表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
667/1237

第二百二十六話 勝利は誰の手の中に その一

お疲れ様です。


本日の前半部分の投稿なります。




 訓練場の中央付近に近付くにつれユウとカエデが放つ魔力が色濃くなり、巨大な手によって五臓六腑を握り締められる様な圧倒的圧力が体の中を突き抜けて行く。


「ふぅ――……」


 深緑の髪の女性は首を左右に傾けてその時に備え。


「……」



 藍色の髪の女性は只々静かに深緑の瞳を見つめて闘志を高めていた。



 おぉ……。決勝戦が始まる前から白熱していますな。


 二人の間に迸る視線の火花が舞い散り見ている者の高揚感を刺激している。



「二人共良い感じじゃない」


「だね――!! 漲るって奴だよ!!」


「マイ達も間近で見たかったのか??」



 右隣り。狼の頭の上に乗る太った雀とその下の彼女へと話す。



「そりゃもう!! ユウちゃんとカエデちゃん。全然違う戦い方だから気になってね!!」



 片や力。片や魔力。


 得意とする種類そのものが正反対の二人だ。


 ルーが話す様に、俺も彼女達がどんな風に戦うのかが気になって仕方が無い。



「ユウさんも、カエデさんも良い表情していますね!!」


「はは、アレクシアさんも近くで見たかったんですね」


「そりゃもう!! 実力者同士の戦いですもの。気にならないと言えば嘘になります!!」



 正確に言えば戦いじゃあありませんけどね。


 ユウが得意とする力で相手を捻じ伏せるのか。将又カエデの豊富な種類の魔法で突き放すのか。


 一挙手一投足が見逃せないぞ。



「二人共、準備はいいか??」


 審判役のリューヴが静かに声を出す。


「あぁ、いつでもいいぞ」


「準備万端です」



 声量は小さいが秘めたる闘志は漲っている。


 良い気合だぞ、二人共。


 俺達は固唾を飲み、勝負開始の合図を待った。



「分かった。では……。始めぇっ!!!!」



 始まった!!


 開始と同時にユウが襲い掛かると思いきや。



「「…………」」



 意外や意外、一向に二人が動く気配を見せなかった。


 いつもは五月蠅い者達だが今だけは口を開く事を躊躇い、シンっと静まり返った広い訓練場の上に一陣の風が通り過ぎる音だけが静かに響く。



「ど、どうしたのかな?? 二人共」


「多分、ユウは気付いているのよ」


「マイちゃん、どういう事??」



 頭の上の龍へ問う。



「ほれ、見てみ。カエデの手」


「カエデちゃんの?? ――――。あっ!!」



 ユウの奴め、初手を読み切ったな!!


 カエデの両の手の平にはここからでは捉えられない程の僅かな空気の渦が発生していた。


 あれに向かって愚直に力を解き放っていたらきっと気持ち良く吹き飛んでいただろうさ。


 相手に対する明確な攻撃魔法は禁止されているが、相手が攻撃してきた時は別。


 つまりカエデはユウの血気盛んな攻撃を見越して待ちの一手を打った訳か。



「流石ですね。ユウ」


「あたしの事を只の馬鹿力が取り柄の暴れ牛だと思っちゃあ困るなぁ」



 特に表情を変えないカエデに対し、ニっと笑みを浮かべるユウ。


 問題は次の展開だな。


 比較的気性の荒いユウが襲い掛からないとしたら、こちらから攻めるしかない。


 しかし、力で劣るカエデに打つ手はあるのだろうか?? 付与魔法である程度の身体能力向上は見込めるものの……。あの怪力無双の前じゃ児戯に等しいだろうし。


 やはり待ちの一手を……。



「では、こちらから行きますよ!!」



 う、嘘でしょ!?


 カエデが愚直に真っ直ぐユウの手の平に向かって己が手を突き出すではありませんか!!


 静かな立ち上がりを予想していた俺の斜め上を行く展開に思わず目を見開いてしまった。




『わたしのちからはつよいんだからね!!』


 まだこの世の道理を全く理解していない子熊が母熊の目を盗んで毒蛇に対して真っ向勝負を挑み。


『ッ!?』


 その姿を捉えてしまった母熊のヒュッと息を飲む変な呼吸音が俺の口から漏れてしまった。




「はっ!! 迎え撃ってやるよぉぉおお!!」



 そしてこれを待っていましたと言わんばかりにユウがカエデの倍の速さで手を突き出した。


 両者の手と手が合わさった刹那。


「「っ!!!!」」


 空気を割る破裂音と共に両者の体が左右反対方向に弾き返された。



 いやいやいやいや。


 カエデが弾き返されるのは分かるよ?? 体重差と力を加味したら自ずとその結果になるだろうし。


 だけど、ユウが弾き飛ばされるのは理解し難い。



「うおぉっ!!」


「くっ!! 何て力ですか……」



「「「「おぉ――――!!」」」」



 両者共に譲らず。元の位置へと体を戻して再び対峙した。



「ね、ねぇ。カエデちゃんどうして吹き飛ばなかったの??」


「俺が分かる訳…………」



 俺がそこまで話すと、背筋と首筋の肌が苦い顔を浮かべて一斉に泡立った。



「レ、イ、ド。なぁに、している……。のっ」


「ぎぃゃあっ!! な、何すんだよ!!」



 女の甘い吐息を突如として耳元に吹きかけられて奇声を発しない奴は居ないだろうさ。


 五月蠅い心臓を抑えて振り返ると。



「ヤッホ――。何か楽しそうな事しているから見に来ちゃった」


 淫魔の女王様、エルザードがほぼ寝間着姿で笑みを浮かべていた。


「おいおい。その恰好……。今まで寝ていたのか??」



 だらしなく開いた胸元、そこから覗く肌は彼女の髪の色と同様にほんのり薄っすらと桜色へと変色している。


 年頃の娘を持つお父さんみたいにキチンと胸元を閉じなさいと言えればどれだけ楽か。


 例えそう伝えたとしても彼女は俺の話に全く聞く耳を持たないので無意味なのですよっと。



「そうよ――。二日酔いでね?? さっき起きてお湯に浸かっていたらさぁ。楽しそうな雰囲気がプンプン匂って来たから急いで出て来たの」


 だから髪の毛が微妙に濡れているのね。


「で?? あそこで対峙しているのはど――して??」


「あぁ、実はな……」



 ここまでに至る経緯を端的に説明してやった。


 話している最中。


 ふんふんと頷く姿がどうにも気が抜けてしまうのは何故でしょう。



「――――。と、いう訳で。あそこで戦っている二人は御褒美、若しくはこの中で最強足る証明を残す為に対峙しているんだよ」


「ず……」


 ず??


「ずっるい!!!! 何でそんな大事な戦いに私を呼ばなかったのよ!?」



 大変お美しい御顔がむんずっと空間を削って来るものだから思わず一歩引いてしまった。



「何でって。ほら、師匠から運動は禁じられてるだろ?? だから、お遊びついでにと思ってした訳ですので呼ぶ必要は無いかと」


「私も参戦するわ!! だって……。優勝したらレイドを奴隷に出来るんでしょ!?」


「はぁ??」



 こらこらお嬢さん?? 誰がそんな事を言ったのかな??


 一族を代表する女王に対して些か失礼な態度であるとは思うけど。


 ついつい気の抜けた声を発してしまう。



「御褒美ってそういう事だもん!! カエデ!! ちょっと私と代わりなさい!!」


 俺の脇を通り抜けて生徒の下へと大股で進む。


「御断りします。私とユウは一回戦から順に勝ち抜けて来ましたので」



 そりゃそうだよな。


 いきなり代われと言われても他の者共が了承するとは思えないし。



「あっそう!! おら、そこに居る糞雑魚ナメクジ達!! 私が全員纏めて倒してあげるから掛かって来なさい!!」



「「――――。ナメクジィ??」」



 エルザードの肝が冷える発言に対し、俺の予想通りにリューヴとマイが眉を顰めた。


 あの人達を挑発しないで!! 収拾が付かなくなるから!!!!



「い――い!? 美味しいおまけが付いているんだから。私には当然それに参加する資格があるの!! だから今直ぐ……。んぐぅ!?」


「は、はは。二人共、ごめんね?? 思う存分戦って下さい……」



 場を混乱させてしまう良く動く口を後ろから抑え、そのままズルズルと戦いの場から離してやった。


 マウルさんから伺った昔の彼女の渾名、『混沌』。


 正しくぴったりだとこの時初めて思ってしまった。



「ふぁ――な――せ――!!」


「今は大人しくしましょうね――。二人の戦いを見届けましょうね――」


「んぅぅ!!」



 私は子供じゃない!!


 抗議の色の瞳を浮かべるエルザードを無視してやった。



「へへ、ちょいと場が混乱しちまったけど。気は途切れていないよな??」


「勿論です。ユウの方こそ靴紐が解けていますからお気を付けて」


「え?? ――――。どわぁっ!?」



 ユウが視線を下に送った瞬間を狙い済ましてカエデが手を押す。



「不意打ちなんてずっりぃぞ!!」


「視線を切る方が悪いのです」



「なぁ、エルザード」


「ふぁぁに??」



 あ、ごめん。塞いだままだったね。


 彼女の御口からすっと手を離して再び問う。



「もう――。もっとくっついていたかったから手を離さなくてもいいのに……」


「カエデの体重からしてユウを吹き飛ばせるとは思えないんだけど??」



 イケナイ雰囲気を放つ彼女を一切合切無視して己が真に聞きたい問いを尋ねる。



「あぁ、私以外にはまだ分かんないかな。重力操作、それと大地の力を付与して体重を増やしているのよ」


「体重を?? 因みに今何十キロくらい??」



 カエデの身長から察するに……。通常は四十前後ってとこか。


 それがどの程度に増えたのだろう。



「何十キロ?? 桁が違うわよ」


「は、はぁ??」


「千は優に超えているわ」


 せ、千!?!?


「うっそ。カエデちゃん、今そんなに重いの!?」


 俺とエルザードの会話を聞いていたルーの耳がピンっと立つ。


「そうよ。カエデ――、どうせならもっと重くしなさぁ――い」


「先生!! 余計な事を言わないで下さい!!」



 成程。そういうカラクリだったのか。


 通りでユウの一撃を食らっても吹き飛ばなかった訳だ。



 ――――。


 あれ?? ちょっと待って。



「と、言う事はだよ?? ユウは馬鹿げた重さに屈すること無く。いや、違うな。数十倍以上の重さで襲い掛かる加重を素の力で押し退けたって事になるよな??」


「そこは見ていなかったけど。押し退けたら事が事実なら、そうなんじゃない??」


「「……」」



 どうやら皆俺と同じ考えに辿り着いた様だ。


 ユウの馬鹿げた力に対して呆気に取られてしまっていた。



「へへ。なぁるほどねぇ……。通りで重い訳だ……」


 カラクリを見抜いたユウが笑みを浮かべる。


「重量操作が露見してしまっても、以前私が有利な立場に立って居る事には変わりありません。さぁ、どうします?? 正々堂々と向かってきますか??」



 自分の数十倍の体重をどうにかするには、恐らくそれを跳ね返す強力な力が必要だよな??


 問題はその力の源をどうするか。



「エルザード」


「ん――?? よっと……」


 何の遠慮も無しに俺の体にとんっと背を預けて話す。


「馬鹿げた重量の物体を動かす為にはそれを越える力が必要なんだよね??」


「そうね。あんっ……。押さないで」



 一人の男性を如何わしい気分にしてしまうイケナイ香りが漂って来たので肩を優しく押し返してあげた。



「つまり、だ。ユウはカエデの重量をどうにかしないと勝ち目は無いよな??」


「勿論そうよ。だけどおもぉい物を動かす為、力を増幅させる簡単な方法があるわ」



 ほぅ。聞きましょう??



「速さよ」

「速さ??」



「そ。例えばぁ……。丸い球体が力を受けて、ツルツルの床を滑って行くとするわ。もし、その物体が止まっていればずぅっと動かないし。動いていればずぅっと動いて行くわよね??」


 まぁ、そうだろうな。


「制止している球体に力を加えたら、力の方向に向かって速く動くわよね??」



 エルザードが何かを指でトンと突く仕草を取る。



「そりゃ力を加えたら動くだろうな」



「これがものすごぉく大切なのよねぇ。物体に力が作用すると力の向きに動く。その大きさは力の大きさに比例し、質量に反比例するの。つまり、どういう事か分かるかしら??」


 いいえ。全く。


「超簡単に説明すると、重たぁい物を速く動かせば動かす程力が増すって事よ」


「――――。あぁ、そう言う事か。つまりユウが押し負けない為には素早く腕を押し出せばいいんだな」


「そ。正解っ」



 はぁ、良かった。合ってた。



「でも、ユウの体重から考えると。相当な速さで動かさないと駄目なんじゃない??」


「そりゃそうよ。どうやってその速さを生み出すのか。楽しみよねぇ」


「その事についてカエデは……。当然知っているよね??」


「私に弟子入りする前から知っていたわよ――っと」



 こちらへ再び背を預けて話す。


 ユウが速さを生み出す、ねぇ。マイやルー、そしてリューヴなら容易いだろうが……。その対極に位置する彼女にとってそれは困難を極めるであろう。


 横着な淫魔の女王様の頭頂部から二人の戦いへと視線を戻して次なる一手を見守った。



お疲れ様でした。


現在後半部分の編集作業中ですので次の投稿まで今暫くお待ち下さいませ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ