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第二百八十二話 幸せな時間はひょんな事から始まる その二

お疲れ様です。


本日の投稿になります。




 どこぞの冒険家或いは探検家が残した名言かどうか知らぬがこういう言葉を聞いた事がある。



『そこに山があるから登るのだ』



 探求心若しくは挑戦欲から来る己の衝動を端的に現した言葉だ。


 この言葉には私も頷く物がある。


 食っても食っても減らない御飯の山が存在したら私はかの冒険家の言葉に倣い踏破を目指すであろう。


 きっと、あの頂点に立てば己の欲が満たされ。素敵な達成感が心の隙間を埋め尽くしてくれると考えるのだから。



「うっぷぇ……」



 おっと、危ない。腹に収めた山の一部が盛大に噴き出してしまいそうだったぞ。


 慌てて両手で口を抑え込み、ぎゅうぎゅうに詰まったお腹の中へ御米の欠片を大切にしまってあげた。


 踏破を目指す私にとって御飯を吹き出す行為は途中下山にも等しい。


 私の血と肉になる栄養を吐き出してたまるものですかっと。



「お、おい。吐き出すなよ??」



 大人しく座る私の僅か右後方。


 こんもりと膨れ上がったお腹をだらしなく曝け出し、仰向けに寝そべっているユウがこちらを見上げつつ話す。



「あ、安心なさい。あ、あ、後一杯なんてぇ。余裕よ、よゆ――」



 口ではそう言いものの、体は拒絶の姿勢を取ってしまう。


 右手に持つ箸が小刻みにプルプルと震え、まるで馬鹿デカイ鉄球の様な重さに変容した丼に対して左手が苦い顔を浮かべる。


 ほぼ瀕死の状態に追い打ちをかけるが如く。馬鹿でけぇ御櫃には残り丼一杯分のお米さんが顔を顰めて皆を見まわしていた。



 ごめんなさい!! あなたを迎え入れる為にはもうちょっと時間が欲しいのよ!!



「んっ……。ぐぐむぅ……」



 左手に持つ丼から御米を掬い、お口に運んで大変ゆっくりと咀嚼。


 しっかりと米の甘味を享受して恐る恐るゴックンと飲み込むと……。



『いい加減にしろ!!』



 胃袋ちゃんからそう言わんばかりの雄叫びが上がった。



「うぶぉっ!?!?」



 前歯の裏に先程飲み込んだ魚の塩味を感知してしまう。


 い、い、今のは本気マジで危なかった!!


 後数センチで外気に触れてしまうところだったわね!!



「はぁ――い。後一杯ですよ――。誰が最後の一杯を食べるのかなぁ――」



 モアが楽しそうに手元で出刃包丁をクルクルと回し、席に残る者達の周りをこれまたグルグルとゆぅっくり徘徊していた。


 主戦場に残るのは私と正面のボケナス、その隣の鳥姉ちゃん。こちら側の一つ飛ばした右隣りに座るリューヴ。そして、意外や意外。



「……」



 正面の右端に座るのは我々の中で一番貧弱な胃袋の持ち主、カエデじゃあありませんか!!


 一番先に脱落するかと思ったのに最終局面まで残るなんて根性あるじゃない。



「じ、自分はこれで最後にします……。御馳走様でした」



 野郎は己の丼に残る米を食い終え、しっかりと手を合わせて食を終えた。


 うむっ。見事な所作だったぞ。



「ふぅん。レイドさんは十杯食べましたからね。それ位で見逃してあげますよ」


「ありがとうございます……」



 深々と頭を垂れて礼を述べた。



「もしかして、全員が食べた数を数えていたの??」


 口の中を何んとか空白にして尋ねてみた。


「勿論ですよ、ちゃあんと数えています。この中でぇ……、最低限の数を食べ終えていないのはぁ……。あなたデスね!!」



 モアが出刃包丁を空高く放り投げると宙に舞った出刃包丁が美しい回転を描きそして、鳥姉ちゃんの目の前の机に突き刺さった。



「ぴぃっ!?!?」



 出刃包丁の雷撃と同時に上半身がビクッ!! と上下に動く。


 そりゃ誰だって死角から包丁が落っこちて来たら驚くだろうさ。



「駄目ですよぉ?? ちゃあんと食べなきゃ??」



 突き刺さった出刃包丁を引っこ抜いてアレクシアが持つ丼の淵をチンと叩く。


 あの乾いた音。ちょっと怖いわね……。



「た、食べていますよぉ!! あ、後一口が辛いんですぅ!!」


「あ――、はいはい。そうですか。それなら結構結構。食べる意志があるのなら大目に見てあげますよ。でも、鳥一族を一手に纏める女王としてあそこの御飯を食べ終えたらカッコイイと思いません??」



 出刃包丁の切っ先を御櫃へと向ける。



「思いません」


 即答かよ。


 ってか、鳥一族を訂正しなさいって。今はそれ何処じゃないのは分かるけどさ。


「へぇ……、ふぅん。おや?? どうかしました?? カエデさん。酔っ払ったヒヨコみたいな足取りで」



 モアの声を受け、視線を右に移動させると。


 カエデがよろよろと蠢き、震える上半身を抑えながらなんと……。しゃもじを手に取るじゃあありませんか!!



「ま、まぁっ!!!! カエデさんも立派になりましたねぇ!!」


「ど、どうも……」



 うっそぉ……。食の細いカエデが最後の一杯に挑戦するなんて。


 白米でこんもりと盛り上がった丼を両手で手に持ち、再起不能寸前まで戦い抜いた軍鶏みたいな足取りで己の席へと戻って行った。



「うんうんっ!! 沢山食べる子は強くなりますからね!! おかず、お持ちしますねぇ――」


「それは結構です。出来ればお水かお茶を持って来て下さい」


 成程、流し込む作戦か。悪くは無いわね。



「アハッ!! いいですよぉ。翌朝下痢気味になる量のお水をお持ち致しますね」



「食欲の低下を招く言葉は使用しないで下さい!!!!」



 モアがカエデの怖い口調を無視し、ルンルンっといった足取りで調理場へと戻って行ってしまった。



「カエデ、あんた大丈夫??」



 彼女が平らげた数は知らんが、恐らく既に限界を超えた限界を迎えている筈。


 それなのに……。



「食事も訓練の内です。私は今回の訓練で強くなると決めっ……!! ふぅ……」



 あ、今吐きそうだったわよね??


 何かを飲み込む仕草を取ったし。



「強くなると決めましたので。その為に栄養が必要不可欠なのですよ」



 ゆっくり、しかし確実にちいちゃな御口へお米を運び。そしてモムモムと頼りない咀嚼を開始した。


 へぇ……。先程の訓練といい、この食事といい。どうやらカエデは目標を大きく上に見据えている様だ。


 それだけあの惨敗が堪えたのだろうさ。



「も、もう駄目だ……」



 リューヴが箸を置き、そのまま後方へと倒れ込む。



「大丈夫か――??」


 のんびりとした口調でユウが問う。


「大丈夫の様に見えるのか?? 貴様は」


「いんや。今にも吐き出しそうな面構えしてんぞ」


「リュー、何杯食べた――??」



 机の向こう。


 私から死角の位置で休んでいるお惚け狼の声が届く。



「十五杯だ。頼む、今は苦しいからそっとしておいてくれ……」



 あの強面狼から頼むときましたか。


 相当参っているわね。


 呻き声と苦しみ悶えるが周囲から立ち昇る最中さなか、ほぼ正面に座る鳥姉ちゃんからか弱い声がぽつりと漏れた。



「う、うぅ……。後一口。一口なのにぃ……」



 大きなお目目の淵に涙が浮かび震える箸で御米を掴もうとしているが、体全体が拒絶しているのか。


 そこから一切動こうとしない。


 気持ちは分かるけども、強くなる為には食わねばならぬ。それを説いてやろうと口を開きかけたその時。



『失礼しますね』



 ボケナスが周囲を警戒する様子を刹那に見せた後。巧みに箸を操り、鳥姉ちゃんの最後の一口分の米を己の口へひょいと迎えやがった。



「レ、レイドさん……」



 苦しみからやっと解放され、安堵、安寧その他諸々。嬉しさと呼べる感情が一気に噴き出した表情で野郎を見つめた。



 おいおい。


 食事中の手助けは御法度じゃあないのかね??



「カエデさ――ん。翌朝の便通がとんでもなく良好になる量のお水をお持ち致しましたよ――」



 馬鹿デカイやかんを持って来たモアが到着。



「ですから!! そういった言葉は使用しないで下さいと言いましたよね!?」


「あら。完食出来たじゃないですか」



 カエデの言葉を無視するとアレクシアの手元に置かれた空っぽの丼を見つめ満足気な声と表情で大きく頷いた。



「御馳走様でした!! 途中まで美味しかったですよ!!」



 これ以上ここにいたら余計な物を食わされると考えたのか。


 脱兎の如く椅子から離れ、地面の上にどさっと倒れ込んだ。



 初日にしては及第点を上げる食べっぷりだったけども……。これからこの量がずぅっと続くのだ。


 たった七杯の丼程度はさらさらぁっと完食して欲しいのが本音さ。



「うふふ、途中までですか。夕食は飽きが来ない物を用意致してお待ちしておりますねぇ」


「「……っ」」



 夕食。


 その言葉を聞いた誰かがひゅっと息を飲み込んだ。


 多分今の呼吸音は、食事に億劫になっちゃった弱気な言葉の代わりでしょうね。


 夕ご飯かぁ。おかずはなんだろう?? 沢山食べて夢見心地で眠れば明日の訓練にも耐えられる。


 でも!! その前に!!



「御馳走様でした!!」



 空っぽになった丼を机の上に置き、ちょいと頼りない足で素早く立つ。



「ん?? どうした??」


 私が席を立つとボケナスがこちらを見上げて声を出す。


「午後からに備え、ちょいと歩いて来るのよ」



 二時間でこの量を消化出来るとは思うけど……。念には念を入れて軽く動いておきたいのよね。


 それにぃ。夕食に備えてカラッカラにしておきたいの!! 空腹は最高のおかずちゃんだもん!!



「そうか。気を付けて行けよ」


「おう」



 地上最強である私が一体何に対して気を付ければいいのか分からぬが、私を心配してくれた。その一点について図らずとも陽性な感情が湧いてしまった。


 良い心掛けじゃないか、えぇ??


 あんたはそうやってずっと殊勝な心掛けをしていなさい。



 四つ子を宿した様な重たいお腹ちゃんとは正反対な軽い足取りで海へと続く南道の畦道を進み行く。



「はぁ――……。気持ちが良いわね」



 あつぅい陽射しは優しい森さんの力で遮られ、海から届く塩っ辛い風が体を優しく撫で。土と塩、森と太陽の香りが鼻腔に入り頭を蕩けさせてくれる。


 今が訓練中じゃなかったら最高の休暇なんだけどねぇ。


 お腹一杯食べて、風光明媚な環境で心行くまで楽しい時間を友と過ごす。これ以上無い休暇じゃん。



 まっ、そんな風に何も考える事無く悪戯に時間を過ごせるのはもう暫く後であろうさ。



 アイリス大陸南西だっけ?? そこでドンっと腰を据えて横着を働いている魔女を倒さぬ限り私達に真の休暇は訪れ無いのだ。


 人間達は大規模な反抗作戦を考えているって事をボケナスから聞いた。


 何でも?? 馬鹿みたいな量の兵を募集して物量で攻める作戦になるらしい。有象無象の弱兵を集めても機能するのかしら?? 弱兵じゃないわね。



 只の案山子と呼べばいいのか。



 あの憎悪の塊達を前にして恐れ慄かないのは至難の技だ。


 ボケナス達みたいな兵士なら兎も角、数十日前まで包丁やら鎌を手に仕事をしていた者達がいきなり剣、槍、若しくは弓を持ってさぁ戦え!! と言われてもそりゃあ無茶ってもんだろ。


 精々、敵の良い的になるのがオチよ。


 私達魔物がどうにかせにゃならんのだよ……。きっと母さん達はそれを見越して私達を鍛えている筈。


 鍛えてくれるのはありがたいんだけど、あの理不尽な攻撃だけは許せん!!


 母さんは昔っからそう!!


 挨拶代わりに拳を捻じ込み、余計な事を言おうものなら地面と顔が楽しく抱擁してしまう。



 じいちゃんやい……。


 あなたの躾が悪いから母さんは悪い大人になっちゃったじゃないの。



 遠い昔に出会った母方の祖父の快活な姿を思い描いていると後方から足音が近付いて来た。



「よっ。俺も一緒に歩いていいか??」


 右手を軽快に上げ、私に追いつくと大きく息を吐く。


「ふぅ――。苦しい」



 どうやら先程の食事がまだお腹の中で転がっている様だ。


 歩く度に苦しそうな顔を浮かべているし。



「あんたねぇ……。最後のアレ、どういう事よ」


「最後の?? あぁ、アレクシアさんの事か」



 そうだとも。


 助太刀に味を覚え、手を抜き出したらいかんだろう??


 折角強くなりに来ているのにそれは了承出来ないのよ。



「俺達は慣れているけど彼女はまだ慣れていないんだ。初日から飛ばしたら後が持たないと思って、ね」


 にっと口角を上げ、私を見下ろす。


「ふんっ!! 助太刀は一回だけにしなさいよね!!」


「分かっているって。それより、カエデが異常に頑張っていると思わない??」



 やっぱり気が付いていたか。



「そうねぇ。砂浜での稽古、さっきのお代わりといい。私達の中でも頭一つ抜けて奮闘しているわよね」


「だろ?? 最後まで体力が持てばいいけど……。飛ばし過ぎって注意した方がいいかな」


「カエデは馬鹿じゃない。自分の限界は自分で理解出来る。それにあの子。横からアレコレ注文つけられるのすっごい嫌がるの知っているでしょ??」



「あ――……。そう言えばそうか」



 自分の限界まで行動し続けて体力が底をついたら休む。


 いつもカエデが心掛けている行動なのだが……。今回はちょいと毛色が違う。


 限界の更に一歩先まで進み、体が頭の命令を受け付けなくなったら休む。


 傍から見れば無茶苦茶な鍛え方を敢えて率先して実行しているのよ。



「自分の力量に合った鍛え方が最適だと考えているんだけど……。カエデはどういう訳か自分を戒める様に、無茶をしているように見えるわ」



「戒める??」



「そう。ほら、私『以外』 が情けなく負けちゃった訳じゃない?? 人生でもそうそう味わう事の無いにがぁい敗北がカエデを突き動かしているのよ」


「何故そこを強調するんだ」



 だって本当の事だもん。


 私が参戦すればアイツらの一体や二体、確実に倒せたと思うのよ。



「カエデだけじゃないわよ?? きっと全員が同じ悔しさを胸に抱いているわ」


「だろうなぁ。全員が全員、気が強い御方ばかりですから」



 それは私も含まれているのかしら??


 人と比べてちょっとだけ気が強いと自負しているんだけども??



 それから。


 あ――だ、こ—―だと此度の訓練の行く末を勝手に想像しながらまぁまぁ楽しい会話を続け。気付けば砂浜へと到着していた。


 あれまっ。


 ここまであっと言う間だったわね。



 等間隔に鳴り響く波音、上空に浮かぶ千切れ雲がゆっくりと右から左へ流れ、地上には空の青よりも濃い青がどこまで遠く広がっていた。


 この世にはこんな美しい景色が存在するのかと景色を通して私に教えてくれる。


 綺麗な青ね。ずっと眺めていられそうな景色だ。



「おぉ……。青が綺麗だ」



 私と同じ気持ちを抱いたのか。


 右隣りの野郎がポツリと言葉を漏らした。



「そうね。状況が状況じゃなきゃゆっくり過ごしたい場所よ」


「同意するよ。――――、なぁ」


「ん――??」



 砂浜にちょこんと座り、大胆に足を投げ出しながら返事を返す。



「いつか、さ。全部の問題が片付いたら皆でまたここに来ような」



 その問題の山が片付くのはいつになる事やら。


 だが……。私達を誘ってくれた事が嬉しかった。



「当然、飯はあんたが作るのよ??」


「偶には作ってくれよ」


「私が台所に出禁食らっているの知っているでしょ」



 腰に手を当てて満足気に海を眺めているボケナスに向かい。片眉をくいっと上げて言ってやった。



「はは、そうだったな」



 こちらに顔を向けず只海を見つめながら笑みを浮かべる。


 私達の行動に辟易した姿を想像した笑みなのだろうが。そ、その何んと言うか……。妙に似合う姿よね。


 ちょいと見惚れ……、じゃない!! ぼうっと見つめていると海から横着な風が吹く。



「っと。強い風だな」


「そうね……」



 乱れる髪を抑えつつ、コイツを見上げていると。



「「……」」



 ふと目が合ってしまった。


 な、何よ……。その今までずっと探し求めていた料理器具を見付けてしまった時の様な顔は……。



「マイ」


「な、何??」


 ちょっと、心臓さん?? 早く鳴るのをお止めなさい。


「髪、伸びたな」


「そう?? そう言えば……。そうかも」



 コイツと出会った時は確か……。肩に届くまでの長さだったっけ??


 今は背まで届ているし。


 視線をふいっと外し、己の髪を悪戯に触る。


 別に?? 恥ずかしさを誤魔化している訳じゃないのよ??



「アオイに切って貰えよ」


「はぁ?? 何でアイツに私の髪を触らせなきゃいけないの」



 この赤く美しい至高の髪に触れて欲しくないんだけど。



「俺は何度か切って貰ったけど、上手だったぞ」


 黒き髪に手を添えて話す。


「仮に私が頼んだとしてもだよ?? 丸坊主にされちゃうって」



 ツルツルピカピカになった私の頭を見てほくそ笑み、嘲笑うのであろう。


 あぁ、くそう。


 想像しなきゃ良かった。素敵な気分が台無しじゃあないか。



「それはそれで見てみたい気もするけどな」


 正気か!? こいつは!!


「意外と似合うかもよ??」



 何とも無しに話して私の隣にぽんっと座る。



「似合う訳ねぇだろうが。この深紅の美しい髪が披露出来なくなるのよ!?」



 街ですれ違う者の視線を独占し、飛ぶ鳥も思わず翼を止めて眺める世界最高の美しさを誇る髪が無くなった日には……。


 恐らく、数多くの者が咽び泣くであろうさ。



「戦闘に長い髪は不向きだ。一番短いのは……。リューヴか」


 リューヴの髪の長さは肩にちょこんと当たる位だもんね。


「それでも長いと思うんだよねぇ。掴まれたら痛いだろうし」


「掴まらなきゃいいのよ。あんた、髪が長い女は嫌いなの??」



 別に?? 気になる訳じゃないけども。ほら、一人の男の意見として聞いておきたいのよ。



「ん――……。長さは気にしないかな」


「長さは?? じゃあどこを気にしているのよ」


「え――……、っと。う――ん……」



 こいつに聞いた私が戯けだった。


 よく考えれば。



『服は機能性を重視すべきだ』 とか。


『髪を纏めておけ』 とか。



 外見を一切気にしない奴じゃない。



「髪について強いて言うのであれば。色、かな」


「ふぅん。何色が好きなのよ」



 この質問、どこかで聞いた事があるわね。




 ――――。


 あぁ、そうだ。図書館でコイツの同期か知らんが、あの女が質問していた奴だ。


 思い出したらムカついて来たわね。


 ここで藍色、なんて言った日には拳をぶち込んでやろう。


 コイツの死角にある左の拳に力を籠めて答えを待つ。



「特に指定色は無いぞ。その人に誂えた色、とでも言えばいいのかな??」



 顎に指を当て、深く考え込む仕草を取って話す。



「随分と抽象的ね」


「髪の色ってさ、その人の印象をこちらに強く与える物だと思うんだ。その人物を思い出す時、ぱっと思いつくのが良い例だろ」



 ふぅむ、それは納得出来るかも。


 ユウの姿を思い浮かべてみろと言われると、先ず深緑の髪が浮かび。そして綺麗に焼けた小麦色の肌が現れ。最後に快活な笑みを浮かべるきゃわいい御顔ちゃんが出て来たし。



「確かに、そうね」


「だろ?? マイの事を思い出せと言われたらその綺麗な赤い髪が浮かんで来るからさ」



 へ?? 今、何んと仰いました??


 私の耳はいつの間にか腐ったのかしらね。今、綺麗って言った??


 きょとんとした顔でコイツの横顔を見つめていると、私の顔が急に熱を帯びてしまった。


 下僕のくせに偶には良い事言うじゃないか。褒めてつかわそう。


 恥ずかしさを誤魔化す為、ふいと視線を逸らし。悪戯に砂の上に指を這わせていると再び耳を疑う言葉が出て来た。



「まぁ、その赤は直ぐ消し飛んで。馬鹿みたいに飯を食っている姿が出て来るんだけどさ!!」


 はぁい、体罰を執行しま――す!!


「誰が食い意地の張った豚だごらああぁああ!!」



 予め握っておいた左の拳を横っ面に放ってやった。



「んぶぐ!?」



 快感を越えた痛快な感触が拳に伝わると同時に、野郎の体がまぁまぁ面白い回転数で砂浜の上を転がって行く。


 ちぃ!! 座ったままじゃ腰が入った拳が打てないわね!!


 飛距離が五割減だ。



「い、いてぇなぁ!! 何で急に殴るんだよ!!」


「ハハ。安心しなさい、今のじゃ殴った内に入らないわよ」


「ったく……。憩いの時が台無しじゃないか……」


「お?? お代わりいっとくか??」



 頬を抑えながら溜息を漏らす野郎に対し、今度は立った状態で右の拳を握り見せつけてやる。



「もうお腹が一杯です。お許しください」


「うむっ!! 許す!!」



 砂浜に三つ指付いて頭下げたから許してあげるわ。



「何様だよ」


「そっちも何様だ」


「「…………、ふ。アハハ!!!!」



 下らない会話、馬鹿げたじゃれ合いだが。友と交わすとこうも気持ちが良い物なのかと再認識したのか。目が合うとお互いに口から笑みが零れ出て来る。



 良いじゃないの。


 私は嫌いじゃないわよ?? こういう雰囲気。



 多分叶わないとは思うけど、可能であればいつまでも続けと願う自分がいた。

 

 気持ちの良い笑い声が鼓膜を振動させて心の奥まで彼の温かい声が届く


 心の奥底で温かい気持ちがわぁっと広がっているから意図せずとも口角が上がっちゃうのよね??


 何気無く開始した散歩がこうも気持ちの良い物になるとは思わなんだ。


 己の心を見透かされまいと必死に誤魔化しつつ、空に流れる雲と砂浜に押し寄せる波の音をおかずにして私達は時間一杯まで下らない会話を続けていたのだった。



お疲れ様でした。


話の進行が遅くて申し訳ありません。彼等がこれからどのようにしてこの島で過ごすのかを皆様に知って欲しいが為に一日の予定を詳しく執筆しています。


今現在は肉体を鍛える日、そして翌日は精神に重みを置いた日。これを繰り返す為、どうしても初日は詳しく書かざるを得ないのです。


出来るだけ早く執筆を終えますので何卒ご了承下さいませ。



さて、先週末に罹患した風邪ですが……。昨日阿保みたいに眠った所為か大分良くなりました!!


まだ若干喉の痛さは残りますがこれなら全然許容範囲の痛さですので今週はいつも通り更新が出来そうです!!


空気が寒くて乾燥していますので引き続き体調管理には気を付けます。



それでは皆様、お休みなさいませ。


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