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第七話 作戦の説明だっ!!

ごゆるりとお楽しみ下さい。




 犬の散歩中、時折足を止めて不退転の姿勢を保つ犬を引きずる飼い主。

 その犬とほぼ同じ状態で引きずられつつ廊下を進んでいると。


「ここがあたしの部屋だ」


 ユウが足を止め、大きい扉を開く。

 それを見て、漸く解放してくれた御主人様の後に続き部屋にお邪魔した。



「へぇ!! 意外と綺麗にしてあるじゃん」


 正面に若干傷が目立つ箪笥、右奥に大人四人が寝そべっても十分御釣りが来る大きさのベッド。

 左側には四角い机と二つの椅子。



 簡素な作りの部屋であるのだが……。


 少々汚い気もする。


 床に捨て置かれた脱ぎたてのシャツ。ベッドに腰を落としてだらしない恰好で休んでいるズボン。

 洗い立て且干したての洗濯物だけは左側の机の上にキチンと畳まれて置かれていた。



 初めて女性の部屋に足を踏み入れるので、これが綺麗なのか汚いのか判断出来ん。



「まっ、何も無い部屋だけど。寛いでくれ」


 床に置かれているシャツやらズボンやらを適当に手に取り、それをベッドの一角へと放る。



 畳まないのだろうか……。



 訓練施設では服の乱れに厳しく指摘されていたので、普段から衣類に関しては注意を払っていた。

 何でも??

 着衣の乱れは心の乱れに繋がる、だそうな。


「畳まないの??」


 椅子に座り、今も作業を続けている彼女へ問う。


「後でやる――」


 左様でございますかっと。


「こっちは綺麗に畳んであるのにねぇ……。ん?? んん!?」

「あ――。それは、母上が置いてくれた奴だよ。あたしが出掛けている間に……。っ!!」



 ユウがぎょっとして目を見開き、正面に座るマイを見つめる。

 何事かと思い、彼女の視線を追った。



「う、わぁ。すっげぇ……。これ一個で何人分の胸を収める事が出来るのやら……」


 呆れと驚愕の狭間の声色を放ち、鮮やかな緑が目立つ女性用の下着を手に取り。

 自分の胸にあてがう。


「ねぇ!! レイド、見てよ!! これ、多分西瓜を運ぶ布よ!!」

「絶対違います。後、見れません……」



 両手で顔を覆い、愚か者へと言ってやった。



「な、何すんだよ!! 返せ!!」

「あぁっ!! いいじゃん、別に!! 遊ばせてよ!!」


「ひ、人様の下着で遊ぶんじゃねぇ!!」


 木の床の上を動き回るけたたましい足音。


 時に小さな足が俺の頭を踏んづけ、何処かへと飛翔し。

 時に何かが乾いた音を立てて壊れる音が響く。



 このままじゃ埒が明かない。

 そう考え、顔から両手を放して口を開いた。



「ユウ、そろそろ作戦の説明を聞かせてくれるか??」

「んぎぎ!! 放せぇ!!」

「おっ、そうだったな。へへ、忘れてたよ」



 でしょうね。

 小さな龍と下着を引っ張り合っている姿を見れば誰だってそう考えるだろうさ。



「えぇっと。地図は何処に置いたっけなぁ――」


 下着を取り返し、箪笥の中に仕舞ってお目当ての物を捜索する。


「くっそう。馬鹿力め!!」


 はぁはぁと肩で息をしながらマイが机の上に着地した。


「力じゃ勝てないって。俺の手、握りつぶされるかと思ったもん」

「あんたが非力なだけよ」



 平均以上、化け物以下だと思うんです。

 客観的な判断ですけども。



「お待たせっ!! 早速説明しようかな!!」


 ユウが周囲の森の様子を書き記した地図を机一杯に広げた。


「今、あたし達はココ。里に居る」


 彼女が指差した位置には大きな丸。


「此処から真西、北西、真北。三方向にオーク共の群れが待機しているんだ」


 奴らの居場所を分かり易く説明する為、奴等の目安となる代わりにコップやら本やらを三か所に置いた。


「……。待機、か」



 此処でふと疑問が湧いてしまう。



 アイツ等は敵、つまり俺達人間を発見次第。明確な殺意を持って襲い掛かって来る。

 一体につきその戦闘能力は、武器を持った大人の半分程度なのだが。問題なのはその数と狂気性だ。


 群を成し、出鱈目に襲い掛かって来る姿は屈強な戦士でさえも恐れを抱く。


 だが、向こうは統率が取れていないのでこちらの戦術如何では圧勝を収める事も可能だ。


 頭の中が狂気で埋まっている奴等が『待機』 している。


 つまり、誰か。若しくは何かがそうさせているのか??


「お、気付いたか」

「まぁね」



 流石。

 そんな顔を浮かべているユウに話す。



「何に気付いたのよ」


 机の上でちょこんと座る龍が口を開く。


「アイツ等は統率が取れないんだ。だけど、今現在。各方面で待機している」


 これで分かったか??


「あぁ、命令に従っている感じなのね」


 そういう事です。


「誰かがこの部隊を率いていると父上と母上が睨んで。里を包囲している部隊の後方に位置するであろう本部を見付けに、あたしが偵察に出発したんだよ」


 ユウが態々危険を冒してまで偵察に向かったのはその理由か。


「奴らの本部は、この北西部隊の更に奥。丁度、この辺りに位置している」


 北西部隊の位置から、更に北西へ向かった先に……。


「物が無いや。レイド、何か置く物ある??」


 はいはい。


 部屋の片隅に置いた自分の背嚢の中に手を突っ込み、墨が入った硝子の小瓶を手に取って戻った。


「これが、この里を包囲している部隊の全てだ」



 こうして俯瞰して見ると、よくもまぁ敵に会敵しなかったな。

 運が良いと言うべきか……。



「じゃあ私達が叩き潰したのは別動隊、若しくは哨戒中の部隊だったのかしらね??」

「その可能性が高いかもな」


 最悪、北への侵攻を予測した偵察部隊って線もあるけど。

 敵の意図が分からぬ以上、机上の空論に過ぎない。今は目の前の部隊を叩く事に集中しよう。


「じゃあ、明日から開始される作戦の内容を発表する!!」


 ユウがコホンと一つ咳払いをして、口を開いた。


「明日、夜明けと同時にあたし達三人は里を出て南へと出発。深緑のオーブを使用し、茨の森を越える。そして、抜けた先の森を西進」


「つまり……。相手の背中側を通って、本部へ急襲を仕掛けるのか」


 ユウの手元を目で追いつつ話す。



「そ。父上と母上は本部に居る奴がこの部隊を指揮していると睨んだ。蜥蜴の尻尾を叩くよりも、一気呵成に頭を叩き割った方が早いと考えたんだろう。日が最も高くなる時間に父上達は部隊を展開。各方面の敵と開戦する。 あたし達の仕事はそれまでに敵の親玉を倒す事だ」



「時間との勝負ね」


 マイがふんふんと頷く。


「その通り。指揮系統の乱れに乗じ、一気に殲滅する。まっ、ぶっちゃけそれが無くても勝てる算段はあるんだけどさ」


「と言うと??」



 この戦力を一気に壊滅させる乾坤一擲の作戦が他にもあるのかな??



「あんた、あの二人を見ても分からなかったの??」


「父上は……。大魔の血を引く魔物だからね」

「大魔??」



 また新しい単語か。



「魔物にも色んな種類がいるのよ。その中でも頭一つ飛び抜けて強い力を秘めているのが、大魔と呼ばれる魔物なの」


「えっと、じゃあ。ボーさんとフェリスさんは大魔の力を宿していて、ユウはその力を受け継ぐ者で合ってる??」


 恐らく、そういう事でしょう。


「大魔の力を宿しているのは父上だけどね。あの二人がここに居る限り、滅多な事は起こらないさ」


「――――。だから、里に居る皆さんの顔も何処か安心していたのか」



 周囲を化け物に囲まれているのに、部外者を招き入れる。

 窮地に陥っているというのに、朗らかな挨拶を送ってくれたのはそういう事だったのね。



「偵察の本来の目的は、どうして統率が取れているかを確認する為だったんだ」


 ボーさんとの会話で言っていた証拠云々の話か。


「それで?? 何か掴めたの??」


 マイが腕を組みつつ、ユウを見上げた。


「女が一人と、そこを守るオークが数十体。何故、統率を取れているのかは分からなかったな」


 相手の戦力が分かるだけでも十分な戦果だろう。

 只。

 何故統率が取れているのか。その点に付いては疑問が残る形だな。


「じゃあ俺達は、夜明けに出発して。敵に見つからない様に進軍。正午までにその女を倒す事だな」


 言うだけ簡単そうに思われるけど……。


 敵の目を掻い潜って突撃を仕掛けるんだ。

 相手も馬鹿じゃないんだし、かなり神経を使いそうな作戦になりそうだ。


「楽勝じゃん!! 私に掛かれば、どんな強敵もあっ!! と言う間に滅してみせようぞ」



 君の楽観主義が羨ましいです……。




 地図の上でもう勝利を収めた所を想像したのか。

 グンっと右腕を仰々しく掲げている龍に呆れていると。




「ユウちゃん、入っていい??」


 フェリスさんの声が扉越しに届いた。


「良いよ――」

「失礼するわね――。あらっ、もう説明終わっちゃった??」


 御盆を右手に乗せ、柔和な笑みを浮かべてユウを見つめる。


「うん、今しがた」

「そっかぁ。時間が掛かるかと思って御茶菓子を用意したんだけど……」



 茶菓子。

 その言葉に深紅の龍の翼が反応してしまった。



「茶菓子ぃ!? 食べるっ!!」


 フェリスさんが持つ盆の上に颯爽と降り立ち。

 目に優しい茶色の焦げ目が目立つクッキーの香りをフンフンと嗅ぐ。


「あのな。御厚意で用意してくれたのに、その態度は駄目だろ」


 横着な龍へと話す。


「ふふふ。私は構いませんよ??」

「申し訳ありません……」


 彼女の代わりに謝意を述べた。


「休憩を兼ねて、宜しければ召し上がって下さいね」


「それじゃあ……。頂きます」


 机の上に置かれたクッキーを一つ摘まみ、何気なく口へ運んだ。



「――――。うんっ!! 美味しいです!!」



 前歯でサクっと寸断すると、優しい香りが口内に広がる。

 そして、奥歯で咀嚼すれば疲れた体に優しい甘味を感じてしまう。


 少し甘味が強い分、それを補う為に敢えて焦がしているのか……。

 よく考えて作ってあるな。


「ふぁらぁん……。甘くてぇ、素敵ぃ……」


 龍の舌も御満悦。

 頬を赤く染めて、幸せの咀嚼を続けていた。


「食事の時間までもう少し掛かるから、ユウちゃん達は御風呂に入りなさい」

「別に入らなくても良いんじゃない??」


 クッキーを摘まみつつユウが話す。


「あのね。男の子が居るのよ?? 女の子は身嗜みが大切なの。それに……。ユウちゃんちょっと汗臭いかも」

「あ――。そうかもね――。こう……。フンフン……。独特な匂いがするし??」


「勝手に嗅ぐな!!!! 分かったよ!! これ食べてから入るから!!」



 匂いを嗅いでいた龍の翼を摘まみ、フェリスさんの方向へと放る。



「そうしなさい。マイちゃんも一緒に入ったら??」


 フェリスさんの胸元へと華麗に着地を決めた深紅の龍へと視線を落とす。


「体を温めて、しっかりとお腹を空かせてから御飯を食べた方が美味しいかも」

「腕を揮ってお待ちしていますね」



 マイの頭を指先で撫でつつ話す。



「まぁ、うふふ。本当に可愛いわねぇ」

「お、おぉ。そりゃどうも……」


 一つ撫でれば踝まで胸の合間へと沈み。


「私、可愛いものに弱いのよねぇ」


 二つ撫でれば膝まで沈む。


 このままだと、アイツの体は後数回であの肉の合間へと吸い込まれてしまうだろう。


「あ、あのさ。も、もういいんじゃない??」


 己の足元の異常事態に気付いたマイが顎をクイっと上げてフェリスさんへと話す。


「だ――め。もう少し撫でさせて??」


 さてと。

 俺はもう一度作戦の内容を頭に叩き込もうかな。


「い、いや。ちょっと!! 止めて!! 沈む!!」

「ふふっ。可愛いっ」


 底なしの肉の沼へと沈み行く龍を優しい瞳で見送り、地図へと視線を落とす。


「ヴァ!? ヴァニゴレ!?」

「あっ、もう……。暴れたら駄目ですよ??」


 妙に艶のある御声を無視しつつ、煩悩を振り払い。

 敵の位置、並びに周囲の位置を確認するが……。地図上に描かれた丸の中にある点がアレに見えて来てしまう。

 煩悩が振り払えていない証拠をまざまざと見せつけられた俺は、普段のそれよりも力を強めて両頬を叩いた。



 フェリスさんって、意外と気さくな方だったんだな。

 強い力を放つと聞いた時は億劫になったけど、話してみればどうという事はなかった。



「ダズゲデ!! ニグノウミにオヴォレル!!」


 常軌を逸した大きさの双丘が形容し難い動きで揺れ動くのをチラリと横目で窺いつつそんな事を考えていた。


続きます。

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