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第三百二十五話 皇帝様の命令は絶対 その二

お疲れ様です。


本日の投稿になります。




「で、ですから。自分が命令を下した訳じゃないので……」


 歴戦の勇士さえも思わずサっと目を逸らしてしまう威力と圧を放つ瞳から視線を外し、出来るだけ相手の気持ちを逆撫でさせない様に落ち着いた口調で主義主張を述べる。


 怒ったカエデってやっぱり怖いよな……。


 有無を言わせない圧を放つというか、悪魔も頭を垂れて反省を述べる覇気があると言いますか。


 とても今年で十七を迎える子には見えません。


「そんな事はどうでもいいです。はいっ!! 次いきますよ!!!!」


 厭らしい指令の犠牲者であるカエデが世の中の赤よりも更に真っ赤に染まった朱色の顔色で箸を筒へと戻す。


「じゃ、じゃあ。皆さん?? 二回戦宜しいですか??」



 そして全員が箸を戻して再び引く姿勢が整ったので開戦の狼煙を上げた。



「せ――の!!」


「「「「皇帝様。だ――れだっ!!!!」」」」



 う……む。


 七番か。


 中々引けませんよね。十四の内でたった一つの皇帝様なんて。



「誰が皇帝様??」


 外れの箸を握り締めつつ、誰とも無しに声を放つ。


「儂じゃぁああ!!」


 師匠が雄叫びを上げて皇帝の二文字が刻まれた箸を掲げた。


「ぬふふっ。さぁって、どんな命令を下してやろうかのぉ……」


 三つの尻尾を楽し気にピコピコと揺れ動かして皆へと視線を送る。


「師匠。まだ二回戦目です。手厳しい命令は控えて頂ける幸いです」


「そうじゃなぁ。では!! 全員、腕立て伏せ。十回じゃ!!」


 ほっ、優しい命令で何よりです。


「ほれっ!! さっさと用意せぬか!!」



「何で楽しい席で腕の筋肉を鍛えなきゃいけないのよ――」


「そうだそうだ――」



 やれ面倒――。やれタルイ――。と、文句を垂れる者達へ可愛い筋力運動を促すが……。師匠はどういう訳かその内の一人に照準を絞ってしまった。



「おぉ?? 何じゃあ?? 貴様。儂の命令に従うのが嫌なのかぁ??」


 そう傍若無人、自分勝手の淫魔の女王様がむぅっと唇を尖らせてその場から断固として動こうとはしなかったのだ。


「は?? 五月蠅いんですけど??」


「これレイド!!」


「八……。九、十!! はいっ!!」


 速攻で腕立て伏せ十回を終え、師匠の下へと駆け出す。


「皇帝の命は絶対じゃったよな??」


「はい、その通りです」


「その命に従わぬ場合はどうなるのじゃ??」


「えっと……。奴隷へと成り下がります……」



 憤怒で燃えるエルザードの瞳から視線を反らしてポツリと漏らす。



「な――はっはっはぁ!! 奴隷かぁ!! 良い響きじゃあ!!」


「あ――!! 鬱陶しい!! やればいいんでしょ!? やってやるわよ!!」


 エルザードが怒気に塗れた顔で叫ぶと、渋々両腕を畳みに付けて美しい桜色の髪を上下に揺らしてくれた。


「お?? もっと腕を曲げぬか。負け犬め」


「誰にものを言ってんのよ。殺すわよ??」



 うむ……。大変にしまってしまったな。


 この人達の関係を考慮するのを忘れていたぞ。場を盛り上げる為に良かれと行ったのに、もう既に後悔し始めている。


 皇帝様から恐ろしい指令が下され、国家転覆を目論む激しい内戦が勃発したのなら裸足でこの場から全力で脱出する事も視野に入れておくべきでしょう。


 たかがお遊びで命を落とすのは流石に了承出来ませんので……。



「おらぁっ!! 終わらせてやったわよ!! さっさと次、行くわよ!?」


「お、おう……」



 憎き敵の指示通りに動いてしまった悔しさなのか、それとも酔いなのか。


 そのどちらとも捉えられる真っ赤な顔の彼女の声を皮切りに三回戦が開始された。



「「「皇帝様、だ――れだっ!!」」」



 頼む!! そろそろ平和的な命令を下す人に当たってくれ!!


 俺は祈る想いで箸の先端を睨んだ。



 ――――。


 くっそう!! 三番か!!



「はいっ!! はいぃぃい!! 私が皇帝様よ!!」



 ぎぃっえ!! よりにもよってアイツが皇帝様かよ!!


 髪と同じ位に赤い顔のマイが元気良く箸を掲げた。



「あ――はっはっはぁ!! 平伏せ!! 下民共が!! 我こそが皇帝なり!!」


「たかが箸一本掲げて何言ってんだか」


「あんれぇ――?? 皇帝様に歯向かったら死刑なのよぉ?? そこの雑魚ちゃん??」


 ユウの突っ込みにも臆することなく、品定めする様に俺達へ視線を送る。


「じゃあ……。八番がぁ……。七番にぃ……」



 ほぉっ。


 良かった……。俺に被害は及ばなかったようだ。



「罵詈雑言を浴びせろぉぉおお!!」


 果たして誰がその役目を負うのか。皆が固唾を飲んで動きを見守っていると……。


「あらっ。八番は私ですわね」


 フォレインさんが八の箸を皆に見える様に差し出し。


 そして……。


「……」



 フィロさんが口を開かずに、七の箸をすっと差し出した。


 不味い、非常に不味いです!!


 フォレインさんは至極冷静な方で分別が付く大人なのですが、汚い言葉を浴びせられる彼女はどちらかと言えば娘さんと同じく感情が激しい御方だ。


 しかも俺達では拘束出来ない程の力を持ち、更に不味い事にお酒の力も相俟って感情の制御が困難となってしまっている。


 お願いしますから優しい言葉で罵って下さいね。



「ぎゃはははは!! やったぁああああ!! 母さんにやぁぁっと一矢報いる事が出来たぁああ!!」



 あ、あいつは馬鹿なのか??


 この後、己の身に襲い掛かる惨劇を想像していないの??



「マ、マイちゃん??」


「ん――?? なぁにぃ?? 罵詈雑言を浴びせられる可哀想な御方っ??」


「後で……。個人的な教育的指導があるからね?? 覚えておきなさいよ……」


「は、はわわわっ……」



 漸く己に襲い掛かる史上最悪の厄災を理解したのか。


 皇帝と書かれた箸を畳の上へポトリと落としてしまった。



「フィロ、安心なさい。罵詈雑言といっても私は分別の付く大人です。優しい言葉で罵ってあげますわ」


 結局は罵るんだ。


「あ、うん。どうも」


「では……。コホンっ」



 フォレインさんが美しい白の髪を嫋やかに耳に掛け、ちょこんと座るフィロさんの前に立つ。



「フィロ、あなたは昔に比べ……。ふっくらとお太りになられましたわね??」

「っ!!」



 初手としては悪くない罵詈雑言ですね。それ以上酷い言葉を使わない様に心掛けて下さい。



「凡そ、家事だ夫の世話だと自分に体の良い言い訳をして鍛錬を怠っていたのでしょう。ほら、皆さん。御覧下さい?? 許容量を超えた餌を食べた豚の様にぷっくりと膨れた彼女の醜いお腹を……」



 ごめんなさい。


 呪われたくないので見れません。



「醜いだけならまだしも。今回の訓練ではやれ疲れた――。やれ体が痛い――等々。文句を垂れ流し続ける始末。それを聞かされる者の身になって考えた事がありますか??」


「も、もう。いいんじゃない??」



 フィロさんが肩をワナワナと震わせると怒りの魔力が体から零れ始め、畳が微かに震え始めた。



「ありませんよねぇ?? あなたは昔から後先考えずに行動を続けそれの尻拭いの為に我々が血の涙を流していたのです。あれは、そう。確か……。南の海での一大決戦の時でしたわね。あなたは我々を乗せて戦い続けていると何かを我慢して」



 フォレインさんがそこまで話すと。



「「「……ッ!!」」」



 何故だか分からないがマイ達が皆一様に腕で口元を隠して一斉に下を向いてしまった。


 何で皆急に顔を伏せたんだろう??



「まぁ、これはあなたの今後の立ち振る舞いに影響しますので秘密にしておきますわ。資金を考えずに食って飲み散らかし。散々暴れ回った後に吐き散らす。あなたの頭には一体何が詰まっているのか。一度割って確かめたいですわねぇ」


「そ、その辺にしなさいよ……」



 あ、不味い。少し離れようかな。


 御二人からかなりの距離を取って行く末を見守った。



「鍛錬を怠り、ブクブクと太って。クスッ。本当に醜くて憐れな豚ですわぁ……」


「あ、あんたねぇ……」


「く、蜘蛛の母ちゃん。もういいって」



 これ以上の罵詈雑言は自分の命に関わるとして恐れ戦くマイ。


 しかし、フォレインさんはまだまだ攻め足りない様で?? 遂に禁断の言葉を使用してしまった。



「体はお太りなられても一部!! だけはぜ――んぜん太りませんわよねぇ??」


「ッ!!」




「声を大にして述べて差し上げますわっ。すぅぅうう――……。ひ・ん・にゅ・うっ」




 フォレインさんが禁じられた魔法の言葉を言い終えた刹那。


「どわぁっ!!!!」



 張り詰めた空気が木端微塵に、見事豪快に弾け飛びその圧を受けた体がふわりと飛ばされてしまった。


 内なる魔力が炸裂しただけで人が吹き飛ぶって……。その高まった魔力を真面に食らえばどうなる事やら。



「あははは!! いいわよ――!! フォレイン!! もっと言ってやれ――!!」


「なははぁ!! これは愉快じゃあ!!」



 龍と蜘蛛の魔力が衝突し、部屋の中に夏の嵐が発生しても笑い続ける知己の御二人。


 師匠とエルザードの笑い声があの嵐の勢力を更に増しているのだろう……。



「こ、こ、この野郎ぉぉぉおおお!! 黙って聞いてれば!! 娘達の前で言って良い事と悪い事があるでしょうが!!」


「あらぁ?? これは遊戯ですわよ?? 私はあなたの娘の命に従ったのみですわっ」



 フォレインさんが炸裂し続ける魔力の波動を前にしても微動だにせず、柔らかい腕の所作で口元を抑えつつ話す。



「上等じゃない!! 蜘蛛と龍、どっちが優秀か今日こそ白黒つけてやる!! 表へ出ろぉ!!」


「うふふ……。楽しい戯れになりそうですわねぇ……」


 五臓六腑が締め付けられる力を放ち続けて表へと出る両者。


「あんた。後で、絶対、酷い目に遭わせるから」



 フィロさんがその道中でマイへ向かってこの世の者とは思えない声色で死刑宣告を告げた。



「ご、ごめんらさい……」


 カタカタと肩を震わせユウの背後へ隠れてしまった。


「さっ!! 思いっきりぶん殴ってあげるからね?? 覚悟しておきなさいよ??」


「貴女では不可能ですわ。昔から何度も言っていますのにその低能な頭では理解出来ませんの??」


「「ウフフ……」」



 不敵な笑みを残して去ると、その数十秒後にはこの平屋を吹き飛ばそうとする笑えない力の衝突の余波が平屋を襲った。


 すっげぇ……。訓練場からここまで衝撃波が届いているよ。


 ふと天井を見上げると頑固な埃が余震によってパラパラと畳の上に降り注いでいた。



「ユ、ユウ。私、死にたくない……」


 彼女達の力を感じ取ったマイの顔がサっと青ざめ、ユウの肩を手で強く食む。


「安心しろって。半歩手前で止めてくれるだろ」


「薄情者!! 助けなさいよ!!」


「あたしも死にたくないもんね。さっ!! 次行きますか!! 皇帝様、だ――れだっ!!」



 ユウが手に持つ筒へ皆が手を伸ばして一気呵成に引いた。


 もうそろそろお終いにしないと。下手を打てば死人が出るぞ……。


 お願いします……。どうか、俺に皇帝の座を与えて下さい。


 祈る想いで箸の先を見るも。



 侘しく、そして慎ましい文字で四と書かれていた。



「はいっ!! 私がぁ、皇帝様よぉぉんっ!!」


 うげぇっ!!


 エルザードかよ!?


「えへへっ。さてさてぇ?? 私の命令は絶対なんだゾっ!!」


「喧しいわ、ボケ。さっさと命令を下せ」



 師匠……。


 お願いしますからこれ以上彼女を刺激しないで下さい。



「あんたを死刑にする為。ドきつい命令を考えていたのよ。コホンっ。それでは、皇帝の命を下す!!」


 頼むぞぉ。真面な命令であってくれ。


「全員!! 上半身の服を脱げっ!!!!」


「「「「却下!!!!」」」」



 この場に居る全員が声を揃えて抗議した。


 そりゃそうだろう。女性同士ならまだしも、男の俺も含まれているのだから。



「エルザードさん!! それは出来ませんよ!! だって!! レイドさんが居るもん!!」


「アレクシアさんの言う通りです!! 頼むから考え直してくれ!!」


 彼女と共に願いを取り下げるよう、絶対的権力者である皇帝様へ懇願するが。


「やっ」


 たった数文字で却下されてしまった。


「ほらほらぁ、早くしなさいよぉ――」


「何故、俺を直視して言うの??」


「クソ狐にも復讐出来て且レイドの体も舐め回す様に眺められるからねっ」



 ちぃっ!! どうしても願いを下げない気だな!?



「分かったよ!! ――――。ほら、これでいいんだろ!?」


 訓練着を脱ぎ捨て、生まれた姿のままの上半身を酒の香で包まれた空気に晒してやった。


「「「ほぉっ…………」」」



 あっれ?? 皆さん、どうしました??


 素晴らしき絵画を初めて捉えた時に漏れる感嘆の吐息が刹那に響くと、急にシンっと静まり返ったので周囲を窺う。



「どうした?? ユウ」


「へ!? あ、あぁ。う、うん。別に……」


 俺と目が合うと、酒で赤くなった顔を逸らし。


「アレクシア、ちょっと見過ぎ」


「っ!? ごめんなさい!!」



 カエデが欲しい玩具を永遠に凝視し続ける子供の瞳を浮かべていたアレクシアさんに注意を促した。



「皆さん、少々お待ち下さい。目隠しをしますので……」


 脱ぎ捨てた訓練着を一本に纏めて顔にしっかりと装着。そして地面へと俯せの姿勢で倒れた。


「レイド、どうしたの――??」


「こうすれば皆の姿を捉えられないだろ?? 完璧な作戦さ」


 俺の頭を叩くルーの手……。いや、足か?? 兎に角、陽気な彼女にそう返してやった。


「おぉ!! 賢いね!!」


 どうも。


「じゃあ私も脱いじゃお!! お酒で体が熱いもん!!」



 多分、だけど。


 ルーが今しがた脱ぎ捨てた服が俺の背中に覆い被さる。



「いいね!! あたしも便乗すっか!!」


「ユウは脱がなくていいって!!」


「んだよ。お前さんもぉ……。脱いじまえ!!」


「ふっざけんな!! やめろや!!」


 マイとユウが絡めば。


「カエデっ。ほ――らっ。怖がらないでぇ?? 脱ぎましょ??」


「少しでも触れたら燃やしますからね」


「えへっ。怖いです――」



 カエデとアレクシアさんの可愛い絡みが続き。



「ん――?? あぁっ!! 皆脱いでるのに、リュー脱いでないじゃん!!」


「ふざけるな!! 何故私が下らない遊びに付き合わなければ……」


「後ろ、がら空きだぞぉ!!」


「ひぃぁっ!!」



 ユウの背後からの急襲によって脱がされる強面狼さん。



「ほら、さっさと脱げ。クソ狐」


「ち、ちぃっ!! 覚えておれよ!? この戯けが!!」



 そして、師匠と淫魔の女王の乱痴気騒ぎが始まるも俺は決して身動きを取らなかった。


 少しでも顔を動かせば誰かを視界に捉えてしまい地獄に叩き落とされてしまうからです。いや、その地獄すらも生温い痛みが待つ場所へ送られてしまう事だろうさ。



「あはは!! イスハさん、サラシを巻いていても絶壁のマイちゃんよりおっきいね!!」


「喧しいぞ!! この戯けが!!」


「誰が完璧に計算された家屋の壁だごらぁ!! テメェの乳もぎ取って鼠に食わすぞ!?」


「や――!! あっちに行って――!!」



 あぁ、頼むからあの騒ぎが此方に向かって来ませんように……。


 異常なまでに五月蠅く鳴り響く心臓の音のみに五感を向かわせ、死後数週間後の死体の様に全く身動きを取らないでいると。



「レ――イドっ。あはっ!! 私も脱いじゃった!!」


 横着者の淫魔の柔肌が背を襲った。


「勘弁して下さい!! 何でお前も脱いでいるんだよ!!」


「ついでよ、ついで!! ほらっ。どう?? 女の子の肌、だぞ……」


「結構ですぅ!!」



 絶対的権力を持つ皇帝様へ慈悲を叫び蝸牛も頷く程に己の堅牢な殻へと閉じ籠るが、男性の性を擽る匂いまでは遮断出来なかった。


 く、くそう……。この匂いだけで理性が吹き飛んでしまいそうだ。


 誰しもが頷ける完璧な防御の姿勢を保持して淫魔の急襲を耐え凌いでいたが。



「馬鹿弟子。何故貴様は嬉しそうに嫌がるのじゃ」


「師匠!?」


 八本の金の尻尾を持つお方と。


「ドスケベ姉ちゃんよぉ。随分と楽しそうにしてんじゃん……」


「マイ!! 止めろ!! 今攻撃したら見えちゃうから!!」


「誰かを見る前にあの世へ送ってやるから安心しやがれ!!!!」


「あ、安心の意味がちが……。うぐべっ!?!?」



 赤き龍によって我が装甲は粉微塵に破壊し尽くされてしまい、物理の法則に従って俺の体は宙を舞った。


 心地良い浮遊感を強制的に味わっていると刹那に彼女達の現在の姿を捉えてしまう。


 緑に青に薄い桜色。


 それはもうまるで春の訪れを予感させる程に美しき光景でしたね。



「レ、レイドさん!? 今見ましたよね!?」


「レイド様ぁ!! 有象無象の女共の姿よりも私だけを見て下さいましっ!!」


「何だよ――。折角あたしが晴れ姿を見せてやるって言ってんのに」


「女性の下着姿を見て鼻の下を伸ばすなんて最低です」



「ちょ、ちょっと待って!! ちゃんと両目を瞑っているから……」



 両目をぎゅっと瞑って慌てふためき両手を振るがそれを良しとする傑物共では無い。



「黙ってあの世へ行ってろ!! この薄目を空けてほくそ笑みド変態野郎がぁぁああ――!!」


「閉じているって言って……。ぎぃぃやぁああ――――!!!!」



 狂暴龍の強烈な一撃によって再びこの体は宙を舞い、それに続けと左右から襲い来る衝撃によって何度も宙を舞う。


 畳に打ちつけられ、天井の埃を強制的に味わい、果ては障子を突き破り寒空の下へ。


 全身くまなく傷付けられ、喧嘩でボロボロに負けた子供に近い泣きべそを掻くもそれは止む事は無く。


『もう夜更けなのだからいい加減にして下さい……』


 月が真上に昇って喧しさに辟易する時間帯になっても惨たらしい拷問は続けられ、俺の体が痛みを主張しなくなったのは彼女達がお酒の力によって強制的に眠りに就いてくれた深夜にまで及んだ。


 朽ち果てたボロ雑巾みたいな姿で冷たい地面に寝転がり、涙で滲む星空を見上げて俺は誓った。


 今後二度とこの御遊戯は行わないと。


 しかし、星の女神達は呆れた顔でこう言った。


『どうせあれこれ言いがかりをつけて結局は暴力を受ける破目になるのでその誓いは無意味ですよ』 と。


 理不尽を越えた強烈に手厳しい言葉を受け取ると再び涙を流して我が物顔で夜空を通過して行く流れ星を見送った。


 結局、俺は強くなる為ではなく彼女達の理を越えた力を受け止める為に鍛えているのではないのだろうか??


 そんな情けない考えが浮かんでしまう程に体と心が疲弊してしまっていた。


 自暴自棄になりながら温かい雫が枯れるその時まで、美しくも見方によっては残酷に映る夜空を一人静かに見上げていたのだった。



お疲れ様でした。


明日の投稿が第三章の最終話となります。いやはや、去年の二月に開始した第三章がいよいよ終わると思うと寂しさと同時に達成感が湧いてしまいますね。


約一年と二か月。書きに書きまくった甲斐がありますよ。


その所為か、私生活にも多大なる影響を及ぼす程に背中の筋肉が痛んでおります。姿勢が悪いのかそれとも書き過ぎの所為か。それは定かではありませんがこれ以上酷くなる様ならちょっと考えた方が良いかもしれませんね。



それでは皆様、明日の最終話でまた会いましょう!!

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