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第二百六十話 英気の養い方は人それぞれ その一

お疲れ様です。


本日の前半部分の投稿になります。




 太陽がそろそろ床に就こうかなと考え始める夕暮れ時。


 まだまだ俺は元気だぞ燦々と光り輝くお昼時。


 そのどちらとも言えない中途半端な位置で太陽は俺達を照らしていた。


 つまり、大変大きな胃袋をお持ちの方は小腹が空く時刻に現在は位置する。



『わぁぁ……。もぅここからでもお腹が空いちゃうよぉ……』



 見ていて溜息が漏れてしまう程に目尻が下がり、未だ見ぬ食物を想像してか。もう既に口からは滝の様な涎が押し出ようとして小さな唇を攻撃し続けている。


 それを必死に手の甲で押し返し、食欲の権化といっても過言では無い一人の女性が俺達の先頭を歩き人で溢れ返る王都の道を先導していた。



 よくもまぁこの位置から匂いを掴み取れるな。



 現在地点は王都のやや中央寄りの西大通りの道端。普通の嗅覚を持つ者ならどう考えても中央屋台群から漂って来る匂いを掴み取れる筈はない。


 物は試しに鼻をスンスンと嗅いでみたけど、俺の嗅覚は龍のそれよりも拙いようで?? 人々が巻き上げる土埃と左隣の店先から漂って来る金物の香りしか捉える事は出来なかった。


 俺が普通、なんだよね??


 ちょっと行儀が悪いと思うけど、卑しい子豚さんの様にクンクンと鼻を嗅ぎ続けていると右隣りから冷たい念話が届いた。



『また匂いを嗅いでいるのですか??』


『ち、違います!! これは、その……。埃が鼻に入ったので痒かったのです!!』


 横目でこちらをジロリと睨むカエデへ速攻で言い訳を放つ。


『また』


 この二文字が痛烈に心へと突き刺さったのは恐らく、俺がまだ後ろめたい感情を抱いているからであろうさ。


『そう、ですか。それなら構いません』


『もう聞き飽きたと思うけど。申し訳ない、俺の軽率な行動で迷惑を掛けてしまって……』



『別に構いませんよ?? 泥酔状態では意識能力を欠いてしまっています。つまり、滞りなく法律行為を遂行できる状態ではないのです。友人であるという認識を欠き、自由奔放に愚行を続け、剰え私の……』



 あぁ、また始まってしまった。


 中央屋台群へと向かいつつカエデのありがたぁい説教が疲弊感を増長させ、俺の足取りと鼓膜を重たくさせる。


 俺が悪いのは疑いようの無い事実。しかし、その……。


 もう解放されても良い頃合いなのではないでしょうか??



 体に痛みを残る程の攻撃を受け、起床してから今の今までずぅぅぅぅっと説教を浴びせ続けられたら我慢強い俺でも根を上げてしまうのです。



『カエデさん、レイドさんは海よりも深く反省していますし。もう許してあげたら如何です??』



 少し前を歩くアレクシアさんが歩む速度を遅らせ、俺とカエデの間にすっぽりと嵌った。


 そうですよ!! よく言ってくれました!!


 コクコクと激しく首を上下に動かすが。



『駄目です。愚かな行いを二度と繰り返さない様、反省の言葉を骨の髄まで染み込ませなければなりませんので』



 ですよねぇ……。


 がっくりと肩を落とし、半ば流れ作業のままで足を動かし続けた。



『相変わらず厳しいですねぇ』


『アレクシアさんも既に理解していると思うけど、私達の中で誰かが緩んだ空気を引き締める役目を担わなければならないのです』


『楽しい空気は嫌いじゃないので、別に放置しても良いのでは??』



 その意見には賛成しかねますね。


 暴れ続ける龍を放置してしまっては取り返しのつかない事へと発展しますので。特に、財政面だな。


 アイツが好き勝手に食い散らかしたら俺の財布の中身はあっと言う間に空っぽになっちまうのさ。



『いいですか?? 風紀の乱れは心の乱れに繋がります。前を見て下さい』


『前??』



 アレクシアさんに倣い、俺も道に敷き詰められた石畳から前方へと視界を送る。



『おぉ!! 屋台達が見えて来たよ!!』


『混雑は苦手だ。誰かが私の足を踏みつけたら成敗しても構わぬか??』


『リュー、いい加減慣れようよ。そんなんだから可愛い下着が似合わないんだよ??』


『それとこれは全く関係ないだろう!!!! 馬鹿か!? 貴様は!!』


『うっわ!! そういう事言う!?』



『う、うふぇふぇ――……。待っていなさいよぉ。かわい子ちゃん達ぃ。私が脳髄までぇ、食べ尽くしてあげるからねぇ』


『ユウ、あの顔何んとかなりませんの?? 気持ち悪くて吐き気がしてきましたわ』


『慣れだって、慣れ』



 可憐な華達が騒ぐ姿は通行人達の視線を否が応でも集めるみたいで??



「「「……」」」



 通り過ぎていく者達は刹那に彼女達に視線を奪われるが……。



『ジュルリ……。うぬぅ……。涎が止まらぬぞぉ。こりゃあ大漁の予感がするわぁ』



 一人の女性の珍妙な表情を見ると、ぽうっと見惚れていた意識が現実へと戻り。


 通常の歩む速度で後方へと流れて行く。


 気付け薬みたいなもんだな。アイツの馬鹿面は。



『皆さん楽しそうじゃないですか!!』


『そういう事を言っているんじゃありません。いいですか?? ここは人が住む街なのです。我々魔物は彼等にとって異形の存在。それが悠々と街中を跋扈しているのです。細心の注意を払い、最低限の行動に務め、決して目立つ行動は……』



 ガミガミと普段と変わらぬ説教を続けているカエデがふと歩みを止めた。


 いきなりどうしたの??



『どうしたんです??』


 俺とアレクシアさんもカエデの停止に倣い、足を止めて彼女の視線の先を追った。


「…………」



 あぁ、はいはい。そういう事か。


 キラキラと煌びやかに光る彼女の視線の先には。



『冬の怪談てんこもり!! 寒い季節に敢えて肝を冷やしてみませんか!? 多数の作者が筆を振るった一大傑作。本日発売です!!』



 本屋の店先に置かれた小さな木の看板に仰々しい文字でそう書かれていた。


 この店は以前、カエデに贈った本を購入した店だ。


 銀時計近くの本屋の前で足を止めた理由はこれですね??



『この本が気になるんですか?? うわぁ、怖そう』


 看板の前で前屈みの状態となったアレクシアさんが話す。


『カエデはそういった類の本が好きなんだよ。そうだよね??』



 俺が念話でそう話すと。



「……」



 コクコクと小さく頷いた。



『あはは!! いいんですかぁ?? 私情で皆さんの足を止めても?? 風紀が乱れちゃいますよ――!!』


 あ、その発言は止めた方が……。


 軽快に笑うアレクシアさんがカエデに対してちょいと不味い台詞を述べると。


「…………ッ」


 本日発売の怪談本よりも肝が冷えてしまう冷酷な瞳が彼女を襲った。


『私はいいんです。普段の苦労を労う意味合いもありますので』



 あの目は多分、こういう事だろうね。



『だ、駄目ですよ!? 睨んでも!!』


 カエデの視線から逃れる様に俺の背に隠れつつ話す。


『本買う位なら別に構わないでしょ。お――い!! カエデが本屋に寄りたいから待ってくれ!!』



 先行する五名へと念話で語り掛けた。



『本ぅ?? 腹の足しにならないから私は先行するわ!!』


 まっ、お前さんはそうするだろうさ。


『レイド――!! 私達は先に行くよ――!!』



 いやいや。陽気な狼さん?? こっちの話、聞いてた??



『レイド様!! 私はそちらに同行しますわぁ!!』


『アオイが抜けたら誰がそっちの面倒を見るんだ??』


『ユウとリューヴが面倒を見るそうですわ!!』



『一言も言ってないけど??』

『そうだ。勝手に決めつけるな』



 ユウとリューヴが満面の笑みでこちらへ到着したアオイの背を睨む。



『でも、向こうとこっちで丁度四人ずつだし。別にいいんじゃない??』


 ユウは快く承諾してくれたが。


『混雑は苦手だ!! 私はあちらへ行く!!』



 リューヴが彼女の申し出を跳ね除け、こちらへと歩もうとする。



『おっとぉ。へへ、偶には付き合えよ』



 ユウががっしりとリューヴと肩を組みくるりと体を反転。そしてこちらとは反対の方向へと引きずられて行ってしまった。


『ユウ!! は、放せぇ!!』



 ご愁傷様です。


 ユウに掴まったら逃れられないからなぁ。



『おい、お前さん。お金持っているのか??』


 もう大分小さくなった深紅の髪を揺らす背中へと問う。


『無い!!』


 即答するのもどうかと思うね。


『お金渡すから戻っ……』

『おら!! さっさと出せ!!!!」』



 にっこり満面の笑みから出て来る言葉とは到底思えませんよ。


 数舜の内にこちらへと戻り、白昼堂々とお金の催促をする。


 善良な市民を脅すどこぞの不良ですか?? あなたは。


 財布から四人が満足して物を買い揃えられる額の金額を取り出し、新しい玩具を買って貰えると期待に胸を膨らます子供の目の輝きを帯びているマイへ渡してやった。



『はい、どうぞ』


『こ、こんなに貰っていいの!?』


『自分の為に全部使うなよ?? ユウ達の分も含まれているんだから』


『勿論よ!! おっしゃあ!! 行ってきま――す!!!!』



 あの溌剌とした元気は見て多大なる不安を胸に抱くのは俺だけかしらね。


 太陽の光を受けて煌びやかに輝く赤き髪を流しながらユウ達の下へ戻って行った。



『じゃあ俺達は……。あれ?? カエデは??』


 小さくなって行く地上の太陽を見送り、こちらに視線を戻すと美しい藍色の姿だけが見当たらなかった。


『もう入って行きましたよ??』



 アレクシアさんがすっと本屋の扉を指す。


 我慢出来なかったんだねぇ。


 それ程に興味が引かれたのだろう。巨匠が打った包丁が売られていたら俺も有無を言わさずに足を止め、甘い蜜に誘われる蝶の如く。まるで誰かに操られたかの様にふらふらと扉を開いて入って行きますもの。



『じゃあ俺達も入ろうか』


『はいっ、レイド様っ』



 妙に機嫌が良いアオイの声を皮切りに古紙の匂いで溢れる店内へと足を運んだ。



「いらっしゃいませ」



 壮年の男性の小さな声がこの雰囲気に酷く似合う。


 幾百もの作品が優しい木の温もりに包まれた店内に居る客達の手を誘い。強力な誘いの手を断れない彼等は大人しく誘惑に従って本を手に取り美味しそうに文字を咀嚼していた。


 本屋独特の雰囲気ってどこか落ち着くよなぁ……。


 暴力と痛みが日常の俺にとって束の間の静寂と憩いの場が心に凝り固まっている蟠りをすっと溶かしてくれた。



『カエデさんはどこですかね??』


 アレクシアさんが念話を放ち静けさが漂う周囲をキョロキョロと窺う。


『多分奥だよ。このお店、どういう訳か新作を奥の棚に置くからね』


『そうなんですか。あ!! 私も見たい本があるので見て回ってもいいですか??』



 きゅっと口角を上げて話す。



『構いませんよ』


『じゃあ失礼しますねっ』


 陽性な感情を背中に滲ませて右側の棚へと向かって行った。


『色々ありますわねぇ……』



 何気無く一冊の本を手に取ったアオイが話す。



『本屋さんだからね』


 ありふれた言葉だとは思う。


 でも、それ以外に言葉を選べと言われたらかなりの時間を要するからこれが最適な答えだろう。


『アオイはどんな本が好きなの??』



 彼女の隣に立ち、読んでいる本を何気なく覗き見た。


 えぇっと、何々?? 内容はどんな感じでしょうかね……。








 ――――。



 逞しい体に女の指が甘く絡まると彼の口から恍惚の吐息が漏れる。


 その吐息を捉えた女は特に表情を変える事も無く、徐々に彼女の色に染まり行く男の顔を捉え続けていた。


 彼は女でさえも色を覚えてしまう彼女の妖艶な瞳を真っ直ぐに捉え、震える唇を必死に御して言った。



『君の体が欲しい』



 猛る感情を抑えきれぬ男が懇願にも似た声を上げ、男の手が女の乳房を甘く食む。



『あなたは私の性欲を満たす為の道具なの。道具が使用者に対して意見を述べるなんて烏滸がましいのよ』



 女が男性の手を跳ね除け、猛禽類の様な瞳を浮かべて硬い男の体の上に跨る。


 そして、己が欲求に駆られる様に心の底から湧く激情に身を任せて男の服を剥ぎ取った。



『そうよ……。私が求めていたのはこの体なの。さぁ、道具らしく私を満足させなさい』


 男の象徴足る御柱を己が肉体の最深部へ迎い入れた女は、淫靡な腰使いで只々己が満足する為の野性的な動きを見せた。


 肉と肉の間からは水気を含んだ淫靡な音が響き、男と女の交わりを妖艶に装飾する。


『あっ……』


 女が小さく喘ぎ声を漏らすとそれを捉えた男は彼女の指示に従い御柱を激しく突き上げた。


 それは彼女が話した通り、己は彼女の性欲を満たす為の道具に過ぎないと認識した瞬間であった。










 こらこら、お嬢さん?? 真昼間から読む本では御座いませんよ??


『こういう交わりはお嫌いですか??』


 小説の登場人物の如く。


 妖艶な笑みを浮かべたアオイがこちらを見つめた。


『人は道具じゃないからなぁ。道具の気持ちは伺い知れませんのであしからず』



 官能小説の感想を求められて、正直に話す程俺は肝が据わっていませんのでね。



『んもぅ。面白いですわよ?? 己に挿げ替えて想像しながら読むのです』


『そっか。想像力豊かで羨ましいよ』



 僅かばかりに体温が上昇したのを感じつつ、アオイをその場に残して奥へと移動を開始した。


 さて、と。


 意外と横着な海竜さんは何処かなぁっと。


 俺達を置いて勝手に行動する。


 真面目な彼女は本来そのような愚行を行わないのだが。カエデの四角四面な欲情を駆り立て、多大に興味を誘った本はどこにあるのでしょうかね。


 本と本の間を出来るだけ足音を立てずに移動していると……。



 あぁ、居た居た。


 既に一冊の本を手に取り、他にも何か私の読書欲を誘う物は無いか。


 新しい生き物を見付けて煌びやかに光る子供の瞳を浮かべ、本を手に取っては戻していた。



『お目当ての本はあった??』


 カエデの一歩後ろ。


 適度な距離を確保した位置に身を置いて尋ねた。


『ありましたよ』



 これです。


 そんな感じで店先の看板のお薦めにあった本をこちらに見せてくれる。



『怪談、好きだよね。夏ならぴったりだと思うよ?? 背筋がゾクゾクして涼を感じられるし。でも、この季節はなぁ……』


『南の島へと向かうと言っていました。冬の季節でも暑いかも知れませんし、意外と理に叶った本かもしれません』


 彼女の背丈より上に位置する本を手に取ろうと背伸びをしつつ話す。


『怖い話が苦手な人が多いし。あんまり怖がらせたら駄目だよ?? ――――。はい、どうぞ』



 カエデの指先を追い、上方に位置する一冊の本を手に取って渡した。



『ど、どうも。眠る前の子守歌と捉えればいいんですよ』



 母親に毎日おどろおどろしい話を寝る前に聞かされ続けたら、性格が捻じ曲がった子供に育ってしまうだろう。


 いや、寧ろ怪談に耐性がついて芯がしっかりした子供に育つかも??


 子を持った事が無いので何とも言えませんけどね。



『余計眠れなくなるだろ』


『悪夢となって現れるかも知れませんよね』



 受け取った本から顔を外して柔和な笑みで此方を見つめる。



 ふふっと笑みを零す場面かしら?? ここはそうだなぁ……。


 おどろおどろしく口元を歪めて怖がらせる顔が良く似合っているかも知れないな。



『買いたい本、決まった??』


『そう、ですね。当初の目的通りこの本を購入します』



 黒の表紙がもう既に怖い雰囲気を与える本をすっと掲げた。



『了解。じゃあこれは戻すね』


 二冊目の本を元の位置へと戻し、そして。


『カエデ、その本貸して』


 彼女へとすっと手を差し出す。


『どうぞ』


『どうも。じゃあ、これを贈らせて貰うよ』



 会計へと進みつつ念話を続けた。


 昨晩働いた横着、そしてこれからも彼女へ苦労を掛けるだろう。


 形に残る物として少しでも謝意を示せれば。そう考えての行為なのです。



『え?? 悪いよ。お金持っているから大丈夫』


『ほら、昨日迷惑掛けたし。そのお礼だよ』


『それなら……』


 嬉しいけど、申し訳無い。そんな躊躇する声が届いた。


『アレクシアさん、アオイ。欲しい本があったら持って来て。会計を済ませるからさ』


『分かりました!!』


『今、お持ち致しますわ』



 喜々とした念話が届き、その数十秒後には快活な笑みを浮かべる両名が現れお目当ての本を届けてくれた。



『二人にも贈らせて頂きます』


『やった!! ありがとうございます!!』



 アレクシアさんは花の図鑑か。


 人が観察した花の形状が気になるのかな??



『レイド様。どうぞ……』



 アオイから受け取ったのは表題が隠された一冊。


 まぁ恐らくそういう中身なのだろうけど。うら若き乙女が読んでもいいものだろうかと倫理観を問いたくなる。


 まっ。人の趣味ですからね。あれこれというのは失礼というものです。


 滞りなく三冊の本を受け取り、会計場所で静かに佇む店員さんへと差し出した。



「お買い上げありがとうございます。お値段は……。二千五百ゴールドです」



 はいはいっと。


 安くとも受け取れるし、微妙に高いなと受け取ってしまう自分も居た。


 本の値段ってこんなもんだよね??



「ありがとうございました」


 御釣りの無い様に現金を渡し、三冊を受け取った。


『レイド様っ。この本、一生大切に致しますわ!!』



 お店から出て紙の香りから解き放たれたアオイが空に浮かぶ太陽と変わりない明るい笑みを浮かべ、俺の腕に己が体を絡める。


 柔らかい。第一印象はこれに限る。


 何故か分からぬが今朝から妙に機嫌が良いんだよね。その所為か距離感を多大に間違っているのですよ。


 粘着質な糸に包まれ熟睡していたから分からなかったけど、今朝の朝食は満足を超える物だったのかな??



『アオイ』


『何ですか?? レイド様っ』


『今日の朝ご飯って美味しかった??』



 ぱっと思いついた考えを問うてみる。


 勿論。柔らかいお肉の谷間から腕を抜いた後で、ですけどね。



『んもう。離れなくても宜しいですのに。今朝の朝食ですか?? 白米と季節の野菜。それと生卵でしたわ』


 ふぅん。鉄板且、朝に是非とも口にしたい料理だね。


『朝食は程々に済ませましたわよ?? 味も普遍的な物でした』



 あっれ??


 機嫌が良い理由は御飯じゃなかったか。



『いや、何かさ。今日機嫌が良いよね??』


 水晶の如く透き通った肌が黒の着物に栄え、背へと流れる白き髪もそれに拍車を掛けている。


 彼女が微笑めば鳥が羽を休めて空から落ち、彼女の顔を捉える為に態々苦しい思いをして魚が水面から顔を覗かせる。


 珍魚落雁とはまさしくアオイに誂えたような言葉だ。


 そんな美しさの塊の彼女が俺の愚行に対し、種火程度の怒りさえ残っていない事に疑問が残るのです。



『ふふっ。そうですか?? アオイはいつも笑みを浮かべていますよ』


 いや、それは無いでしょう。


 どこぞの龍といつも喧嘩しているではありませんか。


『そっか……。兎に角機嫌が良くて何より』


 気分を損ねたままで訓練に赴くのもどうかと思うからね。


『ありがとうございます。レイド様っ』


『う、うん……』



 俺から半歩空いた距離に身を置き、丸みを帯びた瞳でこちらを見上げた。


 刹那にでも心臓が五月蠅くなったのは内緒です。


 さ、さて!! 本も買ったし。アイツらと合流を果たそうとしましょうかね!!


 すんなりと、何の問題も無く合流する事は果たして叶うのだろうか??


 前方に見えて来た人の濁流が俺にそう問いかけて来る。


 いい加減慣れろよと自分に言い聞かせてはいるが、どうもあの人の波へと突入するのは億劫になってしまうのだ。


 だが、ここで立ち止まっていても問題は解決しない。


 大きく息を吸い込みそして蟠りを全て吐き出した後。丹田に力を籠めて突入を開始した。




お疲れ様でした。


後半部分は現在編集作業中ですので次の投稿まで今暫くお待ち下さいませ。

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