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第六十四話 狐の皮を被った恐ろしい二体の生物

お疲れ様です。


本日の投稿になります!!


それでは、どうぞ!!




 これから始まる模擬戦に備え、作戦を練る為に輪を形成。


 各々が沸々と湧き起こる高揚と、若干の緊張を滲ませた表情を浮かべ。我が隊の隊長の声を待つ。



「皆さん、作戦会議を始めます」



 隊長の声が小さく呟くと。



「「「……」」」



 輪の面々が小さく頷いた。



 いいぞ、皆気負っていない。それ処か、早く始まってくれと言わんばかりの表情に頼もしさを覚えてしまっていた。



「模擬戦の勝利条件は、モアさんの鉢巻きを奪う事です。恐らく向こうはメアさんを前線に送り、我々の鉢巻きを奪おうと画策する筈です」



 そう話し、己の額に巻かれた赤の鉢巻きを指す。



「モアが後方で待機して、メアが前衛か。うん、理に適っているな」



 ユウがコクリと頷く。



「向かって来るのは一人。この一人を封殺出来れば自ずと勝利が訪れます」



「つまり、メアを誰かが足止めして。んでもって、カエデ。若しくはボケナスを後方に置いてモアの鉢巻きを奪いに行けばいいのか」



 いい加減その名前で呼ぶの止めませんか??


 ここで釘を刺す様であれば、認めたと同義なので刺しませんけども……。



「おっし。じゃあ、あたしがモアの鉢巻きを奪いに行くよ!!」


「はぁ?? 美味しい所は私が担当するに決まってんじゃん」



 此方が制止しても突っ込んで行きそうですものね、あなたは。



 マイがクイっと片眉を上げユウを見つめた。



「あの御二人がどういった戦闘を好むのか未知です。私が最後方から様子を窺いつつ細かい指示を念話で送ります。マイとユウ、そしてレイドとアオイが二人一組の班で適宜対応して下さい」



「レイド様っ!! 宜しくお願いしますわ!!」


「あ、あぁ。宜しく……。それで?? 俺達はモアさんとメアさん。どちらを相手にすればいいのかな??」



 いきなり近付き過ぎですよ――っと。


 正常な男女間の距離を大いに間違え、男心を擽る香りを放つアオイから距離を取りつつ問う。



「モアさんの相手を務めて下さい」



 モアさん、か。


 あの狂気の目を浮かべた彼女と対峙して、果たして正気が保てるかどうか。



「おっしゃ!! じゃああたしとマイはメアだな!!」


「足止め処か、足腰立たなくなるまでボコボコにしてやらぁ!!」



 模擬戦でそこまでする必要はありません。


 相手を軽視するなと教わったばかりじゃないですか……。



「この模擬戦の勝利の鍵はマイとユウです。長く足止め出来ればそれだけ勝率が高まります。そこを重々承知の上で戦闘を継続させて下さいね??」



「おうよ!!」


「やってやらぁ!!」



 あの二人が勝利の鍵、か。


 普段はお茶らけていますけどもこういう時は随分と頼れますからね。


 二人が手を合わせ、パチン!! っと軽快な音を響かせると。




「お――い!! そろそろ始めるぞ――!!」



 メアさんが女性らしい体躯に似合わない声量で此方を促した。



「分かりました!! よし!! 皆、行くぞ!!!!」



 輪の中央へ、すっと手を差し出して話す。



「は?? 何すんの??」


「皆で手を合わせて気合を入れるんだ。やった事ないの??」



 怪訝な表情を浮かべるマイに話す。



「あぁ、そういう事。へへ、一番乗りっ!!」



 ユウが俺の上に温かい手を合わせ。



「レイド様っ。下から失礼しますわね」



 アオイが五本の指をきゅっと……。


 皆の死角になるのを良い事に甘く絡めて来るのでやんわりとそれを解除。



「へいへい。合わせればいいんでしょ」



 マイがユウの上に豪快に手を乗せ。



「皆さん。大変疲れているかと思いますが、この模擬戦に勝てば直ぐにでも休めます。息を合わせ、訪れた僥倖を勝ち取りましょう!!!!」



「「「おおおうっ!!!!」」」



 隊長殿の覇気ある声を受け、重ねた手を解散。




「うふふ……。久しぶりの運動ですからね。緊張しちゃいますよ」


「だな――。怪我しないように柔軟しないと」



 軽く体を解す二人と訓練場の中央で横一列となって対峙した。




「よぉ――。直ぐに鉢巻き取ってあげるから首を洗って待っていなさいよ??」



 マイが正面に立つモアさんの半月を見つめながら話す。


 あんまり直視しない方がいいよ、ソレ。


 目の奥に実はとんでもない狂気が潜んでいますので。



「あら?? 私の心配をしてくれるのですか?? 態々ご丁寧にどうも」



 ほぉ……。


 流石と言うか、当然だと言うべきか。


 マイの挑発にも乗らずサラリと受け流しましたね。


 あの手の挑発には慣れているのかな??



「ふふん。私の動きを捉えるのは骨が折れるだろうし。まぁ仕方がないわよね!!」


「骨が折れる処か、草臥れ果てて……。それは嬉しくて嬉しくてぇ。もう大変に苦労しそうですよぉ……」



 ほ、ほら!!


 あの目だ!!



 マイは腕を組んで得意気にフフンっと目を瞑っているから気付かないのか!!


 気付きなさいよ!! 絶対ヤバイ目なんだからっ!!



 くそう……。


 あの目を浮かべるモアさんに突貫しなきゃいけないのか……。


 今更変更しようなんて言ったら軟弱者扱いされるし。はぁ…………。


 今から胃が痛くなる思いですよ。




「では、勝負を始める!! 両者、離れるのじゃ!!」



「「「…………」」」



 互いに礼を放ち、距離を置いて再び対峙した。




「皆さん、作戦通りの行動を取って下さいね」


「わ――ってるって!! 私がぶっ倒してやるからあんた達はゆっくり茶でも飲みながら戦えばいいのよ」



 あの人の自信は何処から湧いて来るのだろうか。


 一度、機会があれば問うてみたいものだ。



「それでは……。始めぇえええ!!」



「おっしゃあああああ!! 行って来ま――――すっ!!」



 師匠の合図と同時にマイの体を薄い緑色の魔力が包む。


 風を颯爽と纏い、大地を駆け抜けて行った。



「はっやっ!! もうあんな位置かよ!!」



 モアさん達とは二十メートル程離れていたのに……。


 瞬き一つの間にメアさんの居る位置まで到達。



「おぉっ!! 速いじゃん!!」



 敵の侵入を許したというのに、一切動じない彼女。


 余裕を持っているという事は、アイツの速さに抵抗する術を持っている証拠だよな??


 嫌な予感がするぞ……。



 正面、うふふと柔和な三日月の瞳を浮かべるモアさんに駆け出しながらその様子を見守る。




「はっは――!!!! お昼寝してろやぁああああああ!!」



 嬉々とした表情を浮かべるメアさんの顔目掛け、マイの右手が襲い掛かるが。



「速さは上出来!! でも、真っ直ぐ過ぎるんだよ!!」


「ぃいっ!?」



 マイの体を半身の姿勢で躱し。



「食らえっ!!!!」


「アベラァッ!!!!」



 黄金色に光る右の拳を彼女の腹部に捻じ込むと……。



「っと。お帰り――」




 此方からメアさんへ向かって到達する時間の半分以下の時間で帰還しましたとさ。




「うげぇ……。昼ご飯、吐きそう……」



「無策で突っ込むからそうなるんだよっと。腹に食らって暫く動けないだろ?? そこで休んでろ」



 ユウが優しく受け取った小さなお肉を地面にポイっと投げ捨てると。



「あいたっ!! もっと優しく放れや!!」




 ポテンっ、と尻餅を付いて彼女を睨んだ。



「メアばかり楽しそうで羨ましいですねぇ……」



 モアさんが静々と体の前で両手を組んで、いつもの柔和な笑みを浮かべていると。



「ふぅっ!!」



 何と!!!!


 背後から四本の尻尾が生えるではありませんか!!



『どうやら狐さんは尻尾の数が増える程に強くなるようですね』



 鉄壁の防御を構築した最後方で構えるカエデが念話で此方に伝える。



 師匠もそんな感じだったし、多分そうだろうかと思っていたけど……。


 こうして見ると凄い圧だよな。


 四本が最高本数だと願おう。あれ以上強くなられたら手の施しようがない。




「モア!! 悪いね!! 先に一勝しちゃうわ!!」



 モアさん同様、いつの間にか四本の尻尾を腰に生やしてしまったメアさんが話す。



「あら?? もう鉢巻きを奪いに行くの??」



「うんっ!! 初戦は待ちの作戦だったけどぉ……。ウズウズして足を止められないからさ!!」



 やっべぇ……。


 来るぞ!!



「はぁっ!!!!」



 メアさんが立っていた地面から土埃が舞い上がると同時に、緑色の光の筋となって此方に襲来した!!



『皆さん!! 作戦を変更します!! 適宜迎撃して下さい!!』



「おう!! ユウ!! アオイ!! 俺達で抑え込むぞ!!」


「あいよ!!」


「分かりましたわ!!」



 襲い来る緑に対し、各々が迎撃態勢を整えた。



 さぁ……。


 誰に襲い掛かるんだ!?



 師匠に教わった構えを取り、汗がじわりと滲む手をぎゅっと握った。



「先ずは!! レイド!! お前だぁ!!」



 でしょうね!!


 鉢巻きを奪取したら勝ちですので!!



「ふぅっ……。ふんっ!!」



 体の中央から力を集め、龍の力を解放。



 メアさんから放たれた恐ろしく速く、どんな屈強な戦士も冷や汗を流してしまう右の豪拳を左手で往なし。



「ふんっ!!」



 体の中央。


 腹部付近へと右の拳を突き上げた。



「おっわっ!!」



 おぉ!!


 直撃するか!?



 もう間も無く着弾し、柔らかい肉の感触が拳一杯に広がると思いきや……。



「へへっ。残念っ」


「は?? わぁっ!?」



 背後からにゅっと伸びた一本の尻尾が右手を絡み取り。



「はぁい。宙へ舞いま――す!!」



 空中に浮かされ。



「そしてぇ。激痛が背骨を襲います――」


「あぐっ!?」



 無防備となった背中に嫌な音が発生。


 大地に叩きつけられ、刹那に呼吸が止まってしまった。



 くそっ!! 油断した!!



「レイド様っ!! おのれぇ!!」


「貰ったぞ!! メア!!」



 左右同時。


 ユウとアオイがメアさんに向かって急襲。




「おっとぉ!! 同じ角度で向って来たら駄目だぞ!?」



「へっ!?」



 大地を何処までも疾走する猪も合格点を叩き出す直進を続けるユウであったが……。



「ユ、ユウ!! 止まりなさい!! きゃあ!!!!」



 目の前から突如として獲物が消失したら、猪の突撃は当然止まらない訳だ。



「いつつ……」


「ふぅ!! このふざふぇた!! 物体をふぉかしなさい!!」


「お、おぉ。悪い悪い……」



 アオイを緩衝材にして猪さんの突撃は漸く止まってくれました。



 ってか。


 こうして見ると、ユウのアレって人の頭をすっぽりと収めてしまう程に……。




「んっふふ――。前衛が早くも崩壊。最後方の指令役が丸裸だなぁ??



 視線を元の位置に戻すと、メアさんがカエデに今にも襲い掛かろうと深く腰を落としていた。



 いかん!! 可笑しな光景に目を奪われている場合じゃない!!


 痛む背を抑え、何んとか立ち上がりカエデの援護に回ろうと立ち上がるが……。


 ここから間に合うか!?




「あめぇ!!」




 流石、馬鹿みたいに体が頑丈だな!!


 受けた攻撃から復活したマイがメアさんの背後から襲い掛かる。



「おぉ!! もう復活したのか!?」


「あたぼうよ!! 私の体は鋼よりも強く出来ているんだから!!」



 マイの攻撃は確かに速い。


 メアさんが先程言った様に直線的且、直情的だから組み伏し易いのは理解出来るけど……。



 それを見切ったからといって、あぁも簡単に馬鹿げた速さの攻撃を避けられるものなのか??




 左右の拳の連打の合間に放たれる強烈な蹴りも難なく躱す姿に何か違和感を覚えてしまった。




「ユウ!! 加勢しろい!!」


「おう!!」



「おっしゃあ!! 二人同時に料理してやるよ!!」



 マイの右の拳を皮一枚で躱し。



「どぉおっせい!!」



 腰を落としたユウの体当たりを。



「ほっと」



 軽く宙へ飛んで躱し。



「ほい、転んでね――」


「いでぇっ!!!!」



 通過させた彼女の背中に尻尾の一撃を加えた。




 何でメアさんは周囲の光景が見えるのだろう……。背中に目でも付いているのだろうか??


 そこを解明しない限り俺達の攻撃は当たらないのか??


 何か……。そう絶対何かある筈なんだ。


 その何かが理解出来ず、掴み取れずに漠然な想いが心の中一杯に広がる。




「レイド様!!!! 後ろですわ!!」


「へ??」



 メアさんの一挙手一投足を見逃すまいと注視していたのが不味かった。



「ふふ。こんにちはっ」


「っ!?!?」



 クルリと振り返ると、そこには恐ろしい半月を浮かべているモアさんがまるでそこに存在していないかの様に立ち。



 柔和に曲げた半月の目の奥に潜む狂気をギラリと光らせ、俺を見上げていた。



 嘘でしょ!?


 全く気配を感じなかったぞ!?



「はいっ、レイドさん脱落ですっ」


「うおっ!?」



 右手が襲い掛かって来たので思わず飛び退いて躱したが。


 モアさんの追撃が一歩勝り。背後から伸びて来た二本の尻尾に鉢巻きを奪取されてしまった。



「うふふ。先ずは一つ目ですね」



 赤い鉢巻きを手に持ち、クルクルと回して堂々と此方に向かって勝利宣言を放つ。


 その姿、若しくは俺の負け様が気に入らなかったのか。



「こ、この馬鹿弟子がぁあああああああ!! 呆気なく取られおって!!!! こっちへ来い!! 説教じゃあああああ!!」


「は、はい!!!!」



 怒りに比例して尻尾が何んと!! 六本に増えてしまった師匠の下へと。


 足の筋力が捻じ切れても構わない勢いで駆けて行った。



 







 ◇









「貰ったぁあああ!!」


「はいっ、残念ですね」


「ドブッ!?」



 モアさんが放った拳によって肉が弾ける鈍い音が訓練場に響き渡り、マイの体がふわりと宙へ浮き上がり。



「ユウさ――ん。お土産で――す」



 追撃の回し蹴りが腹部へ着弾。



「そんなもん要らねぇから寄越すなぁ!!」



 僅かに離れている位置で尻餅を付いているユウに向かって、有難ぁいお肉のお届け物が届いてしまった。



「「うぶっ!?」」


「まぁ……。うふふ。深紅と深緑の花が淫らに絡み合ってしまいましたねぇ……」




「ユウ!! 退けぇ!!」


「お前こそ何処に手を突っ込んでいるんだ!!」



 御二人共。


 もう少し、考えて行動しましょうよ。


 いや、これには俺も当て嵌まるんだけども……。



「どこを見ておるのじゃ!!」


「いでぇっ!!!!」



 六本の内、一本の尻尾が俺の頭を強烈に叩く。


 その衝撃で目から綺麗なお星様が飛び出てしまいました。



 頭を叩かれるのはこれで何度目やら……。


 昼から開始されたこの模擬戦ですが、空が朱に染まってもモアさんの鉢巻きを奪取出来ずにいた。



「はい!! また私達の勝ちっ!!」


「わっ!!」



 メアさんにカエデの鉢巻きを奪われ、これで……。



「情けない!! 十戦相対して、一つも良い所が無いではないか!!」


「申し訳ありません。何分、あの二人が強過ぎるのですよ……」



 人数の利で勝っているというのに、まるで勝てる気がしない。



「言い訳無用!!」


「いだいっ!!!!」



 今度は二本の尻尾が頬を打ち抜く。



「よいか、良く聞け!!」


「は、はい」



 痛む頬を抑え、硬い大地にキチンと膝を折って師匠を見上げた。



「戦いは常に状況が変わる。戦場に渦巻く殺気の数々が何処に向けられているのか。刹那に見極め、殺気の矛先を捉えるのじゃ!!」



「つまり、モアさん達は俺達の攻撃の気配を読んでいる。そういう事ですか??」



 恐らくこういう事でしょうね。



「違う!!」


「アデバッ!?」



 せ、せめて!! 二本までにして下さい!!



 三本の尻尾が顔面を捉え、地面に叩きつけられてしまった。



「攻撃の気配では無い!! 相手の気を読んでいるのじゃ!!」


「そ、その違いが分かりません……」



 訓練場の上に転がる小石の苦い味が広がる口を開いて話す。



「極光無双流の教えを思い出せ。さすれば、自ずと理解出来るじゃろう!! 下がって良し!!」



「し、失礼します……」



 確と頭を下げ、猛烈に痛む頬を抑えながらマイ達の下へと進み出した。



「お帰り――」



 綺麗な緑の髪が土に汚れ、台無しになってしまったユウが労いの声をで迎えてくれるが。



「只今」


「声、つめたっ」



 そりゃ冷たくもなるさ。



 鉢巻きを取られたら師匠の下へと呼び出され、尻尾。若しくは大変硬い拳を捻じ込まれていますからね!!


 十回以上も無慈悲な攻撃を受け続けたら誰だってこんな声を出すさ!!



 男らしい速度で地面へと座り。誰かを睨んでは空気が悪くなるので、むすっとした表情で空を睨んでやった。



 くそう……。


 いつになったら勝てるのやら……。


 清々しく晴れ渡った空が憎らしいや。



「いつつ――……。カエデ、何んとかしなさいよ。このままじゃ私達。負けたまんまで淫魔の姉ちゃんと対峙しなきゃいけないんだから」



 腕の擦り傷を痛そうに撫でつつマイが話す。




「それは理解しています。ですが、皆さんが私の思い描いた動きを取ってくれないが為。指示に僅かな遅れが生じるのです。その遅れが積み重なり、統制が取れないのです。 彼女達はどういう訳か、自強化の付与魔法以外は使用していません。そして、その状態でも速さ、膂力。全て此方が勝っている状況で負け続けているのですよ?? 負ける要因は此方に見当たらないのです」




 しっかりして下さい。


 そう言わんがばかりに大きな溜息と共にカエデが言葉を漏らす。



「はぁ?? じゃあ、何よ。私達がカエデの指示に従わないが為に負けてるって事??」


「その通りです。何度も同じ事を説明させないで下さい」


「「……」」



 おっと!!


 こいつは宜しく無い雰囲気ですね!!


 朱の瞳と、藍色の瞳が正面衝突すると巨大な火花が宙に飛び散った。



「二人共、そこまで」


「まぁ、落ち着けや」



 一触即発の空気を察知した俺がカエデを宥め、ユウがマイを宥める。



「カエデは戦況を俯瞰し状況が変わる中。的確な指示を送っているんだ。俺達がそれに対応出来ていないのは……。カエデと同じく、俯瞰して状況を見ていないから。カエデは俺達にそれを伝えたいんだろ??」



 むぅっと顔を顰め、地面の一点を見つめている彼女に問う。



「その通りです」



「うん。だから、マイ。俺達もカエデと同じ視線を持つことに意識しよう」



「あんな激しく動き回っていたら俯瞰するも何も、ゴッチャゴチャになるから分かんないじゃん。私は直感で動いているのよ!!」




「直感に頼っても良い。でもな?? 戦いでは戦況が常に変わる。その中でもあの二人が向けている殺気を見失うなと師匠から教わったんだ。カエデは最後方から俯瞰して戦況を見つめている、そして俺達は殺気が渦巻く戦場に身を置いている。互いが互いの意識を汲む事。それが勝利へと繋がるんだと俺は考えているよ」



 これが物凄く難しいんだけど……。


 師匠は俺達にそれを伝えたかったのだろう。



「つまり、あたし達は相手の攻撃を予想しつつ。敵の位置と、味方の位置を把握。んでもってぇ」



「二人の殺気の方向を読み、その向かった先の味方の援護に回る。そして、援護された者と二人で対処するのですわ」



 ユウの言葉をアオイが補完した。



「負け続けて気付いたんだけどさ。あの二人、声を出さずとも示し合わせた様に移動したり。又は攻撃を加えて来ただろ??」



「まぁ、そうね……」



 眉をぎゅっと寄せ。


 明後日の方向を見つつマイが話す。



「此方の動きを二人が共有している。つまり、出鱈目に動いている訳じゃない。考え、先の行動を予測して動いているんだ。モアさん達が出来るのなら、俺達にも出来る!! 駄目もとでやってみようじゃないか!!」



 恐らく。


 これが出来ない限りは勝てないだろうな。


 師匠はその事を俺達に伝えたかったのだろう。


 暴力は余分でしたけどね。



「おう!! あたし達の力、存分に見せてやろうじゃないか!!」



 ユウがマイの肩に腕を乗せる。


 こういう空気の中、ユウの快活な性格は本当に助かるよ。俺一人じゃ、とてもじゃないけど御しきれる自信は無いからね。



「わ――ったわよ!! やればいいんでしょ!! やれば!!」


「ふふ――ん。マイちゃんに出来るかなぁ??」



 餅みたいにぷくぅっと膨れた頬へ、ユウがツンツンと指で突く。



「止めろ!! うっし。カエデ、悪かったわね。強く当たって……」



 勢い良く立ち、カエデに男らしい背を見せつつ話す。


 ちゃんと顔を見て謝りなさい。



「いえ、私も少々強く言い過ぎました。語弊があったのは認めます」



 良かった。


 何んとか仲直りは出来たみたいですね。



 この二人が喧嘩するなんて珍しいよな??


 それだけ、勝負に掛ける想いは強いって事ですね。



「お――い!! 次、始めるぞ――!!」



 相も変わらず元気一杯なメアさんが此方に向かって手を振る。



「はいっ!! 良し!! 皆、行くぞ!!」



 こういう時は少々大袈裟に話す位が丁度良いんだ!!



 皆の前に一番で飛び出し、遅いぞと言わんばかりに駆け出した。



「だから!! 私の前に出るなって何度言わせれば気が済むのよ!!」



「さぁって、次は勝ちますかっ」


「ユウ、お願いしますからそのふざけた胸を私の顔に密着させないで下さいね??」


「ん――。善処する――」


「善処では駄目ですわ!!」



「ふぅ――……。行きましょうか、勝利を掴む為に」



 カエデの一言を受け。


 皆が真剣な面持ちのまま、依然此方を見下した態度を保つ二人へと向かって行ったのだった。


最後まで御覧頂き、有難う御座いました!!

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