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第三百七話 風は嵐を呼び、嵐は悲鳴を呼ぶ

お疲れ様です。


週末の夜にそっと投稿を添えさせて頂きます。




 体内に籠る熱を放出する為に少々長めの吐息を吐き出し、体表面の熱を冷ます為に湿った大地にコロンと横たわる。


 他者から見ればだらしない恰好と捉えられてしまうかも知れませんが、今の状況考えるとこの姿勢が最善なのです。


 自堕落擬きの姿勢を保持していると体の奥に存在する心を痛めてしまう熱波、そして体を傷付けていた熱が徐々に冷めて来る。


 疲労と憤慨、更に付け加えると歯痒さ等々。


 心を傷付けてしまう大量の負の感情が籠った巨大な塊を吐き出すと幾分か気分も晴れますよね。


 しかし、本日は雨模様な事もあってか。


 幾ら負の感情を吐き出しても直ぐに負の感情が積もってしまい私の小さな口ではとてもじゃないけど体内環境を整理整頓する為の空気循環は滞りなく遂行出来なかった。



「はぁぁぁ――……」



 此処へ来てからもう何度目だろうなぁ、溜息を付くの。


 本来ならば人に見られたく無い姿ですが。ここにいる者は私よりもお強い方々ですので構いませんよね。


 それに。



「だ――っ!! 触ったら駄目って言われてんのにどうしてお前さんはあたしの体に触れようとすんだよ!!!!」


「す、少し位なら触れたって良いじゃん!! ユウのお尻すんげぇ触り心地が良いんだから!!!!」



 私の存在はこの人達の中では物凄くちっぽけな存在ですし……。



 ユウさん、可哀想だな。マイさんにずっと横着を仕掛けられて。


 二人共良く訓練場の上で喧嘩をしていますがあれは好きの裏返しみたいなものですし。私も良くピナと言い合いをしているのでマイさんのお気持ちは理解出来ますよ。


 普段の視界が九十度変化した視界の中で深紅に追われ続ける深緑を見つめながら再び空気の循環を開始した。



「アレクシアちゃん、どしたの?? 大きな溜息なんかついちゃって」


 金色の瞳を宿した一頭の狼さんが私の目の前にちょこんとしゃがむ。


 何だか犬のお座りみたいですね。


「流石に堪えるなぁって思っていたんです」



 正真正銘の本心を伝えてあげる。勿論、フワフワの狼さんの頭を撫でながらです。



「あぁ、はいはい。疲れちゃったんだね。もう――ちょっと下かなぁ――」


「疲労を通り越して今ではもうどうとでもなっちゃえって感じです」


「だねぇ。あ――、違う違う。そこじゃないよ――」


 下と言ったので首元を撫でたら怒られてしまいました。


「レイドだったら言わなくても的確に撫でてくれるのになぁ」



 レイドさんだったら、か。


 常日頃から行動を共にしている。恐らくそういう事ですので理解出来ますが……。どうして、ルーさんの『気持ちの良い場所』 を的確に理解しているのでしょうか??


 一度じっくりと問い詰めた方が良いのかな??


 あ、でも。嫌われたくないし……。


 悩みの種がまた一つ増えてしまって疲労感が更に増してしまった。



「休憩は終わりよ――。さぁさぁ指導の続きをしましょうか!!」



 訓練場の中央。


 そこから太陽よりも眩しい笑みを浮かべたフィロさんが小走りでやって来てしまった。


 あの屈託のない笑み……。疲労が積もったこの体には大変堪えます……。



 今から遡る事数時間前。


 フィロさんから古代種の力の制御の指南を受け始めた。


 指導中に伺ったのですがどうやら彼女も私と同じく古代の血を受け継いでおり。制御の方法が大変似ていると仰っていましたね。


 同じ境遇に身を置く者同士だからこそ分かり合えると考えていましたが……。己の精神力の脆弱さ或いは体力的脆さが響いて未だ覚醒には至っていない。


 折角私の為に時間を割いてくれているのに何だか申し訳無い気持ちが募っちゃいますよ。



「休憩終わりだってっさ!! 行こっ!!」


「あ――。もう少し休みたいなぁ――」



 フィロさんへ駆け寄ろうとする狼さんの背中にちょっとだけ我儘を言ってみた。



「怒られるから駄目だよ。ほら、こっちこっち!!」


「あぁ――、引っ張らないで下さいぃ――……」



 狼さんの顎がクワっと開くと訓練着の腰当たりを食まれ、少し湿った土の上をズルズルと引っ張られてしまう。


 どうせ叶わないと願った言葉ですからね。別に気にしてはいませんよ……。



「あはは。変わった登場の仕方ね」


 灰色の狼に引っ張られながら登場する女性なんて滅多にいませんからね!!


「はい、じゃあさっきまでの続き!! アレクシアちゃん、覚醒の為に精神を集中させましょうか」


「分かりました……」



 ブツブツと文句を言ってもここではどうせ通用しませんし。


 更に高みへと昇ってしまったカエデさんとユウさんの背中に少しでも追いつく為、私も頑張ろう……。


 それとこれは完全に私の観測的希望ですが。覚醒に至る力を得たらレイドさんが褒めてくれるかも知れませんし??


 ちょっとしたご褒美目掛けて突き進むのも悪くないと思うのですよ、えぇ。


 そして体力的にも精神的にもこれが本日最後となりそうなので気合を入れて行きましょう!!



「ふぅ――……。では、行きます!!」



 湿ってちょっとだけ冷たい土の上にお尻を乗せ、足を折り曲げてあの怖い声に耳を傾ける事にした。



「そう……。良いわよ?? そのまま集中して」



 フィロさんは心の声を撥ね退けるなと仰いましたが、私にとってこの声は大変嬉しくない光景と痛みを与えて来るのですよ。



 目を瞑り、深い呼吸をゆっくり続けていくと……。暗闇の中に目を背けたくなる卑しい光景が広がってしまった。



『レイド……。んっ……』



 私のベッドの上で二人の男女が新しき命を紡ぐ為に愛の営みを繰り広げている。


 藍色の髪の女性が黒髪の男性の唇を貪る様に食らいつき彼も彼女の愛に応え、か細い体を力一杯に抱き締めた。


 男性の腕に刻まれた無数の傷、それと対照的に映る女性の白き肌がより一層淫靡に映る。


 男女の営みは無数に繰り広げられている普遍的な光景ですが、これが私の知る人物達だと話は違う。



『あっ……』



 傷だらけの腕が彼の上に跨る女性の臀部へ移ると女性でも色を覚えてしまう甘い声色が小さく漏れた。


 その音が彼の欲情を刺激したのか。


 彼が腰を突き上げると彼女は嬉しそうに顔を赤らめ彼の愛を体で受け止めてしまった。



 もう……。嫌だ……。


 何で、どうしてこんな酷い光景を見なきゃいけないのだろう……。


 己の醜い嫉妬に耐えきれず思わず視線を足元へ落とし、体の奥から湧いて来る何かを誤魔化す為に力一杯拳を握ってしまった。



『あなたの心が嫉妬を生み出しているのよ??』



 そんな事は分かっています!!


 誰にでも嫉妬という卑しい心は存在するでしょう!?


 背後から届くもう一人の私の声に対して叫んでしまった。



『心を焦がす愛が嫉妬に代わり、燃え滾る嫉妬が強さを与えてくれるの』


 卑しい心に身を任せろというの??


『そう。あなたは素晴らしい力の持ち主よ。狂おしい程強い愛によってあの子にも勝てる力を得る事が出来るわ』


 あの子……。カエデさんにも??


『そうすればきっと彼は認めてくれるわ』


 ううん、彼はそんな事では認めてくれない。心強き者を認めてくれるんだ。


『違うわ。彼は絶対的強者を求めているのよ』



 いいえ!!!! 違います!!


 優しい彼はそんな恐ろしい力なんて求めていません!!


 私は知っています!! あの優しい瞳の奥に宿る温かい心を、そして友を想う春の陽気にも似た嬉しい心を!!


 私は、そんな彼を……。



『だったら!! 彼の周りにいる者に嫉妬を抱いているのは何故なの!?』



 それは私が人として普遍的な心を持っているからです!!!!


 陽性な感情もあれば陰性な感情もある。当然でしょう!? 私は女王であると同時に、一人の女性なんですから!!



『女性は優秀な男を求め、男性も優秀な女性を求める。あなたが彼女達に勝てる算段は皆無よ』



 私は彼ではありませんからそれは分からないじゃないですか!!


 例え選ばれなくても彼が選ぶ者には祝福を与えます。そして……。それが私であって欲しいと願う気持ちは本心です!!



『無様ね。負け犬の遠吠えにも聞こえますよ??』



 あなたにはそう聞こえるかも知れませんが、私にとってこれが精一杯の気持ちです。


 彼は傷付き倒れながらも里を救ってくれた。血を流しながらも私を救ってくれた!!


 二度も私を救ってくれた彼に対して見返りを求めるのは酷です。


 見返り……、じゃあない。愛を求めるのは非情です……。



『負けを認めるのね??』



 負けは決して認めませんよ。


 私はこう見えて負けず嫌いでして……。彼が私をそして卑しいもう一人の自分であるあなたも。


 嘘偽りない全ての私を見つめてくれるその日まで決して諦めませんっ!!!!



『強情なのね』



 皆さんは私の事を真面目で大人しい優等生だと思い込んでいますけどね。


 本当の私は我儘で、強情で、強い嫉妬の持ち主なのです。


 彼が他の女性に視線を移すとムっとするし。優しい笑みを向ければ抓っちゃいます。


 でも、それは愛の裏返し……。私に気付いて欲しいから行う行為なの。



『あなたは……。変わったわね。昔のあなたなら既に心が折れている筈なのに』



 強くなったとは思いません。


 認めてしまったとでも言いましょうかね。痛い心も、弱い心も、そして卑しい心も全部自分の一部なのだと。



『そう…………。じゃあ、視線を上げて御覧なさい。そこに映るのは……。真の愛よ』



 もう一人の私の声を受け取ると勇気を振り絞り足元へ移してしまった視線をベッドに戻す。



 そこにはカエデさんでは無く本当の私が居た。



『も、もう少しゆっくりでお願いしますね……』


『え、えぇ。分かりました』



 レイドさんに見つめられ顔全部が真っ赤に染まるも、それは決して羞恥から来る熱さでは無い。


 彼の本物の愛に反応して体が熱を帯びているのだ。


 彼と手を合わせて唇をそっと合わせると心の中で何かが弾け飛ぶ。


 温かい……。これが愛なのかな??



『愛故に苦しむのも、心焦がす愛に悶え打つのも。それは決して……』



 負の感情からでは無い。


 真の愛だから……。



「――――。そうよね?? もう一人の私さん??」


 心温まる行為を行っているベッドから漆黒の闇が広がる背後へ振り返った。


「そうよ、もう一人の私」



 闇の中から恐ろしい力を携えた私が目の前に現れる。


 瞳は憎しみで真っ赤に染まり体中から恐ろしい魔力が滲み出て暴風を身に纏う。


 彼女が腕を一つ振れば暴風が巻き起こり森が震え、背に生える白き翼が羽ばたけば大地が揺らぎ、美しい飛翔を見せれば空が割れる。


 森羅万象に多大なる影響を及ぼすもう一人の私に対して、私は臆することなく彼女の前へと歩み出た。



「ごめんね?? 認めてあげられなくて……。気付いてあげられなくて」



 醜い私を認める事でそれが私の嘘偽りのない本心だと認める事が恐ろしかったのだ。


 私に必要なのは負の部分を拒絶するのでは無くて……。私の一部として認容する事。


 負の感情を持つ自分もまた自分の一部。それを全て含める事で真実の私が完成するんだ。



「陽と陰は表裏一体。私達の間で境界線を引く事であなたは心を保っている」



 もう一人の私が此方へ向かって手を翳す。それに呼応して手を差し出して合わせようとするが……。


 見えない壁によってそれは叶わなかった。



「白と黒は混ざり合わない。溶け合って、崩れ落ちてしまから……」



 ううん、もういいんだ。


 私はあなたを此方側へ迎えてあげたいの。


 物悲しい表情を浮かべるもう一人の私に向かって、私は勇気を振り絞って力を解き放った。



 体の奥から光が溢れ出して見えない壁を徹底的に破壊し尽くし。私達の周囲を包む闇を打ち払う。



 そして、壁の向こう側から此方に向かって手を伸ばす私の手を取り。本物の愛の力で抱き締めてあげた。



「温かい、ね??」


 腕の中で僅かに震えるもう一人の私から感じる心が私の疲弊した心を温めてくれる。


「ありがとう。認めてくれて」


「ごめんね?? 認めてあげられなくて」


「ううん。私の本質は深い闇だから……」


「それでも私だもん。大好きなもう一人の私だからさ」



 悔恨、恐怖、嫉妬。


 負の感情で震えて怯える私を肯定し、熱い愛で全てを包み込んであげた。



「さ!! 皆が待っていますし!! 本当の私を見て貰いましょうか!!」


「きっと彼も驚くと思うよ」



 あはは!! 褒めてくれるかも知れませんね!?



「その時は私達であの笑顔を独占出来るね」


「うんうん!! 強引に捕まえて空高く飛びっちゃいましょうか!?」


「それは嫌われる」



 あ、うん。


 ですよね……。



「ふふ。じゃあ、行こうか」


 もう一人の私が私の腕の中から離れ、静かに両手を前に翳すと。


「うんっ!! 行こう!! 何処までも一緒に!!」



 私は何の躊躇いも無しに翳された両手に己が手を合わせた。


 白と黒が混同して燃え上がる熱い心が体温を一気苛烈に燃焼させる。これが……、本当の私なんだ。



「………………」



 肌に感じる湿気を含んだしっとりとした空気、鼻腔を擽る優しい森の香り。


 そして何処からともなく聞こえて来る友人達の明るい声。


 精神の世界から現実の世界へ舞い戻った事を、五感が私に教えてくれた。



「アレクシアちゃん、どんな感じかしら」



 フィロさんが警戒した声で私に問う。


 彼女が警戒する理由は前回の暴走の件があるからでしょう。



「すぅぅぅ――……。ふぅっ……。はいっ、お陰様で制御する事に成功しましたよ」



 そっと静かに瞼を開くと私から少しだけ距離を取っている彼女に普段通りの口調で朗報を伝えてあげた。



「おめでとう!! よく頑張ったわね!!!!」


「は、はいっ!! フィロさんの御蔭で上手く出来ました!!」



 差し出されたフィロさんの手を掴んで軽快に立ち上がる。



「わぁっ!! アレクシアちゃん目が真っ赤だよ!?」


 一頭の狼さんが耳をピンっと立てて驚いてしまった。


「ふふ。これが本当の私ですよ?? 怖くありませんよ――??」


「そっか!! おぉ……。本当だ、甘い匂いは変わんないね!!」



 大きな黒い鼻をむんずと近付けてスンスンと体中の香りを嗅がれてしまう。


 ここには女性しか居ませんから良いですけど、恥ずかしいから匂いの感想を言わないで下さい。



「凄い魔力ね。暴走した時とは桁違いじゃない」


 フィロさんが驚きを隠せないといった感じで私の顔を見つめる。


「そうなのですか?? 自覚はありませんが……」


「試しに飛んで来てみなさいよ。きっと、世界が変わるから」



 世界が変わる、か。


 そう言われては仕方がありませんよね!! 沸き起こる力が早く飛び立てと叫んでいますし!!



「では……。早速!! はぁっ!!!!」



 新たなる力を試そうとする期待感に呼応する様に背に白き翼が出現。


 私はフィロさんが仰った通り何の遠慮も無しに自由の風を身に纏った。



「びゃああああ――っ!! ちょっとぉ!! 急に強い風を起こさないでよ!!」


「おらぁ!! 鳥姉ちゃん!! 風が強過ぎて真面に立てないから他所でヤレや!!!!」


「あはっ。ごめんなさ――い!!」



 纏った風が強過ぎてルーさんがコロコロと面白い恰好で転がって行ってしまいました。


 まだちょっと加減が難しいですね……。


 さて!! ここではマイさんが叫んだ通り人に迷惑が掛かりますのでぇ。誰にも邪魔にもされない大空へと飛び立ちます!!!!



「行って来ますね!! はぁっ!!」


 白き翼を一つ羽ばたかせると強き風が私の体を浮かせ。二つ翼をばたかせれば大空へと……。


「いたぁっい!!!!」


 大空へと到達するかと思いきや、訓練場の上部に張られていた結界に頭をぶつけてしまいました。


「あはははぁ!! アレクシアちゃん!! ドジだねぇ――!!」



 むっ!!


 忘れていたのは事実ですがドジと言われる程間抜けでは……。いやいや、間抜けな人は頭を打ちませんよね。


 ですが!! 今現在の私は自分の失敗を帳消しにする力を携えているのですっ!!


 こんな薄い結界。なぁんの障害にもなりませんっ!!



「ふぅっ!!」


 魔力を更に強めると岩を断ち切り大地を削る風の刃を颯爽と身に纏い。


「あっ!! こらぁぁああ!! 結界に穴を開けるなぁ!!」



 エルザードさんの声が聞こえた気がしますが、特に気にする事無く結界を豪快に切り裂き大空へと飛び出た。



「んんっ!! 雨粒が冷たいです!!」



 折角私の新しい力をお披露目する大事な時間なのに……。この鉛色の雲は似合いませんよね!?


 皆さんもきっと突き抜ける青空を求めている筈ですからね!!


 雲の高さと肩を並べ、雨粒舞う鉛色の中で天へと両手を掲げた。



「空を舞う数多風立つ力よ、空の女王が命を下す。我に遵従し空を穿て!!!! 嵐凱狂ストームランペイジ!!」



 吹き荒ぶ風を全て従えて両腕から旋風を全方向へ放出。


 風の女王の凱旋を祝うに相応しい光景へと強制的に変換してあげた。


 青き空から降り注ぐ目に痛い光、体を濡らす大雨粒は心地良い風へと変わり。島の周囲は一気に曇天から好天に変化。


 島の大地と森が美しい光に照らされ、海の爽快な青が心に更なる陽性な気持ちを沸かせてしまった。



 上空で吹く横着な風が私の髪を揺れ動かすと静かに息を吐きながら髪を整える。



 はぁ……、うんっ!! 良い風です!!


 故郷の風が一番しっくりきますけど、ここの風さん達も良い音を奏でていますね。


 でも、何かが足りないような気もしません??


 この物足りなさを例えるのなら、無味のおにぎりさんでしたり。全く甘味の無い蜂蜜さんでしたり。


 もっと具体的に例えるのならぁ、女王の帰還を祝う王様だったり??


 唇に人差し指を添えて足りな何かを思い描いていると。



「アレクシアさ――ん!! 島が壊れてしまうのでもう少し静かに風を巻き起こして下さ――いっ!!!!」



 砂浜に立つ一人の小さな人間が此方に向かって大きく手を振っている姿を捉えた。



 あ、レイドさんだ。


 何を言っているのか聞こえませんが恐らく私の成果を祝う為に手を振っているのでしょう!!


 つまり、足りないものは……。私が女王で彼が王様??



『良くやったな、空の女王よ』


 はぇ??


『女王の帰還を祝わない王は存在しない。私はこの時を待ち侘びていたのだ』


 気高い服を身に纏った彼が私の手を取り王座へと誘う。


『私にはお前が必要なのだ』


 お、お前ぇ!?


 よ、呼び捨てで呼ばれた事も無いのに。それを通り越してお前呼ばわりなんて!! 大胆ですよ、王様!!


『女王よ、此れからも私は共に同じ道を歩んで行くぞ』


 玉座に座る私の前に跪き、そして手を取ると優しく手の甲に口付けを交わしてくれた。



 あ、あはは。


 妄想もここまで来ると笑えてきますね。


 ですが!! いつかそうなるかも知れませんので?? 強ち妄想で終わる結末では無いのかも知れません。


 自分の努力で勝ち取るのですよ、輝かしい未来は!!



「レイドさぁぁあん!! 今からそっちへ行きますねぇ!!!!」



 前へ、前へ向かって飛べと湧き立つ翼が私の背を後押しすると強力な嵐を身に纏って砂浜へ向かって飛び立った。


 上空から砂浜まで凡そ一キロ?? 程度でしたが。私は瞬き一つの間に砂浜へと到達。



「ちょ、ちょっとぉおおおお!!!! 待って下ぁぁああさ――――いっ!!」



 何やら驚いた顔を浮かべる彼の胴をぎゅっと掴み、誰にも邪魔されない上空へと誘った。



「レイドさんっ!! 私、やりましたよぉ!!」


「な、何がですか――!!!!」



 猛烈な風に負けない様に叫ぶ彼の悲壮感にも似た悲痛な叫び声が鼓膜に届く。


 何で痛そうな声を出すんだろう??


 こんな素晴らしい速度で飛翔しているのに!! 早々いませんよ?? これだけの速度で飛翔する生物は!!



「ほら、見て下さい!!」


 腕の中に収めてある彼の黒い目を真っ直ぐに見下ろすと。


「あ、あぁ!! おめでとうございます!! やりましたね!!」


 私の想像の二つ上を行く笑みを向けてくれた。


「有難うございますっ!! あはっ!! やったぁ!!」



 レイドさんが褒めてくれた。レイドさんが笑ってくれた!!


 簡単な事なのに私の心はたったそれだけでも喜びを破裂させて心臓が五月蠅く鳴り響いてしまう。


 こんなに嬉しいのは久しぶりです……。


 喜びを表現したがりの私の体は彼の体を抱えたまま、空高く急上昇し。



「ぐ、くぅ……。うぉぉおおっ!?!?」



 続け様に急下降。


 海面スレスレで飛んでいると。



『っ!?』



 気持ち良く海の上を跳ねていたイルカさんと目が合ってしまいました。


 あはっ!! ごめんね?? 驚かせちゃって。


 イルカさんが黒い目をきゅっと見開き、私達の飛翔を祝う様に大きく一つ跳ねてくれた。



「ありがとう!! イルカさんっ!! さぁ、レイドさんっ?? もぉっと速く飛んじゃいますね!!」



 イルカさんにキチンとお礼を述べ、更に速度を上昇。


 私達は一つの光の筋となって素敵な大空の中を自由に飛び回っていた。



「いぃっ!? こ、これ以上は流石に……」



 むぅっ。


 どうして嫌がるんですか?? 中々体験出来ませんよ?? 女王の飛翔は。



「だ――めっ。私が満足するまで速度は緩めませんからねっ」


「ア、アレクシアさん。申し上げ難いのですけども先程から視界が黒く狭まって……。何だか意識がフワフワするので一旦速度をお、落として頂けないかと」



 わっ!! また丁寧語だ!!



「レイドさんっ?? 今は私と二人きりなんですよ?? こういう時こそ、呼び捨てで呼ぶべきでは??」


 私の胸の中で目を白黒させている彼を見下ろす。


「無理です」



 そ、即答ですかぁ!?



「じゃあいいです!! レイドさんが呼び捨てで呼んでくれるまで速度を上昇し続けますから!!」


「そ、それは勘弁して……。い、い、いやぁぁぁぁああああ――――ッッ!!!!」



 彼の悲鳴をその場に置き去りにする速度で青く黒い空へ向かって急上昇すると、ずぅっと下に鉛色の雲海が現れた。


 うんっ!! 良い景色ですね!!


 ここなら誰にも迷惑を掛けませんし、全力で飛翔しても文句は言われないでしょう!!


 翼にそして体全体に夏の嵐を越える強力な暴風を身に纏い。


 私達は夜空を横切る流星がポカンと口を開けてしまう速度で地平線の彼方を目指して旅立って行ったのだった。



お疲れ様でした。


間も無くWBCが開幕しますね!!


本日は日本代表と中日ドラゴンズが練習試合を行ったのですが……。ん――……。


日本代表としての結果はあまり芳しく無かったようですね。


この時期に体を仕上げるのは本当に難しいと思いますが、本日の結果を真摯に受け止めて次回の登板に繋げて欲しいですね!!


まだまだ花粉の季節が続きますが頑張って乗り越えましょう!!



それでは皆様、良い週末をお過ごし下さいませ。

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