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第二百六十五話 訓練開始初日 その二

お待たせしました!!


後半部分の投稿になります!!




 涼し気な影が漂う森の中の野営地へ戻ると、世話焼き狐さん達から受け取った上下紺色の素晴らしい出来栄えの訓練着に着替え終え。颯爽と一番手で訓練場へ舞い戻った。



 急いで戻った理由。それは至極簡単な理由なのです。


 男女同じ場所で着替えるのは不味いですからね。



 北寄りの森の中へ着替えを持って移動し、目にも留まらぬ早業で着替えを済ませれば一番で戻って来れようさ。



「お主が一番か。随分とやる気に満ちておるのぉ!! 感心じゃ!!」



 俺の行動の速さの意味を履き違えてしまった師匠が空に浮かぶ太陽にも劣らぬ明るい笑みで迎えてくれる。



「ありがとうございます。申し訳ありませんが……。着替えをあそこに置いておいても宜しいでしょうか??」



 訓練場の入り口付近に置いてある自身の着替えを指す。



「構わぬよ。何なら儂が預かっておこうか??」



 それは流石に……。弟子の着替えを師匠に持たせるなんて憚れますって。



「いえ、野晒でも構いません」


 再び師匠の笑みを捉えようと振り返った刹那。


「あんたに持たせておくと臭くなるもんねぇ――」



 背後から腰に掛けて横着な両腕が絡みついて来た。



「そんな事は一言も言っていません!!!!」



 静かにそして素早く両腕の拘束を解き。甘い香りを放つエルザードから距離を取った。


 直ぐに背後を取らない!! 全く気配がしなかったぞ!!



「お主の方が臭いじゃろうが。死体に集る蝿もお主の体には寄り付かぬわ」


「はぁぁぁ??」



 もう嫌っ……。訓練が始まる前からこれだもの。


 大きな吐息を吐きつつ、これ以上騒ぎが大ききなりませんようにと小さな祈りを心の中で呟いた。



「レイドさん、娘が大変迷惑を掛けたみたいで……」



 ギャアギャアと騒ぐ御二人の合間を縫って、フィロさんが娘よりも柔らかい朱の髪を揺らしつつこちらへと歩み来る。



「あ、いえ。毎度……。そこまで迷惑だとは考えていませんので安心して下さい」



 毎度毎度本当に大変ですと大声で叫びたいが肉親の前でそれはちょっと、ね。



「中々口を割らないので苦労しましたけど。お仕事でストースへ赴く道中、食料を全て平らげてしまったようで……」



 恐らく、酷い拷問をして得た情報だろう。


 あのデカイたん瘤と意気消沈していた様が良い証拠だ。悪鬼羅刹を物ともしない彼女が恐れ戦く痛みと恐怖。


 想像するだけで悪寒が止まないよ。



「必要最低限の食料で進んでいたので致し方ないと」



 こうして奴の尻拭いをしておかないとな。


 酷く迷惑をしていると話せばもっと酷い拷問が待ち構えている事だろうし。訓練が始まる前に大怪我を負うのは流石に可哀想だろう。



「そうなのですか?? では、王都で常々食い散らかしているという話の真相は??」


「え、えっと……。彼女に渡した現金は大した額ではありません。許容範囲内の資金で楽しんでいる御様子なので迷惑までとは」



 いかん、懸命に擁護しているがもう既にボロが出てしまいそうだ。



 善人の自分は。



『彼女が痛みを受けたら大変だろう?? これはお前さんの器のデカさを問われる試練だ』



 と、懸命に励ましてくれるのだが。


 悪人の自分は。



『さっさと吐いて楽になれよ。いつかお前さんの給料全部がアイツの胃袋に消えちまうぜ??』



 と、甘い囁き声で誘惑を続けていた。



「そう、ですか。先日、飲食店で呆れる程の御飯を平らげたらしいのですが……」



 あぁ、くそう。


 言いたい、言ってしまいたい!!!!


 給料の大半はアイツの胃袋の中に収まってしまって苦労していますと!!


 俺の気持ちを見越してか質問攻めしているフィロさんの目がきゅうっと曲がる。



 あの目は。



『仰った方が楽になりますよ??』



 確実にそう言っていた。


 楽に吐いた方が良いのかな??


 そっちの方がマイに対しても、仲間に対しても好影響しか与えないじゃないか。


 己の愚行を反省して慎ましい生活を送れば友人達にも、そして財布にも優しい存在になってくれる。更に喧噪が消失し、淫らな蜘蛛との喧嘩も無くなる。



 様々な要因を加味した結果、ここで犯罪者の罪を暴露しても俺達に対して何一つ悪影響は及ばないとの判断に至った。



 うん、言っちゃおう!!


 悪魔の意見を採用した俺はフィロさんの誘惑に抗う事無く口を開いた。



「実は……」


「おっまったっせ――――――――!!!!」

「あぐっ!?」



 赤き龍の軽快な声と同時に突如として背中に衝撃波が発生。


 俺の体はそれに正直に従い地面と仲良く抱擁を交わしてしまった。



「いやぁ!! 遅れたら行けないからぁ、颯爽と参じたら勢い余っちゃった――!!」



 こ、こいつ。


 絶対狙って蹴っただろ……。



「前を向いて歩けと教わらなかったのか??」


 痛む背を抑えつつ立つ。


「あっれ――?? 習ったっけ??」



 目の前に悪魔の指導者が立っているのに。よくもまぁそうやって惚ける事が出来ますなぁ。



「マイちゃん?? レイドさんが痛がっていますよ――??」


「あ、あぁ。そうね」


「はい、謝罪は――??」



 出たよ、あの目。


 三日月型に曲がるのだが、薄く開いた目の中からは一切の感情を汲み取れず。それ処か真の悪魔も慄く憤怒、憎悪が溢れ出し。正面に相対する者の心臓を窄めてしまう。


 グシフォスさんはよく耐えられるな……。


 改めて尊敬するぞ。



「悪かったわよ。今度から前を向いて歩くわね――」



 君は態度って言葉を一度学んだ方が良い。


 俺に一切の視線を送らず、そっぽを向いて口を開きやがった。



「ん?? どうしたんだ、レイド。もうそのだっせぇ訓練着汚れているぞ??」


「どこぞの誰かさんの前方不注意でこうなったんだよ」



 いつもの明るい笑みを浮かべながらこちらへと向かって来るユウへ、惚けて澄まそうとする横着者の頭を軽く叩きながら言ってやった。



「誰の頭叩いてんだごらぁ!!」


 驚異的な速さの拳が俺の顎先を狙い済まして地上から天へ向かって飛翔。


「あっぶねぇ!!」



 上体を反らして間一髪回避に成功した。



「まぁ!! 良く避けられましたね!!」


「訓練の賜物ですよ」



 フィロさん、着眼点はそこじゃないですよ??


 娘さんの理不尽な暴力に対して何か一言仰って頂けたら幸いです。



「到着――!! マイちゃん肩貸してね――」


「乗るなっ!!!!」


「さぁ、いよいよか。腕が鳴るぞ」



 ルーとリューヴがいつも通り仲良く登場すれば。



「ちょっと動きにくい」


「カエデさんおっきくなったからじゃないですか??」



 カエデとアレクシアさんが後に続く。


 そして最後に。



「レイド様……。余り此方を見ないで下さいまし……」


 何故か分からぬが、アオイが俯きそして頬を朱に染めて俺達と合流を遂げた。


「どうしたの?? 何か顔が赤いけど……」



 特に気かける様子も無く、彼女へと近付いて尋ねた。



「そ、その……。あぁ、駄目ですわ。見ないで下さい」



 寝癖、とかかな??


 白雪も恍惚の表情を浮かべて眺めるであろうアオイの綺麗な髪をじっと観察したが特に可笑しな点は見られなかった。


 では彼女は何故恥ずかしそうに顔を背けているのだろう。



「あ――。アオイちゃんは多分ね、格好悪い訓練着を着て恥ずかしいんだよ」


「ルー!! お前さんの目は節穴か!!」



 人の姿のルーの肩を掴んで思わず叫んでしまった。



「節穴じゃないよ?? 目は良い方だと思うし」


「そういう事を聞いているんじゃない!! よく見ろ!! しっかりと縫い付けられた肩口。汚れが目立たぬ様に染められた上下の紺。軽い衝撃を受けても綻びを受けない材質。正に、訓練の為に製作された逸品と述べても差し支えないだろう!!」


「あ――、またいつもの奴か――。イスハさん達あっちに居るから行こうよ」



 俺の熱弁をサラっと流し、訓練場の中央で待つ皆の下へと移動して行ってしまった。



 あっれ?? そんなに格好悪いかなぁ……。機能性を重視した素敵な訓練着だと思うけど。


 いつの間にやら姿を消してそそくさと進んでいるアオイの背を追い慌ててこちらも進み出した。



「うむっ!! 揃ったようじゃのぉ!!」



 横一列に並んでいる仲間達の端に到着すると、師匠が威勢の良い声で始まりを告げた。



「んで?? 揃ったのは良いけど。何すんのよ」


 反対側の列の端に居るマイが失礼な口調で尋ねる。


「マイちゃん?? お口、どうしちゃったのかな――??」



 不躾な態度の正面で腕を組むフィロさんが速攻で訂正を求めた。



「申し訳ありませんでした……」



 ククク、いいぞぉ。


 フィロさんが居る限りアイツは借りて来た猫みたいに大人しくしている筈だからな。


 願わくば、あの慎ましい態度が永遠に続きますように……。



「なはは!! 親の前じゃ形無しじゃなぁ!!」


「…………っ」



 むすっと眉を顰めて師匠を睨むが。



「……ッ」



 フィロさんがその倍以上の恐怖心を抱かせる鋭い目付きでマイの眉を通常の姿へと戻した。


 経験の差……、じゃあないな。あれは単なる素の強さでしょうね。



「早く説明しなさいよ。立っているのも疲れて来たじゃん」



 フォレインさんの右隣り。


 己の髪を長い指でクルクルと弄りながらエルザードが話す。



「喧しいのぉ。今から説明するわい」


「あ、聞こえていたんだ。耄碌婆だから聞こえないかと思ったわ――」


「蹴り殺すぞ!! 貴様ぁ!!!!」



「「「はぁぁぁ…………」」」



 俺達の溜息が合図となり、いつもの乱痴気騒ぎが始まってしまった。



「あの二人は放っておいて構いません。私が説明しますね」


「お願いします。フォレインさん……」



 申し訳ありません。


 気が短い師匠で……。



「本日から始まる訓練ですがその訓練に向け。皆さんの力が今現在どの程度であるかを図る必要があるという考えに至った為、ちょっとした戯れを行って頂きます」



 戯れ??


 実力を図るという事だから目に見える形での戯れになる筈。


 腕相撲……、とかかな。



「簡単な遊びに近い戯れよ。明日の日が沈む迄の間、私達の追撃から逃れる事が出来たらこれから始まる厳しい訓練は免除してあげる」


「母さん達から逃げる?? そんなの不可能に近いじゃない」



 俺もマイの意見には賛成だな。


 師匠達四人が組めば正に地上最強の部隊の完成ですので。



「話は最後まで聞きなさい、お馬鹿さん」


「ば、馬鹿!?」



 的確な御言葉、ありがとうございます。



「あなた達は二人一組で組んで貰います。四組に分かれた組みを、私達個人が執拗に追いかけます。つまり、レイドさんの組を私が追う事になれば他の者は別の組を追いかける事になりますね」



「例えば……。フォレインさんは俺の組を追う事になれば他の組を追わず。フィロさんはフィロさんが決めた組みだけを狙うのですね??」



 こういう事でしょうね。


 俺の目をじぃっと見つめて来るフォレインさんへ尋ねてみた。



「正解です。組は既にこちらで決めました。追う者……。追跡者とでも呼称しましょうか。追跡者はクジで決めて貰います」



 着物の袖口から取り出した小さな木箱をこちらに見易い位置に掲げて話す。



「フォレインさんっ!! 組みを教えて下さい!!」



 ルーが楽しそうに挙手して問うた。



「こほんっ。では、発表します。レイドさんと、アレクシアさん」

「やったぁ!!」



 ちょいと離れた位置から軽快な声が届く。


 俺と組めて嬉しいのかな……。実力を加味すれば、他の者と組んだ方が生存率は高まるのに。



「えへへ。幸先良いですねっ」


「お母様!! レイド様は私と組むべきなのです!!」


「アレクシアちゃんずるいよ!! レイド――!! 私と組もうよ!!」



「お静かに。続いて、ユウさんとリューヴさん」



「よっしゃあ!! 宜しくな!!」

「あぁ、此方こそ」



「カエデさんとルーさん」



「カエデちゃん!! 楽しく行こうね!!」


「生還する事は困難になりましたね」


「ちょっと!?」



「そして、最後に……」



 フォレインさんが小さく言葉を切ると。



「「はぁぁぁ…………」」



 件の二人が同時に溜息を漏らした。



 マイとアオイって。最悪の組み合わせじゃないか。


 他の組も普段見ない組み合わせ、だよな??



「この組を決めた理由は何んとなく理解出来ていると思うけど。互いの性格を加味して、普段余り組みそうじゃない二人を選択したのよ」



 フィロさんの言葉が放たれると同時に。



「えぇ!? 私とレイドさんって相性悪いんですかぁ!?」



 と、アレクシアさんが先程の陽性な声と正反対な声色で強めに言った。



「彼の場合は別。レイドさんは他の誰とも組んでも相性が良いと思ったから、行動を共にしていないあなたを選んだのよ」


「はぁ、良かった……」



「組み直しを強く願います!! アイツとは組めません!!」


「同感ですわ。私はレイド様と共に過ごすと決めておりますので」



 いやいや。


 素直に従おうよ。



 二人が己の願望を強調して話すが。



「「……」」



 それぞれの母親である二人から大変冷たい視線を向けられ、速攻で願いを跳ね除けられてしまった。


 今の目、凄いな。


 とても自分の子に向ける目じゃなかったぞ。



「さて、組の発表は終わりましたので。続いては取り決めについて説明……」



 フォレインさんが落ち着いた口調で口を開くと。



「待てい!! 説明は儂がするっ!!!!」



 先程から遠くで有り得ない速さと力で乱痴気騒ぎをしていた師匠がこちらへと颯爽と舞い戻り額に浮かぶ汗を拭いながら取り決めの説明を開始した。



 燥いでいたから随分と暑そうですね??



「聞いたと思うが、お主達は儂らの追跡から逃れられたら訓練は免除してやる。そして、勝敗を喫するのは……。よっこいしょっと」



 薄手の道着の袖口から白と赤の紐を取り出し。



「額に巻いたこの鉢巻きを取られたら失格じゃ!! 儂らもこの鉢巻きを着用する。安眠を得たければ奪い取ってみせい!!」



 むんっと仰々しく掲げられた。



「つまり、簡単に言うとイスハ達に鉢巻きを取られたら負け。鉢巻きを奪取するか、明日の日が落ちるまで逃げ切れば私達の勝ち、って事ね??」


「マイの言う通りじゃ!! 儂らはお主達に魔法は一切使用せぬ。付与魔法程度は使用するが、基本的には物理的な行動のみで襲い掛かるから安心せい」



 いや、師匠の物理攻撃は大変危険なのです。


 下手な魔法よりよっぽど危ないじゃ無いか。



「私達は魔法を使用しても構いませんか??」



 普段通りの声色でカエデが話す。



「構わん。儂らに対して何の遠慮も要らんよ。好きな攻撃を好きなだけ仕掛けて来るがよい。あ、空間転移の魔法だけは使用不可じゃよ?? アレを使われたら流石に捕らえられぬからのぉ」


「分かりました」




「続けるぞ。今は島の中央よりもやや南下した訓練場におる。出発地点は島の中央、北、東、西。そこへ空間転移で送る。場所がどこになるのかは無作為じゃからな。そこからはお主達の自由行動じゃ。二人共に鉢巻きを奪取されたら負け。負けた組は家事手伝いをしてもらうからなぁ――」



 ふぅむ、成程。


 相手が向かってくる前に罠を張るなり、逃げるなり、迎撃態勢を取るなりしろって事か。


 師匠達相手にどこまで通用するのか試してみたい気がするけども、逃げの一手が賢明かしらね。



「ちょっと待って!! 御飯は!?」



 やはりあなたはそこが気になりますか。



「食事は先程の野営地で、午前八時、正午、午後六時に定期的に出される。じゃが……。勿論その間も儂らは狙っておるからな?? 飯の匂いに誘われて来るのを待ち構えているやも知れん。それも組で相談して決めろ」



 マイの組を追う人は楽だな。


 寝所を張っていれば自然と現れるし。あ、でもアオイがそれを阻止するか??



「では!! さっそくお主達の組を追う追跡者を決めるぞ!! 分かり易い様に箱の中には色の付いた紙が入っておる。黄色は儂、白はフォレイン、赤はフィロ。桜色は脂肪じゃ。ほれ、こっちへ来い」



 一本の尻尾が俺を手招きする。


 それに誘われ、フォレインさんが持つ小さな木箱の前に躍り出た。



「どうぞ」


「分かりました。では……。引きます!!!!」



 にこやかな笑みを浮かべるフォレインさんに促され、運命の選択を開始した。



 頼むぞぉ……。師匠だけは勘弁してくれ。


 俺の技、所作、小さな癖も全て筒抜けだからな。戦いになった時、それは致命傷にもなりかねない。


 では、誰を引くべきか??


 その答えはいつまで経っても決まらないであろう。何故なら、どれを引いても地獄への案内状に変わらないのだから……。



「レイドっ。私を引いてっ??」


 こちらに合流を果たしたエルザードが妙に明るい声で難しい注文をする。


「いや、運だから分からないよ」



 どれにしようかな。


 一番手前?? いや……。こういう時って残り物には福があると言われる様に、一番下の奴がいいかも。



「んも――。引いてくれたらぁ……。この体、好きにしていいゾ??」



 前屈みになって強調しない。


 また喧嘩になりますよっと。



「ンギギ……。儂の弟子に気持ち悪い物を見せつけおって……」


「では……。とうっ!!」



 眉を顰め歯軋りを続ける師匠の姿に慄きながら運命の紙を握り締め、一気苛烈に引き抜いた。



「どの色じゃ!?」

「見せなさい!!」


「あの、先ず自分が見たいので退いて頂けたら幸いです……」



 握った拳の前に集まった師匠と淫魔の女王さんへと言う。



「私は気にしないわよ。ほら、さっさと開けっ!!」



 はいはい。


 どれを選んでも厳しい事には変わり無いし。さくっと開きますか。


 力強く握った拳をゆるりと開いてやった。



「――――――――。はぁぁぁ」


 師匠が誰にでも分かり易い落胆の溜息を吐き出し。


「やったぁああ!! やっぱり私達って惹かれ合う運命なのよ!!」



 エルザードがそれとは正反対の陽気な感情を籠めた笑みで俺の体に絡みついてしまった。



「お止めなさい!!」



 女性らしい柔らかさと男性の性を多大に誘う香りを放つ体を押し退けてやった。


 白昼堂々と淫らな行為は了承出来ませんっ!! 勿論夜でも駄目ですけどね!!!!



「うっし。次はあたしが引いてみようかな」



 ユウが腕をぐるりと回し、木箱の中へと手を入れ。



「んぉっ。フォレインさん、宜しくお願いします」


 凛と佇む彼女へ小さく頭を下げた。


「まぁ……。うふふ、不束者ですが宜しくですわ」



 ユウとリューヴの相手はフォレインさんか。


 娘と同じく幾重にも罠を張り狡猾な手段で相手を追い詰めるのだろうか……??


 初見の相手だからきっとやり難そうだぞ。



「では、私が……」


「カエデちゃん!! イスハさんは止めてよ!!」


「何じゃ!! 儂を貧乏クジ扱いしおって!!」



 憤るのは理解出来ますが、もう少し大人な態度を取って下さい。



 カエデがひょいと手を入れ、そして数舜で紙を引き抜いた。


 はっや。躊躇しなかったね??



「ふっふっふ――。ルー、貴様は儂を怒らせた。尻尾の毛を一本ずつ毟り取って海へと放り投げてやるわ!!」


「あ――あ……。ほら、貧乏くじ引かされちゃったじゃん……」



 御二人共、ご愁傷様です。



「残るのは当然……。私よね?? 二人共っ!! 宜しくね!!」



 最後に残ったフィロさんが二人に明るい挨拶を交わすが。



「「……」」



 件の二人は難しい顔で彼女の声に応答した。


 せめて返事を返しなさい。



「最悪よ、最悪。なんでよりにもよって実の母から逃げなきゃいけないのよ……」


「全く……。レイド様とならまだしも。低能な猿と行動を共にしなければならないのが苦痛ですわ……」


「あぁっ!? 誰が猿だごらぁっ!!」



 御二人さん。仲違いだけはお止めなさいよ??


 不穏な空気を放つ二人の様子を窺いつつ、師匠から紅白の鉢巻きを受け取るとアレクシアさんと肩を並べた。



「宜しくお願いしますね」


「こちらこそですっ!!」



 おぉ。、気合十分だな。


 両の拳を強く握り、漲る気合を表現してくれた。



「準備は良いか――?? 指定の場所へと送るぞ」



 師匠の言葉と同時に巨大な魔法陣が地面に浮かぶ。


 この魔力の持ち主は言わずもが。



「…………」



 俺達の追跡者となった彼女だ。


 目を瞑り精神を研ぎ済ませて魔力を高めている。


 エルザードが相手、か。


 正直一番の当たりじゃないのかな?? 魔法主体の戦法を得意とする彼女だ。付与魔法は使用するとは思われるが、地を裂く大地の魔法だったり。空気を焦がす巨大な炎は少なくとも飛んでは来ないのだ。


 エルザードには悪いけど、距離を取りつつ逃げさせてもらおうかな。


 体から迸る魔力を放つ彼女の端整な顔を何とも無しに見つめていると。


 俺の視線に気が付いたのか。



「……んふっ」


 ふっと目を開け、片目をパチンっと瞑った。


「では、楽しい楽しい地獄の訓練の始まり――!!」


 そして威勢の良い声を放つと目を開けて居られない程の光量が地上に浮かぶ魔法陣から迸った。




 楽しい地獄ねぇ……。沸々と湧く溶岩を眺めておにぎりを食み、阿鼻叫喚が飛び交う中で昼寝をする。


 こんな感じだろうか??


 下らない想像はさて置き。


 是が非でも勝利を収め、今までの俺達とは違うんだぞと指導官の四人に知らしめてやろう!!


 眩い光に包まれながら勝利への道筋を模索し続けるが……。



『はぁ――いっ、無駄な努力お疲れ様っ。私の勝ち――』



 どの道も鉢巻きを剥ぎ取られてしまう最悪な未来であった。


 始まる前からこれじゃあ駄目だろ。


 アレクシアさんと相談しつつ最良だと思われる策を練ろう。どんなに硬く、堅牢な壁でも力を合わせれば必ず突破口は見出させるのだから。




お疲れ様でした。


先ずは小手調べ、ではありませんが。四名の追跡者達がそれぞれの方法で四組を執拗に追い掛けます。彼等は果たして追撃を退ける事が出来るのか。


そして襲い掛かる幾つもの酷い仕打ちを楽しんで頂ければ幸いです。



それでは皆様、お休みなさいませ。

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