第六話 ようこそ!! 我が里へ!!
それでは御覧下さい!!
間も無く夕刻に差し掛るぞと、茜色の木漏れ日が頭上から降り注ぎ知らせてくれる。
先程合流した彼女を先頭に進んでいるのだが……。
「へぇ!! ユウって今年十九なんだ!! 私の一個下じゃん!!」
「うっそ。マイって二十歳なの!? どこからどう見ても十五、六にしか見えないんだけど……」
「これにはふかぁぁい訳があんのよ。聞く!?」
「おうよ!!」
先頭を行くうら若き女性達の軽快な声が緊張感を台無しにしてしまっている。
オークが周囲に潜んでいるのかもしれないってのに。
気を抜き過ぎじゃあないですかね??
「よっ!! レイド、どうした!? 浮かない顔して」
「あ、いや。ユウさん達が明るい会話しているなぁって考えていたんですよ」
ウマ子の手綱を引く俺の右側へ。
歩む速度を落として並んでくれた彼女へと話す。
「いや、びっくりする位気が合うんだよね!! そうだろ?? マイ」
「同感。波長が合い過ぎて若干引くわ」
ユウの右側で歩くマイが話す。
「ふぅん。ところ、で。ユウさんは何であんな所で行き倒れていたの??」
「それを話す前に。さん付けは止めてくれ。背中がゾワゾワすんだよ」
また、か。
出会って間もない女性を呼び捨てにするのは気が引けるのだけどねぇ……。
「友人感覚で喋ってくれ」
「了解」
「あたしがあそこで倒れていたのは、さ」
後頭部をガシガシと掻く。
「腹が減ってたんでしょ??」
それは俺でも分かります。
「その理由だよ、理由。里の近く。つまり、ここはユウ達にとって庭みたいな場所だ。俺達が行き倒れるのならまだしも、周囲を知り尽くした者が倒れるなんて考え難いだろ??」
見当違いの考えを抱いているマイへと話す。
「ん――……。まぁ、うんっ!! マイ達なら信用出来るし!! 話しても大丈夫かな!!」
暫く考えた後、ぱぁっと明るい表情を浮かべ。
それとは対照的に恐ろしい事情を話し始めた。
もう間も無く到着するミノタウロスの里。
この森の周囲には多数のオークが散開しており、里を包囲しているとの事。
そして、ユウが行き倒れていた理由は。
「敵の本部を発見する為。偵察に出発し、そこを探り当てた帰り道に荷物を落として。んで、敵に見つかったら本部の位置が移動される虞があるだろ?? だから、必死に隠れながら帰って来たんだけど……」
「体力の限界を迎え、あそこで倒れていたのか」
敵地へ潜入し、極限の状況下で思った以上に体力を消耗したのだろう。
ユウの服が土と砂で汚れているのがその辛さを物語っていた。
「相手の本部の位置は掴めた。後は、あたし達が反撃の狼煙をドカンッ!! と上げんだよ!!」
右腕に力瘤をぎゅっと作って話す。
ドカン、ね。
あの巨体で暴れ回ったら周囲が跡形も無く吹き飛ぶんじゃないのか??
民家程度なら十秒程度で平に出来そうだったし。
「健闘を祈るよ」
ユウの左肩をポンっと叩く。
「は?? レイド、お前も参加すんだよ??」
はい??
「いや、初耳なんですけど……」
「あのな?? この話を聞いて。はい、どうぞ――。って里を素通りさせる訳にはいかんだろ。情報漏洩の虞を懸念しなきゃいかんし。後、マイから聞いたけど。任務で南に向かうって聞いたけど」
「あぁ、そうだね。この森を抜けて海岸線へと出るつもりだ」
「それ。無理っ」
いやいや。
もうちょっと丁寧に説明して下さい。
「此処から南へ向かって進んで行くと、『茨の森』 に出るんだ」
「「茨の森??」」
マイと声を合わせて問う。
「東西に渡って長く伸びる、刺々しい茨の蔦が生い茂る森だよ。斬っても、斬っても直ぐに再生し。燃やそうとしても燃えない。体が頑丈なあたし達でも無策で進もうとは思わない森さ」
「迂回するのは無理では無いけど……。多分、その先に」
「正解っ!! 里の西側にアイツ等が控えている。東に行こうと思っても深い渓谷があって無理。つまりっ!! 先ずは目の前の敵を倒す事が優先なんだよ」
やむを得ないのかな。
それに……。困っている人を見過ごすのは良心の呵責が、ね。
「アイツ等が北上して人の街を襲う恐れもあるし……。うんっ、了解!! 大して力になれないと思うけど。参戦させて貰うよ!!」
「ははっ!! ありがとよ!!」
快活な笑みを浮かべるユウと固い握手を交わした。
「…………。へぇ?? やっぱ、結構力あるよな」
「だ、だから。毎回毎回力比べをするの……。止めません??」
常軌を逸した握力に骨が悲鳴を上げ、折角乾いた額に嫌な汗が噴き出してしまった。
「ミノタウロス流の挨拶だって!!」
すっと手を放し、肩をパシパシと叩く。
軽く叩いているつもりなのだろうが、かなりの衝撃なのでもう少し嫋やかに叩いて下さい。
体が壊れちゃうよ。
「ユウ――。もっとがっつりいっても大丈夫よ。そいつ、馬鹿みたいに頑丈だから」
馬鹿は余分ですよ――っと。
パシパシから、バシバシへと変わってしまった痛みに耐えつつ歩みを進めていると。
突如として巨大な壁が現れた。
森の連なる木々と同じ背の高さの丸太がどんと腰を据えて不動の姿勢を貫く。
視界が捉えられるずぅっと向こうまで続くそれは正に侵入を防ぐ、屈強な壁と呼んでも差し支えないであろう。
「ユウ様!?」
壁の前。
その場所で警備を続けている女性達の中から、一人の女性が巨大な戦斧を担ぎながら駆けて来た。
「よぉっ!! へへ、ごめんっ!! 遅れちゃった!!」
「心配したのですよ!? 捜索隊を出そうかとボー様と相談……。所で、そちらの方々は??」
小麦色の髪を振りつつ、俺とマイへ視線を送る。
「あぁ、この二人に助けられたんだよ。悪い奴らじゃない。それはあたしが保障するよ」
「レイドと申します」
「マイよ!!」
先ずは挨拶と自己紹介。
信頼を得る為に必要な行為です。
丸い目を更に丸めて、俺とマイを見つめている彼女へと頭を下げた。
「に、人間だと!? 何故人間が言葉を理解出来るのだ!?」
またこのパターン、か。
今度から新たに出会った魔物さんに向けて名刺でも作っておこうかな。
半人半魔の珍しい生物ですので魔物の言葉を理解出来ますよ、と。
「詳しい事情は後で説明するよ。先ずは父上達に帰還の報告をしなきゃいけないしさ」
「は、はぁ……。ですが、現在。警戒態勢を取っていますので部外者を招き入れる訳には……」
そりゃあそうだろう。
見ず知らずの部外者を招き入れて更なる混乱を招いたらそれこそ作戦に支障をきたしてしまうだろうし。
「えっと、ユウ。俺はやっぱりここで別れた方がいいかも」
反抗作戦を失敗に終わらせる訳にはいけない。
ここは彼女達の領域なのだ。
彼女達の聖域を守る為の戦いに、失敗は許されないのだから。
「駄目だっ!! 父上に挨拶をして貰うぞ!!」
「お、おいっ!! 引っ張るなって!!」
右腕をぎゅっと掴まれ、勢いそのまま城門らしき場所まで連行されてしまった。
「わ、分かったから!! 放して!!」
腕の骨が折れちゃう!!
「あ、ごめん。命の恩人を放ってはおけないから、さ」
僅かに朱に染まった頬でそう話す。
「それは理解出来たけどさ――。ユウの一存で私達勝手に入れてもいいの??」
後方からマイがのんびりとした歩調で歩み来る。
「勿論さ。あたしの父親はここの族長なんだから」
さり気なく衝撃の事実を話しますね??
まぁ、でも。さっきユウ様って言っていたし。かなり位が高いのは窺えましたけども。
「ふぅん」
あれ??
マイはそこまで驚いていないな。
何だか、当たり前って感じだし。
「てな訳で!! レノア!! わりぃけど入るぞ!!」
先程の女性兵へと向かってユウが声を上げる。
「畏まりました。では、引き続き警備を続けます」
「宜しくぅ!! じゃあ、我が里へご案内しましょうかね!!」
俺達に向かい、太陽もぽっと頬を染める軽快な笑みを浮かべてくれた。
程よく焼けた肌にその笑みは良く似合っていますよ。
だが、ここで一つの疑問が湧きます。
現在城門は閉まっている訳であって?? どうやって俺達をこの里へと迎え入れてくれるのだろうか。
裏に待機している城兵に声を掛けるのかな。
ユウの一挙手一投足に注目していると。
「ふふ――ん。ふんふんっと」
鼻歌を口ずさみ。
「よいしょっ」
城門の前にしゃがみ込み、真下に指を差し込む。
お、おいおい。
まさかとは思いますけど……。
「せ――のぉっ!! ふんがぁっ!!!!」
「「いやいやいやいやいや……」」
思わずマイと突っ込んでしまった。
ド太い丸太が数十本連なった上下開閉式の城門を、素手で持ち上げたんだぞ??
そりゃあ呆れて突っ込んでしまいますよ。
「ささ、入って入って!!」
しかも。
汗一つ掻いていない。
どういう仕組みなのですか?? あなたの体は。
「じゃ、じゃあお邪魔します……。ウマ子、頭下げて入れよ??」
『あぁ、邪魔しよう』
俺の言葉に従い、頭をひょいと下げ。
ミノタウロスの里へ、皆共にはじめの一歩を地面に着けた。
「ようこそ!! 我が里へ!!」
ユウの声と共に、後方から巨大な爆音が鳴り響く。
きっと城門が閉じたのだろう。
真正面に真っ直ぐ、只管真っ直ぐ道が伸びている。
その左右に優しい色の木製の家が立ち並び、それが左右奥へと続く。
後方の壁はこの里をグルリと囲んでいるのか。家々の後方にその存在を確認出来た。
うんっ!!
森の雰囲気と夕日の柔らかい明かりが相俟って、凄く綺麗だ。
「どう??」
俺の肩にポンっと手を乗せてユウが話す。
「凄く良い所だな」
一切の装飾を加えず。
心に思った事を述べた。
いつか、この世が平和になったのなら。時間がゆっくり流れるこんな場所に住みたいものさ。
「気に入ってくれて何よりだよ。ほら、厩舎あっちだ!! ウマ子を休ませてあげよう!!」
「だから引っ張らないで!!」
満面の笑みを浮かべ、俺の腕を引っ張ってくれるのは大いに嬉しいのですが。
如何せん。
力加減をもう少し覚えて欲しいものです!!
襲い掛かる痛みに若干顔を顰めつつ、彼女が誘う方向へと進んで行った。
◇
踏み心地の良い剥き出しの土の地面。
左右に連なる家々の合間を遅くも無く、速くも無い。丁度良い塩梅の速度で進む。
初めて見る光景に視界を奪われ続けて気付いたのだが。
ここの里の家は人間が住む家とは大きさが一回り違う。あれだけの巨体なんだ。致し方ないのかな。
「ユウちゃん!! お帰り!!」
「おう!! 只今!!」
「お――!! 帰ったか!! 流石、ボーの倅だな!!」
「おっちゃん!! あたしは女!!」
流石、族長の娘と言うべきか。人柄が良いと言うべきか。
人徳は大変良好の御様子だ。
こうして通りを歩いているだけで次々と声を掛けられるのだから。
只。
多くの敵が里を囲んでいるってのに、すれ違う皆の顔が朗らかなのが少々気になりますね。
「この里には何人住んでいるの??」
こんにちは、と挨拶を送ってくれたミノタウロスの女性にお辞儀を返しつつ問う。
「約千名だよ。自給自足の生活をこの森の中で行っているんだ」
千名、か。
多いのか少ないのか……。他の種族と対比してみないと分からないな。
「夏の小川で獲れた川魚に笑みを浮かべ、秋の訪れにふと寂しくなり。厳しい冬の寒さに顔を顰め。春の訪れに感謝し、温かい飯を食う。四季折々の風物詩を謳歌して細々と生きているよ」
「そっか。マイはここ大陸に食べ物を求めて飛来したけどさ」
ユウの隣。
何故か行き交う女性の胸元を注視し、コクコクと頷いている彼女を見つつ話す。
首、疲れない??
「ユウはこの里を出て、外の世界を見てみたいと思わないの??」
ここは確かに素晴らしい場所だ。
でも、それは俺が他の世界を知っているから言える事。
ここしか知らないユウにとって、客観的に判断出来る材料を得ることは良い事だと思うんだけどね。
「ん――……。うん。まぁ、そう、だな」
俺の言葉を受けると、明るい表情に少し陰りを見せた。
「どうした??」
触れてはいけない何かに触れてしまったか??
「その事に関しては追々言うよ」
「了解」
一つ頷き、ユウから視線を外して正面を見つめると。
巨大な屋敷が俺達を待ち構えていた。
美しい木目を強調させた外壁に曇り一つ無い窓が備えられ、背後から差す茜色を反射する。
二階建ての屋敷なのですが、人間の民家の二階建てとは訳が違う。
見上げるだけのも首が痛くなる高さを誇った屋敷に思わず声が漏れてしまった。
「すっげぇ……」
「はは、そうだろ?? あたしはもう慣れちゃったけど。慣れないとこの大きさに驚くかもな。さてっ!! 我が家にご招待っとぉ!!」
巨大な屋敷に良く似合う扉に手を押し当てて開き、彼女の後ろに続いて足を踏み入れた。
真正面にその存在感を放っている豪華な扉。
左右に長く続く廊下。そして、巨大な玄関の壁には二階に続く階段を確認出来た。
「どこもかしこもでかいわねぇ……」
首を抑えつつ、マイが話す。
「首、どうしたの??」
「すれ違う姉ちゃん達の胸を追っていたら自然と、さ。揺れ過ぎだろ。全く、腹が立つわ……」
そんな下らない事で筋を痛めないの。
「先ずは父上達に帰還の挨拶をする。こっちだ」
朗らかな顔がきゅっと引き締まり、真面目そのものの顔で正面の豪華な扉へと進む。
「ユウのお父さんって、厳格な人なの??」
厳戒態勢の中。
いきなり部外者を連れて来るのだ。
襲われたりしないよね……。
「ん――。時と場合による、かな。普段はどこか抜けているけど。今みたいな状況ではしっかりと引き締まっているよ」
その台詞は聞きたく無かった……。
「でも、安心しなって。何かあったら、あたしが身を挺して守ってやるからさ」
俺の肩をポンっと叩き。
美しい装飾が施されている鉄の扉を開いた。
扉の先には更に奥へと続く廊下があり、俺とマイはユウの直ぐ後ろをついて歩く。
「へぇ……。確かに、族長なだけあるわね」
踏み心地の良い木の廊下を進む中、マイがぽつりと言葉を漏らす。
「何か感じるの??」
「あんたは感じないの??」
えぇ、全く。
「強い魔物には、強い魔力が宿る。それをマイは感じ取ったのさ」
先頭を進むユウが話す。
「つ、つまり。離れていても、力が感知出来る程に大変お強い圧を放っているのか」
「そうね。しかも、二つも」
「二つ!?」
マイの発言についつい声が上擦ってしまった。
「あはは!! 母上も強いからね!! さ、到着だ」
廊下の終着点。
そこにある扉の前でユウが静かに歩みを止め、そして。
「ユウです」
扉を軽くノックした。
「入れ」
扉の向こう側から男性の野太い声が届く。
「失礼します」
ユウが此方に目配せを放ち、扉を開いた。
お願いしますから恐ろしい事態になりませんように。
祈る神はいないが、それでも願いを唱えずにはいられなかった。
「只今戻りました」
一段昇った位置に玉座に相応しい大きさと形を誇る物が二つ並ぶ。
当然、玉座には相応しい人物が座る。
此方から見て左側には暗い緑の短髪の男性が座り、右側には長髪の明るい緑の髪の女性が座っていた。
「ユウちゃん、お帰りなさいっ」
柔和な声を上げ、彼女の帰還を祝う明るい緑の髪の女性。
恐らく、ユウの母親であろう。
白を基調とした堅実な服装なのだが……。
胸元を開いている所だけは了承出来ない。何しろ、ユウと同じ位の大きさを誇っていますので。
「良く戻ったな。ユウ」
続け様に、ユウの父親が口を開く。
歴戦の傷が目立つ太い腕。
角ばった顔に生える剛毛な髭と眉。
茶の皮の上着を着用し、その中には黒いシャツを着ているが。そのシャツは盛り上がった胸筋で今も泣きそうな顔を浮かべていた。
鋭い目力には百戦錬磨の英雄も思わず固唾を飲んでしまう事であろう。
物言わずとも、強さを醸し出している強者。
第一印象はこの言葉に尽きるな。
「有難うございます、父上。敵の本部は予想した通り、此処から北西の位置にありました」
続きを述べろ。
そんな感じで一つ頷く。
「部隊長の姿は確認出来ましたが……。父上の考えていた証拠は発見出来ませんでした」
証拠??
何の事だろう。
「分かった。――――。所で、後ろに居る二人は誰だ??」
鋭い眼光が俺の体を穿つ。
「初めまして。私の名前はレイド=ヘンリクセンと申します。此方は龍族のマイ=ルクスと申します。実は……」
此処までに至る経緯を端的に説明する。
俺が口を開いている間、二人は此方の顔を見つめ時折小さく頷き。傾聴の姿勢を取ってくれた。
「……そして。ユウさんと出会い、此処に至ったのです」
上手く説明出来たかな??
要所は確実に抑えたつもりだけど……。
「わはははは!! そうか、そうか!! お前達が娘を救ってくれたのか!!」
「ふふ、有難う御座いました」
真面目な面持ちであった二人が途端に溶け落ち、笑みと笑い声を放つ。
ほっ……。
良かった。どうやら信用を勝ち取れたようだな。
「帰りが遅い訳はそういう事だったのか!! ユウ!! 感謝を述べたのか!?」
「え、えぇ……」
真っ赤に染まった顔を小さく上下に動かして話す。
そりゃあ恥ずかしいよね。
お腹が空いて倒れていたのだもの。
「レイド!!」
「は、はい!!」
巨大な声に思わず背筋が伸びてしまう。
「お前は南へと向かうのだな??」
「はい。任務がありますので……。ですが、ユウさんから御伺いしたのですが。彼女の提案を受け、もし宜しければ作戦に参加させて頂き。問題を解決した後に出立予定です」
うん。
間違っていないな。
その為に此処へ寄ったのだから。
「作戦を見事成功させた暁には『深緑のオーブ』 を貸してやる」
深緑のオーブ??
「それさえ持っていれば、茨が道を開けてくれる物だ」
「よ、宜しいのですか?? 見ず知らずの者に大切な物を貸し与えても」
「構わん!! 作戦を成功させる事が大前提だがな」
「有難うございます」
問題は、その作戦とやらだよね。
数日間。もしかすると、数十日以上掛るのかも知れない。
此方にも与えられた任務がある。可能であれば、数日間で終了させたいものだ。
「作戦の概要は娘から聞け」
「畏まりました」
彼の言葉に少々仰々しく頭を下げた。
「娘が初めて連れて来た男はどんな奴かと思えば……。随分と礼儀を弁えているな」
「そうする様に教え込まれて育ちましたので」
「ふふ、ならばお前の礼儀に免じ。俺の名を教えてやる。我が名はボー=シモン!! この里を統べる者だ!!」
大人の胴体程の太さを誇る腕をぎゅっと組んで仰る。
「その妻、フェリスと申します」
フェリスさんが静かに頭を下げたので、此方も慌ててそれに倣った。
「ユウちゃん。食事の用意まで未だ時間があるからレイドさん達を部屋にお連れしなさい」
「分かりました。じゃ、行こうか」
緊張が解けた表情でユウが話す。
「あ、そうそう」
何かを思い出したのか。
フェリスさんの発言が俺達の歩みを止めた。
「え、っとね?? レイドさん。ユウちゃん、そっちの方は初めてだと思うから……。優しく導いてあげて下さいね??」
「「ぶふっ!?」」
お淑やかな顔でとんでもない発言をしますね……。
堪らずユウと共に吹き出してしまった。
「か、かあ……。オホンッ。母上!! 絶対しませんよ!?」
「そうですよ!! 出会って間もない女性と、そういった関係は憚れます!!」
ほぼユウと同時に声を出す。
「中々気が合う感じじゃないですか。ユウちゃんも満更じゃない顔しているわよ」
「へ??」
間の抜けた声を出したユウの顔を覗くと。
「…………」
真っ赤な太陽も余裕で塗り替えられる赤で染まってしまっていた。
暑そうですね??
「おら、行くぞ」
「ぐぇっ!!」
マイが俺の襟を掴み、強制的に扉へと進み出す。
「は、放せ!! 気道が……!!」
「そのまま失神してしまえ。ユウ――。部屋、案内して――」
「分かった!!」
族長の部屋で奏でるべきでは無い音色を立てつつ、部屋を後にした。
しかし。
それでも、狂暴な龍の攻撃は止む事は無く。
新鮮な木の香りが漂う廊下に、情けない踵の二つの軌跡を残しつつ玄関先へと戻って行った。
続きます。
ブックマークして頂き有難う御座いました!!
身が引き締まる思いで執筆を続けていきたいと考えております。