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第二百九十九話 覇王の負の遺伝子

お疲れ様です。


本日の投稿になります。




 頭上から降り注ぐ煌びやかな太陽の光が海面で反射すると強い光が目の奥を刺激する。


 痛みを伴う程の光の乱反射に顔を顰めて空を仰ぎ見た。


『はは、災難だな??』


 呆れた顔でそう話す太陽の満面の笑みが腹立たしい……。


 早朝の空の様子から今日は晴天になると予想していたが、その予想を遥かに超える晴れ具合と暑さに若干辟易してしまう。



 何でこんなに陽射しが強いんだよ。


 常夏の南の島で垂れるべき文句では無いが文句の一つや二つを唱えても罰は当たらないだろう。



「よぉ、どした?? おっかない顔で太陽を睨んで」


「いや。もう少し位曇ってもいいんじゃないなかぁって……」



 太陽の輝きにも負けず劣らない明るい笑みを浮かべているユウへ若干ぶっきらぼう気味にそう言ってやった。



 今から遡る事数時間前。


 横着な淫魔と狂暴な龍の所為で多大なる負傷を負った。


 怖くて賢い海竜さんの治療の御蔭もあり、幸いな事に歩ける様になるまで直ぐに回復出来た。普通ならここで治療してくれた彼女に感謝の気持ちを伝えるのですが。



『おら、治ったんだからさっさと行くぞ』



 肝が冷える顔を継続させていた覇王さんの娘に襟足を掴まれ、強制的に島の北東の砂浜へと連行され今に至る。


 手には釣り竿、直ぐ後ろには海水をたっぷりと入れた桶。


 岩礁の下数メートルには小さな波が飛沫を上げて投げ出している足元を矮小に濡らし続けている。


 そう、端的に言えばこのべらぼうに暑い中。釣りに強制参加させられているのだ。



「あたしは今位でいいかも。折角の休日で曇っていたら台無しじゃん??」


「そっか」



 腕の力をだらんと抜き体の直ぐ隣に釣り竿を置いて寝心地の悪い岩礁の上に寝そべった。


 文句は言いませんがせめて柔らかい砂浜で横たわりたいよ。



「反応つめたっ。まぁ、朝っぱらから龍と淫魔の攻撃を受けりゃあ誰だって顔を顰めるってか??」


「そういう事。ふわぁぁ……。糸が引いたら教えて」


「あいよっ!!」


 体と心が疲れ果てている時、ユウの笑顔は癒されるな。


「ふふ――ん。ふっふ――ふんっ」



 上機嫌に鼻歌を口ずさみ、岩礁の崖から投げ出している足をプラプラと揺れ動かす。


 微妙に音程ずれているのがユウらしいけども。機嫌が良いのはきっと件の進捗具合が概ね良好なのだからであろう。


 誰だって仕事が捗れば機嫌が良くなるし。



「ユウ」


「ん――??」


「それだけ機嫌が良いって事は、御先祖様との邂逅も良好って事だよな??」



 呑気且愉快に釣りを続ける彼女に進捗具合も兼ねて尋ねてみた。



「あぁ……。そっちね……」



 御先祖様。


 その言葉を聞いた途端に顔の気候が悪化して晴れ渡る空とは対照的な曇り空を浮かべてしまう。



「あれ?? 芳しくないの??」


 上機嫌なのはその所為かと思っていたけど……。


「何んと言うか……。力の宿し方、使い方は教えてくれるんだけど。教え方が下手な奴でね?? あ――しろだとか、こ――しろだとか。そんでもって一々変な格好を取って上から目線だからさぁ、温厚なあたしでも我慢の限界は当然あるわけだ。大体!! ……」



 おっと、どうやら刺激しては不味い場所を突いてしまった様だ。


 彼女が話した通り、喧しい連中の中では比較的温厚な心の持ち主なのに顔を顰めて釣り竿を壊す勢いでぎゅうっと握っていた。


 それだけ心に思う出来事があったのでしょう。


 ってか、そんなに力を籠めて握り締めたら釣り竿折れちゃうよ??



「それでさぁ!! 尻の穴、尻の穴って連呼するもんだから流石のあたしもプチっとキレた訳」


「女性に使って良い言葉じゃないからねぇ……」



 おっ。


 あの大きな雲、太陽に掛かりそうだな。この強い日差しをちょいとばかし遮っておくれ。


 雲の遅々たる動きをぼうっと眺めていると。



「そう思うだろ!?」



 ユウの顔が隣からニュっと生え、雲の代わりに太陽との間に滑り込み熱い日差しを遮ってくれた。


 いや、嬉しいけどちょっと近いかな。



「あ、うん……。でもさ、前向きに捉えるとしっかりユウの事を考えて言ってくれているんじゃない?? 最初から期待していなければそんな風に指導は施さないと思うし」



 考え付くのは凡そこんな感じかな。


 自分の子孫が不甲斐無い行動を取ったのなら喝を入れ、悩み躓くのなら手を貸す。


 それが大袈裟に映ったんじゃないのかね。



「考えて、ねぇ。頭の中まで筋肉で出来ている様な奴だぞ?? 思考という単語があの頭の中に存在しているのかさえ怪しいよ」


「言い過ぎだって」


「レイドは会った事が無いからアイツのいい加減さが分からないの!!」



 会おうと思っても、他人様の精神の世界へは足を踏み込めせんからねぇ……。


 エルザードならその方法を知っていると思うけども、事細かく説明されても難解だろうし。自分の頭では到底理解に及びませんのでユウの御先祖様と会う機会は無さそうだ。



「今は何か言ってる??」


 ちょいと気になったので問うてみた。


「今?? 集中しないと聞こえないからちょっと待って」


「了解」



 ユウがぎゅっと目を瞑り、深く呼吸を続けて暫くすると再び目を開いた。



『ユウ坊!!!! 大好機到来だぁぁああ!! 寝転がっているレイドの上に圧し掛かって唇を奪え!! そして森の中に引きずって行ってがっつり孕め!!』


「え、えっと……。いい天気で海も綺麗だなぁってさ」



 何やら真っ赤に染まった顔でそう話す。



「ふぅん。口ではぎゃあぎゃあ言っているけど本当は温厚な性格なのかもね」



「そ、そうなんだよ。あ、あたしと会う時だけ五月蠅くなる感じって奴??」


『ふさけるな!! そんな事は一言も言っていないだろう!? 子供は早い方が良い!! 早く子供を作って両親を安心させてやれ!! あ、因みに俺は男の子が良いな。知ってるか?? ユウ坊。男の子を授かりたい時は気持ち良さをキチンと受け入れろと言われている。つまりッ!!!! レイドの我儘棒をガッツリ受け止めてやるべきなんだ。なぁに、痛いのは初めだけだ。奴の優しい顔を蕩けた顔で眺めて居れば直ぐに赤ちゃんを授かる事が……』


『うるせぇぇええ!! 誰がそんな話を聞きたいって言ったんだよ!!』


『お、お前ぇ!! 御先祖様に何て口の利き方をするんだ!! 明後日こっちに来た時覚えていろよ!? 山よりデカイ岩をぶん投げてやるからな!?』


『掛かって来いよ筋肉達磨!! あたしはその岩より更にデケェ岩を投げ返してやるから!!』



 な、何か急に不機嫌そうな顔になったな……。御先祖様と言い合いでもしているのだろうか??


 俺の顔上で何故かプンプンと可愛らしく怒る彼女の奥。


 岩礁の上に寂しく横たわっていた釣り竿の先が矮小に動くのを視界が捉えた。



「ユウ!! 引いているぞ!!」


「ヘッ!? お、おっしゃあ!! 漸く来たぜぇぇええ!!」



 距離感を間違えた日陰が釣り竿の下へと駆け寄り、そして普段の豪胆な腕からは想像出来ない繊細な腕の動きで竿を器用に操る。


「結構引いているな!!」



 針に引っ掛かった魚が逃げようとしている様が先端のしなりから伝わる。


 あのしなり具合。大物と見た!!



「んふふ――!! ここで焦っちゃあ駄目なんだ。コツはぁ……。相手に合わせて糸を引くんだ!!」



 針が外れない様に魚の動きに合わせて上下に操る。


 器用な竿使いに頷いているとユウの後方から怒号が響き渡った。



「おらああああ!! そこの破廉恥巨大西瓜!! 私より先に釣るなぁぁああ――――ッ!!!!」



 俺達より……。目測で十メートル程か。


 釣りに興じる俺とユウ、そしてマイとルー。


 その四名が仲良く肩を並べて糸を垂らしては釣れる魚も釣れない、と。自称天才釣り師の龍が得意気に話して班を別ったのだ。


 あれだけ馬鹿みたいに叫ぶって事はマイの釣果は今日も零だな。



「へへ――ん!! お先ぃ!!」


「止めてぇええ!! せめて私より後に釣って!!!!」



 無茶苦茶言いやがって。


 お前さんは静かに出来ないから釣れないんだと、口を酸っぱくして言っても聞きやしないんだから。


 ギャアギャアと騒ぐマイに対してその後ろ。



「おほっ!! また釣れたぁ!!」


 こういう事に関しては誰よりも才能があるルーが美しい黄色が目立つ魚を得意気に釣り上げ。


「桶に入れって……、っと!! ふぅ!! ここ、沢山釣れるね!!」



 眉を寄せ、空気を震わせる歯軋りを行っているマイへ肝が冷える台詞を放つ。



「レイド!! 桶!! 桶!!」


「あいよっ!! 持って来るから逃すなよ!?」



 晩飯のおかずになるやも知れぬのだ。それに野営地で羽を休めている皆に素晴らしい状態と鮮度を保つ魚を見て貰いたいからね。


 海水がたっぷりと入った桶をユウの後方へと置いてやった。



「来たぁああ――っ!! でりゃああ!!」



 ぎゅっと糸を掴み、先程とは打って変わった豪快な動きを見せた彼女の掛け声と。



「イヤァアアアア――――ッ!!!!」



 龍の悲鳴と共にやたら青が目立つ魚が空を舞った。



「よっしゃ!! 一本釣りだな!!」


「お見事!! しかし……。青が目立つな」



 岩礁の上をピチピチと跳ねて苦しそうに口を開いていたお魚さんから針を外して桶の中へと入れてやる。


 今しがた釣った青、先程俺が釣った黄色と白のだんだら模様にこれは……。緑??


 兎に角、よくわからない色をした魚達が楽しそうに泳ぎ始めた。



「これ、ブダイだろ?? 無人島で釣ったじゃん」


「あぁ、そうだったな。って事は……」



 コンガリと焼いて脂が乗った白身にささっと塩を振り掛ければあら不思議。世の料理人全ての頭を上下に動かす御馳走の出来上がりってね。



「美味しい魚だって事さ!!」


 ユウが軽快に右手を上げたので。


「取り敢えず、夕食のおかずはこれで確保だ!!」



 それに合わせて右手でパチンっと叩いてやった。


 おっ、良い音。



「ぢぐしょ――!! やい!! お惚け狼!! 簡単に釣る方法を教えろやい!!」


 地団駄を踏む龍の怒りの矛先がルーへと注がれてしまう。


「いいよっ!! 餌を付けて――」


「ほうほう」


「ひょいっと、投げる!!」


「うむっ!!」


「後は楽しい事を考えながら遠くを見つめていれば釣れるよ」


「んな阿保なっ!?!? 私、美味しい魚を想像してるけど一切釣れないんだけど!?」



 お前さんの呆れた食欲が糸を通して海中に漏れているんだよっと。不穏な邪気を放つ餌を食もうとは思わないだろう。


 自然界はそういった気配に敏感ですからね……。



「おっしゃ!! ついでにもう二、三匹釣ろうか!!


「そうだな。晩御飯のおかずは確保出来たし、皆のお土産用に変わった魚も釣り上げたい所だ」


「レイド――、そっちの方が逆に難しくね??」



 釣果も上々、気分もうなぎ登りとなったこちらはこれぞ休日を楽しむ釣り人の姿であると誰にでも分かり易い姿を共に浮かべ。口角を上げつつ日常会話に華を咲かせていた。


















 ――――。




 うぬぬぅ……。


 な、なんで皆釣れるのよ……。いやちょっと違うわね、何故!! 私だけが釣れないのかだっ!!!!


 竿の差?? それとも餌の差、か??


 釣りの経験値に関しては皆等しい筈。それなのに何故私だけが釣れないのか、本当に理解に苦しむわ。



「んふふ――。あはは――ん」



 呑気に鼻歌を口ずさむお惚け狼の手元をじろりと睨み様子を窺うが……。


 全く一緒の竿よね。



 朝早くに起きて土を掘り返して新鮮なミミズの採取。


 ここに来る前カエデに釣り針を作成して貰い。蜘蛛の母ちゃんに糸を紡いで貰い、そして朝から淫靡な姿を披露しやがった馬鹿男に竿の原型を作成させ、竿の仕上げはこれまたカエデに頼んだ。



 ど――考えても皆等しく全く同じ作りの竿と仕掛けと餌。


 それなのに私が釣れない理由とは??



「ねぇ」


 恐らくそれは場所の差であろうという天才的な考えに至った私は、ちょいと離れた位置に座るルーに声を掛けた。


「なぁにぃ??」


「場所。変わって」


「は?? 急にどうしたの」



 きょとんとした顔で此方に振り向く。



「いや、私が釣れないのはさ。きっと場所が悪い所為だと思うのよ。そこ、すっげぇ釣れているし」



 釣りを開始してかれこれ五匹以上は釣れているもんね。ソコ。



「良いよ――」



 わりぃね!!


 女性らしい丸みを帯びた尻が岩礁から上がるとほぼ同時にその位置へと腰を下ろし、新鮮なミミズさんを針に付け海へと垂らしてやった。



 これで爆釣間違い無し!! 完璧な作戦だわ。



「ねぇ、マイちゃん。そろそろお昼御飯食べない?? お弁当持って来たしさ」



 あんたが誘う以前よりもずぅぅっと前から、私は腹が減ってんのよ。


 それを敢えて!! 言わなかったのは理由がある。


 本日のお昼ご飯はモアとメアが作成したお弁当だ。中身は超簡単におにぎりと焼いたお肉さんとお漬物の三点。


 これじゃあちょいと寂しいと考え、釣った魚をここで捌きお昼のお供として頂こうと考えているのだ。



 それがどうだい??



 朝も早くから糸を垂らすも全く当たりが来ず。餌と時間と私の至高の考えのみが魚のお口さんからお腹さんへと飲み込まれてしまっている。


 当たりが来てこそ初めて釣りは楽しいものだと思うんだけどさ、うちの父さんは当たりが来ずとも日がな一日釣りを楽しんでいる。


 頭がイカレタのかしら??


 血を分けた娘にもそんな心配を抱かせる程に当たりを待つ背中が悲しく映る。



『それこそが釣りの醍醐味だ』



 待ち惚けを食らう私の脳裏に、言い訳にも聞こえる父さんの負け犬特有の情けない言葉がふと過って行った。



「ねぇ――。聞いてる??」


「我慢しなさい!! 私が釣った魚をお昼のおかずにするのよ!!」



 あんたが話し掛けるから魚が逃げるんじゃないの!?



「こっわ。マイちゃん釣果無いじゃん。私が釣った魚でもいいからさぁ、食べようよ。お腹空いちゃったもん」


 ちぃっ!! これだから素人は!! 全く以て度し難いわね!!!!


 南の島、最高に晴れ渡った空、青い海に新鮮なお魚さん。


 玄人である私が最高の食事を摂る為に三拍子処か四拍子揃った状況を生み出さなきゃいけないのよ!!


 苛立ちを募らせこれでもかと握力を籠めて竿を握っていると、頭の中から鬱陶しい含み笑いを籠めた声が聞こえて来た。



『まぁ……。ふふ。釣れないですね??』


 この声……。


『ちょっと。今集中したいから話し掛けないでくれる??』



 頭の中から聞こえて来る女性らしい声にそう返す。



『集中しても無駄じゃありませんか?? 現に、隣の狼さんは何匹も釣り上げていますよ』


『んな事は分かってるわよ。黙らないと、魚食わせてあげないわよ』



 先日の精神の訓練を受けてからというものの。ぜんざいの声が日常生活の中で度々聞こえて来るのだ。



 朝起きて顔を洗っている時。


『寝惚けて汚い顔にしつこい涎の後がまだ残っていますよ』




 親友の巨大な胸を突く時。


『まぁっ!! この世にはこんな恐ろしい物があるのですねぇ……』




 阿保男を揶揄う時。


『口では辛辣な言葉を伝えても心は温かい。ふむ、とかくあなたは矛盾を好む様ですね』



 日常の様々な状況でぜんざいの声が矮小ながらにも聞こえてしまう。


 恐らく。


 ドスケベ姉ちゃんが言っていた様に、心の蓋を開けた所為で本来なら真底に居る筈の者達が顔を覗かせて私達の様子を窺っているのであろう。


 日常生活を覗かれるってのも癪だけど、これは私がこの力を宿して生まれて来たのだからやむを得まい。


 端的に言えばそういう運命だって事ね。



『現代の魚は美味しいですからね。思い出すだけでも……』


 腹が減るってか。


『ねぇ。ぜんざいの生きていた時代の魚ってどんな形していたのよ』



 ちょいと気になった事を聞いてみる。



『どんな形……。ん――。魚と呼べるかは分かりませんが』



 何か……。もう怪しい雰囲気がプンプン漂うわね。



『体長は二十メートルを越え、大きな御口には鋭い牙が生え並び、背中からは立派な背びれが生えた魚を食した事がありますね』


『それは鮫だ!!!!』



 私が聞きたかったのはもっと小さな魚なんですぅ!!


 あ、でも。


 鮫も魚っぽいから合っているのか?? この際、どうでもいいけども。



『私が主に食べていたのはその鮫?? と呼ばれる魚でしたからね』


『どうやって捕らえたのよ』



 二十メートルを越える体長の鮫だ。


 こんなちっぽけな竿じゃあ釣れまいて。



『簡単ですっ。海の上を飛んで、海面に魚影が現れたら海へと突撃。一瞬で体を両断させて、後は半分になった二つの体を両手で掴んでお持ち帰りです』


『あんたのデカイ体ならそれ位余裕か。んで、味はどうだった??』



 大きいから大雑把な味かしらね。



『味……。しょっぱかった??』



 いい加減な表現じゃん。


 もっと捻りなさいよ。



『捻る……。両断した体の断面から臓器が零れ落ち、そこから溢れ出る鮮血を舌の上で楽しむ。血が抜けきったら生皮を剥いで、深紅の身を鋭い爪で食べ易い様に寸断。生々しく生温い肉感を舌で楽しんだら……』


『捻りの意味が違う!!!!』



 気持ち悪い言い方にすんな!!



『折角丁寧に説明しましたのに』


『もう結構。おら、魚釣って楽しませてやっから引っ込んでろ』


 もしかして、魚が釣れないのはぜんざいの所為じゃないの??


 ほら。自覚していない内に怖い魔力が体から溢れているとか??




『残念。それはあなたが超絶怒涛に釣りが下手くそだからです』




「しばき倒すぞ!!!! 食欲馬鹿がっ!!」



 魚が釣れない事もあってか。


 私はこれでもかと憤怒を籠めてそう叫んでやった。



「びゃっ!? マイちゃん?? どうしたの、急に自分の事を叱って……」



 余程怖い顔を浮かべていたようだ。


 私の顔を覗き見たルーが金色の瞳をこれでもかと見開いて驚愕の表情を浮かべていた。



「あ?? あぁ……。ちょいとぜんざいと会話しててさ。腹が立ったから叫んでやったのよ」


「マイちゃんの中に居る龍さんだね!! 私もちょこちょこ話してるよ??」



 ほぉん。それは初耳だ。



「どんな会話してんの??」


「ん――。好きな食べ物だったり、今まで買った服の好みだったり。日常会話が大半を占めているよ」



 女々しい会話ねぇ。


 こいつのお惚け具合は内に潜む者の心が影響を及ぼしているんじゃないのか??



「会話が弾むあたり。案外、あんたの性格は中の人に影響してんじゃない??」


 今しがたパっと思いついた考えを話す。


「私もそう考えているよ。いやぁ、びっくりする位楽しいもん!!」



 そりゃ結構な事で。


 こちとら、やれ早く何かを食え――。だとか。


 そんな戦い方じゃあ直ぐに死んじまうぞ――。だとか。


 あんたは何様だ!! そう言いたくなる……。いや、実際に言ったわね。


 兎に角。小言に近い嫌味を聞かせて来るのよ。



「羨ましい限りよ。むぅ!? あ、あいつら!! また釣りやがった!!!!」



 ルーの背後。


 今度は変態的寸法の竹竿を股間に持つ男が釣り竿の先に垂れる糸を真剣な顔で手繰り寄せていた。



「おらあ!! 釣るなぁ!!!!」



 私がそう叫んでも此方に顔を向ける事は無く全神経を手元へと集中させている。



「レイドもユウちゃんもまぁまぁに器用だからねぇ。ん!? 掛かった!!」



 ルーが持つ竿の先端がぐぅぅんと垂れ下がり、唇をペロリと舐めて糸を手繰り寄せ始めた。


 ク、クソ共が!! どいつもこいつも私より先に釣果を上げやがって!!


 こうなったら最終手段の発動だ……。


 ククク……。私の憤怒、憤り、そしてぇ!! 晴らせぬ怨みをその身で受け取るがいいさぁ……。



「あはは!! 簡単簡単っ!! 釣りって楽しい……。マイちゃん、こっちに両手を向けて何してるの??」


「アッ?? 呪いよ、呪い。あんた達の針に掛かった魚が逃げますよう――にってね」



 負の力が籠った両手をルーと卑猥野郎へ掲げ、おどろおどろしい呪詛を口ずさみ、人を容易く呪殺出来る幽霊の背筋をゾっとさせる強力な怨念を放射してやる。


 どうか、この不届き者共がこれ以上の釣果を上げませんように。そして私にびっくりする位の当たりが来ますようにっ。



「そんなんじゃあ効果無いと思うよ??」


「やってみなきゃ分かんないじゃない。ハズレロォ……。ニガセセェ……。ニゲオオセロォ……」


「止めてよ!! 何か怖い!!」



 ハハ、効果覿面っ。


 数段低くなった私の声色に早くもルーの額から汗が滲み出る。


 この調子でばっちり呪ってやっか。



「オマエェ……。オウチャクゥ……。ツッタラ……。シヌゾォォオオ……」


「死なないもん!!」


「ツリアゲタラ……。テメェノアタマヲカチワッテ……。シミデタノウミソクウ……」


「頭の中身何か食べられる訳ないよ!! わあっ!?」



 私の呪詛が効いたのか。


 海面から顔を覗かせた魚さんが食んでいた針をペッと吐き出し、海中へとチャプンっと戻って行った。



「っしゃああああ!!!! 大成功っ!!」


「も――!! 夜御飯のおかずが逃げちゃったじゃん!!」


「私の隣で釣る方が悪い」


「いいもんっ!! 絶対もっとおっきな魚をマイちゃんの目の前で釣ってあげるんだからっ!!」



 はい、無理――。


 私の呪いは清らかな天使もドン引きする位に最強なのよ。それを証明するかの様に。



「うわぁあああ!! 逃げちゃった!!」



 卑猥で厭らしい野郎の悲壮感溢れる声が鳴り響いた。



「ぎゃはははは!!!! ざまぁぁああみろぉぉおお――――ッ!!」



 大口を上げ、これでもかと口角を上げて野郎へと咆哮してやった。


 私の声を受け取りむすっとした表情を浮かべる様がまぁ……。最高に心地良い。


 これで釣れずに落ち込んでいた気分も幾分か上昇してきた。後はぁ、歴史に名を刻む程の馬鹿でけぇ魚を釣れば文句無しっ!!!!


 心機一転した私は高揚しきった心のままでどこまでも青く美しい海を眺めて釣りを再開した。




お疲れ様でした。


今朝起きたら喉の調子が悪く、風邪かな――と思っていたら案の定風邪でしたね。熱は出ていない事が幸いでしょうか。


市販の風邪薬を購入して大量のポカリを摂取。温かな格好をして本日はこのまま眠ります。


乾燥している季節ですので読者様達も体調管理には気を付けて下さいね。



いいねをして頂き有難う御座いました!!


執筆活動の嬉しい励みとなります!!



それでは皆様、お休みなさいませ。

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