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第二百五十三話 不吉な嵐の予感 その二

お疲れ様です。


後半部分の投稿になります。




 縦に長く続く隊列が大地を踏み鳴らして騒々しい音を奏でると、間も無く訪れる春の息吹きを予感させてくれる木の枝に止まる鳥が何事かと思い目を見開いて俺達の様子を窺う。


 耳障りな騒音と煙たい土埃が舞えば人で無くても顔を顰めるだろうさ。


 大変不機嫌そうな鳥さんとバッチリ目が合うと大変申し訳無い気持ちが沸々と湧いてしまう。


 御迷惑をお掛けましたね?? 五月蠅い連中ですが何卒ご了承下さい。


 鳥に詫びても無意味だとは思うが、それ程に行軍の音は否応なしに気分を悪戯に害するものであった。



 勿論、この騒音には話し声も含まれている事を忘れてはいけない。



 軍人らしく無言を貫き勇ましく堂々と歩みを進める者も居れば、間も無く解放される事に意気揚々として口を開く者も居るのだ。



「なぁなぁ!! この後どうするよ!?」


 後者の代表格である我が友人が軽快な声を放ち俺の肩を仰々しく叩く。


「この後?? ちょいと野暮用を済ませたら特に予定は無いな」



 明日の夜、どこぞの龍のでっかい胃袋を満足させる為に店を予約しなければいけないのですよ。


 えっと……。あぁ、そうそう。ペイトリオッツだっけ。


 席が空いていればいいんだけど。


 それと簡単な手土産も用意しないといけないな。手ぶらで帰るようなものなら絶対文句を垂れるだろうし……。



「それならよぉ!! 飲みに行こうぜ!!」


「はぁ?? ――――。こんな明るい内から飲むのかよ」


 ハドソンの声を受けて空を仰ぎ見たが、とても晩酌と呼べる時間には程遠かった。


「飲むのに時間は関係ねぇ!! タスカー!! ウェイルズも行くだろ!?」



 馬鹿騒ぎの勢いを保ち前列を歩く友人二人に話し掛ける。



「おうよ!! 勿論だ!!」


「美味い飯がある店なら行こう」


「ほら!! 二人も行くって言ってるから、お前も強制参加な!!」



 まぁ……。こうして親睦を深める機会は早々訪れないし、それにカエデが迎えに来るのは夕方頃だからまだ時間には随分と余裕がある。


 偶には良いか。



「いいぞ。予定を済ませたら落ち合おうか」


「さっすがレイドちゃん!! 空気が読めるぅ!!」



 男らしく肩を組んで何の遠慮も無しに軽快な笑い声を上げる。


 男同士の付き合いが嬉しい反面、明後日から始まる猛特訓に備え体調を整えるべきだという真面目な自分が顔を覗かせてしまう。


 馬鹿真面目だと揶揄する友人達の気持ちがちょっとだけ理解出来た気がする。


 でも、やっぱり馬鹿は余分だよね??



「おっ、もう直ぐ止まるみたいだぜ」


「その様だな」



 友人達との馬鹿話に興じていると隊列の速度が徐々に下がり、街道から奥まった位置へと移動して行く。


 そして完全に停止すると最前列から巨大な声が轟いた。



「止まれぇ!! よぉし!! ここからは先程伝えた通りだ!! 長きに亘る訓練の疲れを癒し、次の任務に当たれ!! 以上、解散!!!!」



 いや、もう少し静かにしましょうよ。


 街道を行き交う大勢の人達がビッグス教官の声を受けて一斉に肩をビクっと揺れ動かした。



「「「はいっ!!!!」」」



 彼の大声に対して全兵が応え、彼が仰った通り二日間の訓練が真の終わりを告げた。



 ふぅ……。色々あったけど取り敢えず無事に終えて肩の荷が下りましたよっと。


 やたらと太陽の笑みが眩しく見えるのはその所為だろう。だが、ここで気を抜き過ぎてはいけない。


 この後には身の毛もよだつ真の恐ろしい訓練が控えているのだから……。



「よっしゃあ!! 終わったぁ!! どこに行く!?」


「そうだなぁ……。あそこはどうだ?? ほら、南通りの裏にある」



 ハドソンの問い掛けにタスカーが腕を組んで答える。



「いいねぇ!! あそこの店の子、めっちゃ愛想良くて可愛いんだよね!!!!」


「結局それ目当てかよ……」


「んだよ、レイド――。可愛い子目当てで店を選ぶのが悪いか!?」


「いや、別にそれ目当てでも構わないだろう。店側もそれを見越して店員さんを配置しているだろうし」



 そう、これはあの店にも当て嵌まる事だ。


 南通りの大きな武器店、ラピッドだっけ?? 武器屋にあるまじき格好をした女性店員が鼻の下を伸ばした男共を誘い。


 彼等はまるで甘い蜜に誘われた蜜蜂の様に店へと吸い込まれて行くのだ。



「今日こそは絶対に誘い出す!! んで!! 日が空けるまでベッドの中で過ごすんだぁあああ!!」



 馬鹿騒ぎが取り柄である彼なりの疲労の癒し方なのだろうけど、その元気を訓練に向ければ多少なりとも成長すると思うのは俺だけでしょうかね??



「絶対無理だって。あの子お前の顔を見て溜息漏らしていたもん」


「それは仕事の疲れからだって!!」


「いやぁ、そうは見えなかったけどなぁ。あの茶髪の子はどう??」


「あ――……。顔は良いんだけど胸が小さいからな。それだったら……」



 やれあの子が可愛い、やれあの子なら誘えると下らない会話を続けるハドソンとタスカーの会話に若干辟易していると聞き覚えのある大きな足音が近付いて来た。



「まぁ――たくっだらない話してるわね」


「よぉ!! トア!! 何々?? 俺達と飲みに行きたいのか!?」



 ハドソンが軽快に手を上げ、悪魔……。基、トアを迎える。



「ば――か。あんたとなんて御断りよ」


「はぁ?? じゃあ何で来たんだよ」


「あんたに用は無くて、用があるのはそこに居る駄犬よ」



 こいつは……。


 横っ面を叩かないと駄犬呼ばわりは直らないのか!?


 いや、本当に横っ面を叩いたら剣で体を穿たれてしまうのでしませんよ?? 恐ろしくて出来そうに無いのが情けない……。



「何か用??」


 特に表情を変えずに問う。


「今から私達に付き合って貰うから」


 はい??


「いや、俺はこれからハドソン達と飲みに行く約束があってだね??」


「あんたの予定は聞いていないの。ほら、行くわよ」


「いでででで!!!!」



 まるで犬のお散歩と言わんばかりに俺の右耳を引っ張り進み出す。



「放せ!!」


「ちっ。言う事を聞かない飼い犬め」


「お、お前なぁ!! こっちは予定があるって言っているだろ!?」



 人の話を聞かない子ですね!!


 俺には無理だから誰かこの人に教育的指導を施してやって下さいよ!!



「私は上官からの命令を受けて来ているの」


「は?? 上官??」


「そ。ほら、来るわよ」



 トアが後方に親指をクイっと差すので、それを追って視線を向けると。



「ごめんね?? トアが酷い事したみたいで」


「行くわよ」


「イリア准尉!! それに……。ルズ大尉!?」



 片や詫びるように片目を瞑り片や冷たい瞳でこちらを見下ろす。


 一体全体、どうしてこの二人が来る事になったのだろう??


 先ずはそこから説明をして貰いたい。



「なぁ、トア。何でこうなったの??」


「ん?? あぁ、悪いわね。説明していなかったわ」



 そういう所ですよ、君の悪い所は。



 トアが言うには。


 特殊作戦課の任務を終え、大尉が俺達に食事を奢ってくれる事となっていたが。彼女の負傷は思いの外重く前線基地での治療を余儀なくされた。


 今回は偶々訓練で顔を合わせる事が出来たが、こうして顔を合わせる機会は暫く訪れないだろうと考え食事会は本日行う事となったようだ。


 実に理に適った考えだが……。俺の予定及び意見を全く汲み取っていない事に若干首を傾げる次第です。


 予定を決めるのなら一言二言あっても良いんじゃないの??



「そういう訳だから。じゃ、行くわよ」


「いだいです!!」



 耳を引っ張るな!!



「君達、悪いわね。彼、持って行くから」



 ルズ大尉がハドソン達へ表情一つ変えずに話す。



「「「ど、どうぞ」」」



 馬鹿騒ぎが得意な彼等もどうやら歴戦の勇士であるルズ大尉には逆らえぬ様だ。


 直立不動で答え、彼等の目の奥には怯えの二文字が浮かんでいた。



「お前等!! 少しは引き留めようとする姿勢を見せろよ!!」



 散歩の途中でその場から動こうとしない飼い犬の様に精一杯の抵抗を試みるが。



「「「無理っ」」」



 残念無念。


 あの三名は大尉の放つ圧に完璧に気圧されていた。



「こ、この甲斐性無し!! 裏切者っ!!」


「無駄な抵抗は諦めなさい。先輩、御飯は何を買って行きましょうか??」


「ん――。そうねぇ……。中央広場の屋台群で見繕って……」


「私は先に家の中を片付けて来るわ。この前出た時のままだから」


「了解です!! 先輩、甘い物も忘れてはいけませんからね??」


「勿論よ。お酒は……」


「い、いい加減耳を放せぇ!!!!」



 猛烈な痛みを放つ耳から傍若無人の手を外そうと試みるが。普段聞き覚えの無い『ミチッ』 とした音が耳元で奏でられてしまう。


 これは恐らくそれ以上動くと取り返しのつかない事になるぞと、耳が大変分かり易い危険信号として鳴らしてくれたのだろう。


 傍若無人な飼い主の力には敵わず、そして最後の頼みの綱である友人達の救援も望めない。


 孤立無援、絶体絶命、五里霧中。


 正に八方塞がりの憐れな飼い犬は為す術も無く大粒の涙を流しながら飼い主に引きずられて行ったのだった。



















 ――――。




「あ――あ。行っちまったよ」



 友人が屈強な者達に攫われて行く様を、俺は指を咥えて只見ている事だけしか出来なかった。


 所属不明の大尉、か。


 アイツがどういう経緯で大尉と知り合ったのか分からんが、誰だってあんなおっかない目を向けられたら尻窄むって。


 目が合っただけで本気マジで殺されるかと思ったもん……。


 きっとあの大尉は俺達が想像している以上に酷い場所から帰還したんだろうなぁ。死屍累々の死線を掻い潜った者だけが纏う圧が良い証拠さ。



「いいなぁ、レイド。俺もあんないい女達に囲まれて飲みてぇよ」


「タスカー、俺はそうは思わないぞ??」


「どうして??」


「よぉぉぉく考えてみろ。大尉と准尉だぜ?? 上の階級の者にアレコレと命令される中、落ち着いて飲めると思う??」


「ん――……。あわよくば、一晩を共に過ごせるかも??」



 こいつの頭は一体どうなってんだ?? 綺麗に真っ二つにカチ割って見てみたいわ。



「お前は馬鹿か。腕っぷしの強い准尉と馬鹿力の同期、それに正体不明の大尉だぜ?? 手を出した瞬間、命が消えちまうよ」


「それでも!! 一晩添い遂げる事が出来るのなら……。本望!!!!」


「はぁ……。勝手に言ってろ」



 馬鹿みたいに目を煌びやかに輝かせる友人に対し、巨大な溜息を吐き捨てた後にそう言ってやった。



「だ、誰か助けてぇ!! ここに人攫いがいま――す!!!!」


「五月蠅い。黙らないとその口を縫い合わせるわよ??」



 レイド……。せめて無垢な体のままで帰って来いよ??



 悲壮な声が遠ざかって行く中。俺は天に向かって僅かばかりの祈りを捧げてやった。


 血気盛んで獰猛な女共から穢れ無き体を守ってやって下さい!! そしてこの祈りが何処かにいるかも知れないアイツの守護天使様に届きますようにっと!!


 パチン!! っと手を叩いて爽快に晴れ渡る空へ慎ましい願いを届けてあげたのだった。




お疲れ様でした。


さて、本日は先の後書きにも掲載した通り本呪を借りて来たのですが……。うん、まぁまぁな出来栄えでしたね。


面白い事には面白かったのですがもうちょっと怖くしても良かったのではないのかなぁっと思った次第であります。


他にもジュラシックパークの最新作やら色々借りて来たので年末年始の巣籠り中に消化しようと考えています。


映画を見る暇があればさっさとプロットを書けという皆様の手厳しい声が光る画面越しに届きましたので引き続き執筆を続けて参ります。



そして、ブックマークをして頂き有難う御座います!!


年末年始の執筆活動の嬉しい励みとなりました!!!! 本当に嬉しいです!!



それでは皆様、体調管理に気を付けて休んで下さいね。

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