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第三百二十話 私生活の乱れは風紀の乱れ

お疲れ様です。


本日の投稿になります。




 体を柔らかく包む春の陽射しにも似た温かさが微睡む意識に多好感を与えてくれる。


 人生の中で三本の指に入る厳しい訓練から解き放たれた所為か、それとも嗅ぎ慣れた伊草の香りの所為なのか。


 心地良過ぎてこのままずっと眠っていたいのが本音です。


 この心地良さを強いて言い表すのなら……。



 仕事も遊びに出掛ける予定も無く、更に誰かに料理を作る必要も無い期待感に溢れる完全無敵の休日を迎え何の心配も無く熟睡出来ている。と、でも言えば良いのかな。


 このままずっとこの多好感に包まれていたい。しかし、そろそろ起きなければいけないという真面目な自分がぬるりと顔を覗かせた。



「ふわぁぁ――……」



 真面目な自分の意見に従い重い瞼を開けると最初に捉えたのは、ちょっと滲みが目立つ木目の天井だ。


 そして、鼻腔にぬるりと侵入するちょっと冷たい空気の中に混じった伊草の香り。


 ここは間違い無く師匠がお住まいである山腹に併設された平屋だな。


 しかし、気を失ったのは南の島であった筈。


 一体どうやってここまで戻って来たのか一切の記憶がありませんので方法は窺い知れませんが……。恐らく、誰かが運んでくれたのでしょう。


 有難う御座います、そして。迷惑をお掛けしましたね。



「――――。どこぞの誰かさん??」


 腹の辺りに柔らかく、温かい感触を感じたのでさり気なく布団を開くと。


「んっ……」



 横着な肉の塊が冷たい外気に触れた所為なのか。より一層己が豊満な双丘を俺に密着させてしまった。


 普段ならいい加減にしなさい!! と。


 子供の大変元気な横着に辟易するお父さんの声色を叫びつつこの淫魔の女王から逃れるのだが。訓練で世話になった事もあり仰々しく、荒々しく起こすのは憚れる。


 俺はどこぞの誰かさんと違って悪鬼羅刹ではありませんのでね。



「おはよ、エルザード」


 少しだけ寝癖が目立つ頭を優しく撫でると。


「ふっ……。んん」



 飼い犬が飼い主に甘えるかの如く、此方の体にポフンっと顔を埋めてしまった。


 こうして見ると、とてもじゃないけど三百を超える御方には見えませんよ。何処にでもいる二十代のうら若き女性にしか見えんぞ。


 飼い犬に対する普遍的な手の動かしを継続させながら周囲の様子を窺う。



 う――ん……。太陽が顔を覗かせて一時間程度、って所か。


 問題は俺が気を失ってからどれだけの時間が経過したかだよなぁ。


 与えられた休暇は三十日であり、訓練が行われたのは二十日間。


 まさかとは思いますけど、気を失ってから数十日も経過していませんよね??



 申し訳ありません!! 寝過ごしましたぁ!! では済まされないからな。


 そろそろ起きて誰かに時間の経過を伺おうか。そう考えて胸元の横着なお肉に視線を落とすと。



「「…………」」



 眠っていたと思いきや、完全完璧に彼女と目が合ってしまった。


 世の女性が羨む柔和な丸みを帯びた瞳、前髪の合間から覗く気怠さを残したその瞳は思考を刹那に遮るのには十分過ぎる破壊力を備えていた。



「――――。いつから、その……。起きていたので??」


「ん?? ん――。布団を開く大分前から……」


「そ、そう。ですか……」



 己の失態に居たたまれなくなり、魅力的な瞳から染みが目立つ天井へと移した。


 はい、超絶恥ずかしいです!!!!


 何で俺は彼女の頭を撫でてしまったのだろう……。


 熟睡していた功労者の一人を怒鳴り散らして起こすのは不味いという答えは出ていますよ??


 問題なのは何故その行為に至ったのかだ。



 彼女の寝姿が魅力的であり思わず触れてしまった。男性の性欲を刺激する肉感を醸し出す双丘が体に触れており、そこから湧き上がる性欲が無自覚の内に彼女の体を求めた。


 寒い季節、娘が寒がるので仕方なくお父さんの布団の中に招き。翌朝、朝が訪れた事を知らせてあげる為に父性溢れる手付きで撫でた。


 思いついた原因は幾つもあるが起きてしまった現象は時を戻さぬ限り消去出来ぬ。


 こうした失敗の積み重ねが常軌を逸した痛みの原因となるのだ……。今一度猛省して態度を改めましょう。


 帰って来て早々、死神さんと挨拶を交わす訳にもいかぬからな。



「頭、撫でたね??」


 此方の思考を読み取った意味深な声色が布団の中から響く。


「さ、さぁ?? 気の所為ですよ」


 くぐもった声にそう返す。


「嬉しかった」


「ど、どういたしまして??」


 多分、この言葉がこの空気に沿った答えでしょう。


「えっと。俺が気を失ってから何日経過した??」


 甘ったるい空気を強制的に締めた空気に変えようと画策して通常の声色に戻して問う。


「一日、だよ」



 やめて!! その甘い声で囁くのは!!!!



「じゃ、じゃあ丸一日寝ていたのかぁ――。いやぁ――!! 快眠したな!!」


 甘い声と空気を吹き飛ばそうと懸命に努めるが。


「うん。ぐっすり、眠っていたね」


 そうはさせまいと甘さの塊の声が布団を通して鼓膜を刺激した。


「師匠に挨拶をして来るから退いてくれます??」


「――――」


 無視、ですか。


「皆も起こさないといけないし。向こうの部屋で眠っているんだろ??」



 襖が閉まっているから向こうの景色は見えないけど。


 欄間らんまから聞こえて来る寝息から察するに、未だ夢の世界に留まっているのだろう。


 皆等しく疲れが溜まっているし。


「寝てるよ」


「だろ?? だから、起こさないといけないの!!」



 若干乱雑に布団を引っ張り、横着な淫魔の女王様を山の冷たい空気へ出現させてやった。


 冬の季節には相応しくない胸元が開いた寝間着、長い足が俺の足に絡みつき決して離さないぞと物を言わずとも伝える。


 女性らしい丸みを帯びた臀部と頼りない細い肩を捉えるとそれを求めて体が自然と手を伸ばそうとしてしまう。


 世界で五指に入る女性がその全貌を明らかにすると生唾をゴックンと飲み込んでしまった。



「寒い……」



 外気に触れて低下した体温を温めようと俺の体の上に圧し掛かる。


 堪えろよぉ、俺……。俺も一人の男。


 少なからず性欲も持っているのだ。


 ここでもう一人の俺が元気を取り戻せば向こうの海で起きた惨劇が始まってしまう。



『んっほぉぉおお!! 朝も早くからこんな御馳走食べていいのかよ!? すっげぇ良い匂いじゃん!!』


 ほらね?? しっかりと反応しちゃっているし……。


 特に『朝』 は本当に厄介なんですよ!! コイツを宥めるのには!!


『狭い室内にうら若き男女が二名。彼女は御柱を迎える準備は出来ている。そしてぇ!! こっちも準備万端ときた!! 後は……、な??』



 馬鹿げた声に耳を傾けその通りに行動出来たのならそれはもう素晴らしい経験をする事でしょう。


 しかし、問題はその後だ。


 怒り心頭の方々から恐ろしい暴力という名の裁きを受け、弁明する暇も与えられずに罰せられる。


 頭に浮かぶのは市中引き回しの刑、断頭台送り、燃え盛る炎の中へ投入。果ては遥か上空からの投下。


 きっと執行人達は俺が命枯れるその時まで執拗に痛めつけてくるであろう。無駄に頑丈が故により多くの刑を受けねばならない。


 地面に横たわる己の躯を想像すると背筋が一瞬でゾっと泡立ってしまった。



「お退きなさい!! はしたないですよ!!」


 下半身の暴れん坊を庇いつつ、エルザードの肩口を掴んで押し退けようとするが。


「やっ……」


 より強い力の両腕が胴体に絡みついてしまった。


「本当に疲れているの……。偶には良いでしょう??」


「あ、あのねぇ。疲れているのは俺もそうで…………」



 甘い吐息を吐き出す彼女を叱ろうと意を決したその時、襖が乾いた音を立てて開いた。



「…………」



 八本に増えた金色の尻尾が細かく震えそれに呼応する様に拳が、そして肩が怒気に塗れていく。


 これでもかと寄ってしまった眉に俺は覚悟を決めて居もしない神に祈りを捧げた



 お願いします。どうか、痛みを感じないで滅せられますように……。



「何をしておる……」


「い、いや。エルザードがその……。自分が眠っていたら紛れ込んでいたみたいで」


 俺達の会話に耳を傾けていたエルザードがふっと顔を動かして師匠の顔を見る。


「「…………」」



 確かに視線は交わされた。


 しかし、いつもの喧嘩が勃発する事は無く。只々、ピンっと張り詰めた時間だけが経過していった。


 あ、あれ?? 何も起きないの??



「ふん。間も無く飯じゃ。着替えて用意せい」


 襖を開けたままで師匠が踵を返す。


「あ、は、はい」


 え、えぇ!?


 何!? どうして何も起きないの!?


「な、なぁ。エルザード。師匠どうしたの??」


「だから言ったでしょう?? 本当に疲れているって……」



 疲れ過ぎて喧嘩をする元気も無いのか。


 それなら安心ですね!!


 後はこのまま時が経過するのを待てばいいのだから!!


 ふぅっと息を漏らし、激戦地の中にふと現れた安全地帯に身を置いたような安心感を得た。



「グルゥゥウウ……」


「……ッ」


 だが、それは突如として枕元から現れた深紅の髪の女性と藍色の髪の登場により木端微塵に吹き飛ばされるまでの束の間の安全であった。





























 ◇




 熱を帯びて腫れぼったい目を何んとかこじ開け、体の奥から激しい痛みを主張して泣き叫ぶ筋肉の声を無視してキチンと足を折り畳んで姿勢を正す。


 他者から見てもこの姿は反省の限りを尽くしていると受け取れるであろう。


 姿勢を正しながら何をするという訳でも無く、慌ただしく釈明をするのでも無く。


 美しき姿でありながらも末恐ろしい力を持つ女性達に囲まれつつも只々黙秘を続け、何かきっかけがあれば一大事が起きてしまう様な。


 そんな一触即発の張り詰めた空気の中で背骨の一本一本を天へ向けて伸ばし美しい反省の姿勢を保持していた。



「で??」



 目の前。


 地獄の底で悪行を働き続ける悪魔も目に涙を浮かべて逃走を図るであろうおっそろしい表情を浮かべている深紅の髪の女性が腕を組んだまま、口からたった一文字を放つ。


 たかが一文字、されど一文字。


 その文字に籠められている意味は幾百にも捉えられるが、恐らくその意味は憤怒や激怒等。負の意味であると捉えても構わないでしょう。


 鼻に皺を寄せて口からは恐ろしい牙が覗き、今にも襲い掛かって来そうですものね。



「大変申し訳御座いません。一文字では無くてもう少々言葉を足すか若しくは単語を連ねて頂けると幸いです」


「それで??」



 二文字。しか増えていません。


 要領を得ぬ俺にもう少し言葉を足して頂こうと考えていると。



「どうしてあなたは先生と通常あるべき男女間の距離を見誤ったのですかっ??」



 吹雪舞う雪原の中で佇む雪の女王様の背筋を凍らせてしまう冷たい表情を浮かべている海竜さんからお叱りの声が届いた。



「で、ですから……。朝食時にも説明致しましたよね?? 熟睡していて起きたら彼女が布団の中に潜っていた、と」


「それは言い訳です。私が問いたいのは何故直ぐにでも距離を置こうとしなかったのか。その点に尽きます」


 今も残念な寝癖の余韻が残る海竜さんの御口から感情が消失した言葉が発せられる。


「取ろうとしました!! し、しかし、ですね。皆さんも周知の通り。自分達は訓練を終えたばかりであって体全体に拭い去れぬ疲労が残っているのです。加えて、彼女は大魔の力を受け継ぐ傑物の類。此方の反抗が失敗しても致し方ないと……」



 恐ろしい四つの瞳を直視出来ず、畳の折り目に視線を落として話した。



「そう、ですか」


 お?? そろそろお許しが頂けるのかしら??


 ちょっとだけ感情が戻って来たカエデの声色を受けて視線を上げるが。


「それはあくまでもレイドの主観です。先生の口から直接言葉を聞いて判断します」


 何の判断かは問いません。


 恐らく彼女の証言次第で俺の罪の重さが決まるのだろうから。


「いや、そう申されましても……。肝心要の彼女は今、居ませんので……」


 狂暴な龍の膝が腹部にめり込み、布団の上で悶え打っている合間に何処かへと出て行っちゃったし。


「カエデは知らないの?? エルザードが何処に向かったか」


「知りませんっ。後、あなたには今現在質問をする権利を与えられていませんので口を閉じて下さいっ」


「ひゃい……」


 何で俺だけこんな目に遭わなきゃならんのだ……。


「はっは――。レイド、大変だなぁ??」



 こちらの後方から随分と明るいユウの声が届く。


 チラリと後ろへ顔を向けると、私は大変寛いで居ます。そして体の疲労を拭い去っていますと呼べる楽な姿勢を取りつつ笑みを浮かべていた。



「まぁ――しょうがないよねぇ。くっついていたんだし??」


 狼の姿のルーがきちんとお座りして話せば。


「主はそこで猛省していろ」


「そうですよ。お付き合いしている方ならまだしも、レイドさんとエルザードさんは健全な仲なのですよね?? そういう態度は感心しませんっ」



 リューヴとアレクシアさんが俺の如何ともし難い感情へと追撃を果たした。



「いや、ですから……。自分は……」


「レイド様っ。大変で御座いますわね?? アオイがレイド様の積もりに積もった鬱憤を晴らして差し上げますわよ??」


 黒き甲殻を身に纏う蜘蛛が頭頂部に留まる。


「あ、それは結構で御座います」



 これ以上問題を厄介な方向に持って行きたくないのでね。


 チクチクした毛が生える胴体を掴み、畳の上で横たわるユウへ放り投げてやった。



「あはぁ――ん。こちらに帰って来ても美しい放物線ですわぁ――」


「っと。アオイ、毛がいてぇ」


「んふっ。ごめんあそばせっ」



 膝が痛む反省の姿勢と胸に湧く心苦しいは余計だがいつもの日常会話が交わされている姿を見つめると、長きに渡る訓練が本当に終了したのだと改めて実感してしまう。


 まだ裁判中なので肩の力を抜くのは尚早だが、温かな光景を目の当たりにしてちょっと長めの吐息を漏らしていると。



「お――。揃っておるなぁ――。今日の予定を伝えるから聞け」


 師匠が軽い足取りで平屋へと参られた。


「今日は休みじゃないの??」


 人型の悪魔が龍の姿へと変わりルーの頭の上に座って問う。


「マイちゃん。邪魔」


「戯け。長きに亘ってここを空けたのじゃぞ?? 今日は……」


「「「きょ、今日は??」」」



 大部屋の中央で堂々と立つ師匠へ、皆が恐る恐る口を揃えて問うた。


 ま、まさか日が暮れるまで訓練場を走らされるとかじゃないよね??


 丸一日寝ていたのに体の奥にはまだどっしりと疲労さんが腰を据えていますので……。



「大掃除をしてもらうっ!!!!」


 よ、良かった。簡単な仕事じゃないか。


 もっと手厳しい指導が待ち構えていたと思いきや……。肩透かしを食らった気分だ。


「掃除する箇所はこの平屋と温泉。そして訓練場の三か所じゃ。埃、塵芥を一切残すな」


「え――。面倒ぉ……」


「良いか?? マイ。俺達はいつも師匠の厚意でここを使用させて貰っているんだ。その恩を返す時が来たんだよ。そうですよね?? 師匠」


「うむ。日常生活の乱れは心の乱れに繋がる。美しい精神が清い体を作るのじゃ」


 俺の意見に一つ大きく頷いてくれた。


「それは分かるけどぉ……。こっちもさぁ、訓練でヘトヘトなのよ」


 お分かり??


 そんな感じで狼の頭の上でゴロンっと横になる。


「そうか。なら、お主は宴で出される御馳走は抜きじゃな」


「ほ!? 御馳走!?」



 そして、特定の言葉だけに反応して素早く立つ。


 寝転がったり、立ち上がったり。忙しい奴め。



「お主達は辛い訓練を見事達成した。つまり、それを祝う会とでも言えば良いのか。掃除を行う代価として提供しようと考えていたのじゃがなぁ……」


「そ、それを早く言いなさいよ!!!! おらぁ!! あんた達!! さっさと行動を開始するわよ!!」



 目の前に突如として現れた好物に好奇心又は食欲を抑えられずに飛び掛かり罠に掛かる。餌に釣られて罠に掛かる野生動物って、多分あんな感じだと思うんだよね。


 俺達の間で右往左往しつつ、慌ただしく飛び交う横着な龍を見つめつつ大きな溜息を吐いた。



「師匠、そう言えば。エルザード達の姿が見当たりませんが……」


 朝の件以来姿形もそうだが。馬鹿みたいにデカイ魔力の欠片も感じ無いし。


「あ奴らは所用で出掛けておる」


「そう、ですか。遠い場所ですかね??」


「近くて遠い場所じゃよ」



 近くて遠い??


 それはどういう意味ですかと問おうと考え右隣りの師匠へと視線を移す。



「ユウ!! 早く立って!! ほらほら、鳥姉ちゃんも!!」


「もうちょっとゆっくりしようや」


「そうですよ。宴と言うくらいですからですからね。夜遅くまで掃除する訳でも無いですので」


「全く……。昨日までへこたれておったのに……。元気な奴らじゃ」



 平屋の大部屋の中で繰り広げられる喧噪を、ふっと目を細めて眺めている。


 だけど、何んと言うか……。少しだけ寂しそうに映るのは気のせいだろうか。


 今日の朝も少し変だったし。



「掃除道具は表に用意してある。各々準備が整い次第取り掛かれ」


「あの、師匠」



 指示を残し、この場から去ろうとする師匠を呼び止めた。



「ん?? 何じゃ」


 長い金の髪を揺らして此方に振り向いてくれる。


「えっと、その……。何か考え事ですか??」


 俺がそう話すとクリクリで大きな目が少しだけ。本当に少しだけ大きく開かれた。


「別に何も無いぞ??」


「そうですか」


 気の所為?? だったのか。


「何じゃあ?? 儂の美貌に目を奪われた顔をしおって」



 三本の内、一本の尻尾がウリウリとこちらの頬を突く。



「師匠の瞳の中に咲く綺麗な向日葵に見惚れていたのは確かですけど。少々元気が無さそうだったので。それに、エルザードも言っていた様に師匠達も疲労が溜まっている御様子でしたのでお声を掛けさせて頂きました」



 うむ。


 心に思う事を噛まずに滞りなく伝えられたぞ。



「ふぇっ??」


 俺の言葉を聞くなり、ぽぅっと頬が朱に染まる。


「どうかされましたか??」


「あ、いや。ま、まぁ。うむっ!! 儂の事は気にするな!! 用件は伝えた!! 素早く取り掛かるように!!」


 そう仰ると右手と右足、そして左手と左足を同時に動かしながら出て行かれてしまった。


 歩き難そうだな、あの所作。



「では、皆さん。宴を迎えるべく大掃除を開始します」



 カエデの一言で彼女を中心にして集まる。



「掃除する箇所はここと風呂場、そして訓練場です。この人数で一箇所を掃除するより二つに別けて掃除した方が効率的です。そこで、班を二つに別ちます」


 彼女がすっと皆へ差し出したのはクジ用のいつもの小さな箱だ。


「ここに一と二。数字を書いた紙が人数分ありますので引いて下さい。第一斑はここ、第二班は風呂場。各場所の掃除を終え次第合流。広い訓練場を掃除します」


「はいはいっとぉ!! ちゃちゃっと引いて、パパッと片付けますかぁ!!」



 意気揚々としてクジを引くマイ。


 その姿を見ると師匠の御姿が尾を引いてしまう。


 やっぱり、元気無かったよな??


 その原因が疲労であれば問題無い事も無いけど。心の疲れだとしたら、その原因が多大に気になってしまう。


 エルザードもちょっとおかしかったし。


 時間があれば腰を据えてじっくりと伺ってみよう。



「ん――。二、って事は風呂場か」


「げぇ!! あたしも風呂場じゃん!!」


「何よ!? 私と一緒なのが嫌なの!?」


 ユウのあからさまに辟易した表情を見付けると途端にマイが彼女へと噛みつく。


 勿論、物理的な意味で。


「噛むな!!!! 取れたらどうすんだよ!!」


「安心しなふぁい。これはとれふぁいから……」



 素晴らしく大きい双丘に噛みつく一頭の龍。


 それを見た俺は絶対に一の数字を引こうと心に決めた。どうしてかって?? アイツが居る限り、真面に仕事を全う出来ないからね。


 余計な労力を割かねばならぬ現場よりも安全で安心出来る現場を選ぶのが人の人情でしょう。


「レイド、早く引いて」


「お、おう!!」


 まだまだ目の色に恐ろしさが残る彼女に急かされると、いつもよりちょいと気合を入れて本日の命運が決定されるクジの箱に手を入れた。



お疲れ様でした!!


いや、本日は朝からテンション爆上がりでしたよ!!


それもその筈……。WBCの日本代表が決勝戦へ進出する事が出来ましたからね!!


佐々木選手が打たれ、日本は三点先制される形となり。その後はチャンスが訪れるものの中々点数が入らない展開が続きました。


ですが吉田選手の同点スリーランが決まると一気に流れが変わり、その後に再び逆転されるも。最終九回には村上選手がサヨナラツーベースヒットを打ってくれました!!


一流選手達が感情を炸裂させて大喜びしている様を見ていると、本当に嬉しいんだなと感じてしまいましたよ。


そして明日は決勝戦です!! 朝からテレビに齧りついて見て居たのは山々ですが……。明日は平日の為、観戦出来ません。


ネット情報やら目に耳に飛び込んで来る情報を一切合切消去して帰宅後に録画した試合を観戦する予定です。




そして、ブックマークをして頂き有難う御座います!!


執筆活動の嬉しい励みとなりました!!



それでは皆様、お休みなさいませ。

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