第三話 ジャックオークアンタム その一
お疲れ様です。
本日の前半部分の投稿になります。
異様な盛り上がりを見せていた席の熱気は未だ冷めず、むさ苦しい男共のどよめきと微かな囁き声が連なり店内の空気を震わせていた。
漂い賭け事が大好きな野郎共は勝負の熱に当てられ、我こそは!! と勢いのままに席に着いて勝負を開始するのだが……。賭け事に精通しているからこそそれを躊躇っていた。
勝利の女神はツイている者にだけ尻尾を振る。
つまりあの幸運なよそ者が居る限り、今席に着いても彼女はプイっとそっぽを向いてしまうのが目に見えているのさ。
「な、なぁ。今度はお前が勝負しろよ」
「えぇ……。今日はちょっと止めておこうかな。持ち金が少ないし」
「ははは!! どうした!? 次の相手は誰だ!?」
超幸運なよそ者が馬鹿声を放つと。
「「「…………」」」
机を取り囲んでいる野郎共が下唇をギュっと噛み、その場から動こうとしなかった。
「フフ、無理も無い。今日の俺はツキにツキまくっているからな!!」
いつもは意気揚々と賭け事に参加する野郎共が躊躇する程の使い手、ね。
腰抜け共が!! 何を躊躇している!! 男らしく勝負をせい!! と。
一喝してやりたい気分だがアイツ等も一応は男の端くれ。
自尊心ってのがあるからここはこのダン様が優しく男の手本を見せてあげましょうかねっ。
「さぁさぁどうした!? 俺は誰の挑戦も断らないぞ!?」
さてさてぇ、稀代の詐欺師が通りますよ――っと。
「よぉ、兄ちゃん。今度は俺が相手になろうか」
「「「ダンッ!!!!」」」
いかついよそ者の正面の席に腰掛けて普段通りの口調で新たなる挑戦者が現れた事を告げてやった。
「ほぉ――。あんたが俺の相手をしてくれるのかい??」
「まっ、そういう事。それで?? 何をして遊ぶんだい」
座り心地の悪い椅子に浅く腰掛けて余裕たっぷりの姿勢で言ってやる。
「そうだなぁ……。さっきと同じでジャックオークアンタムでどうだ??」
『ジャックオークアンタム』
賭け事が大好きな野郎なら一度は遊んだ事のある遊戯だ。
剣、弓矢、槍、盾の四種類のカードを使用。そのカードは一から十までの計四十枚を使用する。
先ずは場に三枚の表示カードを置き、遊戯者には三枚のカードが配られる。
己に配られたカードと場に表示されたカードの六枚を組み合わせ、最も強い手役を構築した者が勝者となる。
最強の手役は同じ数字の四枚揃いに、それと異なる数字の一つの組。王の一撃と呼ばれ文字通りどんな手役よりも強い。
次に強いのは数字揃いの三枚のカードの二組。一が三枚、二が三枚といった感じの数字揃いの三枚のカードの二組だ。
更に続いて数字の四枚揃いの組。
上から四つ目に強い手役は同じ数字の三枚の組と同じ数字の一つの組
お次に強いのは順列。例えば、六、七、八、九、十といった感じだな。
続いて……。
同じ数字の三枚の組、同じ数字の一組とそれと異なる数字の組と続き。
最弱の手は一つの同じ数字の組だ。
数字にも強弱があり、同じ四枚揃いでも数が上の方が強い。二の四枚揃いと、三の四枚揃いでは三の勝ち。
そして順列もそれに倣う。
じゃあ十が数字上で一番強いと思われるが……。十は一の数字には勝てない。
これが賭け事が大好きな野郎共に普及する一般的な取り決めだ。
お次に掛け金の設定。
相手が掛け金を設定したらそれに従い場に置く。三枚のカードが遊戯者に配布され、場に三枚のカードが表示されたら降りるか勝負するかの選択を迫られる。
ここで相手が降りた場合、場に置かれている相手の掛け金の半分は勝負をせずとも自分の物。
勝負を選択した場合は一度だけカードを交換するかどうかの選択を迫られる。
カードを交換せず勝負を宣言、若しくはカードを交換して勝負を宣言するのだが……。
一枚もカードを交換しないで勝負を選択した場合には強者を宣言出来る。
強者を宣言して勝利した場合は掛け金の二倍を得る事が出来る。しかし、それで負ければ二倍の掛け金を失う。
つまり、交換せずに勝負を仕掛けてくれば滅茶苦茶強い手役が出来ていると相手は判断出来る訳だ。
互いにカードの交換、非交換の選択を終えて勝負をする態勢が整うと今度は倍の宣言が出来る。
掛け金を二倍して勝負するぞと宣言した場合、相手は降りるかその勝負に乗るかの選択肢が生まれる。
勿論、倍を宣言せず掛け金そのままで勝負を挑む事も、降りる事も可能だ。
相手が了承した場合は掛け金二倍の勝負。降りた場合は元の掛け金を全て失う。
更にカード非交換で強者を宣言して、倍を挑んで勝利した場合は元の掛け金の四倍を得る事が出来る。
相手が倍に乗ったら勝負開始、手役が強い方が掛け金の総取りとなる訳さ。
純粋な手役の強さがこの遊戯のミソだと思われるが……。実はこの遊戯の根幹はそこではない。
いかにして相手を降ろすのかが勝負の秘訣だ。
「それでいいよ。何か特別な取り決めはあるのかい??」
「いいや、そんな取り決めは無い。単純な取り決めで戦おう」
「ん――、了解了解っと」
さぁ――って。勝負を始めようとしますか!!
左右に首を傾け、高揚し始めた心を鎮めるとよそ者と対峙した。
「カードを配るのは俺でいいか?? 後、お前達。勝負の邪魔になるからもう少し離れた位置で観戦してくれ」
よそ者が俺の後ろに居る観戦者達へ注意を促す。
「それで構わないよ。お前さんの分厚い手じゃイカサマなんて出来そうにないしっ」
口角をキュっと上げて爽やかな笑みを浮かべてやった。
「そうか……。では、正々堂々。素晴らしい戦いを始めよう!! 俺は今日幸運の女神に愛されている。余程の事が無い限り倒す事は……」
「能書き垂れていないでさっさと配れよ。女神の寵愛を受けた自称最強の賭け師さんっ」
「……ッ」
ほっほ――!! いいねぇ!!
良い感じで頭に血が昇っているじゃあありませんかっ!!
俺の揶揄いを受けると余裕綽々だった表情が一気に曇る。
コイツはデカイ図体と同じで直情型か。
むすっとした顔でカードを万遍無く切り、場に三枚のカードが表示され。そして俺の手元に三枚のカードが裏向きで配布された。
「じゃあ掛け金の設定だ。俺は……。そうだな、銅貨五枚を賭けよう」
「ふぅん、じゃあ俺も銅貨五枚だな」
財布から五枚の銅貨を取り出し、場に置くと勝負が開始された。
「「……」」
場には二、六、八。
そして俺に配られたカードは一、二、十。
はは、微妙――……。
「カードの交換はどうする??」
勝負の流れで問うてやった。
「二枚交換しよう」
「じゃあ俺も二枚交換しようかしら」
よそ者が不要なカードを此方から見て左側に置き、机の中央に置かれているカードの束の一番上から二枚のカードを取る。
そして俺もよそ者に倣い二枚のカードを受け取った。
「倍はどうする??」
「ん――……。このままで勝負かな」
よそ者の問いに答えてやる。
「よし、では……。勝負だ!!」
相手が場に開いたカードは……。
おぉう……。八の三枚組かよ
「負けた。二の組だ」
場にカードを開き、第一戦の敗北を宣言した。
「わはは!! なんだぁ?? お前口程にもないな!?」
よそ者が場に置かれている俺の銅貨五枚をゴツイ手で受け取りながら口を開く。
「まだ勝負は始まったばかりさ。俺は尻上がりで強くなっていくの」
「ふふ、それは後半まで金が残っていればの話だろ??」
「まっ、そういう事。おっしゃ!! 次!! さっさと始めろ!!」
仕切り直しの意味を籠めて両頬をパチンと叩く。
「そう焦るな。俺には見えるぞ……。お前がボロ負けになって悔し涙を浮かべる姿が」
「そりゃあ結構。じゃあ俺はこう宣言してやるよ、テメェは俺に向かって負け犬特有のなっさけねぇ台詞。そんな馬鹿な!! と。目ん玉ひん剥いて叫ぶってな」
満面の笑みでカードを切っているよそ者にそう言ってやった。
「ちっ、減らず口を……」
良い子でちゅね――。そのままカッカして下さいな。
そうした方が戦いやすいですからね――。
ここまでの連戦連勝からして運の総量では相手が上だと分かっている。俺に出来る事と言えば細やかな心理戦のみっ。
だがそれこそが最強の矛となる事を骨の髄まで叩き込んでやるよ!!
不穏な雰囲気が漂い始めた賭場で互いの熱き魂をぶつけながら第二回戦が開始された。
お疲れ様でした。
現在後半部分の編集作業中です。
次の投稿は恐らく日付が変わる頃になるかと思われますので今暫くお待ち下さいませ。