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第三百二十六話 この世界の命運を握る者達 ~運命の子達~

お疲れ様です。


第三章最終話の投稿になります。


少々長めの文となっておりますので予めご了承下さい。




 馬鹿みたいに明るい太陽が燦々と光り輝く空から本当に心地良い陽射しが降り注いで来る。


 それを体全体で受け止める為、初春の温かな空気が漂う縁側でゴロンと横になると。



「ふわぁ――……」



 訓練明けの疲れた体から怠惰な吐息が漏れてしまった。


 結構ぐっすり眠れたと思ったけど……。体はまだまだ休息を欲しているのかもねぇ。


 二十日間の厳しい訓練が明け、昨日のどんちゃん騒ぎに不必要な痛み等々。


 これで疲れていないって奴がいればそれはもうとんでもない化け物……。



「ユウ!! 私が取っておいた焼き菓子知らない!? ここに隠しておいたのに無いんだけど!?」



 うん、直ぐ身近に正真正銘の化け物が居ましたね。


 両手を枕にして寝そべっているので、頑張って頭を動かして平屋の中へ視線を送る。



「あ――、さっきルーが食べてたぞ」


「は、はぁっ!? テメェ!! 私の食べ物を食べるとは良い度胸してんじゃん!!」


「偶には食べてもいいじゃん!! 私達はいっっつも食べられているんだし!!」


「それとこれは別だ!! 龍族の恐ろしさ、その身を以て知るがいい!!!!」


「や――!! 尻尾噛まないで――――!!!!」



 朝も早くから元気……。あ、いや。朝と昼の間だから朝ってのは少々語弊があるね。


 中途半端な時間帯にも関わらず元気過ぎる者共の姿を捉えると陽性な溜息を付き、頭の位置を元に戻した。


 瞼の裏から感じる柔らかい日の光、山の頂から吹く風が木々を揺らすと心地良い音が奏でられ心と体を潤してくれる。


 休暇は残り九日。


 このままずぅっとこうしてだらしない一日を過ごしていたいけども、きっと師匠達はそうさせてくれないでしょうね……。


 朝から姿を見せないのはきっと俺達に対してどんな酷い訓練を与えてやろうかと会議を開いている所為なのでしょう。


 師匠達の意地悪な顔を思い浮かべると。



「はぁ……」


 今度は柔らかい吐息じゃなくて重い溜め息が漏れてしまいましたよ。


「レイド様。如何されました??」


 右隣り。


 嫋やかに足を崩して此方を優しい瞳で見下ろすアオイが静かな声量で問うてくる。


「ん?? 休暇は残り九日でしょ?? このままずっと休んでいたいけど師匠達がそうさせてくれないだろうなぁって思ってね」


 静かに瞳を開いて柔和な笑みを浮かべている彼女へそう言ってあげた。


「確かにそうなりそうですね。ですが、私はまだまだ先生から聞き足りない事が沢山あるので寧ろ喜ばしい事です」



 左隣。


 縁側に来てからずっと多色の光と格闘し続けている海竜さんが辟易した俺の口調とは真逆の真面目一辺倒な声色を放つ。



「カエデは真面目だな……。ってか、いつか聞こうと思っていたけどその光る玉は一体何??」



 上体を起こし、彼女の前でクルクルと回り続ける光の玉を見つめる。


 光の玉は直径十センチ程度であろうか。


 赤、青、緑の玉が大きな輪を形成して等間隔に並び。それが一定速度で時計回りに回り続ける。


 カエデはその輪の軌道上に両手を翳して大変難しい顔を浮かべていた。


 玉が彼女の右手の甲に触れると何事も無く手のひら側へと通過。今度は左手の手の平に触れて甲側へと抜けて行く。


 ただの遊びであそこまで難しい顔を浮かべるとは思えないし。一体あれにはどんな効果が秘められているのやら。



「レイド様。あの光る玉には各属性の力が秘められていますわ。同じ属性を付与して触れないと玉が通過しない様になっています。赤は火、青は水、そして緑は風。簡単そうに見えてその実大変難しい付与行為だと断定出来ますわ」


「えっと……。じゃあカエデは右手に火の力、そして左手に風の力を付与しているの??」


 丁度今通過して行く玉を見つめて話す。


「正解ですわ。私も戯れ程度に行ってみましたが……。ふふっ、手の甲を傷付けてしまいました」



 アオイがそう話すと右手の甲を見せてくれる。


 そこには白く肌理の細かい肌には少々不釣り合いな若干赤く腫れた箇所が見えた。


 魔法の扱いに長けた二人が難しいと断定する遊戯、か。


 魔法初心者である俺が手を出したら大惨事になりかねませんね。前線で戦える様に大人しく肉体鍛錬に励みましょう。


 馬鹿みたいに体が頑丈な者は前へ、聡明で統率力が高く尚且つ魔法を得意とする者は後方から。


 餅は餅屋、蛇の道は蛇って奴ですよっと。



「ほぅ……。中々に器用なものだな」


「本当ですよねぇ。私だったら直ぐ失敗してしまいそうですもの」



 縁側で体を休めるリューヴとアレクシアさんも舌を巻き、興味津々といった瞳の色でカエデの所作を眺めていると。



「おぉ――。揃っておるな」


「はよ――……」


「ちょっと、エルザード。シャキっとしなさいよね」



 四名の指導者達が足並み揃えて此方へやって来る姿を捉えた。



「師匠!! おはようございます!!」



 我が師を迎えるのに相応しい覇気ある声で本日初めての挨拶を交わした。


 きっと師匠も頭上に浮かぶ太陽もびっくりする程の明るい笑みを放つかと思いきや。



「うむ。これからちと長い話をする。そのまま平屋の中へ進め」


 俺の予想とは真逆の四角四面な顔で指示を下さった。


 俺達の態度が気に食わないから恐ろしい説教が始まるのかしら……。あの硬い顔はそんな感じだったし……。


「分かりました。皆、行こか」


「あぁ、了承した」


「はぁ――いっ。レイド様っ」


 右腕に絡みつく甘くて柔らかいお肉を頑張って遠ざけると。


「あんっ。辛辣ですわっ」



 誰よりも先に大部屋の中央付近で座り、心鎮めて指導者達の到着を待つ。



「今日の昼御飯は何かな――っと」


「マイちゃん、もうお昼ご飯の事考えているの?? 朝御飯の時に卵掛け御飯沢山食べたじゃん」


「あれだけじゃ足りん!! 私の胃袋はこの星の容積よりも大きいからね!!」


「んな訳あるか。お前さんは一々大袈裟なんだよ」


「ユウ!! あんたは朝全然食べてなかったから昼は私に付き合いなさいよ!?」


「御断り――」



 そしていつも通りの喧噪が繰り広げられるものの、何んとか横一列に並ぶ列が形成され。聞く姿勢が整うと師匠が第一声を放った。



「皆、揃っておるな?? 今から儂が話す言葉を聞いたらお主達には儂らに従う義務が発生する。それでも構わないと考えるのならそのまま聞け、そうでなければこの場から去れ」



 敵性対象に向ける様な真剣な瞳を浮かべ、腹の奥に響く重厚な声色が物々しい感じを醸し出す。


 師匠が今から仰ろうとしている内容はそれだけ重要であると俺達は刹那に理解出来てしまった。



「何よ、随分と真面目な感じじゃない」


 お願いします。ど――か姿勢を正して聞く姿勢を取って下さい!!


 マイがだらしなく足を放り出して気の抜けた口調で話すものだから大いに肝が冷えてしまった。


「こら馬鹿娘。今から本当に大切な話をするんだから姿勢を正しなさい」


 フィロさんが咎めるも。


「へいへいっと……」



 足をキチンと折り畳む事は無く、胡坐の姿勢へと移行した。



「良いか?? これが最終警告じゃ。今から話す事は儂らにとって……。いや、この世界にとって重要な事なのじゃからな。この場から立ち去っても構わぬ。誰も咎めはせん」


「「「……」」」



 師匠がそう仰るも皆一様に真剣な面持ちを浮かべ、誰一人として動く気配は見せず。それ相応の覚悟を持って師匠からの言葉を待った。



「ふぅ――……。そうか。お主達の覚悟は確と受け取った。では、早速話すとするか」



 刹那に表情を緩めたが一つ呼吸を整えると再び鋭い表情を浮かべて口を開く。



「もう間も無く人間達が魔女討伐、並びにオークを殲滅しようとして一大反抗作戦を実行する。その人員の規模は……。凡そ三十万人」


「えぇっ!? そ、そんなに人が集まったのですか!?」



 先日の合同訓練の最中にベイスさんから聞いた話、そしてレフ少尉の話からして志願兵を募るとは考えていたが……。まさかそれ程の規模に膨れ上がっているとはね。


 まぁ無理もない。俺達はこの二十日間南の島で鍛えていたのだから知る由も無いのは当然か。



「私達がこの大陸を留守にしている間に国王から緊急事態令、並びに国民皆兵令が発令されてね?? 今この大陸は魔女を討伐して平和を勝ち取ろうとしている風潮があるのよ」


 エルザードが普段よりも数段真剣な眼差しで俺を捉えて話す。


「私が淫魔の子達を各街に派遣。あ、勿論人の言葉を理解出来る様にしてからね?? それで色んな情報収集させてその情報を統合した結果が……。それだけの規模になるって予想出来たんだ。しかも、まだまだ希望者は絶えない状況なの」



「じゃあ人間達に大陸南西だっけ?? そこに居る魔女を討伐させればいいじゃん」



 マイが普段通りの口調で話す。



「それは不可能なのじゃ。魔女の居城を守る結界に阻まれ、人は侵入する事が出来ぬ」


「はぁ?? だったら人間達は無駄死にするだけじゃんか」


「こら、話は最後まで聞きなさい」



 フィロさんがマイを咎めると師匠が続いて口を開く。



「人間達が徒党を組み一大反抗作戦を実行するのは四ノ月、つまり凡そ十日後に開始される予定じゃ。空間転移が使えぬ以上、結集地点である王都から魔女の居城がある地までは約一月かかる。その間、儂らは作戦開始に備えての準備を進めるのじゃよ」


「魔女討伐の作戦ですか……。具体的な案は??」


 カエデが静かに問う。


「人間達がどういった作戦を展開するか分からないけど、敵の配置からして恐らく軍を三つに分けて攻撃を仕掛けると考えられるわ。魔女の居城から北北東、真北、南南東。この三点が有力ね」



 エルザードが魔女の居城が存在する不帰の森の簡易地図を畳の上に置き、俺達に分かり易い様に指を差してくれる。



「三十万の人間が三つに分かれるのか……。確かに、うん。一塊で行動するよりも効率的にアイツ等を殲滅出来るな」



 俺達軍人だけならまだしも此度の作戦には戦いに疎い一般の方や傭兵も参加する。


 三十万もの兵の伝達系統を構築するのはほぼ不可能に近いかも知れない。それなら多少火力は落ちるが戦力を割いて真面に伝達系統が機能する様にした方が有効だろう。



「分かったわ!!」


 びっくりしたな……。マイの奴め、いきなり大声を出すなよ……。


「人間共とオーク共がわちゃわちゃしている間に私達がオーク共の後ろから攻撃を加えて全滅させるのが目的なんでしょ!?」



 どうだ、私の名推理は!?


 そう言わんばかりに師匠達の方へ向かってビシっと指を差すが。



「外れじゃ戯け」


「お猿さんでもその程度の考えは思いつくでしょう」


「うっわ。馬鹿丸出しの考えね」


「馬鹿娘、ちょっと五月蠅いから黙っていなさい」



 指導者達は満場一致で不正解を告げてしまった。



「だ、だったら私達に何をさせようとしているのよ!? もったいぶらないでさっさと話せや!!」


「分かっておる。お主が勝手に早合点しただけじゃろう。儂ら……。つまりこの大陸に住む魔物達は人間とオークの戦いに乗じて魔女の居城から南南西に位置する海岸付近へと空間転移で移動をする。そして戦いの機を見計らい戦場へと突入するのじゃよ」



「あ、当たってんじゃねぇか!!」



「細かい所が違いますのよ?? ここに居る私達四名は空間転移にて魔女の居城を中心にして東西南北に陣取り強力な魔力を放ち、結界と空を覆っている術式を剥します。そして敵本陣の結界を剥し終えたら突入を開始、敵の中枢へ乾坤一擲となる一撃を加えますわ。魔物達は人間達と共闘せず、あくまでも此方の独断で行動します」


「お母様、そうなりますと人間達の犠牲者が増える一方なのでは……」


 フォレインさんへ向かってアオイが優しい口調で問う。


『有難うね、アオイ。人間達の心配をしてくれて』


 右隣りで座る彼女へ向かって囁くと。


『い、いえ』


 少しだけ頬を朱に染めて頷いてくれた。



「儂らだけでは魔女の結界と空に浮かぶ術式は剥せぬ。他種族の協力があってこそ初めてこの作戦は成功する。お主達も周知の事だと思うが儂らとグシフォス共は故合って敵対関係にあった。じゃが、フィロとグシフォスが夫婦の仲となるとある誓いを立てて敵対関係は消失したのじゃよ」


「師匠、その誓いとは??」


「人間への扶翼を禁ずる。つまり人を助けるなという誓いじゃな。これを破れば再び歪な関係となるやも知れぬ。その誓いがある為に人間達を救う戦いは出来ぬのじゃよ」



 そ、そうだったのか……。


 俺はてっきりフィロさんとグシフォスさんが結婚して、その流れで戦いが終結したと考えていたのに。



「細かい配置は未定じゃが。龍、海竜、蜘蛛、淫魔、狼、ミノタウロスそして儂ら。全戦力を以てオーク共から四つの陣形を死守する。アレクシア、お主達ハーピー一族にも戦って貰うぞ?? 良いな??」


「は、はいっ!! 足手纏いになるかも知れませんが頑張ります!!」



 す、すげぇ……。正に最強の軍団じゃないか。


 魔物連合とでも呼べばいいのか。彼等が本領を発揮したら戦場を瞬く間に制圧出来てしまうのではないか??


 そんな甘い考えが出て来てしまう程の最大戦力に思わず舌を巻いてしまった。



「そして魔女の居城の結界を剥したら……。お主達の出番じゃ」



 師匠が厳しくもどこか心配そうな瞳で俺達を捉えた。



「本当は私達が中に突入してケリを付けたいんだけど……。結界が強力過ぎる事と激しく移り変わるであろう各戦地の状況に備えて私達が外で待機していた方が賢明なの」


「はっ、上等!! 母さん達は外でのんびり待っているがいいさ!! 私達がアッ!! という間に敵の総大将を討ち取ってみせるから!!」


「馬鹿ね……。外の戦場よりも中の戦場の方が苦しい戦いになるのよ??」


 フィロさんがそう仰るとエルザードが続けて口を開く。


「昨日も確認したんだけど……。魔女の居城の中には六体の強力な魔力を感知出来たわ」


 昨日姿を見かけなかったのはその所為だったのか。


「「「六体……」」」



 その言葉を受けたユウ達の顔が一気に険しいモノへと変化した。



「恐らく、いや十中八九滅魔の連中が集結しているわね。前回会敵した後に魔女の居城へと移動したのでしょう」


「先生、魔女の居城の外から中へは空間転移出来るのですか??」


「理論上はね。それを可能にする為には超強力な魔力が必要なの。中から外へはまぁ……。簡単では無いけど外よりかは楽になるわよ」



「――――――。ちょっと待って下さい。何故中から外へ空間転移出来ると知っているのですか??」



 カエデが今まで見た事も無い厳しい瞳でエルザードを見つめる。



「一つ、実際に中に入った事があるから。二つ、実際に空間転移した事があるからよ」


「もっと詳しく教えて下さい」


「オーク共は今から約二十年前に出現した事は知っているわよね??」


「「……」」



 全員が無言で頷く。



「あの魔女の居城は私達が先日突入した奈落の遺産(アビスプロパティ)に似ている……。ううん、間違いなくそれと断定しても構わない代物なの。要は二十年もの間、大陸に出現し続けている超珍しい特大の奈落の遺産ね。そして、居城の出現とほぼ同時に私達五人があの中へ突入したのよ」



「エルザード待ってくれ。五人ってまさか……」



「そ、ミルフレアよ。ちょっと訳あって五人で突入したんだけど、その時はどういう訳か外の結界は張られていなかった。ある程度調査を終えて五人で脱出した際に結界が張られてしまったの。そして中に入って先ず私達を迎えたのは……」



 ま、まさかとんでもない化け物じゃないだろうな??


 今までの経験からしてアレ関係の話は真面じゃないからね。



「石作りの大きな広間ね。それを突っ切って行くと下に続く階段が現れるわ。その下にも広間。その下にはまたまた同じような広間。ずぅ――っと単調な作りが続いて地下四階の最深部に桁違いの魔力を放つ存在を捉えたわ」



 俺の予想に反して道中に危険は無いが、その最深部にはエルザード程の者が桁違いと断定する魔女が眠っているのか。



「そこへ続く道が強力な結界で塞がれていたの。それを剥す為にカエデの父親、つまりテスラに結界を剥す物を作るように依頼したのよ」


「ふむっ、お父さんが昔から部屋に閉じこもって研究していたのはそれの為でしたか。合点がいきました」


「魔物達がオーク共と戦い、儂達が陣形を死守している間にマイ達が魔女の居城へと突入。待ち構えている滅魔を蹴散らして最深部で眠っておる魔女の命を刈り取れ。これがお主達に与えられた指令じゃ」



「おっしゃああああ!! 強くなった私達の力を見せてやろうじゃない!!」


「おうよ!! あのクソ猫野郎に復讐する機会がやって来たな!!」


 マイとユウが右手を合わせてパチンと乾いた音を奏でる。


 意気揚々とする場面だが、ここで一つの疑念が湧いてしまった。


「あ、あの師匠……。俺はどうすれば良いのですか??」



 恐らく休暇が明けると人間側で出撃せざるを得ない状況になるだろう。


 任務を、いいや。仲間達を放置してこの作戦に参加しても良いのだろうか??



「お主は人間達の行動を儂らに伝える役目を担って貰うぞ。仲介役は……。そうじゃな。アオイの使い魔の東雲にでも頼もうか」


「で、ですが。自分は皆と……」


「時期が来たら迎えの者をそちらへ寄越す。じゃがそうなると人間達は守ってやれなくなり、否応なしに魔女の居城へと突入する事となる。お主は…………。本当にそれでもよいのか??」



 トア達を守ってやりたい。それは俺の本心だ。


 しかし、マイ達と行動を共にすればそれは叶わなくなる。


 魔女を討つ事によって人間達と魔物達の間に存在する認識阻害という呪いを打ち消せば平和な世界が訪れるのではないのだろうか??


 人間と魔物の架け橋の役目がある俺の命が例え尽き果てても、それを取り除けばより良い世界へ向かって行ってくれる筈。


 まだ両者には深い溝が構築されているが師匠達が、そして心ある人間達が埋めてくれるであろう。


 俺が出すべき答えは……。



「はいっ、構いません。俺は皆と共に魔女を討伐します」



 そう、これ以外の答えが見つからないよ。


 この一年、マイ達と共に行動して来たが魔物達の素晴らしさ、優しさ、強さを学んだ。


 これは決して失ってはいけないモノであると俺は理解した。


 そして人間達にも魔物の素晴らしさを理解して貰いたいが為に俺は敢えて死地へと飛び込むのだ。



「やった――!! レイドと一緒だ――!!」


「レイド様ぁぁああ――!! アオイを選んで頂き嬉しゅう御座います!!」


「ふぃがうって!! アオイをえふぁんだ訳じゃふぃからね!?」



 顔面にへばりつく蜘蛛と体に覆い被さる巨狼に四苦八苦しながら叫ぶ。



「ふ、ふん。別にあんたがいなくても総大将である私が居れば作戦は大成功するのに」


「ほぉ――ん。それならなんで妙に嬉しそうな顔しているのかな――??」


「や、喧しいぞ!! この破廉恥な西瓜野郎が!!」



 それに、さ。


 カエデ一人にこの喧しい連中達を任せるのもよくないからね。



「鎮まれ、馬鹿者が。よし!! 作戦は決まった!! お主達は滅魔を蹴散らして魔女の命を奪え。そしてお主達に用意された時間は約六時間。その間に魔女を倒して帰って来るのじゃ」


「師匠。その時間を超えるとどうなるのですか??」

「あんっ。そこはアオイの弱い所ですのよ??」



 顔面にへばりついた蜘蛛を剥して問う。



「結界が再び構築されてしまい中からの脱出は困難になる。戦いを終え、魔力が尽き果てたカエデの魔力では全員を空間転移出来ぬからな。そして、奈落の遺産である魔女の居城は闇に飲まれてしまう恐れもあるので儂達が魔力を放出して留めておく必要があるのじゃよ。じゃが、儂らが命を懸けて待っててやる。その間にケリをつけて来い」


「分かりました。師匠、必ず帰って来ますね」


 俺がそう話すと。


「ふふ……。あぁ、いつまでも待っておるわ」


 今日初めての笑みを見せてくれた。


「腕が鳴るぞ……。待っていろよ、シャン」


「リューは楽しそうだねぇ。私はちょっと怖いよ」


「レイドさん!! 私達が頑張って戦いますから必ず帰って来て下さいね!?」


「え、えぇ。勿論ですとも……」



 ちょっとだけ距離感を間違えたハーピーの女王様に狼狽えているとカエデが静かに口を開いた。



「イスハさん。可能な限りで構いませんので魔女の詳細を教えてくれますか??」


「――――。構わん。魔女が目覚めれば世に満ち溢れるマナを吸収してこの世界は破滅の一途を辿る。地は裂け、海は枯れ、空が割れる。この星に存在する一切の生が失われてしまうのじゃ。これはどんな犠牲を払ってでも避けねばならぬ。この世界の理を乱し、混沌渦巻く世界へと変えた魔女の正体は……」















































「レイド。お主の母親じゃ」


「「「「…………。えっ??」」」」



 師匠の衝撃的な発言を受けるとこの場に居る全員が馬鹿みたいに口を開けて呆気に取られてしまった。


 い、今何んと仰いました??



「い、いやいや。イスハさん?? レイドのお母さんは居ないんだよ??」


「ルーの話した通りです。こういう時にふざけないで下さい」



「ごめん、私からも言わせて。私達は大昔にレイドさんの母親の下で共に学んでいたの」


 カエデの怒りに対してフィロさんが沈んだ口調でそう話し。


「約三百年前、先生はとある理由でバケモノへと変貌を遂げてしまった。本当は私達がケジメを付ける為に突入しなきゃいけないんだけど……。それは今回の作戦で叶わなくなっちゃったの」


 エルザードが本当に悲しそうな口調で続く。


「先生を倒せば……。いいえ、殺せば認識阻害が解ける。元の世界へと戻る素晴らしい事なのですがそれは新たなる戦いの序章ともなりえますの」



 フォレインさんが俺達に視線を向けず、畳の縫い目に視線を落として話す。



「儂らはお主の母親を心の底から敬愛しておった。じゃが儂らの力が及ばず化け物へと変貌させてしまった。この場を借りて謝らせてくれ。本当に……。ウゥッ……。本当に済まなかったな……」


 師匠の大きな瞳から一粒の雫が零れ落ちると俺に対して頭を下げ。



「本当にごめんなさい」


「レイド。私の事を許して……」


「申し訳ありませんでした……」



 エルザード達もそれに続き頭を垂れてしまった。



「い、いやいや!! ちょっと待って下さい!! きゅ、きゅ、急に自分の母親の事を言われたって……」


 何が起こっているのか頭が理解に追い付かず、取り敢えず頭を上げてくれるように懇願した。


「す、済まぬな……。全てを理解して貰う為にはある一人の男の物語を語る必要がある。お主達にはその男の話を聞いて貰おうか。それは今から遡る事三百年前の話じゃ……」


 師匠が畳の上に静かに腰を下ろすと徐に口を開く。


「さ、三百年も前の話!? じゃあ何でボケナスが現代で生きているのよ!?」


「マイの言う通りです。それに何故先生達は魔女が復活すると世界が崩壊してしまうと知っているのですか??」


「落ち着きなさいよ。今から全部教えてあげるから……」


 慌てふためく俺達をエルザードの沈んだ口調が宥めた。



 一体……。俺の身に何があったって言うんだ。


 俺の母親が忌むべき魔女?? 生まれたのが三百年前?? 全く理解に及ばないぞ。


 何が一体どうなって俺がこの世に生まれ落ちたのか。この理解不能な事象を理解する為には先ずそこを知るべきだな……。


 師匠達から語られる驚愕の事実の数々に俺は驚くのも忘れ、地平線の彼方に浮かぶ黒く分厚い雷雲が放つ遠雷を見る様にまるで他人事の様に聞いていた。


 しかし、刻一刻と時間が過ぎて行くと遠雷の轟きは激しい雷へと変化。腹の奥へ確実に届く様になり他人事では無いと知る。


 酷い嵐に立ち向かおうとする人はいないが俺はこの自然の猛威と対決しなければならない。


 そう……。何故ならそれは逃げ出す事も叶わない俺に与えられた血塗られた茨の運命なのだから。



最後まで御覧頂き有難う御座いました。


皆様へ色々御話する事がありますが、先ずは礼を述べさせて下さい。第三章開始から一年以上も経っていますがそれでも続けて読んで頂き有難う御座います。


皆様が読んで下さる事で連載を続けている事が出来ています。



そして、これは私からの切なるお願いです。


もう間も無く私が目標としていた総合ポイント1000に手が届きそうなのです!!


どうかブックマーク並びに評価をして頂けないでしょうか?? 何卒宜しくお願い致します。






さて、第三章の最後は衝撃的な発言で幕を閉じましたが……。


読者様の中にはある程度この事態を予想していた人も居るのではないでしょうか。


えっ!? と思わず驚いてしまった人や。あ――、はいはい。そういう事ねと納得した人もいらっしゃるかと思われます。


狐の御師匠様が言っていた通り、次話からはとある男の物語が開始されます。


そう……。過去編の開始です!!


時は現在から遡り三百年前。ある男の冒険から第一部の謎を紐解いていく形となります。


何故彼は魔物と会話が出来るのか。何故龍の契約を交わしても絶命に至らなかったのか。何故三百年前の人物が現代に居るのか。


そして最大の謎である魔女の誕生。


これらの伏線を過去編で一気に回収した後に最終章へ突入します。


これからの投稿方法、新章開始日等々は明日以降に活動報告へ記載しますので御覧頂ければ幸いです。




まだまだ冒険は続きますのでこれからも彼等の冒険を温かな目で見守って頂ければ幸いです。



それでは皆様、お休みなさいませ。




~追記~


活動報告を更新させて頂きました。


お時間がある御方は御覧下さいませ。


いいね。そして……。評価をして頂き有難う御座いました!!


現在新章のプロットを執筆しておりますので本当に嬉しい励みとなりました!!


それでは失礼致します。



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