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第三百十六話 雷帝の胎動 その三

お疲れ様です。


後半部分の投稿になります。




 青く輝く空は赤き空へと移り変わり周囲に籠っていた指導の熱気が僅かばかりに冷め、一日の終わりに相応しい光景へ変化した。


 家路へと急ぐ鳥達が歌声を奏でながら赤き空を横切り、何処からともなく吹く風が森を揺らして枝と葉が擦れ合う清らかな音が傷付いた体と心を癒してくれる。


 誰しもが認める美しき夕の光景に心打たれそうになるが……。一日の終わりに相応しくない存在が少々気掛かりだ。


「……」


 柔らかい夕日の光が優しく差す訓練場の一角で静かに精神を統一させる一人の女性。


 静かに呼吸を続けそれに呼応する様にゆっくりと肩が上下する。


 外見上の変化は何ら見受けられぬが、その体内からは今も強い魔力の波動が漏れ続けていた。



「な、なぁ。大丈夫なのか??」



 ルーとリューヴ。


 一つに重なった体から目を離さずこの場に居る者へと問いかける。



「大丈夫じゃない?? 暴走する気配も無いし」


 土で汚れた顔のマイが俺の問いに軽く答えるが。


「マイ、それは楽観です。細心の注意を払いつつ監視を続けるべきです」



 手に酷い傷を負った海竜はそれを良しとしなかった。


 そりゃあそうだろう。


 少しでも触れたら爆ぜてしまいそうな膨大な圧を放つ魔力が目の前に座っているのだから。


 俺達の激しい訓練が終了し、さてそろそろ野営地にて一日の疲れを労わろうかと考えている時間になっても二人は一切姿勢を崩さずに精神を統一させていた。


 体の奥に静かに渦巻く力は大きくもあるが、その大きさとは反比例して安定している。


 マイが楽観視するのも頷けるよな。


 これだけ安定していればその内目を醒まして何事も無かった様に俺達と普段通りに会話を開始するのではないだろうか。


 そんな楽観的な考えも湧いてしまう。



「力強い魔力が渦巻いているけど、安定しているし。このまま監視を続ければ……」



 マイ程では無いが俺もどこか軽視している傾向が見られたようだ。


 ふぅっと小さな息を吐き、二人から視線を外した刹那。


 己の心臓が驚いて飛び上がる程の桁外れな魔力がリューヴ達から突如として炸裂した。



「うわっ!!」



 再び二人に視線を戻すと……。そこには俺が知る人物とは似て非なる人物が立っていた。



「……」



 腰まで伸びた白銀を思わせる灰色の髪、両の肩口からは白と黒の稲妻が乾いた音と共に迸り大気を震わせている。


 だが、強者をも慄かせる外見とは裏腹に呼吸は驚くほどに落ち着き。初めて会った時の狂戦士の面影は無い。



「リュ、リューヴ?? ルー?? 聞こえるか??」



 皆が固唾を飲む中、今も静かに瞳を閉じている二人へと声を掛けた。


 そしてこちらの声に呼応する様に静かに目を開けると。



「――――。あぁ、聞こえているぞ」


 いつもなら右目は澄んだ翡翠、左目は輝く金なのだが。今は深紅に染まっている二つの瞳が俺を捉えた。


「え、えっと。どうなの?? 覚醒には至ったのかな??」


 雷によって震える大気を口に含み、恐る恐る問う。


「勿論だ。これが……。覚醒と呼ばれる力、か」


 右手を徐に上げ己の力を確かめる様に一つ小さく握り。



「皆、待たせたな」



 明瞭な意思を持って明るい笑みを送ってくれた。



「見事じゃ!! 二人共、良くぞ成し遂げたな!!」



 俺達の直ぐ後ろ。


 フォレインさん達と共に静観を続けて居た師匠が軽快な声を上げると俺達はそれを合図と捉え祝福の声を上げた。


「おめでとうございます!! 御二人共!!」


 アレクシアさんが両手で柏手を打ち綺麗な音を奏でれば。


「私は何も心配していませんでしたよ」


 隣のカエデもそれに続く。


「リューヴ!! ルー!! おめでとう!!」


「全く。見事なもんだ」



 ユウの祝う声に続き俺も感嘆の声を上げた。


 本当。この言葉に尽きるよ。


 二人重ねた力の圧は今なお上昇し続けて不動の大地を揺らし、こうして対峙しているだけでも心臓が停止してしまうのでは無いかと杞憂を抱かせる圧を放つ。


 だがここで一つの疑問が浮かび上がる。それは……。



「ふぅん。力を重ねたのは流石と言うべきだけど……。それ、長くもたないわよね??」


 エルザードが俺の意見を代弁してくれた。


「恐らく、長くもって十分程度だな」



 強過ぎる力は時に身を焦がす。その最たる例が俺の中に潜む龍の力だ。


 力を解放すればする程黒き力に飲まれ、憎悪を抱き、あの心地良い感覚が胸一杯に広がる。


 傑物から付与された力に身を委ね修羅の道を進んで行くとその先に待ち構えているのは……。



『破滅』



 この二文字に集約される最悪の結末が両手一杯に広げて俺を歓迎するのだろう。


 身に余る力程恐ろしい物は無い。此処に来てそれは嫌という程分からされた。


 本来であれば遠ざけるべき力。


 しかし、リューヴ達の場合は己が内に潜む者達との邂逅を遂げた。それが指し示すのは一方的な力の付与では無く。


 共に力を重ね合う事だ。


 突き詰めて言えばリューヴとルーは己の弛まぬ努力の甲斐あって一つ上の舞台へと昇った。


 そう……。大魔達が一同に揃う傑物共の舞台へ。


 何だか一人置いてけぼりを食らった気分だな。でも、友人が見事難題を克服したのだ。


 ここは素直に祝うべきでしょう。



『レイド――!! どうどう!? 凄いでしょ!?』


 多大なる慙愧の念が胸を締め付けていると、ルーの声が頭の中で響く。


「あぁ、おめでとう」


 端的且この場に合った言葉で返す。


『えへへ――!! ありがとうね!!』


 顔付きと体はリューヴであるが、頭の中でルーの声が響くのはちょいと混乱するな。


「それで?? 二人に与えられた課題は何だったのよ」



 俺の直ぐ後ろ。


 腕を組みつつマイがリューヴ達に話す。



「私の場合は、愛する者を守る為に戦う優しき心を持つ事」


『私は、弱い心を捨て立ち塞がる敵を倒す戦士の心を持つ事だったよ!!』



「ほぉん。って事はあんた達の性格とは真逆の心を抱けって事だったのか」



 ふむふむといった感じでマイが頷く。



「それと、本来なら別々の体で生まれ落ちる筈であったのに私とルーは一つの体で二つの心と体を持って生まれてしまった。成長するに連れ心と体は離れる。だが、元々は一つの心と体。対となる心を想いを重ね、互いを肯定する事で我々は真の力を発揮出来るのだ」



「まるで相反する属性の魔法のようですわね」


「アオイ、どういう事??」



 右隣りに立つ彼女へ問う。



「対になる属性は本来相反し、その威力を相殺してしまいますわ。しかし、そこへ一つの属性を足す事で異なる属性は強烈に威力を増大させます」


 うん。


 魔法初心者である俺には良く分かんないや。


「例を挙げますとカエデの破裂する光の矢ですわ。あの魔法には火と水、そして光の属性が存在しています」


「えっと……。じゃあ反対の属性の火と水を繋ぐ為に光の属性を使用しているって事かな??」


 これで合っているかな。


「そうですわ!! 流石レイド様です。リューヴは闇と風、そしてお惚け狼は……」


『アオイちゃん!! 聞こえているよ!!!!』


「うふふ。申し訳ありませんわ。ルーは光と風が得意……」


「つまり、二人に共通する風を繋ぎにして。光と闇を重ね合わせたのか」


「正解です。あの二人から今も発せられているのは三つの属性を付与させた雷ですわ。貫通力、破壊力、そして到達範囲も以前とは比べ物になりません」



 うえっ。


 二人の稲妻を食らった経験がある身としては少々聞きたくない情報だったな。


 あの状態の時に揶揄うのは止そう……。心臓を止められたくないし。



「試してみるか?? 主」



 俺の表情の意味を汲み取ったのか。髪の長いリューヴがにっと笑みを浮かべる。



「結構です!!」


「ふっ、冗談だ」



 リューヴが話すと冗談に聞こえないって。


 額に浮かぶ変な汗を手の甲で拭い、一つ息を吐いた。



『ねぇ、リュー。そろそろ戻ろうよ。何だか疲れちゃった』


「そうだな。合一の訓練は追々鍛えていこう。今は休息が必要だ」


「「…………」」



 髪の長いリューヴが静かに目を閉じると周囲に放出されていた稲妻群が鎮まり、彼女達の稲光に恐れ戦いていた大気達が震えを止めた。


 リューヴの体の奥から眩い光が放たれその発光が収まると。



「ふぅ――!! 元通りっ!!」


「思った以上に魔力と体力の消費が激しい。まだまだ改善の余地があるとみた」



 光の中からいつもの二人が現れ、普段通りの体を興味深そうに見下ろしていた。


 二人から感じる圧はいつもと同じであり暴走する恐れも無い。つまり、覚醒の力を滞りなく習得した証拠だな。


 全く……。羨ましい限りですよっと。



「は、はれぇ?? 体がフニャフニャする……」


「くっ、猛烈な眠気が……」


 やっぱりこうなったか。


「安心しなさい。力の反動で体が驚いているだけよ。そのまま眠りなさい」


「う、うん。そうするぅ……」


「主、済まぬ。ほ、報告は後で……」



 エルザードの言葉を受けると膝から崩れ落ちそうになる。



「っと。ゆっくり眠りなよ?? おやすみ、二人共」



 右腕でリューヴをそして左腕でルーを受け止め、少しだけ早い就寝の言葉を送ってやった。



「え、えへへ。受け止められちゃった……」


「此れしきの事で眠りに落ちるとは……。私もまだまだ鍛錬が……」



 二人同時に瞳を閉じ、そして静かに寝息を始める。


 夕日に照らされた二人の顔は本当に穏やかで、先程までの常軌を逸した魔力を放っていた者とはとても同一人物には見えない。



 こうして見ると……。本当に良く似ているな。


 寝息の回数も、心地良い寝顔もそっくりだ。


 一つの体では無く二つの心と体でこの世に生まれ落ちて数奇な人生を歩む事となった二人だが。


 物言わずとも互いの考えを読み、視線を合わせずとも互いの行動の意図を汲み。深い絆で結ばれた強力な糸は決して他人では切り落とせない。


 家族、姉妹、血縁。


 それをも越える厚い信頼と理解し合う心が羨ましくもある。


 例え、俺に兄弟姉妹が存在したとしてもこれ程までに強い絆を構築する事は不可能であるから。


 俺の腕の中で何の心配も無く眠りこける頑是ない子の無垢な寝顔を見下ろしつつ、そんな事を考えていた。




お疲れ様でした。


これで漸く残すは一人になりました。


一番の問題児であり、私的に一番悩んだ人物が次の御話から覚醒の段階に入ります。プロット段階では今と全く違う答えを執筆していたのですが……。それではちょっとしっくりこなかったので急遽加筆修正をして何んとか形にしました。



そして評価して頂き有難う御座います!!


これからも精進させて頂きますね!!



それでは皆様、お休みなさいませ。

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