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第二百十八話 直ぐそこにある命の危機 その二

お疲れ様です。


後半部分の投稿になります。




 何かを請う様に煌びやかに瞳を輝かせて俺を見上げる我が師に視線を送る事無く仕事に没頭していると。


「腰が痛むのじゃよ――」


 膝元から我儘な狐の女王様の声が放たれた。


「自分も痛いのですから我慢して下さい」


「腰が痛いなぁ!! 足も疲れたなぁ!!」



 子供じゃないんですから……。


 そう言いたくなるのをぐっと堪えて別の言葉を放つ。



「マイ達から聞きましたよ?? 師匠とエルザードが滅魔達を退けたって」



 この話を聞いた時、俺はより一層師匠を敬う気持ちが高まってしまった。


 マイ達が手を焼いて辛酸を嘗めた強力な相手、しかもその化け物じみた二体の滅魔を同時に相手にしたというではありませんか。 


 流石と思い驚く自分もいれば、師匠の実力ならばと半ば当然だと思ってしまう自分も居た。


 どれだけの鍛錬に励めばその高みへと登れるのか。そしてどれだけの時間を費やせば良いのか……。考えるだけで頭が痛くなる。


 師匠達が築き上げた実力の基礎は誰が相手でも決して揺るがない。本当に素晴らしい限りですよ。



「んふふ――。当然じゃ。儂は史上最強じゃからな!!」


「その所為で、その……。腰を痛めたので??」


 多分、そうだと思うんだけどな。


「無きにしも非ず、とでも言うべきかな。奴らは儂達が戦った頃より力を付けておってのぉ。手を焼いたのは確かじゃな」



 それは初耳だな。



「因みに以前と比べてどの程度力を付けていたのでしょうか??」


「ん――……。そうじゃのぉ……。二倍、いや三倍??」



 口元に細い指を当てて考え込む仕草を取る。


 その仕草がど—―も、十六、七の女性にしか見えない。この姿を見て齢三百を超える御方とは誰が思うであろうか。



「と、言う事はですよ?? 師匠とエルザードは以前よりも数倍力を付けた滅魔二人に対し、拮抗する処か。退却を決意させる程の力を発揮したという訳ですね??」


「そうじゃよ」



 たった一言で済ませるべき事じゃないと思うんだけどなぁ。


 詰まる所、師匠達は滅魔共が力を蓄えている間も激しい稽古に励み。それを越える力を身に付けたって訳だ。


 常日頃の鍛錬が実を結ぶ。


 俺も今以上に稽古に打ち込まなきゃな。生きている間に師匠、いや。大魔の方々と肩を並べられる実力を得ないと。


 その為には一体どれだけの血と汗を流さなきゃいけないんだろう??


 想像しなきゃいいのに常軌を逸した稽古をふと想像してみた。



『百年早いわ!! この戯けが!!!!』


『うげぶっ!?』



 想像しなきゃ良かった……。


 己の口から血と吐瀉物が混ざり合った液体が零れて大地を汚し。自身の腫れ上がった顔が脳裏に浮かび、背中の毛が一斉に泡立ってしまった。



「どうしたのじゃ??」


「え?? いえ。二日後行われる合同訓練の事を考えていました」



 厳しい稽古を想像していました――。


 何て言った日には。



『何!? そうかそうか。精進したいと申すのか!! 良かろう!! 儂が直々に足腰がへし折れるまで鍛えてくれるわぁ!!』 と。



 燦々と輝く太陽を彷彿させる笑みを浮かべてサラっと恐ろしい言葉を仰るのだろう。



 勿論。腕を上達させたいのは本音ですよ??


 問題は程度なのですよ、程度。やり過ぎた訓練は好影響を与える処か、体を蝕む毒にしかなりませんからね。


 食然り、運動然り。


 何事も分相応の量が大切なのです。



「お――。そう言えば言っておったな」



 コロンと寝返りを打ち、端整な御顔を俺の腹に向けて仰る。



「訓練と名が付くものですからそれ相応の鍛錬に励めると思うのですが。如何せん、どの程度まで己の実力を発揮すればいいのか。その塩梅が難しいのですよ」



 前回の任務の移動中の組手ではトアやイリア准尉、そしてルズ大尉相手にもちょっと手加減しちゃったし。


 大勢の人前で全身全霊の力を発揮する訳にはいくまいて。



「そうじゃなぁ……。お主の力を加味して……。実力の二割も出せる相手が居れば御の字じゃな」


 二割、か。


「間違っても本気を出すでないぞ?? お主が度を超えた力で人間の腹を打ってみろ。『向こう側』 の景色が覗いてしまうからのぉ」


「了解しました。分を弁えてそれ相応の実力で臨みます」


「うむっ!! 力を抑えるのも立派な稽古じゃなからな!! それと……」


「はい??」



 再びクルリと寝返りを打ち、俺の顔を下から覗く。



「その合同訓練とやらが終わったら、お主は一月程休みなのじゃろ??」


「はい。任務を見事成功させた褒美だそうです」



 それと訳の分からない褒賞金も出ましたけどね。


 彼女から何かを受け取る事自体に億劫になってしまうのは何故だろう??


 まぁ凡そシエルさんに貸しを作りたく無いと心が判断しているのだろうさ。



「その合同訓練を終えたら、お主は儂らと共に稽古へ出発するぞ」


「本当ですか!?」



 これは僥倖だな。


 前回は怪我の所為と任務もあってかマイ達に帯同出来なくて悔しかったし。


 その所為で実力の差が開いてしまったと考えると、どうも歯痒い気持ちが拭えなかったんだよね。


 筆を持つ手を止め、こちらを見上げている師匠の顔をしっかりと捉えて声を上げた。



「お、おぉ。妙に嬉しそうじゃの??」



 急に俺の顔が向けられて驚いてしまったのか。


 師匠の瞳の中に浮かぶ向日葵さんがきゅっと大きく見開き、一本の尻尾がピンっと体の側面へと伸びる。



「そりゃあそうですよ。マイ達との組手は何の遠慮も無く己の全てを発揮出来ますからね!!」



 想像したら余計に高揚してきてしまったぞ。



 全力で右の正拳を打ち抜き、渾身の力を籠めた列脚を放つ。しかし鉄壁がそれを弾き或いは風に揺れ動く柳の如く躱されてしまうのだ。


 どれだけ己が全力を尽くそうとも聳え立つ壁は動じない。


 その壁に嘆き項垂れてしまいそうになるのを必死に耐え、歯を食いしばって何度も立ち向かう。これこそ武の頂点に立つ為に必要な過程なのさ。



「ある程度実力が拮抗しておらぬと消化不良になってしまからな」


「えぇ、全くその通りです。一月の間、ここで鍛えるのですか??」


「これ、人の話はちゃんと聞け」



 フワフワの尻尾が俺の頭を一つ叩く。



「あいたっ。どういう事です??」


「儂は稽古へ『出発』 と言ったじゃろ??」



 そう言えば、そうだな。


 師匠の顔から視線を外して数十秒前の会話を思い出した。



「ここではない、何処かへ向かうのですか??」


「正解じゃ。儂らが昔拠点として使用していた南方の島へと向かうのじゃ」


「島、ですか」



 何だろう。


 あの忌々しい筍擬きの所為であまり島という単語に対して素直に気持ち良い感情を抱けない。



「南方に位置するから今の時期でも十分に温いぞ」


「所で、その島に竹は生えていませんか??」


「はぁ??」



 師匠の小さな御口から素っ頓狂な声が響く。



「いえ、気にしないで下さい」


「可笑しな奴じゃな。その島はな、ここと同じくマナの濃度が濃く人も住んで居らぬからどれだけ暴れても御咎め無しなのじゃ」


「無人島、ですね」


 これまた嫌な予感がぬるりと湧いて来る。


「安心せい。お主が想像するけったいな生き物は住んでおらぬわ」


「それなら良かったです。その島は何故無人島なのですか??」



 凡そ、呪いだとかなのだろう。


 これこそ安易かしらね??



「大陸から離れておるし。それにその島の近海にはな?? 人を食らう鮫が……。ウヨウヨと泳いでおるのじゃよ」



 おどろおどろしく仰られたが……。


 どうもその可愛い御顔で話されても今一恐怖感が伝わらないのですよっと。



「何だ、鮫ですか。それなら大丈夫そうです」



 見るだけで正気度を狂わす幽霊、呪殺を可能とした漆黒の呪い、この世の理から外れた超越の数々。


 この手の類は物理攻撃を無効化されてしまいそうだし。


 鮫なら何んとかなりそうかも。



「少しは慄け。つまらんじゃろうが」


 今度は二本の尻尾が俺の頭をピシャリと叩いた。


「いてっ。鍛えてくれるのは大変嬉しいのですが、腰の調子が宜しくないのに大丈夫ですか??」



 激戦の後だ。


 その余韻が今もきっと残っているだろうし。師匠だけじゃない。マイ達……。特にカエデの容体が心配だ。



「なぁに、二日も寝れば完治じゃ!!」



 むんっと胸を張って仰る。



『呆れる程に丈夫ですね』

「そう、ですか」



 言いかけていた言葉を慌てて変えたものだから舌を噛んでしまった。



「何じゃ??」


 目をパチクリさせてこちらを見上げる。


「気になさらず。――――。カエデは大丈夫ですか?? 状態が芳しくないのなら、見学という事も考えられますけど」


「あ奴らも儂に似て頑丈じゃから大丈夫じゃろう。お主がその訓練から帰って来るまで一切の運動を禁じてやったわ」


「治療に専念しろと??」


「そうじゃ。見た目は元気そうじゃがな、魔力もそして体力も全快には至っておらぬ。今はしっかりと体を休め、吐き気を催す程の稽古に向けて備える時なのじゃ」



 吐き気、か。


 それだけ俺達の事を想ってくれているのは大変喜ばしいんだけど。


 加減ってものをそろそろ覚えて欲しいです。



「了解です。あいつらが暴れるようでありましたのなら、咎めておきますね」


 まぁ、聞きやしないと思うけどさ。


「お主では制御出来ぬじゃろ」



 にっと笑って仰る。



「はぁ……。正中線のど真ん中を穿つ言葉を仰らないで下さいよ」


「なはは!! 儂は何でもお見通しじゃからなぁ」



 フワフワの尻尾で俺の頬を突く。



「くすぐったいです。では!! 仕事を再開させます!!」



 これ以上仕事が滞るのは了承し難い。


 まだ二割程度しか終えていないのだから。


 二日後、向こうに到着するまでに終えなければいけないのでね!!


 憎たらしい紙の一枚を手に取り、手元に置き再び筆を走らせた。



「じゃ――から――。そんな紙の相手をせずとも――。儂の相手をせ――い――」



 この姿勢が気に入らないのか。


 右腕に一本の尻尾が絡みつく。



「……」


 師匠に対して些か失礼かと考えられるが、それを若干乱雑に解き筆を取る。


「無視しても無駄じゃぞ――。儂はここから動かぬからな――」



 右の太腿にポスンっと頭を置き直し。不動の姿勢をこちらへ堂々と見せつけた。



 何んと言いますか……。


 皆と居る時、師匠はちゃんと師弟関係を保った節度ある態度を取ってくれるんだけど。


 二人の時はど—―も、普段の態度とは真逆の態度を醸し出すものだから対応に困るのです。


 現に。



「んふふ――。お主、また傷跡が増えたの――」



 嬉しい時に出現してしまう狐特有の獣耳が頭頂部からにゅっと生え、陽性な感情を惜し気も無く出してピコピコと動き。



「んぅ?? これ、姿勢が悪い。背筋を伸ばして作業せい」



 口角がきゅっと上がり、三本の尻尾を器用に動かして俺の体に絡みつき姿勢を正してくれる。


 どうしてそんなに嬉しいのだろうか。


 まぁ恐らく弟子が仕事に勤しむ姿が嬉しいのだろう。無理矢理そう思い込む様にして、尻尾の動きに身を委ねつつ手を動かし続けた。



「うむっ。これで、よしっ!!」



 俺の背筋に御満悦してくれたのか、一つ大きく頷いてくれる。



「暇じゃ――」

「自分は暇ではありません」



 しまった。


 誤字を見つけてしまったぞ……。訂正印を押してっと。



「腰を揉め――」

「生憎、両手は塞がっていますので」



 えっと……。活動記録はこれ、か。それと経費の報告書はどこだ??



「むぅ……。儂はお主の師匠じゃぞ。弟子は師の言う事を聞くものじゃろうが」


「仕事は仕事。稽古は稽古、です。大切なのは分別を付ける事ですよ」


「嫌じゃ――!! 嫌じゃあ!! 腰を揉め――!!」


「ぐぇっ!!」



 師匠がとうとう我慢の限界を迎えたのか。二本の尻尾が襲来すると容赦なく気道を圧迫してしまった。



「言う事を聞けい!!」


「仕事を終えてからやりますから!!」



 今放てる精一杯の声量を絞り出す。



「む、むぅ……。それなら、まぁ……」


 それなら仕方が無い。そんな微妙な顔を浮かべて尻尾の拘束を解いてくれた。


「ぜぇ……。ぜぇ……。加減して下さいよ」



 こんな平和な風景の中で命を落とすのは御免被りたい。


 切なる願いを籠めて声を出す。



「十分しておるわ」



 でしょうね。


 師匠が本気を出せば俺の細い首なんてあっ!! という間にへし折ってしまうだろうさ。


 見た目に騙されてはいけないと言われる様に、この御可愛い顔と体に何処にそんな力が宿っているのやら。



「もうちょっとの辛抱ですからね――」



 師匠の無垢であどけなさが残る素敵な御顔を捉えてしまった所為か、口から頑是ない子供をあやす様な声が出てしまった。


 し、しまった!!!!


 仕事に集中し過ぎてこっちを蔑ろにし過ぎた!!



「こ、このっ!! 儂を子供扱いするな!!!!」


「ちょっ……!! 止めて下さい!! ん――!!!!」



 モコフワの尻尾が四本に増え、痛む腰そして再び首へと襲い掛かって来た。



「ほぉれ。極上の心地じゃろぉ??」


「え、えぇ。そう思います」



 ギュウギュウ締め付けてくるものの、地肌は極上の毛の感覚に太鼓判を押していますからね。だが、意識は向こうの世界へ向かって勢い良く飛び出そうとしている。


 い、いかん。


 このままでは意識が……。



「どうじゃ?? 儂と共に過ごす気になったか……??」



 意識が朦朧している為か、いつもより師匠の声に艶が含まれている気がしますけれども。


 今はそれ何処じゃない。こっちは気を失うか、失わないかの瀬戸際なのだ。


 尻尾と首の間。


 その狭い空間に指を捻じ込み、意識を繋ぎとめる空間を捻り出そうと必死になっていると……。


 見方によっては救世主、或いは混沌を招く存在が前触れも無くこの部屋へと登場してしまった。


 毎度毎度、登場の機会が悪すぎる。



「――――――。なぁ――にが儂と共に過ごす気になったか、よ。気色悪い声出して私の男を誘惑するの止めてくれる??」


「ちっ」



 師匠が盛大な舌打ちを放つと、俺の意識を刈り取りに来た尻尾を外してくれた。



「エ、エルザード」



 漸く開通した気道に新鮮な空気を送り込み、少しだけ咽て声を出す。



「やっほ――。数時間ぶりねっ。着替え取って帰って来たから遅くなっちゃった」



 何の遠慮も無く師匠の部屋をズカズカと横断、そして当たり前のように俺の左足の上に後頭部を乗せて体を弛緩させた。



「何をしておるのじゃ……」


「何って。片方空いているから使用しただけよ。目玉腐ってんの??」



 師匠の御怒りの圧を受け流し、気持ち良さそうに横たわり目を瞑って足を組む。


 その姿勢と態度が俺の肝を大いに冷やしてくれる。


 もうちょっと前の季節なら、暑さを吹き飛ばしてくれる光景なんだけど。この寒い季節にそれはちょっと頂けないかな??

 

 いや、暑くても要らないけど。



「き、貴様……」


「ね!! レイド、このズボン見てよ」



 まるで師匠がこの場に存在しないかのように俺に問いかけて来る。



「ズボン??」


「そ。この前さ――。街に繰り出した時に買ったんだけど……。どう、かな??」



 どうと言われましても……。


 紺の色のズボンなのだが、大腿部の箇所は横に傷が付き染色が色褪せ地肌が微妙に露出してしまっている。


 その様子は寒風を防ぐ事は叶わないと容易に判断させ、本来の服の目的を履き違えている事は確かだ。



「寒そうだな」


 考えをある程度纏め、そして端的に言ってやった。


「はぁ……。そう言うと思った」


「機能性の欠片も見当たらないぞ。冬はもっとしっかりとした素材の服を着なさい」


「女の子はね?? それを我慢してでも可愛い服を着たいものなのっ」


「それが原因で風邪を引いたら本末転倒だろ」


「も――。ほら、ここなんてどう?? 私の美しい素肌ちゃんが見えちゃってるのよ??」



 組んだ右足をこれ見よがしに天へと伸ばし、痛んだ服の箇所から覗く柔肌を強調させる。



「それとこれは関係ないだろう。もっと己の体の心配をしなさい」



 年頃の娘の流行りの服に対して吐くお父さんの溜息を漏らし、新たな紙を手に取り手元に置く。


 二人分の重さがある分動きにくいな……。



「んふふ――。私の体の心配をしてくれてるのぉ??」


 女性らしいか細い指が脇腹をツンツンと突く。


「一般的な意見を述べたまでですので、あしからず」


「ほんとうぉはぁ。この体に……。ぞっこんなんでしょう??」



 己の体に両手を淫靡に這わせ、双丘の頂点で手をピタッと止めこちらを誘う瞳で見つめる。



「いいえ。興味は御座いません」



 お願いします。


 どうか……。どうかその辺りでお止めください。



「ぐぬぬぬぅっ……」



 右太ももが異常に熱いのです。


 大噴火の予兆を受け、この部屋に来てからもう何度目か分からない回数の肝を冷やしてしまった。



「本当ぉ?? 食べても、いいんだゾ」


「は?? いぃっ!? 結構です!!」



 俺の左手を手に取り、魅惑の園へと招くものだから慌てて振り解く。


 びっくりしたぁ……。服の上からほんのちょっとだけ触れただけなのにもう柔らかいって手の平が判断しましたもの。


 何で女性のアレは異常なまでに男の子の性を刺激するのでしょうかね。永遠の謎ですよ。



「据え膳食わぬは男の恥よ—―?? ちょっと婆臭い部屋だけど……。まぁ、気持ち良くなるんだからこの際我慢するわ」



 さて……、と。


 果たして俺の意識は無事に現実の世界に留まる事が出来るのだろうか。


 首、腰、丹田。


 体中のありとあらゆる箇所に力を籠めてその時を静かに待った。



「さ、さっきから黙って聞いておれば……」


「あ、なんだ。居たの?? 邪魔だから外で花でも愛でていなさいよ。ほら、シッシッ」



 犬を邪険に扱う様に手を払う姿がまぁ恐ろしい事で。



「張り倒すぞ!? この糞脂肪がぁぁああああ――――ッ!!」


「ぎぃぃやあぁあああ!!」



 師匠の尻尾が複数に増殖して俺の体に向かって襲い来たので自分でも驚いてしまう程の絶叫を放ってしまった。


 足、腕、胴体。


 全身余すところ無く尻尾が巻き付き、容赦なくグイグイと締め付けると骨が軋む音が奏でられてしまう。


 力を籠めた御蔭で初撃は耐える事に成功してしまった事に俺は酷く後悔した。


 どうしてかって??


 これから更に攻撃が激しくなるからですよ。



「ちょっと!! 気持ち悪い毛で覆わないでよ!! 私の男が傷物になったらどうしてくれるの!?」



 尻尾の隙間を縫い、エルザードの手が俺の体を引っ張る。


 これが良く無いんだよね。



「そっちこそ儂の至高の毛に触れるなぁあ!!」


「んぐぅぅうううっ!!」



 左に傾くと思いきや、右へと傾く。



「放せぇえええぇええ!!!!」


「触るな!! 糞脂肪がぁああ!!」



 昇るかと思えば、下ってしまう。


 闇に包まれているのでこれああくまでも体の感覚で察した結果です。


 それも、もう。ここまでかな??



「儂の弟子じゃ!! 渡さぬぞ!!」



 これまで何度もこの身を以て覚えて来た師匠の素晴らしい力が爆ぜてしまうと、暗闇の中に眩い光が明滅し。


 足元が空にフワフワと浮かぶ心地良い雲の上に乗ってしまった。



「勝手に所有物にするな!! 糞狐!!」


「喧しいぞ!! 卑猥な動物め!!」


「あったま来た!! あんたも大概じゃない!! 人が見ていないと猫みたいに甘えちゃってさ。あ――!! なっさけな!!」


「節度を弁えておるのじゃ!! 貴様みたいに気色悪く尻を振るよりかはましじゃ!!」


「あっそう。いいのかなぁ?? 言っちゃおうかなぁ」


「何を、じゃ」


「あんたがぁ。昔ぃ。……、歳になる頃までぇ……」


「聞くなぁあああああぁぁ!!」


「イブチッ!?!?」



 師匠の大絶叫が放たれると無数に増えた尻尾が俺の意識をスパっと断ち切り、本日三度目の眠り頂戴する事になってしまった。


 御二人共。


 もういい御歳なんですから分相応、大人の態度を取って下さい。


 花の香りが染み込んだモコフワの尻尾に全身を拘束され、非情の痛みが跋扈する闇の中で素直な気持ちを心の中で唱えた。




お疲れ様でした。


魔物側の特訓のプロットは粗方決まったのですが……。執筆していく内にちょいと不味い事に気付き。南の島で行われる特殊合宿に参加するのは七名の予定でしたが、一名追加して八名となりました。


次話ではその人物が登場する事となります。


ここから更に加筆修正をしなければならないとなると、かなり厄介な事になりそうです……。


ですが!! それを越えてこそ得られるものもある!! そう自分に言い聞かせてヒィヒィ言いながら少ない時間を見付けてはプロットを執筆しております。



ブックマークをして頂き有難う御座います!!


クタクタになる毎日を過ごす中、嬉しい執筆活動の励みとなりました!!



それでは皆様、お休みなさいませ。


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