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第六十七話 蓋世の才との差

お疲れ様です!! 遅い時間の投稿になってしまい、申し訳ありませんでした。


それでは、御覧下さい!!




 心の空模様はどんよりとした厚い鉛色の空に覆われていますが、本日の天候は俺の心とは真逆。



 白の欠片さえ見たらない何処までも続く青が目に痛い。



 心が沈んでいるのは言わずもがな。俺の体と命を狙いに来る御方の所為なのです。



 憎たらしい程の明るい笑みを浮かべる太陽の下で悪戯に体を動かし、その時に備えていた。




「よぉ――」


「どうした?? んっ……。よっと……」



 屈伸運動を続けつつ。なだらかな丘に腰かけ、随分と寛いだ姿のマイに返事を返す。



「さっきから便意を誤魔化そうとしている鶏みてぇな動きしてるけど、どうしたのよ」



 ごめん。


 そんな鶏見た事ないからどんな足取りか分からないけど……。



「緊張感を誤魔化しているんだよ」



 これが要領を得ない質問の答えですね。



 そりゃあそうだ。


 淫魔の女王様がいつやって来るのか分からないのに……。寛いだ姿勢で待ち構えているのは少々お門違い。直ぐにでも反応出来るように体を解し、準備を整えておかなければならないのです。


 俺の心臓はあなたみたいに鉄で作られている訳ではないのですよ??


 まぁ、アイツの場合。


 狙われていない所為もあるか。



「今さら焦っても……。ふぁぁ……。しょうがないって。安心しなよ!! あたし達がちゃんと守ってあげるからさ!!」



 ミノタウロスの娘さん。


 人に安心感を与えたいのなら、途中で欠伸を放つのはお止めなさい。



「有難うね。真摯に受け止めておくよ」



「ユウもちょっと横になりなよ――。もっと遅い時間に来るってぇ」


「む?? ん――……。どうしよっかなぁ」



 だらしなく地面に溶け落ちてしまった姿に変わったマイの隣。


 彼女に悪影響を受けて今にもダランっと横になりそうなユウへ返信し、再び軽い運動を行った。



 こうでもしないと緊張感で体が参っちゃいそうだよ。



「レイド様、余り動き回ると体力がもちませんわよ??」


「これ位が丁度良いの。戦いを前に、カエデみたいに静かに佇むのはどちらかと言えば苦手な部類だからね」



 訓練場の中央よりもなだらかな丘側。



 静々と両手を前に組み、その時を待つカエデを見つめた。



 瞳を閉じて、気を静めている様がまぁ頼りになる事で。


 アオイと共にその姿を眺めていると。



「……」



 徐々に頭がコクッ、コクッと揺れ出す。



 あ、あれれ??


 おかしいなぁ。眠たいのかな??



「……………………っ!!」



 一際強く頭がガクッ!! と動くと。


 慌てて顔をフルフルと横に振って『眠気』 を振り払ったとさ。この三日間の疲れが蓄積されているのは致し方ないとしてもだよ??



 俺の心配をしてくれる人はいないのかしらねぇ……。


 酷く残念な思いが胸の中一杯に広がってしまいました。



「カエデ――。眠たいのならこっちおいでよ――」


「結構です」



 マイの誘いをやんわりと断り、眠気がしがみつく瞳に喝を入れ。キリっとした目付きで空を睨んだ。



「イスハはまだ来ないのか――??」



 ユウが叫びつつカエデに問う。


 俺もその点が気掛かりだな。






 皆が眠たそうに惚ける朝。



『皆さんっ。おはようございますっ。本日の朝食はイスハ様からの御厚意で少量と承りましたので。致し方なく!!!! 普通の人が食す量を御用意させて頂きました』



 モアさんが嬉しい知らせを平屋の中に……。



『えぇぇぇっ!? そ、そ、そ、そっかぁ……。量、少ないんだ……』



 基。


 一部の人には超残念な知らせを告げて平屋へと足を運んだ際。



『イスハ様、ちょっと出掛けているから。安心しな、その時にまでには戻ると言伝を貰ったからね』


『お忙しいのですか??』



 配膳を続けているメアさんに問うと。



『何だか忙しそうだったよ??』



 師匠がこの場所に居ない事を告げられた。


 ふぅむ……。


 所用があるのなら致し方ない、か。



『安心しろって!! マイ!! お前にはお前用の量を用意してあるから!! だから、叱られた犬みたいな顔すんな!!』


『メア!! 大好きよ――――――――!!!!』


『分かったから離れろ!!!!』



 嬉し涙を流す太った雀が顔に張り付いたら誰でも困惑するであろうさ……。






 久しぶりの普遍的な朝食を終え。


 師匠の帰りを期待感溢れる心で待ち、そして恐怖の女王様を形容し難い複雑な心境で待ち続けている次第なのです。



「師匠が間に合わない場合、俺達で何んとか出来るのかな……」



 右隣りで静かに此方を見上げるアオイに問う。



 今日も綺麗な白い髪ですね??


 俺の顔に何か付いてる??



「例え手が砕けようが、足が裂けようが。レイド様の御命だけは御守り致しますわ」



 不安な気持ちを見越してか。


 細い指で俺の小指をきゅっと摘まんでくれた。



「そうならない様に、一丸となって立ち向かおうかね」



 俺の身を案じてくれた優しい想いが悪天候の心に一筋の光を与え。そこから晴れた青空が覗く。


 そうだよ。


 本来、友人にはこうして労わる想いを抱くべきなのだ。少なくとも……。



「クァァ……。ンンゥ……」



 なだらかな丘の傾斜を利用して馬鹿みたいに口を開けて、体を弛緩させるべきだとは思わないのです。


 アイツ。


 他人事だと思ってだらけ過ぎじゃないのか??



「有難うね?? 心配してくれて」



 右手を優しく彼女の頭の上に、ぽんっと乗せてあげた。



「ま、まぁっ!! 頭を撫でて頂けるなんて!!」



 いや、撫でていませんよ??


 刹那に乗せただけです。



「これはもう第三者から見ても我々は恋人を越えた関係を構築されていると認識されている筈です。それはつまり!! 夫婦と同義であると私は認識しましたわ!! ささ、レイド様。命を奪われる前に、私のお腹にレイド様の命を吹き込んで下さいましっ」



 訳の分からない言葉を放ちつつ、平屋へと誘う手をやんわりと振り払う。



「レイド様!! 御安心下さいませ!! 私は初めての経験になりますが、天上の染みを数えている内に終わらせて差し上げますので!!」



 それは男性が放つ台詞ですよ。


 そして、こんな明るい内に話す内容でもありません。



 ――――――――。


 夜でも駄目ですけどね。




 やんややんやと己の妄想を吐き続ける彼女を尻目に。引き続き、体を解していると。




「「「「っ!!!!」」」」



 訓練場の中央付近に巨大な魔法陣が突如として浮かんだ。



 す、すっげぇ圧。



 まだ本体が出現していないのにも関わらず、体があそこから逃げ出せと叫んでいますよ。



「やっとこさ敵のお出ましか!!」


「うっし!! ぐっすり眠って、たっぷり食べたから体は万全だ!! 掛かって来やがれ!!」



 マイとユウが獲物を追い駆ける猫もあんぐりと口を開けて呆れる程の速度でその前へと移動を開始。



 それに続き、残りの三名は警戒を続けながら二名の後を追った。



「皆さん、イスハさんはどうやら間に合わなかったので我々で対処します」



 現在も膨れ上がる圧を放ち続ける魔法陣の前。


 一列横隊に並ぶ俺達の前にカエデが出て話す。



「作戦は昨日説明した通りです。私の指示を聞き逃さないで下さいね??」


「さぁ、御挨拶を交わしましょうかね!!」



 マイが体の前で勢い良く拳を合わせ、己を鼓舞。


 魔法陣から一際強烈な光が放たれ、それが収まると………………。









「じゃ――んっ!!!! 私、登場しちゃったっ!!!!」



 太陽の下でも大変お美しく飄々とした雰囲気を醸し出しつつ、光の中から淫魔の女王が出現した。



「あらっ?? 態々お出迎え??」



 そして、此方を見付けるとカクンっと小首を傾げた。



 茶の皮の上着に、淫らに胸元が開いた黒のシャツ。


 膝上までの大変けしからん短いスカートから覗く、白く長い足。


 世の男性の視線を釘付けにする端整な顔立ちと、今は春かと錯覚させる濃い桜色の長髪。



 全く……。


 何処に視線を置こうか迷う姿ですね。



「まぁ、お出迎えと言っても差し支えないわね」



 マイが腕を組みつつきょとんとした顔のエルザードさんを見つめる。



「難しい言葉知ってるわね。褒めてあげるわ」


「これ位誰でも知ってるわよ!!」


「あっそ。ってかさ………………。何その服!!!! 超絶だっさいじゃないの!!!!」



 はぁぁぁ。


 エルザードさんも向こう岸に身を置く存在でしたか。



「エルザードさん。服は見た目じゃあないのです。機能性を重視して選ぶべきですよ」



 若干説くように話すと。



「えっ?? あぁ……。そうなの??」



 うん??


 俺、何か可笑しな事言ったかな??



 何か驚いた顔を浮かべたのだが……。



「無粋な服は脱ぎ捨てて、私があなたに似合う服を着させてあげるからねっ」



 それは一瞬の内に変化。


 体中の肌が泡立つ口の角度を表し、此方へと歩み始めた。



「自分で着る服は自分で選びます!!」



 このまま黙って誘拐される訳にはいかんぞ!!


 よし!! 行動開始だ!!



『皆さん、戦闘準備に入って下さい』



 俺の声色で察してくれたのか。すかさずカエデが念話で指示を送ってくれた。



 ふぅ……。緊張してきたな……。


 エルザードさんを拘束し、無力化するのが今回の勝利条件。


 果たしてそれは可能なのでしょうかね??




 俺の顔を捉えると。



「うふふっ。美味しそう――」



 淫靡な液体を纏わせた舌でぺろりと舌なめずりを始めてしまう。


 その姿を見つめて背筋が泡立ったのか、将又。


 彼女から放たれる圧に恐れをなして泡立ったのか。



 理解が及びませんけども、いずれにせよ。傑物の類だと断定しても宜しいでしょうね。



「おっしゃあああ!! 開戦の狼煙は私が上げてやらぁあああ!!」



 マイが宙へと深紅の魔法陣を浮かべ。



「風よ!! 我と共に吹き荒べ!!!! 来ぉぉおおい!! 覇龍滅槍!! ヴァルゼルク!!!!」



 黄金の槍を取り出すと、金色の残留魔力を振り払い。


 中段へと美しく構えた。



 いいぞ。


 良い緊張感を持った表情だ。


 普段のだらしない表情の欠片も見当たらない表情にホっと胸を撫で下ろした。



「へぇ?? この前と違って、ちゃんと緊張感を持っているわね。偉い偉いっ」


「うっせぇ!! そして!! 私に叩きのめされろやぁあああああ!!!!」



 相変わらず突進が大好きですね、あなたは!!!!


 少しは考えて行動しなさい!!



「皆!!!! 配置に着け!! 作戦開始だ!!」



「おうよ!! 行くぞ!!!! 来やがれぇえええ!! タイタン!!」



「常闇に咲きし一輪の花……。咲き誇れ!! そして、舞い狂え!! 我々の前に立ち塞がる闇を払うのだ!! 行きましょう!! 暁!!」



「大海を統べし遍く叡智……。今、此処に!! アトランティス!!」



 向こうも凄まじい圧ですが、此方も負けてはいないぞ!!



 三名が同時に継承召喚を行うと。



「あはっ!! これだけの数の継承召喚なんて……。んぅっ。体がゾクゾクしちゃう」


「気色悪い声出すんじゃねぇえええ!! おらあっ!!」



 体をくねらせ、ほんのり桜色に染まった頬の女性襲い掛かる深紅。


 しかし、此方の予想通りというか。


 穂先が着弾する事は叶わなかった。



「きゃあ――。私、こわ――いっ」


「かってぇなぁ!! それ!!」



 刹那に展開された結界と黄金の槍が衝突するが……。


 甲高い音と共に槍が弾かれ、その衝撃によって痺れた手にマイがふぅふぅと息を吹きかける。



 踏み込みの速度、そして上段から振り下ろした速度。


 武の嗜む者なら満場一致で素晴らしい威力であると頷ける物であったが、それでも彼女を守る壁に綻びは生じなかった。



「褒めてくれてありがとっ。あ、そうそう……」



 やべぇ!!


 誰よりも先にエルザードさんが掲げた腕の進行方向へと駆け出す。



「ちょっと近いから、下がってねぇ」


「はぁ?? おどぶっ!?」



 大人の拳大の火球がマイの腹部に着弾すると同時に後方へと吹き飛ばされ。



「っとぉ!! 大丈夫か!?」



 堅牢な大地に叩きつけられる前に抱き留めてやった。



「お?? お、おぉ。大丈夫…………。じゃあねぇ!!」



 その様ですね!!


 お腹辺りの服が燻ぶり、火種が残っていますので!!



 右手でマイの服の火種を咄嗟に掻き消してやった。



「ふぅ――。これで一安心。そうだろ??」


「う、うむっ。そうね……」



 髪の毛同様、赤く染まった顔を背け。素早く地面に立つと同時に此方に背を向けてしまう。



 礼の一つや二つ、言ったらどうですか??



『皆さん!! 行動を開始しますよ!!』


『了解した!!』



 カエデの念話を受け、背から弓を外し。


 中間距離へと身を置いた。



 仕切り直しだな。


 直接攻撃じゃ効果は薄いし……。やはり、この弓の出番か。



「うふふ。弱い者なりに色々と考えてきたのでしょ?? 私を存分に愉しませなさい」



 エルザードさんがそう話すと、濃い赤の魔力が体から漏れ始め。


 周囲の木々が恐れを抱く者の様に揺れ始めた。




 魔力が漏れただけでこの馬鹿げた圧ですか……。


 ひょっとしたら、師匠より強いのでは??



「おっしゃあ!! 皆の者!! 私に続けぇえええ!!」



 同じ失敗からアイツは学ばないのだろうか??


 だが、その姿に鼓舞されているのは事実ですけどね!!



 二回目の突撃を開始したマイの背後に身を置き。


 石よりも硬い固唾を喉の奥へと流し込み、彼女の隙を狙いつつ弓を静かに構えた。











 ◇










 乾いた砂の上に響く武器と壁が衝突する激しい炸裂音。


 眩い青の光の中から出現した氷の槍が空気を切り裂き、燃え滾る赤の光の中から現れた灼熱の火球と共に壁へと襲い掛かり不動の大地の砂を振動させた。



 それでも、俺達と彼女の間には。


 これが今現在の差であるとまざまざと見せつけるかの如く、綻びの欠片も見出せない完璧な状態の壁が存在し続けている。



 あらゆる手段を用いても破壊出来ないと、あれを目の前にしたら嘆く者も現れるだろう。



 だが、俺達は心が折れる処か。


 高ければ高い壁こそ越えるべきだと、闘志を燃やし続けていた。




「ずぁああああっ!! 弾け飛べぇええ!!」



 ユウが大気を切り裂くように大戦斧を上段から一気に振り下ろすと。



「これはついでだぁあああ!!」



 その後方から黄金の槍の切っ先が鋭く、そして確実に彼女の周囲に張られた結界に着弾した。



「っと……。この三日間ちゃんと鍛えていたみたいね?? 威力がちゃぁんと上昇しているわよ??」



「うっせぇ!! さっさとぶっ壊れろやぁああ!! うぎぃいいいいい!!!!」



 ですから。


 出鱈目な攻撃はお止めなさいよ……。



 上段から、そして下段から槍の穂先をむやみやたらに叩きつけるものの。


 結界に綻びは生じず、その中で前回は退屈そうに俺達を眺めていたが……。



「…………」



 今回はどうやらそうはいきませんね。


 中、遠距離に身を置く俺達に耐えず視線を送っていますので。


 その所為で照準が合わせ辛いのなんの……。



『ユウ!! もう少し左へ誘導してくれ!!』



 ユウの体を盾にして、エルザードさんが此方の死角へと移動。


 そして周囲に纏わり付く。



「おらぁっ!! むきぃぃぃぃいいいい!!」



 お猿さんも盾に活用しているのですよ。



『分かった!!』



『レイド!! 右へ移動開始です!!』



 了解!!



 カエデの指示に従い、抗魔の弓を持ち颯爽と移動して構えるが……。



「なぁにぃ?? そぉんな遠くからじゃあ……。私に当たらないゾ??」



 的は此処よ――。


 そう言わんばかりに両腕でむぎゅっと中央に寄せ、アレを強調した後。




 再び両者を盾に死角へと移動してしまった。



 くそっ!!


 挑発が上手ですね!!



『カエデ!! この距離じゃ駄目だ!! 前に出るぞ!!』



 抗魔の弓を手に、前方へと駆け出した。



 絶え間なく移動し続ける俺達の動きを手に取る様に把握し、此方の死角へと向かって動き続けている。


 つまり、エルザードさんはカエデ同様。俯瞰して状況を理解出来るのだ。それ処か、先の先を見据えて動いている気さえするよ。



『分かりました!! アオイ!! レイドの援護へ!!』


『畏まりましたわ!!』



 アオイが小太刀二刀を両手に俺の前へと援護に出る。



「悪いね!!」


「うふふ……。夫婦での初めての共同作業ですわね??」



 いや、それはちょっと違う気がします……。



「こっちよ――。いらっしゃい!!!!」



 エルザードさんが右手を翳すと薄い緑色の魔法陣が浮かび。複数の鋭利な風の刃が此方に向かって放射された!!



「アオイ!!」


「分かっていますわ!! ふっ!! はぁっ!!!!」



 襲い掛かる風の刃を小太刀が次々と断ち、安全な進路を確保してくれる。


 こういう時は本当に頼れるよ!! アオイは!!




「此処で……。釘付けにしてやらぁあああ!!」


「マイ!! 合わせるぞ!!」



 マイが上空へと飛び、全体重を乗せた雷撃を結界の頂点へと突き刺し。



「ふんがっ!!!!」



 ユウが何んと!!


 素手で結界を持つではありませんか!!



「どうしても此処から動かせたくないみたいね??」


「さぁあね!!!! くぬぅ!! このっ!!」



 形容し難い顔でお猿さんが槍の切っ先を突き立て。



「うぐぐぐぅ!!!! 動くんじゃねぇぞぉぉおお!!」



 額に浮かんだ血管が今にも切れそうなユウが叫ぶ。



「ふぅん……。まっ、いっか。あんた達のとっておき。見てあげるわ」



 さぁ、どうぞ!!


 そう言わんばかりに此方へ向かって両手を広げた。



 よし!!


 いいぞ!!!!



「アオイ!! 避けてくれ!!」


「分かりましたわ!!」



 矢の射線上に身を置き、最後の最後まで俺の身を守り続けてくれた彼女へ指示を送り。



「ふぅぅぅ……」



 苛烈に動かし続けていた足を止め、抗魔の弓の弦を強く引いた。



 さぁ……。


 頼むから割れてくれよ!?



 弦から出現した朱の矢。そして、熱き想いを乗せて弦を放つ。



 朱の矢は空気を裂き、思い描いた通りの軌跡を描いて彼女を包む堅牢な結界に着弾した。




 ど、どうだ!?



「――――――――――――。あらっ?? すごぉい!! たったの一射で割れちゃったっ」



 砕けた陶器の様に結界の破片が地面へと崩れ落ち、そして風に乗って欠片が霧散した。



 おぉ!!


 カエデの考えた通り、効果覿面じゃないか!!



『皆さん!! 今です!!』



「わぁってらぁああ!!!!」


「うっしゃあ!!!! 吹き飛ばすぞ!!」


「此処で勝負を仕掛けますわ!!」



 三名が異なる方向から淫魔の女王へと襲い掛かる。


 しかし、それでも彼女はその場から動こうとはしなかった。



 まさか……。あの魔法か!?



「ん――。残念っ。広範囲を吹き飛ばせる魔法、詠唱出来ちゃうのよねぇ。ふっ」



 エルザードさんの指先から緑の光が放たれると。



「「「っ!?!?」」」



 後方に聳える木々の幹をも揺らす風が彼女を中心として吹き荒れた。



「いでででっ!!」


「マイ!! 大丈夫か!?」



 此方側にコロコロと転がって来たマイに視線を落とす。



「んっ!! 大丈夫!! 風で吹き飛ばされただけだから!!」



 何事もなかった様に立ち、右肩にポンっと黄金の槍を乗せた。


 流石、頑丈ですね。



「はぁい、また結界張りま――す」



 前衛を吹き飛ばして得た隙を利用して、再びあの厄介な結界が展開されようとされている。



「そうはさせるかぁ!!!!」



 弓を構え、照準を彼女に合わせた。


 体力が尽きようが……。ぶっ倒れようが!! 何度でも破壊してやるよ!!!!



 弦を強く引き、先程と同じ所作で朱の矢を出現させた。






























「んも――。レイドはぁ、私の所有物なんだからぁ。そこでじっとしていなさい」



「はい?? うっ!?」



 エルザードさんの瞳が怪しく光ると同時。


 左胸に常軌を逸した激痛が広がった!!



「う、うわぁぁあああああああああ!!!!」



 突如として発生した痛みに足元から崩れ落ち、左胸に視線を送ると……。



 彼女に付けられた印が濃い紫色に強く光り輝いていた。



 な、なんだ!? これは!?



「んふふっ。それはぁ、愛の奴隷スレイブチェイン、って言ってぇ。私が開発したすごぉい魔法なの。印を付けた相手に好きな時、好きな場所でお仕置きできるのよ??」



「う、うぐぐぐ……。ぐあぁぁああ……」



 まるで熱したナイフを突き立てられたみたいだ。


 痛過ぎて……。意識が遠退きそうだぞ……。



「レイド様!! お気を確かに!!」


「クソ蜘蛛!! そっちに気を取られるな!!」


「何ですって!?」



 此方に駆け出そうとするアオイをマイが制す。



「そ、そうだ……。マイの言う通りだ。お、俺が崩れた所を狙って……。あぁっ!!!! 

いるんだよ……」



 右手で左胸を抑え、何んとか立ち上がろうと歯を食いしばる。


 しかし。


 痛みは離れる処か、俺の思いとは逆に刻一刻と強烈になっていく。



 く、くそ……。


 い、痛過ぎて気が狂いそうだ……!!




「クスッ。お見通しだった??」


「あたぼうよ。それに……。やい!! ボケナス!!」



 この期に及んでその呼び方はどうかと思います。



「あんたはその程度で倒れる男か!? 違うだろ!?」



 無茶言いやがって……。



 だが……。


 アイツの言う通りだな!!!!



「お、おう!!!! 頑丈なのが取り柄なんだよ!!!!」



 膝を着いてしまった情けない体に喝を入れ、再び大地に両の足を着けてやった。



「うっそ――……。常人なら痛みで発狂して死んじゃうのに」



 此方の様子を見て、信じられない。


 驚愕の意を籠めた瞳で此方を見つめた。



『さぁ、皆さん!! 私達はまだまだ戦えますよ!! レイド!! 痛いのは理解出来ますが、此処で倒れて貰っては困ります!!』



 カエデも無茶言うよね……。



「了解だぁ!!!! 皆、勝つぞ!!!!」


「「おおうっ!!!!」」



 ここで倒れたら師匠に顔向けが出来ん!!!!


 それに……。仲間達が戦っているのに無様に倒れるのは一人の男として情けないよな!!


 痛みで震える腕を制止、荒い呼吸を整え。再びエルザードさんに向けて弓を構えた。




お疲れ様でした。


さて、いよいよ一章の大詰めです。


来週の頭から二章の投稿が出来るように投稿を合わせさせて頂きますね。

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