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第三百二話 覚醒に至る者共 その一

お疲れ様です。


本日の前半部分の投稿になります。




 凍える空気を口から大きく吸い込めば肺が凍てつく痛みで顔を顰め、失った体温を保とうとして迸る熱が体内から沸き上がる。


 耳を澄ませば狼の美しき遠吠えが聞こえて来そうな静かな空気の中で一人忸怩たる思いを胸に抱き拳を強く握った。


 戦士の震える魂を持ち聳え立つ壁へ勇猛果敢に立ち向かうがいとも容易く跳ね返されてしまう。



 くそう……。私の力はこんな矮小な物なのか。



 雷狼の血を受け継ぐ傑物達の力を痛感、そして改めて己の不甲斐無さを再確認すると体の中に残る僅かな力を振り絞り高く積もった雪の中から顔を覗かせた。



「どうした?? 戦士よ。貴様の力はその程度か」



 体の前で屈強な腕を組み、悠々とした姿で私の無様な姿を見下ろす男性が小さく言葉を漏らす。


 肩口から迸る赤き閃光が空気を揺らし、彼の圧に怯えた風が静かに吹く。


 粉雪舞う白銀の雪原に佇む姿が何んと似合う事か……。彼は幾度となく敵を屠り、こうして敗者を見下ろしたのだろう。



「私はまだ……。戦える!!」



 勝者足る佇まいに怯えるな、恐れるな!! 前を向け!!


 痛みと疲労で悲鳴を上げる情けない体に檄を飛ばし、震える足を御しつつ大地へ足を突き立ててやった。



 瞬き一つの間に姿が消える凄まじい移動速度、卓越した戦闘技術、そして強者が持つに相応しい熱き魂。


 純粋な戦闘の結晶体、とでも呼べばいいのか。正に手のつけようの無い戦士だ。


 私も幾度と無く訓練を重ねてそれを血肉に変えて高みへと登ったと考えていたが……。


 長い歴史に数多存在した戦士達の高みにはまだ到達していなかった。


 それ処か、私が高みと考えていた位置は彼等の麓に到達しているのかさえ怪しい。


 これだけの力の差を見せつけられたらそうも考えよう。



「ほお……。俺の攻撃を真面に食らっても魂が折れる処か立ち向かう闘志を燃やすとはな。流石、誇り高き雷狼の血を引く者だ」


「あはは!! やるねぇ、リューヴ!! 私達と真正面から相対してここまで頑張った人は早々いないよ??」



 彼の直ぐ後ろ。長い白銀の髪を揺らしつつ青き稲妻を纏う彼女が話す。



「い、いたたぁ……。リュ、リュー。大丈夫??」


 直ぐ後ろから情けない声が背に届く。


「安心しろ。四肢はまだ動く」


「ごめんね。私がヘマしたからリューが怪我しちゃって……」



 先の攻撃の事か。


 思わず魅入ってしまう息の合った連携攻撃にルーが遅れを取り、隙だらけの馬鹿者へ必殺の一撃が襲い掛かるがそれを遮断。


 立て続けに攻撃を画策するが……。


 私の攻撃を予測していたのか、彼は黒き雷を纏った私の攻撃を風に揺れる柳の様に躱し。大地を揺れ動かす赤き雷を纏った拳を私の腹部に突き刺した。


 五臓六腑全てが焼け焦げても不思議ではない破壊力が刹那に意識を彼方へと遠ざけ、降り積もった雪の中へと吹き飛ばされてしまった。


 我ながら……。良く立ったものだ。



「気にするな。貴様の失態は常に計算に入れている」


「そ、そういう事言うの!? 私だって本当に頑張っているんだから!!」


「それは貴様の主観だろう。私から見ればまだまだ奮闘する余地はある」



 神狼の片割れである彼女が放った青き雷によって肌の一部が焦げ、至る所に打撲痕が残る我が半身へと言ってやった。



「酷い!! いいもん!! 私一人で何んとかするんだからっ!!」


 それが出来たら私は既に勝利を収めている。


「一人で向かう気か?? 止せ。何も出来ずに只敗北するだけだ」



 負けるのならまだ許容範囲だ。


 彼等が放つ数え切れぬ猛打の雨。その中に含まれるたった一つの雨粒を真面に食らえば死に至る。とてもじゃないがルー一人では歯が立たぬだろう。



「やってみなきゃ分かんないでしょ!!」


「分かる。貴様一人では勝てぬのだ」



 蟻一匹が人間一人に勝てぬ様、確固たる道理は覆せない。


 しかし、それは矮小な蟻一匹の話。群体となり人が恐れ戦く量で立ち向かえば勝機はある!!


 己の四肢全てを駆使して乾坤一擲の雷撃を打ち込んでやるぞ!!



「我々は二身同体で生まれ落ちた。数奇な運命だと自分でもそう思う」


 先行するルーと肩を並べ、凛として構える彼等の方を捉えつつ話す。


「そう、だね。皆は普通に一つの体だもんね」


「これを弱みと捉えるな。勝機と捉えろ」


「どういう事??」


「彼等を見て気付かないのか?? 語らずとも攻撃を合わせ、視線一つで互いの意図を汲み取る。あの身のこなし、攻撃方法こそが我々には必要なのだ」



 恐らく彼等は常軌を逸した攻撃を通して我々に伝えているのであろう。


 実戦こそ最善の教え。訓練はあくまでもその土台であると……。


 父上にもいつかそう教えられた。



「成程ぉ!! ふふんっ。息の合った攻撃なら負けないもん!! 生まれた時からずっとリューと一緒だったし!!」



 ルーの折れかけた心に火が灯り、魔力が再燃。白き雷が全身を駆け巡り周囲の大気を焦がす。



「その意気だ。私も……。はぁぁああ――っ!! 負けていられん!!」


 ルーに負けじと魂を燃やして黒き稲妻を纏った。


「ほぅ……。白き雷、黒き稲光。正に雷狼の子孫と呼ぶべきか」


「カッコいいねぇ!! でもぉ。それだけじゃあ私達に勝てないよ??」


「「ッ!?!?」」



 我々の雷に応える様に、彼等の体から魔力が爆ぜると同時に青き稲妻と赤き稲妻が迸る。


 大地に積もった雪が稲妻の放熱によって消し飛び爆風が再燃したこちらの魂の炎を揺らす。


 ちぃっ!! やはりまだ上があったか!!



「わっ、わっ!! 凄い力だよ!?」


 襲い掛かる暴虐の限りを尽くす風を腕で防ぎつつルーが叫ぶ。


「死線を潜ってこそ得られる物があるのだ。物怖じするな!! 相手の気に飲まれるな!! 死にたくないのならな!!!!」



 襲い掛かる幾つもの稲妻と風の襲来を自身の魔力で相殺。


 黒き稲妻と赤と青の稲妻が触れ合うと周囲の雪が全て消失し黒い土が出現した。



「で、でもさ!! 今、それだけじゃ勝てないって言ったよ!?」


「それは後にしろ!! 殺されたいのか!!」



「「グルルルゥゥ……」」



 二人の神狼が腰を落として今にも襲い来る構えを取る。



「い、いぃ!? 嘘でしょ!? あの力のまま向かって来るのぉ!?」


「一手の間違いが死を意味する!! 死にたく無ければ私に合わせろ!!」


「わ、わ、分かった!!」


「「ウォォオオオオオオ――――ンッ!!!!」」



 美しき狼の雄叫びが空気を揺らし赤き稲妻と青き稲妻が爆ぜると堅牢な大地の欠片が方々へと飛び散る。


 恐れるな、迷うな、立ち向かえ!!


 私は襲来する二つの稲妻に不退転の構えを取り、黒き雷を纏い最大戦力で立ち向かって行った。



お疲れ様でした。


後半部分が長いので分けての投稿になります。編集作業が終了次第、投稿させて頂きますので今暫くお待ち下さいませ。

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