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第二百七十九話 清々しい朝 流れ落ちる汗 その一

お疲れ様です。


本日の前半部分の投稿になります。




 朝、目覚める時。自然に目を覚ます事もあれば第三者に覚醒を促され重い瞼を開ける時もある。


 自分自身の身勝手な気持ちとしては誰にも邪魔される事無く起床したい。そして澄み渡る空から覗く太陽に向かい。


『おはようさん』 っと。


 柔らかい笑みを浮かべて朝一番の挨拶を伝えるのだ。


 誰しもが羨む普遍的な日常の目覚め方を想像して温かい気持ちに包まれていると何処か遠い位置から鳥の囀りが聞こえてきた。


 本日の目覚めはどうやら俺の気持ちを汲んでくれたのか己自身の体が覚醒を促した様ですね。



「ふぁぁ……」



 持参した一人用の暗い天幕の中で何となく目覚めると、狭い室内で鳥の細やかな歌声を聞き流しながら適当に体を動かして眠りの余韻を楽しむ。



 ふ、む。


 体に疲れは残っていない。寧ろ、好調といったところか。


 天幕の入り口からほんの僅かに零れて来る頼りない光を頼りに着替えを始め。機能性に優れた素晴らしき訓練着へと袖を通して外へ出た。



「――――。あらぁ?? レイドさん。随分と早く目覚めましたねぇ??」


「ヒッ!! お、おはようございます。モアさん」



 入り口の幕を捲ると同時にモアさんの丸みを帯びた柔和な顔を捉えて心臓が止まりそうになる。


 食事の用意でしたらまだまだ時間に余裕があるだろうし、何でこの人はこんな朝早くから活動しているのだろう??



「私達が皆さんを起こす役割を担っているのですよ」



 こちらの視線の意味を理解したのか、温かな笑みを浮かべて俺の疑問に答えてくれた。



「成程、それで……」



 そこまで話すと言葉を切ってしまう。


 薄手の青の浴衣を着熟す姿は大変良く似合っています。俺が言葉を切ってしまった肝心要の大問題はその袖の先にあるのですよ。


 モアさんの右手には切れ味の鋭い出刃包丁がしっかりと握られていたのだから……。



「あ、やだっ。あははっ、これはアレですよ。ほら、鉄鍋を叩く道具なのです」


 成程、そうなのですかと思わず頷きそうになるが……。肝心の鉄鍋がどこにも見当たらないのは何故でしょうか。


「モア――。こっち行くぞ――」



 あぁ、メアさんが鉄鍋を持っていたのか。


 マイ達が安眠を享受している大きな天幕へと鉄鍋を担いで向かう彼女の姿を捉えて合点がいきそうになるが……。



 ここで一つの疑問が浮かんでしまう。



 何故、彼女は出刃包丁単体を持ち込もうとしていたのだろう??


 包丁は物を裁断する為に存在意義がある。それが指し示す事はつまり……。



「明日からも朝はちゃあんと起きて下さいねっ?? 起きないと……。ぷっつり、デスから」



 天から地上へと勢い良く出刃包丁を振り下ろし、肝が冷える甲高い音を奏でて不気味な笑みを浮かべると。


「モア――!! 早く――!!」


「あ、は――いっ」



 何事も無かった様にメアさんの下へと駆けて行った。



 ぷっつり??


 え?? 少しでも寝坊したら俺の体切られちゃうの??



 陽気な後ろ姿の彼女達とは裏腹に俺の肝は朝も早くから冷えっぱなしであった。


 もう間も無く始まる早朝の鍛錬に向けて冷えた体を温めつつ砂浜へ向かいましょう。



「起床起床!!!! ほら、朝だぞ――!!」


 女性陣達が休む大きな天幕の中から鉄鍋を叩く盛大な乾いた音が静寂を切り裂き。


「みなさ――ん。起きないとぉ、永遠の眠りに就いてもらいますよ――」



 その後から発せられた不穏な言葉が空気を凍らせる。


 朝一番であの顔と出刃包丁は勘弁して欲しいよ……。


 朝露を吸い吸い込んだ柔らかい土の感触を楽しみつつ砂浜へと繋がる南道を進み始めた。




 さぁって、恐ろしい狐さんの所為で肝が冷えてしまいましたが。今日からいよいよ本格的な訓練が始まる訳だ。


 気合は十分、そして体力もたっぷりと残っている。向上心は……。うむっ。言わずもがな!!


 やる気に満ち溢れていると断言しても過言ではない。


 体と技を鍛える為に持って来いの環境。


 そして、自分の足りない部分を指摘してくれる指導者たる存在も居れば。己の現時点での実力を確かめるべき比較対象は傑物揃いと来たもんだ。


 強くならない理由が見当たらないぞ。


 常夏の島らしからぬ涼し気な空気が漂う森の中を進みつつ上半身の筋力を解す。



 ん――。まだ若干首筋が痛むな……。


 エルザードの奴め、要らんことをしおって。


 首の僅かな痛みが昨晩の狼狽してしまった出来事を蘇らせる。



 マイ達が食後とほぼ同時に風呂へと向かい、モアさんとメアさんは夜の海へ向かって食料を採取しに出掛け。一人野営地に残った俺は食後のお茶を楽しんでいた。


 大変静かな孤島で飲む温かい緑茶もまた乙な物だと、ほっこりした心で啜っていると。



『ねぇ。御風呂上がりの私、どう??』



 性欲を多大に刺激する香りを引っ提げ、淫魔の女王様が背後から絡みついて来たのだ。


 当然、不意を突かれたこちらは驚く訳。



『あっつぅ!! おい!! 茶が零れちまっただろ!!』


 女の香り、そして背に感じる柔らかな肉感にドギマギしていたら両手に軽い火傷を負った。


『ごめんね?? ほら、どこ火傷したの??』



 男の性を多大に刺激する甘い吐息を吐きつつ、背後から俺の頬に己が頬をさり気無く密着させ。火傷を負った右手を掴み傷の具合を確かめる。


 勿論俺は抗議の声を上げた。



『距離感!!!!』



 そういった男女関係の中でなければ付き合っている関係でもない。


 そんな俺達が倫理観を問われる姿勢を取れば自ずと声を荒げてしまうのさ。


 いや、嬉しくなかった訳じゃないよ?? 甘い匂いもしたし、そして何より。頬に感じた彼女の頬の温かさがまた格別……。


 いかん。


 これじゃあまだ煩悩に塗れているじゃないか。



「ふんっ!!」



 仰々しく顔を横に振り、朝に相応しくない淫靡な煩悩を振り払ってやる。



 それからなんやかんやあり、横着な淫魔と一進一退の攻防を繰り広げていると今度は我が師が大変恐ろしい声を上げて登場された。



『貴様等……。一体そこで何をしておるのじゃ??』



 そこからは想像した通りの悲惨な事件が待ち構えていた。


 俺の体は地面の上を転がり続け、止まったかと思えば上空へ吹き飛ばされ、挙句の果てには激烈な雷撃を頬に受け首がもげそうになってしまった。


 薄れ行く意識の中でも風呂に入らなきゃと考えていた生真面目な自分にどこか形容し難い陽性な感情を湧かせた。



 痛みに耐え忍び、マイ達が合流して漸く喧噪が収まった後。痛む体を引っ提げて温かな風呂へと入り就寝したのだ。


 本格的な痛みが残らなくて良かったよ。折角鍛えに来たのに、初日から躓くのは御免被りたいからね。



 砂浜へ続く出口が御目見えし緩んだ気を引き締める為。大きく息を吸い込みながら砂の大地へと躍り出た。



「お主が一番乗りか。予想通りじゃな」



 太陽が目を覚ます、覚まさない暁の頃。


 柔らかい太陽の光を受けて砂浜に立つ金の髪は異常に良く似合っていた。いつも着用している道着では無くて、訓練着も良くお似合いですよ。


 師匠が俺の姿を見付けるといつもの軽快な笑みを浮かべてくれる。



「師匠!! おはようございます!!」



 迷わず彼女の下へと駆け出し、腹の奥底から朝一番の挨拶を交わした。



「喧しいのぉ。そこまで声を張らぬでも聞こえておるわ」


「気持ちを汲んであげなよ。レイドさんはイスハに会えて嬉しいんでしょ??」



 師匠の御隣。


 俺達と同じ訓練着を身に纏っているフィロさんが小恥ずかしい言葉を漏らす。



「いや、まぁ……。その……。何んと言いますか」



 答えに詰まり後頭部をガシガシと掻く。


 当たってはいますけども。もう少し包んで仰って欲しかったです。



「あらあら。朝から見せつけてくれますわねぇ」



 まだ朝の眠さの余韻が残る声でフォレインさんが話す。


 あら?? フォレインさんは訓練着を着ないのかな。


 ここへ来てからずっと薄手の着物を着用しているし。



「儂の弟子じゃ。師へ一番の挨拶を送るに決まっておるじゃろう」


 そうです、師匠。


「その通りですよフィロさん、フォレインさん。会いたかったのは事実ですが変な意味で捉えないで下さい」



 大きく頷き、師匠の答えに賛同した。



「「会いたかったぁ??」」



 俺の言葉の一部を掬い取った二人がニヤニヤと笑みを浮かべ、師匠とこちらを交互に見比べる。



「じゃから!! そういう意味じゃないわ!!」

「そうです!! 師匠とは健全な仲なのです!! そういった関係は良くないと思います!!」


「いや、少しは考えても良いかと思う……。ぞ??」



 しまった、最後の方が聞こえなかったぞ。



「師匠、申し訳ありません。聞き逃してしまいました」


「喧しい!!」


「いでっ!!!!」



 三本の内、二本の尻尾が頬を強く打った。


 朝の気付けにしては少々痛さが大袈裟ですよっと。



「あれ?? そう言えば……。エルザードは??」



 呑気に砂浜の上に座っているかと思いきや……。痛む頬を抑えて砂浜を見渡すが姿の片鱗さえ見当たらない。



「あ奴はまだ寝ておるわ。安心せい、後で合流する」


「はぁ」



 相変わらず自分勝手というか、協調性が無いというか。


 まぁそこが彼女らしいと思うのよね。こんな朝早くから準備万端で待ち構えているのも何だか怖いし。


 それから皆で早朝の会話を慎ましく交わしていると、背後から聞き慣れた女性達の声が背に届く。


 漸くお出ましですか。



「ふぁぁああ。ねっむぅ……」


「マイちゃ――ん。そんなに顎開いたら取れちゃうよ??」


「ん――。ふぁっ。まだ目がシパシパする」


「ユウさん良く眠っていたのにまだ眠たいのですか??」


「どこぞの誰かさんの鼾が五月蠅くて寝れなかったんだよ……。なっ!!」


「いでぇっ!! 頭叩くな!! 馬鹿になったらどうすんのよ!?」


「あなたはそれ以上馬鹿になる虞はありませんので御安心を……」



 喧噪に近い会話が暁の空の静寂の中に響く。


 折角の訓練初日だってのにその普段通りの気の構え方は如何な物かと思います。


 まっ、でも。


 逆説的に捉えるのなら物怖じしていない事に辿り着くし、良い傾向と捉えるべきだろう。


 これはあくまでも俺個人の意見であり、指導者たる彼女達にとっては由々しきものに映ったらしい。



「いつまでくっちゃべっておるのじゃ!! はよう来いっ!!!!」


「そうよ――。お母さんを待たせる娘なんて聞いた事が無いわよ??」



 怠惰な女性達の姿を捉えた刹那に眉が鋭角に尖ってしまいましたのも。


 後、フィロさん。世の中は非常に広いので母親を待たせる娘は数多存在するかと思います。



「はよ――。ってか母さんもそのダサイ訓練着着るの??」



 マイを先頭に七名の若き女性が砂浜の上に集結した。そして各自が早朝の訓練に備えて準備運動を開始する。


 俺ももうちょっと解しておこうかな??



「色合い、形は好みでは無いけど。耐久性や素材に関しては頷くものがあるわ。それにどうせ汚れるんだから服なんて何でもいいでしょう」



 己の体を見下ろしつつ話す。


 フィロさんは俺と似たような着眼点であるが、どうやら服装に関しては一応の拘りがあるらしい。


 というか、この素晴らしい服装をダサイと罵る奴の着眼点が理解出来ん。



「イスハさん、おはようございます。早朝の稽古の内容を伺っても宜しいですか??」



 俺達同様、訓練着を可憐に着こなすカエデが話す。


 うむ。


 カエデも良く似合っているじゃないか。上着の袖口がちょいとブカブカだけど。



「各自そのまま聞け。早朝の稽古はこの島を一周走って来い。一周約六キロの道じゃ」


 六キロか。単に走破するなら三十分もあれば全員集合出来そうだな。


「随分と簡単だな??」



 リューヴが地面に座り足を大きく開くと、そのまま足の間の砂地に上半身を密着させる。


 相変わらずの柔らかさに思わず頷いてしまった。



「まだ話は終わっておらん。一周目は走行、二周目はほれ以前二人一組で相方の足を持ち、腕力のみで訓練場を周回したのを覚えておるか??」


「えぇ、覚えていますけど……」



 もしかして、六キロもの距離を腕の力で踏破しろと??



「察しが早くて助かるわい。二人一組計四組が儂らを背に乗せ島を半周したら足を持つ役と交代。一周したら早朝の稽古は終いじゃ」


「勿論!! 私はレイド様とご一緒が良いですわ!!」


「組の決め方はどうされるので??」


「あんっ。うふふ……。辛辣ですわっ」



 横着な肉感を醸し出す魅惑の双丘から腕を引き抜き、引き続き師匠へと尋ねた。



「一周走って来たらクジで決める。そして、背に乗せる者もクジで決める。ほれ、説明したからさっさと並べ」



 並ぶ?? 各自が好きな様に走るのじゃないのか??



「並んでどうするのよ」



 柔軟を終え、額に薄っすらと汗を浮かべるマイが問う。



「これも前言うたじゃろ。一列に並び、最後尾に位置する者が列の先へと全力疾走して列の先頭に加わる。代わる代わるこれを繰り返して一周走って来い」


「え――。ちんたら走るのは性に合わないんだけど??」


「朝から飛ばしていたら午後までもたないのよ」



 フィロさんが片眉をくいっと上げる娘の後頭部を気持ち良く叩かれた。


 良い音したなぁ、今。



「いだっ!! ほ、ほら!! また手を出した!!」


「一気に走り終えても二周目があるんだ。待ち時間が増えるばかりでもつまらんだろ?? 朝日が昇り、一日の始まりを実感しつつ走るのはきっと気持ちがいいぞ」



 恐らく師匠は俺達に協調性を養わせたいのであろう。


 弟子である俺はそれを汲み取らないと。



「レイドさんの言う通り。あなたはもうちょっと彼を見倣いなさい」


「だから尻を蹴るな!!」


「よしっ!! 皆、出発しようか!!」



 手をパチンと叩き緩んだ空気を引き締め、取り敢えず先頭で東の方向へと駆け出した。東から北、そして西へと反時計回りで走りますかね。


 走るついでに島の地形も覚えられるな。落ち着ける場所を見付けたらそこで空いた時間を過ごすのも良いかも知れない。



「おらぁ!! 私より前を走るなぁ!!」


「イスハさ――ん、いってきまぁす!!」


「カエデさん!! 行きますよ!!」


「分かりました」



 軽快な声が後に続き、砂を蹴る音と共に徐々に列が形成されていく。


 そしていつもの感じで走り続けているが……。砂の上は硬い地面と違って随分と走り難い事に気付く。


 通常走行とは二段階程速度を落としている所為か、それとも砂が頑張り過ぎて足を掴んでいる所為か。一歩踏み出すと砂に足を取られ普段よりも足が重く感じるぞ。



 その影響を直に受けた体から未だ太陽が顔を覗かせていないというのにもう汗が出てきた。



「ふっ……。ふっ……」



 額から零れ落ちてきた汗を拭い。浅く呼吸を続け、体内の空気を循環させて環境に順応させる。


 実に清々しい一日の始まりじゃないか。


 皆とこうして同じ方向を向き、遥か彼方に存在する高みへと昇る為に切磋琢磨を続ける。


 この重苦しい一歩の積み重ねがそこへと到達する為の足掛かりになるんだ。


 たかが一歩、されど一歩。決して疎かには出来ないよな。



「ふんっ!! 意外と走り難いな」



 こりゃ驚いた。


 何やら物凄い勢いで灰色が横を通過したと思いきや……。リューヴが颯爽と俺を追い抜かして先頭に躍り出た。



「相変わらず速いな、リューヴ」


 眼前に揺れる灰色の髪を見つめながら話す。


「普通に走っては砂に足を取られるぞ。昨日は散々思い知らされたからな」



 そう言えばフォレインさんから逃げる為にユウと一緒に走り続けていたっけ。



「下腿三頭筋、足首を上手く使うといいぞ」



 俺の走り方が間違っているのかな??


 彼女の言葉を受け、リューヴの足元に視線を移す。



 踵から砂へと着地させ、力の伝達を土踏まずから爪先へ。そして器用に爪先で砂を後方へと蹴り上げた。


 成程、そういう要領ね。



「蹴り足とでも言えばいいのかな?? ありがとうね。参考にさせて貰うよ」


「礼には及ばん。むっ……。日の出か……」



 東から昇る眩い光が体を射し、美しい光景に思わず目を細める。


 紺碧の海の彼方から昇る太陽は格別だな……。


 この星の誕生から幾万回繰り返された普遍的な光景だが、人では到底表現出来ない風光明媚な景色が俺の口から感嘆の声を誘い出す。



「綺麗だな……」


 端的な言葉だが、これ以上の言葉は幾ら探しても見つからなかった。


「あぁ……」



 リューヴも東を見つめては同じく声を漏らす。


 そして東から視線を正面に戻すと彼女の端整な横顔を捉えた。



 走行に合わせて等間隔に揺れる灰色の髪、整った顎先に汗が伝い砂浜へと落ちて行く。


 その矮小な粒よりも俺は太陽の光を受けて輝く翡翠の瞳に見惚れていた。


 普段はギュっと眉を顰めているので余り直視出来ないけど、こうして改めて見るとリューヴって綺麗な瞳をしているよな……。


 誰しもが魅了されてしまう彼女の瞳をぼぅっと見つめて走り続けていると。



「集中しろや、ボケ!!!!」


 強烈な痛みが後頭部を襲い、顔面の方へと駆け抜けて行った。


「いだっ!! おい!! 勝手に叩くなよ!!」



 リューヴの前へと躍り出たマイへと叫ぶ。


 叩かれた勢いで目玉が飛び出たかと思ったぞ。



「私の攻撃を予測出来ないあんたが悪い!!」



 馬鹿げた速さの攻撃を避けるのにはそれ相応の集中力は必要ですけども、今はそれを養う稽古じゃないのですよ??


 だが、気を切っていたのは俺の所為だ。


 それの原因が……。



「主、大丈夫か??」


「まぁね」



 この翡翠の瞳である事は秘密にしましょう。


 正直に話したら何をされるか分かったもんじゃないし。



「マイさ――ん!! 追いつきますよ――!!」


「さぁぁああ!! ついて来いやぁぁああ――ッ!!」


「もうちょっと遅く走って下さいよ――!!」



 泣きそうな顔を浮かべているアレクシアさんが荒々しい声と呼吸と共に、何故か知らぬが全力疾走で前方へと駆け出してしまった愚か者へ向かって叫び。



「お、追いつけないじゃないですかぁ!!!!」


 今にも転んでしまいそうな頼りない足元で前方へと駆けて行く。


「だ――はっはっはっ!! 私の後ろを走る者はこうなるのだよぉ!! 悔しかったら追いついてみやがれ!!」


「そ、そんなぁ!! 私、走るのは苦手なんですぅ――!!」



 ご愁傷様です、アレクシアさん。


 あいつの横着は今に始まった事ではありませんので諦めて下さい。


 泣きそうな……。いや、ほぼ泣いているアレクシアさんが全力疾走に近い走り方でもう殆ど見えなくなってしまった大馬鹿野郎の小さな背中を追って駆けて行く。


 それでも俺達は隊列を崩す事無く、東からの陽射しを浴びつつ普段通りの速さで砂の上を駆けていた。




お疲れ様でした。


現在、後半部分の編集作業中ですので次の投稿まで今暫くお待ち下さいませ。

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