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第三百六話 受け継がれし技と技術 その一

お疲れ様です。


本日の投稿になります。




 矮小な光さえ見出せない暗闇の中に逞しい雨音が響き、馨しい花の香りの中にちょっとだけ獣臭が入り混じった匂いが鼻腔をやんわりと刺激する。


 上空から降り注ぐ雨によって全身は既にびしょ濡れ、されど頭部だけは沢山の尻尾によって守られ濡れずにいた。


 骨を折る勢いで首に強く絡みつく一本の尻尾と体に巻き付く何本かの尻尾によって己自身の意思で体は制御出来ず、尻尾の意思によって地面の上を引きずられ続けている。



 一体いつまでこの姿勢を保持すれば良いのやら……。



 軌道の確保に必死になっていたから時間の経過は曖昧だが、訓練場で拘束されてから凡そ十分以上だろうか。


 その間、フワモコの尻尾が俺の首と体をグイグイと締め付けていた。


 十分以上も生命を継続させていられる己の頑丈な体を素直に褒めるべきなのか、それとも一切の有無を言わせず強制的に移動させられている事を嘆くべきなのか。


 最適な答えを導き出す為、相対する意見が頭の中で激しい主義主張を繰り返しているがどうやらその答えが出る前に目的地に到着するみたいですね。



「んふふ――。もう直ぐじゃな――」



 師匠の声色と踵に感じる感覚が明らかに変化したので、体と頭は暗闇の中に居ながらも砂浜に到着したのだと理解した。



「到着じゃ!!」


「あいだっ!!」



 尻尾の拘束から漸く解除されると湿って重たい砂粒達が仲良く転がる砂浜に倒れ込み、新鮮な空気を肺一杯に取り込んだ。


 はぁ……。苦しかった……。



「師匠。ここで一体何を??」



 俺の予想通りに強い雨が降りしきる中、全身ビチャビチャに濡れた姿のままで問う。



 新しい技を拝見出来ると伺ったのだが……。態々砂浜にまで来て披露する必要はあったのだろうか??


 どうせなら雨風が凌げる落ち着いた場所で心の奥に響く素晴らしい技を拝見したかったのが本音であります。



「先も述べたじゃろう。新技を見せてやると」



 師匠の声が真剣そのもののに変化すると尻尾が九つに増加。


 普段の三つの尻尾の時の幼さを残す女性の姿は消え、代わりに世の男性全てが肯定してしまうであろう美しさと妖艶さを兼ね備えた大人の女性が現れ。



「広い場所でなければ見せてやれぬからこうして移動したのじゃよ」



 心温まる笑みを浮かべて俺を見下ろした。



「は、はぁ……」



 広さが必要という事はそれだけ広範囲に影響を及ぼす技なのだろう。


 我が師が直々に披露してくれる技に心ときめくのだが、一つ心配の種が心の中でぽっと咲いてしまった。


 師匠が大人の姿で広範囲に影響を与える技、或いは魔法を解き放つ。彼女の近くでその技を見届ける必要がある俺にまでその余波が襲い掛かっては来ないだろうか??


 余波ならまだしも生命活動を停止させてしまう程の熱波が届いたらどうしましょう……。



「ふふんっ。自分に恐ろしい厄災が降り注ぐのでは?? そんな顔じゃな」


 師匠が俺の前にちょこんとしゃがみ込み、人差し指をピンっと立てて額をツンっと突く。


「その御姿で披露すると仰いましたからね。億劫になるのも致し方無いかと」


「安心せいっ!! 遠くで炸裂するように加減してやるからな!!」



 さ、炸裂?? これ以上俺の心に不安を煽る言葉を使用しないで下さいよ。


 師匠と違って俺の心は意外と臆病者なのですから。



 美しい微笑みの余韻を宙に残すと遠い彼方から砂浜へ届くさざ波の下へ向かって進む。


 これから何が開始されるのやら……。


 砂浜の上にキチンと足を折り畳み、固唾を飲み込んで様子を見守った。



「レイドや。極光無双流の戦い方、それは当然理解しておるな??」



 この世の誰よりも頼れる背中から太い声色が此方に届く。



「はい。己の魔力を拳に宿して戦闘に臨む事です」


「超接近戦に身を置く戦い方を想定した戦闘方法じゃ。儂らには遠距離に居る相手を穿つ方法は無い。そう思うておるじゃろ」


「え、えぇ。肯定します」



 敵陣の後方に位置する魔法使い相手にはすこぶる相性が悪い戦闘方法だと時折感じる事がある。


 接近戦に活路を見出す俺は当然ながら放出系の魔法を不得手としていますので致し方無いと半ば諦めているのだ。


 足りない物は鍛え抜いた己の肉体と精神で補えば良い。


 恐ろしい威力の魔法で幾度となく跳ね返されようが、距離を取られようが決して諦めない鋼の精神を胸に持ち猪突猛進を心掛ける。


 熱き魂を宿した拳で前衛を突破、そして敵陣奥深くに陣取っている敵の指揮官を撃破して勝利を収める。


 これこそが俺の理想とする戦闘方法であり、師匠が俺に求めている理想像なのかも知れないな。



「儂はそれを覆す為に試行錯誤を繰り返して血の滲む様な修練を重ねた。その結果……。はぁぁああっ!!」


「うっ!?」



 師匠の内から滲み出る魔力が爆ぜると上空から降り注ぐ雨粒を霧散させ、更に雨粒を吸収した砂浜の重たい砂が師匠を中心として四方八方へと吹き飛んで行く。



「己の内に迸る魔力と闘気を体外に放出する事を可能としたのじゃよ!! 儂の一挙手一投足を見逃すでないぞ!! 良いか!?」


「は、はいっ!! 師匠!!!!」



 師匠が肉体、果ては魂まで削って生み出した技だ。俺には真摯に受け止めなければならない義務が発生する。


 師匠の覇気ある声を受け止めると背骨全てを天に向けて伸ばして覇気ある声で答えた。



「ふぅぅううう……。はぁあああああっ!!!!」


 師匠の体から四方八方に放出されている魔力が徐々に体の中へと収縮され。


「ずりゃああああ!!!!」



 魔力の扱いが稚拙な俺にでも分かる馬鹿げた量の魔力の源が白い発光体となって体の中央に出現。


 そして、体の中央の発行体から右腕へと魔力が静かに移動を始めた。



「ゆくぞ!! 極光無双流の名の下に!!!!」



 体の真正面に右腕を翳して左腕を交差。己の内から迸る魔力を限界近くまで高めていく。


 その右腕には今にも暴発寸前の魔力が籠められており膨大な力の制御が困難なのか。僅かばかりに痙攣が起こり此処からでもそれを確認出来てしまった。


 師匠の腕でも制御が困難な力……。


 それだけの量の魔力と闘気があの右腕に詰まっている。もしも、俺があの量の魔力を右腕に積載したらどうなる事やら。



『う――ん……。多分、ばぁん!! って破裂しちゃうね!!』


『凶姫さん。大事な時間ですので少し静かにして頂けますか??』


『なぁんか楽しそうな事が起こっているなぁって気になったからさ!! 大人しくしてるから私にも見せてね!?』



 静観を続けてくれるだけで儲けものかしら。


 頭の中に響く陽性な声を無視し、師匠の背中へと全ての神経を集中させた。



「心に映す透き通った水面、一糸乱れぬ我が魂魄……。だが、この拳は燃え盛る業火の如くっ!!」



 素早く構えを解き、腰を深く落として腰の位置に両の拳を置き。遥か前方に位置する幻の敵へと標的を定めた。



「はぁぁぁぁ…………。砕け!! 不動の山を!!」



 桁外れの強い魔力と闘気を体の中で合一するが、その全てを体内に留める事は難しいのか。


 師匠の体から溢れ出る力が灼熱の熱波となって出現してこの体を焦がす。そして時が経過する毎に右腕が金色に輝き始め、あの腕に籠められた魔力が今にも破裂してしまいそうだ。



「穿て!! 蒼天を!!」



 交差させていた左腕を前へ、そして足を大きく前後に開き右拳に全魔力を結集させると大地が、島が微かに振動を開始した。


 う、嘘だろ!? 大地が揺れ動いているぞ……。


 あれが師匠の本気、か。


 憧れと敬意の念を籠めた瞳で光り輝く彼女の背中を見つめていた。



『おぉ!! 凄い魔力だねぇ!!』


『凶姫さんが居た時代でも通用しますかね??』



 あれだけの力が通用しなければ、恐らく今の時代に生きる者の力は古の時代では通用しないであろう。


 それだけの力と圧なのだ。



『当たればね!! いやぁ――。器用に魔力を留めるなぁ。あぁして、こうして……』



 着弾させればの話、か。


 戦いの際、相手は黙って突っ立ている訳ではない。あの技は止めを刺す時に使用する、又は刹那に出来た隙を穿つ技であろう。


 それは俺の立場にも当て嵌まる。


 敵性対象が俺に止めを刺す為に乾坤一擲となる一撃を穿とうとして力を溜める。退路を断たれ、残す力も極僅か。


 崖っぷちも崖っぷちの状況下に追い詰められた盤面をたった一撃でひっくり返す為には大技が必要になる。


 今の俺には生憎そんな大それた技は備わっていない。


 恐らく師匠は多くを語らずともこの身にそれを刻み込めと技を通して伝えてくれるのだ。



「天に光り輝く極光の名。地に轟くは無双の拳っ!!!! 迸れ!! 我が武の結晶!!」




 金色に光り輝く師匠の体から刹那に強烈な発光が迸り周囲を照らすと……。島の振動がピタリと止んだ。



 く、来るぞ!! 師匠の全ての動作をこの目に焼き付けろ!!


 決して見逃すなよ!?



「極光無双流奥義ぃ!!!! 破山天穿掌はざんてんきゅうしょう――――ッ!!!!」



 師匠が金色の右腕を振り抜くと同時に美しき黄金の光の塊が海の彼方へと飛翔。


 光の軌道が海を割り、海面から桁違いの量の飛沫が舞い上がり雨粒の中に混ざり合って空から降り注ぐ。


 光の道を遮る者全てを薙ぎ倒す力の塊が地平線の彼方へと光が到達すると。



「おわぁぁああっ!?」



 円蓋状に光が迸り、それから遅れて轟音と衝撃波が此方に到達した。



 す、す、凄い……。


 数キロ先へと此方の攻撃を、威力を損なう事無く到達させるだけでは無く。あの円蓋状に広がった光を見る限り広範囲の敵を滅却する事を可能とした技だ。


 衝撃的な光景に只々言葉を失い、空か降り注ぐ雨粒に打たれながら馬鹿みたいに口を開けて静かに佇む師匠の背を眺めていた。



「我が拳、天下無双の一撃なりっ!! ふむ……。中々の出来じゃったか」



 師匠が構えを解くと拳に残る金色の残留魔力を払い、地平線の光が徐々に収まって行くのを満足気に目を細めて眺めている。


 俺は心の中から湧く陽性な感情に駆られるままに立ち上がり師匠へと駆け寄った。



「し、し、師匠!!!! す、素晴らしい技でした!! 自分は……。猛烈に感動しております!!」



 まだ熱さが残る師匠の手を両手で握り、己の丈った想いを一切の装飾を加えずに叫ぶ。



「そ、そうか」


「今の所作、魔力と闘気の宿し方。そして、技名。確とこの胸に刻み込みました!!」



 極光無双流奥義、破山天穿掌。


 いつか、必ず会得してみせるぞ!!



「う、うむっ。この技はな?? 相手が……」


「止めを刺す時。或いは隙を狙って放つ技ですよね!?」



 驚いて一歩身を引いた師匠へ三歩近付いて話す。



「そうじゃ。極限まで高めた魔力と闘気を己が内に宿し、一気苛烈に解き放つ。見ていて理解したじゃろうが荒ぶる力を移動させるのが……。みぃっ!?」


「困難なのですよね!? 体の中央から右腕へ……。その途中で消失しては無意味ですから。いやぁ、これ程までに感激した技はありませんよ!!」



 何故か顔を赤らめる師匠へと顔をグイっと近付けて口を開いた。


 あれだけの大技だ。今でもその熱の余韻が御顔に残っているのでしょう。



「方法は学んだ。こ、こ、ここからは生かすも殺すもお主の気概次第じゃ。それを努々……。ひぃっ!!」


「心得ております!!!! 時間は掛るかも知れませんが、師匠が生み出した技ですからね。一番弟子である自分が会得してみせます!!」



 体と体の距離を零にして師匠の両手を更に力強く握って誓いを立てた。


 そうだ、そうだよ!!


 俺の為に態々貴重な時間を割いてまで見せてくれたんだ。決意を語るのは当然でありそしていつの日か……。


 師匠が満足気に頷いてくれるその日の為に俺は今この時からより一層鍛錬に励む義務があるのだ。



 くそう……。


 嬉し過ぎてどう表現したらいいのか分かんないや。



「きょ、今日から儂が直々に魔力の宿し方を指導してやる。厳しい指導になるかも知れぬがお主はそれを成し遂げなければ……。ぃいっ!?」


「有難う御座います!! 粉骨砕身!! 例え己が身が砕けようとも必ずや師匠の厳しい指導に耐え抜いてみますのでこれからも温かなご指導ご鞭撻のほどを……!!」



 師匠の鼻息が明確に聞こえてしまう超近距離から聞く人によっては土台無理な話にも聞こえる決意を心の限りに叫ぶ。


 た、たったこれだけの言葉じゃこの嬉しさを表現する事は出来ん!! もっと熱き言霊を叫ぶぞ!!



「も、もうよい。十二分に理解したから……。うひゃぉ!?」


「いいえ!! まだ足りません!! 師匠は俺が目標とすべき人なんです!! 師匠が仰られた様に自分はこれからも……!!!!」



 俺の熱き魂を冷まそうとして曇天の空から大雨が絶え間なく降り注ぐが……。ふふっ、この程度の雨量じゃ燃え上がる心を鎮火させる処か逆に火を油を注ぐ様なものさ。


 大自然の猛威を己が力に変え。


 端整な御顔そして獣耳の先まで満遍なく真っ赤に染まってしまっている師匠の両手をぎゅっと掴み、熱き想いの丈を咆哮し続けていた。



お疲れ様でした。


今日は異様なまでに温かったですよね。そして、遂にあの症状が現れてしまいました……。


そう、花粉症です!!


鼻が詰まり、喉がチリチリと痛み、目がジンっと痒くなる。正真正銘の花粉症に悩まされる日々が始まってしまいました。


薬を飲んで誤魔化していますが果たしてそれがいつまでもつのやら……。



ブックマークをして頂き有難う御座います!!


花粉によって萎んでいた気持ちがグっと元気になりました!!!!



それでは皆様、お休みなさいませ。

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