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第二百五十八話 放蕩無頼の酔っ払い 相対するは戦々恐々する者共 その一

お疲れ様です。


前半部分の投稿になります。




 日が傾き始め空が寂しい色に変わる頃。私の友人の一人が堅物野郎を迎える為に王都へと向かった。


 今からもう随分と前の事だ。


 寝所として使用している平屋の周囲は既に暗闇が包み込み、夏の夜虫達の歌声は晩冬の季節は休業中なのでしんっとした山の静けさが心に微かな侘しさを与えていた。


 只々静かな山の息吹きが風情ある雰囲気を醸し出す。


 その詫びサビに応える為じゃないけども。お腹一杯食べてちょいと眠くなりつつある体を温かく、そしてむにゅりと柔らかい壁に預けてふぅ――と息を漏らした。



 しっかし……。おっそいわねぇ。


 カエデがボケナスを迎える為に出立してもうかれこれ……。



「ユウ――。カエデが出て行ったの何時間前だっけ??」


「ん――。確か……。六時間位前、かな」



 ほら、もうそんなに経過してる。



「遅くない??」


「人の街に出掛けているんだ。危険は無いし、別にいいんじゃないの――??」



 あらあら。随分と不機嫌で御座いますわね??


 何んとか苛立ちを抑えようとしているけど、言葉の端っこに小さな苛立ちを感じ取れる。


 そんな声色が背中から届いた。



 そして、この足の動き!! ユウの悪い癖と言うべきか。



 苛々している時に仰向けの姿勢で足を組むと、上に組んだ足を無意味にプラプラと揺れ動かすのよね。


 今は、右足が上だから右足が行儀悪い動きを見せていた。



「まぁ、そう怒るなって。あの馬鹿がどうせ何かやらかしたのよ」



 クソ真面目なカエデが横着するとは考え難い。


 十中八九、アイツの横着が原因なのだ。



「わ――ってるよ。その何かが気になる……、のかな」


「何か、かぁ」



 ユウの言葉を受け取り、馬鹿デカイ超爆乳を背もたれ代わりにしながらちょいと考えてみた。



 その一。


 あの馬鹿は料理道具に五月蠅い。


 道中出会った至高の道具に心を奪われ、数時間もの間店先を右往左往。


 そしてカエデに説教を受け今に至る。


『わぁ――!! かっこいい包丁だぁ!! 買って行こうかなぁ!?』


 アイツの阿保面は浮かぶけれども……。カエデ同様真面目なボケナスが優先順位を履き違える訳は無いし。この線は無しね。




 その二。


 街を歩いていたら善良な市民が暴漢に襲われている所に遭遇。


 四苦八苦しながらも暴漢を撃退し、市民に感謝の印しとして食事を御馳走になる。



『あ、あのぉ。良かったらこの後、私の体を……。召し上がりませんか??』


『御馳走だぁい!!』



 絶対無いわね。


 アイツ、頭が固い所為か知らんが。出会って数時間の女には手を出す勇気すら無いだろうし。




 その三。


 ん――……。その三ぅ……??



「ねぇ、ユウ――」


「何」



 声、ちゅめたっ。



「その三って何か思いつく??」


「はぁ?? 何だよ、それ」



 後頭部から訝し気な声が届く。



「いやね?? アイツの帰りが遅い理由を考えていたんだけど。一と二は思いついたんだけど、三がさぁ……」


「しらねっ。どうでもいいけど、あたしの胸を背もたれ代わりに使うの止めない??」


「え――。丁度良いのよ。コレ」



 龍の手で肉の背もたれをタフタフと叩く。


 この肉厚な感触とフカフカの柔らかさ。王族が使用する椅子の背もたれの数十倍の効用を与えてくれる背もたれは世界広しと言えどもここにしかないのさ。


 爪先で肉の麓をギュムギュムと押していると。



「お?? 埋まっとく??」


 頭上からおっそろしい力を秘めた手が下りてきた。


「ごめんなさい!!」



 あ、あぶっねぇ!! 危く肉の魔境送りになる所だった。


 ユウの右手が私の体を掴む前に翼を開いて羽ばたき、今度は双丘の頂上へと到達。


 我が親友のむすっとした顔の前に躍り出た。



「危ないわねぇ。殺す気??」


「始末するんだったら中央の谷でやるよ」



 お、おぉ。


 確かに……。そこは生きては帰れぬ魔境だもんねぇ。


 何度か死にかけたのは確かだ。



「直ぐ帰って来るし。そう怒りなさんな」


「べっつに。怒ってないよ……」



 はい、嘘――。


 可愛い御顔が歪んでるもん。程よく焼けた小麦色の肌が台無しよ??


 当然、怒っているのはユウだけでは無い。



「……」



 リューヴは狼の姿で部屋の隅で丸まり、私に近付くなとあからさまな不機嫌さを醸し出し。


 蜘蛛は……。



 あぁ、居た居た。天井に張った巣の中央でじぃっとしている。


 眠ってんのか??


 暫く観察を続ていると。



「……っ」



 前足の二本が獲物を探し求めるが如く、小さくわちゃわちゃと動いた。


 おっえっ、きっしょ。



 そして鳥姉ちゃんとお惚け狼は。



「わぁ……。狼さんの肉球って硬いんですねぇ」


「そうなんだよ!! ほら!!」



 どうだ!!


 そう言わんばかりにルーが右の前足を上げ、その足を鳥姉ちゃんは物珍し気に触って観察していた。


 帰りが遅い事に怒っているかと思いきや、あの二人は特に変わり無いわね。



「集合時間に遅刻したんだからさ。これでもかと奢らせればいいのよ」



 肉の山の頂上を捏ねながら話す。


 うぉぉ……。すっげぇ……。何処までも埋まるぅ。



「まぁね。――――。なぁ??」


「ん――??」



 今度は引っ張ってやると縦にムニュ――んっと伸び、伸び具合にちょいとムカついたので激しくパチンッ!! と叩くとまるで大地震を彷彿させる様に足元がグラグラと波打つ。


 は――……。この双子の島は一体どうやったら形成されるのかしらね。


 この世の謎の一つだ。



「もしかして、さ。カエデと二人で……。遊んでいるんじゃね??」


「はぁ――?? そんな訳……」



 それは……、有り得る話だ。


 日頃から苦労を掛けているね――っとか適当な理由を述べて美味しい御飯を食べに行くのよ。


 肉汁滴るお肉、丸々と太ったパン、そして美しい純白が目に痛い白米。


 あの二人が満面の笑みを浮かべて御馳走を平らげて行く姿を想像すると殺意が沸々と湧く。


 く、くそう!!



「私もおにぎり食べたい!!」


「お前さんの思考がどこでどう間違ったか知らんが……。あたしと行き着く先が違う事だけは理解出来たよ」


「行き着く先?? 御飯屋じゃないの??」


「ば――か。もっと淫靡に想像してみろよ」



 淫靡ですと??


 ふぅむ……??



『あぁ!! カエデの美しい肌、煌めく藍色の髪に俺は夢中なんだ!!』


『私もレイドの逞しい体が好きぃ!!』



 な、何だ。この陳腐な妄想は。


 陳腐な想像しか出来ないって事はだよ??


 そういう行先を私自身が全く想定していないって事になるわね。



「頭の固い二人がそうなるとは想像出来ないわねぇ」


「それだからこそ、なんだよ。お前さんも女の端くれなんだから少しは気付けっつ――の」



 は??


 端くれはまぁ理解でき……。たら駄目でしょ。


 女の中央にどかんと腰を据えていると言ってもらいたい。


 ってか、気付くってどういう意味??



「ユウは少し深く考え過ぎなのよ、っと」



 コロコロと肉の山の斜面を転がり落ち。



「考え過ぎ??」


「そうそう。信用とでも言えばいいのかしらね?? アイツらが私達にコソコソと隠れて、そういう事が出来る訳ないでしょ」



 今も組んでいるユウの可愛いあんよをえっさほいさと上り、右膝の上にちょこんと座った。


 おぉ、ここから見る景色も中々。



「ん――。そう言えば、そうだな……」


「でしょ?? あ、でも……。私に断りも無く美味しい御飯を二人だけで食べていたら始末するけどね」



 アイツの四肢を切断して、後悔の二文字を腹のど真ん中に刻み込んで地獄に送ってやらぁ……。



「さらっと恐ろしい事……」



 ユウが呆れた顔で口を開こうとすると部屋の一角に突如として魔法陣が浮かび、そこから強力な魔力が溢れ部屋を満たした。


 この尋常じゃない馬鹿げた魔法を詠唱出来る者はそうはいまい。



「カエデちゃんだ!!」



 お惚け狼が颯爽と魔法陣の円の淵にお座りして御主人様のお帰りを待つ姿勢を取る。


 それに続く形で。



「降りろ!!」


「は?? ぐぇっ!!」



 親友が私の体を畳の上に向かって乱雑に蹴り飛ばしやがった。


 あわてんぼうの乳牛め。大体、そんなに慌てなくても直ぐに姿を現すって。


 俯せの姿勢で眩い光を放つ魔法陣を遠目に眺めていると、傍若無人な暴力の塊達が私の背中を通過して行った。




「主達か!!」


「いてっ!!」


「随分と遅かったですよね!!」


「あぐっ!?」


「レイド様ぁ!! アオイは待ち草臥れて、寂しさで死んでしまう所でしたのよ!?」


「ぶほぉあ!!」



 私の体を遠慮も無く次々と踏み付け、圧し潰し。どっかの誰かさんに至っては明確な意志を持って、故意全開で私の至高の体を踵で蹴りやがった。



 ひ、ひ、ひ、人の体を滅茶苦茶にしやがって!!


 あんたら一体何様なのよ!!



「あれ?? マイちゃん、どうしたの?? 埃塗れだよ??」


「喧しい!! おい、そこの蜘蛛」


「あぁ……。もう直ぐですのね。私のレイド様が現れるのは」


「おい!! 聞けや!!!!」



 クソ蜘蛛がぁ……。無視しやがってぇ。どっちが偉いかを分からせる為に一戦開始してやろうか??


 岩をも砕く龍の牙をギチっと噛み、湧き起こる憤怒に呼応した拳が燃える様な熱を帯びてしまった。



「マイ、少し静かにしろ」


「は、はぁ??」



 強面狼が脅迫口調でこちらに声を掛ける。


 え?? 私が悪いの?? 踏まれて蹴られたのよ??



「そうですよ。御二人がお帰りになるんです。そんな怖い顔だと、二人共怖がっちゃいますから」


「あんたらの所為でこうなったのよ!!!!」



 理不尽過ぎるでしょ!!


 だが……。


 私の心は海より深くそして広大なの。す、少し位の横着は見逃してあげるわ。


 次は確実に殺すけどね!!


 龍の翼を駆使してふわりと浮かび上がりユウの右肩に乗り、魔法陣から放出される強力な光が収まるのを待った。


 そして光が徐々に薄らいでいき光の中から現れたのは。



「…………」



 一人の男の死体であった。



「「「え……??」」」



 そりゃあ誰だってちょいと黒焦げた死体を送りつけられたらこんな反応をするわよね。


 この場に居る全員がぽかんと口を開けて呆気に取られ畳の上に横たわる死体を眺めていた。



 全身から焦げ付いた匂いを放出し、皮膚からはモワモワと蒸気が立ち昇り、髪の毛は焼けた様に燻ぶる。



 問題は、何が、どうなって、こいつがこうなったかだ。


 その意図を汲むまで触るのは控えるべきか??


 私達は皆一様に言葉を失い、傍迷惑な贈り物の様子を窺い続けていた。



お疲れ様でした。


初売りから帰還後に投稿させて頂きました。


後半部分は色々と片付けを済ませた後に編集作業を開始しますので今暫くお待ち下さいませ。

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