表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
787/1227

第三百九話 月光降り注ぐ大地の上で

お疲れ様です。


本日の投稿になります。




 最愛の人との心温まる会話、彼から向けられる無償の笑み、私の身を案じて届けてくれる男性の低く優しい口調。


 この世の全ての金銀財宝よりも本当に大切な私の宝物。


 私は……。私は!!!! それを自らの手で傷付けてしまった!!



「うぅ……。ひぐっ……」



 激しい雨が降る闇の中で何をする訳でも無く己の殻に閉じこもり嗚咽する。


 どうして私は彼を傷付けてしまったのだろう……。


 彼を独占したいから?? それとも彼の周りに咲く華共を駆逐したいから??



 いいや、違う。自分が助かりたいが為だ……。



 頭と心にへばりつく闇を払拭して楽になりたいから闇の中に現れた救いの光に手を差し伸べてしまったのだ。


 一度目はシオンを、二度目は最愛の人を私は傷付けてしまった。


 もう、もう嫌……。何度同じ過ちを繰り返せばいいの……。


 自分の罪が憎い、弱い自分を軽蔑する、そして自分の弱さに心底反吐が出ますわ……。



「誰か……。誰か弱い私を裁いて下さいまし……」



 膝を抱えて己の殻に閉じ籠り私はたった一人の世界に逃げ込み。頭上から降り注ぐ雨粒の量が増えてもそこから出ようとはしなかった。


 一人なら誰も傷付ける事も無い。一人なら傷付くのは自分だけ。だが……。愛する人はこの世界には居ない。


 レイド様……。アオイは一体どうしたら宜しいでしょうか。


 犯した罪を償う為に自ら命を断つべきでしょうか……。それともあなたから離れ、遠い地で見守るべきなのでしょうか。


 愚かで情けなくて弱いアオイにその答えを教えて下さい……。


 精神の瓦解を防ぐ為に立つ事も、前を向く事も、進む事も諦めて私はその場に留まった。


 これが最善の答えでは無い事を知っていながら。















 ◇




 真の闇が広がる頭上から俺の進行を妨げる様に大きな雨粒が勢い良く降り注ぎ、森に生える天然の障害物と暗闇が視界を防ぐ。


 それでも俺は痛む体に鞭を打ち、地面のぬかるみに足を取られながらも前へと進み。喉を枯らしながら探し求めている者の名を叫んだ。



「アオイ――!! 何処だ――!!」



 深い泥の上で一旦足を止めて一切の明かりが見当たらない闇の中で叫ぶが……。


 返って来るのは空から降り注ぐ沢山の雨粒が木々に当たる環境音のみ。



 参ったな……。


 視界は悪いし、彼女が何処へ向かって行ったのかまるで見当が付かない。


 いつもなら大雑把にも強き力を掴み取って方向を見出して進むのだけれども、どういう訳かアオイの力が全く掴み取れない。



 恐らく俺達に発見されない為に力を消失させたのだろう……。



 魔力感知に乏しい俺に残された手段は馬鹿みたいに森の中を走り回って捜索する事なんだけど、森は広いし視界も悪い。更にアオイのあの状態だと長時間放置するのは賢明では無い。


 きっと自分が犯した罪で参っているだろうからね。


 さてと……。どうしたものやら。


 このまま西へ向かうか、方向を変えて北へ向かうか。それとも一旦戻って皆で捜索するか。


 頭の中に浮かんだ選択肢に右往左往していると凶姫さんの声が頭の中で響いた。



『んっふっふ――ん。レイド君、大変お困りの様だねぇ!!』


『大変困っていますよ。見ていましたよね?? あの状況……』


『まぁねぇ――。いや、しかし凄かったよね!! 全ての力の源を消失させて接近。そして隙だらけの背後から忍び寄り急所へ一撃を加える!!!! 例えるならぁ、闇に紛れて襲う暗殺者って感じかな!!』



 いや、そういう感想は求めていません。


 ここは彼女の身を案じる場面ですよ??



『霞とでも言えばいいのかなぁ?? 兎に角、私が生きた時代でもあれだけの腕前を持つ者は早々居なかったね!!』


『俺は今、力を消失させてしまった彼女を捜索しているのですよ。それを探る良い方法があれば教えて頂けます??』



 凶姫さんが生きた時代の傑物達の感想を問いたいのは山々だが、今はそれ処では無い。


 化け物が化け物と認める者との熱き闘いはまたの機会って事で。



『私なりの方法なら教えても構わないけど……。結構疲れるよ??』


『構いません!!』



 何か含み笑いを含めた言い方だったけどこの際選り好みはしません。


 と言いますか、他に選択肢はないのでね。



『それじゃあ、あの狐さんがいつも口を酸っぱくして言っている澄んだ水面を想像してみて?? それなら得意でしょ??』


『分かりました!!』



 鼓膜に届く木の幹を打つ雨音、皮膚に感じる水の飛沫の感覚を捨て。大きく息を吸い込み静かに目を閉じた。



『うんっ、良い集中力。澄んだ水面に一滴の雫が落ちると波紋が円の外へと向かって広がっていくよね??』


 はい、その通りです。


『澄んだ水面の中央に位置するのはレイド君。そして、一滴の雫役は私が務めるねぇ。波紋が外側へ広がっていく。それはもう美しい円を描いて。その円が歪に形を変えた場所にあの蜘蛛さんが居るよ』



 つまり、心を静かに保ち波紋の乱れを感じ取れって事ですね。



『正解っ!! じゃ、レイド君が良い感じに集中しているから早速波紋を発生させるね!!』


「ッ!!」



 凶姫さんがそう話すと腹の奥にずんっと重い衝撃が走り、心の中に浮かぶ美しい水面に波紋が出現した。


 円の中心から外側へと向かってゆるりした速度でそれはもう万人が認める完璧な円を描いて広がっていくが……。


 その途中、極僅かに円が乱れた箇所が現れた。その乱れは小石にも満たない矮小な存在だが美しい円にそれは酷く目立った。



「――――。見つけたっ!!!!」



 此処から北北西の位置、砂浜と森の境目だ!!


 素早く目を開けて歪な乱れを生じさせた場所へ向かって駆け始めた。



『やるねぇ!! 一発でコツを掴むなんてさ!!』


『褒めて頂き光栄です!! では、自分は用がありますので!!』


『はいはぁ――い。これは貸しにしとくねぇ』



 凶姫さんに貸し、か。


 今更少し位増えても問題無い……。訳は無いですが。アオイの事を想えば安い貸しだろうさ。


 目の前に立ち塞がる木々の合間を突き抜け、ぬかるんだ土に足を取られ泥に塗れて倒れても直ぐに立ち上がり足を動かす。



 彼女が受けた痛みに比べればこの程度の痛みなんか生温い。


 寧ろ、この程度の痛みでは鋼の足を止める事は叶わないぞ!!



 彼女はこれで二度も友を傷付けてしまった。一度目はシオンさん、そして二度目は自分。


 二度の衝撃により心が酷く傷ついたのだろう。あの表情を見れば容易に窺えるさ。


 恐怖に侵され端整な顔が負の感情一色に染まっていた。きっと友人を傷付けてしまった事に耐え難い恐怖を覚えたのだろう。


 今、俺が出来る事は一刻も早く彼女を見付けそして恐怖を取り除いてやる事だ。



『そうはさせるかっ!!』


「いつっ!!」



 小賢しい倒木に足を取られ地面に倒れると同時に太腿に鋭い痛みが発生する。


 暗闇に慣れた目でその部分を睨みつけると一本の枝木が突き刺さっていた。


 怪我ならいつかは癒える。しかし、心の傷はそうはいかん。


 いつまでも傷跡深く残り、清い精神を侵食。それはいつしか負の感情を湧き起こす結果となり最悪……。



「くっ。つぅっ!!」



 枝を引き抜き、乱雑に投げ捨て再び走り始めた。



 アオイは精神の訓練を始めてからずっと一人で戦っていた。そう、たった一人で。


 俺達は何も出来ない事に歯痒さを覚えつつも、頼ってくれない彼女に対し確知出来ない程の矮小な憤りを覚えていたのかも知れない。


 どうして一人で戦っていたのか。何故俺達を頼ろうとしなかったのか。


 それはもう間も無く現れるであろう彼女から聞けばいい事だ。


 さぁ……。海が現れるぞ。



「アオイ――――!!!! 何処だ――――!!!!」



 昼のそれよりも大きい波音に負けじと叫び、俺がこの場に到達した事を何の遠慮も無しに咆哮した。


 位置的にはここで合っている筈!! 後は誤差修正だな。


 砂浜の砂と森の土の狭間に足を置き注意深く周囲の景色を見回していると……。


 雨が降りしきる深い闇の中、一人の女性が木の根元で膝を抱えて蹲っていた。


 見つけたぞ!!!!



「アオイ!! 此処に居たのか!!」


 乱れる呼吸を整える間も惜しむかの様に彼女の下へと駆け寄った。


「レイド様……。どうして……」


 膝を抱えながら僅かに顔を上げると周囲の環境音に負けそうな声量がぽつりと漏れる。


 暴食龍と乱痴気騒ぎを交わして彼女を罵倒する姿、苛烈な攻撃を風に靡く柳の様に躱す姿、凛とした佇まいを醸し出す彼女はそこには存在せず。



 指先一つでも触れてしまえば壊れてしまう、酷く脆い怯えた女性がそこには存在した。



「アオイ、先ずは話を聞かせてくれ。どうしてマイを殺めようとしたんだ??」



 静かに歩み寄ると彼女の側に片膝を着いて静かに問う。


 遠回しに話してもいつかは本質に触れなければならない。


 それならいっその事。


 そう考え、本題から問うてみた。



「――――」


 俺の質問に答えたく無いのか、それとも答えられないのか。


 再び自分の殻に籠ってしまった。


「怒っている、軽蔑している訳じゃ無いよ。只、その理由が知りたいだけなんだ」



 外の世界と己の世界に拒絶の壁を築いている彼女の隣に座って静かに話す。


 だが、問うても返って来るのは無言の答えのみ。悪戯に時間が経過していつしか雨粒が矮小な物へと変化し始めた。


 もう直ぐ雨が止みそうだな。



「――。駄目、かな??」



 暫く時間が経過した後、硬い殻に収まり続ける彼女へ向かって話した。


 雨が止み、重く暗い雲の隙間から柔らかい月明かりが大地を照らす。


 そして、淡い光が俺達を照らした時。硬い殻の中から言葉が漏れ始めた。



「――――。これから話す言葉。それは全て私の独り言と捉えて下さいまし」


「了解。ゆっくりでいいから自分の想いを吐露してみなよ」


「私に与えられた課題、それはまな板を殺せという課題でしたわ」


「お、おいおい。穏やかじゃないな??」



 人一人の人生を奪う代わりに、力を与えるのか。


 彼女の中に潜むのは随分と傲慢な御先祖様らしいな。



「以前、この力を発動させた時は何の課題も与えられず好き勝手に力を振り回しましたわ。その結果、シオンを傷付けてしまった」


「うん。そうだったね」



 その所為でアオイはこの力に億劫になったと断定しても良いのかな。


 少なくとも今回の事件に大いに影響を与えている事は確かだ。



「ですが、今回は話が違います。彼女は私に対し、まな板を殺す事で力を譲渡すると申したのです。当然、私は抗いました。ですが、ですが……。日に日に厭らしい声が増し、何をしていてもあの声が頭の中に響いてしまうのです。人に話す事も叶わず、私は一人で耐えていました。その結果が……。この様ですわ」



 ふ、む。


 大筋の展開は理解出来たぞ。詰まる所、アオイの過失は一切無い。


 寧ろ……、彼女の中に存在する横着な御先祖様が今回の事件を起こした張本人って事か。



「先ずはお礼を言わせて貰うよ、アオイ。話してくれて有難う」



 海から吹く優しい風に乗せて相手を真に労わる口調で語り始めた。



「アオイが逃げ出したのは俺を傷付けてしまったから、自分の失態に耐えられなかったから。それで合っているかな??」


 俺の言葉を聞き取ると。


「……っ」



 膝を抱えて蹲る彼女の双肩がピクリと動いた。


 今の反応が答えかな??



「俺の事は気にしなくても良い。体に刻まれた傷はいつか癒えるから。でも、アオイが心に受けた傷は早々癒えやしないんだ。シオンさんを傷付けてしまった時も同じ痛みを感じた筈だよ」


「……」



 答えを返したくも返せないのか、無言の答えが返って来る。



「昔はアオイ一人だったのかも知れないけど、今は俺達が傍に居る。失敗を恐れその場に佇んでも成功は成し得ないんだ。今回の失敗は俺の小さな怪我だけで良かったじゃないか。アオイが考えている以上に俺の体は丈夫なんだぞ??」



 暗い雰囲気を変えようと努めて明るい声色で話す。そうでもしないと更に塞ぎ込んでしまいそうだし。



「沢山御飯を食べて一杯寝れば傷は治る!! だから自分をそこまで攻めなくても……」


「ど、どうして……」


「うん??」


「どうして!!!! シオンもレイド様も私を叱らないのですかぁ!!」

「わっ!!!!」



 アオイが硬い殻から顔を覗かせると同時に俺の肩を掴み。ぬかるんだ地面に押し倒してしまった。



「教えて下さい!!!! 何故、何故ぇ……。どうしてですのぉ……。叱って下さい。怒って下さい!!!! アオイは、アオイは自分の弱さ故に屈したのですよぉ……」



 一族を纏める女王の下に生まれ落ち、己の進むべき道を定められた者の丸い瞳から冷たい悲しみの粒が溢れ出して俺の胸元を静かに濡らす。


 成熟した精神を持つことを課せられ、導く者としての振る舞いを強制させられ、そして女王の名を受け継ぐ運命。


 強き者として確知される彼女だが……。一皮剥けばまだ齢二十程度の女性なのだ。


 強い者だろうが弱い者だろうが誰しもが弱みを、痛みを抱えて生きている。


 強き彼女の場合、痛みと呼べる物は弱者から見れば苦痛と捉えるべきであろう。苦痛が与えた痛みの大きさは今も溢れ続けている雫がその答えだ。


 その鋭く尖った苦痛を少しでも柔らかな物にしてあげたい。


 俺はそう考え、静かに口を開いた。



「アオイ。俺とシオンさんが叱らない理由を知りたい??」


「教えて下さい。私には理解が及びません……」


「そっか。それはね?? 俺もシオンさんもアオイの事を心の底から信用しているんだ。歩みを止め、膝から崩れ落ちても必ずや立ち上がり前へと進む。困難で険しい道でも乗り越えてくれる。そう考えているんだよ」



 俺の場合はそうだ。


 出会った頃からの彼女を見ていれば自ずと理解出来ようさ。苦しい訓練、難解な術式の構築も時間を掛けて会得する。


 遥か彼方に存在する成功という名の終着点に向け、決して努力を怠らないのだ。


 彼女の向上心は指標にすべきものでありかく言う俺もアオイの努力する姿を見倣い続けている。


 素晴らしい実力の持ち主が努力を怠らない結果、俺との実力差がどんどん広がって行く。その隙間を埋める為に俺は必死に食らいつかなければならない。


 努力する天才に追いつこうとする凡才の虚しい気持ちを少しは掬って欲しいと何度思った事やら……。



 師匠達はアオイが苦しみ悩み苦痛で顔を歪めても自分で大丈夫と言った以上、信用すべきだと仰った。



 仲間が苦しんでいる状況を看過出来ないのは当然だけど、フォレインさんにも娘を信用しろと言われましたし。


 見守る友の形もある。端的に表現すればこうだな。


 俺達は彼女が立ち上がるのを見届け、そして立ち上がったのなら共に肩を並べて高みを目指す。


 だが、彼女がいつまででも立ち止まっているのなら何かきっかけを与えてやれば良い。


 アオイは必ず苦難を乗り越えてくれると俺達は信じているのだから。



「ですが……。私は己に負けてしまい、まな板を殺めようとした事実は変わらないです」


「一度起きた事実は変えようが無い。でも、そこから得た経験で更なる成功を得る事が出来るんだ。失敗と成功は表裏一体。失敗を恐れて行動に至らないのは愚者、成功を信じて行動に至るのが賢者だ。アオイは少なくとも後者であると俺は信じているよ。だから怒る必要も無い」



 雨で濡れた髪の先から滴り落ちて来た一滴の雫が此方の頬を濡らす。


 月明かりに照らされたアオイの顔は儚げにも映り、今にも消えてしまいそうな朧にも映る。


 きっと、不安なのだろう。己を否定されてしまうであろうと。



「俺が怒らなかったのは信用しているから。そして、シオンさんが叱らなかったのは愛しているからだよ」


「愛、ですか……」


「友情にも色んな形があるように、愛にもいろんな形があると思うんだ。家族を見守る愛、友を想う愛。後、その……。男女としてのあ、愛とか。シオンさんはきっとアオイの事を愛しているから見守ると決めたんだよ」



 家族の愛は良く分からないけど、恐らく俺が考えた通りであろう。


 シオンさんはアオイの姉さんみたいなものだし。あくまでも予想ですがね。



「与えられた愛が苦しいのです……。その愛に応えられない自分の弱さが真底嫌いなのです」


「無償の愛に応える必要なんかないさ。自分で思う様に行動し、成功に至るその時まで俺達は待つ。失敗しても構わない。誰かを傷付けようとするのなら俺が身を挺して止めてやる。膝から崩れたら腕を掴んで立たせてやる。だから……。自分を信じてあげなよ」



 アオイの左の瞳からホロリと零れ落ちた雫を右手の人差し指で拭う。


 先程までと違い温かな雫に口角が自ずと上がってしまった。



「レ、レイド様……。わ、私……。レイド様ぁぁああ!! わああぁあああ――――ッッ!!」



 俺の言葉を受け取ると何かが決壊してしまったのか。端整な顔をクシャクシャに歪め、俺の胸へと顔を埋めてしまった。



「あぁぁあ!! ひっく……。うぅぅうう!! うぁぁああああ――ッ!!」



 激情に駆られたアオイの右手が俺の左手を握る。


 骨が軋み強烈な痛みを与える強さだが、俺は強さに応える様にそっと握り返してあげた。



 森の木々の合間から覗く白き月。


 先程の雨雲を追いかける千切れ雲が掛ると束の間の闇が現れ、続け様に現れた千切れ雲達が前に追いつけと月の前を駆けていく。


「うっ……。うぅっ……。うぐぅっ……」


「……」


 胸元で嗚咽して咽び泣く彼女の声。天に浮かぶ風光明媚な景色。


 淡い月光が降り注ぐ森の中、いつまでも眺めていたい光景を時間が経つ事を忘れて見上げていた。




 それから一体どれだけの時間が経過したのだろうか。




 気が付けばアオイの声が止み、お互いの静かな呼吸音だけが周囲に響いていた。


「――――。落ち着いた??」


「――――。はい、レイド様」


「そっか。辛いかも知れないけどマイに謝罪を伝えに行こうか」



 仲間を殺めようとした事実は消えない。それなら、友として仲間として一言伝るべきであろう。



「嫌ですわ……」


 胸元に顔を埋めたまま、嫌々と顔を横に振る。


「えぇ……。一緒に行ってあげるからさ」


「ここでずっと、レイド様と反省し続けます」


「皆も心配しているだろうし。元気になった姿を見せてやろうよ」


「ん――ん!!!!」



 これでも納得出来ないのか。


 更に顔を埋め、頑是ない子供みたいに拗ねてしまった。



「こらっ、我儘言わないの。夜も遅いし、皆も眠いのを……」


 子供に言い聞かせる様に話し、上体を起こしてアオイの肩を掴んで離すと。


「……」



 涙の元が枯れ果てるまで泣き続けた結果、涙の泉は既に湧くのを止めたのだが。


 その影響か驚く程に丸いお目目が真っ赤に染まってしまっていた。



「ふ……。あはははは!! ア、アオイ。泣き疲れた子供みたいだぞ!!」


「も、もう!! ですから顔を上げたくなったのですわ!!」


 むぅっと口元を曲げると俺の胸をポカンと叩く。


「あはは!! ごめんね?? はぁ――……。笑った」



 空へ向かって陽性な笑い声を放ち、再びアオイへと視線を落とす。



「良く一人で頑張ったね?? これからは俺達を頼ってくれよ??」


「ふふ。他の者は分かりませんが、レイド様だけを信用させて頂いますわ。荒んだアオイの心を癒してくれたあの温かい御言葉の数々。きっと一生忘れる事はないでしょう」


「大袈裟だって。よいしょ!!」

「きゃっ!!」



 アオイの腕を脇から持ち上げ、その勢いのまま立たせてやった。



「さあ皆の下へ帰ろうか!!」


「あ、もう!! レイド様っ!! そんなに早く引っ張らないで下さいましっ!!」



 彼女の右手を手に取り、月明りで照らされた森の中を駆けて行く。



「早くしないと皆寝ちまうよ!!」


「御手を繋ぐのでしたら、もっとゆるりとした速さを所望しますわ!!」


「駄目だね!! アオイが逃げたら大変だもん!!」


「も、もう!! 逃げませんわよ!!」



 辛く沈んだ空気から漸く抜け出したのだ、こんな夜更けに上げるべきではない声量だがこの雰囲気に酷く合っていると思う。


 景気よくそれを祝う訳では無いが、少なくとも俺達にとって無言の帰還よりも騒がしく帰還した方が似合うと思うんだよね!!


 顔と目を真っ赤に染めた一人の女性の手を取り、俺達は歩みを止める事無く友人達が待つ野営地へと向かって行った。



お疲れ様でした。


先日購入したデッドスペースのハードモードを現在プレイしているのですが……。


ノーマルモードに比べると敵の装甲がやけに硬くて驚いています。それに加えて敵の攻撃力も高く、回復材の消費が激しくなってヒィヒィ言いながら攻略していますよ。


もう間も無くバイオハザードRE4も発売されますのでそれまでには何とかクリアをしたいと考えております。



そして、ブックマークをして頂き有難う御座います!!


第三章もいよいよ佳境に入り、もう間も無く新章へ突入しますので嬉しい執筆活動の励みとなりました!!



それでは皆様、お休みなさいませ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ