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第二百八十話 重量級の重圧はケタ違い

お疲れ様です。


本日の投稿になります。




 微睡とも熟睡とも受け取れる中途半端な意識の状態で心地良い一時を過ごしていると。



『さぁそろそろ起きて支度を整えなさい』



 優しく頬を撫でて通り過ぎて行った柔風の感触を受けてふと目を覚ます。



 しまった……。いつの間にかうたた寝をしていたみたいだ。


 それも致し方あるまい。


 早朝の稽古を終え、目を疑いたくなる量の朝飯を食い、漸く腹が落ち着いて来た所にこの気持ちの良い状況が訪れれば誰だって眠くなるだろうさ。


 南国特有の痛みを伴う燦々と光り輝く太陽の陽射しは木の優しい影によって遮られ、汗を噴出させる暑さは海から訪れる南風によって全く苦にならない。寧ろずっと受け続けていたい程だ。


 訓練中でなければ何も考えずにこのまま眠り続けていたいものさ……。



「ふわぁぁ」



 体に覚醒を促す為の生理的反射行動に素直に従い大きく口を開き、塩気を含んだ空気を吸い込むと幾分か眠気も去る。


 しかし、まだ初日の序の口だってのに体力が削られているな……。


 どこぞの龍は力の配分を間違えて人よりも長い距離を走ったが、島の周囲を走り終えるのは意外と簡単であった。


 問題はその後だ。


 二人一組になり、人一人を背に乗せ。腕の力のみで島を半周するのはかなり堪えた。


 先程の俺の相方は。



「……」



 こちらからちょいと離れた位置で俺と同じく木にもたれ。大変落ち着いた姿を見せるカエデであった。


 今は静かに本を読んで……。いないね。


 襲い掛かる眠気に抗えないのか。コク……、コクっと首が動いているし。


 うたた寝するのも無理は無い。木陰の中は涼しく更に南風が睡眠欲を多大に刺激してしまい体は自ずと眠ろうとするのだから。


 起こすのも憚れるし、あのまま静かに寝かせてあげましょう。



 砂浜と森の狭間の木陰でうたた寝している彼女と二人一組になりそして俺が背に乗せる人物をクジで引いた結果。



『なはは!! やはり弟子は師を選ぶのじゃな!!』 と。



 快活な笑みを浮かべる我が師を背に乗せ。師の期待を裏切る訳にはいかぬと考えた俺は馬も目を見開く速さで移動を終えたのであった。


 御蔭様で今も微妙に腕の筋が疲れていますよっと。



「つめてっ!! ルー!! 掛かったわよ!!」


「あはは!! ごめんねぇ――!!」


「おらぁ!! 仕返しだぁぁああ!!」


「ちょ、ちょっと!! 少しは手加減してよね!!」



「元気過ぎるだろ……」



 紺碧の海の波打ち際で燥ぐ深紅と灰色を見つめてふと息を漏らす。


 あの人達はどうしてあぁも元気なんだろうなぁ……。


 体力を温存する気はないのだろうか?? 頑是ない子供は体力が無くなるまで遊びに興じ、そして遊び疲れたら眠りに就く。


 その例に漏れる事無く彼女達は体力の続く限りあぁして燥ぐのだろう。


 一番の問題は子供と違って体力が枯渇しない事かな。師匠達が来るまで訓練の事を忘れて遊んでそうだもの。



「すぅ……。すぅ……」



 ぼんやりとした頭のままでマイとルーの燥ぐ姿を眺めていると俺の直ぐ後ろ、反対側の木で休むアオイの寝息が聞こえて来た。


 随分落ち着いた寝息だな。


 どんな寝顔を浮かべているのか。ちょいと気になったので重い腰を上げて立ち上がった。



 ほぉ……。これはまた……。



 嫋やかに足を崩して太い幹に背を預け心地良い眠りに興じている。


 白く美しい前髪は斜に構える右顔に掛かりその寝姿は気怠さと心地良さ。相対する両面を見事に表現していた。



『南海の孤島の木陰で微睡む白雪』



 絵にすればきっと高値で売れる景色に思わず唸ってしまう。


 すっと流れる顎の線、整った鼻筋の下には男のイケナイ心を誘う潤った唇が微かに開いて呼吸を続け。それに呼応する形で肉付きの良い胸元が微かに上下する。


 こうやって見ると凄い美人だよな、アオイって。


 この姿を見ればどこぞの狂暴龍と激闘を演じている者と同一人物だとは、とてもじゃ無いけど想像出来ない。



「アオイ。寝てる??」



 柔らかく吹く風にも劣る矮小な声量で話し掛けるが。



「……」



 帰って来たのは男の何かを刺激する甘い吐息のみ。


 朝も早かったし、仕方が無いか。


 彼女の前にちょこんとしゃがみ込み、こちらの手を誘う左の頬へとゆるりと手を伸ばす。



 ちょっと、だけ。そう!! ちょっとだけだから!!


 降り積もった白雪に似た彼女の白くて柔らかそうな頬を指でツンっと突く。



 うぉ……。柔らかっ!!!!


 女性の頬ってこんなにも柔らかかったっけ??


 試しに己の頬を突くが、どうやら指が得た感触は御不満の様子だ。


 硬いし、何だかゴツゴツしている。それに比べ先程触れた頬ときたら……。


 もう一回くらいなら突いても良いかな??



 誰にも見られていない事を確認して柔らかい心地良さを求め、再び恐る恐る手を伸ばすと。



「よ――!! 何してんの――!!」

「っ!!」



 突如として背後からユウの声が届き、思わず口から心臓が飛び出してしまいそうだった。



「あ、あぁ。アオイが寝ているから心配していたんだよ」



 五月蠅い心臓を宥めつつ立ち上がり、声のした方向へ振り返る。


 びっくりしたぁ……。危く現場を取り押えられる所だったぞ。



「わっ。気持ち良さそうに眠っていますね」


 ユウと肩を並べてこちらに向かい来るアレクシアさんが眠り続ける蜘蛛の御姫様を見付け。


「間も無く午前の訓練が始まる。起こすべきだぞ」



 それにリューヴが続いた。



「分かっているけどさ。これだけ気持ち良さそうな寝顔を浮かべて居たら起こすのも億劫になるだろ??」


「気持ちは分かるけどさぁ。どれどれぇ……」


 悪戯心を満載した笑みを浮かべるユウがアオイの前にしゃがみ、そして。


「んぉっ!!!! アオイの胸、柔らかっ!!」



 ミノタウロスの娘さんは何を考えたのか、訓練着の上から彼女の双丘を鷲掴みにして驚きの声を上げた。



「怒られても知らないぞ」


「大丈夫だってぇ!! これだけ気持ち良さそうに眠っているんだし??」



 横着を受けても起きないのは理解したけど。取り敢えず、その指の動きを止めようか。


 彼女の双丘の肉感を楽しむ様に十の指をワチャワチャと動かし、時折引っ張ったりしている。



「これ――!! 午前の訓練を始めるぞ――!! はよう来い――!!」



 師匠の声だ。



「うるさっ。もう少し声を落としなさいよね」


「貴様がもっと遠くへ行けば良いじゃろ」


「あっついし、五月蠅いし、獣臭い。はぁ――あっ!! 午前中なのに気が滅入るなぁ――」


「しばき倒すぞ!! このクソ脂肪がぁぁああ!!」


「はいはい、落ち着きなさいって」


「遊ぶのならどうぞ他所でお願いしますわ」



 良い様に遊ばれている可哀想な御姫様から視線を外すと、いつの間にか指導者達が砂浜の上に立ち並び俺達を待ち構えていた。


 これ以上師匠を待たせてしまうとあの横着な淫魔と一勝負を始めてしまいそうだし。早めに向かった方が正解ですね。



「仕方が無い。行くとしますか」


 ユウが漸く横着な手の動きを止めて砂浜へと向かう。


「ですねぇ。はぁ――。只でさえ走り疲れてしまったのに、今度は何をするのでしょうか」


「アレクシア、前向きに捉えるのだ。一つ一つの訓練が高みへと昇る為の階段だと思えばいい」


「そうは言いますけどね?? 私はリューヴさんと違って走るのは苦手なんですから。カエデさ――ん!! 起きて下さ――い!! 行きますよ――!!」


「――――。んっ、分かった」



 それに続いて二人が木陰から燦々と輝く太陽の下へと躍り出て行った。


 さてと、俺もアオイを起こして行きますか。



「アオイ、起き……」



 そこまで話すと言葉を切ってしまった。


 何故なら……。眠っていたと考えていた彼女がしっとりと色気を含んだ瞳で俺を見上げていたからです。



「な、何だ。起きたのか」


「牛の襲撃で起きぬ者が居れば見てみたいものですわ。ふぁ……」



 ふわぁっと口を開きかけ、両手で口元を隠す。



「はは。欠伸位見せても良いんじゃない??」


「女性にはそれ相応の嗜みというものが御座いますのよ??」



 そういうもんかね。


 アレコレと制限していたら肩が凝るんじゃないのかしら。



「そろそろ訓練が始まるみたいだから俺達も向かおうか」


「その様ですわね。レイド様……」


 此方に向けて手を差し出す。


 あっ、はいはい。


「よいしょっと」



 アオイの右手を掴み、程良い力で立たせてあげた。


 体軽過ぎでしょ。



「ありがとうございます」


 どうしたしまして。


 ニコリと柔和な笑みを浮かべる彼女の脇を通り抜けて砂浜へと向かおうとすると。


「レイド様、ちょっと……」


 何かを耳打ちする仕草を取った。


「何??」



 その手に向け右耳を傾けてあげた。



『アオイの体に興味が御座いましたのなら、頬以外も触って下さいまし』


「へぇっ!?」



 まさか、起きていたの!?



「アオイは嬉しかったですよ?? 他ならぬレイド様が私の体に興味を抱いて下さいましたので」


 耳打ちする所作を解除すると後ろ手に手を組んで頬を染めた。


「い、いや。それは、その……」



 沸き起こる羞恥を誤魔化す様に後頭部を荒々しく掻く。


 起きていたのなら言って下さいよ……。恥ずかしくて穴があったらそこに飛び込み、鉄製の蓋で穴を塞いで引き籠りたい。



「んふふ……。この続きは、またの機会で」



 くるりと振り返り、白き髪を揺らしながら砂浜へと向かって行ってしまった。


 はぁ――、いかんなぁ。煩悩を捨てきれていない。


 しっかりしなさい、俺。



「アオイちゃん!! おはよう!!」


「おはようございます」


「あれ?? 何か良い事あった??」


「さぁ?? 気の所為で御座いませんか」



 ほんの僅かに口角を上げつつルーと会話を交わしている彼女達の下へ、両手で頬を強く叩きながら進む。


 これから午前の訓練が始まるのだ!! 煩悩を捨て切って集中しましょう!!



「よぉし、揃った様じゃな」



 燦々と光り輝く太陽の強き光が降り注ぐ砂浜の上、横一列に並んだ俺達を満足気に見つめて師匠が口を開く。



「んで?? 揃ったのはいいけど何をするのよ」


「マイ、これから説明するのじゃよ。お主は早とちりが過ぎるぞ」


「はいはいっと」



 マイの粗相を流し、師匠が一つ咳払いをして表情を変える。


 さぁ、苦しい訓練が始まるぞ。師匠からの有難い言葉を一字一句聞き逃さぬ様、熱い陽射しの下で気持ちを切り替えた。



「今から午前の訓練の説明を始める。先ず、お主らはそこの線に横一列になってうつ伏せの状態になって貰う。足は……。ほれ、見えるか?? あそこの旗」



 師匠が指差した先には、白と赤の旗が括りつけられた木の棒が砂浜の上に突き刺さっていた。


 こっちの線と向こうの旗の間の距離は大雑把に見繕って……。二十メートル程か。



「足はあの旗に向けてうつ伏せになれ。ほれ、移動開始じゃ」



 師匠に促され、各々が砂浜の上に描かれている線の上に立ちそして指示通りに俯せの状態になる。


 これから何をするのだろうか?? まぁ、凡そは想像出来ますけども……。



「伏せたな?? お主達には今からあの旗へと向かって全力で駆けて貰う。合図は儂の柏手じゃ。鳴ったと同時に、瞬時に立ち上がり誰よりも速くあの旗を奪ってみせい。勿論、己の肉体のみでな」



「師匠、旗は二本ですよね?? 奪取出来なかった残りの六名はどうするので??」



「これは勝ち抜け戦よ。旗を奪った二人が抜け、残った六人が再び今の状態になって二回戦を始める。そして最後は旗を一本にして最終最後まで残ってしまった者には楽しいぃ楽しいぃ特別鍛錬を受けて貰うわ」



 師匠に代わり口元をにぃっと上げてフィロさんが話す。



「先に旗に触れた者の勝ち。その判定は私が向こう側で務ます」



 薄手の着物を華麗に着こなすフォレインさんがそう話すと、足音を立てずに旗の方へと進んで行く。



「旗を奪った者はその間休憩。長く休みたければ早く旗を奪う事じゃ」


「何だ、楽勝じゃん!! 私の足の速さを知らない訳じゃないでしょ??」


「だね――!! 横がカエデちゃんで良かったよ!!」


「足を引っ掛けて転倒させます」


 いや、流石にそれは……。


「ずっるい!! インチキは駄目なんだからね!?」



「妨害は駄目よ――。まぁ、肩で相手を押す位なら了承出来るけど。後、うちの馬鹿娘とルーさんとリューヴさんにはちょっと思考を凝らした仕掛けを付けて貰います。エルザード、宜しくっ!!」


「はいは――い」



 フィロさんの指示を受け、エルザードが何やら魔法陣を浮かべると。



「んげっ!! 何よこれ!!」


 マイ達三名の四肢に光の輪が出現した。


「重りよ、重り。あんた達は馬鹿みたいに足が速いからねぇ。公平になる様に両手両足に重りを付けて走って貰うわよ」



 エルザードがニコリと笑みを浮かべ、満足気に光の輪を見下ろす。


 成程、これで公平になるって訳か。


 正直な話、狂暴龍や雷狼さん達と並走して勝てる気がしないからね。



「ちょっと試しに走っていい??」


「構わぬぞ」



 マイがひょいと立ち上がろうとするが。



「うぉぉ!? おっめぇ!!」


 光の輪妨害によってそれは叶わなかった。


「本当だ!! 何、これ!!」


「まるで鉄の塊を四肢に付けられている様だ」



 走力だけじゃなくて、筋力もそこそこな三名が顔を顰める重さか。


 一体どれくらいの重量なのだろう。



「エルザード」


「ん?? なぁに??」


「マイ達に付けた重さってどれ位?? 後、俺の頭を突かないで下さい」



 膝を抱えてしゃがみ込み、何やら楽しさを満載した悪い顔でツンツンと突いて来る。



「重さは……。合計八十キロ以上じゃないかな」


「ちょっと!! 卑怯過ぎるでしょうがぁ!!」



 大人の男性一人分を背負って走り続けなければならなからな。しかも、俺達は全力疾走で駆けて行く。


 不公平だとマイが怒るのも無理は無い。



「これも訓練の内だと思って頑張りなさい。ほら、さっさと用意する」


「ちぃっ!! やってやんよ!! 見てなさいよ!? 毎回一着を取ってやるから!!」


 マイがフィロさんの声を受け、己に発奮を促して元の位置へと伏せた。


「え――と。最後まで残っちゃった人は何回走るのかな??」


「四回ですわ」



 指で丁寧に数えるルーに代わってアオイが即答する。



「おぉ!! ありがとう!! アオイちゃん!!」


「どうしたしまして」


「師匠、これを何度繰り返せばいいのですか??」



 せめて回数が分かっていれば楽になるだろう。


 そう考え問うてみた。



「そうじゃなぁ……。キリの良い所で百か??」



「「「「百!?!?」」」」



 砂の上に伏せているほぼ全ての体から驚愕の声が響いた。



「つ、つまり。ずぅっと最後まで負け続けたら四百回もあそこまで全力疾走しなきゃいけないんですか!?」


 左隣で伏せるアレクシアさんが荒々しい口調で叫ぶ。


「そうじゃよ――。案ずるな、勝てば良いのじゃよ」


「しかも、負けた者には嬉しい嬉しい特別鍛錬付きかよ……」


「ユウ、そう言うなって。師匠が仰った通り勝てばいいんだし」



 右隣りでぼやくユウに言ってやった。



「だよなぁ。って事は、あたしと勝負だな!!」


「おう。力じゃ負けるかも知れないけど、速さなら負けないぞ??」



 ユウと走る速度は同程度。左隣のアレクシアさんの走力はそこまで目を見張るものでは無く。


 そして、アレクシアさんの左隣はカエデときたもんだ。


 俺の相手はこの三名。


 馬鹿みたいに足が速い連中は幸いな事に向こう側に固まっている。


 くくっ……。こりゃあ一回戦は貰ったも同然かね??



「準備は良いか――?? 始めるぞ」


「「「……」」」



 師匠の声を受けると先程までの弛んだ空気が吹き飛び、まるで実戦さながらの様に空気が一気に張り詰めた。


 皆一様に口を閉じて師匠の柏手の音を待ち聴覚に神経を研ぎ澄ませる。各自の心臓の音が伏せている砂を伝わり聞こえて来そうな程の静寂が砂浜の上に漂う。



 俺も皆に倣い、今にもここから飛び出してしまいそうになる筋力を懸命に宥めながらその時を待った。



 行くぞ……。集中しろよ……。


 呼吸を止め、瞼を閉じて聴覚のみに五感を委ねていると。



「――――。始めぃ!!!!」


「「「ッ!!!!」」」



 乾いた破裂音が響き。俺はその音と共に体を立たせて猛烈な勢いで駆け始めた。



「ぬおぉぉぉお!!」


「やるな!! ユウ!!」



 俺とほぼ同時に立ち上がった彼女が漲る筋力で砂浜の上を駆け、俺と並走を開始する。


 両腕が千切れる勢いで振り足の筋力を総動員しても全く引き離せない。


 は、はえぇ!! ユウってこんなに足が速かったっけ!?


 だが、俺は圧倒的優位な立場にあるのだよ。



 そう……。



『こっちですよ――!!』



 俺の手を誘う様に白き旗がほぼ真正面で待ち構えているのだ。


 つまり!! 俺の隣に存在するユウにとってこの僅かな距離が痛手になるのさ!!



「うぉおおおお――――っ!!」



 一本先取!! この戦い、貰ったぁ!!


 勝利の雄叫びを上げ白き旗へと無我夢中で駆けて行った。



「ち、ちくしょう!! 負けていられるかぁあああ!!!! ウンガッ!!」


 ユウが渾身の雄叫びを放った後。


「ばぐぬっ!?!?」



 突如として左肩に常軌を逸した衝撃波が生じた。


 常識外れの馬鹿デカイ馬に体当たりをされた様な衝撃波が俺の体を右方向へと吹き飛ばし、物理の法則に従って気持ちの良い速さで砂浜を跳ね飛び。



「ぬぉ!?」


「痛っ!!」


「あっぶねぇなぁ!!」



 誰かの足元の下を通過した後、首を傾げたくなる痛みが全身に生じて口内に大量の海水が侵入してきた。



「ボガグブゥ……」



 眼球、口内、鼻腔、両耳。


 穴という穴から海水が入り込み、恐ろしき海の魔物の手が俺を紺碧の海の藻屑と化そうと躍起になってくるが……。



「うがあああ!!」



 その手を跳ね除け水面へと浮かび上がった。


 な、何!? 今のおかしな衝撃波は……。


 呆気に取られつつ腰辺りまで海水に浸かったまま、妙にしょっぱい唇を食み砂浜へと視線を向けると。



「あはは!! やったね!! あたしの勝ちだ――っ!!」


 勝利者であろうユウが白き旗を誇らしげに掲げ。


「正に漁夫の利、ですわねぇ」


 赤き旗を悠々と掴むアオイが小さく声を漏らしていた。



 あっれ?? 何で俺はここに居るのだろう。向こうで駆けていた筈なのに……。



「ずるいよ!! アオイちゃん!! レイドが飛んで来たから避けたのに!!」


「そうよ!! 今のは無効よ!!」



 俺が君達の方角へ飛んで来たのは分かる。問題はその原因なのですよ。



「いやぁ――。あはは!! 悪いレイド――!! 勢い余って体当たりしちゃった!!」



 ユウが上空で輝く太陽にも負けない明るい笑みでこちらに向かって手を振った。


 あぁ、成程ね……。



「――――。ユウ、今のは反則だぞ」



 びちゃびちゃに濡れた服と痛みで顔を顰める足を引きずりながら砂浜へと戻り、端的に己の想いを怪力娘に対して伝えてやった。


 そりゃそうだろう。進路妨害は禁止されていますからね!!!!



「肩で押したから問題無いだろっ」


「大問題だ!!!!」



 肩で押す、じゃなくて吹き飛ばしたの間違いだろ!?


 飄々と話すものだからついつい声を荒げてしまう。



「し、師匠!! 今のは無効ですよね!?」



 これは審判を務める者に判断を委ねるべきだ。


 そう考え開始位置に居る師匠達へと振り返るが。



「有効じゃよ――」


「そうねぇ、避けられなかった方も悪いし」



 師匠とフィロさんの判決は残酷な結果となってしまった。



「そ、そんな……」


「悪いね!! 次は優しく押してあげるからさ!!」



 ユウが俺の肩をポンっと叩き、白き旗を元の位置へ刺して主戦場から離れた場所へと移動してしまった。



「あんたが避けないから私も負けちゃったじゃないの!!」



 理不尽な声と共に感じたくも無い痛みが後頭部から目玉へと駆けて行く。



「痛いぞ。いきなり横からどつかれたら避けようが無いだろ」



 それを予想しなかった此方にも不備があるのは確かですけども……。


 仕方がありませんよね。躱せなかったのは事実なのですから。



「ほれ、負け犬共。次を始めるからさっさと用意せい」


「誰が負け犬だ!! こいつの邪魔さえなければ私は負けなかったのよ!!」



 だから暴力はお止めなさいと言っているのです!!


 俺の臀部を何の遠慮も無しに蹴る愚か者へキツイ視線を送るが。



「アッ??」


「べ、別に何も……」



 そうたった一言。ドスの利いた低い声で脅され視線を逸らしてしまった。



「ほれ――。二回目を始めるぞ――」



 勝負事にはメリハリが肝心だ。


 負けた事にうじうじと悩むより、気持ちをスパっ!! と切り替えて新しい勝負に臨むとしましょう!!


 まだ重たい痛みが残る左肩を庇い、湿気を含んだ体に鞭を打って開始位置へと向かって行った。



お疲れ様でした。


連日の寒さの影響を受けた所為か……。風邪を罹患してしまいました。


発熱は無くて喉が痛い程度なのですが頭がぼ――っとしますね。


霜焼けに風邪。何だかついていないって感じです。



今日はこのまま大人しく眠ります。


それでは皆様、おやすみなさいませ。

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