第二百六十二話 龍も唸る円盤状の食べ物
お疲れ様です。
本日の投稿になります。
「マイちゃんの所為で走ったからお腹空いた――……」
「何で私の所為なのよ」
「道に迷っても適当に走れば着く!! って言ったから大人しくついていったのに。全然違う場所に着いちゃったじゃん」
「あはは。大変でしたねぇ」
陽性な空気と耳に心地良い笑い声が響く個室へと戻り元居た席に着く。
友人達との会話が楽しくて仕方が無いのか。
それともお目当ての料理が運ばれて来る、その姿に胸を膨らませている陽性な感情から自然と笑みが浮かぶのか。
いずれにせよ、この雰囲気は嫌いじゃない。
御飯時に苛々していても楽しくないからね。
「レイド様、お疲れ様でした」
席に着くとアオイから労いの声が届く。
「どういたしまして。注文が多くて口が乾いちゃったよ」
目の前のコップに手を運び、水で口を潤す。
ふぅ、生き返った。
「あ、申し訳ありませんわ。そのコップは私のでした」
そう話し、今しがた置いたコップと彼女の前に置かれていたコップを差し替える。
何で場所を変えたのだろう??
残っている水の量、かな……。
「おら。ちゃんと伝えたのか??」
「安心しなって。全部滞りなく伝えておいたから」
正面から厳しい声が届き、それに返事を返す。
気持ちは分からないでもないけど。一々確認を取らないと安心出来ないのかね?? 君は。
「あのぉ、皆さん。少々宜しいでしょうか??」
陽気な雰囲気が漂う中、アレクシアさんがおずおずと矮小な声を出す。
「どうしました??」
体を刺す鋭い視線から顔を逸らし、雀の鳴き声にも劣る声量を放った彼女へ尋ねた。
「えっと。連日続けての訓練は初めての経験でして……。疲労度合いというか、一体どれ程の負荷が掛かるのか。予め想定していれば訓練に対する心構えも出来るかと考えまして」
常軌を逸した訓練に対して億劫にならない様に予め聞いておきたかったのですね。
「私達も三十日にも亘る訓練は初めての経験だから何とも言えないけど。体中の筋肉が悲鳴を上げるのは確かね」
マイが得意気に口火を切り。
「そうそう。筋肉が摩耗して、それを養う為に飯をこれでもかと詰め込まれる」
「だね――。運動より、食事の方がきついかな?? 私は」
それに同意する形でユウとルーがウンウンと頷く。
「しかも此度の訓練は精神力も鍛える内容だ。我々の想定以上の負荷が掛かると予想されるぞ」
「えぇ、リューヴの言う通りです。心と体。両面の訓練は辟易を通り越し心が擦り切れ、四肢が頭の命令を受け付けなくなり地面と仲良く抱擁を交わし続ける事でしょう」
向上心の塊の御二人は掛かってこいという感じだが。
「聞いた私が馬鹿でした……。余計に心配になって来ちゃったじゃないですかぁ」
それを聞いたアレクシアさんがきゅっと目を見開き、ヘナヘナと机の上に萎れてしまった。
気持ちは分かりますよ。
ですが、そうでもしないと勝てない敵が居るんです。
敵、か。
マイ達は滅魔に惜敗を喫した。
再戦に備えての訓練だとは思うのだけど……。その再戦が近いから俺達を鍛えるのだろうか??
「ちょっと気になったんだけどさ」
「如何為されました?? レイド様」
「いや、ほら。アオイ達は滅魔達に惜敗を喫した……」
「私は負けていないけどね!!!!」
いや、話の腰を折らないでよ。
得意気に腕を組むマイを無視しつつ口を開く。
「今回の訓練は再戦に備えての訓練なのかな?? そうだとしたら、師匠達はいつ再戦が行われるかを知っている事になるよね??」
「備えあれば……。あればぁ、あるとぉ??」
「備えあれば患いなし、です」
「おぉ!! それそれ!! カエデちゃんありがとう!! 多分、イスハさん達は私達がいつ戦うか分からないからさぁ。鍛えるんじゃないの??」
ん――。その線もあるか。
ルーの考えを受け、更に思考を深める。
「それだと急過ぎるじゃないのか?? カエデの怪我も完治していな……」
「しています」
あ、うん。そうなんだ。
冷たい横目がこちらに襲い掛かり、思わず固唾を飲む。
もう少し優しく睨んで下さい。
「オホン。兎に角、全快に至るまで待つものだと考えていたんだけど。何かに急かされる様に向かうものだから、何か思惑があるのかなぁっと考えたんだよ」
「「「思惑ねぇ……」」」
師匠にそこまでの深い考えがあるものかと、訝し気な表情を浮かべて数名が声を漏らした。
「それと……。俺が訓練中に得た機密情報なんだけどさ」
俺の個人情報の代わりに得た人間達の反抗作戦を事細かく話した。
機密情報の漏洩は立派な犯罪だ。
しかし、彼女達には聞く権利があると思う。この大陸に住み人間達と変わらぬ感情を持ち、温かい命を宿している。
数多多く存在する人間、極僅かに生き永らえている魔物。
対となる存在だが輝く命を持つ者同士なのだ。
今は共に手を取る事は叶わないかも知れない。しかし、忌まわしき存在を消滅させ言葉の壁という障壁を取り除けば分かり合える筈。
人と魔物の共通する敵……。
俺達は糞忌々しい魔女の首を刎ね、心臓を取り出し、その存在を消滅させなければならないのだ。
「――――。正気の沙汰とは思えませんね」
俺の話を聞き終え、カエデがポツリと漏らす。
「正攻法の物量で攻める作戦なんだけど……。やっぱりカエデはその考えに至ったか」
「勿論です。相手は数万を超えるオーク。強化種や変異種、それに魔法を使用する個体も存在します。剣や弓ではとても対抗できるとは思えません。オーク一体に三名が向かうと仮定して、必要な人員は……。数十万を超えます。ましてや、戦いの素人を搔き集めるのですよね?? 短期間で兵に仕立て上げたとしても、実戦ではその実力を発揮する事無く命を散らすでしょう。戦いを甘く見過ぎてします。装備や食料を用意する資金は?? 湧いて出て来る訳ないんですよ?? 私の想定では…………」
カエデの御高説が五臓六腑に染み渡る。
彼女の口から放たれた数多くの言葉の中から、一つの単語を掬い取る。
『戦いを甘く見過ぎている』
この言葉は俺も的を射ていると思う。
圧倒的物量を用意すれば奴らにも勝てると踏んでいるのだろうけど。それだけでは何かが足りない気がする……。
「カエデ――。長々と話していて悪いんだけどさぁ」
マイが難しい顔をして声を出す。
「何でしょうか??」
「その戦いに合わせて、私達も向かうんじゃない??」
「向かう?? 魔女の居城へですか??」
「丁度良い機会じゃない。オーク共は人間達に視線が向き、居城はがら空き。鬼の居ぬ間にって奴よ」
「それですと、イスハさん達は人間達の反抗作戦を知っている事になりますよ??」
「別に知らなくてもいいでしょ、私達の周りには馬鹿げた力を持つ者達が居るんだし。恐らく、今の私達の実力じゃあその舞台に立つのには役不足。舞台に上がる為に鍛えるのよ」
成程。
そういう見方もあるのか。
時々アイツは鋭い指摘をするんだよね。
「マイちゃん??」
あの声色。
ルーも俺と同じ考えに至った様だな。
「本当にたまぁぁにだけどさぁ。真面な意見を言うよね??」
「偶には余計だ!!!!」
「後、カエデ。師匠にはこの件について俺の口から直接伝えておいたから。多分その事も含めて以前から色々と考えているのだと思う」
本日のお昼過ぎ、温泉に浸かりながら師匠と交わした言葉を思い出す。
「ふむ……。そうなりますと人間達の作戦を予め知って今回の特訓を考えた訳ではなさそうですね」
小さな口元に細い指を当てて考え込む仕草を取る。
「なぁ?? マイの考え通りだとしたら、アイツらは既に主戦場に居る……。いや、違うな。来ると予想しているんだよな??」
ユウが腕を組みつつ話す。
「その線が濃厚ですね。襲来するのか、将又腰を据えて私達を待ち構えているのか。何れにせよ私達の役目は滅魔達に勝つ事です」
「皆で戦うんでしょ!? それならお、お父さん達は戦わないの!?」
ルーが想定外だと言わんばかりに腰を僅かに浮かす。
「あくまでも私の予想ですが。先生達は周囲に展開する敵を蹴散らす為、又は居城の最奥に存在するとされる魔女を倒す為に行動を起こすかと。それに……。負けたままでは癪ですからね」
「望むところだ。その為に鍛えるのだからな」
「リューはいいよねぇ。やる気満々だから。私は怖いよ……」
「各々が役割を担う為に今回の訓練が行われるのです。これも予想ですけどね」
「よぅし!! そうとなりゃ気合が漲って来た!! あのクソ猫に復讐を果たしてやる!!」
「その意気よ!! ユウ!!」
「おぉう!!」
マイとユウが拳を合わせ、気持ちの良い音を響かせる。
意気揚々、元気溌剌な声が上がる一方。
アオイだけは物静かに俺達の声に傾聴していた。
「アオイ、どうかした??」
「――――。え??」
「何か元気無さそうだけど……」
いつもよりも僅かばかりに俯き加減だし。
「気の所為ですわよ」
きゅっと口角を上げてくれるが。心なしか、無理矢理にも見える。
訓練に億劫になっているのかな。
続けて問おうかと思ったが、それを防ぐ声が扉越しに届いた。
「失礼致します!! 注文の料理をお持ちしました!!」
『待っていました!!』
皆が言葉を発せずともマイが表情で言葉を表した。
胃袋を多大に刺激する色とりどりの料理、唾液の分泌を強制的に促す肉の焼ける香り。
これで心が躍らない者が居ればそいつの心は虚無なのだろう。
数名の店員さん達が注文通りの品を机に上に並べて行き。
「「失礼しました!!」」
明るい笑みを残して退出して行った。
「私の料理はこれとこれ!!」
「あたしのはこれだな」
それぞれが注文した料理を手元に置き、食事の準備を始める。
よしっ、食事を始める前に一言伝えようかな。
「コホンっ。皆、ちょっといいかな??」
咳払いを放ち、すっと立ち上がる。
「あ?? 早く食べたいんだけど??」
ギロリと深紅の瞳が俺を睨む。
「睨むなって、直ぐ終わるから。――。俺達に課せられた責務は重い物になるのかも知れない。それに備えての訓練だ。心が折れてしまい、立ち上がれなくなる程の痛みが襲う恐れもある。だけど、互いに互いが支え合い長く辛い道を踏破すれば滅魔にも魔女にも対抗出来る力を持てるだろう。俺達に出来ない事は無い。俺達は必ず勝つ、俺達は強いんだ。天下無双、負け知らずの強者になってやろう!! 今日の会食は英気を養うんじゃない。強くなる為に食らうんだ。食って、食って、食いまくって訓練に向かうぞ!! では……。頂きます!!!!」
「「「頂きます!!!!」」」
決意にも似た威勢の良い声と共に、強さを食らう時間が始まった。
ふぅ。
何か偉そうな事言っちゃったけど、皆静かに聞いてくれて助かったよ。
静かに着席して大きく息を漏らした。
「レイド様……。今の御言葉、胸に響く物がありましたわ」
「ありがとう。冷めちゃうと勿体無いから食事を始めようか」
何やらうっとりとした表情を浮かべるアオイへと言葉を送り、並べられている料理の中から一つの品を手元へと置いた。
『鶏肉と野菜の揚げ物』
自分が注文した料理なのだが……。
まさかこれ程の物とは。
大人の手の平より一回り大きな鉄の鍋の中に油がフツフツと気持ち良さそうに湧いている。油に漂う香草の緑が視覚を喜ばせ、大蒜の香りが食欲をグっと掴む。
そして緑の油の中には鶏肉と旬の野菜達が気持ち良さそうに泳いでいた。
鼻腔を擽る大蒜の香りは……。こいつの力だな。
箸で丸まる太った大蒜を油の中から摘まみ上げ、まじまじと見つめる。
ほほぅ……。
こんがりと表面が揚がっていますねぇ。
物は試しと考え早速口の中へと放り込んでやった。
「あっつ!!」
焼いた石を口の中に捻じ込まれた様だ。
燃え盛る大蒜の熱と舌が喧嘩を始めてしまったので、慌てて水で仲裁した。
あっぶねぇ、大火傷する所だったぞ。
だが、味は大変素晴らしい!!
塩味と大蒜の組み合わせは最早鉄板だね。
ホクホクとした大蒜の実、鼻から抜ける食欲を促す香り、そして香草で香り付けられた油。
三者が手を取り合い、より素晴らしい物へと昇華していた。
頼んで良かった。大当たりじゃないか!!
「珍しい料理ですわね」
アオイは取り皿に大蒜を取り出して行儀良く冷めるのを待っていた。
その手もあったか。
「凄く美味しいけどさ。熱過ぎて舌を火傷しちゃったよ」
「まぁ、ふふ。あわてんぼうさんですわね」
「美味い匂いに誘われたのさ」
俺でもそうなるんだ。
嗅覚が鋭い者達はどうなんだろう?? そう考え視線を上げると。
「うっっっっまぁぁぁい!!!! 肉最高っ!!」
マイは相変わらずか。
頬っぺたに両手を当て、嬉しそうに顔を横に振り。
「最高の味だな」
「ね!! お父さん達にも食べさせてあげたいよ!!」
狼二頭は肉の味に舌鼓を打ちながら目尻を下げ。
「あっちぃ!! 舌が燃える!!」
食いしん坊のミノタウロスは俺と同じ過ちを繰り返し、目を白黒させていた。
「情けないわねぇ。舌を鍛えていないからそうなんのよ」
龍の舌は熱に強いのだろうか??
「舌なんか鍛えられるか」
「見本を見せてやるわよ。最強の舌を持つ私が大蒜なんかに負ける訳ないんだから。その大蒜貰うわよ」
「ど――ぞ」
得意気に胸を張るマイの下へ木製の下皿ごと熱々の鉄鍋を移す。
そして、油に浮かぶ大蒜さんを箸でひょいと摘み。臆することなく大きく開けた口へと投げ入れた。
「頂きますっ。――――。んにゃっちぃいい!! はっふ!! ふぁああ!!」
「「五月蠅い」」
隣のユウとルーが難しい顔を浮かべ、自称最強の舌を持つ者へと抗議の声を上げた。
お嬢さん達。
食事中なのですよ?? もうちょっと慎ましい所作をしなさい。
「カエデさん!! このお肉美味しいですよ!!」
「良かったですね。…………、所で。ハーピーは鶏肉を食べても宜しいのですか??」
「私達は鳥じゃないんです。ですから、禁忌にもされていませんし食べても構わないんですよ」
彼女達も御満悦な顔を浮かべ、箸又は匙を進めている。
カエデのスープ、美味そうだな……。
卑しいとは思われるが、横目で美しい黄色の液体をじっと見つめた。
「どうしました??」
小さな御口から木製の匙を外し、きょとんとした顔でこちらを見つめる。
「あ、いや。そのスープ美味しそうだなぁって」
南瓜の黄色がどんっと腰を据え、早く飲んでくれとこちらに誘う手を伸ばす。
良い香りなんだよね。
油と大蒜とは違う、優しい香りだ。
「飲みますか??」
匙で液体を掬い、こちらに差し出す。
差し出された仕方が無いよね!!
「いいの!? じゃあ……。うん!! 美味しい!!」
大地の力を吸い取り、大きく成長した南瓜の甘味。滑らか且まろやかな舌触りが心を潤す。
この味を出すのには相当な修行が必要だろう。材料を用意して、作ってみろと言われても作れる自信は無い。
いやぁ……。絶品だな。
「レイド様っ!! こちらも食べて下さい!!」
「いてっ!!」
百八十度首を捩じられ、強制的にアオイの方へ向けられると美しい乳白色の麺と胡椒の黒の配色が目に嬉しいパスタを此方に差し出してくれた。
「はいっ、レイド様。あ――んっ」
「自分で食べられるよ??」
「そう……、ですわよね。アオイの差し出す料理は不味く見えるのですよね……。仕方が無いですわ。アオイは寂しく、一人で、机の端で慎ましく料理を済まします……」
あぁ、もう――。
「分かったよ。ほら、あ――ん」
アオイって拗ねたら結構長く拗ねちゃうんだよねぇ。
「は、はいっ!! あ――んっ!!」
「――。んっ!! 美味しい!!」
よく見ると胡椒の他にも唐辛子の赤が混ざっていた。
ぴりっとした刺激と塩分そして麺の丁度良い塩梅の茹で加減が口内を喜ばせる。
「ふふっ。良かった」
満足気な笑みを浮かべ、箸を己が口へと運ぶ。
行儀が悪いですよ?? お嬢さん。
咀嚼を続け、仲間達と他愛の無い雑談と談笑を繰り広げていると扉から再び乾いた音が響いた。
おっ!! 例の物が出来たかな??
「し、失礼します!! よ、いっしょっとぉ!!」
男性店員さんが常軌を逸した大きさのピコピスタを刹那に傾け、表面の具材を零さない様に部屋の中へと入って来た。
今の技、さり気なく行いましたけど。かなり高度な技ですよね??
俺は彼の所作に魅入っていたが、自分以外の者は彼が運んで来た物体に目を奪われていた。
「お待たせしましたぁ!! 当店の裏料理!! 利益度外視!! 超驚愕化け物料理のピコピスタで御座います!!」
彼が机の中央に巨大な円盤を乗せた受け皿を置いた際。
微少ながら皿がぽんと上に跳ねた。
一体どれだけの重量なんだよ。
「それでは引き続き食事を御楽しみ下さい!!」
食べられる物なら食べてみろ。
そんな風にも受け取れる陽性な笑みを残して男性店員さんが去って行った。
「……。いやいや、レイド。こんな物誰が頼んだんだよ」
ユウが俺の顔を見て呆れた口調で話す。
「俺だよ。ほら、皆満腹にはなっていないし?? 明日に向けて華があるんじゃないかなぁっと思って頼んだんだ」
「よ……」
よ??
肩をプルプルと震わせてマイが口を開く。
「よ、よ、よくぞ頼んでくれた!!!! これはまさしく、私に向けて開発された料理だと言っても過言じゃないわ!!!!」
「大袈裟な奴だなぁ」
ユウが溜息を漏らしつつ話す。
「ぜ、全部食べていい!?!?」
「マイちゃん?? 私達も食べるんだよ??」
「ちぃっ。あんたら情けない胃袋の連中は端っこでも齧っていなさいよ。チーズとたぁっくさんの具材は私が全部食べるんだからね!!」
君の為に頼んだ訳じゃあないんだよ??
「独り占めは駄目なんだよ――。でも……。スンスンっ。いい匂いだよね!!」
ルーが可愛い鼻を引くつかせ、酸味の効いたチーズの香りにだらしない顔を浮かべる。
「肉に野菜にチーズ。かなり栄養価も高いだろうな」
そう話すリューヴは普段の難しい表情を保つことに精一杯の御様子。
口元がクニャクニャと波打っていますよ――。
「自分の前の奴から食べ始めようか。切り分けるのは……。あぁ、これか」
ピコピスタの下に敷かれている特注の大皿の脇。そこには可愛い大きさのナイフが切り取り用に置かれていた。
「各自が食べ易い様に切り分けていくよ」
可愛いナイフを手に取り、席を立った。
端から中央に掛けて切れ目を入れってっと。
大きさが均等になる様に切り分けているのだが、これが意外と重労働なんだよね。
末端から中央まで距離があるし。それに……。
「あぁ!! リューの前の方が大きい!!」
「ふっ、主は分かっているな。嬉しいぞ」
これ位誤差でしょうに。
大きさの差異でこうした文句が出てしまうので繊細な入射角度と均等な表面積。そして具材の多さをなるべく同量にしないといけないからねぇ……。
「ユウはこれ位でいいよね??」
大雑把な角度で切れ目を入れてから話す。
「おうっ。ありがとうね」
どういたしまして。
外周の二点から中央へ向かって切れ目を入れ終えると、さぁいよいよ大御所の登場だ。
「……」
俺が一点に切れ目を入れるのを、鷹の目にも似た鋭い視線で注視し。
「お前さんは……。これ位か??」
ユウと同じ位の大きさの位置に切れ目を入れようとするが。
「……」
ブンブンと首を横に振る。
「ここか??」
かなり横にずれた位置にナイフの切っ先を置くけども。彼女の首は決して縦に動く事は無く、只管に横へと振っていた。
「あのなぁ。足りないのなら後で食えばいいだろ。取り敢えず、この辺りに入れて置くぞ」
「あぁ!! もっと大きく切り分けてよ!!」
ユウの三倍程度の大きさの位置へ切れ目を入れ、中央まで美しい直線を描いてやった。
「はぁ。疲れた……」
化け物ピザを相手にぐるりと一周。
漸く己の席に辿り着いて息を漏らした。
「お疲れ様です、レイド様」
「どうも。アオイも食べてよ?? 見た目は大雑把だけど、味は良さそうだから」
見た目に狼狽えてしまうかも知れないけど、匂いは満点だし。
きっと味も良い事だろうさ。
大皿に乗る化け物の欠片を己の皿に乗せ……。乗り切っていないけど。
皿から半分以上はみ出た化け物の子分を口に運んだ。
「――――。んっ!! 美味い!!」
チーズ特有の酸味がきゅっと舌を喜ばせ、パン生地の僅かな甘さが心を楽しませてくれる。
肉の塩味、玉葱の辛み。幾重にも重なった味の層が口の中で渦巻き、興奮の坩堝となって襲い掛かって来た。
参ったな。
大きさも然ることながら、味も良いなんて。
胃袋がもっと寄越せと空間を捻出し、俺はその命令に従って次なる欠片を手に取った。
「んふぉう……。ふぉら――。伸びる――」
化け物の子分に齧り付き、口と子分の間に幸せの架け橋を掛けながらマイが話す。
「その伸びた奴も美味いんだよな」
隣の席で呆れた顔を浮かべるユウが幸せの架け橋を寸断してクルクルと器用に指で巻き取り、口に含む。
「んぅぅぅぅ!! ふぉるな!!」
「いって。ちょっとだけだろ」
何も肩口を殴る事も無かろうに。
アイツの飯を横取りする事は痛みと引き換え、若しくは命と引き換えに飯を得る事と同義だからなぁ。
反対側で助かったよ。
「リュー!! 私のお肉取っちゃ駄目!!」
「これは私の陣地にあった物だ。文句は言わせん」
「んふっ。カエデさん?? チーズが伸びてお口に付いていますよ??」
「演出ですよ。こちらの方が美味しそうに見えますので」
「へぇ。そうなんですか」
それは恥ずかしさを誤魔化した嘘ですよっと。
アレクシアさんの何でも真に受ける真面目さにふっと笑みを漏らし、馬鹿げた大きさのピコピスタが想像以上の勢いで減少していく事に目を見張る。
きっとこの陽性な雰囲気が彼女達の食欲を増進させているのだろう。
自分なりの考察を纏め終えると疲労を抱えた顎に喝を入れ、彼女達の食欲に倣い咀嚼を続けていた。
お疲れ様でした。
皆様の本日の夕食は何でしたか?? 私の場合は本日の夕食は鍋焼きうどんとサラダでした。
土鍋で湯を沸かして、沸騰したらインスタントの出汁を投入。醤油と塩で味を整えたら冷蔵庫の余り物を投入!!
冷凍讃岐うどんを入れる前に……。先日スーパーで購入した冷凍イカ天を入れます!!
冷凍エビ天でも宜しかったのですが今日はイカの気分でしたので。
お餅がくたぁっと柔らかくなったら冷凍うどん、そして葱を投入して暫く経てばはい御馳走の完成です!!
醤油の塩気をたぁっぷり吸い込んだイカ天、くったくたになるまで柔らかくなった白菜。そしてうどんのコシ。
質素ながら中々に贅沢な夕食でした。寒い季節にはもってこいの料理ですので皆様も是非お試し下さい。
それでは皆様、お休みなさいませ。