第六十六話 縁側での指南 その二
大変申し訳ありません!! 話が長くなってしまいましたので、二話に分けさせて頂きました!!
続きをどうぞ!!
「皆さん、明日の襲撃に備え作戦会議を始めます」
蚊の羽音よりも弱々しい海竜さんの声が、大部屋の中で渦巻き続ける魑魅魍魎の呻き声の中に静かに響く。
カエデが話した通り、作戦を練る必要がある事は大いに理解出来ますよ??
しかし。
誰もがその場から動こうとはしなかった。否、不可能であったのだ。
白米、野菜、鶏肉、その他諸々。
胃袋の許容量の限界値を超え、耳の穴から食った食材が溢れ出てしまう。そんな常軌を逸した量を食えば動けない事は自明の理なのです。
「皆さん、もう一度言います。明日の……。うっ……。ふぅ……。作戦会議を始めますから大部屋の中央に集まって下さい」
今、吐きそうになりましたね??
カエデも無理をしていたからなぁ……。
最後の最後。
丼に残ってしまった後一口の白米さんを食べられずに目に涙を浮かべていたものね。
カエデのぐずった姿は大変珍しいので、頭の中に確とその姿を収めさせて頂きました。
「わ、分かった。今から動くから……」
鋭く、恐ろしい藍色の瞳でジロリと睨まれ。尻を叩かれた思いで畳の上を匍匐前進で進もうとするものの。
「レ、レイド様。私も運んで下さいまし……」
アオイの右手が俺の左足を掴み、行く手を阻んでしまった。
「自分で動きなさい。俺にそんな余裕はないの!!」
胃袋に収めた命の欠片達が、喉元に手を掛けて今にも復讐を遂げようと画策しているのです!!
「ま、まぁ!!!! レイド様の御子を身籠っているこの体を大切にしないと仰るのですか!? 私は常々申しているではありませんか!! 二人の愛の結晶は大切に育てていこうと!! それなのにレイド様は……」
くそう!!
這い上って来たか!!
男の性を大いに刺激する柔らかいお肉の塊が下腿三頭筋から。
「うふふ……。もう少しですわ……」
腰へと。
此方に肉の感覚をじっくり味合わせるかのように淫靡に、そして淫らに擦り付け上って来る。
こ、こういう時こそ出番ですよ!! 御二方!!
壁際に助けを請う視線を送るが。
「ユ、ユウ……。待てぇぇぇ……。私を置いて行く気かぁぁぁ??」
「登ってくんな!! 自分で動け!!!!」
あっちもあっちで此方に倣い。
何人のお子様を孕んだのですか?? と、問いたくなる腹を引っ提げ。マイがユウの背中へとよじ登り。
ユウが這って進もうとするのを鋭い龍の瞳が逃す訳が無く、彼女の移動に便乗しようと画策していた。
「到着……。ですわっ」
「はぁ……。何もしないのなら乗ってていいよ」
抵抗するのも力が要るし、何より背に乗るお肉は大変軽いですからね。
柔らかいのは大変余計ですけども。
「はぁいっ、レイド様っ」
「ですから!! お止めなさい!!!!」
首に甘く両腕を絡め、耳にふっと息を吹きかけて来る横着な肉と悪戦苦闘を繰り広げつつ。
子亀を背に乗せて移動する親亀の心情を理解しながら。
俺達の様子をぎゅぅぅううと、眉を顰めて眺めていた隊長の下へと馳せ参じた。
「では、皆さん。作戦会議を始めます」
え??
ちょっと待って?? このまま開始するの??
子亀を背に乗っけたままなんだけど!?
「明日、レイドの体を奪いに淫魔の女王が来襲します。我々にはイスハさんという超強力な援護があります。これを使わない手はありません」
カエデの声を受け、ふむふむと背の子亀が頷く。
「マイとユウが前衛を務め、アオイとレイドは中間距離に身を置き、私が最後方から指示を出しつつイスハさんと共闘して対峙します。恐らくイスハさんは徒手格闘に重きを置いた戦闘方法を取る可能性が高いと思われます。そこで……、レイドの出番です」
今も大変恐ろしい瞳で俺を見つめる。
ちょっと怖いからもう少し優しく睨んで下さい……。
「俺の出番?? 前に出るって事??」
「違います。あの弓を使ってエルザードさんの結界を破壊するのですよ」
「成程!! カエデの結界も簡単に破壊出来たし、きっとエルザードさんの結界も破壊出来る算段なのか」
「『簡単』 は余分です」
あ、ごめんなさい……。
でも。これで朝稽古前の稽古が報われるよ。
「マイ、ユウ、アオイはレイドとイスハさんを援護しつつ攻撃を加え。私が最後方から魔法での攻撃を加え、彼女を拘束します。この作戦の要はレイドの弓に掛かっていますので……。ふざけた態度で作戦に臨まないで下さいね??」
「え、えぇ。了解しました……」
その目、大変恐ろしいので。此方に向けないで頂けると助かりますです。
「では、明日に備え。早めに就寝しましょうか」
そう話すと。
「くっ……」
重そうな体を動かし、布団が収納されている小部屋へと向かい始めた。
「結界を破壊して、攻撃を加える。簡単そうで、難しそうだよな??」
ユウがうつ伏せの姿勢を保ちながら、背に乗るマイの額を突く。
「真っ直ぐに突っ込んで行ってもさ。ほら、ボケナスが食らった魔法あるじゃん」
「あぁ。あの宙で回転する奴か」
何をされたのか分からない状態で、気が付けば地面に倒れていたし。厄介な魔法だよな。
「あれって多方向に向けて出来る物なのかしら??」
マイがユウの頭の上に顎を乗せつつ話す。
「恐らく可能です。ですが、連続で詠唱するのは難しいかと思われます。ユウ、ちょっと失礼しますね」
そう話すと、ユウの目の前を通過。
自分で使用する布団をテキパキと用意しながらカエデが話す。
「カエデ――。私のも用意してよ――」
「自分で用意して下さい。目に見えぬ魔法ですが、私が魔力を感知します。もしも、詠唱されたのなら注意を促しますので指示を聞き逃さないで下さい」
いいなぁ――。
もう布団に潜り込んじゃったよ。
「うっし!! 大まかな流れは掴んだ!! 後は、本番であの時の借りを返すのみ!!」
「そうね!! ぎゃふんと言わせてやりましょう!!」
マイとユウが仲良く寝そべりながら手を合わせ。
「アオイ、一緒に頑張ろうな!!」
彼女達に倣い、右手を背に向かって掲げた。
「えぇ……。共に……。布団の中で愛を育みましょうね……」
「そっちじゃない!!!!」
五本の指を甘く絡めて来たので速攻で解除。
だらしない己の体に喝を入れ、横着なお肉さんを畳の上に落としてやった。
「きゃっ。んもぅ……。辛辣ですわねぇ」
嬉しそうに嫌がらない。
「さて、明日に備えて俺は寝るからね」
そう話し、踏み心地の良い畳の上に立つと。
「ねぇ――。レイドぉ――。あたしの布団、敷いて??」
有り得ない肉の山を下敷きにしつつユウが珍しく甘える声を出せば。
「レイド様ぁ……」
アオイの甘える声は想定内でしたが、再び足を淫らに掴むので若干乱雑に足を引き抜く。
そして、最後に大御所が口を開いた。
「敷け」
たった二文字。
されど二文字。
人の神経を逆撫でするその言葉が心に負の感情を大きく湧かせてしまった。
大股で敷布団を二つ腕に乗せ戻ると。
「自分で敷きなさい!!!!」
ユウとマイの上に放りつつ叫んでやった。
「おっも!! まぁいいや。ユウ――。移動開始――」
「ん――」
親亀が子亀を三匹乗せ、大部屋の中央へと移動を開始。
「レイド様ぁ。私のもぉ……」
群れからはぐれた哀れな子亀がクイクイっと訓練着の裾を食む。
「はいはい!! 分かりましたから!! 変な声出さないの!!」
えぇい!!
このまま放っておいたら勝手に布団の中に入ってきそうだし!!
それは勘弁願いたい!! 明日に備えて熟睡したいのですよ!! 俺は!!
敷布団を再び腕に乗せ、カエデの隣へ乱雑に放る。
「うふふ。有難う御座いますわ」
これでいいでしょ??
そう考え、小部屋へと移動するが。
「おらぁ!! かけ布団、持って来いやあああ!!」
「レイド――。こっちにも――」
「あんっ、レイド様っ。ほら、上の服が開けてしまいましたわぁ。此方の花の蜜は大変甘いですわよ……?? ですからぁ……」
はいはい!!
分かりましたよ!!
どうせ俺はいつも貧乏くじを引かされる運命なのだ。損な役割を今日も担いますか。
すぅ……。すぅ……。っと。
もう既に寝息を立てている藍色の髪の女性を起こさぬ様。
極力、声量を抑えつつ。
次々と餌を強請る子亀達に向かい、これでもかと布団を投げ続けてやった。
最後まで御覧頂き、有難う御座いました!!




