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第三百八話 血塗られた希望の光

お疲れ様です。


日曜日の夕方にそっと投稿を添えさせて頂きます。




 背筋を襲う猛烈な悪寒、失った体温を取り戻そうとして意図せずとも振動してしまう体躯、そして鼻腔から永遠に零れ続ける温かな液体。


 この状態を他人が観察すれば口を揃えてこう断定するであろう。


『風邪を患っている』 と。


 体調不良、又は人から移された物であるのなら致し方ないと諦めもつくのだが。この体調不良の理由は勝手が違うのだ。



「も、もう勘弁して下さぁい!!」



 野営地の中央からやや外れた位置。


 そこに一人の女性が椅子に光の輪で括り付けられ、彼女の目の前に立つ数名の女性から惨たらしい仕打ちを受けている。


 俺はこの季節には少々不釣り合いな暑さを誇る毛布にくるまり、長机に添えられている椅子に座りながらあの惨状を只々黙って見守っていた。



「聞こえませんね。ほら、次の食材を口に入れますから開けて下さい」


「これ以上食べたら出ちゃいますっ!!」


 恐ろしい海竜さんの声色に屈することなく口を真一文字に閉ざすが。


「ルー」


「はいは—―い。ほらほらぁ!! 狼さんの舌撃だぞぉ!!」


「ひゃぁっ!! や、やめ……」



 金色の瞳を宿す狼に顔中を舐められ。



「はい、どうぞ」


「まむぅ!?」


 刹那に開いた口に茹でた海老を投入されてしまった。


「ふぉ、ふぉの食材ふぁ??」


「さぁ。当てて見せて下さい」


「見えないふぁら聞いているのです!!」



 光の輪に拘束され、目隠しをされ、剰え強制的に食料を与え続けられるハーピーの女王様。


 この状態でなければ何をしていると声高々に注意を促すのだが。


 もう一人の俺は。



『まぁ、しょうがないのかな……』



 傍観という第三者の視線を彼女に向けろと俺に向かって諭した。


 そりゃあそうだろうさ。


 師匠と共に雨が降りしきる砂浜の上で付与魔法について実に有意義な訓練を行っていると、馬鹿げた魔力が遥か上空で炸裂して鉛色の空が青色の美しい空に変化した。


 何事かと思い空を見上げると、円状に広がった美しき空の中央に一人の女性が浮いていた。


 刹那に見惚れてしまうその美しい姿からは想像出来ない力が溢れ出し、島全体が彼女から迸る暴風と力の圧によって震えていた。


 まるで夏の嵐が到来したと錯覚させる強風に負けぬ様、喉を枯らしてそれ以上の力の解放はお止めなさいよ叫んだ。



 しかし、彼女は何を思ったのか。



 俺を見付けると大空へと誘拐し、虐待……。じゃないな。常軌を逸した殺人的加速度による拷問を与えて来たのだ。



 五臓六腑が後方へと引っ張られ、目玉が喉の奥へと引きずられ、通常時では影も形も無い空気は有り得ない速度によって固体へと変化したのか。


 呼吸をする度に硬い何かを口の中へと捻じ込まれている感覚に陥ってしまった。


 そんな状態で意識を保つ事は非常に困難であり、視界全てが真っ暗闇に包まれこの体は空の中で気持ちの良い昼寝を始めたのだ。


 その後、運良く野営地の中央で目覚めたのは良いが全身の筋肉が酷く傷付き、頭の中に重りが入っているのでは無いかと錯覚させる程に頭が重く。


 息も絶え絶えに上体を起こすと、カエデから状況説明を受けた。



 聞けば。



『もう少し発見が遅れたら不味かった』



 フィロさんが魔力を全開放して死に物狂いで追いかけ、空の横着者さんに島へ引き返す様に伝えてくれたとの事。


 師匠達と肩を並べる覇王の奥様が全力で追いかけても覚醒状態のアレクシアさんはまだ随分と余裕があったらしく??


 あのまま飛び続けていたら俺の体はどうなっていたのか分からなかったらしい。



 そう、死の一歩手前まで運ばれていたのだ。



 そうやって考えると。



「うぅ……」



 身震いがするよな。


 肩から掛けてある毛布にしがみ付き体を一つ震わせた。


 未だ雨は降り続いているし。夜になり気温が低下したのもこの震えの要因の一つであろう。


「お?? まだ寒いの??」


 俺の右隣り。


 夕食を済ませたというのに未だ飯を食らい続けるマイが話す。


 その白米、健康な状態の視覚なら美味そうに見えるのだが……。


 生憎食欲はありませんので余り咀嚼音を立てないで欲しいです。


「ここが夏の気候だってのに、真冬の冷風を浴び続けている感覚だよ」


 鼻水を一つ啜って答えてやった。


「はは、災難だったな??」



 マイの隣。


 随分と寛いだ姿勢のユウが快活な笑みを浮かべて此方の労を労ってくれる。



「災難?? 遭難の間違いじゃ無いのか」


 一歩間違えれば俺は地平線の彼方へと連れ去られ、亡き人になっていたのだ。


 文句の一つや二つ言うても構わないだろう。


「別にいいじゃん。大した事無かったんだし」


「大いにある!!」



 おっと。つい声を荒げてしまったぞ。


 静かな夜に相応しい声量に落とさなければ。



「大袈裟な奴。母さんが助けに行ってくれたんだから良いじゃん」


 そういう問題では無いのです。


 体は頑丈な方なのですが、あなた達はこの頑丈な体を容易に破壊する力を持っていますので加減して欲しいとの意味なのです。


「レイドさん!! もうそろそろ許してくれても良いのではないのですかぁ!?」



 俺の声が届いたのか。


 アレクシアさんが悲壮感満載の声で叫ぶ。



「じゃあ、この食材を当てたら解放してあげるよ!! いいよね!? カエデちゃん??」


「ふむ。面白……、それで構いません」


「今面白いって言いかけましたよね!? 何を口の中に入れるつもりなんですかっ!!」



 カエデが箸で持つ先には……。


 あれは何だろう?? 魚のヒレの唐揚げかな。


 兎に角、それをあ――んっと口を開いている彼女の口へ遠慮無しに放り込んだ。



「んぐ……。かふぁいですね。パリパリしてて……。分かりました!! 卵の殻です!!」


「残念。外れです」



 卵の殻を食べさせる人はどうかと思いますよ。



「えぇ!? 嘘だぁ!! 絶対嘘ですよ!!」


「私は嘘を付きません」


「見えないからってインチキしてませんか!? ――――。あ、そうだ!! レイドさん。レイドさんなら嘘を付きませんよね!?」


 いや、急にこっちへ振らないで下さい。


「自分も感情を持つ生物ですからね。嘘の一つや二つ付くことはありますよ」


「またまたぁ。私には嘘を付けないですものね??」



 何故アレクシアさん限定なのだろうか。


 恐らく、嘘を付けばまた空の彼方へ誘拐するぞと此方を脅迫しているのであろうさ。


 温かな毛布をきゅっと握り締め、不退転の姿勢を保持しているとルーが足音を立てずにやって来た。



『レイド、レイド』


 左の前足を耳打ちする様な姿勢で上げるので、それに倣い右耳を傾けてあげた。


『レイドはアレクシアちゃんの近くで声だけ出して』


『声だけ??』


『そうそう!! 後は私が何とかするからさっ!!』



 その何んとかが多大に気になるのですけども……。


 仕方が無い。


 一族の女王様をいつまでも椅子に括り付けておく訳にはいかんし。解放へと繋がるきっかけを与えましょうかね。


 毛布を椅子に掛けて大変重たい腰を上げると、ルンルンっと尻尾を振るルーの後に続いた。



「お待たせしました」


「レイドさんっ!!」


 今までとは違い、随分と陽性な感情が籠められた声色を放つ。


「えっと……。あ、これ??」


 カエデが手に持つ箸を受け取るフリの声を出す。


「今から、口の中に入れますので開けて頂けますか??」


「えへへっ。はいっ!! あ――んっ!!」



 う、む……。何だろう。この胸の中に湧く謎の高揚感は。


 目隠しをされた女性の口に物を入れる状況が特殊なのか、将又。アレクシアさんの潤った唇が橙の明かりに照らされて淫靡に映っている所為なのか。


 そのどちらか一方が此方に得も言われぬ感覚を与えた。


 ルー達が楽しむのも無理は無いかな。そして、俺の声を合図と捉えたのか。


「……っ」


 ルーが後ろ足で器用に立ち、何んと二足歩行でアレクシアさんの下へと向かい始めるではありませんか。


 狼は二足歩行が可能なんだな……。勿論、野生の狼は四足歩行ですけども。


「まだですかぁ?? レイドさんっ」


「もう直ぐですよ。動いたら駄目ですからね??」


「は――いっ」



 言葉を閉じて再び口を開く。


 そして、これを絶好機と捉えた一頭の狼の鼻が彼女の口腔へと突撃を開始した!!



「ふぁ!? ふぁにこれぇ!?!?」


「とおおっ!! どう!? 狼の鼻だよ――!!」


「しょ、しょっぱい!! それに、うぷっ。獣臭いですぅ!!!!」


 でしょうねぇ。狼さんの唾液は非常に獣臭いですから。


 それを越える物体を直接口の中に捻じ込まれたら誰だって咽ようさ。


「ひっどぉい!! 私臭くないもんっ!!」


「舌を……。うぶぶ!? 入れないでくださぁああい!!」


「「「あはははは!!!!」」」



 師匠達が居ない事を良い事に皆さん楽しんでおりますねぇ。


 まっ、俺もこの雰囲気は嫌いじゃ無いけどさ。



「あ、あはは……。ルー、それ位で良いんじゃない??」


 皆の陽性な笑い声につられ、体調不良の体もそれに呼応して喉の奥から笑い声を放出。


 この場に良く似合った明るい笑みを零し続けていた。















 ◇




 黒き闇よりも暗い漆黒の虚無が私の体を侵食しようと画策して周囲に蔓延る。強き精神力で何度も打ち払おうがそれは幾度となく復活を遂げて私を醜い暗黒の世界へ誘おうとしていた。


 視界が捉えるのは闇の只一点、鼓膜に届くのは一切の無音。


 私の精神世界は正に虚無と断定して構わない程に黒一色に染まっていた。


 だが、虚無の中にもたった一つだけ五感を刺激する存在がある。それは……。



「そろそろ屈服したら如何です?? 妾は気が長い方ではないのでぇ」



 私の聴覚を悪戯に刺激するこの憎たらしい声だ。


 何も見えない、何も存在しない闇の中から神経を逆撫でする声が耳に届いてしまった。



 そうでしょうね。貴女は気色悪い粘着質な性格ですから。



「はぁんっ、辛辣ですわぁ。折角、高みへと昇る力を譲渡しますと言うておりますのにぃ」


 それは貴女の勝手な都合で御座いましょう??


「んふふぅ。そう、正解ですわぁ。妾がこうしてアオイの体の中に再び産まれ落ちたのも何かのえにし。妾と二人で人生を謳歌しませんと、後悔してしまいますわよ」



 貴女とでは無く、私は……。



「彼と歩みたいとぉ?? アハハ!! 良くもまぁそんな戯言を言えましたなぁ!? 妾の願いを叶える処か。恐れ慄き、恐怖から身を守る為己の殻に閉じ困っている者が放つ台詞ではありませんわよぉ!?」



 う、五月蠅い!!


 いい加減にその口を閉じなさい!!



「それは無理というもの。妾はそなたの一部。そなたが妾の世界に足を踏み入れた以上。ここから解放される為にそなたには義務が発生するのですわぁ。その義務を果たすまで、妾の声はずぅぅっと、未来永劫続くのですわぁ」


 この精神を病む声が、心の力が失われて行く闇がずっと続くの??


「そぉ。あの者を殺めるまで続きますわぁ。辛いですわよね?? 解放されたいですわよねぇ?? 逃げ出す事も、踏み留まる事も出来ぬ状況を打破したいですわよねぇ??」



 精神を蝕むこの声から逃れたい。恐怖心を増長させる闇を払拭したい。


 どこに居ても、何をしていても頭の中で響く邪悪な声を遮断させたい……。


 数十日間にも亘って暗き闇を懸命に打ち払っていた私の精神は砂粒が接触した程度の力で崩れてしまう程脆く、そして荒んでしまっていた。


 レイド様……。私は一体どうしたら良いのでしょうか……。


 私に闇を払拭する力を与えて下さいまし……。



『あははは!!!!』


 何処からともなく聞こえて来る陽性な声が煩わしい。


『レイド――!! これ楽しいよね!!』



 私の大切な彼の周りに咲く華共が憎い。


 彼は……。私だけのもの。他の誰にも渡したくない素敵な宝物なのですわ。



「そう……。そうですわぁ。きっと彼もいつものアオイを待ち侘びています。さ、あの鉄を手に取り。彼とアオイ。二人で幸福に染まった人生を謳歌するのです」



 レイド様。


 私の大切な……、レイド様。


 彼と二人、手を繋ぎ歩めたらどれだけ人生が華やぐ事か。私は……。そう、彼を狂い求めているのですわね。


 突如として闇の中に浮かんだ一縷の光の筋。


 この果てし無く続く虚無を打ち払う為、私はそれを微かな希望の光と捉えて手を伸ばしてしまった。



















 ◇




 夜の闇が横着共を早く寝かしつけようとして懸命に手を伸ばそうとするが、彼女達が放つ眩い光は容易く闇の手を打ち払う。


 上限を感じさせない明るい雰囲気は野営地の上空を覆う天蓋状の結界を通り抜け、黒い雨雲が広がる空を突き抜けて夜空に光り輝く星の女神達の下へと送り届けられてしまった。



 きっと星達も今頃は寝ようにも寝れずに顔を顰めているのだろうさ。


 大いなる申し訳無さが募るが、もう少しだけこの明るさに付き合って頂ければ幸いです。


 こうした何気無い状況が長く苦しい訓練によって積もり積もった疲労を緩和させてくれるのだから。


 友と過ごす憩いの時。とでも言えばいいのか。


 深い絆で結ばれた友との時間は真に貴重であると再認識出来たな。



「はは!! ルー!! お代わりだってさぁ!!」


「ユウさん!? そんな事言っていませんよぉ!?」


「えぇ!? 私の舌のお代わりが欲しいの!? も――……。私もね?? 女の子と舌を絡めるの……。恥ずかしいんだよ??」


「絶対そんな事思って……。んん――!! ふぁれか助けてぇ!!」



「「「あはははは!!」」」



 この場に居る誰もが口を開き体の中から沸き上がる陽性な声を宙へと解き放っていた。


 只一人の存在を除いて。



 アオイ、まだ野営地の淵なのかな。


 友に迷惑を掛けてはいけない、そう考えたのか。彼女は精神の鍛練を受け始めてから今に至るまで交わす言葉は必要最低限の量に留め。


 俺達から距離を取り、たった一人で体内の御先祖様と向き合っているのだ。


 その状況を自分に挿げ替えてみると……。


 凶姫さんと四六時中対峙する事になるのか。



『血の滴る人肉――!! 裂きたてホカホカのはらわたが食べたい――!!!!』



 とてもじゃ無いけど精神、並びに体が五体満足で居られる自信はありませんね。


 口を開けば無理難題を叫び、師匠との戯れが余程気に入ったのか。隙あらばまた体を交換しないかって提案してくるし……。


 空を飛ぶあの感覚は何物にも代え難い素晴らしいものだが。本日、その行為で痛い目に遭ったので暫くは飛びたくないのが本音で御座います。



「はは……。ふぅ――、ちょっと笑いつかれ……」



 目の端から零れ落ちる雫をそっと拭い一呼吸を置いて何気なく視線を泳がすと、闇の中に何かが存在している事に気付いた。



「……」



 あれ?? アオイ、どうしたのかな……。



 茫然自失の美しい顔が野営地の中を照らす橙の中に朧に現れた。


 覇気の無い表情、無感情に動かす足、そして……。僅かに赤く染まった瞳。


 覚醒に至ったのかと刹那に考えたが。それだとこの状況を説明出来ない。


 ユウ、カエデ、アレクシアさん。


 覚醒に至った物は皆等しく強き力を解放したのだが、椅子に座るユウとマイの背後から霞の様に歩み来る彼女には力処か。


 生そのものを感じ取れない。


 あの場に存在しない偽りの姿。


 素直に感じたのはこれだ。



「…………」


「ぎゃはは!! 鳥姉ちゃん!! お代わり食っとけ!!」


「そうそう!! いつも全然食べてないから今日くらいは食べなきゃ駄目だぞ――!!」



 マイの真後ろで歩みを止めても、当の彼女と隣に居るユウは彼女の存在に気付かず此方を見て口を大きく開いている。



 あ、あれだけの距離で気が付かないなんて異常だぞ。


 状況が飲み込めず、一切の呼吸を捨てアオイの行動を見守り続けていると。



「……っ」



 彼女が音もそして気配も立てずに右手を振り翳した。


 そしてその手に握られていたのは…………。人を殺める事を可能にした鉄の塊であった。



 お、おいおい!! う、嘘だろ!?



 嫋やかな右手は微かに震え、深紅に染まった瞳はマイの背只一点に焦点を定めている。


 そこから想像出来る惨状は赤子の手をひねるよりも容易い。



『アオイ!! 止めるんだ!!』



 最悪な未来を想像した体が咄嗟に反応。


 口から言葉が出るよりも先に、両の足と体が輝かしい未来を守る為に動いた。


 風よりも速くそして音をその場に残す勢いで駆け始め、その勢いを保ったまま長机を飛び越え。


 輝かしい太陽にも匹敵する笑みを奪おうとする非情の刃の間に、何の躊躇いも無しに右手を伸ばした。























「――――――――。ア、アオイ。正気に戻ってくれ……」



 今のは本当に……。本当に危なかった!!!!


 視線を泳がせていなかったら今頃、俺の右手を貫いている刃がマイの心臓に突き立てられていた筈だから。



「レイド!?」


 ユウが咄嗟に椅子から立ち上がって此方に駆け寄り。


「主!! 大丈夫か!!」


 リューヴが駆け寄って傷口を確認してくれた。


「だ、大丈夫だから。それより、アオイの心配を……」



 大量に出血する右手を抑えて地面に情けなく跪き、アオイの顔を見上げた。



「い、嫌……。そ、そ、そんな……」



 恐怖からか体が細かく震え。



「アオイちゃん!! 何するの!?」


「ち、違いますわ。こ、これは……」


 右手に持つ包丁を手放し、己の右手に付着した俺の血を愕然とした瞳の色で見つめていた。


「アオイ……。貴様、事と次第によっては許さんぞ!!」


「やめろ!! リューヴ!! アオイ、俺は大丈夫だから。な??」



 憤怒を解放したリューヴと、混乱と恐怖で顔を歪めたアオイの間に割って入り仲裁するが。



「レイド様……。こ、これは嘘ですわ……。わ、私が大切なレイド様を……。い、嫌だ……。嫌ぁぁああああ――――ッ!!!!!」



 怯えた声を残して雨が降りしきる闇の中へと駆けて行ってしまった。



「レイド、傷口を見せて」


 カエデが傷口を確かめてくれようとするが。


「そんなのは後でいい!! アオイ待ってくれ!!」


 机の上に置かれていた手拭いで適当に傷口を巻き、アオイが消えて行った闇に向かい脚力を解放して向かって行った。




「――――。ねぇ、何があったのよ??」



 何かきっめぇ蜘蛛が来たと思いきや。あの馬鹿タレが手を抑え。


 そんでもって気色悪い声を放ちながら去って行った蜘蛛を追っかけていってしまったのだ。


 御米ちゃんと魚ちゃんを食べていたのに、突如として訳の分からん状況が発生すれば目をパチクリさせんのも当然よ。



「あのな?? もう少し慌てろよ。お前さん、もう少しで殺される所だったんだぞ??」


「ふ――ん。――――――、はぁ!?」



 我が親友の唐突な衝撃発言に思わず咽てしまった。


 この天才的な私が殺される寸前だっただと!? 有り得ないだろう!!



「後ろから忍び寄って来たアオイに……。アレでグサっ!! っと刺される寸前だったんだよ」



 ユウの視線を追うと、カエデが持つ包丁に目が止まった。


 鋭い刃先から柄の根本に掛けてベットリと赤い血が付着し、それがボケナスの傷の深さを物語っている。



「レイドが血相を変えてこっちに飛んで来たかと思えば……。あれだもんな」


 つまり、ユウが説明した通りだと私はあの馬鹿タレに守られたって事になるわね。


「仕方がありませんよ。この場に居る全員がアオイの存在を確知出来なかったのですから」



 カエデが淡い水色の魔法陣から流れ落ちる水で包丁に付着した血液を洗い落としながら話す。



「そうだ。魔力処か微塵も殺気を感じなかったぞ」


「リューも感じなかったんだ。アオイちゃんの力、強いから動けば直ぐに分かるんだけどねぇ」



 狼二頭が話す様に私も蜘蛛の力を感知出来なかった。


 アイツが攻撃を受け止めて始めて気が付いた。そんな感じだ。



「それよりも二人の後を追わなくていいんですか!?」



 椅子に縛られたままの鳥姉ちゃんが叫ぶ。


 ってか、まだ刑の執行中だったんだ。いい加減解放してあげれば良いのに……。



「あぁ、大丈夫だと思うよ――」


「ルーが話す通り、レイドに一任します」



 ほぉん、カエデの口から一任すると出ましたか。



「誰も気が付かない彼女の存在を彼だけが捉えた。つまり、彼だけが彼女を見付ける事が出来たのです。私達が出て行ってもそれは付け焼刃みたいなものですからね」


「了――解。私はこの御飯を食べ終える義務があるからね。後は任せた!!」



 丼さんにこんもりと盛り上がる白米を箸で掬って口の中へと迎えてあげる。


 はぁん、美味しっ。



「お前さんはもう少し緊張感を持て」


「いでっ!!」


 ユウの怒りん坊の拳が脳天に突き刺さると豪快に舌を噛んでしまった。


「しょうがないでしょ!? これはあんた達が残した御飯なんだから!! 何ならユウが食べてみる!?」


 まだまだ沢山の白米が残る丼をずいぃっと翳すと。


「いや、いらん」


 右手ですいっと押し戻されてしまった。


「でしょう!? だから私はこうするのよ!!」



 ガガっと米をかっこみ。


 おかずの塩気を続け様に迎え入れて米の甘味と混ぜ合わせてやった。



 しかし、これでアイツに命を救われたのは三回目か。


 一回目は余計なお世話だったけども、今回のは彼女達の表情を窺う限り相当危険だったんだろう。


 まっ、でも?? あの包丁で刺されても生き残る自信はあるのよねぇ。しかも蜘蛛の腕力でしょ?? 余裕よ、余裕――。


 咀嚼中の米を飲み込むより簡単だって。


 事件の事もあってか、先程までの明るい雰囲気は霧散。沈黙と雨音だけが周囲に響く……。



「あ、あ、あの――……。状況も状況ですのでそろそろ解放してくれても宜しいのでは無いでしょうか??」



 基、鳥姉ちゃんの懇願が虚しく響く中。私はこの雰囲気を邪魔しないようにお行儀よく食事を続けていた。


お疲れ様でした。


本日は日曜日のルーティンを終えるとプロットを執筆。その途中、何故か無性に辛いラーメンが食べたくなってしまい愛車に跨りちょいと出掛けて参りました。


お昼を少し過ぎていた所為もあってかすんなりと着席出来てたっぷり辛みを満喫してきました。


話しは変わりますが、皆さんは二郎系ラーメンを召し上がった事はありますか??


経験不足な私は食した事が無いのですが一体どんな味、そしてどれ程の量なのか。とても気になっている次第であります。


車一人旅中に出会ったらフラっと立ち寄ってみようかなぁ――っと思っていますが。とんでもない量を提供されたら後悔してしまいそうですよね。



それでは皆様、引き続き休日を楽しんで下さいね。


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