第二百九十七話 土の味がする反省会 その一
お疲れ様です。
本日の前半部分の投稿になります。
ぼぅっとした感情のまま夜空を見上げれば煌めく星々が何だか呆れた顔を浮かべて私を見下ろし。
『もっとシャキッとした顔をしろよ』 と。
苦い顔で悪辣な言葉を吐き捨て、流れ星が苦い顔達の合間を我関せずといった感じで美しい軌跡を描いて流れ落ちて行く。
何だか馬鹿げた感想かも知れないけど、自然に説教されているみたいね……。
普段は何んと美しい夜空なのかと感嘆の吐息を漏らして見上げるのだが、風光明媚な大自然も己の心持ちでこうも変わって見える物なのか。
ヘタれた体の奥に染み渡るお湯の優しさを再確認して苦い顔を浮かべて私に説教をブチかましている星達を無視。
額に浮かぶ気持ちの良い汗をサッと拭い、陽性な息を漏らした。
「はぁ――。生き返るわぁ……」
「マイちゃん、何かその台詞。おばちゃん臭いよ??」
「御黙り!! お惚け狼め!!」
ったく。
折角私がお腹一杯になって……。いや、八割だな。
まぁまぁな満足感を得た体を休ませているってぇ言うのに。一言余分なのよ、あんたは。
狼の姿で私の後方を犬かきの要領でスイスイと泳いでいるルーへ向かって噛みついてやった。
常識から超外れた精神訓練という名の珍妙な出来事を終え、というか。ほぼ強制的に終了させられると人生の中で体感した事の無い疲労感とべちゃべちゃの汗に塗れた体で目を覚ました。
目を覚ますと何よりも先ず自分の状態に驚いてしまった。
からっからに乾いた喉、肺の中に空気が入っていないと錯覚させる程の窒息感、目玉にも水分が回っていなかったのか。
視界がぐにゃぐにゃに歪んでそれはもう滅茶苦茶であった。
それは私だけに当て嵌まる訳では無く我が友人達にも見事に、ぴったりと当て嵌まっていた。
「ぷっは――!! はぁぁぁ!! 生き返るぅ――!!!!」
御風呂のド真ん中。ちょいと深い場所で寛ぐ親友の心地良い声が良い例だ。
「ユウ――。どうしたのよ、婆臭い声出して」
行儀が悪いけども、お惚け狼と同じく犬かきの要領でスイスイと泳ぎながらユウの下へと向かう。
「誰が婆だ」
白い手拭いを頭の上にちょこんと乗せつつ話す。
私と違って行儀良いわね。
「いやぁ、疲れている声出しているなぁって」
到着っと。
礼儀正しい彼女に倣い首に巻いていた手拭いを頭の上に乗せてやった。
「そりゃあ疲れるさ。御先祖様とは言え相対しただけでも腹の奥を握られ、口から臓物を引きずり出されるあの威圧感を受ければ……。あちち!! まだ治っていないや」
顔を歪めて綺麗なあんよに手を添える。
「それ、聞こうと思ったけど。一体何があったのよ」
各々が目を覚まし、草臥れ果てた体を引きずって飯にあり付いたのは良いが……。
ユウはずぅっと顔を顰めっぱなしであった。
それもその筈。
御飯をモグモグと平らげながら彼女の足元を何気なぁく見ると、びっくりするぐらいに肌が焼けただれていたのだ。
食後にカエデが治療を開始したのはいいけども。怪我の症状が酷かったので質問をするのを憚れたというか……。
ほらあるじゃん?? 人の怪我を見て、わぁ……。痛そう……。って奴。
怪我の治療の観戦に集中していたのでうっかり聞くのを忘れていたのよ。
「これ?? 溶岩に足を突っ込んだ」
「――――。はぁ??」
私の耳は腐ったのかしらね。
念の為、そう!! 念の為にもう一度聞いてみよう。
「ナニガアッタノ??」
「それ何語?? だから、溶岩に足を突っ込んだらこうなったんだって」
「ナニヲイッテンノ!?」
そんな訳あるか!! 溶岩に足を突っ込んだら溶けて無くなるでしょうが!!!!
「いやさ。御先祖様が溶岩の風呂に浸かっていてな」
ふむふむ……。もう既に色々おかしいけどここで言葉を遮ったら怒られちゃうので続きをどうぞ。
「ユウ坊なら大丈夫!! ってな感じで浸かってみろと言われてさ。物は試しと考えてね??」
そこで試そうと思う方が間違いなのでは??
「んでもって、ちょこんと漬けたらこの様さ」
湯の水面からにゅっと可愛いあんよを覗かせながら話す。
「成程ねぇ。私と一緒で試されたって訳か」
「一緒?? マイのはどんな感じだったの??」
「いや、ぜんざいがね……」
私が精神の世界で体験した事を得意気に話そうとするが。
「ちょい待ち」
親友に速攻で遮られてしまった。
「ん??」
「ぜんざいって……。あの甘い大豆の汁物だよな」
「ううん。黒と深紅の甲殻を身に纏う龍の事よ」
「何がどうなってぜんざいとなったか知らんが、取り敢えずは理解出来た」
そりゃ結構。
うんと一つ大きく頷いて言葉を続けた。
素敵な初対面に与えられた難題な課題、それと……。
「――――。んで、鶏肉の焼き方の見解の違いで口論に発展しちゃってさぁ。ぎゃあぎゃあと叫びながら互いの想いの丈を咆哮していたのよ」
思い出したら腹が立って来たわね!!
その所為か体温がグングンと上昇してしまう。
あっついなぁ、そろそろ御風呂出ようかな。そして夜食を食べて明日に備えてぐっすり眠ろう!!
そうすればこの疲労感もあっと言う間に完治さっ。
「くっだらねぇ事で口喧嘩するなって」
私の頭をポンっと可愛く叩く。
「下らないぃ!? 何を言うのよ!! いい?? 食材は焼き方一つで、味も!!」
湯から立ち上がり、ユウの可愛い御顔を直視して己の持論を叫ぶ。
「満足感もぉ!! そしてぇ!! 食後に感じるあの得も言われぬ高揚感も変わってしまうのよ!! それなのにぜんざいと来たら……。半生、ううん。ほぼ生が一番美味い食べ方って言うでは無いか!! それは料理じゃないって言っても聞きやしないんだからっ!!」
これぞ正に料理に求める完全無欠の理論ではないか!!
私、この理論で本を書いてみようかしらね。絶対爆売れ間違いないもん。
「なぁ」
熱く持論を語る私に対して若干引き気味の声が届く。
「ん??」
「得意気に語っている所わりぃけどさ。皆、もう出て行ったぞ??」
何ですと!?
一糸纏わぬ体を捻り、後方を確認するが……。
そこに世の男性垂涎物である女体群は確認出来ず、代わりにがらんと開いた空間だけがそこには居た。
仕方が無い。
出ようか……。ここで叫んでも只の徒労に終わりそうだし。
「飯も食って、風呂も入って。後はゆっくり寝るだけさ。よいしょっと……」
「手、貸そうか??」
火傷の跡が痛むのか。
おっかなびっくり立つユウへと手を差し伸べた。
「んっ、大丈夫。あんがとよ」
快活な笑みを浮かべ理から外れた大きさの巨岩を携えつつ立ち上がった。
ふふ、良い笑顔じゃない。私の大好きな顔だ。
「どした??」
「あ、ううん。さっさといこっか!!」
無防備なユウの手を掴み、軽快な足取りで着替えの下へと駆け出す。
「あ、おい!! 引っ張るなって!! 足怪我してんの!!」
「良いじゃん!! 早く皆に合流するのよ!!」
私の大好きな笑みを浮かべてくれる。それはつまり心が壊れていないという事だ。
私は呆れる位に頑丈だから大丈夫だけど、他の皆は私と比べてちょいとよわっちぃからね。
本当は凄く心配していたのさっ。
「いってぇ!! もっとゆっくり走れ!!」
「えへへ!! 嫌よ!!」
辛辣な言葉も嬉しいのはきっとユウが何も変わっていないからだ。
ちっぽけな事実が私にとっては途轍もなく大きな朗報なのさ!!
痛みで顔を顰める親友の手を取り、私は万物が呆れる位に大笑いしながら温かい水の中を横断して行った。
お疲れ様でした。
現在後半部分の編集作業中なのですが……。どう考えても余裕で一万文字を超えてしまいます。
長文となってしまうのが必至なので更に区切ろうか考えている最中で御座います。
纏まって投稿する可能性も御座いますので予めご了承下さいませ。