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第六十八話 絶対者の牙城を崩せ その二

お疲れ様です!! 本日の投稿になります!!


それでは、どうぞ!!




 眠い……。


 どうしようもなく眠たい……。



 鼻を啜る。


 そんな矮小な行動にさえ至れない憐れな体が、体力の回復に務めようと。意識を断ち切る事に一意専心してしまうが。



 冷たい地面から伝わる恐ろしい振動が朧な意識を現実の下へと引き戻した。



 誰か……。戦っているのか??



 鉄を括り付けられたみたいに鈍重な瞼を恐る恐る開けると。



「このぉっ!!」



 体中に傷を負ったユウが大戦斧を翳して結界に襲い掛かり。



「砕けろぉ!!!!」



 ユウ以上に傷付いた体のマイが痛みにそして、疲労に顔を歪めながら黄金の槍を突く。



「ユウ!! 下がりなさい!! はぁっ!!」



 美しい白の髪が乱れ、白磁も羨む白い肌が土で汚れてしまっているアオイが懸命に小太刀を振るい。



「マイ!! 合わせて!! 重氷槍ヘビーアイスジャベリン!!!!」



 今にも膝から崩れ落ちてしまいそうなカエデが素晴らしい威力の魔法を詠唱する。



 しかし、それでも……。



「うんうんっ。最後の悪足掻きって奴ね!! いいわぁ……。必死になるその様……」



 エルザードさんの結界を破れずにいた。



 お、俺は。何をやっているんだ??


 皆が必死になって戦っているっていうのに……。



「彼方に見える一筋の光に縋って懸命に戦う。僅かな希望に満ちたその顔を、絶望という名の奈落の底に叩き落としてぇ……。ぐちゃぐちゃに歪めるのが大好きなのっ!!!!」



 彼女から一際強烈な魔力の圧が放たれると。



「「「「っ!?!?」」」」



 エルザードさんを包む結界が今まで以上に膨れ上がってしまう。


 それは、外側からその美しい姿が認知出来ない程に。



「アハハハハ!!!! ど――お!? もうどうにもできないでしょう!?」



「カエデ。どうするよ??」



 ユウが大戦斧を肩に担ぎながら話す。



「正直。もう手の施しようがありませんね」



「ちっちっちっ――。やる前から諦めている様じゃあ、大魔の血を引く者の名折れよ??」


「マイ、何かあの常軌を逸した結界の厚を破る算段でも??」



「無い!!!! でも、行動を起こさなければ可能性は零のまま。だからぁ!! 最後の最後まで!! 私は諦めんっ!! おらぁあああ!! 出て来いやぁああ!! 卑猥な姉ちゃんめぇええええ!!」



 上空へと飛び上がり、分厚い結界の頂点に切っ先を突き刺し。


 傍から見てもそれは無謀且、微塵の効果も得られない行動であるが。その姿が俺の心へ。



『あんた達は情けなく尻窄んでいるってぇのに!! 私はこうして足掻いているのよ!? 立ち上がりやがれ!!』



 言葉では無く、行動で激励している様に見えてしまった。



 アイツは諦めていない……。


 そうだ、諦めたら駄目なんだよ……。



「うっざ。いい加減しつこいわよ??」


「うぐぅっ!?」



 纏わり付く蝿を振り払うように、巨大な白い球がマイの腹部を直撃。



「はい、おまけっ」


「うがぁああああああああ!!!!」



 強烈な衝撃を受け宙へ浮いてしまったマイをその球体が襲い続け。



「あ……。あうぅ……。ぐぁぁっ!!!!」



 子供が人形を振り回して遊ぶ姿。


 彼女自身がその人形の動きを模した姿を見せると。糸の切れた人形の様にぐったりと、完全無防備のままで球体の攻撃を受け続けていた。



「マイ!! ちくしょう!!!! あたしの親友に!! 何するんだ!!」


「あなたも吹き飛びなさい」


「ぐあぁっ!!」



 マイを襲っていた球体がユウの顔面を捉え、地面に叩きつけられてしまった彼女が動きを止めてしまった。



「はぁ、やっと動かなくなったか。しつこいのよねぇ、叶わない相手に何を足掻いているのやら」



「――――――――。か、叶わないってのは……。はぁ、はぁ……。お前さんが決める事じゃあないんだよ」



 情けなく震える足に己の拳を叩き込み、歯を食いしばってユウが立ち上がる。



 ユウ、もういい。


 そのまま横になってろ。



「ぺっ!! クッソタレがぁ……。よくもまぁ私の大切な友達を傷付けてくれたわね??」



 口の中に溜まった血を吐き出し、黄金の槍を頼りにマイが地面に立つ。



 マイ、お前も限界だろ。



「愚者であるからこそ、勝利を渇望し。そこへ向かって足掻くのですよ??」



 カエデ……。


 立っているのも辛いのなら膝を着けても良いんだぞ。



「レイド様を御守りするのは私の役目ですわ。貴女には渡せません……」



 アオイ……。


 どうしてそこまで情けない俺の為に奮闘出来るんだ……。




 情けない、本当に自分が情けない……。



 俺が与えられた責務を果たせない為に皆が死んじまう……。


 そして、俺自身も死んじまうのか……。



 一度はマイに助けられたこの命だが、二度目の死となると何だろう。


 酷く落ち着いてしまうな。



 一度死の淵を経験した所為なのだろうか??




 重い瞼が再び幕を下ろす。黒よりも重い漆黒な闇が心を侵食してしまうが。


 されど……。闇の中には温かな四つの光が存在していた。




 あれは……。


 マイ達か。



 目を瞑っていても分かるよ。


 皆、本当に温かいからな……。



 エルザードさんは……。あぁ、あの一番大きな光か。


 マイ達とは比べられない程に大きくて、そして。太陽みたいに温かいや。




 五つの光が放つ温かさに身を委ねていると。ふと、その太陽達が人の形を模り闇の中で動き始めた。



 ん??


 今から、マイに攻撃を加えるのか??



 人の形を模ったエルザードさんの光が強烈に発光すると、マイの光が後方へと吹き飛ぶ。



「食らいなさい」


「こ、こんなものぉ!!!! 受け止めて……」


「馬鹿!! 避けろぉおお!!!!」


「あばんぬ!?」



 はは。


 ユウの助言を聞かないからそうなるんだよ。


 お前さんは速さを生かして避けるべきだったな。





 ――――――――――――。


 あれ……。


 今、どうして先の先が見えたんだ??


 見えたと言うよりも、感じた。とでも言えば良いのか。



 何だか不思議な感覚だ。


 エルザードさんの温かな光。


 それが今から何をするのか。師匠から教わった言葉に例えると……。




『起こり』 だ。




 何となくだけど、それを掴み取れた気がする。



 も、もうちょっとだけ。



 そう、もう少しだけ。



 悪足掻きじゃあないけどさ。


 この感覚を試してみたいんだよ。



「…………」



 瞳を徐に開け、霞む景色の先に横たわる抗魔の弓を手に取った。



 うん、体は動く……。



 胸の痛みは余計だが、もうそんなのはどうでもいい。


 胸が裂けて肺が零れ落ちようが、マイ達を守れればそれでいいんだ。



「…………」



 エルザードさんが此方に背を向け、ユウに攻撃を加える。



「でりゃああ!!」


「胸が大き過ぎて動きが遅いわよ??」


「うがぁっ!! いてぇ!! 何するんだ!!」



 その隙を生かしてアオイが小太刀で結界を切り裂こうとユウの背後から現れる。



「ユウ!! お退きなさい!! ふぅっ!!」


「鋭いんだけどぉ。威力が足りなぁい」



 そして、その後ろからカエデが火球を放つぞ。



「食らって下さい。炎塊衝波ファイアストライク!!!!」


「ん?? 威力、下がっているわよ??」



 そうか。


 これが……。師匠の仰っていた水面なのか??



 良く分からないけど……。


 後、二手先に好機が訪れるぞ。


 恐らく、この機を逃したら俺達の負けが確定する。



「…………っ」



 頼む、動いてくれ!!


 今だけでいい!! この後でどうなってもいいから!! 両腕よ!! 命令を聞いてくれ!!



 俺の体を拘束しようと大地から伸びた巨大な腕を振り払い、エルザードさんに向けて弓を構えた。



 瞳に映る景色は霞み、もう殆ど機能していない。



 それならいっその事……。



「…………。ふぅぅ」



 味覚を、嗅覚を、触覚を、聴覚を、視覚を。


 五感全てを断絶させ、己の水面。只一点だけに集中させた。




 うん。


 ユウ、良いぞ。そのまま攻撃を加えてくれ。



「こ、これが……。最後の……」


「あらあら……。膂力溢れていた姿が台無しねぇ」



 それでいい。



 アオイ、追撃だ。



「こ、このぉっ!! いい加減に、砕けなさいよ!!」


「あはっ!! 遂に小太刀を持つ握力さえ残っていないのね?? かわいそ――」



 アオイの攻撃、いいや。皆の攻撃に対して確実に反応出来てしまうのは恐らく。彼女は俺達の動きを手に取る様に理解出来ているんだ。



 しかし。


 一度、戦場から離脱した俺には一切の警戒を抱いていない。


 そして……。


 力無く倒れそうになっているアイツがこのまま指を咥えて何もしない筈が無いんだ!!



 アオイの攻撃が失敗に終わり、ユウがアオイを援護しつつ再び襲い掛かり。そしてカエデの素晴らしい威力の魔法が放射される。


 この両者の攻撃に合わせて、アイツは絶対に!!!! 反応する!!




「行くぞぉぉおおお!! 食らええええええ!!」


「ユウ!! 援護します!!」


「だからぁ……。威力がぁ、足りないのよ」







 ――――――――――――。




 見えたぁぁああっ!!!!


 此処だ!!!!



 勝機は、此処しかない!!


 分かっているよな!?


































「――――――――――。マイィィィィィィイイイ!!!! 受け取れぇえええええ!!」



 渾身の雄叫びを上げ。


 指が千切れ飛んでも構わない勢いで弦を引き、朱の矢を解き放った。






 お前なら絶対に気付く筈だ!! 俺の想いを!!!! 勝利の匂いを!!




 朱の矢が結界に着弾し、形状崩壊した刹那。



 太陽を背に、深紅の髪が上空から降り注いだ。



「はっはぁ――――――――!!!! 貰ったぁああああああああああああ!!!!」


「っ!?」



 ど、どうだ!?


 やったか!?






「――――――――。あ、あっぶなぁ……。ねぇ、ちょっとぉ。これ、お気に入りの服なんだけど??」



 う、嘘だろう??


 有り得ない!! 絶対に避けられない筈なのに!!



 マイの攻撃を紙一重で躱したエルザードさんが、傷付いた上着を顰め面で見下ろしていた。



「う、うっそぉ……。今の避けるの??」


「え?? うん。だって私、天才だもん」



 そう話すと、深紅の魔法陣を浮かべ。呆気に取られているマイに向けた。



「そ、そんな……。嘘でしょ……」



 よ、避けろ!! マイ!!



 勝利を確信した先に待ち構えていたのは、弱者の掴みかけた勝利の栄光を余裕で踏みにじる天才を越えた才の持ち主であった。


 もうどうしよう無い事を悟ったのか。


 マイは勝利を放棄し、只々膨れ上がる魔力を茫然と見つめていた。



 こ、此処までか…………。














「――――――――。そこまでじゃ!!」


「っ!?」



 大気を震わせる声が響くと、エルザードさんがその方向へと御顔を向けた。



「全く……。儂の庭で派手に暴れ回りおって……」


「し、師匠……!!!!」



 や、やっと来てくれたのですね!?


 師匠の御姿を見て気が抜けてしまったのか。抗魔の弓を地面に落とし、その場に崩れ落ちてしまう。


 た、助かったぁ……。




 なだらかな丘をゆるりと、しかし警戒を続けながら降りて来る。



「イスハ!! やっつけてやりなさい!!」


「そうそう!! あたし達はもう駄目!! 一歩も動けないから!!」



 マイとユウが羨望の眼差しを浮かべて師匠を迎えるが。



「馬鹿者!!」


「「いでっ!!!!」」



 六本ある尻尾の内の二本がマイとユウの頭を強烈に叩いてしまった。



「最後の最後、何故諦めた!?」


「え、えぇっと……。絶対避けられないと確信したのに、避けられて……」


「絶対等有り得ぬ!! 追撃を行えば直撃したかも知れぬだろうが!!!!」


「いてぇ!! 叩くな!!」



「あはは。痛そうね――」



 両手に腰を当て、その姿を見つめているエルザードさんが小さな唇を動かしケラケラと笑う。



 え??


 何だろう。


 敵意を剥き出しにして師匠へと襲い掛かるかと思ったのに……。


 予想外の反応に驚きを隠せないでいた。



「あ、そうそう。レイド、大丈夫??」


「へ?? え、えぇ。何んか生きていますけど……」



 その彼女が何かを思い出したかのように俺の下へと歩み出し。



「治療するから、動かないで」


「はい??」



 服を捲り、裂傷、打撃痕。


 その他諸々。この戦いで受けた傷を癒し始めてしまった。



「ちょ、ちょっと!! 敵におにぎりを送ってどうすんのよ!!」


「それを言うなら塩じゃよ。やい!! 脂肪!! さっさと治療を終えぬか!! 儂の弟子を傷付けおって!!!!」


「はぁ?? 殺すわよ?? クソ狐……」


「え、えっと……。エルザードさんは一体……」



 大変狼狽える俺に対し、彼女は此方を見つめると。




「――――――――。えへっ、ごめんね?? 実はレイド達を鍛える為に色々と隠していたのよ」



 パチンっと片目を瞑り、サラリとそして。


 アマガエルも、うむっ!! と頷いてしまうケロっとした顔で衝撃的な発言を放った。




「ちょ、ちょっと待って!! じゃあ、エルザードさんと……」


「むぅっ。呼び捨てにして呼ばないと、こうだゾ??」


「ぎぃいぃいいいい!! わ、分かった!! 分かったからそれ止めてぇええ!!」



 左胸の印が再び光始め、強烈な痛みを与えて来た。


 本当に痛いから止めて!! ソレ!!!!



「しょうがないわねぇ」


「はぁ……。はぁ……。エルザードと師匠は内通して、俺達を鍛えようとしていたの??」



 や、やっと言えた。


 痛みで意識を失わぬ様、歯をぎゅっと噛み締めて話す。



「そっ。えっとね?? 事細かく説明すると面倒だから端的に説明させて貰うわ」



 彼女が言うには。


 里から抜け出た一人の淫魔を追跡して蜘蛛の里へと到着。


 フォレインさんに謝罪を述べた際、愛娘を鍛えてくれと依頼され。



 蜘蛛の里の皆様に迷惑を掛けた事もあり、エルザードは借りを返す為に致し方無くそれを了承。



 それはまぁ、頷けましたけども……。



「でも、師匠は関係ありませんよね??」



 師匠は俺達を鍛える義理も義務も無いのですから。



「むっ?? あ、あぁ……。そ、そうでもない事も無いような?? ある様な??」



 三本の尻尾に戻った師匠が難しい顔を浮かべて俯いてしまう。



「近接戦闘馬鹿が多いし、アイツに任せた方が楽だったのよ。だからこの近くに飛ばしたの」



 あぁ、それで……。



 納得してしまうと疲れがドッと急激に押し寄せて来た。


 そりゃあそうだろう。


 最初からこの二人は共謀していたのだから。




 体に強烈な痛みを与える印を刻まれて、馬鹿みたいに食わされ、負けない為に走らされたのに……。


 それが全て仕組まれていた事なんだぞ??



 全く、酷い冗談だ。


 悪夢よりも質の悪い悪夢だ。




 此処まで洒落にならない冗談は聞いた事が無いよ……。


 でも。何はともあれ、助かったんだよな??


 その安堵を確信した体がもういい加減に休め!! と雄叫びを上げるので俺の頭はそれを素直に受け取り。


 霞みの彼方へと意識を送って差し上げた。


 眠過ぎるんだよ……。まだ昼間ですけど、おやすみなさい……。




「んふっ、本当に美味しそうな体よねぇ……。ねぇ!! レイド!! 今晩……。あらっ?? 寝ちゃった……」


「情けない弟子め!! 今日は寝かせてやるが、起きたら覚悟しておくのじゃ!!」


「ってか、勝手にあんたの弟子にしないでくれる?? 私の男なんだけど?? ほら、ここにちゅぅう――って新しい印を付けちゃうもん」


「止めぬかぁああ!! 馬鹿者めぇえええ!!」




「「「「はぁぁぁぁ…………」」」」




 草臥れ果てた溜息を吐く四名の女性達。


 巨大な疲労が含まれた空気が周囲を包むものの。二人の喧噪は止む事は無く。


 頂点に登り切った太陽も呆れた顔で、怒り心頭の表情で喚き散らす金色と。それを飄々とした姿で流し続ける桜色を見下ろし続けていたのだった。



最後まで御覧頂き、有難う御座いました。


それでは、良い週末を!!

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