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第二百八十五話 海竜さんの横着と愛玩動物達との戯れ その二

お疲れ様です。


後半部分の投稿になります。




 心地良い温かな液体の中に体を沈めてそっと静かに息を吐くと、それに呼応してくれた柔らかい風が火照った頭を優しく撫でて行く。


 こんな何も無い島に良くもまぁこれだけ広い風呂を作れたものだ。


 素直に感心しちゃうよ。


 頭に乗せた手拭いを下ろして顔の汗を男らしく拭い、満点の星空へと向かって感嘆の吐息を漏らす。


 これこそ湯の醍醐味だと確信に満ちた行為を行っていると喧しい物体が此方に向かって泳いで来た。



「にゃははぁ!! 暑いにゃね――!!」



 一匹の虎猫が四つの足を器用に動かして俺の胸元へと到着。


 そして、だらしない恰好でこちらに背を預ける。



「にゃは――。広くていい湯にゃねぇ」



 ここに来る前俺が一人では寂しいと考えたのか。カエデとアオイが使い魔をお供にと遣わせてくれた。


 毎度御馴染、此方の気持ちを汲んでくれた行動なのですが……。本音としては体の疲労を拭い去りたいので一人静かに浸かって居たいのですよ。


 その気持ちは大変嬉しいけどね。


 そして、一人と一頭と一羽で仲良く湯に浸かったのはいいが。



『東雲ぇ!! 奥に行くにゃ!!』


『は、離せ!! 私はレイド様と湯浴みを享受しに来たのだ!!』



 彼女が泣こうが喚こうがお構いなし。


 一頭の虎猫が漆黒の翼を掴んで遠泳へと出発した。そして、帰って来たのはいいが……。



「そうだな。ってか、東雲は??」


 一頭で帰って来た事にちょいと疑問を抱いたので尋ねてみた。


「置いて来た!!」



 置いて来たときましたか。


 東雲は泳ぐのが大変苦手。更にここはかなりの広さを有する御風呂だ。



「おいおい。大丈夫なのか??」



 綺麗な黒の翼に水がたっぷりと染み込んで溺れやしないか。そんな心配が顔を覗かせる。


 流石に大丈夫だとは思うけど……。



「多分大丈夫にゃ!! ほら、いつもみたいに水面をクルクル回っていたし??」



 東雲は翼を器用に動かして泳ごうとしても上手く泳げないもんね。


 水鳥の様に足に水かきが付いていれば別なんだけど。水面に揺らぐ蒸気の隙間を注意深く観察していると……。



「レ、レイド様ぁ!! も、もう暫くお待ち下さい!! 今からそちらへ向かいますので!!」



 体は己の意思とは関係無く回り続ける。しかし、顔は此方に一生懸命に向けようとしている一羽の烏が水面の上を必死にもがいていた。


 あれだけ必死に叫ばれたらしょうがないかな。



「ほれ、行くぞ」


「ぬっ!?」


 ペロの体を左腕で抱き抱えたまま、独楽の要領で回り続けている烏さんの下へと歩んで行く。


「よっ、お待たせ」


 湯の中を歩み数十歩。


 見た目より意外と遠い距離を進み、今もクルクルと回り続けている東雲の前に腰を下ろした。


「あぁ、不甲斐無い私の為に態々御足労を頂くなんて……」


「大袈裟だって。それにしても……、いい湯だなぁ」



 エルザードが水を満たしてフォレインさんが温めたって言っていたけど。


 只の水がこうも心地良いとはね。


 何か別の効能でもあるんじゃないのかと首を傾げたくなる心地良さだ。



「その点についてですが」


 両方の翼を上手く使い、俺の胸元に到着した東雲が此方を見上げる。


「うん?? 何か聞いたの??」



 水の流れによって胸元から流れ出て行かぬ様にしっかりと両手で抱きとめて聞いてやった。



「はい、アオイ様のお母様。つまりフォレイン様から御伺い致したのですが。この敷き詰められた石々には磁力という力が籠められているようですよ」


「へぇ。磁力、ねぇ」



 目に見えぬ力が湯を通して体の中に染み渡り、疲弊した筋力を解きほぐしてくれているのか。


 よく考えて作ってあるな。



「どこから採掘したのかは聞いていない??」


 俺がそう尋ねると。


「はっ、申し訳ございません。伺っておりません……」


 そこまで真剣に聞いたつもりじゃないのに、誰から見ても分かり易くシュンっと項垂れてしまった。


「アオイにゃんの中にいて聞いていたんだから聞くも何も。どうしようも無いにゃよね――」



 頭上からペロの声が降り注ぐ。


 器用に乗るね??



「ごめんね??」


「い、いえ!! 機会があれば尋ねてみますのでもう暫くお待ち下さいませ!!」


 了解ですっと。


「それにしても。初日からこっぴどく絞られたにゃね??」


「あぁ……。お陰様で体中が痛むよ」



 師匠から受けた箇所は言わずもがな、母親龍さんからも大変有難い指導を受けた。その余韻として腹部には今もずんっと重い痛みが残る。


 俺の攻撃を予測していたかの様に容易く躱し、放った拳をしまう前にお返しと言わんばかりに激烈な痛みが腹を穿ったのだ。


 腹、というより。どちらかと言えば背中側に衝撃が突き抜けて行ったと言えばいいのか。


 確実に相手を撲殺する為の攻撃だったな。


 あれで手加減しているときたもんだ。本気を発揮した時にはどうなる事やら……。



「イスハ様、そしてフィロ様の攻撃を受け続けていたというのに決して崩れぬその御体。素敵で御座います」


「そりゃどうも。ごめんね?? ちょっと嘴が痛い」



 鋭い嘴の先端で俺の胸元をツンツンと突き続ける彼女にこちらの痛覚を気付かせてやった。



「カァ!? も、申し訳ありませんでした!!」


「レイドにゃんは馬鹿みたいに頑丈だからまだマシにゃよ。カエデにゃんなんか、言葉には出していないけど相当参っているにゃよ」



 だろうね。あらさまに無理をしている感じだし。



「なぁ、カエデはどうしてあぁも我武者羅になっている理由は何??」



 頭の天辺で頬杖を付く横着な虎猫に聞く。



「ん――?? 私が言うのもにゃんだかなぁ。直接本人に聞くがいいよ」



 直接ねぇ……。


 面と面を合わせて聞くのには少々勇気がいります。どうしてかって??


 余計なお世話だとして、怖い顔で怒られるのが目に見えているからですよっと。


 カエデは自分の事は自分でケリを付けたい性格だ。横槍を入れようものなら、炎の槍がお返しと言わんばかりに俺の体を射貫くであろうさ。



「直接、ね」


「大丈夫にゃって。レイドにゃんなら話してくれるから」



 たっぷりとお湯を含んだ前足で俺の頭をタフタフと叩く。



「信頼されている証拠です。レイド様は真摯な御方ですからね」


「ありがとうね」


 柔和な角度を描く黒き頭を一つ撫でながら話してやった。


「あぁ、有難き幸せ……。この心地良さは極楽にも勝るとも劣らないでしょう……」


 東雲さん、それは大袈裟ですよ――。


「ねぇねぇ!! 明日の訓練は大丈夫にゃの!?」


「いてぇ!! 爪を立てるな!!」



 髪の毛が抜けたらどうしてくれるのだ。


 人の毛は有限なのだよ。



「精神に重みを置いた訓練の事だろ??」



 出血していないかな。


 さり気なく傷口に指を添えて確認するが……。どうやら杞憂でしたね。



「そうそう。レイドにゃんはヘタレだからにゃ――。どうせ、わんわんと泣き叫ぶ姿が目に浮かぶにゃ」


「俺は犬か。だが、まぁ……。恐ろしいのは違いないかな」



 人の力では到底御せぬ力が体の内に眠っているんだ。


 そりゃあ誰だって億劫になるさ。



「だけど、此度の訓練の主旨はそこだろ?? カエデ達は御先祖様である九祖の血を引く者達の力を使いこなせる様に。そして俺は……」



 そこまで話すと、思わず口を閉じてしまった。


 使いこなせるのか?? ちっぽけな俺なんかが……。


 湯の中から右腕を上げて傷だらけの情けない腕を見下ろす。



 この腕、以前カエデは怖くないと言ってくれた。それは未だ大切な人を傷付けていなから言ってくれたと俺は考えている。


 人を傷付け、最悪な結果を迎えても果たして彼女は同じ台詞を俺に与えてくれるのか。



 答えは否だ。



 きっと俺の周りには誰一人残ってくれやしない。この広い世界でたった一人残され生きて行くのだろう。


 それとも、友を傷つける前に消え去った方がいいのかな……。自分が傷付く方が友人を傷付けるよりもよっぽど楽だから。



「どうされました?? 酷く暗い顔をしていますけど」


「あ、ううん。気にしないで」


 酷い傷口から視線を外し、此方に向かって首を傾げている東雲を見つめた。


「左様で御座いますか。余り無理を為されない様に。レイド様の御体はアオイ様の物でもありますので」



 いつの間に俺の体の所有権は彼女のに譲渡されたのだろう。


 甚だ疑問が残ります。



「まっ!! いつも通り過ごせば何とかなる!! 男は度胸ってね!!」



 空元気を放ち、東雲を湯から仰々しく掬い上げ満点の星空へと掲げてやった。



「カァ!? レイド様っ!? お、御戯れを!!」


 何かを見ては不味いと考えたのか。両の翼で黒き瞳を抑える。


「おっほぉ!! 御立派ぁ!!」


「こら。どこ見てんだよ」



 頭から降りて湯の中で腕を組み、満足気にウンウンと頷く虎猫に拳骨を下ろす。



「いにゃい!! ちょっと!! たん瘤出来ちゃうにゃ!!」


「作ってやったんだよ」


「そっちがその気にゃらぁ……。こっちはこうにゃ!!」



 一旦湯の中に沈んだかと思いきや。


 ずぶ濡れになった虎柄が眼前に突貫して来るではありませんか!!



「ぬおっ!?」


「にゃははぁ!! ペロ様の攻撃で溺れるがいい!!」



 四本の足が顔に絡み付き、ひしとしがみつかれたまま湯の中へと沈む。口から大量の湯が侵入して呼吸を阻害。


 こ奴は溺れさそうと画策したのだろうが……。


 少々重さが足りなかったようだな!!



「ふんがぁ!!」


「のぉっ!!」



 腹筋、大腿部、腕力。


 体全ての筋力を駆使して水中から大脱出を成功させてやった。



「やるにゃぁ……」

「そっちこそ……」



 互いに距離を取り、一撃必殺の間合いを図る。


 この仕返し、どうしてくれようぞ。


 怪しく縦に開く瞳を見つめつつ、一周円を描き終えた時。何やら悲壮な声が水面から聞こえて来た。



「ヴぇ、ヴぇいど様!! お、おぼでで……」



 一羽の烏が沈むまいと必死に翼を動かし、水中から顔だけを覗かせて懸命に声を放つ。


 きっとペロに襲われた時、水の中で手を放しちゃったんだな。



「悪い!!」


 咄嗟に手を差し伸べようとしたが。


「隙ありぃ!!」


「わぼが!?」



 一頭の愚か者が再び顔に襲い掛かって来た。



「沈めぇぇええ――――ッ!!」


「阿保か!! 東雲が溺れちゃうだろ!!」


「レイド様……。来世はか、必ずやあなた様の従順なる僕としてお仕え致し……。ガボボ……」


「にゃっはぁ!! 東雲!! ばいにゃ――いっ!!」


「馬鹿野郎!! 友達を見殺しにする気か!!!!」



 一人の男の顔に一匹の猫が絡み付き、彼はそれを右手で必死に引き剥がそうともがく。


 だが、彼の優しさなのか。左手だけは一羽の烏の翼をしっかりと持ち続けていた。




















 ◇




 薄暗く柔らかい月明りが天幕の入り口から差し込み、眠りに相応しい夜の色を演出する。


 大きく長く、そしてゆるりと息を吐くと天幕の向こう側に存在する月が早くお眠りなさいと私に優しく掛けてくるようだ。


 だが、麗しき月も顔を顰めてしまううざってぇ話し声が天幕の中で鳴り響けば眠れないのも当たり前ってか。



「ちょっと、リュー。ここは私の陣地なの。足、入っているよ」


「喧しい。貴様が足を畳めばいいだけの話であろう」



「カエデさん。何の本を読んでいるんですか??」


「主人公達が窮地に陥ると変な仮面を被った英雄が颯爽と出現して彼等を救う御話です」



「酷いなぁ……。あぁ!! アオイちゃんも入って来ないで!!」


「私の足は大変長く美しいので、ごめんあそばせ」



 ったく。


 就寝の時間だってのにピーチクパーチクとまぁ喧しったらありゃしない。しかもカエデに至っては小さな光球を宙に浮かべて本を読む始末だし。


 両耳を刺激するうるせぇ話し声とちょいと明る過ぎる光。


 これで眠れたら褒めてあげるわ。



「ねぇ、ユウ」


「…………」



 お?? 無視か??


 親友の声が返って来ない事に苛立ちを募らせた顔を左横に向けると。



「――――。んぅ」



 ユウが妙にあっめぇ声を漏らしつつ、これが熟睡という姿だと言わんばかりに眠りこけていた。


 こんなに五月蠅いってのに良く眠れるなぁ。


 まっ、それだけ今日の訓練は堪えたって事になるわね。



 しかし……。


 こ奴の西瓜は一体どういう仕組みなのだろう。



 頭はちゃんと枕に乗せて地面に右肩を着けて眠っているのだが、女性でもドン引きする途轍もない大きさを誇る巨岩が右腕から地面へと零れ落ちている。


 彼女の物を抑え付けられないのか。上半身の訓練着はもう既に伸び、安らかな笑顔とは裏腹に大変苦しそうな顔を浮かべていた。


 これだけでっけぇ胸には何が詰まっているのか。


 ちょいと興味が湧いたので地面から片方の西瓜を持ち上げてやる。



「……。んっ」



 私の手の感触を感知したのか、我が親友からあまぁい声が漏れた。


 す、す、すっげぇ。


 土……、じゃあないな。馬鹿デカイ革袋に阿保みたいに水を入れた重さと言えばいいのか。重さは平均的な女性の数倍上であろう。


 だが、恐ろしい重さとは裏腹に。手の平に感じる柔らかさは極上でずっと触っていたくなる感覚だ。


 モチモチでプルプルの化け物か。


 こんなには要らないけど、もうちょっと私も欲しかったな。



「もういいよ――。私があっち行くから。マイちゃん、横通るねぇ」


 狼の姿のルーが私の体をまたぎ、ユウと私の間にすっぽりと収まった。


「おっ。ユウちゃんもう熟睡しているじゃん」



 はぁはぁと獣臭い息を吐きながらユウの顔を金色の瞳で見つめる。



「疲れているんでしょ。私も寝るから静かにしてろ」



 枕の上で両手を組み、そこに頭を乗せて仰向けの姿勢を取る。


 ふむ。


 この枕、中々良い具合じゃない。アイツの胸ポケットの中程じゃあ無いけどさ。



「静かにしているじゃん。五月蠅いのリュー達だよ」


「あんたが一々絡むから五月蠅くなるのよ」



 この天幕はまぁまぁな広さを誇るが流石に七人の女性が足を大きく広げれば窮屈に感じる。


 真っ直ぐに横たわれば丁度良い広さの天幕なんだから話し声が響けば五月蠅く感じちゃうのよ。



「どうせ私が悪いんですよ――っと。アオイちゃん!! 枕!!」


「どうぞ」



 ルーが叫ぶとほぼ同時にお惚け狼用の枕が飛翔し。



「ちょっと外れてるよ!! とう!!」


 ルーがピョンっと飛び跳ねると、上空でクルクルと回る枕を獣の顎で捉え。


「んしょっと……。こんな感じかなっ」


 前足で枕の大きさ、形を好みの具合に直して『仰向け』 の姿勢で後頭部を乗せた。


「いやいや。そこは俯せでしょ」



 野生の狼は仰向けでは寝まい。


 自らの弱点を曝け出して眠るのは危険な行為だし。



「へ?? 駄目なの??」


「いや、駄目じゃ無いけど。違和感があるのよ」


「ふぅん。私は気にならないかな」



 話を聞きなさいよ。


 あんたは気にならないかも知れないけど、私は気になるって言ってんの。


 いつもならここで二三文句を垂れるのだが、正直そこまでの体力は残っていない。


 久々に疲労感を覚える程のシゴキに体が早く休めと叫んでいるからねぇ。



 朝から尻を叩かれて走り、阿保みたいな重さの光の輪を付けて激走し、青痣が出来る迄ぶん殴られ続けたらこの至高の体を以てしても疲労を感じてしまうのさ。



 ほら、眠れって合図が来た。



「ふぁぁ」


 顎を大きく開き、これでもかと新鮮な空気を……。新鮮では無いかな。


 女の香をたっぷりと含んだ甘くて粘度の高い空気を取り込み、目の端っこに浮かんだ涙を手の甲で拭う。


「欠伸って移るよねぇ。ふあぁぁぁ――……」



 仰向けのお惚け狼も私みたく口を開き、両前足で御顔をグシグシと擦って掃除を終えると。



「おやすみぃ」


「ん――」



 むにゃらむにゃらと変な口の動きを見せて瞳を閉じた。



 やっと静かにしてくれたか。


 ルーの声を皮切りに方々で上がっていた話し声も徐々に収まり、外の夜虫の鳴き声を聞き取れるまでになった。


 良い音……。


 こうして生物達の活動を感じ取れる音の方が私は好きだ。冬の木枯らしの音はちょいと寂しく感じちゃうからねぇ。


 夢と現実の狭間に位置する心地良い意識を楽しんでいると、この静寂をぶち破る喧しさが帰って来やがった。



「にゃははぁ!! 良いお湯だったにゃぁあ!!」


「アオイ様。只今戻りました」



 うるせえ虎猫とそれと正反対な烏が天幕の布を潜り抜けて主の下へと戻って行く。



「どうでしたか?? レイド様との湯浴みは」


「正に夢心地とでも言いましょうか。この世には桃源郷が存在するのだと、私は確信に至りました」


「まぁっ、ふふっ。主人を差し置いて楽しむのは結構ですが。後でちゃあんと……」


「はっ!! 勿論で御座います!! レイド様のアレを確と……」



「カエデにゃん!! ほらっ!! ほらっ!!」


「前足を掲げてどうしたのですか」


「肉球がモチモチになった!!」


「そうですか。濡れた足で本を触ったら燃やしますからね」


「こっわ!!!!」



 賑やかなのは嫌いじゃないけどよぉ。眠りたい時にうるせぇのは大っ嫌いなのよね。



「おら、そこの猫と烏。うるせえぞ」



 寝不足になって、明日に響いたらどうしてくれんのよ。


 しかも明日は精神の訓練なのだ。私でもその重要性は理解している。万全の状態で臨まなきゃいかんのよ。



「アオイ様。何やら無粋な者が声を上げていますが??」


「無視しなさい。耳障りな音は受け流す事が肝心なのです」


「畏まりました。では、私はアオイ様の下へ帰還させて頂きます」


「おいでなさい」



 ちっ、鬱陶しい蜘蛛め。


 私が成敗してくれようか?? そう考え、苛立ちを募らせた表情を浮かべて上半身を起こすと同時に……。何やら変な物体が私の顔にへばりついた。



「駄目にゃよ――!! こわぁい顔いしちゃあ!!」


「やふぁましい」


 速攻で顔にしがみ付く横着者を右手で引っぺがし。


「おぉ!! 強い力!!」


「おら、烏も主人の中に帰ったんだ。お前さんも帰りやがれ」


 阿保猫に門限はとうに過ぎていると言い聞かせてやった。


「にゃはは!! 断る!!」



 あっそ。


 それじゃあ、悪い猫にはお仕置きが必要ね。



「久々の外だしぃ?? レイドにゃんの全裸も堪能出来たしぃ?? 超絶愉快爽快にゃ!!」


「そりゃ結構。だけどな?? あんたは今から悶絶不愉快不快な肉の沼へと沈むのよ」


「はえ??」



 横着猫の首根っこをむんずっと掴み。



「うにゃらぁ……」



 いつの間にか仰向けの姿勢で眠りこけているお惚け狼をまたぎ。


 世界最強候補の一角。


 いや、私が見た限りでは史上最強のお胸を持つお方の胸元にペロの足元をくっつけてやった。


 後は至極簡単。


 ユウは眠る時、何かが触れると抱きついてしまう癖があるからねぇ……。



「い、いやあぁあああ――――ッ!! ここだけは嫌にゃああああ――!!」



 ジタバタと四つの足を振り回す姿が実に愉快だ。


 あんたは私の言う事を聞かなかった。その事を後悔しながら肉の海で溺れるがいいさ。



「お、お願い!! は、早く遠ざけ……。ッ!?!?」



 はぁぁい、一名様地獄の谷へとご案――内!!


 ユウが私の予想通りの行動を取り、ペロの後ろ足をきゅっと掴む。



「や、やだぁ!! 死にたくにゃい!!」


「安心しなって。なんだかんだ言って死ぬ一歩手前で助かるからさ。ふあぁぁ」



 巨乳番長さん、後はお任せします。


 ペロの下半身全てが肉の海に沈んだ姿を確認して自分の寝床へと戻る。



「お、溺れるぅ!! 溺れるってぇ!!」


「カエデ――。眩しいからそれ、消して――」


「分かりました」



 彼女も漸く眠ろうと考えてくれたのか。小さく息を漏らすと同時に真の暗闇が訪れた。


 さてと!!


 明日は今日以上に気合を入れて臨むとしますかね!! 朝飯をたぁんと食べて臨めば大丈夫!!



「はっっぷ!! あっぷ!? や、やめ……ッ!!」



 虎猫の悲壮感溢れる声が徐々に鎮まって行くと素敵な静寂が訪れて眠りへと誘う。


 肉の海から必死に逃れようとして何かが蠢く音が暫くの間続いていたが、私の親友はその音と動きが気に入らなかったようだ。



「ん――……」


「ウグゴッパッ!?」



 寝返りを打ち二つの肉の塊を地面と密着させると死から逃れようとする虚しい音が消失。


 代わりに女達の吐息が小さく優しく空気を震わせた。



「おやすみ……」



 誰に言う訳でも無く。


 私は小さくそう漏らすと御馳走が待ち構えている夢の世界へと旅立って行った。



お疲れ様でした。


今週末は重点的にプロットの執筆を行いますので番外編一話の更新となります。そして、来週なのですが少々忙しくなる為、投稿が遅れる可能性が御座います。予めご了承下さいませ。



厳しい寒さが続く所為か、ついに右足にも霜焼けを罹患してしまいました……。


歩く度にジュクっとした痛みが走り辛い日々が続いております。


眠る時、足元が冷た過ぎて中々眠れないのですよね。何か良い解決方法が無いか模索してみます。



そして、ブックマークをして頂き有難う御座いました!!


執筆活動の励みとなり物凄く嬉しいです!!



それでは皆様、お休みなさいませ。

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