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第三百十八話 連戦連敗の龍 その一

お疲れ様です。


休日の夕方にそっと投稿を添えさせて頂きます。




 人は様々な感情を胸に抱いて日々を生きている。それを端的な言葉で表すのなら喜怒哀楽という感情だ。



 偶発的に起こった幸運な出来事があれば素直に喜び。苛立つ事象が起これば当然の様に怒る。


 数か月に一度の大安売り大会で百戦錬磨の主婦達を押し退けられずお目当ての物が買えなければ哀しみ。竹馬の友と過ごせば否応なしに楽しい感情が湧く。



 心に浮かぶ感情は自分自身では容易に理解出来る。しかし、感情は目に見えぬ存在であるから他者から見た場合はそうはいかない。


 人が胸に抱いている感情を看破するには様々な方法がある。


 その一つとして有効なのがその人の表情を窺う事だ。


 顔は感情の鏡と言われている様に感情と同調している傾向が見られる。


 だが、人には社会というある程度の協調性を求められる中で生きているので誰しもが素直な感情を表す訳にはいかない。



 親族の葬儀の時に大口を開けて笑う者、大勢の人々が行き交う歩道で突如として奇声を放つ者、上司に叱られているというのにクスっと鼻で笑う者等々。


 その場に相応しくない感情を表す者はいないと断定する事は出来ないが、大多数の人はその場に合った。若しくはその場に沿った感情を表す。


 時と場合によって感情は隠すべき物へと変化。人はそれを己の頭で理解して鏡の中に隠してしまうのだ。



 勿論、鏡の中に感情を隠す事が大っ嫌いな者もいます。


 その最たる例が俺の真正面で座っている女性だ。


 試しに彼女が今現在胸に抱いている感情を考察してみましょう。



「グルゥゥウウ……。ガルゥゥウウウウ……!!!!」



 ふむっ、多数の魂を引き抜いて来た死神も一歩引く恐ろしい表情と獰猛な獣もドン引きする嘯く声から察するにどうやら怒り心頭の御様子ですね。


 通常時でも鋭角な眉を更に尖らせ、鼻は怒りでしわくちゃ。そして己が内に燃える怒りを発散しようとして口から恐ろしい牙を剥き出しにしている。


 本日は休日もあって怒りを覚える事象はよっぽどの事が無い限り起こり得ない。


 では、一体何故。深紅の髪の女性は怒っているのであろうか??


 それは単純明快。周りの者が揶揄うからだ。



「「「ぎゃはははは!!!!」」」



 ある者は彼女の顔を指差して笑い。又ある者は腹を抱えて地面を転げ回る。


 俺はというと……。



「ずず……」


 朝食の余韻を楽しみつつ、冷たいお水で喉を潤していた。


 これが最善の選択なのです。何故ならきゅぅっと上がる口角を隠せますからね……。


「ぶははははぁ!! な、何だよぉ!! マイ!! お前さんの面ぁああっ!!」


 ユウが腹を抱えて全力で笑えば。


「だ、駄目ぇ!! あはははは!! マイちゃん!! その顔でこっち見ないでぇ!!」


 お惚け狼さんが大地の上を転げ回りつつ、四つの足をデタラメに動かし。


「く……くくっ。み、皆さん。し、し、失礼ですよ。マ、マイはあふっ!! ふぅ――。ぶふっ!! 頑張って結果を残したのです……。から」



 ハーピーの女王様は必死に笑いを堪えて……。いないけど。


 彼女は己の笑いを懸命に誤魔化しながら彼女の姿を何んとかしようと補助していた。



「あ、あ、あ、あんたらねぇ!! 人の努力を笑うなんてぇ!! 失礼だと思わないかぁ!? あぁぁあん!?!?」


 こっわ。


 あなたは一応女性なのですからもうちょっと慎んだ口調と表情を浮かべなさい。


 でも、まぁ……。ユウ達が笑い転げるのも無理は無いかな。大変面白い事象が彼女の表情に浮かんでいますので……。



 マイが気を失った直ぐ後、ここに居る皆が起き出して彼女の様子を気遣って天幕へと搬入した。


 うん。


 これは間違いなく最善の行動だと考えられる。



 問題はその後なのです。



 俺達が机に座り朝食を楽しんでいると。こちらの朝食の匂いにつられて起き出した彼女が酔っ払った小鳥の足取りで着席した。



『は、腹が減った!! ねぇ!! さっきのおじやと朝食を食べさせて!!』



 と、普段通りの台詞を吐き出したまでは良かった。


 俺達の笑いを誘い出したのは……。彼女の顔なのです。



 マイが倒れた時には無かった痣がくっきりと、はっきりと右目に刻まれていたのです。


 やっすい喧嘩を売って意気揚々として勝負を挑むもののボッロボロに負けて、裏通りのゴミ溜めの中に突っ込まれた負け犬みたいな顔をしていれば誰だって笑おうさ。


 超簡単に説明すると、右目の青痣が今も俺達の笑いを誘っているのですよっと。



「そうですよ皆さん。マイは結果を残したのです。それを嘲笑うのは……。ふっ。失礼の極みです」


 カエデさん??


 堪えられていませんよ??


「さっすがカエデ!! 良い事言った!!」


「どうも。後、申し訳ありませんが……。此方に顔を向けないで下さい」


「「「ぶふっ!! ぎゃはははは!!!!」」」



 カエデの懇願が再び一同の笑いを誘ってしまった。



「ひ、ひぃ――!! く、苦しいぃ!! 腹筋が捻じ切れそうだ!!」


「だよねぇ――!!」


「よぉ――。そこのお化け西瓜とお惚け狼ぃ……。さっきから黙って私が聞いていればぁ――」


 両の拳をガチンと合わせ、指の骨の関節を鳴らす。


「ちょいとそこに直れや」


「出来るのかなぁ――?? 大型犬にやっすい喧嘩を売って大敗した子犬ちゃん??」


「きゃはははは!!!! ユウちゃん!! その例えは駄目だってぇ――!!」


「し、し、死ねぇ――――――!!!!」


「掛かって来やがれ負け犬っ!!!! 吠え面かかせてやらぁぁああ!!」



 始まったか。


 マイが龍の姿に変わると同時に喧嘩上等の構えを見せるユウへと突撃を開始した。


 いつもの喧噪に苦笑いを浮かべつつも此れこそが俺達の日常であると、柔らかい溜息を吐きながら何とも無しに眺めていた。



「レイド様っ」


「っと。どうした?? アオイ」


 右肩に留まった黒き蜘蛛へと問う。


「あの負け犬はどうやって覚醒に至ったのか。その経緯を教えて頂けます??」


「経緯、ねぇ……。ん――。俺が朝早くに海で漂っていたら、マイの奴が砂浜で精神を統一していたんだ」


「「ふんふん」」



 あれ?? 一人増えた??


 ちらりと横を見ると……。


 狼の姿のリューヴが地面の上にお座りの姿勢で座り、アオイと同時に首を縦に振っていた。



「日常会話を交わしつつここへ戻って。んで、朝飯前朝飯を強請るもんだからあそこで空っぽになっている土鍋でおじやを作ったんだ」


「「「ほ――??」」」


 今度はアレクシアさんの参戦ですか。


「出来立てで熱いから気を付けて食えよ。そう言った後、アイツが一口食べたら気を失ったんだ。その一分後位かな?? 気が付いた時には覚醒に至っていたんだ」


「「「「ふぅむ……」」」」



 そして最後には海竜さんの参戦で俺の回想は終了を告げましたとさ。



「どうやらアイツの中の御先祖様が求めていたのはおじやだったみたいだな。普遍的な物が好みだなんて意外だよ」


 もっと、こう……。


 美しい脂の線が入った肉汁滴る高級肉だったり。霞を食べて生きる仙人も我を忘れてむしゃぶりつく甘い果実だったり。


 世に出回らない素材を使った料理だと思ったんだけどねぇ。蓋を開けて見たらなんて事なかった。



「ふ、む……。その話から察するに、マイはレイドの料理をきっかけに覚醒へと至ったのですね」


「俺の料理がきっかけ??」



 小さな口に指を当てて考え込んでいるカエデへと問う。



「えぇ。彼女が口にしたのは世に数多溢れる普遍的な料理の一つです。与えられた課題の答えについて、高級な物を連想しましたが……。先日頂いたニホンアカツノエビでしたり、鉄板の上で食した肉でしたり。贅を尽くした料理は此処へ来てから幾つも頂きましたが覚醒には至らなかった。答えの本質は料理単体に非ず、とでも申しましょうか」



 求められていたのは料理じゃない。


 それじゃ一体アイツは何を求められていたんだ??



「や、やめろぉ!! 入ってくんな!!!!」


 深緑の髪の女性が顔を真っ赤に染め、訓練着の中で蠢く何かに拳を叩き込む。


「グハハァァアアッ!!! 貴様の腹周りの肌という肌を擽り尽くしてやるわぁ!!!!」



 それを飄々と躱しつつユウの腹、背中へと攻撃を続けている大馬鹿野郎の名を呼ぶ。



「お――い、マイ。ちょっといいか??」


「きゃはは!! 止めて!! 腹が取れるっ!!」


「ん――?? どしたっ??」


 ユウの横腹から深紅の龍の頭がにゅっと出て此方と目が合う。


「聞きたい事があるからこっち来て」


「断るっ!!!! 今はコイツの腹に制裁を加えている所だからね!!」



 左様で御座いますかっと。



「いい加減出て行けよ!!」


「はっは――!! おっせぇ!! お次は……。エライ所を攻撃してやらぁ……」


 ユウの拳をスルリと躱し。意味深な笑みを浮かべた龍の頭が訓練着の中へと消えてしまう。


「も、もういい……。いぃいいい!? あはははっ!! どこ入ってんだよぉおお!!」


 お腹周りを抑えて悶えていたユウの顔が有り得ない程に赤に染まり、お尻の上方辺りをぎゅっと抑え。


「止めろぉおおお!! それ以上……。イヒヒヒィイ!?!? 進むなぁっ!!」



 今度は臀部中央付近に両手を添えて大気を震わす大声を放った。


 あ、アイツ……。


 もしかして、ユウのその……。ま、股の間を移動しているのか??


 俺の悪い予感はどうやら的中してしまったようだ。



「ひぃっ!?」


 ユウが股の前後を両手で隠し。


「はっ……。んんっ!!!!」


 最終的には前を完全に抑えましたからね。


「とぅっ!!!! はっは――。どよ?? 擽り一周の刑は??」


 下の訓練着の中からひょこっと生えた龍の頭が茹蛸みたいに真っ赤に染まり、今も頭頂部からポフンっと湯気を放出しているユウを見上げた。


「早くそこから出ろ!!!! さもないとぉ……」


 ユウの体が細かく震え、緑の魔力が溢れ出すと。


「おっとぉ!! へへっ。遅い遅いってね!!」



 ずんぐりむっくり太った雀の形をした深紅の龍が見事に脱出。


 そして俺の正面に座るアレクシアさんの頭上に留まった。



「はぁ――。楽しかった」


「満足そうで結構。ちょっと聞きたい事があるんだけど」


 満足気に口角を上げているマイへと問う。


「ん?? ユウの密林具合?? 意外とサラサラ……」


「し、し、死ねぇぇええ――――ッ!!!!」



 ユウが陶磁器の湯呑を掴むと同時に咆哮して馬鹿者へと投擲した。



「キャア!?」


 殺意の塊の襲来に驚くアレクシアさんでしたが……。


「ユウ、もっと柔らかい物を投げて下さい」



 カエデが刹那に展開した矮小な結界に触れると、湯呑が乾いた音を立てて崩れ去った。


 今の凄いな……。


 ユウが投げた湯呑よりも素早く結界を展開して、しかもアレクシアさんの顔を守れる最小範囲での大きさだ。


 さり気なく行われた行動に思わず唸ってしまった。



「ちぃっ!! 後で覚えてろよ?? そこの犬コロ……」


「かかって来やがれサラサラ野郎……」


「「うぬぬぬぅぅううっ…………!!!!」」



 小さな結界を挟んで睨み合いを続ける二人を他所に先程の件をマイへ尋ねた。



「なぁ、マイ。お前さんが求められていたのは結局、おじやで合ってたの??」



「あ?? あ、あぁ。勿論よっ。け、結局の所?? ゼンザイは普通の食べ物が好きらしくてさ。質素な味わいに舌鼓を打っていたってぇ訳」


 何だ、やっぱりそうだったのか。


「ふぅん。舌が肥えた方じゃなかったのか」


「そ、そうね!! 庶民の味を好む人なのよ。それもその筈。聞いて驚くなよ?? 何と、私の中に居るゼンザイは九祖の孫だったのだ!!」



 さぁ崇め賜え!!


 そんな感じでアレクシアさんの頭上で翼を左右へピンっと開く。



「ふむ……。何か有力な情報は得られましたか??」


 その仰々しい所作を完璧に無視してカエデが引き続き問う。


「私が得た情報?? 良いわよ、教えてあげる。アリストレアはさ…………」



 興味津々のカエデの表情を優越感で溢れた憎たらしい顔で見下ろし、覚醒へと至る経緯を話し始めた。



 大馬鹿野郎が言うには。



 マイの内に潜む者は九祖が一体の龍のお孫さんであり、八祖に戦いを挑んだ亜人と戦いを繰り広げた。


 そして激戦の後は亜人が守ろうとしていた人間達を守る為の終わりなき戦いへと身を落とす。


 彼女が守ろうとしたのは人の生命とそして人が育もうとした美しい文化。


 傷付き倒れながらも決して戦いを放棄せずに幾万年もの歳月を過ごした。



 そして一人の男性と出会い、恋に落ちた。



 古き時代の人と魔物から恐れられていた方だが、人と変わらぬ恋を交わし愛を育み後の世へ命を残した。


 素敵な人生の形だとは思う。


 だが、短い言葉だけでは表しきれない部分もあるだろう。この短い言葉の中で確かに感じたのは……。



『人の為に戦う』



 この言葉が頭の奥に刻まれ心が陽性な感情に包まれた事だ。


 敵として存在し、幾度と無く戦いを交わした者共を守る立場に立つのは容易では無い。


 様々な葛藤があっただろう。同じ種族から蔑まれた声もあっただろう。


 しかし、彼女は自ら望んで血で血を洗う戦いに身を投じた。



 彼女の活躍を今もまるで自らの武勇伝の様に、口を饒舌に動かして話している深紅の龍とは真逆の御方だ。


 会う機会があるのなら是非ともお礼を申したいものさ。



「――――。ってな訳で!! 第三代覇王のアリストレアは私に力を譲渡してくれたのよ!! いや、私に平伏したとでも言えば良いのか!! わはははぁ――!!」


 この会話も聞かれている事だろうし。後で叱られても知りませんよっと。


「兎に角、お前さんはアリストレアさんと邂逅を成し遂げたんだ。彼女が辟易しない様に精進しろよ??」


 アレクシアさんの頭上で小躍りを続ける龍へ釘を差す。


「へいへいっと。まっ、最強最高の私が精進する必要なんか無いけどね!!」


「後、気になった事があるのですが」



 癪に障る踊りを続けるマイへ、カエデが声を掛けた。



「何々!? あんた達よりも確実に強い私が教えてあげるわよ!?」


「会話の件でアリストレアさんが素晴らしい御方なのは理解出来ました。しかし、おじやを食べただけで聡明な彼女が力を譲渡するとは思えないのですけど……」


「へ?? あ、あぁ。うん。それは、えぇっと……。何だっけ??」



 饒舌だったのが嘘みたいに狼狽え出す。



「こういう時は真面目に話せ。情報の共有は大切なんだぞ」


「うっせぇ!! ん――……。あ、あぁ!! そうだった!! いやぁ――。私とした事が物忘れとは!!」


 俺の言葉を受け、後頭部を二度三度掻いてから口を開いた。


「ほら、ゼンザイは人の料理。即ち、文化を食べて驚いたのよ。んで、私にもその文化を守るために戦えって事を伝えたかったんだって」



 あぁ、成程。


 それは納得出来るな。


 こいつはその特定された文化のみを守る為に注力を尽くしそうだし。



「最初からそれを言え。皆に曲がって伝わる所だったぞ」


「五月蠅いわねぇ。紆余曲折あっても課題を見つけたんだからいいじゃん」


「それもそうだな」



 途轍もなく長い回り道だったけど、終わり良ければ総て良し。


 これにて全員めでたく課題を見つけましたとさ。



「「「…………」」」



 一人納得しつつしみじみと頷いていたが横着な龍の言葉に納得しないのか。


 周囲はしんっと静まり返っていた。



「どしたの??」


 沈黙を決めている者達へ向かって誰とも無しに声を出す。


「ん?? ん――……。なぁんか、釈然としなくてさぁ」


 ユウが首を捻れば。


「だよねぇ。マイちゃんらしくないって感じだもん」


 ルーもそれに続き。


「食欲の権化ですからねぇ。食べ尽くせなら理解出来ますけども……」


「アオイの意見に賛成だ。マイの生活態度に矛盾するぞ」


「それは言い過ぎかも知れませんが……。腑に落ちないのは確かですね。いっその事、拷問してみますか??」



 海竜さんの怖い最後の発言にマイの翼がへなっと畳み落ちた。



「ちょ、ちょっと。私が嘘を付いているとでも??」


 ワナワナと震える声色でユウへ話す。


「いんや。信じてはいるけど、さ。奥歯に何かが挟まったみたいに違和感があるって事だよ」


「噛み砕いて飲み込みなさいよ。これで話しはお終い!!」



 これ以上私は口を開かぬ。腕を組み、口を真一文字に閉じてしまった。


 ここまで長い行程だったけど、皆晴れて力を得た訳だ


 そう……。俺を除く者達。本当、羨ましい限りだよ……。


 自分のどうにも出来ない卑しい気持ちが矮小な針で心を傷付けて来る。


 これは仲間へ抱く想いじゃない。心の弱い俺が情けないんだ……。


 皆等しく晴れ渡った表情で陽性な感情を含めた日常会話が繰り広げられる中、視線の置き場に困っていると。



「朝っぱらから喧しいのぉ――」


 訓練場の方角から師匠が三本の尻尾を揺らしつつ現れた。


「お疲れ様です、師匠」



 座って迎えるのは弟子としては憚れる。気分転換も兼ねて、師匠の下へと若干早足で向かった。



「んむっ!! 殊勝な心掛けじゃ!!」


 これでもかと口角を上げ、素晴らしい笑みを浮かべ此方を見上げてくれた。


「何か良い事でもありましたか??」


 フィロさん達と何か打ち合わせがあると訓練場に向かったのは確か、三十分前位か。


 その間にあったのでしょう。


「ん?? 別に無いぞ??」


 小首を傾げる姿がまぁ、可愛い事で。


「はぁ」


「それより!! これらの予定を伝える!! 訓練場へ移動するぞ!!」


 じゃあ何故ですかと問う前に今もギャアギャアと騒ぐ者達へ指示を伝えてしまった。


「は?? 今日は休みでしょ??」



 ユウの頭上で楽しそうにクルクルと回り続けているマイが話す。


 あれ、どうやって回るんだろう。片足立ちで……。ユウの頭皮に爪を立てているのかな。



「予定以上に早く行程が終了してね?? 翌日からの訓練をどうしようかなぁって考えててさ。それが今し方決まったからそれを伝えようかと思っているのよ」


 師匠の後方からフィロさんがいつもの足取りで向かい来る。


「で??」



 君は実の親にどうしてそんな態度を取れるのかな??


 鼻に付く小躍りを終えるとユウの頭の上でだらんと砕けた姿で母親を睨む。



「母親に対する返事じゃあ、ないなぁ??」


 俺の目の前から消えたかと思えば。


「ぐぶぐっ!? は、離せ!!」


 背後からマイの瀕死の声が届いた。



 すっげぇ……。全く見えなかったぞ。


 瞬き一つの間にマイの背後へと移動して首を掴み上げ、命を枯らそうと万力を籠めて握り締める。


 マイも今回の訓練で物凄く腕を上げたがその更に上を行く速さで襲い掛かり、尚且つ殺気を抑えたまま攻撃を加える。


 何気無い攻撃なのに思わず舌を巻いてしまいましたよ。


 微笑ましい母娘喧嘩を眺めていると。



「お前達に伝える事があるので訓練場に移動じゃ。ほれ、行くぞ」


「ぐえっ!!」



 突如として首に三本の尻尾が襲来。


 俺の意思とは関係無く体が北上を開始してしまった。



「皆さん。イスハさんの後に続きましょう」


 カエデの声を皮切りに皆が重い腰を上げ、俺の両踵が作る轍の後を踏み始める。


「だな――。マイ、どうする??」


「た、助けろ!! こ、このままじゃ……。死ぬぅ!!」


「ユウちゃん、ちょっと娘と話す事があるから先に行ってて??」


「そうですか。了解しました」


 さらりと親友を見捨てましたね??


「そこのサラサラ野郎!! み、見捨てんな!! 友人を救うのが親友の役目じゃねぇのか!?」



 その言動が自らの首を絞めている事に気付かないのかしら??


 物理的にも自業自得的にも首を絞められているお馬鹿な龍を他所に一同が訓練場へと歩みを進める。



「し、師匠。自分で歩けますので尻尾の拘束を解いて頂けますか??」


 意識を失わない様に気道をグイグイと圧迫する尻尾に指を捻じ込み、精一杯の気道を確保して問う。


「喧しい!! お主は儂の言う事を聞いておけばいいのじゃ!!」


「わ、分かりました……」


 三本の尻尾に気道を圧迫され情けなくズルズルと引きずられつつ。


「い、いい加減放せや!!」


「その口調を直したら放してあげるわよ??」


「ぐ、ぐえぇぇぇ……」


 フィロさんの強力無比な指圧によって馬鹿者の魂が頭の天辺から抜け落ち、天へ召される姿を眺めていた。




お疲れ様でした。


この後、所用で出掛けまして。帰宅後に後半部分の編集作業に入りますので。更新時間は恐らく日付が変わる前後かと思われます。


次の投稿まで今暫くお待ち下さいませ。

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