第三百話 せめぎ合う心
お疲れ様です。
本日の投稿なります。
空に浮かぶ元気一杯の彼が一日の中で最も高い位置から徐々に高度を下げる刻。
うだるような暑さは徐々に和らぎ地上で生きる者達は彼の落ち着いた陽射しを受け取ると活力を得て汗を流す。
強過ぎる光は時に体に悪影響を及ぼすのだが、優しい影が広がる森の中ではその心配は無い。
丁度良い気温が体を労わり、海から訪れた心地良い風が私の体の中を抜けて行く。
空から零れ落ちる明かりが大地の緑を照らして空を舞う鳥達の小声が耳を上機嫌にしてくれていた。
大変贅沢な環境の中で木の幹にもたれかかり、文字の海へと視線を泳がせる。
ふむ……。これこそ休日に相応しい時間ですね。
此処へ来てからというものの目に見えぬ時間が私を急かし続け、一日の体感時間がいつもの半分以下に感じてしまっている。
多忙な中で時間を見つけ、有意義な時間を過ごそうと考えているが……。ここに居るのは私だけでは無い。友人達にも温かい気配りをする必要があるので中々に時間が余らないのです。
文字の波からふと顔を上げる。
野営地の右奥の大きな木陰。
そこには一頭の狼さんが溜まりに溜まった疲労を拭おうと心地良さそうに丸まって睡眠を享受……。
「むっ……」
あ……。心地良さそうなのは訂正します。
時折、ぎゅっと眉を顰めて何やら口元を動かしている。恐らくあれはもう一人の方との会話を継続しているからでしょう。
そんな怖い顔を続けていると眉間に皺が出来てしまいますよ??
強面狼さんの辛苦で歪める顔から一転、己の左肩に視線を移すとそこには。
「すぅ……。すぅ……」
一人の美女が私の左肩に頭を乗せ、女性でもはっと息を飲む柔和な寝顔を浮かべて傷付いた羽を休めていた。
長い桜色の前髪が顔に掛かり呼吸に合わせて大きな胸が上下にゆっくりと動く。
休むのは一向に構いませんけど……。私の肩を枕代わりにする必要はあるのですか??
此処へ来てからの初めての休日。そして疲れている友人を起こすのも憚られますのでこのまま寝かしてあげましょう。
アレクシアさんが眠りに落ちるまでは取り留めのない日常会話やら、これまで培ってきた魔法に関する術式等。多岐に渡る会話を継続していた。
今、どんな本を読んでいるのですか?? と、聞かれたので。ありのまま本文を朗読すると。
『彼の腐り落ちた腕から嫌悪感を抱かせるドス黒く粘度の高い液体が零れ落ちる。薄汚い床に滴り落ちるその音を聞いた者達は皆一様に息を飲み、目に見えぬ恐怖によって心が支配されてしまった。そして損壊が激しい顔の口らしき場所が開くと……』
『止めて下さいっ!!』
小さな御口から拒絶の御声を頂き私は若干の物足りなさを感じつつ静読を続けた。
それから本を捲る音、小さな鼻息、空から零れ落ちて来る小鳥の囀りが彼女を夢の中へと誘い。心地良い昼寝に興じるまでそう時間は掛らなかった。
話し相手が居ないのもそれはそれで寂しいですけどね。問題は五月蠅過ぎるのは了承出来ない事かな。
鼓膜を悪戯に振動させる原因さん達は朝も早くから釣りに出掛けてしまっていますので、五月蠅くなりようが無いのが喜ばしいです。
アレクシアが浮かべる安寧の顔に陽性な感情が湧き、ふぅっと息を漏らして正面へと視線を向けた。
「……」
そこには白き髪を後ろで纏めて心静かに座禅の姿勢を取り、美しい円を描く目を横一文字に閉じた一人の女性が木と同化する様に存在していた。
アオイ……。大丈夫かな……。
精神の訓練を受けてからというものの彼女の様子が一変してしまっている。
彼との下らないやり取りも常にお腹を空かせている龍との喧しい喧嘩も鳴りを潜め。一人で物思いに耽り、時折苦しそうな表情を浮かべて何処かを見つめていた。
恐らく……。ううん。十中八九アオイの中に居る人と出会ってから何かが変わってしまったのだ。
私と同じく難題を提示されたのか将又内からの強力な力の影響を受け、それを制御する為に精神を研ぎ澄ませているのか。
大丈夫ですか?? と、問いかけても。
『大丈夫ですわ。私の問題は私自身が解決致しますので』
これ以上踏み込むなと。
拒絶にも似た意思を明確にして私の案ずる思いを断られてしまいました。
拒絶では無いか。
あれはきっと言えなくても言えない、助けを請おうとして請えない悲痛な事情があるのだ。
私は彼女では無いから本質は見抜けませんが、この仮定は真実に近い的を射貫いている筈。
もっと頼ってくれてもいいのに……。
それとも信を寄せても構わない友人だとは思われていないのかな??
彼女の力になれない悔しさと己の未熟から湧く不甲斐なさに心が沈んでいると東の森から私の心の空模様とは正反対の声色が聞こえて来た。
「あははぁ!! 沢山釣れたねぇ!!」
「だなぁ!! 晩飯のおかずに丁度いいだろ」
右手と左手に大きな桶を乗せたユウが先頭で野営地へと足を踏み入れその直ぐ後ろからルーが続く。
「あんまり揺らすなよ?? 魚は鮮度が大切なんだから」
彼女達から僅かに遅れて彼が肩に竿を三本担いで戻って来た。
ふむ。会話の内容からして釣果は良好の様ですね。魚は好物ですので嬉しい限りです。
未だ見えぬ魚の影に心を躍らせていると、アオイが静かにふと目を開けた。
「……」
ちょっと疲れ気味のレイドの姿を見付けると、ふっと目を細めて強張っていた肩の力を抜き。ほんの僅かに口角を上げて彼を澄んだ瞳で見つめていた。
その目はまるで恋人の帰りを待ち望み、温かい願いが叶った女性の瞳そのものであった。
彼の下へ歩んで行こうか。そして彼の胸の中へと飛び込み己を受け止めて貰おうか。
愛を知り、愛を望み、愛を乞う女性の姿を浮かべて腰を浮かそうとするが。
「主。帰ったか」
「只今、リューヴ。今晩のおかずを釣って来たぞ」
「リュー!! 結構沢山釣れたんだよ!?」
「ほぅ。ユウ、見せてみろ」
「あいよ――!!」
彼の周りに美しい花々が咲くと。
「…………」
その明るさから逃れる様に一歩身を引いてしまった。
いつものアオイなら何の遠慮も無しに彼の下へと駆け寄りどの花達よりも強き輝きを放ち昂る己の思いの丈を伝え、そして私もこの場に居る誰もが望むいつもの喧しい光景へと変容するのだが……。
それは叶わなかった。
本当にどうしちゃったんだろう。
友達が苦しんでいるのを看過出来る程私は薄情では無い。迷惑だろうけど何か力にならないと。
このままじゃ、アオイが……。
不穏な気配に気を病んでいるとこちらの気持ちを一切気に留めない陽気な塊が歩いて来た。
「あっはは――!! いやぁああ!! 私、大物の魚。釣っちゃったなぁ!!」
太陽も強烈な光をも彼方へと追いやる明るい笑みを浮かべてマイが花の輪へと加わる。
彼女が担ぐ竿の先端から伸びる糸には……。
「マイ。それは魚では無く、烏賊だ。先程まで泳いでいたのか?? 随分と鮮度が良いが……」
沢山の触腕を今も元気良く動かして己に伸び来るリューヴの手に墨を飛ばそうと躍起になっていた。
わっ、コウイカだ。
コリコリの食感と柔らかい舌触りが最高なんですよね。懐かしき食の思い出が食欲を刺激するがそれを容易く押し退ける事象が私の目に飛び込んで来た。
「……ッ」
マイの姿を捉えた刹那にアオイの顔が憎しみに染まり、殺意を籠めた瞳で深紅の花を睨みつけていた。
友人に向ける瞳では無い。
あの瞳は……。そう、倒すべき敵に向ける瞳だ。
殺意と憤怒。憎悪と激情。
彼女を知る者ならあの顔を見たら恐らく別人だと口を揃えて話すであろう。
それ程に醜く歪んだ憎しみの感情に染まってしまっていたのだ。
いけない。アオイ、その声に従っては……。
日常からかけ離れた恐ろしき表情を浮かべる彼女に声を掛ける為、腰を浮かそうとすると。
「何じゃ――。喧しいのぉ」
「あら?? お帰りなさいまし、レイドさん」
イスハさんとフォレインさんが訓練場の方角から現れた。
二人に視線を動かし、そして刹那にアオイへと視線を戻す。
「……」
良かった……。元に戻ってる……。
憤怒の欠片こそ僅かに残留しているが、私が想定した最悪の事態だけは回避出来そうな表情を浮かべている事にほっと胸を撫で下ろした。
「アレクシアさん。ちょっとごめんね」
「うぅん……」
心地良い昼寝を享受する彼女の頭を退かしてそっと地面へと横たわらせると重い腰を上げる。
「まぁまぁ……。色彩豊かな魚ですわねぇ」
「そうじゃな!! 晩飯が楽しみ……。どうしたのじゃ?? カエデ」
三本の尻尾を楽しそうに揺らす彼女の奥。蜘蛛の一族を率いる彼女下へと歩みを続けた。
「あの、フォレインさん」
「どうかさないましたか??」
女性がお手本とすべき柔和な笑みを浮かべる彼女へ他人から確知出来ない矮小な声量で話す。
「ここでは……。少々話し辛い事がありまして」
「では、歩きながら伺いましょうか。イスハ、彼女達の事頼みますわよ」
「分かっておるわ。ほれ、さっさと行け」
イスハさんは私達に向かって一本の尻尾を器用に揺らしてさっさと行けと催促し、楽しそうに泳ぐ魚へと視線を送り続けていた。
今も柔和な笑みを浮かべるフォレインさんの様にもう少し大人の態度を取って貰いたいものです。
モフモフで思わず触りたくなる尻尾の動きを合図と捉えた私達は南の砂浜へと移動を開始。
左右に堂々と地面に根を張り力強く成長した幹が奥まで続く道を進みながら私は口を開いた。
「――――。突然申し訳ありません。お忙しい中、時間を割いて頂きありがとうございます」
「何も遠慮なさる事はありませんわ。私達はその為に此処へと参ったのですから」
いつもと変わらぬ物静かな口調。
どんな顔を浮かべて私と肩を並べて歩いているのだろう??
横目で何気なく窺う。
「ふぅ……。良い風ですわね」
南風がびゅうっと吹けば、白き髪を嫋やかな指で抑え。
「我々が住む大陸は寒空が続くというのにここは温かい。少々驚かれたのではありませんか??」
大らかな感情で全てを包み込む温かい眼差しを此方に向けてくれる。
「え、えぇ。漸く慣れてきました」
女性の私でも少々頬が赤く染まる温かな笑み。
包容力を持つ大人の女性の姿にちょっとだけ嫉妬してしまう。私もいつか、そう……。いつか。大人になればこんな笑みを浮かべる事が出来るのかな??
その為には数えきれない経験と研鑽が必要なのは分かっています。今はその為の準備段階です。
焦らず、身の丈に合った成長を遂げましょう。
「ふふ。それは結構な事ですわ。――――。さて、ここなら誰にも話し声は届きませんよ??」
南の砂浜と森の狭間。
その位置で足を止めて仰る。
「火急の件についての相談です。実は……。アオイの様子が宜しくありません。先程……」
彼女に倣って足を止め、アオイが刹那に浮かべたあの恐ろしい表情。そして普段の様子とはかけ離れた姿について私なりの意見を添えて述べる。
此方が話す間、フォレインさんは真剣そのものの表情を浮かべ。時折頷いては私の話に耳を傾けてくれていた。
「――――。そしてあの憎悪に満ちた表情。恐らく、アオイの中に居る人物との葛藤を続けている所為で自身の制御が困難になっていると考えられます。アオイは……。フォレインさんの愛娘です。血の繋がった親子だからこそ分かってあげる事があるのではないでしょうか。友人である私が力添え出来ない事に大変悔しい思いをしていますが……。何分、私には経験が足りません。どうにもしてあげられない歯痒さ、苦しさから解放してあげられない無能さ。私は、私は……」
そこまで話すと、フォレインさんが私の肩に優しく手を置いてくれた。
「至らない娘の為にそこまで考えてくれてありがとう。娘は大変素晴らしい友人を持ちましたわね」
「え??」
「カエデさん。あなたが娘に対して想ってくれる、想いを寄せてくれる。たったそれだけの事でもあの子はカエデさんの想いを力に変えてくれるわ」
優しい瞳で私を見つめ、そして一呼吸置いて私の肩から手を外す。
「娘は私にも問題の根幹を話してくれなかった。それだけ娘が抱え持つ問題は大きいのです。あの子が抱えている問題はあの子自身が解決するに他ならないの。友人であるカエデさん、そして実の親子でも手を貸す訳にはいかない。それが女王の系譜を受け継ぐ者の使命ですから」
「そ、それじゃあ!! いつかのシオンさんみたいに人を傷付けても良いって言うんですか!?」
冷静に話す彼女に対し、知らず知らずのうちに声が大きく荒々しくなってしまう。
「このままじゃあの時の二の舞になってしまいますよ!? アオイが苦しんでいるんです。助けてあげたいんです。でも、私では何も出来ないんです!!」
私達に与えられた課題である己が内に潜む傑物との邂逅。
その事で手一杯なのが本音。友達に手を貸す余裕が無い己の弱さに苛立っているのだ。
ここでフォレインさんに対して声を荒げるのはお門違いな事も分かっている。でも、感情が頭の命令を無視してしまった。
「安心して下さい。娘はきっと乗り越えてくれます」
「それは楽観です。憶測で物事を断定するのは好きじゃあありません」
「憶測ではありませんよ?? 娘は……。素晴らしい宝物を持ちました」
宝物??
「そう、宝物です。どんなに美しい宝石も王が持つ巨大な宮殿もこの宝物には勝てません。それは何か分かりますか??」
「いいえ。分かりかねます」
「娘が持ち帰ってくれたのは……。友と言う宝物です。あなた達の事ですよ」
私達がアオイの宝物??
「娘は何をするにも幼い頃から一人でした。頼れる友人も居なければ、心の声を吐露する友人も居ない。募った負の感情の結果が大切な者を傷付けてしまった。癒えない心の傷を負ったまま成長してしまい私は大変危ぶんでいました」
「力の暴走を危惧して、ですか??」
「そうとも言えます。ですが、ある日。娘は私の前に宝物を持って帰って来てくれました。目の奥に宿っていた禍々しい黒は消失し、代わりに眩いばかりの明るい光が灯る。それを見た時私は確信したのです。あなた達こそが娘に必要な存在であると。只、大きめの声量と喧噪がきになりますけどね」
そう話すと、ふっと顔と肩の力を抜き。柔和な笑みを浮かべてくれた。
「娘が大丈夫だと言ったのです。それを信じてあげるのも一つの友の形だと思います」
「それは理解していますが……」
アレクシアさんとレイドの一件もある。
九祖の力を受け継ぐ傑物がアオイの体を操り表の世界に出現してしまう可能性は決して低くない。いや、アオイの今の状態からして蓋然性があると言った方が正確かも知れない。
そして例に漏れる事無く彼女が宿す力は膨大だ。
古代の時代を生きた傑物達の力の暴走。考えるだけで寒気がします。
彼女の母親が信じろと言うのであれば、信頼すべきなのですが……。
「やはり信用しきれませんか??」
「全幅の信頼とまではいきませんが、フォレインさんがそう仰るのであれば信じてみようと思います」
もしも。
彼女に看過できない大きな変化があれば皆の安全を優先させる為、申し訳ありませんがこれ以上の訓練は中止させて頂きます。
命の尊さは何物にも代えられませんから。
「ありがとう……。万が一、娘が再び愚かな結果を迎えるのであれば私が全責任を取ります。最悪な結末だけは招く訳にはいきませんので」
フォレインさんがそう仰ると着物の左脇に携えている刀の鍔に手を掛ける。
それが指す意味は、そういう事なのでしょう。
「私達も出来る限りの事はするつもりです。最善を尽くし、最良な結果を得て帰りましょう」
「勿論、そのつもりですわ。さ、もう間も無く夕刻です。皆で夕食を摂り明日に備えましょうか」
此方に静かに背を向け。後ろ髪の隙間から美しい項を覗かせながら野営地へと向かって行く。
アオイ。どうか決して無理はしないで下さい。
あなたは大切な友人なのです。友が傷付く姿は望まない、傷付く位なら何も得なくても良い。
あなたが最良な選択を選ぶ様に私は切に願っていますよ。
私は此処へ来る時と比べて幾分か軽くなった足取りで彼女の背に遅れて続いて行った。
――――。
頭の中で乱反射する無数の厭らしい笑い声と体に突き刺さる鬱陶しい視線の数々。
人の心は目に見えぬのに彼女の声が私の心を蝕むのが目に見えてしまう。穢れを知らぬ純白で純粋な心は黒に犯され灰色へと変わり、その内側では禍々しい憎しみと厭悪が渦巻いていた。
『うふふ。そなたの苦悶は心地良いなぁ……』
五月蠅い口を閉じて頂けませんか?? 耳障りです。
『辛辣ですわぁ。妾はそなたの味方でありますのにぃ』
私の事を想うのであればさっさとその力を譲渡しなさい。
『それは出来ぬ相談よのぉ。何百、何千と申しておるであろうぉ?? あの者の命を断てと』
それは……。
『なぁに、簡単な事。あの者の心臓へ鋭利な刃物を突き立てれば契約は滞りなく完了、アオイは世界最強の力を手に入れる事が出来ると言いますのにぃ』
私は吐き気を催す程にあの者を嫌っていますわ。しかし、しかし……。
命を奪ってまで力を手に入れる事はこの人の甘言に屈服するのと同義。己の醜い姿を晒す事だけは承出来ないですわ。
『はぁんっ。善と悪で葛藤して燃え上がる心……。妾の心も灼熱の炎で焦がされる様に燃え滾ってしまいますぅ』
五月蠅い!!
あなたの心は私のじゃない!! 私の心は私だけの物なのですわ!!
『んふぅ。もう理解しているのでは?? そなたと妾はもう境目が分からない程に溶け合って、混ざり合っている事が。妾がそなたに代ってあの者を排除して差し上げます』
そうはさせますか。
あなたは私に屈服するのです。もう二度とあなたには屈しないと誓ったのですから。
『ほぉん?? それなら……。何故、憎しみに満ちた表情で龍の子を見つめたのぉ??』
そ、それは!!
『あははぁ!! 図星を突かれるとは思わなんだなぁ?? くくく……。まっこと愉快な事よのぉ』
誰であろうと負の感情は持ち合わせていますわ。それが影響したのか、彼の周りに集まった美しい花々の姿が私の心を傷付けてしまった。
あの温かな場所に私も近付きたい。彼の温もりを感じたい。そして、彼に愛を伝えたい。
でも、でも……。今の私は押せば倒れてしまう弱い心の持ち主。
何が切っ掛けでこの人が表の世界に出てくるか分からないのですわ。
最悪な結末を未然に防ぐ為、私はたった一人で対峙しなければならないのです。
『強情よのぉ。以前のそなたであればもう既に屈服する処か、従順に妾の命令に従う木偶に成り下がっていたというのに』
人は成長する生き物ですわ。
あなたに負けない強き心を私は持ったのです。
『その強き心を粉々に破壊し尽くすのが楽しみで、楽しみで……。うふふ!! 壊れた人形みたいにボロ屑同然になるまでアオイの心を犯して!! 蹂躙して差し上げますわぁ!!』
望むところですわ。
私はあなたに屈しない!! もう二度と誰も傷付けない!! 大切な人達をあなたの毒牙に掛ける訳にはいきませんの!!
小さくなりつつある心の白を破裂させ、覆い尽くそうとする黒を払拭してやる。だが、その度に精神が擦り減り心の体力が消失していく。
レイド様……。御安心して下さいまし。
私はこの者に屈せず必ずや従えてあなたの下へと参りますわ。
黒き感情が再び白を侵食し始めても心の根幹にある彼の姿だけは明るいままであった。
彼は……、私の全て。
決して傷付けてはいけない存在なのです。
こうして見ると……。
ふふっ、私にとってどれだけ彼が大切か確知出来てしまいますわね。改めて彼の大きさを再認識して私は己の心を取り込もうとする悪しき黒の感情と相対したのだった。
お疲れ様でした。
早めに風邪対策をしたお陰か熱が出る事もありませんでしたね。只、喉がちょいと痛む事が辛いですかね。
乾燥した季節が続きますので読者様達も体調管理には気を付けて下さい。
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それでは皆様、お休みなさいませ。