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第二百七十九話 清々しい朝 流れ落ちる汗 その二

お疲れ様です。


後半部分の投稿になります。




 馬鹿共がやっと出発しおったか。一つの説明を済ますのに何でこうも疲れるのじゃ……。


「おらぁ!! 私の前を走るんじゃねぇ!!!!」


 忙しなく砂煙を巻き起こす喧しい列を見送り水よりも重たい溜め息を吐く。


 じゃが、まぁ……。本格的な訓練の初日という事もあって高揚する気持ちは分からないでもない。


 儂らもここを見付けた時、それはもう嬉々としたものじゃ。


 アイリス大陸よりも濃いマナの濃度、人っ子一人存在しない孤島、そして周囲を囲む紺碧の海。


 心身を鍛えるのにこれ以上無い場所じゃからな。



「では、私はまだ眠っているお馬鹿さんを起こして来ますわね」


「うむっ、悪いの」



 まるで平らな大地を踏みしめるかの如く足音一つ立てずにフォレインが森へと去って行く。


 相変わらずの足捌きじゃな。



「朝も早いってのに元気一杯ねぇ」



 儂と同じ気持ちを抱いたのか将又若さの輝きを羨んだのか。もう随分と小さくなった列の背にフィロが目を細めて視線を送っておる。


 何処か寂しそうな目じゃな。



「何じゃあ?? あの溌剌とした姿が羨ましいのか??」



 思慮深い儂は彼女の沈んだ思いを引き上げるべく、少々ワザとらしく声を上げてやった。



「羨ましい、かな。ほらあの子達はこれからもずっとあぁやって一つの塊になって行動していそうじゃない。頭を抱えたくなる問題や地面に膝を着いて絶望に打ちひしがれる困難も皆で解決していく。素敵じゃない?? 仲間……。ううん。親友達と過ごす時間って」



 そうか、やはりお主の着眼点はそこか。



「安心せい、不本意じゃがミルフレアにも例の件を伝えてある。未だ返事は来ぬがな」



 友に重きを置く。


 こ奴らしい考えじゃが、禍根を拭い去る事は決して出来ぬ。


 それが例え共に切磋琢磨を続け、同じ苦労を分かった友だとしてもじゃ。ここからは決して選択肢を間違える事は出来ぬ。


 長きに亘る因縁に決別する時じゃ……。



「ありがとうね。イスハでしょ?? ミルフレアに使者を送ってくれたの」



 寂しい瞳から柔和な瞳に変わり儂の顔を見つめる。


 急に優しい顔をしおって。騙されぬぞ??



「ふんっ!! 不本意と言ったじゃろうが。儂は奴とは縁を切った!! 今回の作戦にはどうしても奴の力を借りねばならぬかも知れぬ。それに、奴は当事者の一人じゃからな」


「そう、ね。うん……。そっか……。もう直ぐなんだね」



 砂浜に視線をふっと落とし、手持ち無沙汰の様に踵で砂を蹴る。



「寂しいか??」


「寂しい、とは違うわよ。強いて言うのなら……。ありがとう、かな」


「それ程似合う言葉はないじゃろうな」


「でしょ?? はぁ――あっ!!!! 昔、昔ぁしに今みたいな力があればなぁ――!!」



 砂浜に転がる石ころを拾い紺碧の海に向かって力任せに投擲する。



 ほぉ――。


 もう見えなくなってしもうた。相変わらず馬鹿げた力じゃな。



「過去は変える事は出来ぬ。じゃが、未来は幾らでも変えようがある。輝かしい光に照らされた栄華の道を進むのか。血の雨が降り注ぐ不毛の大地に這いつくばるのかは儂らの選択次第じゃ。よいか?? 私情を挟む真似だけは決してするでないぞ」


「分かっているわよ。もう私達は大人だからね」



 どうだか。


 お主は微妙に仲間内に優しいからのぉ。そこだけが心配の種じゃて。


 気に病むべき事はそれ以外にあるじゃろうに……。


 地平線の彼方から目覚めて来た太陽の姿を朗らかな気持ちとは言い難い心模様で見つめていると後方から何やらけたたましい獣の足音が聞こえて来た。



「だぁぁああああ――――!! しゃあッ!! うっし!! 一着ぅ!!」



 愚か者が大きく肩を揺らしつつ荒い呼吸を続け、全力疾走の後に額に浮かぶ大量の心地良い汗を手の甲でサっと拭う。


 傍から見れば清々しい姿じゃが、問題なのはたった一人でこの場へと登場した事じゃな。



「流石私よねぇ、もう一周走って来たんだもん。最強と名乗ってもおかしくないんじゃないのかしら!?」


「「はぁぁぁ……」」



 愚か者ならまだマシだったかも知れぬ。こ奴はそれを通り越した大馬鹿者じゃな。



「馬鹿娘、良く聞きなさい」


 出来るだけ憤怒を抑え込んだフィロが口を開く。


「ん?? 何??」


「何であなたは一人で此処に帰って来たの??」


「――――。あっ」



 フィロの言葉を受け、馬鹿みたいにポカンと口を開いて漸く己の愚行に気付いた。



「あ、あはは……。ほ、ほら!! 走っていたらさ、気持ち良くなって来ちゃって!! んで、止まらなくなった訳よ」


「そう。拳骨をどこに食らいたい?? 顎?? お腹??」



 拳が深紅に光りその光が体中へと伝達するとフィロの足元の砂が細かく揺れ動く。


 今にも噴火寸前って感じじゃな。



「おっとぉ!! それは御勘弁ってね!! では、後方から追いかけて参りまぁっす!! あばよぉ!!」



 フィロの脇を抜け、突風も顔負けする速さで今来た道へと目掛け駆けて行った。



「あの子は一体誰に似たのかしらねぇ……」


「お……。さぁのぉ、大方父親譲りではないのか??」



 お主じゃろう。そう言いたいのをぐっと堪えてしまった。


 まだ深紅に光る拳を見れば誰だって口を噤むじゃろうて。



「お待たせしましたわ」


 森から可憐な声が届いたので、西の方角へ駆けて行った阿保から視線を北へと向けた。


「ふわぁぁぁぁ。ねむぅ……」



 水色のシャツの前をだらしなく開き、寝癖も直さず、起きたてと言わんばかりの力の抜けた足取りのクソ脂肪と。それと対照的な足取りでフォレインがやって来る。


 こ奴は昔っから変わっておらん。


 弟子の前でふしだらな姿は了承出来ぬと考え大人である儂が高説を唱えてやった。



「服を直せ。後、顔を洗い髪を梳け。そして可能であればそのまま何処かへ行ってしまえ」



 完璧な言葉じゃ。


 これ以上無い端的で的確な指示じゃな!!



「あんたがどっか行け。そして、二度と帰ってくんな」



 こ、こ、こ、この淫猥動物めぇ!!!!



「貴様ぁ!! 遅刻しておいて何様じゃ!! その言い草はぁ!!」



 魔力を解放して漲る力を携えて脂肪の下へと一歩踏み出す。


 事と次第によっては……。ぶちのめす!!



「はぁ?? 聞こえませんよ――。あ、フィロ。はよっ」



 事もあろうに儂を無視して横を通過。儂の後方で呆れた顔で立つ彼女の下へと進み行く。



「おはよう。あんたねぇ、もうちょっと身嗜みに気を付けたら?? ほら、彼が見たらきっと辟易しちゃうわよ」


「そうかなぁ?? この丁度良い具合に開いたシャツに前のめりになると思うんだけどぉ??」


 卑猥でブヨブヨの脂肪が詰まった二つの塊を両腕でムギュっと寄せる。


「――――。すぅぅぅ。もう一度言うわよ?? 服を、直しなさい」



 何かを飲み込んだフィロが話す。



「嫌よ。あぁ!! 来た来たぁ!! ね――!! レイド――ぉ!! このシャツどうかなぁ!! この前買ったんだけどさぁ!!」



 西の砂浜に見えて来た列へ向かって無駄に丸い尻を振りながら駆けて行ってしまった。



「あの馬鹿者め。昔から変わっておらん!! 節度を持つ事を覚えろと言ってやりたいわ!!」


「言っても聞かないでしょ、あの子の場合」


「むぅ……。あの能天気が訓練に悪影響を及ぼさなければいいのじゃが……」



 フィロと肩を並べ、腕を組んで難しい顔を浮かべる。


 儂らが酷く沈んだ時。あ奴の明るさ若しくは能天気さに一度や二度は助かった覚えはある。


 じゃが、大半は能天気さから失敗に繋がり危機へと陥るのじゃよ。



「お止めなさい!! 今は訓練中ですよ!!!!」


「あはっ!! や――よ。本当はぁ……。ここにゾッコンなんでしょ??」


「結構です!!」



 さてと、馬鹿弟子にキツイ指導を施さねばなぁ。


 あんな淫らで、醜くて、無駄にデカイ乳に心が乱されているようじゃ強くはなれぬからな。


 儂は静かなる砂浜の上で拳をぎゅっと強く握り、いつでも足刀を放てるように足首を解す。



「またまたぁ――。腹ペコのワンちゃんみたいにむしゃぶりつきたいんでしょ?? ほれっ、据え膳食って行け」


「く、食えるか!! 後、距離感に気を付けなさい!!!!」



 あの下らない乱痴気騒ぎによって猛烈に膨れ上がって行く魔力を懸命に抑え込み、儂は嬉しく泣き叫ぶ馬鹿弟子に対して教育的指導を施す万全の準備を整えつつ列の帰還を待ち構えていた。



お疲れ様でした。


長文となりましたので前半、後半と分けて投稿させて頂きました。


本日は予報通り、物凄く寒い一日でした……。日が出ていても吐く息は白み、少しの風が吹けば耳が痛くなる。


正に冬に相応しい一日でしたよね。お陰様で霜焼けさんも大層怒っております。


この後直ぐに湯船に浸かって足の指を念入りにマッサージする予定です。皆様も霜焼けには気を付けて下さいね。



そして、ブックマークをして頂き有難う御座います!!


寒さでやられてしまった体に嬉しい知らせとなり、執筆活動の励みとなりました!!



それでは皆様、お休みなさいませ。

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