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第二百二十八話 我が上官の珍しき姿

おはようございます。


休日の午前中にそっと投稿を添えさせて頂きます。




 背に感じる生命の温かい鼓動。


 鼻腔を擽る野性味溢れる獣の香りと、自然そのものの藁の香りが体内のシコリを溶かし傷ついた精神を修復してくれていた。


 誰しもが羨む好環境に身を置き誰にも邪魔される事無く睡眠を摂取する。


 眠りとは本来こういうものだ。


 例え王様が使用する高価なベッドで眠りに就いてもこれ程までに安眠は出来ないであろう。それ程までに体は弛緩しきっていた。



 このまま何も考えずにずぅっと眠っていたい。


 自分本位な考えだろうが激務を終えた俺にはこれ位の我儘は許されるであろうさ。


 自分自身にそう言い聞かせ心地良い環境に身を委ねていると、ふと誰が俺を呼ぶ声が聞こえて来た。



「……ドさん??」



 誰、だろう。


 どこぞの暴れ龍の所為でいつもよく眠れていませんのでもう少し眠っていたんですけど……。



「……イドさん」



 あぁ、もう。五月蠅いなぁ。


 偶には静かに寝かせてくれよ……。


 何かを振り払う様に邪険に手を動かすと。



「っ!?」



 う、ん??


 妙に温かくて柔らかい何かに接触したぞ?? このふわもち触感を例えるのなら……。物凄く柔らかい御餅??


 手の平にふわぁっと感じる温かくそして大変柔らかい物体を掴みきゅっと握り締め、その感触を楽しんでいたら太腿に刺痛が突如と発生。



「レイドさん!! 起きて下さい!! そんな所で寝てたら風邪引きますよ!!!!」


「いでぇ!!」



 その痛みが体中に伝播し、素晴らしき夢の世界から非情な事実が跋扈する現実に帰って来るとそこには……。



「もぅ。どうしたんですか?? こんな場所で眠りこけて」


「はれ?? ルピナス、さん??」


「はいっ。おはようございます!!」



 目元が隠れる程にまで黒の帽子を深く被り、紺の作業着に身を包むルピナスさんが俺の前にちょこんとしゃがんでこちらの様子を窺っていた。


 ここに訪れる時に想像した通りの彼女の姿が現れ今も夢の中では?? と疑ってしまうが。



「起きましたか――??」



 朗らかな笑みを浮かべ、人差し指でこちらの頬を突く刺激が現実であると実感させてくれた。



「寝ちゃったか……。ふわぁぁぁあ」


 顎の関節を最大限にまで稼働させて新鮮な空気をお腹一杯に取り込むと目に涙が浮かぶ。


「もう一度聞きますけど、こんな所でどうして眠っていたんですか??」


「あぁ……。実はね??」



 温かい雫を拭いつつ、ここで二度寝に至るまでの経緯を端的に説明してあげる。


 勿論、空間転移で移動して来た事は伏せてだ。


 普通の人は魔法やら魔物やら。


 非現実的な事を理解しようとはしない。頭のおかしい奴と思われたくないのですよっと。



「――――成程ぉ。つまり、合同訓練が始まるまで時間が余り。ウマ子と暫く会えなくなるので様子を見に来て……」


「それでそのままぐっすり眠りこけたのさ」


「お疲れなんですねぇ」



 しみじみと頷きながら話す。



「人並みにね」



 魔物と共に鍛えている所為で体中が悲鳴を上げているとは言い難い。


 そう考え、ありきたりな言葉で返してあげた。



「ふふ、寒い季節ですからね。疲れも中々取れないんですよ」


「温かい季節が恋しいよね。過酷な冬を乗り越え、温かい日差しを受けて育った山菜でも食みながら……」


 そこまで話すと、ふと重要な疑問が湧いてしまう。


「どうしたんですか??」



 俺の顔は余程変な顔になっているのだろう。


 帽子の奥から覗くルピナスさんの瞳は不思議そうに何度もパチクリと瞬きをしていた。



「ルピナスさん」


「はい??」


「今、何時か分かります??」



 少々おっかなびっくり問う。


 そう、二度寝をしてしまった所為で時間の感覚が大きく狂ってしまっていたのだ。



「今ですか?? 家を出たのが……。六時前くらいですから。七時を少し過ぎたところですかね」


「はぁぁぁ――。良かったぁ……」



 彼女の言葉を聞き安堵の息を漏らした。


 遅刻なんてしてみろ。上官やらレフ少尉から大変ありがたいお叱りを受けるばかりか最悪、除隊なんて事も有り得る。


 いかんなぁ。気持ちが弛んでいる証拠だ。


 両手に力を入れ、両頬をピシャリと叩いて己に気合を注入してやった。



「さて、と。いつまでも休んでいる訳にはいかんし。報告書を提出しに行って来るよ」


「もう行かれるのですか??」



 もう?? 仕事の邪魔だから早く出て行け、ではないのですかね。



「ここにいると凄く安らぐからね」



 今も等間隔に膨らんでは収縮する温かい背のお肉を一つ叩くと。



『何をする!!』

「いてっ!!」



 俺の態度が気に食わなかったのか。ウマ子の後ろ足が俺の体を捉えてしまった。



「ふふ。仲が良いですねぇ」


「そりゃあ御主人様ですからね。なぁ、そうだよな??」



 今も藁の上に頭を乗せている彼女へと視線を送るが。



『ふんっ。好きに捉えろ』



 視線を合わさず、荒い鼻息で答えた。


 全く……。視線くらい合わせなさいよね。



「お前さんはもう少し人を敬う事を覚えろ」


 ぐっと背を預けてやる。


『善処しよう』


「あ、あの――……」


「どうしました??」



 正面でしゃがみ続けているルピナスさんから申し訳なさそうな声が届く。



「まだ場所、空いていますよね??」


「え?? あぁ、多少なら空いていそうですね」



 左隣。


 女性一人分の背を預けられそうな空間がぽっかりと空いていますし。



「じゃ、じゃあ座っちゃおうかなぁ!!」


「ウマ子――。別にいいよな??」



 意外と礼儀に五月蠅い彼女に視線を送ると。



『好きにしろ』


 もう面倒だと言わんばかりの呆れた視線をこちらに送り長い鼻息を零す。どうやらお許しを頂けた様だ。


「では!! 失礼しますっ」


 ぽふんっとウマ子に背を預け、俺に倣い足を前に投げ出す。


「おぉ……。本当に気持ちが良いですね」


「二度寝をしてしまう気持ちを分かってくれました??」


「はいっ。私もついつい眠たくなってしまいそうですよ」



 えへへと軽快な笑い声を乗せて話し、そして手に持っていた布を徐に開く。



「あのぉ。朝御飯、まだですよね??」


「えぇ。朝も早かったのでお店も開いていませんでしたし」


「で、では。残り物で良かったら召し上がりますか??」



 何を頂けるのでしょうかと口を開きかけると彼女の手から純白の三角形が現れ、その美しく整った形に思わず惚れ惚れしてしまう。


 究極まで腹を空かした者なら彼女の了承を得る前に勢いそのまま、彼女の手にかぶりついてしまうだろうさ。



「おにぎりですか!!」


「朝ご飯用に作ったんですけど。如何、ですか??」


「勿論頂きます!! いえ、頂かせて下さい!!」



 あの三角形を視界に捉えてからというものの、腹の機嫌が途端に悪くなっているし。


 それに朝飯抜きで訓練は昼までもつかどうかさえ怪しいものだ。


 卑しいどこぞの龍の如く二つ返事で言葉を返す。



「味に自信はありませんけど……」



 そう言いながら美しい三角形をこちらに差し出してくれる。


 俺は少々卑しいと思われる手の動きを披露しつつそれを受け取り早速口へと迎えてあげた。



「頂きます!!」


「どう、です??」


「う、美味い……」



 人が作ってくれる御飯ってのはどうしてこうも身に染みるのかしら……。


 それはきっと料理にその人の心が温かい感情が籠り味に伝わっているのだ。


 いつも自分が食欲の権化に尻を叩かれて作っている所為もあってか、余計に有難みを感じている事では無い事を祈るばかりですね。


 白米の僅かな甘味、舌を喜ばせる丁度良い塩梅の塩気。そして咀嚼すればホロっと崩れる塊に酔いしれ言葉を発した。



「大袈裟ですよ」


「いやいや。前回も頂きましたが……。中々に美味ですぞ??」


「褒めても何もあげませんからね??」



 俺が何か差し上げたい気分ですよ。


 単純な料理程難しい物は無い。このおにぎりが良い例だ。


 米の選抜、握り加減、塩気、具の取捨選択。


 様々な行程が幾重にも重なり作り手を大きく悩ませる。いざ、握ろうにも炊き立てホカホカのお米さんは大変ご立腹だ。


 気を抜いていると火傷しちゃうし。


 水で手を湿らせ、好きな塩梅で塩を纏わせ握る。


 考えながらでは到底この味は出せない。そう、きっとルピナスさんは体でこの握り加減を覚えているのだ。


 毎日馬の世話をしているのに実は裏で料理人の仕事を手伝っているのでは??


 そんな事を想像させてしまう味に大きく頷いた。



「実はココナッツのパンで朝食を済まそうと考えていたんですけどね??」


「ふぁ――。あそこのふぁんは絶品でふからね」


「モゴモゴしていますよ」



 ふふっと可愛い声を漏らして話す。



「どういう訳か、一昨日からお店が休みなんですよ」



 ほぉ、何か急用でも出来たのかな。


 新作のパンを開発する為に店を閉めている、とか??



「一昨日から??」


 咀嚼し終えた口内の米をゴクンと飲み込んで話す。


「えぇ。あのお店人気だから店が閉まっていると肩をガックリと落として帰って行く男性の方々が沢山いましたね」



 それはきっと、看板娘さんの笑顔を見られないからだと考察出来ます。


 あれは破壊力抜群だからなぁ……。


 もう残り半分のおにぎりにかぶりつきながら、看板娘さんの笑みをぼうっと思い浮かべていた。



「新作のパンでも開発しているのでは??」


 今しがたぱっと浮かんだ考えを話す。


「そうですかね。新作かぁ。ちょっと期待しちゃいますね」


「期待に胸を膨らませつつ、開店を待ちましょう」


「はいっ!! あら……。もう食べ終わったんですか??」



 空白になった俺の手を見つめて若干呆れに似た声色を放つ。



「美味しい物は直ぐに無くなっちゃいますからね」


 人差し指に残った一粒の米を口に含んで話す。


「宜しければ……。もう御一つ如何です??」


「いやいや。流石にそれは……」



『もう一個頂戴っ!!!』



 アイツなら有無を言わさずに二個目をふんだくっていきそうですけども。他人の物を堂々と平らげるのは流石に憚れますよ。



「お腹空いていなんで。それに、後二つありますから」



 さぁどうぞと言わんばかりにあの美しい三角形がまた現れた。



「じゃ、じゃあもう一つ呼ばれようかなぁ!!」



 ここで断ったら空気が悪くなってしまうし、人の好意は素直に受け取るべき。


 己に都合の良い解釈と能書きを垂れ、俺の手をあまぁく誘う白い三角形へと手を伸ばした。



「ふふ。そんなに慌てなくてもおにぎりは逃げませんよ」


「ふぉうですね」



 形容し難い声と明るい女性の声が入り混じり、冬の寒空の下とは思えない温かい空気が馬房に広がる。


 二人の人間が放つ温かな空気は他の馬房で過ごす馬達にも伝わり、彼等も温かい空気にどこか満足気な表情を浮かべていた。


 しかし。



『……っ』



 二人の人間の背もたれになっていた彼女だけは、迷惑そうな顔を浮かべて早く去ってくれないかと面倒くさそうに尻尾を大きく揺れ動かす。



「それでトアさんと……」


「へぇ!! トアとまた出掛けたんですか??」



 彼女の小さな願いは叶う事は無く。


 己が感情を察して欲しいが為に負の感情を籠めた長たらしい鼻息を放つものの……。二人の人間は彼女の願いを一切気に留めず口から陽性な言葉を次々と放ち、狭い馬房の空気を温め続けていた。
























 ◇





 不機嫌であった腹も存分に満たされ、賢い馬の柔らかい背もたれのお陰で寝不足も解消され、実に清々しい気分のままで二本の足を交互に動かす。


 この爽快な気分を例えるのなら……。限界まで切れ筋を追い求めた包丁で豆腐を切った時に見せる凹凸面の無い切り口とでも言おうか。


 スっと、すぱっと。一切の抵抗無く切れた時の快感に良く似ている。


 まぁ……。俺なりの感想だから人に伝えても首を傾げてしまうだろうさ。


 青一色に染まった空の下、清々しい気分のまま少しの汚れと痛みが目立つ木の扉を叩いた。



「失礼します!! レイドです!!」


 おっと。声量が少々大きかったか?? 近くの家屋の屋根で翼を休めていた雀達がムッと顔を顰めて俺の顔を見下ろす。


 まだ朝も早い時間だ、近所迷惑は宜しくないよね。



「――――。入れ」



 俺の声量とは正反対の弱々しい声が扉と木枠の僅かな隙間を縫って此方に届いた。


 随分と元気が無い。風邪でも引いたのかな??


 空気は乾燥しているし、日頃の生活態度が体調に直結する季節だ。不規則な生活が病をもたらすと言ってもいいでしょう。



「失礼します」



 今度は控え目な声を出して、軋む扉の音を出来るだけ響かせない様に優しく開いて入室した。


 いつもはお気入りのコップで紅茶若しくは御茶を啜りながら、これまたお気に入りの新聞や雑誌を読みつつ俺を迎えるのだが。


 今日は趣向が変わっている。



「ウ゛ゥ゛……」



 腕を枕代わりにして机に突っ伏し、軍属の者とは了承し難い覇気の無い姿でこちらを迎えた。



「おはようございます」



 何があったのか。


 それを伺う前に先ずは挨拶だ。


 そう考え、蟻も思わず耳を傾けてしまう声量で声を発す。



「あ、あぁ。おはよう」



 うぉぉ……。


 徹夜明けの俺と遜色ない……。いや、もっと悪いぞ。


 目の下は真っ青に染まり、顔全体は土気色に変色し。


 ついさっき無念の死を遂げた死人が最後の気力を振り絞って顔を上げたかと刹那にも思ってしまった。


 あ、いや。死人さんの方がまだ顔色が良いかも。



「だ、大丈夫ですか??」


「この顔を見て大丈夫だと思うのか?? お前は」



 レフ少尉の体調を汲んで心の底から労わる気持ちを籠めて優しく話しかけたのに乱暴な台詞が返って来る。



「そうは思いません。風邪、ですか」


「違うよ。飲み過ぎたんだ」



 あぁ、二日酔いだな。アレは確かにキツイ。


 水面に出現した凶悪な渦よりも目が回り、師匠にぶん殴られた時よりも意識が朦朧となるまでネイトさんに飲まされたら地獄の業火すら生温い悲惨な結末を迎えたからな。


 人間の体にはこんなに水分が蓄えられていたのかと不思議に思うくらいに口から大量のと……。


 いかん、思い出したら胸焼けがしてきたぞ。大体アレはマイとユウがいらんちょっかいを出した所為で大瀑布も真っ青な程にもどしてしまったのだ。


 苦い思い出はそっと心の奥に仕舞って厳重な鍵を掛けておきましょう。



「二日酔いですか……」


「そうだよ。どこぞの馬鹿タレが阿保みたいに飲ませたからな!! アイタタ……。大声を出すとまだ痛む」



 では、叫ばなければ??


 そう言いたいのをぐっと堪えた。



「仲の良い御友人と遅くまで飲んでいたんですね」


「そうだよ。お前も良く知るビッグスとだよ」


「ビッグス教官とですか?? それまたどうして」



 彼も彼で訓練生を鍛える事で忙しい身だ。


 訓練生達の手本となる手前、遅い時間まで飲むとは考え難いんですけど。



「今日からお前達は合同訓練だろ??」


「はい。訓練へと出発する前に報告書の提出と出発の挨拶に参った次第です」



 背嚢を床へと下ろし、肩から掛けている鞄の中から大量の書類を机の上に置く。



「それで、訓練を……。うっぷっ」



 お願いしますからそこで吐かないで下さいよ??


 大切な書類なんですから。


 俺が心血を注いで作成した紙の一枚を手に取り、何かをグッと堪えて話す。



「訓練を??」



 はぁい。ゆぅっくり深呼吸してから話しましょうねぇ。


 上官へ向かっては決して言えない言葉を心の中で呟きつつレフ少尉の様子を窺う。


 彼女の口から何かが飛び出して来たら速攻で紙を救出しよう。俺の血と涙の結晶を気泡に帰す訳にはいきませんのでね。



「はぁ……。はぁ……。お前達の訓練の担当を受け持つ事になって。それで馬鹿みたいに気合が入ったみたいでな?? それのとばっちりを受けたって訳」



 そう言えばビッグス教官とスレイン教官が俺達の合同訓練を受け持つと仰っていましたな……。



「あ、あはは。それは大変でしたね」



 俺達を指導出来ると考えて燥ぐのはビッグス教官らしいよ。


 あの人、強面なくせにどこか幼い一面があるし。



「もう少し静かに話せ。頭に響く……」


「申し訳ありません」



 これ以上小さくすると地面の蟻さんも思わず耳を傾けて聞き取ろうとする声量になってしまいますよ??



「本当はもう少し上の階級の連中達が受け持つ予定だったんだけど。お、お偉いさん方はお前達が持ち帰った情報を頼りに連日会議で訓練にまで手が回らないそうだ」



 ほぉ、それは初耳ですね。



「何か大きな作戦でも練っているのでしょうか」


「だろうなぁ。そうでもなきゃ、たかが大尉のアイツに白羽の矢が立つ訳ないだろ」



 たかが大尉と仰いますけどね?? 俺から見れば随分と上の階級なんですけど……。



「まぁそれでも今回が最後の合同訓練になるから私達の大将が直々に様子を見に来るって話もある」


「大将……。マークス総司令ですか??」


「そうだ。彼だけじゃないぞ?? パルチザンのお偉いさん方々に政治家、そして私達に大枚を叩いてくれている姉ちゃんも来るってよ」



 姉ちゃんって。



「シエル皇聖が?? それまたどうして」


「お前、さっきから質問攻めだな。私の状態を鑑みての行動なのか」



『日頃のお返しです」



 何て言った日には脳天に短剣を穿たれてしまうであろう。



「気になりますからね。体調に障ったのなら謝ります」



 取り敢えず無難な返事を返しておいた。



「後に控えている作戦を想定して、兵達の練兵ぶりを直に焼き付けたいと考えているのだろうさ。ひょっとしたら新しい作戦に向けて新規の法案を通す事も想定しているかもな」


「それなら納得出来ますね」



 政治家達の思惑は恐らくレフ少尉が仰った通りであろう。


 今現在の兵達の姿を見て、その新しい法案とやらの草案に着手するかどうか。又は推敲を繰り返してより良い草案を練るべきか決定する。


 だが……。



「ですが、シエル皇聖は何故??」



 そう。


 立法、若しくは行政機関に身を置く彼等の立場を鑑みれば納得出来るが。一市井の身分である彼女は俺達の様子を見る権利は無いだろう。


 最大の出資者という立ち位置を利用しての行動なのだろうか。



「知らん」



 お、おう……。


 素晴らしく短く、そして己の考えを的確に現した言葉で返されてしまった。



「まぁ、あれだろ。沢山金払ってんだから、それに似合った行動をしているかどうか気になるんだろうさ。大金払ってだらしない行動をしていたら誰だって腹が立つだろ」


「まぁ、そうですね」



 う――ん。


 動機としては悪くないけど。


 たったそれだけの理由で、たかが訓練の様子を見に来るのだろうかね。



「兎に角。お前の取った行動はお偉いさん方の目に留まるんだ。その御咎めが私にも飛んでくるかも知れないから、しっかりとお勤めを果たして来い」


「それは、はい。抜かりなく」



 いつもは大変お強い方々と対峙していますし。


 味変じゃあないですけど、普通の人間と肩を並べて共に鍛えるのは貴重だ。


 高揚していないと言えば嘘になる。それに……。同じ釜の飯を食った連中も居るかもしれないし。


 ちょっと楽しみなんだよね。



「では、これ以上ここに居たら御迷惑かと思われますので出発します」



 そろそろ出発しないと集合時間に遅れてしまいそうだしさ。



「ん――。体調が回復したらこっそりお前の様子を見に行くよ」


「…………。え??」



 俺は余程迷惑そうな顔を浮かべていたのだろう。


 こちらの表情一つで真意を見抜いたレフ少尉の顔が悪魔の顔へと一瞬で変容してしまった。



「おぉ?? そ――んなに私の事が気に入らないのかぁ??」



 懐から短剣を取り出していつもの如くクルクル回し始めるが、二日酔いの所為か僅かに手が震えている。


 いつもは正確無比な投擲だけど。今日は大きく的を外しそうですね。


 つまり。


 予想外な場所へ飛翔してしまう可能性を大きく秘めている。



「ち、違います!! 体調不良を案じてです!!」


 足を狙った短剣が頭を穿つ可能性もあるのだ。


 ここは下手に出た方が良い。


「ふんっ。怪しいもんだ」



 はぁ――……。助かった。


 冷徹な殺し屋の様な冷たい表情を浮かべて俺の心臓に狙いを定めていた短剣が見えなくなると大きな安堵の息を吐き出した。



「では、行って参ります!!」



 ここに身を置いて居ては命が危い。さっさと出て行くのが正解です!!


 背嚢を背負い、外から射す強い光に負けじと大きく声を張り上げた。



「喧しいと言っているだろ!! うぁぁ……。駄目だぁ。頭が割れるぅ」



 竜頭蛇尾となった声量にちょっとだけ安心感を覚えてしまう。


 あれだけ辛そうなんだ。


 様子を見に来られる事は無いでしょうね。そのまま静かに休んでいて下さいっ。


 頭を抱え、悶える一人の女性を背に俺は大変静かに扉を閉め。澄み渡る空の下に己の体を曝け出してやった。



 さてと!!


 古き良き仲間達の顔を拝みに行くとしますかね!!


 我が上官とは対照的に背に羽が生えたかの様に意気揚々と大通りへと向かい。二本の足を軽やかに、そして素早く前後に動かしながら移動を開始した。



お疲れ様でした。


本日は大変天気が良いのでこの後、部屋の掃除や愛車の洗車。そして買い物等々。休日のルーティーンを行おうかと思います。


勿論、それを終えてからプロット執筆をしますけどね。



何だかんだで忙しくなりそうな気配がプンプンします……。


いいねをして頂き有難う御座います!!


執筆活動の励みとなりました!!



それでは皆様、引き続き良い休日を過ごして下さいね。

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