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第二百四十五話 友人との唐突な出会い その二

お疲れ様です。


後半部分の投稿なります。




 明るい笑みの女神さんに手招きされ、それに誘われて一歩前に踏み出すと同時。


「あ、あぁ。うん……。先輩、ちょっと彼女と話してから戻ります」


 先輩から許可を得る為にクルっと振り返る。


「程々にしなさいよ。早く帰って来ないと食事が消えちゃうかもしれないからね」


「それは絶対止めて下さいっ!!!!」


「ふふ、冗談よ。ロティ、さんだっけ??」



 先輩が私越しに彼女を見つめる。



「あ、はい。そうです」


「気性が荒い子犬ちゃんだから噛みつくかもしれないけど。仲良くしてあげてね」


「ちょ、ちょっと!! 私をどこぞの馬鹿と同じ括りにしないでください!!」



 人前じゃなかったら噛みついて……。


 おっと。これじゃあ先輩の言う通りでは無いか。


 大人しい私はそんな事はしないのだよ。



「あはっ。噛まれたら怖いなぁ」


 こ、こいつぅ!!


 ワザとらしく両腕で体を抱きしめおって!!


 だが……。可愛いから許しましょう。


「じゃあ行ってきます!! ロティ!! 行くわよ!!」


「あ、待って下さいよ。パーネ!! 後宜しくね――!!」



 彼女と共に肩を並べて窯の奥に設置されている天幕の方へと進み出す。


 あそこが料理人達の休憩所なのかしらね。



「は――い!!」



 パーネが軽快に手を上げ、明るい笑みで私達を送り出してくれた。


 うぅむ。姉も然ることながら、随分若いのに妹も十分立派で端整な御顔をお持ちねぇ……。


 現に。



「君!! 名前何ていうの!? 今度どこか行こうよ!!」


 早速卑しい獣からお誘いの御言葉を頂いているし。


「あ――。お兄さん、ごめんなさいねぇ。私、年上の彼が居ますのでぇ。ほら、これ。彼から頂いた首飾りなんですよ――」


「そっかぁ……。残念……」



 若干大人し気な姉とは違いハッキリと物を言う。姉妹でこうも性格が別れているのか。


 姉の生真面目な性格を見て育った結果なのかしらねぇ。



「ねぇ、パーネって彼氏居るの??」



 今も元気良く煙を吐き出している窯の脇を抜けつつ、ロティへ問う。


 うっわ。凄い良い香り……。お腹空いたなぁ……。



「え?? 居るとは聞いた事が無いですけど」


「ふぅん。そっか」



 しつこい男の誘いを手っ取り早く振り払うには良い口実かもね。


 あぁやって現物を見せれば大抵の男の心はポッキリと折れちゃうのか。私も首飾りの一つや二つ、装備しておいた方がいいのかな。


 どうせだったら可愛い奴を買って……。


 でも、自分で買った物をあたかも。



『彼に買って貰ったの』



 と、堂々と言い放ってもいいものだろうか??


 嘘を付くのは余り得意では無いし。


 う――ん……。


 良く軍服を着用して街を歩いているから早々声を掛けられる事も無いし。やっぱり不必要ね。



「ここですよ」


 あら、もう到着??


「ここが私とパーネが使用している天幕ですよ。さ、どうぞ」


「はぁ――い。お邪魔します」



 彼女の招く手に誘われ、入り口の幕を捲り中へと進んで行く。



「ふぅむ。普通――の天幕ね」



 広くも狭くも無い半径三メートル前後の円。その円の淵に沿う様に支柱が立てられて幕を支えている。


 開口部から差し込む微かな光が照明代わりとなり冬の頼りない日差しでは若干暗く映ってしまう。


 そして、天幕の中に十分過ぎる程女の香が充満していた。この中に飢えた野獣を放り込んだら発狂しないかしら??



「普通でいいんですよ。はぁ――……。ちょっと休憩……」



 敷布の上にキチンと敷かれている毛布の上にコロリと横なる。


 って事は……。



「こっちがパーネの寝床か」



 姉の美しい長方形に比べこちらは菱形に変形してしまっている。


 こうも性格がはっきりした敷き方も早々無いわよ。



「もうちょっと綺麗に敷きなさいって言っても聞きやしないんだから……」



 ふぅと憂鬱に溜息を吐き、毛布の上でなまめかしく寝返りを打つ。


 うぉう……。私が男だったらあの美味しそうな太腿ちゃんに襲い掛かっている所だ。



「まぁいいじゃない、二人だけで使用しているんだし。そう言えばさ、さっき何を言いかけたの??」


 パーネが使用している寝床に座り、美味しそうなお肉さんへ話しかけた。


「あ、そうでした!!」



 今思い出したの??


 ぱっと上半身を起こしてこちらへ端整な顔を向ける。



「腕立て伏せですよ!!」


「午前の訓練がどうしたの??」



 私の奮闘を見て発奮したのだろうか。


 ふふ、女性で一番長く続けていたもんね!!


 さぁ、褒めなさい??


 万雷の拍手を迎える為、私は心の中で両手を大きく開いた。



「レイドさん、凄かったですよね!!」



 あ、あらら……??


 彼女が喜々としている理由は私の姿では無かったようだ。


 あの馬鹿真面目な姿を思い出したのか、乙女の様に瞳をキラキラと輝かせて少々荒い鼻息を放つ。



「あ――……。はいはい、凄かったですね――」



 別にあいつの事を誰がどう思うおうとも私には関係無いんですけどね??


 せめて!! 私の善戦について一言二言あってもいいんじゃないの??



「あっ。も、勿論トアさんも応援していましたよ?? 女性で一番でしたもんね!! かっこよかったです!!」


「そ、そう??」



 そこまで語尾を強めて祝わなくても宜しくてよ??


 我ながら情けない顔を浮かべているのだろう。背にムズムズとした痒さが発生しているのが良い証拠だ。只、ついでに祝って貰った感が否めないわね。



「作業の合間を縫って窺っていたんですけど。いやぁ、本当に驚きました。体力が自慢だと仰っていたのでそこそこ頑張るのかなぁっと思っていたら最後までやり切っちゃうんですもの」


「体力馬鹿なのよ、アイツは」


「そうだとしてもですよ?? 六百回も続けてしかも、休憩も無い。体力馬鹿だけでは説明出来ない何か……。そう例えば、熱い使命感にも似た志がなければとてもじゃないけど完遂出来ませんよ」



 説明出来ない何かねぇ。


 お金、じゃないか。あいつは銭勘定じゃ動かない。異動目当て、でも無さそう。


 只単に体を鍛えたかったんじゃないのかしら。



「鍛えたかったんじゃないの??」



 結局の所、これ以外の理由が思い浮かばなかった。


 アイツは散歩が大好きな犬の様に飼い主が帰るわよと言うまで広大な草原の中をずぅぅっと楽しそうに駆け回っていそうだもの。



「そうですかね……。でも、使命感に燃える男の人!! って感じで見ているこっちも手に汗握っちゃいましたよ」



 可愛い手をきゅっと握って話す。


 素人目にも滾る男の姿は胸に来るものがあるのか……。


 良かったじゃない、駄犬。


 ここに一人、あんたの事を労ってくれる子が居るわよ??



「その後の訓練は見ていないの??」


 話題を転換させようとさり気なく声を出す。


「見ていたかったんですけどね、配給の時間が来てしまいまして……」


「あぁ、成程。そこから地獄が始まった訳ね」



 次々と現れる性欲の塊共相手に四苦八苦。


 そりゃ疲れもしますわな。



「地獄って訳じゃないですけど。もうちょっと慎ましくして欲しいとは思いますよ」


「それは無理ってもんよ。普段から汗臭い野郎としか顔を合わせないんだから。枯れた大地に水を司る女神が降り立ったら誰だって飛び掛かろうとするでしょ??」


「女神……。大袈裟ですって」



 ふふっと笑う顔がまぁ憎たらしい程に眩しい事で。



「でも、さ。どうしてパン屋であるロティ達がここで配給をしているの??」



 市井の方々の有難い御厚意とビッグス教官は仰っていたけど、食料を提供してくれるお店は山程ある。


 ここで配給するとなればある程度の利益が生じる訳だ。


 それ目当てに希望する者は多いでしょう。誰だって目先の利益には弱いもんね。



「向こうで配給を仕切っている大きな人と父が友人でして。二つ返事で仕事を了承したそうですよ」


「ふぅん」


「あ、でも。仕事と言っても利益は雀の涙程だそうです。お店で普通に営業していた方が利益は出るって言っていましたね」



 思い出す様に宙を見つめて話す。



「じゃあ何で来たのよ」



 ちょっと私も横になろっと。


 パーネには申し訳ないけど、毛布使わせて貰うわよ。


 話し終えると同時に毛布の上で楽な姿勢へと移行した。



「父が言うには。『この国を守る者達の腹を満たす。料理人はその為に存在するんだ』 って言っていましたよ」


「うはっ。しっぶい」



 利益を放棄してまで私達の腹を満たしに来てくれたのか。


 本当、頭が上がらないわ。



「カッコいい事を言っていますが……。普段は母に下らないちょっかいを出して殴られているんですけどね」



 一家の大黒柱である父親が殴られているんだ。


 まぁ、下らないちょっかいを出す方が悪いんですけど。



「仕事の時は目付きと雰囲気がガラリと変わるんです。通常時にもあの雰囲気を醸し出してくれれば素直に尊敬するんですけど」



 足を抱え、お膝にちょこんと顎を乗せて話す。



「仕事と私生活は別。それが大人の分別よ」


「ふふっ、それは分かっています。常日頃から情けない姿を見ているからそれが頭の中に染み付いているから見えちゃうのかもな」


「でしょうね。――――。はぁ――……。帰りたい」



 おっと、本音が漏れてしまった。


 そりゃそうでしょ。


 これが終われば楽しい楽しい宴会が待っているのだ。


 今からでも訓練を抜け出して美味しいお酒を片手に舌が降参する程に食べ散らかしたい。



 それもあるんだけど……。当然他にも悩みの種はある。


 種じゃないわね、大地にどっしりと根を下ろした巨木とでも言えばいいのか。


 不帰の森を抜け私達を待ち構えているオークの大群。恐らく今日の訓練はアレに備えてのものなのだろう。


 大軍勢に対して私達の戦力は大海の中に浮かぶゴミ屑程度のモノだ。


 勝てぬ戦いの為に何で鍛えているんだろう。


 横になり気を抜くと後ろ向きな考えがふと浮かんでしまった。



「疲れてます??」


「ん――?? そうねぇ、体力云々は大丈夫。色々と考える事があるのよ」


「難しい、考えですか??」



 友を想う温かい視線が私の目の奥をじぃっと見つめる。



「心配してくれて有難うね。そうやって想ってくれるだけでも嬉しいよ」


「まだ何も言っていませんよ」



 ロティがふふっと柔らかい笑みを零す。



「その目を見れば分かるわよ」



 殺意や憎悪の欠片も見当たらない。真に友を想う温かな目だ。


 これ程励みになる視線を浮かべる人は……。あぁ、そうだ。あの駄犬以来かな。



「言い難い事があるのでしたら……。今は二人ですので、構わないと思いますけど」


「ん――ん。大丈夫!! ありがとう元気出たわよ!!」


 ぐんっと上半身を起こして言ってあげた。


「悩みがあったらいつでも言って下さいね?? 可能な限りお力になりますので」


「本当――??」


「勿論ですよ。トアさんは大切なお友達ですからね」



 ほほぅ。申したな??



「じゃあ私の胸を大きくして」


「えぇっ!? そ、それはちょっとぉ……」



 私の意地悪に素直に反応しちゃってまぁ。



「ほら、嘘付いた――」


「可能な限りって言ったじゃないですか!!」


「私は微塵の努力も感じていませ――ん」


「も、もう!! 意地悪しないで下さいっ!!」



 ごめんね?? 意地悪しちゃって。


 でも、ロティの顔を見ているとどうしても意地悪したくなっちゃうのよね。


 申し訳ないと思いつつも揶揄ってしまう。本当に素敵な関係よね。


 出来る事ならこの関係がこれから先、何が起ころうとも不変であると願いたい。


 日常生活に溢れるこの何気無い明るい笑みを守る為に私達は血と汗を流して己の技と体を鍛えているのだ。


 そう、全てはこの国で幸せな生活する人々の為に。


 ここで彼女と会えて良かった……。それを再認識出来たのだから。



お疲れ様でした。


人間側の話が続きますと魔物側の話が気になる読者様もいらっしゃるかと思われます。ですが、御安心下さいませ。


この訓練が終わればイヤという程に魔物側の話が続きますので。



現在のプロットの段階としては特訓初日の中盤まで書き終えた所ですかね。一筋縄ではいかない性格の人達ばかりなので四苦八苦しながら執筆しております。



それでは皆様、お休みなさいませ。

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