ける砂浜の上で時間が経つのも忘れて只々神々しい姿に魅入っていた。



最後まで御覧頂き有難う御座いました。


さて、漸く新大陸に到着した訳ですが……。彼は現代編ではあまり触れなかったこの大陸で冒険を繰り広げる事となります。


現代編の主人公達も第二部でこの大陸に訪れる予定ですので大切な場所はしっかりと書こうかなと考えている次第であります。



ブックマークをして頂き有難う御座いました!!


執筆活動のとても嬉しい励みとなります!!!!



それでは皆様、お休みなさいませ。



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