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第三百十九話 さぁ帰ろう!! 危険な冒険が待ち構えている大陸へ

お疲れ様です。


本日の投稿になります。




 本日も空に浮かぶ彼が元気一杯の笑みを浮かべると否応なしに地上の温度が上昇して真夏とそれと変わらぬ気温へと変化する。


 何もせず只地面の上に立っているだけで皮膚に汗がじわりと浮かび、熱射によって体力が悪戯に削られ。乾いた体があそこの木陰で休もうぜと甘い言葉を囁くと無意識の内に足を動かそうと画策してしまう。


 だが、ここで暑いやら木陰で休みたい等々。


 自分本位の願望や行動を取った日には指導という名の圧倒的暴力によって強制的に修正されてしまうのです。


 この事を理解しているのか。



「「「……」」」



 一糸乱れぬ隊列で並ぶ者共は口を閉ざし、俺達の前で堂々と立つ指導者の方々からの第一声を待ち続けていた。


 暑さで体がヤラれてしまう前に早く本題に入って欲しいのですがそれは叶わない。何故なら全員が揃った上で師匠が用件を伝えると仰ったからです。



 あの腹ペコ龍は一体何をしているのやら……。いい加減待ち飽きたぞ。


 実の母娘で積もる話もあるだろうが優先事項を履き違えて欲しくないのが本音ですかね。



 師匠が仰ろうとしている本題。



 それは恐らく此処に来てから本日に至るまでに受けて来た指導の中で最も優しい命令となるであろう。


 指導者達の顔は此度の訓練の成果の影響を受けてか何処か朗らかであり見方によっては大変満足している様にも映る。そしてその御顔を捉えた俺達の顔も自然と柔和に変化する。


 きっと今回の訓練は師匠達の満足のいく結果となったのだろう。あの顔を見れば直ぐに看破出来るさ。


 しかし、九祖が一体。狐さんの血を受け継ぐ女性の朗らかな顔はある女性の横着によって刹那に曇り。雷雲轟く悪天候へと変化してしまった。



「ねっ。今日は休みだしさ。この後二人で何処かいこ――よ」


 淫魔の女王様が通常あるべき男女間の距離感を大幅に間違えた場所から問うて来る。


「行きません」


 領域侵犯を犯した彼女から一歩身を引いたので綺麗な横隊の列を乱してしまう。


「んも――。此処に来てから全然一緒にお出掛けしてくれないじゃん。折角さぁ――。南の島に来たんだから羽目を外そうとは思わないの??」


「思いません。此処へ来た目的を履き違えているぞ」



 俺達は辛く厳しい鍛錬を受けに来たのです。甘ったるい男女の関係を構築しに来た訳では無いのですから。



「おい、脂肪……」


「じゃあさっ、一緒に散歩しよう!! それなら足の筋肉も鍛えられるじゃん??」



 濃い桜色の前髪に付けられている桜の花びらを模した銀の髪留めを柔らかく撫でつつ話す。


 自他ともに認める絶世の美人と肩を並べて歩き、尚且つ疲労を拭いつつ足の筋力を鍛える。


 一石二鳥処か、三鳥。正に良いとこ尽くしですけども……。


 如何せん淫魔の女王様の奥に立つ我が師の表情が大変宜しく無い物に変化してしまっていますのでね。


 一時の劣情に身を委ねて死すら生温い拳を受けるよりも五体満足で残りの人生を歩む事を選びます。



「丁重にお断りさせて頂きます」


 親切丁寧にお誘いを断る角度で頭を下げてやった。


「強情な奴めぇ……。ん――。それじゃあ……。一緒に御風呂入ろっ!?」


「難易度が跳ね上がり過ぎて付いて行けません」


「いいじゃん!! それくらい!!」



 それくらいと申しますけどね?? 普通――の男女間である者同士は共に風呂には入らないのです。


 いい歳の大人なのですから少し考えれば分かるでしょう??



「倫理観を尊重しなさい」


「倫理観??」



 何それ?? 美味しいの??


 そんな風に惚けて首を傾げる様が大変似合いますよっと。



「そこから下がれ、ドブ川……」


「ここで馬鹿みたいに突っ立っていても子供は出来ないしっ。私達だけお暇しよっか」


「も、もう勘弁して下さいっ!! お願いしますからぁ!!!!」



 俺の右手を掴み半ば強制的に何処かへ連行しようとする横着な手をやんわりと跳ね除け。


 もうここから一歩も動かぬ。


 その確固たる態度を示すべく硬い地面の上でキチンと足を折り畳み頭を垂れた。


 これ以上師匠の御怒りを買うのは宜しくありません!! 俺は未だ死にたくない!!



「レイドさん?? もう少し強く御断りしたら如何ですか??」


 アレクシアさんの冷たい声が後頭部にグサリと突き刺さり。


「だなぁ――。言葉では嫌そうにしても顔は嬉しそうだし」


 ユウの覇気ある声が腹の奥をズンっと刺激すれば。


「レイド様……。私という本妻がありながら他の女性にも手を出すのですね?? アオイは悲しいです。クスンっ」



 アオイの要領の得ない言葉が広い訓練場の宙に虚しく響いた。



「断っています!! 現に頭を下げているだろ??」


 口の中に何んとか侵入しようとする小石を吐きつつ話す。


「頭下げれば良いって問題じゃあないよなぁ――」


「ユウの言う通りです。第一、此処へ来てから何度目ですか?? そうやって楽しそうに地面へ頭を擦り付けているのは」



 カ、カエデさん?? 体から恐ろしい魔力が溢れていますよ??


 後、地面に額を擦り付ける行為は楽しくありませんのであしからず。


 これから始まる身も心も凍る惨劇を想像した体が生み出す妙に硬い生唾を喉の奥へゴックンと流し込むと。



「皆――!! お待たせ――!!」


 フィロさんの軽快な声と共に俺達が待ち続けていた件の女性がやって来た。


「漸く揃ったか……。ん?? どうしたのじゃ、マイ。両手で目元を抑えて」



 師匠の素っ頓狂な声を受け。今が大好機と捉えると足を真っ直ぐに伸ばして列へ加わった。


 さり気なく、そして静かに素早く。


 これが彼女達と過ごす間に得た俺なりの処世術です。



「あ、あぁ。気にしないで用件を伝えていいわよ」



 師匠の御言葉にもあったようにアイツはどういう訳か両手で目元を隠し続けている。


 その姿は流石に失礼でしょう、目上の人達に対して。



「マイ、師匠達に失礼だぞ」


「うるせぇ!! 喋んな!!」



 態度を咎めたら汚い言葉で返す。


 あなたはもう少し大人になるべきです……。



「マイちゃん。目が痒いの??」


「お、おぉ。そうそう。目がさぁ――。いやぁ――!! かっゆ!! あぁかっゆいなぁ!!」


「「「…………」」」



 絶対、嘘だろ。


 猜疑心に満ちた沢山の目がマイへと注がれる。


 そして疑心に満ちた目を浮かべていた深緑の女性が何かを思いついたのか。



「にしっ……」


「えへへ、痒いんだねぇ……」



 歪な角度で口角を上げるとマイの背後へと回り、それを見つけてしまったルーがマイの正面へと回った。



「おら、さっさと用件を伝えなさいよ。私は目を掻いているから……、ってぇええ!! 何すんじゃあ!!」


「おぉっと!! 動くなよ――?? その手の下に隠されている物を確認しないとあたし達も気になって仕方が無いからなぁ――」


 ユウがマイの背後から羽交い絞めの要領で彼女の両腕を掴み。


「そ――そ――。気になったままお話聞いても頭に入らないもん」


「あんたの頭は元々すっからかんだろうがぁ!!」


「うっわ!! そういう事言う!?」



 狼の姿になったルーが、ガバっ!! と後ろ足で立ち上がりマイの両肩に前足を乗せて拷問の体勢は整った。


 怪力無双さんと獣臭い舌を持つ狼さんの残忍で惨たらしい蹂躙劇の始まり始まりっと。



「はい、ど――ぞっ!!」


 大きな狼の黒い鼻をマイの小さな鼻にちょこんとくっ付けると。


「うぶぅっ!? く、くっさ!!!! 口の中に入れるな!!」



 粘度の高い液体を纏わせた長い舌を容赦なしに唇の中へと突っ込んでしまった。



「ぎぎぎぃ……。放せぇえええ!!」


「力で叶うと思ったら大間違いさっ」


「ユウちゃんには勝てないよ――。そしてっ、私からは特盛の舌をど――ぞっ」


「あばばばば!?!? 口のな゛がは分かるげど、鼻は止めろや!!!!」



 汚い言葉で俺を罵った彼女が受ける拷問については然程憐憫の気持ちは湧かないが……。どうしてそこまで頑なに顔を見られたくないのだろう??


 その点について多大なる興味と疑問が湧いてしまう。


 右目は酷い痣があったけどそれは周知の事実だし。今朝、起きて来た時には変な寝癖もいつも通りの涎の跡も傷跡も付いていなかった。


 そうなると……。凡そ考え得るのは女の子の我儘って奴かな。


 ほら、あるでしょ?? 今日は顔を見られたくない気分だからこっち見ないで――って奴。


 だがアイツの傍若無人、荒唐無稽、無頼漢な性格を加味すればそれは全く当て嵌まらない。


 一体何があの向こう側にあるのか、興味は増すばかりだ。


 皆も俺と同じ気持ちを抱いたのか。



「「「……」」」


「ほれっ!! ほれほれっ!!」



 はち切れんばかりに尻尾を左右に振るルーの背後からマイの顔を確認しようと、その時を待っていた。



「ルー、もう少し奥だ。口の奥へと舌を突っ込め」


「リュ、リューヴ!? あ、あんたねぇ!!」


 強面狼さんの恐ろしい作戦が提唱されるとほぼ同時にムッ!! と閉じていた口に刹那の綻びを生じてしまう。


「隙、見つけたぁ!!!!」


「し、しまっ……!! おっぇっ!! クッサッ!!!!」


「はっは――!! 御開帳――――ってね!!!!」



 そしてそれを見逃す程ユウは甘くは無い。


 俺達は念願叶いマイが隠し通そうとした彼女の秘密を両の眼でしっかりと、そして完全完璧確実に捉えた。



 先ず、目に飛び込んできたのは右目の青痣だ。


 うん。さっき見た時と変わらず皮膚にふかぁく刻み込まれている。問題は……。


 その反対の目元ですね。


 右と変わらず、いいや。寧ろ右より鮮やかな青痣が左目に美しく鮮明に刻まれていた。


 何があったのか分からんが片方ならまだしも……。両方って。



 負け戦が大好きな戦い下手な兵士。幼い弟が大きな兄に真っ向勝負を挑む。鷹に正々堂々と喧嘩を売るヒヨコ。


 己の力量を多大に見誤ったボロ負けの結果を捉えると俺達の感情が刹那に破裂した。



「「「あははははは!!!!」」」


「ひ、ひぃ――!! マイちゃん!! ど、ど、どうしたのぉ!? その顔ぉ!!」


「ぎゃははははぁ!! マ、マイ!! お、お前ぇ!!」


「だから嫌だったのよ!!!!」



「――――。あ、成程」



 周囲が笑い転げる中、カエデがポツリと言葉を漏らす。



「ど、どうした?? カエデ」


 呼吸困難に陥った呼吸を必死に戻しながら問うた。


「ほら、先程馬鹿げた魔力が後方で弾けましたよね??」


「う、うん……」


「あれはマイの魔力だったんですよ。そして、経緯は分かりませんが。フィロさんに襲い掛かった。そして……」



 あぁ、そう言う事。


 意気揚々挑んだのは良いが、返り討ちにされたって事か。



「くくっ……。こ、これ!! もう良い!! 用件を……。ふふっ。伝えるから並べ!!」


 師匠が懸命に笑いを堪えつつ仰る。


「あ、あんたら……。後で絶対噛み千切ってやるからね!?」


「出来るのかなぁ――?? 連戦連敗中のなっさけない子犬ちゃんにぃ??」


「ユ、ユウちゃん!! あはは!! 止めて――!!」



 お、お願いします。どうかその辺りで止めて下さい。


 ここで笑おうものなら後の仕返しが恐ろしいのです……。



「は――……。しっかしおかしな顔じゃなぁ……」


「えぇ、全くその通りですわ。女性が浮かべる顔じゃありませんわよ」


「自分の娘の顔を本気でぶん殴る親もどうかと思うわ」



 指導者達も軽快な笑みを浮かべて喧嘩下手だけど喧嘩が大好きな敗北者の顔を見つめていた。



「お主達!! いつまで笑っておるのじゃ!! さっさと並べ!!」


「分かりました師匠。カエデ、並ぼうか」


「ふふ……。うん、そうしようか」



 直ぐ隣でクスクスと可愛らしい笑い声を放つ彼女を誘い、元居た位置で再び列を形成した。



「オ、オホンッ。お主達は見事儂らの期待に応えて覚醒へと至った。うむ、実に見事じゃ」



 陽性な声色から一転。


 師匠が真面目そのものの声色を放ちつつ俺達を見つめて目を細めた。



「本来の予定では後十日、ここで過ごす予定じゃったが。予定を繰り上げる事にした」


「それはつまり……。向こうへ帰るのですか??」



 恐らくと言うか。確実にそうだろう。



「そうじゃ!! 此れにて、今回の訓練は終了する!!!!」


 師匠が腕を組み満足気に大きく頷くと。


「やったぁああああ!! 終わったぁああ――!!」


 狼の姿のルーが宙で一回転。


「お、終わりましたぁ――。これでやっと御飯の呪縛から逃れられますぅ……」


 アレクシアさんはペタンと尻餅を着き安堵の息を漏らし。


「いやっほぅ!! 理不尽な暴力ともおさばらだい!!」


「マイちゃん?? 向こうに戻っても暫くの間、私もイスハの所でお世話になるからねぇ――」



 遅れて向こうの列に加わった実の母親さんが娘に釘を差す。



「え、えぇ……。帰んないの??」


「「「あはははは!!!!」」」



 マイの辟易した声が再び皆の笑い声を勝ち取った。



 何はともあれ。予定よりも少し早いけどこれで長く辛かった訓練も終了、か。


 マイ達は是が非でも得たい素晴らしい力を見事手中に収めた。それに対して俺と来たら…………。


 得たの物は少しだけ発動時間を短縮出来る様になった付与魔法と慎ましい量の魔力の増加。


 それと……。後は何だろう??


 体力の向上とちっぽけな筋力増加位かな。結局の所、凶姫さんと邂逅を遂げる事は叶わかなったし。


 彼女達と比べれば得た物は極僅かだが今はそれでもいいや。


 こうして皆が笑みを浮かべてお互いの苦労を労っているのだから。



「は――い。騒ぐのはそれまで――。向こうに帰る前にあんた達の力を抑えるからね」


 訓練場の上で燥ぎ、元気良く走り回る者達を制する為。エルザードが注目の意味を籠めて一つ大きく柏手を打つ。


「え?? このまま帰ったら駄目なの??」


 両目にくっきりと敗北者の証が刻まれたマイが口を開く。


「駄目に決まってんでしょ。あんた達は気付いていないかも知れないけど……。此処に来る前とは比べ物にならない量の魔力を放ってんだから」


「カエデ、気付いた??」


 俺の右隣り、周囲が燥ぐ様を温かい眼差しを浮かべて見つめていた彼女に問う。


「何となく、ですかね。正直自分に手一杯でしたのでそこまで気が回りませんでした」



 ふぅむ、魔力感知が得意な彼女でも気付かなかったのか。


 比較対象の魔力が一気に上昇したなら感知するのは容易い。自分と相手との力の差を加味すればそれは自ずと理解出来るから。


 しかし、比較対象と自分の魔力の双方が普段のそれよりも上昇したままで日常生活を過ごしていると気付き難いのかも知れない。


 カエデ程の者が何となく気が付いたと言ったのが良い例だ。


 つまり、俺達はエルザードが言った通り。自分達でも気付かぬ内に普段よりも強い力を放っているのでしょう。



「じゃあ何!? 私すっごく強くなったの!?」


 マイが右の拳をぎゅっと握り。


「おらぁっ!! 取り敢えず食らえや!!!!」



 その拳を左隣に立っているユウのお腹へと放つ。


 突然の攻撃にユウが顔を顰めると思いきや。



「いてっ」


「いっでぇえええええ!!」


 殴った本人が痛がっていた。


「お前さんの行動は本当に分かり易くて助かるよ」



 ユウが呆れた表情を浮かべて横着者の頭をポンっと叩く。


 会話の流れからしていきなり殴られると考えて瞬時に腹筋を固めたか。やるな……。



「良かった、マイさんの隣じゃなくて」


「流石にアレクシアさんには殴り掛かりませんよ」


 驚愕的な防御力のユウの腹筋だからこそ耐えられたんだ。


 アレクシアさんの腹筋にアイツが拳を放ったら穴が空いちまうよ。


「強くなってないじゃん!!」



 真っ赤に腫れた拳を抑えつつ叫ぶ。


 拳は真っ赤、目元は真っ青。踏んだり蹴ったりだな。



「あんた馬鹿なの?? 強くなった者同士で叩き合っても意味ないでしょ」


「あ――!! そっか!! じゃあ腹筋の柔らかい奴をぶん殴れば分かるのか!!」



 エルザードの声を受け、合点がいった表情を浮かべると。



「にしし。アレクシア!! ちょっと来て!!」


 満面の笑みで彼女を手招き始めた。


「絶対嫌です!! こっち来たら空に逃げますからね!?」


「ちっ……。じゃあ、次点で……」



 君はどうして俺の顔を直視するのかしら??


 もしもこちらに一歩踏み出したのならフィロさんの後ろへ向かって全力で駆け出そう。あそこが世界で一番安全な場所なのだから。



「はぁ――……。阿保な事やっていないで、さっさと座れ」



 淫魔の女王様が巨大な溜息を吐き指先できゅっと眉間を抑える。



「エルザード、今から何するんだ??」


 取り敢えず彼女に指示された通りに座って問う。


「あんた達の心に開いた蓋を閉めるのよ」


「えっと……。もうちょっと詳しく説明して頂けると助かります」



 貴女は聡明でその道の達人かも知れませんが、俺はまだその道の入り口に足を踏み入れた程度の実力なのです。



「心の底で閉めてあった蓋を開いた。そのお陰で御先祖様達との会話が滞りなく出来たとでも言えば分かる??」


「つまり、開けた蓋を閉めないと……」



「ここよりもマナが薄い向こうの大陸に帰ればあっ!! という間に魔力が枯渇。阿保みたいに垂れ流す魔力、心の蓋が開けっ放しの所為で精神が蝕まれ残念無念。死に至ってしまったとさ」



 自分の放つ力が原因で死んでしまう程に俺達の力は増幅してしまっているのか……。


 常日頃から近くに全員が居たから気付かなかったけど、第三者から見れば俺達の力は身が竦む圧を放っているのだろう。



「ほら、理解したのならさっさと並べ!!!!」


「へ――い、へいへい。おら、並ぶわよ」


「何故、あなたの言う事を聞かなければならないのですか??」


「マイちゃん、そこ邪魔。私が座るの」


「両目青犬さんよぉ。さっきの仕返しは後できっちり払って貰うからなぁ――」



 マイの声を開始と捉えたのか、全員がやんややんやと文句を述べつつも綺麗に並んで座る。


 そして俺達が並び終えるのをエルザードが見届けると彼女が静かに座り精神を統一させた。



「ふぅぅ――。んっ!!」


「「「っ!?!?」」」



 彼女から一気苛烈に放たれた赤き魔力が周囲の大気を揺らし森が驚きの声を上げて震え上がり。目に見えぬ巨大な手によって五臓六腑が握り潰された感覚に陥ってしまった。


 相も変わらず……。馬鹿げた魔力ですね。


 新たなる力を得たマイ達も顔を顰める桁違いの圧がまだまだ道のりは果てし無く長いと知らしめてくれる。


 俺達もまだまだ修練不足だな。果たしてあの舞台に到達するのはいつになる事やら……。


 彼女の細い体から滲み出る魔力が体の中に収束された後、エルザードの足元から靄に似た赤き魔力の陽炎が俺達の前に蛇行して向かい来る。



「あ、えっと。エルザード」


「ん――??」


「こ、これ。触っても宜しいのでしょうか??」


 既視感を多大に覚えてしまい思わず口を開いてしまった。


「大丈夫よ――」



 お、おぉ。それなら大丈夫、か。


 意味深な声色の欠片も見られなかったので安堵の息を漏らして瞳を閉じた。



「触れた瞬間にバタン!! ってな感じにならないからね。安心して良いわよ。――――。多分、だけど」



「「「だから最後までしっかり言え――――――っ!!!!」」」」


 俺達が同時に咆哮した瞬間。


「「「「ッ!?!?」」」」



 体全体に恐ろしいまでの衝撃が走り頭がこの負荷に抵抗するなと叫び、視界が白一面の景色に包まれてしまった。


 くそう……。訓練の最後の最後で気を失うなんて俺もまだまだ鍛え足りないな。


 向こうに帰ったら休暇はまだ残っているし師匠にもっと鍛えて貰おうかな??


 優しい師匠の事だ。それはもう満面の笑みを浮かべて張り倒してくれるだろう。我が師は手加減という文字を一切知らないので命が消失してしまう危機感を持って稽古に臨まなければならない。


 命を失わない為に行う稽古が、逆に命の危機をもたらすって……。


 前途多難な光景が頭の中に僅かに浮かんだのを最後に、俺の意識は完全綺麗に深い闇の中へと落ちて行った。



お疲れ様でした。


この御話を持ちまして南の島での特訓編を終えます。次話からはアイリス大陸へ戻り、日常パートが始まります。



本日、午前八時からWBC日本代表の準決勝が始まります!! 日本の相手はメキシコです!!


あと二つ勝てば野球世界一の称号を得るのですが……。決勝戦の相手は野球大国のアメリカ。


メキシコも一筋縄ではいかぬ相手なので超激戦が予想されます。遠い地で戦っている彼等の勝利を信じて応援します!!!!




そして、ブックマークをして頂き有難う御座いました!!


花粉で参りに参っている体に嬉しい知らせとなりました!!!!



それでは皆様、お休みなさいませ。

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