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第六十八話 絶対者の牙城を崩せ その一

お疲れ様です!! 本日の投稿になります。


それではごゆるりと御覧下さい。




 周囲に渦巻く酷く重い空気。


 足を踏み出そうとしても粘着質に絡み付いて動きを阻害し、質量を持った空気が思考を鈍らせる。


 この状態を言い表すのなら。


 息をするのも憚れる緊張感とでも呼べばいいのでしょうか。




 その中でも苛烈を極める戦闘は尚継続中であり、予断を許さない状況であった。



「うふっ。そ――れっ」



 エルザードさんから彼に向けて風の刃が繰り出されると。



「風よ!! 切り裂き唸れ!!!! 鎌鼬かまいたち!!」



 アオイが同程度の威力の風の刃を放射し、相殺。



「あはっ!! やるじゃない!!」


「それは……。どうもですわ……」


「アオイ、済まない……」



 幾度と無く結界を破壊に成功した彼ですが。


 無尽蔵にも見えた体力の枯渇と、頑丈な体でさえ耐えきれぬ苦痛に限界を迎えた体は力無く崩れ落ち。


 今は胸の激痛に耐えながら膝を着いてしまっていた。



「い、いえ!! 大丈夫ですわ!! レイド様の御身を守るのが私の役割なのですから」



 彼を守る事に専念しているアオイの体力も限界に近い。


 滝の様な汗を流し、荒い呼吸を続け。今にも膝から崩れ落ちてしまいそうだ。



 それは前衛で死力を尽くしている前衛二人にも当て嵌まります。



「くぅ!! い、いい加減にぶっ壊れなさいよねぇ!!」



 マイが黄金の槍で結界に対して攻撃を加えるものの……。



「あらっ?? 今、何かした??」



 随分と軽くなってしまった衝撃音が響くのみで結界の綻びは見出せず。



「このぉっ!! 吹き飛べぇええええ!!」


「ざ――んねんっ。超乳ちゃんの攻撃は当たってあげられないかなぁ――」


「は?? おわぁぁあああ!!」



 大戦斧の攻撃が着弾する前にユウの体を風の魔法で吹き飛ばしてしまった。




「古より流れし水の力。巨悪を穿て!! そして、その力を示せ!!」


 行きます!!!!


大水槍アクアランスマッシブ!!」




 此方に背を向けている彼女へ向かい、上空三方向からの水の大槍を放射。


 あの結界を破壊するには十分な威力の筈です!!



「ん?? おぉっ!! 詠唱付きの水の攻撃魔法かぁ……。威力は十分だけどぉ。えいっ」


「っ!?」



 エルザードさんが指を鳴らすと同時。


 私と同程度の威力の水の槍を召喚して容易く相殺してしまった。



 す、凄い……。


 無詠唱であの威力を発動出来るなんて……。



 こんな時に敵を褒めるのは本来であれば由々しき事態ですが、それでも感心せずにはいられなかった。



「やるわねぇ。おじょう――ちゃん??」



 濃い桜色の髪を大きく揺らし、此方に振り返る。



「無詠唱でその威力ですか。一体、どれだけ研鑽を積めばあなたの立つ位置に立てるのですか??」



「カエデ――!! 褒めてんじゃないわよ!! おらっ!! おらぁああ!!」


「ん――?? ど――だろ。貴女だったらぁ……。二百年位?? 頑張ればいけるんじゃない??」



 ふむ。


 妥当な数字ですね。



「あ、それは一人で過ごした時の場合かなぁ――。良い先生が居れば、貴女ならもっと早く伸びるわよ」



 マイの攻撃を無視しつつ、細い顎に指を当てながら話す。



「褒めているのですか??」


「ん――ん。違――う。客観的に判断した結果よ」



 レイドがイスハさんに師事した様に。


 私にも魔法の先生が居れば、か。そんな人、見付ける事さえ困難ですよ。



「う、うぉぉぉぉおおお!! 食らえぇえええ!!!!」



 アオイの後方。


 左胸に淫らな印を光らせている彼が立ち上がると同時。


 抗魔の弓を構え、彼女に向けて朱の矢を放つ。


 心無しか……。


 朱の色が薄まっている気がしますね。



「あはっ!! すんごい体力ねぇ。あっちの方も期待出来そうっ」



 矢の速度が低下した所為か。


 エルザードさんが飛翔する朱の矢を、余裕を持って躱してしまう。



「く、くそう……」


「はいっ、お仕置きっ」


「や、やめ……。ぐぐっ……。あぁああああああああああ!!!!」



 左胸の印が一際強く輝き始めると、断末魔の叫び声が訓練場一杯に広がってしまった。



 本当に厄介ですね!! あの魔法は!!



「レイド様!! お、おのれぇええええ!!」


『アオイ!! そこから動いてはいけません!! エルザードさんはレイドからアオイを離そうとしているの!!』



 彼が連れ去られたら手の施しようがない。


 私達の敗北条件は全員が倒れる事、若しくは彼が連れ去られる事なのだから。



『で、ですが!!』


『気持ちは痛い程理解出来ますが、今は堪えて下さい!! マイ!! ユウ!! 今一度攻撃を合わせて、結界を破壊しますよ!!』



 二人の攻撃に合わせ、水の槍を着弾させます!!



「む、無茶言ってくれてまぁ……」



 事切れそうな声色でユウが立ち上がり。



「わ――ってるわよ!! うんぬぅうううう!! ずあぁっ!!」



 エルザードさんの魔法を近距離で避けつつ、マイが攻撃を継続させた。



 マイのあの身のこなし……。素直に尊敬しますよ。



 それに、そろそろエルザードさんの弱点が朧に見えて来ました。それは……。




「ねぇ?? 無乳ちゃん。攻撃、弱くなってるわよ??」


「張り倒すぞぉぉぉおおおお!!!! 卑猥な体付きしやがってぇえええええ!!」


「あはっ、褒めてくれてありがとっ。やっぱさ――。ほら、私淫魔じゃない?? 淫らな魔物なんだからぁ。色っぽい体付きになるのは仕方ないのよ」


「谷間作るんじゃねぇええええ!!」





 そうです。


 あの余裕な態度です。


 言い換えれば、驕り。



 自分が最強だと、決して負けないと高を括っているからあんな態度が取れるのだ。


 付け入るとしたらそこしかありません。



「ユウ!! 合わせろ!!」


「おおぅっ!! どっせぇえええい!!」



 マイが黄金の槍を上段に構え、対の方角からユウが大戦斧を大地と平行に薙ぎ払う。



 ここですっ!!



「遍く力の欠片……。我の下に集え、そして…………」



 右手を前に翳し、魔力を高める為に詠唱を開始したが。


 私は途中で詠唱を止めてしまった。



 いいや、止めるべきであったと言った方が正しいですね。


 あんな馬鹿げた魔力を解き放つのですから……。




「ん――……。ちょっと飽きて来ちゃった。私もちょっと本気、見せてあげるわ!!」



 エルザードさんが右手を上空に掲げると、宙に白く輝く美しい魔法陣が出現。



「さぁ……。御出でなさい、私の力の欠片。女王の前で面を上げる愚か者達に裁きを下せ……」



 魔法陣から白い雲の形を模った靄が現れ、訓練場の上空に覆いかぶさる様に薄く広がる。



「な、何よ。あれ……」



 マイがポカンと口を開けてそれを見上げれば。



「あたしには分かる。アレは……。超やっべぇ奴だって!!」



 ユウはエルザードさんから距離を取り、大戦斧を上空に掲げて防御態勢を取った。



『皆さん!!!! 防御態勢を取って下さい!! 強力な魔法が放たれます!!』



 不味い……。不味い!!!!


 私が何んとかしなきゃ!!!!!!



「叡智を統べし理の真。我は大海の王の血を継承する者……」



 騒ぐ心を鎮め詠唱を開始。


 集中力を高め、己自身の魔力を増幅させます!!




「魔を極めし女王が命ずる。愚者へ賢者の赫々たる姿を証明し……」



 エルザードさんが瞳を閉じ、詠唱を開始してしまうと白い靄が徐々に膨張を開始。


 そこから放たれる暴圧が肌を痛い程に刺激してしまっていた。




 う、嘘ですよね!?


 何で、今に限って詠唱を開始するのですか!?




 そこから放たれる魔力の凄まじさと来たら……。


 以前の私でしたら、即刻退却を決めました。勝てぬ戦いに挑む程愚かではありませんので。


 でも……でも!! 私が皆を守らなければならないのです!!!! 絶対に下がりません!!



 大切な……。友達を守りたいから!!




 いくよ?? アトランティス??


 私の力、此処で出し尽くすからね……。



「さぁ……。成す術も無く踊り狂いなさい。白雪乱舞ホワイトレイン……」


「未来永劫!! 我々を守り賜え!!!! 皆さん、行きます!!」



 アトランティスを地面に叩きつけ、全魔力を解放。


 この場に存在する大切な友人達へ、今現在私が構築できる最厚の防御結界を張った。



「お?? カエデ!! ありがとう!!!!」



 ど、どういたしまして……。



 念話を送る事も、言葉を発す事も大変な労力に感じますので。マイの笑みに一瞥を送って応えてあげた。



 も、もう限界です……。


 後は……。私の結界と、彼女の魔法の威力。どちらが勝るのか……。




「き、き、来たぁあああ!!!! うぎゃあ――――!!!!」



 マイの大絶叫が放たれると同時。


 白い靄の中から大人の拳大程度の白い魔力の塊が。夏の季節、不意に訪れる大豪雨の様に降り注いできた。



「か、カエデ!! これ!! 大丈夫なのか!?」



 ユウが叫ぶものの。


 生憎、私は反応できる程体力が無いのです。


 片膝を着け、降りしきる白い雨の中。


 一度だけコクンと頷いてあげた。



 見えたかな??



「カエデ!? 聞こえてるのか!?」



 残念。


 見えなかったみたいです。



 結界に降り注ぐ白い塊が徐々に攻勢に転じ、結界が綻び始めてしまった。



 さ、流石の威力ですね。


 私の全力を以てしても、防ぐ事が精一杯だなんて……。



「レイド様!! 其処から御逃げになって下さいまし!!」



 うん??


 レイド??


 彼にも結界を張ったのですが……。


 アオイの声に反応し、其方へ視線を送ると。



「っ!?」



 彼の結界が今にも破壊し尽くされそうになっているのを視界が捉えてしまった。



 う、嘘!?


 何で!?



「はぁ――。疲れるわねぇ、コレ。小雨にしよ――っと」



 エルザードさんがふぅっと肩の力を抜くと。


 彼女が話した通り、降り注ぐ量が途端に減少したのだが。



「威力は同じだからねぇ。安心しているとぉ……」



「「「「っ!!!!」」」」



 レイドの結界が破壊されてしまった!!



 だ、駄目だ!!


 倒れてしまっている彼にこの威力の攻撃魔法は不味いです!!



『よぉ!! カエデ!!』


『何ですか!! ユウ!!』


『あたし達の結界、外せるか!?』



 えぇ!?


 何を言っているの!?



『そうですわ。外して下さい』



 アオイまで!!



『皆さん!! 白い塊を避けられるかも知れませんが、一発の威力は尋常じゃないんですよ!?』


『んな事は分かってんのよ。このままじゃあ負けるから、負けない為に!! 死地へと飛び込むのよ』



 マイが黄金の槍を肩にポンっと乗せて話す。



『それは建前でぇ、本音はレイドを守りたいんだ』


『ユウの言う通りですわ。このままではレイド様が連れ去られてしまいますので』


『勝てる算段は??』



 これを聞かない限り、この結界は解除しませんよ??


 皆さんの命を守っているのは私の魔法なのですから。



『気付かないの?? エルザードの結界が弱まっているのよ』



 え??



 マイの言葉を受け、彼女が今も展開している結界に視線を置くと。



 ――――――――――。


 本当だ。


 馬鹿げた魔法を詠唱した所為で前の半分程度に厚みが削れている。



『賢いカエデちゃんでも見逃す事があるんだなぁ??』


『ユウ、後でお仕置きですよ』


『おぉ、こわっ』



 ふふ。


 嬉しそうに嫌がりますね。



 大変な窮地に身を置いて居るのに笑えるなんて……。全く。


 彼女達の悪い癖が移っちゃいましたね。



『皆さん!! 結界を解除します!! 解除と同時にマイとユウは結界を破壊する事に専念、そしてアオイも前に出て下さい!!』



『レイド様は!?』



『彼はあのままにします!! 防御を捨て、全戦力を攻撃に回します!!!!』



 彼を守る事が皆の足枷になるのなら、それは捨て去るべきだ。


 それが勝つ為の常套手段。


 非情だと思われようが、私は勝つ為に作戦を遂行する義務があるのです。



『なりませんわ!! レイド様の御命が最優先ですわ!!』


『アオイ、指示に従って下さい。守っては彼女に勝てません』



『そうそう!! 捨て身の攻撃を加えりゃ、エルザードだってビビって逃げるかもよ??』


『ユウの言う通りよ!! 此処で……。私は全てを出し尽くすわ……』



 取り返しのつかない最後の突貫。


 さて、淫魔の女王様。


 私達の捨て身の攻撃を受けきれますか??



『皆さん……。覚悟は良いですか??』



 小雨になった白の塊の中。


 各々に視線を送る。



『おうよ!! これが最後の攻防だ。あたしも全部出す!!』


『はぁ……。分かりましたわ。カエデに従いましょう』


『アオイ、有難う……。では、皆さん。命を燃やし尽くし、勝利を収め!! 明日の太陽を拝みましょう!! 解除します!!!!』



 全員の結界を解除すると、一つの白い塊が頬を掠めた。



「っ……」



 頬を伝い落ちる赤い液体。


 だが、レイドが受けている痛みに比べればこれ位……。何んとも感じません。



 さぁ……。エルザードさん。


 守る事を捨てた私達の恐ろしさを味わって下さい!!!!




最後まで御覧頂き、有難う御座いました!!


そして、ブックマークをして頂き有難う御座います!! 執筆活動の励みになります!!

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