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第三百一話 海竜さん主催の報告会 その一

お疲れ様です。


本日の前半部分の投稿になります。




 昨日までの疲労が残る体を癒そうとしたら淫魔と龍に襲われ、激痛と疲労が収まらぬ内に朝も早くから釣りへと強制連行された。


 とてもじゃないけど有意義とは断定出来ない休日の終わりに、ちょっとだけ贅を尽くした料理をお腹が一杯になるまで詰め込んだらどうなるか??



 その結果は単純明快である。そう……。滅茶苦茶に眠くなっちまうのさ。



 きっと元気一杯なお子さんを持つお父さんは俺と同じ感情を持って床に就くのだろう。


 あぁ、子供の遊びに付き合っている内に短い休日が終わっちまう。ってね。


 折角の休日だってのに全然体が休まらなかったのが本音だ。


 だが、釣りに興じたり友人達との心温まる会話だったり。後、その……。横着な淫魔さんの整体のお陰か。心は随分と落ち着いてくれた。


 精神の訓練を受けてからは凶姫さんとの恐ろしい体験、若しくは聞きたくも無い人肉の味を聞かされ続け心が参っていたからなぁ。


 短い休日だったけど心に栄養を補給出来て荒んだ心を修復出来たのが幸いです。



「ふわぁぁ……」



 顎の関節が悲鳴を上げる角度まで大きく口を開き、新鮮な空気を肺一杯に取り込み。夜に相応しい静かな音が響く野営地の机の上にだらしない恰好で突っ伏す。


 あぁ……。今直ぐにでも眠れそうだ。このままちょっと一休みしようかしらね。



『あなたは疲れているのです。早く眠るべきなのですよ??』 と。



 俺の後頭部をヨシヨシと優しく撫でてくれる睡魔さんの誘いを受けて微睡んでいると、これを良しとしない御方から感情の籠っていない冷徹な声色が放たれた。



「私の了承も無しに眠ったら上半身と下半身がお別れしてしまいますよ??」


「は、はいっ!! 起きています!!」



 長机の斜向かい。


 今も静かに本を読む彼女から大変肝が冷える御言葉を頂き。上半身の角度を百八十度から直角に直して答えた。


 此方に向かって放たれたと思った御言葉であったが、どうやら俺の右隣りの御方も大変寛いでいた姿勢を保持していたようで??



「ッ!!」


 俺とほぼ同時にユウがガバっと上半身を起こし、未だ覚めぬ大きな目をパチクリさせていた。


「ふぁ?? あ、あぁ。なんだ。レイドに言ったのかよ」


「いいえ。あなた達御二人にです」



 カエデが静かにそう話して本を捲る。


 相変わらず此方に視線を向けないまま話す姿はどうしてこうも怖く映るのでしょうか??


 恐らく彼女には何があっても逆らえないという立場の差を無自覚の内に理解しているのでしょう……。



「あはは!! いや――。お腹一杯だと眠くなるじゃん?? それに日頃の疲れも溜まっているし」



 一箇所を除き、いつもと変わらぬ快活な笑みでユウがそう話す。



「ユウ。涎が残っていますよ」

「ふぇっ!?」


 カエデの冷静な声を受け取ると頬がぽぅっと赤く染まり、右手の甲でグシグシと口元を擦る。


「んだよ。気が付いていたんだったら起きた時に言ってくれればいいじゃん」


「ユウも一応女性です。乱れた身嗜みは直ぐに気付くと考えていましたからね」


「あっそ。――――――。いひっ」



 ユウの右隣り。


 椅子の上に狼の姿で器用にお座りをして、顰め面を浮かべつつ目を閉じているリューヴを見付けると何やら悪巧みを思いついた顔を浮かべた。


 悪い顔だな。


 リューヴに手を出して仕返しを食らっても知らないぞ??



「……」



 涎を拭いた右手の甲を静かに、そして音を極力立てずにフワフワの灰色の毛へと近付けていく。


 まさかとは思うけどリューヴの体毛で拭い去るおつもり??


 高級な毛皮店でも扱われていない高貴な狼の毛並まで後少し。


 完全無欠の勝利を掴み取った笑みで粘度の高い液体を接着させようとするが……。それを良しとする程彼女は抜けてはいない。



「――――。ユウ、命が惜しいのならそれ以上手を近付けるな」


「ぬぉ!! へへっ、流石リューヴ!! 気が付いていたか」


「貴様の邪な感情は分かり易い。目を瞑り、小皿の上に乗る矮小な小豆を箸で摘まみ上げるより容易く感じ取れるぞ」



 そっちの方が難しい……。あぁ、それより簡単って事か。


 いかんな。まだ頭が起きて来ないぞ。


 簡単な言葉を理解出来ない微睡む頭を覚醒する為、少々大袈裟に頭を横に振ってやった。


 うむっ!! 大分目が覚めて来た!!


 漸く話を聞く態勢を整える事に成功すると正面から女性らしい柔らかい笑い声が届く。



「ふふ。レイドさん、起きたての猪さんみたいですね??」


「猪の寝起きの姿を見た事がありませんので分かりかねますが……。まぁ、目覚めは悪い方かも知れませんね」



 柔和な笑みを浮かべるアレクシアさんにそう言ってあげた。



「なぁ――。マイ達は未だなのかよ」


「少々遅いな。あの馬鹿も帯同しているのだ。道草を食っているのかも知れぬ」



 ユウの言葉に片割れの強面狼さんが顔を顰める。



 今から遡る事凡そ三十分?? 一時間?? 覚醒と睡眠の狭間に身を置いていたので正確な時間は計れないが。大まかの時間はそれ位であろう。


 師匠達が湯に出掛けるとほぼ同時。



『皆さん、お疲れの所申し訳ありませんが少々お時間を宜しいでしょうか』



 カエデの提案……。いや、ほぼ強制に近いな。顔、滅茶苦茶怖かったもん。


 有無を言わせない頑とした態度で俺達に召集を掛け。皆の覚醒に対する進捗具合を一度確認し合おうとして野営地のほぼ中央に位置する長机に皆が集まったのは良いが。



『マイちゃんが御花を摘みたいそうですっ!!』


『言うんじゃねぇ!!』


『あいだっ!!!!』



 狂暴龍がお惚け狼さんの頭に派手な拳骨を見舞い、ふわふわの尻尾をぎゅっと掴んでここから北北西に位置する便所へと引きずって行ってしまった。


 彼女達が戻り次第、話を開始しようとしていたのだが……。待てど暮らせど足音の一つも聞こえやしない。


 リューヴが話した通り何処かで道草でも食って悪戯に時間を消費しているのさ。



「確かに遅いよな」


 右手で頬杖を付き淡い橙の明かりの先にある真の闇を見つめて話した。


「カエデ、あいつらの位置は今何処だ??」


 鋭い翡翠の瞳が藍色の瞳を捉える。


「御安心を。間も無く到着しますよ」



 リューヴの問いから数秒後。


 無数の星達が煌めく美しい夜空を台無しにする喧しい声が聞こえて来た。



「ごめんね――!! 夜道のお散歩が楽しいから遅れちゃった!!」


 金色の瞳の狼がアレクシアさんの右隣りに座り。


「わりぃわりぃ。お惚け狼が大量に水分を放出していたから遅れたわ」



 俺の左隣りに深紅の髪の女性が男らしい角度で椅子に着席した。


 も――ちょっと慎みを覚えた座り方をしなさい。



「ちょっと!? 沢山出していないもん!!」


 お惚け狼さんの尻尾がピンっと反り立てば。


「ははは!! そうやって取り繕うって事が何よりの証拠よ」



 龍の軽快な笑い声が夜空へと昇って行く。


 このままじゃ話の延長線上としていつもの喧噪が召喚されてしまう。誰かがその延長線をプッツリと断ち切らないと……。


 そう考えて口を開こうとしたが。



「お喋りはそこまでです。明日に備えて早めの就寝を心掛けたいので早速報告会を開きたいと思います」


 俺の代わりにカエデが普段よりも数段低い声で報告会の開始を告げてくれた。


 ごめんなさいね?? いつもちょっと遅くて。


「皆さんも周知の通り、私達は大変特異な環境の中に身を置いています」


「ねぇ――。カエデちゃん、特異ってなぁに??」


「普通とは違ったという意味です。心の奥底に眠る彼等との初対面を果たした、又は再会してしまった。現在の環境の変化の原因は火を見るよりも明らかです。この変化に対応しなければならない理由。それは……」



 そこまで話すと、ふぅっと息を吐き。



「滅魔達に勝利を収める為です」



 意を決したようにハッキリとした口調で言葉を放った。


 その再戦に備える為、必要最低限の装備を受け取る為に此処へと来た。


 だが、その装備が難攻不落の要塞の中にキチンと仕舞ってあるのです。取り出そうとしても防がれ、弾かれ、剰え命を落としかねない。


 自分が持つべき装備だというのにその装備で己の身を焦がしてしまっている。言い換えれば……。


『諸刃の剣』


 とでも呼ぶべきか。


 容易く扱える物であるなと、己の中に存在する傑物共が咆哮しているのですよね。


 全く……。難儀な課題だ。



「再戦に備え、ここに居る者はすべからく研鑽を続けております。そこで共通の課題に取り組む者同士。情報の共有が大切だと考えに至ったのでこうして皆さんの大切なお時間を頂いた次第です」


「成程ねぇ。じゃあ、夜食を食べる時間が惜しいし。私からちゃちゃっと進捗具合?? って言えばいいのかしらね。それを話してあげるわ」


 マイが腕を組み、ちょっとだけ真剣な表情を浮かべて口を開く。


「私の場合は……。何んと言うか。主に互いの好みの食事の話をしているわね」


「「「……」」」



 あぁ、はいはい。


 そんな意味を含めた肯定の頷きを皆が見せた。



「んで。私に課せられた課題は前も言ったけどぜんざいが求める食事を提供する事よ。これがまた難しくてさぁ!! アレを食っても、コレを食っても美味いとは言うんだけど……。違うって言いやがるのよ!! あぁ、くそう……。思い出したら腹が減って来た」



 腹が立って来たの間違いでは??



「ふむ。つまり、進捗具合は芳しくないと??」


「そ。ぜんざいの好きな食事を見付けるのにはまだまだ時間が掛かりそうよ」



 カエデの問いに最終返答を終えるが……。そのぜんざいって呼び名はなんとかならんのかな。


 ぜんざいって名前が既に食事の名前だから余計に混乱しちまうよ。



「次は俺が話すよ」



 マイの隣だし。


 このまま流れ的に右へ流れていけばいいでしょ。



「お願いします」


 カエデの声を受け、一つ頷いて口を開いた。


「俺の場合は……。対話に重みを置いて邂逅を遂げようと考えているよ」


「それで体を乗っ取られちゃあ本末転倒ですなぁ??」



 く、くそう!! こいつの揶揄いに言い返せない自分の実力不足が腹立たしい!!


 マイをじろりと睨み……。



「あ?? 何見てんだコラ」



 基。屈強な戦士をも慄かせてしまう恐ろしい目付きから速攻で視線を外して言葉を続けた。



「自分と凶姫さんとの人間に対する価値観の違いを少しでも合わせようとしているけども……。結果は惨敗です。どうあっても彼女は人間に対する価値観を変える気は無いそうです」



 人間は生殖兼食料の為に造られた動物。


 何でそんな家畜同然の動物がこの時代を跋扈しているのかが、不思議で仕方が無いらしい。


 違い過ぎる価値観を訂正するのは本当に骨が折れるよ。



「気になったんですけど。その凶姫さんって龍はどんな姿をしているのですか??」


「世界最強の武器を容易く跳ね退ける重厚な漆黒の甲殻、血よりも紅き瞳、口から零れ落ちる息は灼熱と化して大地を燃やし。背に生えた翼は一つ羽ばたくと山が削れる。そう言えば大体の想像は出来ます??」



 アレクシアさんにそう話すと。



「え、えぇ。とんでもないお化けさんですね」


 しどろもどろに体を揺らし、現在の精神の状態を分かり易い様に表へ現わして答えてくれた。


「俺の場合は皆と違って、邂逅を滞りなく済ませる必要は無いからね。寧ろ、遠ざけるべき力と呼んだ方が正確かも。お互いの考えを伝え合い、反芻。いつかお互いの価値観を共有し合えればいいと考えているよ」



 究極の目的としては凶姫さんの力を己がままに扱える様になる事なのだが……。それは叶わぬ夢だ。


 一端の画家が世界最強の剣士を目指す様に、無理難題なのです。



「次はあたしだな。ん――。何が進捗に当たるのか分からないけど。取り敢えず、あたしの中に居る御先祖様からは力の扱い方を習い続けているかな」


「ユウちゃんの可愛いお尻に喝を入れるんだよね!!」


「うっせぇ!! だが、まぁ……。尻の連呼は相も変わらずなんだけど」



 相変わらずなんだ。


 僅かに頬が朱に染まったユウの横顔を見つつ、彼女の話に傾聴した。



「初めて会った時は何だコイツはと辟易したんだけど。話して行く内にさ、色々とあたしに助言をくれるのよ」


「助言?? 尻の穴をどうやったら広げられるって??」



 マイが身を乗り出して俺の体越しにユウを揶揄う。



「違うわ!! 何て言ったらいいかなぁ。兎に角、あぁ成程ねって思わず頷いてしまう小言もある訳なのさ」


「進捗具合は良さそうですね」


「おう!! 後少しで溶岩の風呂にも入れそうだし!!」



『いや、それは無理』


 この場に居るほぼ全員が呆れた目でユウを見つめた。



「入ったら意外と気持ち良さそうに見えるんだよ。じゃあ、次はリューヴな!!」


 人の姿に戻ったリューヴの肩をポンと叩き、話を終えた。


「私の場合は……。そうだな。話合いもそこそこに、拳を交えているぞ」



 リューヴの場合は何となく想像出来たけど。


 本当にその通りだった。



「リューヴはどんな課題を与えられたの??」



 拳を交えて戦闘訓練に勤しんでいる事は聞いた。だけど、課題についての話題は聞いた事が無い。


 マイの様に無理難題を与えられのか?? 将又、赤子の手を捻るよりも容易い課題を与えられたのか。


 気になったのでそれとなく質問してみた。



「課題は特に与えられていない。強いて言うのであれば拳を交える事が課題だな」


「そうそう!! 私もそんな感じなんだよ!!」


 左の前足をシュッと上げてルーが同意する。


「自らを『神雷を宿し双狼』 と呼称している。その名に恥じない移動速度、一度拳を振り翳せば空気が蒸発し、烈脚を放てば空間が断裂する。素晴らしい力の持ち主だ」



 まるで自分の事の様に誇る姿からして相当な使い手なのでしょう。


 彼等の姿を思い出す様に目を瞑って頷いていた。



「ルーさんの中に居る御方もリューヴさんと同じ様に大変お強いのですか??」


「うん!! 強いのは強いんだけどね?? 戦いもそこそこに会話が弾んじゃってさ。やれ、あの服は可愛いとか。やれ、もっと可愛い下着を着けろ――だとか。女の子らしい会話に華が咲いているんだ!!」


「そ、そうなのですか……」



 愉快に話すルーに対し、若干の呆れた顔で狼の横顔を見つめるハーピーの女王様。


 訓練なのですからもう少々気持ちをですね。えぇ、そういう事なのです。


 ルーにそれを説いても明るく軽い性格から加味して、ほぼ確実に徒労に終わりそうだから説きません。



「貴様はもっと真面目に取り組め」


「えへへ――。努力するね――」



 二人の姿から察するに進捗具合は概ね良好ってとこか。


 問題があるとすればルーの方だな。リューヴが話した通り、真摯に取り組んで欲しいものだ。



「じゃあ次は私ですね!!」


 正面に座るアレクシアさんがむんっと両手に拳を作り少々荒い鼻息を放つ。


「私の場合、初めての訓練の時に力が暴走してしまい。マイさんのお母様に御迷惑を掛けてしまいました。大変申し訳ありませんでした……」



 反省の色を深く滲ませたお辞儀をマイに放つ。



「気にし過ぎだって!! 母さん言っていたわよ?? 久々に本気で体を動かせて気持ち良かったって」


「は、はぁ。それからは心機一転。醜い自分もまた自分の姿であるとの考えに至り、徐々にですが制御出来つつあります」


「やりますね。流石は一族を纏める御方です」



 アレクシアさんの才能に肯定する様に一つ大きく頷いた。


 カエデが素直に褒めるなんて、珍しいな。



「エヘヘ。カエデさんに褒められちゃった」



 俺と同じ考えに至ったのか。


 アレクシアさんも満更でも無い表情を浮かべて頬をポリポリと掻く。


 その仕草。結構似合いますね?? 年相応と言いますか、誂えたような姿と言いますか。


 普段は女王の肩書もあって本来の姿を呈する訳にもいかない。つまり、俺達の前だけ何の気兼ねも無く自分の姿を晒してくれているのだ。


 大変温かな感情を胸に抱き、今も小恥ずかしそうに照れている彼女の柔らかな表情を捉えていた。



お疲れ様でした。


現在後半部分の編集作業中ですので次の投稿まで今暫くお待ち下さいませ。

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