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第二百五十九話 羞恥に塗れた事後報告 その一

お疲れ様です。


本日の前半部分の投稿になります。




 苦みのある焦げて燻ぶった匂いと、酒の残り香が混ざり合った何とも言えない匂いがふと鼻腔を刺激する。


 日常で似た香りを嗅ぐ場所と言えば飯屋か台所。その二点なのだが……。


 体中に感じる圧迫感がそこでは無いと確知させる。


 この多大なる違和感を確かめる為、厳重に閉ざされている瞼を必死の思いで開いた。



 ――。


 あれ?? 俺、目を開いているよね??


 瞼を開いてもそこにあるのは漆黒の闇。口を開こうとしても何かが纏わり付き開ける事は叶わなかった。


 一体全体、俺の体はどうなってんだ??



「――――。よぉ、起きたわね」


「ふぁい!?」



 マイと言おうとしたのだが、これは……。


 恐らく猿轡か。妙にねばつく粘度の高い糸状の物によって正常な声を出すことは叶わなかった。



「ふぁんだ!? ふぁにが、ふぉうふぁっているふぉ!?」



 た、頼む!! 状況説明をしてくれ!!


 先程まで大尉の家に居た筈なのにそこに居る筈も無いマイの声もするし。体も動かせないし、それに……。


 何か浮いている様な感覚がするんですけど!?



「聞きたいか??」


「ふぇふぃ!!」



 どうしてあなたは上から目線で問うてくるのかと首を傾げる次第だが、今はそれ何処じゃない。


 何が、どうなって、現在に至るのかを理解したいのだ。



「おっしゃ。やさしぃ覇王の娘があんたの愚行を隅から隅まで説明してやんよ」



 そりゃどうも。


 一つ大きく頷くとそこから信じられない話が耳に届いた。



 自称優しい彼女から聞けば。


 酔っ払った俺は彼女達に対してあんな事やこんな事。そして本当に俺がそんな事をしでかしたのかと問い正したくなる行為に及んだそうな。



「ふぉれ、ふぉんとう??」


「おう。証拠も残っているし……。おい、糞烏」


「貴様……。アオイ様の許可が下りれば直ぐにでもその薄い胸を貫いてやるのに……」



 この声は東雲か。



「ふぃののめ?? ふぉうしたの??」


「レイド様!! 実はですね。私の能力が成長しまして、短い間で御座いますが私が見た数分間の光景を記憶して他者に見せる事が出来るのですよ」


 ほう、それは便利な能力だ。


「これを……。よいしょ、失礼しますね」



 どうぞ。


 項辺りに鳥の足のひやりとした感覚を捉えた。



「レイド様にも御覧になられるよう、カエデ殿から拝命致している次第であります」


「ふぁえで?? ふぉこにいるふぉ??」


「皆様は只今湯浴みに興じております。そちらも御覧になられます??」


「ふぇっこうふぇす!!」



 それは多大に興味を引かれますが、先にどうしてこうなったかの原因を知りたいんだよ!!



「特に!! アオイ様の裸体がお勧めで御座いますよ?? たわわに実った果実、透き通る様な肌。そして白く美しい髪。まさに!! あの御体は至高に至っていると言っても過言ではないのです!!」


「ふぁかったら!! ふぁやくみせふぇ!!」


「ふふ、申し訳ありません。猛ってしまいました。では……。御覧を」



 烏の羽が後頭部に当たると同時に、瞼の裏で明るい光景がぽうっと浮かぶ。



 すっげぇ。


 まるで自分が見ている様な感覚だな。


 感心したのは束の間で??


 そこからは信じられない光景が繰り広げられていた。



『アオイの――。事、好きなんですよね??』


『勿論さ。俺は君に出会う為に生まれてきたのだから。さぁ俺と一生ソエトゲヨウ』



 酔っ払い丸出しの俺がアオイの髪に口付けを交わして更に彼女の柔らかな耳を食み。



『やぁ――!! 離れて――!!』


『あ、主!! 止めるのだ!!』



 ルーとリューヴの体を弄び。そして……。そしてぇ!!



「ふぉうふぇっこうふぇす!!!!」


「左様で御座いますか……」



 止めて!! これ以上己の恥部を見せないで!!



「理解、したか??」


「ふぁい……。ふぉどこりふぁく……」



 あぁ、どうやって謝罪しようか。


 額から出血するまで畳に頭を擦りつけるべきか。それとも気が済むまで殴ってもらうべきか。


 それとも誠心誠意を籠めた謝罪で済ませるべきなのだろうか?? もっと他に何かいい方法があればいいのだが……。



「ふぃののめ。アオイふぉのかいふぁでふぉっと可笑しな台詞ふぁあったんふぁけど??」



 俺の口とアオイの口から交わされた会話に違和感を覚える箇所があった。


 口の動きと出て来る声が全く合っていなかったんだけど……。



「あ、あぁ。その事で御座いますか。少々手違いで流れる景色が見えにくく及び聞き取り辛くなっておりますが……。御安心下さいませ。レイド様が御覧になられたのは紛れも無い事実なのですから」


「ふぃやふぃや。ど――ふぁんがえても合っていふぁかったけど??」


「あ、余り気になさらない方が賢明で御座います。アオイ様はレイド様の告白を受け、大層お喜びになられていますので」



 いやいや、そう言う事じゃなくて。口の動きと声の矛盾を聞きたいんですけど??


 だが、それを問いただす前に彼女達に対しての謝罪文を考えなければ。


 宙に浮いたままがっくりと項垂れ、頭の中で謝罪文を構築していると外から女性達の燥ぐ声が聞こえて来た。



「たっだいま――!! おぉ!? レイド起きたの!?」


 この声はルーだな。


「ふぉふぁようふぉざいふぁす」


「あはは!! モゴモゴしているね!!」



 ルーが俺の横腹を触ると、ゆらゆらと体全体が揺らぐ。


 ふぅむ、成程。


 俺は完全に宙に吊られているようだな。そしてこの粘着質の糸と言えば。



「レイド様ぁ!! お気づきになられました!?」


「ふぇぇ。ふぉかげふぁまで」



 そう、蜘蛛の一族を率いる女王の娘。アオイが練った糸だろう。


 だが、どうして酔っ払い相手にここまでする必要があったのだろうか??


 勿論!! 自分の更なる愚行を危惧しての事だとは考えるんですけど。過剰と言うべきか……。もうちょっとやり方があったのではないかと疑問が残るのですよっと。



「レイド、起きた??」


「ふぁい!! ふぉふぁようふぉざいふぁす!!」



 カエデの声には人一倍強く返事を返す。


 彼女には逆らえないし、それに。小さく返事を返そうものなら。



『聞こえません』



 冷たくあしらわれる恐れがあるのです。



「そんな大きな声を出さなくても結構です。十分聞こえていますから」



 ほら、すっごい怖い声だし。


 目隠しをされていて良かったよ。冷たい藍色の眼から放たれる圧に耐えきれず、ふっと視線を逸らしてしまいそうですもの。



「よぉ!! レイド!! おはよう……。じゃないな」


「そうですよ、ユウさん。今はこんにちは!! です」


「主、よく眠っていたな」



 いつもの仲間に加えアレクシアさんも加えた面々が揃ったようだな。


 さてと!! 謝罪を述べましょう!!



「ふぇっと、みなふぁん。此度ふぁふぁたくしの……」


「マイ。それを外してあげて下さい」


「う――い」



 カエデの声に反応し、猿轡が外され新鮮な空気をこれでもかと一気に吸い込んだ。



「ぷはっ!! はぁ――……。やっと真面に息が出来る」


「おら、続き」



 あ、はい。


 マイの恐ろしい声が僅かに訪れた安らぎの時間を奪う。そして頭の中で構築した謝罪文を重々しい口調で話し始めた。



「この場に居る皆さん。此度は私の愚行が皆様に大変なご迷惑を掛けた事を深くお詫び申し上げます。再発防止に務め、今後一切許容量を超える酒類の摂取は禁じます。私の行動が皆様を深く傷つけた事に対し……」



「「長いっ!!」」



 誰かさん達が仲良く声揃えて謝罪文を破り捨ててしまった。



「端的に申しますと……。ごめんなさい、もう二度としません」


「ふぅ、もうお酒も抜けていますと思うので拘束を解きますね。アオイ、糸を解いてあげて」


「分かりましたわ」



 アオイがぱちんと指を鳴らすと。



「いでっ!!」


 宙から畳の上へと落下した。


「目隠しも取ってあげるね――」


「ありがとう、ルー。……、眩しっ!!」



 暗闇から一転。


 平屋の縁側から差し込む太陽の光を真面に捉えたら誰でも目を細めるだろうさ。平屋の縁側から捉えた遠い空は俺の心の空模様とは裏腹にスカっと晴れ渡っていた。


 あの明るさからして昨晩からかなりの時間が経過している様だな。



「今はお昼だからねぇ」


「ひ、昼?? 朝じゃないの??」



 おぉ、段々目が光の強さに慣れて来たぞ。



「朝起こそうとしたんだけど。びっくりするぐらいグッタリしていたから寝かせておいたんだよ!!」


「そりゃどうも……」



 ルーの明るい声を受け一つ大きく頷く。


 よしっ!! 視界が元に戻った!!


 何度も瞬きを繰り返し、しっかりと両の足で畳を捉えて立ち上がった。



「えっと。まだ言っていなかったね?? 皆、ただいま。明日から始まる訓練は辛いだろうけど、頑張って乗り越えて行きましょう!!」



 御風呂上がりで妙な色気が目立つ彼女達へこの場に相応しいと思われる第一声を放った。



「レイド様ぁ!! お帰りなさいませっ!!」



 黒き蜘蛛の姿に変わったアオイが右肩に留まって嬉しそうに二本の前足を伸ばす。



「何か変わった事は無かった??」


「特に御座いませんわ。強いて言うのなら、喧噪が絶えないのが悩みでしたわね」


「それはいつもの事だから気に留める必要はないだろ」


「んふふっ。そうでしたわねっ」



 何だろう……。


 俺の横着を受けて機嫌が悪いかと思えば妙に機嫌が良いな。



「レイドぉ。お店の予約はちゃんと取った??」


 部屋の中央で随分と寛いだ姿勢のユウが話す。


「おう、滞りなく八人分取れたぞ」


「へへ!! ありがとうね!!」



 どういたしまして。


 にっこりと快活な笑みを浮かべる彼女へ一つ大きく頷いた。



「出発は何時にするのよ??」


「そうだな……。予約は夜の八時だから……。六時位で大丈夫じゃない??」



 ユウのお腹の上で寝そべっている赤き龍へと言う。


 多分それ位に出発すれば十分間に合うと思うけどな。



「は――?? 遅過ぎ。後二時間後には出発するわよ。色々変え揃えたい物があるし。そうよね?? ユウ」


「そうだな。ってか、金は貸さないからな??」


「はぁっ!? 勝手に決めつけるんじゃねぇ!!!!」



 二時間後?? 買い物をするにしてもそれは早過ぎではありませんかね。


 この空模様、そしてお惚け狼さんから得た情報によると昼を少し過ぎた位だろうし。



「カエデ」


「はい。何ですか」



 うっ、この声色。そして俺に一切視線を送らずに返事をする様……。



「大変申し訳ありません。現在の時刻を教えて頂けないしょうか??」


 彼女の前でしっかりと膝を折り曲げて尋ねた。


「今は午後二時ですよ」



 目元、口元。


 表情を読み取る為に必要な箇所は一切微動だにせず、冷静をそして冷徹を超える冷たい表情のまま現在時刻を告げてくれた。



「あ、ありがとうございました」


「どうしたしまして」



『なぁ、アオイ』


 右肩に止まる彼女へ小声で問う。


『何でございましょうか』


『まだカエデが怒っているんだけど……。俺、何か悪い事したの??』



 東雲が見せてくれた光景はリューヴに悪戯をする所の前後までであった。


 他の者にも当然、何かをしてしまったと思うのですけど。それを本人に直接聞けるほど俺の肝は座っていないのだ。



『軽く説明させて頂きますわ。カエデに対しては、お腹の匂いを嗅いだそうです』


 はぁ!?


『お、お腹!?』


『えぇ、まな板に対しては尻尾を撫で。ユウに対してはその……。胸の谷間に顔を埋め、あの魔境の香りを胸一杯に閉じ込めていましたわ。アレクシアさんには何もしていないのが不幸中の幸いですわね』



 いやぁ!! これ以上聞いていられない!!


 両手で顔を覆い、畳の上で悶え苦しんだ。



「あはは!! アオイちゃんから聞いたんだねぇ!!」


 狼の前足が俺の頭をタフタフと叩く。


「はい……。本当にごめんなさい……」


 穴があったら入りたいよ。


「私の脇をこれでもかと虐めてさぁ。本当に苦しかったんだよ??」


「あれはお酒の所為なんです」



 完璧な言い訳なんですけどね。



「許容量を超える量を飲んだのか??」


 ルーの隣に狼の姿のリューヴが仲良くお座りする。


「それが……。一杯しか飲んだ覚えがないんだよ」


「たった一杯であそこまで酔ったんですか!?」



 今度はアレクシアさんの登場だ。


 相変わらずお綺麗な薄い桜色の髪ですね。



「それが物凄く強い酒で。アレクシアさんが話した通りたった一杯を飲み干した時に気を失って。そこからは……。察しの通りです」



 酒と言うより、アレは劇物の一種だろうな。


 もう二度と飲まないぞ。あんな馬鹿げた酒は!!!!



 はっきりと物事を認識出来る様になると昨晩の残り香が鼻腔を刺激する。


 余程強い酒だったんだな。


 ここまで香りがしっかりと染み込むなんて……。


 街へ繰り出す前に洗い落としておくか。それと、臭い臭いと言われ続けるのも了承出来ませんのでね。



「レイド様?? どちらへ??」


 今も右肩に止まっているアオイが複眼で俺を捉える。


「御風呂に行って来るよ。まだお酒の匂いが取れないし」



 発生源は服……。


 じゃないな。


 髪の毛と胃の奥からわぁっと湧いてくる感じだ。



「まぁ、そうで御座いますか。お背中を御流ししますのでアオイも相伴致しますわ」


「自分で出来ますので、結構で御座います」



 むっくりとした丸みを帯び、チクチクとした毛を備えているお腹を摘まみ。


 ハッハッと獣らしい呼吸を続けているルーの御顔へと放ってやった。



「あっはぁ――ん。本日の放物線も辛辣ですわぁ――」



 空中で一回転。


 そして八つの足をガバッ!! っと大きく開き狼の鼻頭に満点の着地を決めた。



「アふぉいちゃん。口に止まらないで」


「んふふっ。ごめんあそばせ」



 明日から特別な訓練が始まる前だってのに気を抜き過ぎている。


 出来る事なら冬の真水に体を浸からせ、体の芯から煩悩を拭い去り。真新しい澄んだ精神を迎えてやりたい。


 風呂に入る前に井戸から水を汲んで頭から被ろうか?? でも、そうすると訓練に臨む前に風邪を引いちゃいそうだし……。



「よっしゃあ!! もう直ぐ美味しい物が食べ放題になるわよ!!」


「マイちゃ――ん。お金払うのレイドなんだよ?? それに全部は買って貰えないと思うな――」


「お前さんは馬鹿か!? 粗相を働いたんだから、それをダシにしてぜぇぇんぶ買って貰うのよ!!」


「「「おぉぉぉ――――ッ!!!!」」」



 賢しい龍め……。


 こういう時だけ悪知恵が働くんだから。


 明るさで満ちる彼女達の声とは正反対、どんよりと地の底へと沈み行く重い空気を吐き出し。体中に残る鈍痛云々よりも財布の中身の心配をしながら湯浴みへと向かった。




お疲れ様でした。


この後野暮用でお出掛けしますので、後半部分の投稿は帰宅後になります。


暫くの間、お待ち下さいませ。

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