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第三百十七話 覇王の血脈 その一 

お疲れ様です。


本日の前半部分の投稿になります。




 薄暗い天幕の中に一杯広がるこれでもかと甘ったるい女の香が含まれた空気を吸い込む。


 普通の男がこの空気を一度吸えばきっと我を忘れてしまい今も静かに眠るこの中の一人へ襲い掛かるであろう。


 私が今も吸い込み続ける空気にはそれだけの魅了効果が含まれていた。


 あっめぇなぁ……。


 どうしてこうもあんた達は色っぺぇ空気を醸し出せるのだい??


 朝と夜の間。


 早過ぎる時間帯にふと目が覚めた事を後悔してしまう。今から起きても御飯は無いし、二度寝しようにも甘い香りの所為で中々眠気が襲って来ないし。


 どうしたものかね……。


 頼りない光が差し込む天幕の入口へ顔を動かすと我が親友が大変気持ち良さそうに眠りこけている姿を捉えた。



「んんっ……」



 うはっ、すっげぇ可愛い。


 むにゃむにゃと口元を動かし、横へ寝返りを打つとたわわに実り過ぎた果実が地面に敷き詰められている布地へと零れ落ちた。


 その後ろには。


「あははぁ……。追いかけちゃうよ――……」


 狼の姿のルーが何かと追いかけっこをしているのか、無意味に四つの足を忙しなく動かし。


「駄目、ですよ……。皆が見てますぅ……」


 鳥姉ちゃんに至っては上半身の訓練着がほぼ開け、薄い緑色の下着が御目見えしていた。



 静かに寝れんのか、己らは。


 まぁ寝言をほざくのも致し方あるまい。ここへ来て今日で丁度二十日、皆クタクタに疲れ果てているのだ。


 ある者は疲労と胃袋の限界に達したのか。


『うぅっ……。もう嫌っ……』


 薄い桜色の髪をブンブンと大袈裟に横に振りつつ、大変素敵な量の食事を拒絶し。またある者は。


『し、師匠!! これ以上殴られたら死んじゃいますってぇええええ!!』


 後頭部が前面に回って来る勢いで殴られ文字通り死にかけていた。


 アイツの場合、早々死にやしないだろうけど……。イスハの指導は此処へ来て苛烈を極めているし。流石に心配なのが本音ね。



 私と出会ってしまい、龍の力を得てしまった大馬鹿野郎。


 あの時。


 私を庇わなかったらアイツは一体どんな人生を送っていたのだろう??


 まぁ凡その想像は付く。任務に仕事に忠実な野郎の事だ。文句を垂れつつも齷齪汗を流している筈。


 私に会わなくてもあのまま南進を続けていたらユウと出会ったのか。


 目の前の親友の寝顔をじぃっと覗き込む。



「すぅ……。すぅ……」



 女の私から見ても十二分に可愛いし、それに加えて性格も良好。


 ユウの大らかな性格とアイツの真面目な性格は誂えた様にピッタリと嵌る。


 私を庇わず、進んでいたらユウと二人で冒険を続けていたのよね??


 森の中を楽しそうに二人仲良く歩いている姿を想像すると、チクンと胸が痛む。


 どうして痛いんだろう??


 私がその光景に含まれていないから?? それとも親しい者にしか与えない笑みをユウが浮かべているから??



 うむっ、全く以て分からん。



 解読困難な問題を自ら与え、答えを導き出す為に四苦八苦していると苛立ちが募って来た。


 恐らくこれには私の嫉妬も含まれているんだろう。


 眠りこける女達の中で私だけが未だ課題を見つけていないからだ。


 嫉妬というよりかは、焦燥感と言った方が正しいか。


 地上最強である私でも多少は焦るのよ。何て言ったって、普通の感情を持つ生物ですからね!!



「あっ……。へへ……。待ってよ……」



 ユウのお口からあっめぇ声が零れる。


 誰に対して喋ったのやら。まっ、その笑みを見れば大方分かりますよ――っと。


 気持ち良さそうに眠っている親友の顔をブッ叩く訳にもいかん。


 これ以上ここに居たら何かが爆ぜてしまいそうなので、皆を起こさぬ様。そっと静かに立ち上がり天幕の出口へと向かった。



 優しい私に感謝しなさいよ?? あんた達。



「えへぇ……。レイドぉ……。こっちもぉ……」


「ちっ」


 お惚け狼め。


 あんたは戦士の心を持つんじゃないのか?? あぁ??


 前言撤回だ。


「よいしょっと……」


 ユウの肩を優しく掴み、此方側へと向かせ。


「おら。死ねや」


 だらんと横たわっているユウの腕へ狼の顔を触れさせてやった。


「んん……」


 すると間も無く、私の狙い通り親友の抱き癖が発動。



「あぁ、そこそこぉ」


 にぃっと口角を上げた狼の顔を掴み、大事に胸の中へと抱えた。


 おっしゃ。そこで窒息して暫く反省してろ。


「エへへ――……。んっ?? ンン゛ッ!? ンン゛――――――ッ!!!!」


 私はお惚け狼がもがき苦しむ素敵な音を背に受け、太陽が顔を覗かせる前の薄暗い空の下へと出た。



「ふぅ――。いい天気じゃあありませんか」



 体をぐんっと縦に伸ばし、甘い香りとは掛け離れた清涼な空気を胸一杯に吸い込むと頭がすっと澄み渡る。


 今日は休みだし、また釣りでも行こうかな?? あのツノエビ、滅茶苦茶美味かったし。


 でもなぁ。疲れている友人達を無理矢理連れて行くのも憚れ……。ないっ!!!!



「うっし。ちょっと運動して目が覚めたら叩き起こそう!!!!」



 私が隊長なんだから部下は隊長の命令を聞く義務があるのだ。


 隊長命令は絶対。


 うむ、間違っていない。



 体の筋に残る痛みと疲労。軽い柔軟を続け体を解しつつ砂浜へと向かった。



 地平線の彼方から見えそうで見えない太陽の光、黒と青がせめぎ合う何とも言えない色の空。


 その空色からは本日も相も変わらず暑い一日が続きますよと私に示唆してくれている。


 呆れる位に好天だってのに……。私の心は曇り空ね。


 何で私だけが課題に辿り着いていないんだろう??



 友人達……。あっ、蜘蛛は違うけども。


 彼女達は与えられた課題に対する答えを見事導いた。それに対して私と来たら。



「はぁ――……」



 意図せずとも重苦しい溜息が漏れてしまう。


 この溜息は私の心の代弁者ね。一番初めに達成する予定だったんだけどなぁ……。


 私が思う様に物事はいかないってか。上手く出来ていますねぇ、世の中は。



 糞ったれな溜息を吐き散らし、砂浜に到着すると男らしい座り方で地面に尻を落とす。


 ここなら誰も見ていないし。迷惑を掛ける恐れも無いのでちょいと精神を統一しましょうかね。



「ふぅぅ――……」



 大きく息を吸い込み、無味無臭の空気を味わう様に飲み込み。そしてゆっくりと吐き出して集中力を高めると精神の世界へ己の意識を投下させた。




お疲れ様でした。


後半部分が長文となってしまいますので一旦ここで区切らせて頂きました。


現在編集作業中ですので次の投稿まで今暫くお待ち下さいませ。

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