表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
802/1227

第三百十七話 覇王の血脈 その四 ~誰にも言えない私の本当の気持ち~

お疲れ様です。


週末の深夜にそっと投稿を添えさせて頂きます。長文となっておりますので予めご了承下さい。


そして、彼女の本当の想いを見届けてやって下さい。




 ここへ来る前の柔らかい光景とは裏腹に、私の腹の奥をずんっと重く響かせる桁違いの圧を放つ化け物が何も言わず真正面に座っている。


 私は自分から何かを発する事も無く、何を行動する訳でも無く。微妙に五月蠅い心臓を宥めながら只々地面の小さな石を見下ろしていた。



「――――。最高の味、だったわね??」


 無行動且無言の私に痺れを切らしたゼンザイが意味深な言葉を放つ。


「お、おう」


 心の中を完璧に見透かされた言葉を受け取ると地面の上に転がる無害な小石を思わず蹴飛ばしてしまった。


「やっと気が付きましたか??」


「あ、あぁ」



 お、お願い。


 それ以上話さないで。恥ずかしさで憤死しそう……。



「私があなたに求めていた物。それは料理では無く、珍しい食材でも無い。あなたに求めたのは……。甘く、そして時々辛く。苦しいのに……、切なく優しい……」


「も、もういいって……」


「抱き締めたくてもそこに居てくれない。抱き締められたくてもそうしてくれない」


「や、やめなさい……」



 意味深な発言を続ける龍へと懇願する。


 だが、彼女は止める素振を見せる処かより強烈に言葉を発してしまった。



「心の奥に静かに存在する確かな感情が沸々と体を温めてくれる。凍てつく冷風、凍える吹雪でも心の中に存在する温かな心は消せない。数多多く存在する個人。その多くの中のたった一人にだけしか抱かない心」


 あ――もぉ――!!


 止めろぉぉおおおお!!!!


「ン゛――ッ!! ンン――ッ!!!!」


 耳を塞ぎ、地面に俯せて無意味に両足をジタバタと動かして地面を悪戯に叩いてやる。


 こ、これ以上は無理!! 絶対に無理ぃっ!! 体内で煮沸する血液が穴という穴から飛び出してしまいそうな羞恥に一人悶え苦しむ。


 しかし、彼女は私の心の声をスパっと。そして何の遠慮も無しに代弁してしまった。





「様々な感情が存在する中、その感情だけは誰にも覆せない。あなたが彼に抱いた確かな感情。そう、それは…………。恋、よ」





「うるせえぇぇええええ!!!! それ以上喋んなぁあああ!!」


 畜生!!!!


 心の中を見透かされるのは本当に厄介だ!!!!


 心の住人の存在が今ほど厄介に感じた事は無いわよ!!


「他の誰でも無い、あなただけに優しい料理を提供してくれた。そして、あなただけに笑みを与えてくれた。先程の温かい光景の中で自覚したでしょう??」


「知らんっ!!!!」



 耳を塞ぎ、一切の聴覚を遮断するが。



『嘘仰い。ニッコニコだったじゃない』


 念話で容赦ない言葉を叩きつけてきやがった。


「ふ、ふんっ!! ま、まぁっそれはさて置き。これで課題に対する答えを見つけた訳よね??」


 土臭い地面に唇をムチュっとくっ付けて話す。


「はい。あなたは私が与えた課題の答えに気付いてくれました」



 気付いたって言い方止めない??


 いや、見つけたでも駄目だけど……。



「んで?? ゼンザイの力を貸してくれる資格に見事受かったって訳か。お次は何?? 山みたいに馬鹿デカイおにぎりを食べろって課題かしら」


 それなら何年かけても、いや。寧ろ永遠に取り組んでいたい課題ね。


 土臭い地面からふいっと面を上げる。


「私が羨む課題をあなたに与える訳にはいきません。この手に、あなたの手を重ねなさい」


 私の体よりも大きな龍の手を此方に向けて差し出す。


「それだけ??」


 地面からぱっと立ち上がりゼンザイの手に近付く。


「今はほんの僅かだけ。ですが、時間の経過と共に力が馴染んでいくでしょう」


「これから長い人生になるけどさ。宜しくね!!!!」


「ふふ……。波乱万丈な船旅になりそうです」



 私の手とゼンザイの手が重ね合うと周囲の景色が霞む程の光量が放出され、思わず目を閉じてしまった。


 そして、それから僅かに遅れて血がこれでもかと沸き立つ。



 こ、これは……。



「あなたに私の力の欠片を譲渡しました。それはとても小さい物。私の力に貴女の体が馴染んでいくにつれ、譲渡出来る力も大きくなります」


 すっげぇ……。


 力を出していないのに以前の私より数倍上の魔力じゃない。


「あなたは彼に恋をし、そして彼と彼が居る世界を守ると決めた。本当に温かい感情を抱いてくれたお礼ですよ」


「恋云々はさて置き、成長した文化を守りたい気持ちは確かね」



 文化は文化でも、料理という限定的な文化ですけども。



「それ、でさ」


「うん?? 何よ」



 体から滲み出るすんばらしい魔力を見下ろしつつ言葉を返す。


 今ならあのクソ婆にも勝てんじゃないか??


 漲る力を持って突撃してぇ、私の速さについて来られずビックリした顔に剛拳を捻じ込む。


 立ち上がる事さえも許さぬ強力な攻撃を受けたクソ婆は参りましたと目に涙を浮かべて敗北を宣言するのだ。


 生涯全敗を喫している化け物の泣きじゃくる姿を想像していると思わず耳を疑う発言がドデケェ龍の口から発されてしまった。



「え、っとね。告白とかするのです??」


「ブブッファっ!?!? は、はぁ――?? 突拍子過ぎんだろ!!」


「あ、いや。この手の会話は早々出来ませんので……。この機会を逃したら直接聞けないかなぁっと」


 私の感情は理解出来るけど真心を込めた言葉までは理解出来ないってか。


「告白、ねぇ……」


 自分の立場になってその様な行動に至ろうとした事が無いから今一理解出来ないのが本音だ。


「向こうに帰ったら直ぐするの??」


 嬉しそうに尻尾をブンブン振るな。


「う――む…………」


 再び視線を地面に落とすと腕を組み、自分の思考を完璧に纏めてから口を開いた。













































「告白は……………………。一生しない」


「えぇ!? どうしてですか!?」


 うるさっ!!


 口がでけぇんだから大きな声で叫ぶな!!


「絶対に告白はしない。私は……。アイツをこっちの世界に引き込んでしまったからね。アイツが私と出会わなかったら人間のままだった。アイツが私を庇わなかったら、人として普遍的な人生を歩んでいた」



 告白をしないじゃあなくて。


『出来ない』 だ。


 私にはその資格も権利も与えられていないのだから。



「私はアイツが戦わなくていい世界にする責任があるのよ。どうしてかって?? 異能の存在にしてしまったのは他らなぬ私だから。アイツの事を殺めようとする者が現れたのなら、全力でぶっ倒す。憎しみに囚われてしまい体が制御不能に陥ったのなら、命を賭してでも救ってやる。私の役目は……」



 大きく息を吸い込みそして、少しだけ悲しみを混ぜた息を吐き出した。



「――――。アイツが残りの人生を笑って過ごせるようにする事よ」



 そう。これが私の役目だ。私に与えられた贖罪とでも言うべきかな。


 アイツがこれから人に残され続けて歩んで行く人生に比べれば遥かに軽い罪。でも、私は罪を背負う責任があるの。


 アイツの前に敵が現れたのなら蹴散らしてやる。膝を抱えて苦しむ様な憎しみに囚われたら誰よりも先に手を指し伸ばして救ってやる。悲しみの雫を零すのなら指を差して大笑いして愉快な雫に変えてやる。



 決して折れぬ事の無い天下無双の最強の槍。



 私がアイツに出来る事と言えばこれだけだもん。



「その問題は以前解決したじゃないですか。ほら、あの泉で」


「確かにアイツは気にしていないと笑ったけどさ。私にとってそんな事はどうでもいいのよ。与えられた役目、ううん。責任は重大なの。アイツはもう人として生きられない。人と同じ時間を過ごせるけど、人はアイツを一人残して逝ってしまう。自分が変わってしまった悲しみで顔を歪めるアイツの顔は見たくない。それなら……」



 自分でも知らず知らずの内に瞳の中から悲しみの雫が湧いて来てしまう。



「だ、だから私は……。ヒグッ……。私じゃあない、他の誰かと幸せに……。ウゥ……。他の誰かとぉ……。し、幸せになって貰えるのなら……。それでいい。私は、私には……。アイツを幸せにする権利は無いのよ……」



 苦しい……。胸が引き裂かれそうに痛い……。


 頭の中がぐちゃぐちゃで、胸の中がドロドロに淀んで苦しい……。


 こんな事なら気付かなきゃ良かった。知らなければ良かった!!!!


 永遠に湧き続ける悲しみの雫が視界を揺らし、力が抜け落ちた足から地面へと崩れ落ちてしまう。



「何で……。私と出会っちゃったのよ。何でぇ!! 私以外の女が居るのよ!! もう嫌だ……。ウゥゥ……。嫌だよ……。こんな糞ったれな想いなんかいらない!! 苦しい想いはイヤ!!」



 両手で顔を覆い世界からの拒絶を図るが。


 頭に浮かんでくるのはアイツのいつもの明るい笑み、優しい声、そして温かい眼差し。拒絶すればする程それは強烈に光り輝いてしまう。



 ユウは彼を独占出来る資格がある。


 カエデは近くから彼を支える役割がある。


 蜘蛛はアイツを心の底から愛する事が出来る。


 ルーとリューヴは彼と共に残りの人生を疾走出来る。


 アレクシアはアイツを優しく抱き締める権利がある。



 でも……。でも!!!! 私だけは何の権利も資格も与えられていないんだ!!


 畜生……。何でこうなっちゃったのよ……。


 どうして私だけが温かな想いを与えちゃ駄目なのよ……。



「あなたは……。優しいのね」


 ゼンザイが優しく私の頭を撫でる。


「止めろ!! 同情なんか要らない!! 私は、私は!! 与えられた責任を全うすればいいだけなの!!」



 彼女の手を跳ね除け自分だけの殻で外界を遮断するが、それでもアイツの顔と優しいゼンザイの口調は消える事は無かった。



「あなたは本当に優しい子。彼もきっとその事に気付いている筈です」


 そんな事無い。アイツは私なんか……。


「そう思うのはあなただけですよ。オホンっ。いいですか?? 今から話すのはとある女性の人生の中で起こった一つの出来事です」


 鼻を啜り、ゼンザイの言葉に耳を傾ける。


「その女性は大変強く人から神に等しき存在として崇められていていました」


 それって……。



「彼女は人の為に戦い、傷つき。それでも尚戦う事は止めませんでした。それはまるで己の罪を償う様にも見えました。幾千、幾万年戦が続き。そんな中、彼女はとある大陸で一人の男性と出会います。彼は彼女に食事を与えました。文化が成熟した現在ではとてもじゃあないですが、料理と呼べる代物ではありません。ですが、彼女にとってそれは……。どんな料理よりも温かく、そして嬉しい味でした」



「それから彼女は彼と良く会うようになります。今まで戦った敵、採取した果実。敵を穿つ魔法、農耕の技術。二人が話す会話は種族、そして立場により対極的な話題ばかりでしたが。日が傾き、朝日が昇っても途切れる事は無く続きました」



 嬉しそうに話すわね。



「ですが……。幸せな時間はいつまでも続きません。彼は人であり、悠久に続く彼女の時間軸とは別の時間軸で生きる者ですから。彼女は……。ふぅ」



 一つ大きく息を漏らし、そして再び口を開いた。



「彼女は……。彼の為を想い彼と別れました。彼の生きる大陸とは別の大陸へと渡り、戦いの中に身を投じます。激しい戦火に身を投じても、彼への想いは消える処かより強烈に光り輝きます。体を打たれ、翼を穿たれても痛みは感じませんでした。只、胸を締め付ける感情だけは決して消失しなかったのです」



 蹲っていた顔を上げてゼンザイの顔を見上げると。


 深紅の瞳の端っこに僅かな液体が浮かんでいた。



「彼と別れて数年経ち。無味無臭な人生をこのまま過ごそうと決めた時、聞き覚えのある声を彼女の耳が捉えました。澄んだ空気が漂う山の頂上、そこで目を醒ますと……。彼が満面の笑みで彼女の前に立っていたのです。彼が言うには」


『神龍様に会いたくて、御声を聞きたくて。海を渡り、激しい戦火を潜り抜けて参りました。どうか……。どうか!! 私の残りの人生を受け取って下さい!!』


「そう叫び終えると、長旅で疲れ果てたのか。眠りに落ちてしまいました。そして彼女は彼の体を大切に抱き、彼女は彼の要望に応える為。彼が命を散らすその時まで寄り添うのでした」



 ゼンザイが話し終えると同時に彼女の体から強烈な光が迸る。



「そう……。私は間違っていたのです。彼の為にと行っていたのは間違いで、彼を想い留まるべきだった。私の場合は幸運でした。彼と再び心を交わすことが出来たのだから……」



 光が収まりその中から現れたのは一人の美しい女性。


 赤を基調とした上着と純白のドレスにも似た長いスカートを着用しているが。それよりも彼女の美しい髪に目を奪われた。


 背の中央まで伸びた深紅の髪が揺れると炎の揺らめきを連想させ、温かな火色の瞳が私を優しく捉える。


 彼女が小さく口角を上げると心のしこりが溶け落ちてしまう感覚に囚われてしまった。



 あれが……。ゼンザイの人の姿。



「私は彼と出会い恋を知り。彼と分かれて感情の痛みを知った。そして、彼と再び出会い。愛を知った……。似ていませんか?? 私達」


 私の横に座り、全てを包み込んでくれる口調で話す。


「そうね。似ているとは思う」



 仲間であったであろう亜人を倒してしまった、そして亜人の仲間を傷付けた罪を償う為に戦った。


 私はアイツを守れなかった、そしてアイツを変えてしまった。私はアイツを変えてしまった罪を償う必要がある。



 ゼンザイは贖罪の為にと戦っていたが彼はそれを望んでいなかった。残された人生をゼンザイと共に。それが彼の願い。


 私はこれからアイツの為に戦う必要がある。しかし、これはアイツの望みなのかは定かでは無い。



 似ている境遇だがゼンザイと私には大きな違いがある。



 ゼンザイの彼は人としての時間軸で限られた時間の中で彼女と共に過ごす。


 そしてアイツは…………。



「――――――。あっ」


「ふぅ――。漸く気付きました?? あなたは彼と同じ時を過ごせるのですよ?? 私にとってそれがどれだけ羨ましい事か」


「で、でも!!!! 私は考えを曲げる気は無いわよ!!」


「強情なのは構いません。いつか……。そう、いつか。彼に想いの丈を叫べば彼は受け止めてくれるでしょう。彼は優しく、そして海よりも深い心の持ち主です」



 そ、そんなに褒める必要あるのかしら。


 ま、まぁ。悪い気はしないけど……。



「わ、わ――ったわよ!! アイツが……。笑って過ごせる世界にした後!! もう疑いように無い位に平和になってからだな?? えっと……。その……。あぁ、うん。ちょいちょいっと?? 言ってみようかなとは思う、ぞ??」



 ちっくしょう。


 顔が熱くて破裂しそうだ。



「それで構いません。その時まで温かい想いを育めばいいのですから」


「そ、そうね。――――。はぁぁぁぁっ!!!! すっっきりしたぁ!!」



 何だ、こうやって誰かに叫べば良かったんじゃん。


 地面へと豪快に仰向けになり微かに残る雫を手の甲で拭ってやった。



「あなたは意外と繊細な心の持ち主ですからねぇ。宥める此方の身も考えて下さい」



 おっ?? 何々??


 私が女々しいって事??



「そうです。恋を認めたいけど、認めたら彼への想いを閉ざさなきゃいけない。これを聞いて女々しいと思わない人は居ませんよ。良いですか?? 恋は人が持つべき感情の一つであり、誰にも止める権利は無いのです」


「いや、もう分かったから止めてくれ」


「いいえ、あなたにはここで口を酸っぱくして言っておかないと蒸し返す恐れがありますからね。彼の身を案じるのは素敵です。しかし、恋を譲るのは認めません。好きな人に恋心を抱いて何が悪いのですか」



 だから止めろって!!


 体があっちぃの!!



「向こうの世界に戻ったら彼の顔を見てこう述べるのです。あなたが、好きだと」


「ふっざけんな!! 私の話、聞いてた!? 世の中が完璧に平和になってから話すかも……。って言っただろ!?」



 ガバっと跳ね起き、ゼンザイの肩口に拳を捻じ込んでやった。



「ふふ、可愛い拳ですね」


「ちっ。――――。おっ、にしし!! じゃあさぁ、恋の大先輩にぃ?? 聞きたいんだけどぉ」


 今しがた浮かんだ妙案を聞いてやろう。


「どうしました??」


「んっふ――。ほら、あのカッコイイあんちゃんとぉ。どんなお出掛けしたのぉ――??」



 私がそう話すと。



「……っ」



 ポッと頬を赤く染めてしまった。


 うっしゃあ!! 弱点み――っけ!! 反撃開始ぃ!!



「話す必要はありません」


 プイっとそっぽを向いてしまう。


「ほっほ――?? 恋云々とかさぁ、偉そうに説いてくれたけどぉ――。自分に挿げ替えたら話せないときましたかぁ」


「知りません」


「山頂で美味そうにおにぎり食べてたけどぉ。あれは何処の山ぁ??」


「忘れましたっ」



 はい、嘘――。


 体全体が真っ赤に染まって、嬉しそうに震えているもんねぇ。



「でさぁ、私が生まれている以上。血筋が今でも続いている訳だしぃ?? あのあんちゃんと何発かぶちかました訳だ!! 子供は何人生まれたのぉ??」


「さ、さ、さ、さ、三人です」



 あら、これは正直に話すのね。



「うひょ!! 結構ポコポコ生んだんだ!! どれが一番気持ち良かった??」


「い……」



 い??


 一番初め、かしらね??



「いい加減にしなさい!!!!」


「ぎぃやぁぁああっ!?」



 ゼンザイが此方に振り向くと同時。とんでもない拳が顔面に向かって飛んで来やがった。


 躱す余裕も無く無慈悲にそして暴力的な圧を右目に受けてしまった。



「何すんのよ!!!!」


 かなり離れた位置から上体を上げて叫んでやる。


「ひ、ひ、人が大人しく聞いていれば!!」


「大人しく!? 顔面ぶん殴っておいて、大人しいはおかしいだろうがぁ!!」



 受けた痛みを数倍して返してやる!!


 食らえ!! 新たなる力を得た私の力を!!!!


 拳をこれでもかと握り、端整な顔に向けて放つが。



「いいですか!? あなたの為に私が態々説いてあげたのですよ!? 少しは感謝しなさい!!」


「あぐえ!!」


 完璧に見切られ、お返しですよ言わんばかりにうちのクソ婆の数倍の威力の拳を返しやがった。


「うぐぇ……。ちくしょう。やっぱりまだ力じゃ勝てねぇか」


「勝とうと思う方が烏滸がましいのです。私は三代覇王なのですから」



 ――――。


 はい??



「え?? ちょっと待った。ゼンザイって、九祖の一体の龍の孫なの??」


「そうです!! 自己紹介が遅れましたね。私は……」


 コホンと一つ咳払いすると。




「業火を従えし神翼。アリストレア=フォーロング。他種族からは第三代覇王とも呼ばれてしました」




 澄んだ瞳と口調で私を正面で捉えて名を告げた。



 すっげぇ。そんな昔のあんちゃんが私の中に存在していたのか。



「あんちゃんじゃありません。名を教えたのですから、名で呼びなさい」


 ふんっと鼻息を吐き、仰々しく腕を組んで凛然たる姿で立つ彼女が話すが……。


 ここで認める私では無い。


「はいはい。気が向いたらね、ゼンザイ」


「なっ!? ま、またあなたと言う人は!!!!」



 再び攻撃姿勢を取るが。



「だははは!! 逃げるが勝ちってねぇええ!! あばよぅ!! アリストレア!!」


「マイ!!!! 待ちなさ……。あ……」



 己の名前を呼ばれた刹那、ゼンザイの頬が赤くぽっと染まった。



「お?? 恥ずかしむ顔、結構可愛いじゃん。その顔であのあんちゃんを堕としたのか!!」


「し、知りません!! ほら、早く帰って彼を安心させてあげなさい!!」



 あ――あ。拗ねちゃった。


 まっ、これ以上ここに居たら命が危いので?? 帰るとしますか。それに……。おじやも食べかけだったし。


 私は目を瞑り頭上から射す一筋の光へと向かって手を伸ばした。














 ――――。




「お、おい!! 大丈夫か!?」


 もういい加減聞き飽きたけど、いつまでも聞いていたい声が私の直ぐ近くから届く。


「起きろ!! や、やばい。全然起きないしどうしよう……」



 慌てふためき私の身を案じる彼の心が今は本当に嬉しい。


 このまま狸寝入りを続け、コイツの心を独占してやろうかと考えていたが……。



「――――。よっ、はよ」



 私は卑怯者では無いので正々堂々、目をパッチリと開けて挨拶を交わしてやった。



「マイ!! 無事だったのか!?」


「無事?? それ、どういう……。ム゛ォッ!?」



 どういう意味だと問おうとして、今の私がどんな状況に置かれているのかを把握してしまう。


 私はどうやらおじやを食している最中に気を失ったようだ。うむっ、それは覚えているが……。


 問題は今現在の状態だ。



 私の身を案じたのか。


 コイツはどういう訳か、私の身を案じて優しく抱き抱えてしまったらしい。今もすっぽりとコイツの腕の中に収まっているのが良い証拠だ。


 項に感じるボケナスの体温、私の体勢が崩れない様に優しく右手を添え本当に優しい瞳で私の目の奥を見つめる。



「良かった……。いきなり気を失ったから心配したんだぞ??」


「お、おぉ。わりぃわりぃ……」



 先程の一件もありコイツの顔を真面に直視出来ない為、ちょいとそっぽを向いてやった。


 いつもなら。


『触んな!!』


 そう言いつつ顎を跳ね上げてやるのだが……。


 如何せん。己の気持ちを認めた後だ。私も一人の女。偶には、そう!! 偶には!!


 身を委ねてもいいとは思う訳なのだよ。



「はぁ――。でも、良かった。気が付いてくれて」


「私が気を失ってから何分経った??」


「えっと……。一分位かな」


「一分!?」



 うっそだろ!? アリストレアとの会話の時間から考えてもっと長い時間が経過したと思ったのに。



「大きな声出すなよ。まだ皆寝てるんだから」


「あぁ、そっか」


 上体を起こそうにも力が入らねぇし。このまま二度寝でもしようかな。


 ここ、すっごく心地良いし。


「どうやら課題を見つけたみたいだな」


「ま、まぁね。ってか、何でその事知ってるのよ」


「何でって。今の自分の力、分からんのか??」


「ほ?? おぉ!? 凄い!! 体からビンビン溢れているじゃない!!」



 ふと己の体を見下ろすと、体内から深紅の魔力が滲み出て大地へ零れ落ちている姿を捉えた。



「目もいつもより更に真っ赤だぞ」


 あ、そりゃ分からん。視界はいつも通りだし。


「精神の世界で何を言われたか知らんけどさ。お前さん、泣いていたぞ」


「泣いて?? あ――……。まぁ、色々とあったからね」


 己の右目の端に手を添えると、コイツが話した通り未だ乾いていない雫の欠片を感じ取った。


「相当酷い目に遭ったみたいだな。今は大人しくしてろ」


「う、うん。ありがとう……」


「まだ乾いていない、か」



 ボケナスがそう話すと、右手の人差し指で私の目元を優しく拭ってくれる。



「うん。これでいつも通りだ」


「……っ」


 嬉しい反面、超絶怒涛に恥ずかしい気持ちが体内の温度を更に沸騰させてしまった。


「はは、茹でた蛸みたいに顔が真っ赤だな」


「う、五月蠅い!! は、離せ!! 私は大丈夫だ!!」


「そう言いなさんな。偶にはゆっくり休めって」


「こ、このぉ!! は、はれ……。ち、力が抜ける……」



 ぶん殴ろうとした右手がだらりと下がり、そして猛烈な眠気が襲い掛かって来やがった。



「覚醒した皆は負荷に耐えられ無くて眠っただろ?? お前さんもそのままゆっくり寝てろ」


「ちぃっ!! わ、私は……。その辺りの、ざ、雑魚と違うのよ……」


 やっべぇ。


 瞼が滅茶苦茶おめぇ……。


「強情な奴め」



 仕方が無い奴。そんな顔で私を見下ろす。


 このまま眠りに就いても構わないのだが……。ふと、自分の体より心配な出来事が脳裏を過った。



「あ、あのおじや……。誰にも食べさせない……。でよ?? 私の物なんだ、から」


「ふ……。あはは!! この期に及んで食い物の心配かよ!! あ、あぁ。安心しろ。残してやるから」


「わ、笑ったわね?? 起きたら覚えて……。おけ……」


「おやすみ、マイ」



 彼が優しく私の頭を撫でた。


 それを合図と捉えたの、私の意識は白い靄の中へと包まれて行った。


 お、起きたらおじやと。朝飯、だ。


 夢の世界へと向かう前に、しっかりと味の妄想をしてしまうのは我ながら少しだけ笑えてしまう。


 でも、これが私なんだと認めてしまう自分もいる。


 沢山の私。そして私の中にいる馬鹿みたいに強い住人。


 いつか、そういつか……。全てに決着を付けたら全員の私に向かって指を差してこう言ってやろう。



『ど、どうだ!? ア、ア、アイツに告白してやったぞ!!!!』 と。



 羞恥に染まった真っ赤に燃え滾る己の顔を想像しながら、沢山の御馳走ちゃん達が両手を広げて迎えてくれる素敵な夢の世界へと旅立って行ったのだった。



お疲れ様でした。



祝!! 八百部突破記念としてこの御話は少しだけ特別仕様とさせて頂きました。


いやはや……。更新実行ボタンを何度押そうかどうか迷った事か。後書きを書き終えてから恐らく十分以上経過してボタンを押していると思います。


それだけこの話は載せるかどうか迷いましたね。


間も無く連載開始二年を迎えるのですが、連載当初から一緒に行動し続けている彼女の想いを書くのは本当に骨が折れました。


誰よりも沢山食べて皆に迷惑を掛け、破天荒な性格が問題を呼び込み、更には燥ぎ過ぎて彼の顔面に吐瀉物を撒き散らす始末。


そんな彼女も一人の女性。普遍的な感情を持つのは当然の事であって彼に想いを寄せるのは当たり前の権利です。


様々な葛藤の末に彼女は彼が居る世界を守ると決めてくれましたが、本話で登場した完全完璧に平和になった世界はまだまだ先の御話で御座いますので……。


彼女の真剣な言葉はその時に聞いてあげて下さいね。



そして今週末の投稿予定なのですが、番外編か本編を一話更新出来たら良いかなと考えております。


ちょっと洒落にならない程に背中が痛んでおりますので……。



それでは皆様、良い週末を過ごして下さいね。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ