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第三百十四話 本日の釣果の威力 その二

お疲れ様です。


後半部分の投稿なります。




 海の塩っ辛い香りからかけ離れた森の優しい匂いが風の中に漂い、踏み心地の良い土の感触が心を落ち着かせてくれる。


 先程までの環境とは百八十度変化した感覚を掴み取るとそれを合図と捉え、私は静かに目を開いた。



『キャ――!! 嘘でしょ!? 何よこれぇ!! 物凄く美味しい!!』



 ほらね?? 私の予想通りの動きじゃん。


 黒みがかった赤い装甲を携えた一頭のドデカイ龍が森の中で頬に両手を添え、嬉しそうに土の上を訳の分からん動きで悶え打つ。


 あんたが悶え打ったらこの森が消失してしまうのでは?? そう思わせる程に大地が震えていた。



『あっ、駄目。頬っぺたが落ちちゃう……』



 ピタリと動きを止め、恍惚の表情を浮かべて空を仰ぎ見る。


 その姿がどこか情けなくも、そして第三者の視点で自分の姿を見ている様で何だか恥ずかしくなって来たわ。



『そ、そうだ!! お代わりを伝えなきゃ!!』


『安心しなって。ちゃんと食べてあげるから』


 恍惚の表情からハっとした表情を浮かべたぜんざいへそう言ってやった。


『ヴァッン゛!? い、いつからそこに居たの!?』


『ぜんざいが気色悪い悶え方をしていた時からよ』


『あ、あのねぇ……。まぁいいです。おほんっ。何か用ですか??』



 慌てて取り繕う姿がまぁ――可愛い事で。



『用があったら来たのよ。どう?? ぜんざいの課題に応えてくれる食材だったんじゃない??』


 恋に悶え打つ乙女の気色悪い動作から一転。キチンと地面に腰を下ろした龍を見上げて言ってやる。


『そう、ですね……。及第点を与えたいのですが……。もう後一歩足りない感じですかね』


『は、はぁ!? あんな美味い物でも足りないって言うの??』



 あの味を越える物は早々見つからん。


 た――くさんの美味しい物が満ち溢れている王都と違い、ここは閉鎖的な島だ。新しい発見は難しいんだけど……。



『それを成し遂げるのがあなたの使命なのです。いいですか?? 私が求める物を食らうのですよ??』


『んな事は分かってるって!! もうちょっと助言くらいくれてもいいんじゃないの??』



 例えば……。甘い物だったり、辛い物だったり……。


 漠然的にもその形を捉えたいのが本音さ。



『助言ですか。ふぅむ……』


 私の背丈程ある大きさの手を顎に添えて考え込む仕草を取る。


『特に食材に拘りはありません』


 ふむ、続きをどうぞ。



『強いて言うのであれば……。これまでの行動を鑑みれば自ずと理解出来る、そう言えばその空っぽな頭でも理解出来ますか??』



『誰が中身の無い貝だごらぁ!!!!』


 大変頭に来たので取り敢えず硬そうな腹へと剛拳を捻じ込んでやるが。


『いっでぇええ!!』



 未だあの装甲を貫く事は叶わぬ様だ。


 とんでもなく硬い物を殴った衝撃が腕から脳天へと駆け抜けて行った。



『そうやって同じ過ちを繰り返すから空っぽと言われるのですよ?? ですが、私に衝撃を与えた事だけは賛辞を贈るべきですかね』


『知らねぇし!! あ――、つつ。いってぇ……』


『今、私は正確に助言を送ましたからね。後は自分で考えて行動に移りなさい』


 へいへい。わ――っていますよっと。



『さて!! 向こうの世界に戻ってしっかりと食べて来なさい!! と、特に!! あの海老さんを沢山食べるのですよ!? 良いですね!?』



 コイツ……。自分が沢山食べたいからって理由で課題を達成させる気はねぇだろ……。


 本当は与えられた課題を既に達成しているのでは無いか??


 そんな疑問が多大に残る答えに辿り着いてしまう嬉々とした雰囲気を醸し出すぜんざいと別れを告げ、現実の世界へと舞い戻った。







「――――――――。ふぅ、只今」


 目を開ければ眩しい青が目の奥を射し、鼻腔を擽る塩気が私の帰還を祝う。


「おかえり――。どうだった??」


「んっ。駄目だった!!」



 真っ赤に晴れた拳を見ろしつつ、ユウへ返事を返す。



「あの海老でも駄目としたら……。ちと難しそうだな」


「まぁね。ってか!! 残り少しじゃない!!!!」



 あれだけ沢山あったツノビ様の御身が僅かにちょこんとだけ皿の中央で寂しそうに盛られていた。



「最後の身は……。私が食う!!!!」


 有終の美を飾ろうと誰よりも先に体を前へと乗り出し。


「えへへ。私の胃袋の中へいらっしゃい」



 はむっ!! と勢い良く最後の身を迎えてあげた。


 あぁ……。ちあわせっ……。



「お待たせ!! 汁物が完成したぞ!!」


 奥歯で幸せな咀嚼をモムモムと続けていると、私達の召使が大きな鍋を持って此方へとやって来る。


「魚の出汁をふんだんに使い、味噌を溶かし。そして!! 魚の身が入ったお味噌汁ですよ――!!」


「「「ほ――!!」」」



 午前に失った汗を補ってくれる塩気の強めな味噌汁か!!


 炎天下の中で食らうのはちょいと厳しいが、この木陰の中は十分に涼しい。私の舌も汁物を求めていたのか。


 きゅるりんっと可愛い腹の音が鳴り響いた。



「皆に配給するからね。少々お待ち下さい……」


 手際よく木のお椀に均等に汁を盛り。そして、そしてぇ!!


「ほい。お前さんのは特別だ」



 先程のツノエビさんの大きな頭が入った味噌汁を私に渡してくれた!!


 茶の味噌汁からこれでもかとはみ出た角と頭。


 上半身の中身もしっかりと半分に切られた甲殻に収まっており、それはもう何物にも代えがたい代物へと変化していた。



「わっ、わっ、わぁ!! 凄い!! これ食べていいの!?」


「ツノエビを釣ったのはマイだからな。当然だろ。甲殻に付着している味噌を汁に溶かして食うのも悪く無いぞ」


「うんっ!! ありがとう!!」



 えへへ。やったね!!


 召使に指示された通り、ちょいと黄色いツノエビの味噌を汁に溶かし。ずずぅっと啜ってお口に迎えた。



「あ、はぁっ……。さいっっこう……」



 しょっぱい味にまろやかで濃厚な味が溶けて混ざり合い。


 今まで食って来たお味噌汁は一体何だったのかと問いたくなる様な味に思わず腰が砕けてしまった。


 すっげぇ……。今まで食べて来た汁物の中で一番美味いかも。



「一口飲ませてよ」


「おう、構わんよ」


 ユウがひょいと腕を伸ばして私のお椀を奪い。


「んっまっ!! レイド!! あたしにもこれ作ってよ!!」


 驚愕の表情を浮かべて召使におねだりを請うた。


「それは無理かな。頭はそこに入っているのだけだし」


「ちぇっ。じゃあもうちょっと……」



 小さな御口をお椀に密着させようとするが……。



「返せっ!! これは私の物よ!!」


 横着なミノタウロスからお椀を奪取してやった。


「ずるいよなぁ――。マイだけ」


「へへん。悔しかったらツノエビを釣ってみなさいよ」


「午後からはそのツノエビを狙ってみるか」



 それが出来たら褒めてやるわよ。


 私の腕があってこそ釣り上げたんだからね。


 帰ったら父さんに自慢してやろう。私はあんたより釣りの腕がずぅっと上なのですよ、と。



『し、素人風情が知った様な口を!! 待っていろ!! お前がアッと驚くデカイ魚を釣って来てやるからな!!!!』



 悔しさに顔を歪め母さんの恐ろしい指示を無視して何処かに飛び立つ父の背を想像していると。召使が慌てた声を咆哮した。



「あ、あれ!? ツノエビは!?」


「……っ」



 お皿の中央にポカンと空いた空間を見つめてこれでもかと目を見開く。


 それを視界に捉えた私は大変いたたまれなくなり視線をすっと砂浜に落とした。


 やっべぇ。勢い余って全部食っちまった……。



「おい……」

「はぁ――。お味噌汁が美味しい」


「おい!!」

「な、何よ……」


 私を睨みつける召使とお椀越しに目を合わせて話す。


「何で俺の分まで食ったんだよ!!」


「さ、さぁ。皆が沢山食べたから無くなったんじゃない??」



 と言うか、先ず私を標的として捉えたのは何故??



「少し位残してくれてもいいじゃないか!!」


「ん、む。この味噌汁すっごく美味しいわよ」


「あ、どうも……」



 分かり易い怒りから一転。


 得も言われぬ表情を浮かべて後頭部をポリポリと掻き。私の正面に座る海竜と蜘蛛の間に腰を下ろした。


 やはりこういう時は褒めて怒りの矛先を反らすのが一番ね。


 アイツの扱い方も随分と上手くなってきたもんだ。



「レイド様っ。どうぞっ」


 鬱陶しい蜘蛛の声が響き、また何かしでかすのでは無いかと考え。眉を寄せて様子を窺う。


「え?? えぇっ!? これ食べていいの!?」


 蜘蛛が差し出す箸の先には最終最後のツノエビ様の御身が摘ままれていた。


「勿論で御座います。レイド様の為に残していたのですわ」


「じゃあ!! 頂きますっ!!」



 そして、何の遠慮も無しに蜘蛛が先程から使用し続けている箸に齧り付きやがった。



「如何で御座いますか??」


「最高だよ!! 甘くて……。でもしっかりとした歯応え。こんな美味い物が海に棲んでいるのか……」


「うふふ。それはよう御座いました。はむっ……」



 あの蜘蛛も遠慮無しに今しがたクソ野郎が口に付けた箸を食みやがる。


 あぁ……。今まで高揚していた気持ちが台無しだ。


 後でエライ目に遭わせてやる。我が親友もあの二人の様子に気が付いたのか。



「お――お――。楽しそうに燥いじゃってまぁ」


 むぅっと眉を顰めて真正面を見つめていた。


「どうする?? 砂浜に埋める?? それとも海に沈める??」


 片眉をクイっと上げてユウの肩に手をポンっと置く。


「砂浜に植えて逃げられ無くして、でっけぇ蟹を見つけて鼻にくっつけてやらぁ」


「その案乗ったわ!!」


「おうよ!!」


 ユウとパチンと手を合わせると募っていた嫌な気持ちがふっと消えて行った。


「レイド様ぁ。お代わりですわよぉ……」


「ありがとう!! いやぁ、本当に美味しいな……」


「んふふ。まだまだ沢山ありますのでご遠慮なさらずに、何度でも!! 頂いて下さいまし」



 差し出されたツノエビ様の欠片を条件反射で口に入れる召使。そしてその箸を差し出しては己の口に迎える蜘蛛。


 あのイカレタ状況を、指を咥えて眺めている程。ここにいる連中は生易しくは無い。



「「「……ッ」」」


 恐ろしい光を放つ十二の瞳が召使を捉えると。


「いやぁ――。本当に美味しいな。あれ?? 皆、どうしたの。すっごい顔が怖いけど……」


 彼は自分が置かれている状況を理解出来ずに目を白黒させるが。


「レ―—―イド様っ。ささ、あ――んのお代わりですわっ。今度はアオイのだ……。コホン。今度はもっと甘く感じますわよ??」


「ッ!!」


 召使が異常事態に気付くまで数秒も掛からなかったのは自明の理であった。



お疲れ様でした。


東日本大震災から十二年。震災を風化させてはいけないと考えさせられる一日でしたね。


多くの人々が亡くなったあの日を忘れてはいけない。私達にはそれを後世に伝える義務があると、私なりそう考えています。




さて、この御話で日常パートは終わり。次話からは再び訓練が始まり、残る者達が覚醒に至ります。


次に覚醒する者のプロットは既に書き終えているのですが最終最後の覚醒者のプロットの進捗状況が芳しくありません。


思っていた以上に難しい難題に直面して四苦八苦している状況ですね。


そして、ブックマークをして頂き有難う御座います!!


週末のプロット執筆活動の嬉しい励みとなりました!!!!


それでは皆様、引き続き休日をお楽しみ下さいませ。

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