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第六十二話 狐さんの品定め その一

お疲れ様です!!


本日の投稿になります。それでは、どうぞ!!




 体が波打つ水面に漂い、浮遊する心地良さが疲弊した心を何処までも癒してくれる。



 あれ??


 さっきまで皆と共に汗を流していたのに……。


 でも、まぁいいや。


 心地良い感覚だし、このまま身を委ねてしまおう。




 美しく澄んだ水面に浮かび空に漂う白い雲を眺めていると、突如として空模様が変化。


 黒く重い雲から土砂降りの雨が顔を襲い、口の中に猛烈な勢いで水が浸入してきた!!



 や、やばい!!


 溺れちまう!!



 ガボガボと水を吐くものの。


 流れ込む水の勢いは止まらず。このまま溺れ死んでしまうのかと思いきや……。



「――――――――。お――、起きたか」


「ゲッホッ!! ゴホッ!! ぜぇ……。ぜぇ……。た、頼む」


「ん――??」


「も、もう少し優しく起こしてくれ……」



 鉄製のやかんを手に持ち、ワクワク感が満載された笑みを浮かべるマイにそう話し。


 大変重たい頭を上げた。



 師匠にぶん殴られて気絶していたのか……。


 どうりで心地良い感覚だと思ったよ。



「無理無理っ!! 楽しいもん!! これ!! 気絶した奴にぶっかけると起きる魔法の水って言ってたのも納得出来るわぁ」



 キラキラと瞳を輝かせる女性から視線を外し、空を仰ぎ見る。



「もう……。夕方か……」



 朝も早くからこんな時間まで殴られ、蹴られ、時に吹き飛ばされれば体も限界を感じてしまったのか。


 現実世界との同調を断ち切り、空想の世界へと意識を誘ったのも理解出来る。



 よく、生き延びられたな……。


 何度死ぬかと思った事か。


 いや、まだ稽古が終了するとは限らないので。俺の命は師匠の裁量次第って所ですね。




「今は誰が師匠と相手してんの??」



 全身隈なく痛めつけられた筋力を総動員してやっとの思いで上体を起こし、一日の終わりに相応しい朱に染まった光が射す訓練場へと視線を送った。



「ぬぅ!? 何じゃ!! 避けてばかりで!!」


「イ、イスハさんの攻撃を真面に受けようと思う方が間違いなのです!!」



 おぉ!!


 アオイだ!!



 大人になった師匠の体から放たれる烈拳を風に靡く柳の如く躱し。



「はぁっ!!!!」



 右手の先に現れた朱の魔法陣から大人の拳大の火球を連続放射するが。



「生温いっ!!!!」



 師匠の拳がその全てを『生身』 の拳で吹き飛ばしてしまった。



 いやいや……。


 素手で炎を掻き消すって……。



「良い感じでイスハの攻撃を避けてんだけど……。いつつ……。コレと言った決め手を欠いて四苦八苦してるんだ」



 直ぐ後ろ。


 健康的に焼けた肌に苦悶の汗を浮かべ、右脇腹を痛そうに抑えつつユウが話す。



 随分と苦しそうだな。


 俺達の中でも頭一つ抜けて頑丈なユウがここまで顔を顰めるなんて……。


 呆れると同時に憧れてしまいますよ、師匠。



「アオイは避けるのは上手いし、何より。両利きってのがこれまた厄介なんだよねぇ」



 蜘蛛の姿ですと八本の足を動かすのだから、人の姿ではその半分で済む。器用なのはその所為だと、単純な答えに至るのだが。



 人の四肢は、蜘蛛の体に当て嵌めると一体どこになるのだろうか??


 甚だ疑問が残ります。



「し、しつこいですわよ!!」



 襲い掛かる師匠に対し、左の足をすっと下げ右手を前に。半身の姿勢で躱す。



「ぬぅ!? 先程とは真逆か!? 厄介じゃのぉ!!」



 厄介と仰る割には嬉しそうに笑みを漏らしますよねぇ……。



 只、突貫した勢いが強過ぎた所為か。


 アオイとの距離が少し空いてしまった。



「っ!!」



 好機到来と捉えたのか。


 アオイの目に力強い光が灯った。



 良い目だ!!


 勝負を掛けるのなら、此処だぞ!!



「行きますわよ!! ふぅ……。御出でなさい!! 暁!!!!」



 両手を前に掲げ、魔法陣から継承召喚を取り出し。



「さぁ、行きますわよ!!」



 小太刀二刀を両手に持ち、師匠と対峙した。



「お、おいおい。何もそこまでする必要は……」


「継承召喚を装備すれば我々の魔力は増幅します。恐らく、アオイは武器は使用せずに魔法で決着を付けるつもりですね」



 なだらかな丘の斜面。



 緑の絨毯の上にちょこんと座るカエデが話す。



「ですが……。一歩、及ばなかった様です」



「紅蓮の業火よ……。焼き尽くせ!! 我は蜘蛛の……」


「させるかぁ!!」



 師匠がぐっと腰を落とすと。



「はぁぁっ!!!!」



 一筋の光となってアオイの懐へと侵入。




「刹那の判断が鈍い!!!!」


「きゃぁっ!?」



 紅蓮の火球を放射する前に手刀を腹部へと叩き込まれ、その場に崩れ落ちてしまった。



「冷静沈着なお主が短期決戦に臨むとしたら敵も恐らく儂と同じ考えに至るじゃろう。相手の速さを見誤り、それを覆す為大技に頼ろうとする……。短絡的過ぎるわ!! もっと良く考えて行動せい!!」



「あ、有難う御座いました……」



 親鴨に見守られ、意気揚々と水面に飛び込むものの。


 初めての水泳に大失敗。


 こっぴどく親鴨に叱られ、酷く落ち込んだ小鴨さんが肩を落として帰って来た。



 凛とした佇まいが似合う彼女が此処まで落ち込むなんて。


 相当悔しいのだろう。


 労いの感情を籠めて迎えてやった。



「アオイ、お疲れ様」


「レ、レイド様ぁっ!! 悪い狐さんが私を虐めるのです!!」



 大人の手の平大の蜘蛛に変わると。



「酷いとは思いませんか!? 立っては倒され、倒されては引き起こされる。理不尽過ぎます!!」


「アオイ」



「もうこれで何度目やら……。レイド様は人一倍強く倒されていましたので、後で治療を施し……」



「アオイ、御免。毛が痛いから退いて」



 顔面に張り付いた蜘蛛を引っぺがし。



「まぁ!! 夫婦のあるべき姿ですのに、それを嫌がるというのですか!?」



 夫の顔に張り付いている蜘蛛の妻なんて見た事ありませんよ……。



「でもまぁ、良く頑張ったよ。惜しかったぞ??」



 抗議の姿勢なのか。


 八つの足をしっちゃかめっちゃかに動かす黒き蜘蛛さんへそう話してあげた。


 それ、どうやって動かしているの??



「うふふ……。その一言の為に、私はこうして痛みに耐えているのですわよ??」


「自分の為に頑張りなさい」


「はぁ――いっ。レイド様っ」



 間延びした声を放ち。


 地面に一度降りた後、飛蝗も驚く速さで此方の右肩へと飛び乗った。




 さてと!!


 お次はカエデの出番だ!!


 遠距離からの攻撃を得意とする彼女がどう師匠と対峙するのか。


 又。


 師匠はどの様にして魔法に対抗するのか。


 確とこの眼に焼き付けよう!!



「では、宜しくお願いします」



 カエデがお行儀よくお辞儀をし。



「うむっ!! 死ぬ気で掛かって来い!!」



 師匠もそれに倣うと。



「ふっ!!」



 カエデが師匠から距離を取って、大変分厚い結界が体を覆う様に張った。



「ふへ――。一瞬であぁんな分厚い結界を張れるんだ、カエデの奴」



 これには太った雀も素直に驚いたのか。


 ぐでぇっと横になっているユウのお腹の上に乗り、ウンウンと頷く。



「アオイは結界を張れるの??」



 ちょいと疑問に思った事を右肩に乗る蜘蛛さんに尋ねてみた。



「出来ますわよ?? ですが……。カエデ程速く展開する事はまだ遠く及びませんわね」



 ほぅ。


 詠唱は可能なんだ。


 流石、多才ですね。



「カエデは接近戦に弱いからなぁ……。お前さんならどうするよ??」



 お腹の上に乗る龍の頭を突きながらユウが話す。



「ん――……。離れて戦ったら確実に負けるから当然、纏わり付いて戦うわね」


「俺も同じ考えだな。攻撃範囲が広過ぎる分、カエデにとって近接戦闘は分が悪い。加えて……」


「華奢な体ではあたし達の攻撃は受け止められないっと。イスハもきっと同じ考えだろうなぁ……」



 俺達が想像した通り。



「ふふん……」



 師匠がニヤリと笑って深く腰を落としてしまった。



「カエデ!! 来るぞ!! 気を付けろよ!!」



 分かっているとは思いますけど一応、ね??



「分かっています!! 穿て!! 水槍乱舞レインジャベリン!!!!」



 上空に巨大な水色の魔法陣が浮かぶと同時。



 巨人の堅牢な外殻をも貫くであろう鋭い切っ先の水の槍が大量に出現し。



「ほほう!! これはまた壮観じゃなぁ!!」



 新しい遊び相手を見つけてしまった無邪気な子供の笑みを浮かべる師匠の体へと向かって襲い掛かった!!



「回避出来るものなら……。回避してみて下さい!!」



 う――む?? カエデさん??


 ちょぉっとやり過ぎですよ――っと。




 上空から降り注ぐ大量の水の槍。


 それは一分の隙間も見出せない降りしきる豪雨の様だ。



 あ、あんな魔法を当てられたら串刺しになって死んじまうよ……。


 師匠は一体どうやって対処するのだろうか??



「ふぅぅ。むんっ!!!!」



 その場に両足を深く突き立て、丹田に気合を注入。


 避ける処か……。


 迎え撃つ気ですか!?



「範囲は申し分無い!! じゃが、単純明瞭過ぎて欠伸が出るわぁあああああ!!!!」



「「「いやいやいやいや」」」



 師匠の姿を見るなり、いつもの三名が呆れた声を上げてしまった。




 回し蹴りで吹き飛ばすっておかしいでしょう!!



 降り注ぐ水の槍を烈蹴で霧散させ。



「ほあぁっ!!!!」



 クルンっと回った勢いで揺れ動く五本の尻尾で背後から襲い来る槍を撃墜。


 水色の魔法陣の下。


 絶え間なく降り注ぐ攻撃に対し、視線で追うのも難しい速度で金色が動き回っていた。




「よぉ、マイ」


「ん?? おぉっ!! 今の動き!! すんげぇ!!」


「イスハの動き、真似出来る??」


「量は多いけど一撃の威力は低そうだし、初撃から二撃へ攻撃を繋げれば出来ない事も無いけど……。ちょいと難しいかしらね」




 両足、両手、五本の尻尾。


 一切の無駄の無い動きで水の槍の迎撃を続けていると、大雨から小雨へと天候が移り変わり始めてしまった。



「あれだけの量の魔力を消費したツケが回って来ましたわね」


「カエデも避け切れないと考えたんだろうけど……」



 策士策に溺れるって奴だな。


 いや、その策を体一つで覆す御方もどうかと思います。




「見えたぞ!!」



 小雨になり。攻撃の合間を見切ってしまった師匠の瞳が輝くと、素晴らしい速度でカエデとの距離を一瞬で潰し。



「はぁっ!!!!」


「きゃっ!?」



 化け物ですか?? と問いたくなる拳圧で結界を破壊。


 そして、呆気に取られ。目を見開いている彼女のお腹さんに拳をめり込ませてしまいました。



 うへ……。


 痛そう……。



 お腹を抑え、力無く地面にペタンと崩れ落ち。



「コホッ……。ま、参りました」


「うむっ。精進せいよ」



 激痛で痙攣する腹筋を制御しつつ、弱弱しい声を絞り出した。


 あの負けず嫌いのカエデがあっさり降参ねぇ……。


 師匠には何度も驚かされてしまいますよ。



「何度向かって行っても叩きのめされ、弾き飛ばされ。私達は玩具じゃないっつ――の!!」



 カエデの敗戦に悔しさを滲ませたマイが叫ぶ。



「それだけ立ちはだかる壁は高いって事さ。五体満足でいられるだけ有難く思わないと」



 師匠が本気を出してあの拳を突き出したのなら、恐らく。


 お腹にぽっかりと穴が空いてしまいますのでね。



「レイドが一番こっぴどくやられたんじゃない??」



 ユウがそう話すと、何とも無しに此方の訓練着を捲った。



「―――――――-。えっ!? なに、コレ!!」




 右の脇腹に五つ。そして、左の脇腹にも五つ


 師匠から受けた打撃痕が左右均等にくっきりと、そしてはっきりと上下に美しく刻まれていた。



 肉が砕かれ青黒く変色した痕はこう物語っていた。



『いつでもお主のあばら骨をバラバラに出来たのだぞ??』 と



 十戦、十敗の情けない傷跡ですねぇ……。



「ここが人体の弱点ですよ――って教えてくれたんじゃない?? うへ――。いたそ――」


「身を以て覚えろって事か」



 ユウが面白半分に突こうとするので、それをやんわりと。丁重にお断りしつつ言ってやった。



 言葉は要らぬ。


 その代わり拳で伝えてやる。


 師匠の有難い言葉が体にこうして刻まれると、何だかちょっとだけ嬉しく……は、余りなりませんね。


 やっぱり言葉で伝えて貰った方が嬉しいです。



「皆さん、戻りまし……」


「っと。カエデ、大丈夫か??」



 此方に戻るなり、ふっと足の力が抜けて倒れそうになる彼女を支えた。



「え、えぇ。大丈夫です、よ??」



 また分かり易い嘘ですねぇ。


 足にも目にも力が宿っていないのが良い証拠だ。



「流石に限界か。師匠――!! そろそろ稽古を終えたら如何ですか――!!」



 早く掛かって来いと言わんばかりに訓練場の中央で今も待つ師匠に向かって、茜色の空を指す。



「ふんっ。貧弱な奴らめ。相分かった、今日は此処までにしてやる!! 各々、休んで良し!!!!」



「はぁぁ―――――――。やぁっと終わったぁ」



 ユウが地面にドサッ!! と倒れ込み。



「流石の私も限界ね……」



 マイがユウのフカフカの双丘を枕代わりにして彼女を模倣した。



「カエデ。平屋まで運ぶからじっとしてて」



 息も絶え絶えに、茫然と宙を見つめていた彼女の細い腰に手を添え。しっかりと抱き抱えると。



「え?? きゃっ!?」



 平屋へと続く階段を上り始めた。



「わ、私は大丈夫ですから!! 下ろして下さい!!」



 ブンブンっと両足を動かし。


 止めて下さいと言わんばかりに可愛い拳で俺の顎を打つ。



「あはは、直ぐ終わるからさ。その様子じゃ動けそうにないだろうし。もうちょっとの辛抱ですからね――」



 中々寝付けない子供をあやす様に話し掛けてあげた。



 しかしまぁ……。



 こんな軽くて、細い体で良く師匠の攻撃を受け止められたな。


 無理して倒れたら元も子もないよ。



「ま、まぁ!! レイド様!? 妻である私にさえその様な羨ま……。こほんっ。御姫様抱っこなどされた事がありませんのに!!」


「カエデは動けないんだ。仕方が無いだろう??」



「で、では!! 私も……」



 蜘蛛さんが右肩から階段へと飛び降りると。



「はぁん……。動けませんわぁ……」



 美しい白い髪の女性へと変身を遂げ、嫋やかに足を崩して此方を見上げた。


 また分かり易い嘘を……。




「きっしょ。一生一人でそうやってろ」


「レイド様っ!? た、平らな地面が話しましたわよ!? 私、恐ろしくて腰が抜けてしまいましたの!!」


「あぁ!? ぶち殺されてぇのか!?」



 あなた達は体力の使い方を多大に間違えています。


 喧噪の為に体力を使うのなら、稽古に体力を注ぎなさい。



 その際たる例が腕の中に収まる御方です。



「も、もう大丈夫です。……から」



 顔が真っ赤に染まり、頭からシューっと湯気が立ち昇る。


 きっと疲れて熱が出ちゃったんでしょう。


 ゆっくり休めば熱も引きますからねぇ。



 大変温かく、そして軽いお肉の塊を両腕に収め。なだらかな階段を昇り終えて平屋へと向かって行った。


お疲れ様でした!!


引き続き投稿作業に取り掛かりますので、続きは今暫くお待ち下さい。

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