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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第三話 ジャックオークアンタム その二

お疲れ様です。


週末の深夜にそっと後半部分を投稿させて頂きます。




 勝負開始時にはギャアギャアと五月蠅く喚いていたゴロツキ共の口は一進一退の攻防が繰り返されると自然に大人しくなり。


 勝負が決した時の感嘆の吐息と張り詰めた緊張感の中に漂う微かな呼吸の為に口を開いていた。



「勝負だ……。五の三枚組スリーペア


「やるねぇ。こっちは二と四の二組ツーペアだよ」


「「「うぉおおっ!!」」」



 勝負が決すると男共の低い声が轟いた。


 こ、こいつ……。尻軽の勝利の女神に愛されているだけあって結構強いな。


 運に任せて勝負を仕掛けて来るかと思いきや勝負所では確実に攻めて来て、敗色濃厚な時は確実に下がりやがる。


 更に此方の甘い誘いにも乗らず、何度も勝負を重ねる内に俺の常套手段のブラフを見切るとこちらよりも強力な手役でそれを破壊。


 勝負は一進一退処か、俺が押し込まれている形となっていた。



「ダ、ダン――……。大丈夫なのかよ……」


 足元の柴犬が情けない声を上げてこちらを見上げる。


「なぁ――に。言っただろ?? 俺は尻上がりに強くなるって」


「で、でもぉ……」


「ふふふ、今日の俺は本当にツイているからな。負けても誰も咎めはせんよ」



 うるせぇなぁ……。


 その余裕綽々の顔を驚愕と絶望の色で染めてやるから待っていろよ!?



「さっさと配れって。こっちはずっと待っているんだからよ」


「そう焦るな。お前は強い……。少しでも長く勝負を楽しみたいんだ」



 よそ者が場と俺にカードを配ると掛け金を提示する。



「そろそろ厳しめに攻めてやるか。銀貨一枚を賭けよう」


「あっそ。さっさと勝負しようぜ」



 互いに掛け金を場に置いて配られたカードを確認した。


 場には……。



 四、六、八か。


 そして配られたカードは一、五、六……。



 順列狙いか将又組狙いか、非常に迷う配布だな。



「俺は二枚交換しよう」



 よそ者が不要なカードを捨てるとカードの束から二枚のカードを引き、そのカードを確かめると微かに口角を上げた。


 悪くない手役になった様だな。


 直ぐに表情に出しやがって……。



「俺は……。一、いいや。二枚交換しようかなぁ――っと」



 一と五のカードを裏向きにして捨て、カードの束から二枚のカードを引き手元で確認すると……。



 うぉっ!! 来たぜ来たぜ!!


 引いたカードの数字は六と、四。


 これで六が三枚と四の二枚でまぁまぁ強い手役の完成ってね!!



 何だよ……。勝利の女神は俺にも振り向こうとしていやがるな??


 完全にツイていない日はこんな良手はまず来ないからな。つまり……。勝負はまだどちらに傾くか定かでは無いって事さ!!


 さぁって、ここでちょいと勝負を仕掛けますか。



「ふぅん……。まぁまぁの手役か。ここでダブルの勝負を宣言してやるよっ」


 更に銀貨一枚を場に置いて攻勢に出る。


「ほぉ。久しぶりの倍の勝負か……。さぁって、どうする」



 よそ者が無精髭に手を当てて考え込む仕草を取る。


 この勝負を開始してから初めて見せる所作だな……。



「ダン、勝負を仕掛けたな」


「あぁ悪くない手なんだろうさ」



 机の周りで勝負の行く末を見守る者達が固唾を飲んでよそ者の出方を窺う。



「あはは!! お前の飲み過ぎだって!!」


「まだ大丈夫!! だって明日は天気が良いからね!!」


「ぎゃはは!! 何だよそれ――!!」



「うるせぇ奴等だな。こっちは真剣勝負をしているんだからちょっと黙って欲しいよ。なぁ、ダンもそう思うだろ??」


 ケンタが俺の左後方のカウンター席で酒を飲んで盛り上がっているよそ者へと視線を送る。


「――――――。いいや?? 俺的にはもぉっと元気良く喋って欲しいと思うけどね。ほら、場が盛り上がるし??」



 何だか心配な瞳で俺を見上げる柴犬の頭を一つ撫でて言ってやった。



「はぁっ?? 頼むからもっと集中してくれよ……」


「う――ん……。今回は下がろうか」



 よそ者が敗北を宣言すると。



「ダンの勝ちだ!!」


「あぁ、こいつはデカイぞ!!」


 ゴロツキ共から歓声が湧いた。


「へへ、悪いね」



 手元のカードを表示して場に置かれている銀貨一枚を手元に置く。



「ほぉ――、やはりそれなりの手役だったか」



 よそ者が己の手役である八の三枚組を表示して溜息を付く。



「そりゃそうよ。幸運の女神はあんたみたいなむさ苦しい顔を見るのは御免って言っていたぜ??」


「戯言を。場が盛り上がって来た事だ。ここからは真剣な勝負になる。今まで俺とお前が交互にカードを配っていたが……。不正防止の為に他の誰かにカードを配って貰う事にしよう」


「あぁ、いいぜ。じゃあケンタ。お前が……」



 足元でハッハッと荒い吐息を続けている柴犬へカードの配り手の依頼をしようとするが。



「駄目だ。ここはお前達の縄張り、イカサマをする恐れがある」


 綺麗さっぱり断られてしまった。


「あっそう。じゃあ……。お――い、そこで飲んだくれている兄ちゃん!! 一人こっちに来て!!」


 俺の斜め後ろのカウンター席で酒を飲んでいる見知らぬ兄ちゃんに声を掛けてやった。


「あの兄ちゃん達ならいいだろ?? お互いに全然知らない人なんだし」


「それで構わないぞ」




「――――。えっと、俺は何をすればいいのかな??」



 二人組の内、一人がたどたどしい足取りで賭場へと足を運ぶ。



「俺達が掛け金を机の上に置いたら、先ず場に表向きで三枚のカードを置いて。んで、俺とそっちの微妙にきったねぇ格好をしている野郎に三枚のカードを配ってくれ。勿論伏せたままでね」


「わ、分かった」


「あっちの野郎が大声を上げても怖がらなくてもいいからさ。安心して俺達の言う通りにしてくれればいいよ」


 何だか不安な面持ちの兄ちゃんに陽気な声をかけてやった。


「この野郎……。我慢強い俺にも限度がある!! 次の勝負で決着を付けやるからな!!」


「そんなデケェ声を出さなくても聞こえているよ。それとも何?? 己を発奮しないと勝負も出来ないお子ちゃまなのでちゅか――??」


 俺が軽い口調で揶揄ってやると。


「「「わはは!!!!」」」


「ダ、ダン!! それはククク、言い過ぎだぞ!!」


「ぎゃはは!! デカイ図体なのに意外と臆病なのかもな!!!!」



 周囲がワっと湧いた。



「お、お前……。俺を怒らせた事を後……」


「後悔させてやるってか?? だったら掛かって来いよ。負け犬の遠吠えを放つ雑魚野郎」


「ッ!!!!」



 ふふ、い――い感じで頭に血が昇っているじゃあありませんかっ。


 顔が真っ赤に染まり、怒りで肩がプルプルと震えていた。



「ちぃっ!! ここで稼いだ金貨一枚で勝負してやる!!」


 よそ者が場に金貨一枚を置くと。


「結構結構。それじゃ俺もテメェの心意気に応えてやるよ」



 場を白けさせるのは宜しく無いと考え、大事な金貨一枚を場に置いてやった。



「ダ、ダン!! いいのかよ!? 一か月の給料の半分の金だぞ??」


「ケンタ。もう既に勝負はついているんだ。勝ち戦に乗るのが勝負師って奴なのさっ」



 慌てふためく柴犬ちゃんに向かってパチンと片目を瞑ってやる。



「おい、お前!! さっさとカードを配れ!!」


「は、はいっ!!」


 よそ者が見知らぬ兄ちゃんに指示を出すと、彼が大変不慣れな手付きで場にカードを置き。


「ちゃんと切れよ!?」


「わ、分かっていますぅ――!!」



 残りのカードの束を入念に切って俺とよそ者にカードを配布。


 そして大変たどたどしい手付きで場のカードを表示した。


 十が二枚、一が一枚、ね。


 まるで勝って下さいよと言わんばかりの数字じゃあありませんか。



「ククク……。この勝負は貰ったな。俺はこのカードのままで勝負してやる!! そして強者ルームを宣言する!!」



 図体のデカイ野郎が手札を確認して強者の宣言が出されると。



「お、おいおい!! マジかよ!? 金貨一枚で強者の宣言!?」


「それだけ野郎の手役が強いんだよ。ハッタリで一か月分の給料の半分を賭けられるか」



 周囲から歓声では無くどよめきが轟いた。


 そりゃあこんなチンケな賭場で大金を賭けているんだ。勝負手以外ではあり得ねぇだろう。


 ここまでの勝負はほぼ互角に見えるが若干こちらが劣勢。運の総量からして俺に勝ちの目は無いだろうねっ。


 さ――って……。奴も勝負を仕掛けて来た事ですしっ。俺もここで勝負手を打ちましょうか!!


 目の前に配られたカードに一切触れる事無く、徐に口を開いた。



「は――……。明日も土と汚れに塗れた仕事が待ち構えているとちょっと萎えちゃうよなぁ――。なぁ、ケンタ。明日の天気はどんな感じか分かるか??」


「へっ?? 明日は多分晴れ……」



 机の縁に両前足を乗せて勝負の行く末を見守っている柴犬に問うと。



「「「ッ!?」」」



 俺の要望通りにヤキシュが勢い良く皿を割ってくれた。



「あぁ、ごめんね。手元が滑って皿を割っちまったよ」


 皆がヤキシュの方へ刹那に視線を動かし、そして再び熱き賭場へと視線を戻す。


「お、驚かせやがって……。さぁどうする!? 強者に乗るか!? それとも降りるか!?」


「あぁ、乗ってやるよ」


「「「おおぉぉ……」」」



 倍勝負が成立すると観衆から再びどよめきの声が響く。



「はっはっ――!! そうじゃなきゃ面白くない!! 何枚交換するんだ?? だが、何枚交換しようが俺の手役には勝てないだろうけどな!!」


「――――――。このままでいいよ」



 椅子に浅く腰かけたまま悠々と足を組み、余裕た――っぷりの表情のままで言ってやる。



「はぁ?? 手役を確認しなくてもいいのか??」


「何度も言わせんなよ、木偶の坊。俺はこのまま勝負するって言ってんだ」


「こ、この野郎……。その減らず口をいい加減閉ざしてやる!! 勝負だ!!!!」



 よそ者が怒り心頭の顔のままで三枚のカードを表示すると。



「ぎぃえっ!? う、嘘だろ!? よりにもよって十の四枚揃いかよ!?」


「あ、有り得ねぇ……」


「コイツの運は本物か!?」



 悲壮感たっぷりの吐息が周囲から漏れた。



「はははは!!!! だから言っただろう!? 今日の俺はツイているって。ではもう一枚の金貨を渡して貰おうか!!!!」


「ダ、ダ、ダンぅ……」



 柴犬が今にも泣きそうな瞳の色を浮かべて俺を見つめる。


 そりゃあ敗色濃厚な手役だ。誰しもが奴の手役を見た瞬間に負けを悟るだろう。


 しかし……。それはぁ、あくまでも一般人の感情なのです。


 稀代のペテン師にはちゃあんと奥の手が残されているのさ。



「ほぉ――。さっすが豪運。運の総量じゃ逆立ちしても勝てねぇや」


「分かったからさっさと金を出しやがれ」


「ん?? それはお前さんの事かな??」


「はぁ?? 何言ってんだ。お前の金を出せって言ってんだよ」


「そりゃあ出来ねぇ注文だ。何せこちとら…………」



 場に伏せてあるカードを敢えて遅々とした所作で一枚ずつ捲り。



「―――――。運の女神さんと何度も激しく抱き合った仲だ。最終最後には俺の魅力を忘れられず、素敵な笑みを浮かべてくれるのさっ」



 一の数字の三枚を提示。


 相手の手役を殺す四枚揃い(フォーペア)をお披露目してやった。



「すげぇぇええええ――――――――ッ!!!!」


「こ、ここで一の四枚揃い!?」


「お、おいおい!! 冗談かよ!?」



 俺の乾坤一擲の手役を見付けると家屋が震える程の大歓声が上がり、その音量につられたのかそれとも目の前で起きている現象が信じられないのか。


 よそ者が目ん玉をひん剥き、飛蝗も驚く速度で椅子から立ち上がると口を開いた。



「そ、そんな……。そんな馬……」

「そんな馬鹿な。ほらね?? 俺の言った通りだろ??」



 片目をパチンと瞑り、窒息寸前の魚みたいに口をパクパクと動かしているよそ者へそう言ってやった。



「あ、有り得ないだろう!! その手役は!!」


「博打に有り得るも有り得ないも関係ねぇ。奥の手を先に使った方が負けなのさっ」


「奥の手?? ダン、アイツが何かしていたっていうの??」


「あぁ、そりゃあもう至極簡単な奥の手を皆が見える前で堂々と使用していたぞ」



 俺の足元に元気よく駆けて来た柴犬の頭を一つ撫でてやる。



「ダン、もったいぶらないで聞かせてくれよ」


「ははっ、わりぃね。コイツとの勝負を受けた理由。それは……。イカサマをしていると見抜いたから受けたんだよ」


「「「……。イカサマぁ??」」」



 今まで歓喜に湧いていた場が一気に不穏な物へと変化する。



「勝負を始めると最初の方は勝てていただろ?? これは詐欺師の常套手段さ。良い気持ちにさせてから徐々に金を搾り取り、最後には有り金全部奪っちまうんだ。ここでじゃあ何でそんな器用な事が出来るのかって疑問に思うよな??」


「う、うん。負けるのは簡単に出来るけど……。勝つのには相手の手役を知る必要があるし」


「そう!! 正にそれさ!! お前さんが今喋った言葉が本質を見事射貫いているんだよ」


「本質??」


「お前さんが言うには、奴は勝負所では勝っていた。その話を聞いた時点で奴は何か横着をしていると見抜いたんだよ」


 ハッハッと息を荒げている柴犬から視線を上げてよそ者へ視線を向けると。


「イカサマ?? 証拠も無いのに言い掛かりを付けるなよ」



 自信たっぷりの視線で俺の瞳を跳ね返した。



「まっ、この勝負は俺の勝ちだから今更イカサマ云々を追求するつもりはねぇよ。だが……。イカサマで負けた奴等の鬱憤を晴らしたいが為に説明してやるのさ。俺と勝負が始まる前、俺の席の後ろに居た奴等を遠ざけただろ?? それは何でだと思う??」



 再び柴犬の頭を撫でて問うてやる。



「え――?? 気分、とか??」


 世の中広いからそういう奴も居るかも知れないけども……。それは不正解。


「席の後ろの奴等を遠ざけた理由、それは……。俺の手役を覗く為さ。カウンター席に座っていた地元じゃ見かけない二人組に視線を送り、顎に手を当てると奴等が天気の話をする。その天気の内容が晴れ関係なら俺の手役はまぁまぁ良いって意味。それの逆。つまり悪天候の話になれば弱い手役って事さ」



「「「ほぉ――……。そういう事かぁ……」」」



 ガラの悪い連中達が横着を働いた三名を取り囲み始めた。



「まっ、この手の類のイカサマは手役の強弱が分かるだけ。自分の腕に自信がなければ使用しないよ」


 まぁ……。勝負の途中でよそ者は何度かカードのすり替えをやっていたけども。それは敢えて咎めずにイイ気分にさせてやった。


 俺はその辺のカモと一緒でチョロイ奴ですよ――っと信じさせる必要があったからね。



 ここまでの勝負からしてコイツは無難な手役の時はハッタリとブラフで掛け金を釣り上げる真似は余りしてこなかった。


 賭け事には流れという目に見えない幸運の女神様の悪戯的なものが存在する。


 勝負師なら誰しもがその重要性を理解しておりそれを手繰り寄せる為、どうしてもそうせざるを得ない時にだけハッタリを行っていたのだ。


 慎重な性格に誂えた様な戦い方を実践して来た奴が突如として膨大な掛け金を提示して、更に俺達以外の配り手を指示する。


 恐らくというか十中八九、天気の話をしていた通謀グルの奴は俺の手は役無しで向こうは最強の手役になるように配布したのだろう。


 たどたどしくカードを切っていたがその実、大変慣れた所作を隠しきれていなかったのが良い証拠だ。


 金が賭けられ、俺がそれに乗った時点で天と地がひっくり返ってもこちらに勝ちの目は無い。



 そこで今度は俺のイカサマの出番って訳!!


 ヤキシュが皿を割り皆の視線がそちらへ移動した刹那を利用して胸元に潜ませておいた三枚のカードと自分に配られたカードを交換。



 勝負開始前、使用しているカードを確認したのはこの為だったのよねぇ。



「この野郎……。さっきから黙って聞いていればある事無い事好き勝手言いやがって」


「だって――、これが事実だもんっ。俺はテメェの策を逆手にとって大勝利した訳だ」


「逆手??」


「まぁ分からなくてもいいよ。どうせお前さん達はこれから俺達にぃ……。酷い目に遭わされるんだからさ」



 よそ者から頂いた金貨二枚を懐に仕舞うと椅子から立ち上がる。



「ど、どうします!? 出入口が塞がれてしまいましたよ!?」


「だからそろそろ止めようって合図を出したのにぃ!!」


「落ち着けお前等!! 俺達が力を合わせれば絶対に勝てる!!!!」


「こ、この野郎……」


「俺達の縄張りでイカサマをするとは良い度胸じゃねぇか」



 イカサマを働いた三名を取り囲む輪が刻一刻と狭まって行く。



「だからどうした。それを見抜けず負けたお前達が悪いんだろう??」



 あ――あ、し――らねっと。


 図体のデカイよそ者が決して使用してはならない言葉を放つと。



「ふざけんじゃねぇ!! 取り敢えず吹き飛べやおらぁぁああああ――――!!!!」


 血の気の多い野郎が酒瓶を右手に取り突貫を開始。


「生きて帰れると思うんじゃねぇぞ!?」


「二度とこの街に来られない様にしてやらぁぁああ!!」



 彼の突貫が開幕の狼煙となり意外と広そうに見えて狭い室内は興奮の坩堝と化してしまった。



「吹き飛べやごらぁ!!」


「いってぇぇええ!!」


 誰かさんがよそ者を蹴り飛ばすと陶器が激しく割れる乾いた音が響き。


「さぁ俺の力を思い知れ!!」


「おごはっ!?」



 図体のデカイよそ者が右手を振り翳すと木の棒で生肉を思いっきりブッ叩いた様な生鈍い音が響く。


 中途半端にしか掃除していない所為か鼻腔に若干の埃を含んだ空気が侵入して喧嘩の熱気が血液をフツフツを煮え滾らせてしまった。


 こんな退屈な街で突如として勃発した憂さ晴らしの絶好の機会に乗り遅れる訳にはいかないっしょ!!!!



「へへっ……。俺も参戦ってねぇ!!」


「は?? うぶぐぇっ!!」



 カードの配り手の兄ちゃんの横面へ思いっきり右の拳を捻じ込むと、心の中に広がっていた重い雲がさぁっと晴れ渡った。


 これこれぇ!! やっぱりこうじゃないと!!


 喧嘩は男の華と呼ばれている様にこれでもかと陽性な気持ちが湧いて来やがる!!



「う、うぅ――ん……」


 夢の世界へ旅立って行ったよそ者を嬉々とした感情で見下ろしていると。


「こ、この……。ただの人間風情が魔物に勝てると思うなよ!?」


「うぐっ!?」



 大変心地良い痛みが頬から脳天へと突き抜けて行った。



「ダン!? 大丈夫か!?」


 柴犬が心配そうな瞳を浮かべて室内の片隅にまで吹き飛ばされてしまった俺の下へと駆け寄って来る。


「よ、余裕だって。人間だって根性出せば魔物にも勝てるのさっ」



 口の中に広がる鉄の味がする液体を吐き出して足に喝を入れて立ち上がると、残り一人となっても街のゴロツキ共相手に善戦している野郎を睨んだ。



「アイツ、多分俺達と同じで犬の魔物だよ。今は人の姿をしているけど匂いで分かるんだ」


「図体がデカイだけあってここまで吹き飛ばされちまった。だけど、次は負けねぇからよ!!」


「そうだね!! じゃあ俺も手伝うよ!!」


「おうよ!! 負け犬よ、俺について来い!! 敵の総大将の首を共に取りに行こうではないか!!」


「負け犬じゃないし!! ダンのそういう所直した方が良いと思うよ!?」


「直さん!! これが俺のぉ……。超カッコイイ性格なのさ!!」



「さぁ、俺を倒したいのならドンドン掛かって来やがれ!!」


「ちぃ!! アイツ、結構強いぞ!?」



 店の中央で襲い掛かって来る野郎共を千切っては投げているよそ者に目掛けて突っ込んで行く。


 徐々に縮まる互いの距離。


 普通の人間なら魔物の強さにビビって足が竦んじまうだろうが……。お生憎様!! 只喧嘩が強いってだけじゃ俺は怯まないんだよ!!!!


「ピスピス情けなく鼻を鳴らしながらおとといきやがれ!! 無駄にデカイ犬野郎がぁぁああ――!!」


「なっ!? うごばっ!?!?」


 俺の体に纏わり付く退屈という名の呪縛を解き放つ為、右の拳に熱き想いを籠めてよそ者の横っ面へ捻じ込んでやったのだった。




お疲れ様でした。


この御話を投稿する時にPVを確認させて頂いたのですが……。何んとユニーク数が七万件を突破していました!!


沢山の読者様がこの御話を読んで下さっている事に、本当に感謝しております。


この場を借りて礼を述べさせて頂きます。本当に有難う御座いました!!!!


この勢いで当面の目標である総合評価1000PTを目指したいと思います!!



そして、ブックマークをして頂き有難う御座います!!


新章の連載開始後、初のブックマークを受けて朗らかな気持ちを抱いている次第であります。いや、今日は本当に嬉しい事ばかりで驚いているのが本音ですね。



それでは皆様、良い週末をお過ごし下さいませ。

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