第二百十四話 予想外の出迎え
お疲れ様です。
本日の投稿になります。
それでは御覧下さい。
鼻腔を擽る冬特有の侘しく乾燥した匂い。視界を大いに楽しませてくれる夜空に浮かぶ無数の光瞬く星達。
西門から伸びる主街道からずぅっと外れた場所。
傾斜の緩い丘の麓、枯れた草の布団に寝転がって過行く時間を気にする事無く夜空を飽きるまで眺めていた。
う――む。本日も快晴なり。
ここ最近は任務や時間に追われていたし。気を抜くのに丁度良い塩梅の夜空に思わず吐息が漏れてしまう。
吐く息は外気温との高低差を如実に示し、思いの外白く。微風に流され無色透明な空間へと吸い込まれて行く。
憎たらしい山と対峙する前にしては随分と静かなもんだ。これぞ、嵐の前の静けさって奴ですよね。
静寂が心地良いのはやはり……。疲労感から発生するんだよな??
いつもは任務から帰還すると人の喧噪にどこかほっとするんだけど……。今日はなんだか勝手が違った。
人の営みがいやに鬱陶しく感じてしまい、明るい笑みや談笑が耳を刺激すると思わず耳を塞ぎこみ。黙れ、と叫んでしまいそうであった。
目的の品を買うとその明るさから逃げる様に闇へと進み。今はこうして丘の裏で一人静かな環境音に身を置いている。
何であの明るさが鬱陶しく感じてしまったのだろう??
きっと……。そう、疲れているんだ。
何も知らずに、のうのうと生きている人間に嫌気が差した訳じゃない。
そうだよ。きっとその筈……。
ふと、目を閉じると俺の背で命の灯火を散らした中尉の傷だらけの顔が浮かぶ。
中尉だけじゃない。
イリア准尉の屋敷で食事を摂る傍らラテュスさんから伺った所。第一から第三分隊の隊員全員があの暗い森の中で短い人生に終止符を打たれたとの報告を受けた。
くそっ。忌々しい豚共が……。
絶対にお前達の息の音を止めてやる。そして、そして……!!!!
その元凶である魔女の首を刈り取り民衆の前で晒してやるぞ。
ハハ。うん、それがいい。
数万を超える人の命を奪って行ったんだ。当然だろ?? 最大最悪の重罪を犯した償いは必ず受けなきゃいけない。
人であろうが、魔物であろうが。神や悪魔であろうが、俺達が絶対に……。
『殺してやる』
止め処なく沸き上がる憎悪と憤怒が本当に心地良い……。
師匠から決してこの感情に身を委ねるなと念を押されているけど。今は一人だし。別に、いいよな??
体の奥に漆黒の炎が渦巻き周囲に漂う冷涼な空気を温めていると。その炎を容易く消し飛ばしてしまう程の熱量の魔力が突如として発生した。
「――――。じゃ――んっ!!!! 私、来ちゃったっ!!」
夜空に浮かぶ満月を見上げていると端整な顔が視界の外からニュっと現れ、月の一部を侵食してしまう。
「エルザードか。久々だね」
「ん?? 何か、暗い??」
大きなお目目を二度瞬き、小さく小首を傾げる。
その仕草が妙に可愛い事で。
「いや?? ちょっと疲れているんだよ。それより!! どうだった?? そっちの調査とやらは」
腹筋に力を籠めて上半身を起こして右隣りに腰を下ろした彼女へ問う。
多大に気になるのは当然であろう。
マイ達九祖の血を引く者達を付け狙う敵が出現したのかも知れないのだ。
「あ――……。そりゃあもう、大変だったわ」
「大変?? 詳しく聞かせてよ」
「どうしようかなぁ――。数日前に帰って来たばかりだしぃ。私、クタクタだからぁ。気持ち良い事してくれたら教えてあげるっ」
片目とパチンと瞑り、プルンっと潤う唇に人差し指を当てる。
数日前に帰還??
いやいや。日数的に可笑しいでしょう。
「数日前?? 俺は数時間前に帰って来たんだぞ。そっちの調査は二週間足らずって聞いたし。おかしくないか」
後半部分を全て捨てて、前半部分に向かって全力で質問してやった。
「ちょっと――。後半無視しないでよ」
「それは、それ。後で幾らでも叱ってくれても構わないから調査の詳細を教えてよ。それに、カエデが迎えに来るって言っていたのに、どうしてエルザードが迎えに来たんだ??」
そう、これも気になる事象だ。
分隊長殿は我が強い為、一度自分がやると決めた事はそうそう曲げやしないからね。
「せっかちな男は嫌われるんだぞ。私達の話は長くなりそうだから、先ずレイド達の話を聞かせてよ」
「はいはいっと。俺達がここを出発したのは……」
こちらの話の本題は待ち構えている敵の大軍勢のみ。
端的に話せば数分で済みそうだし。
せっかちな男と思われるのは本意では無いけど、多大に興味が引かれる話を早く己の頭の中に叩き込みたいと考えて早速口を開いてやった。
「ふむふむっ」
俺が話す間、エルザードは表情が読み取れない顔色を浮かべてふんふんっと、小さく頷いていた。
もう既に知っているのか、それとも未入手の情報があるのか分からないけど。いつもは喧しい口を閉ざして俺の話を真摯に聞いている。
いつもそうやって物静かな姿を浮かべていれば師匠と喧嘩する事も無いのに。
そう何度も言いかけて、危く口を滑らせるのを堪え。全ての情報を伝え終えた。
「――――。そういう訳で、分隊の仲間と共に人で溢れる王都へ帰還したんだ」
「ふぅん……。そう……」
またこの表情だよ。
自分が持っている情報と俺が今回持ち帰って来た情報を照らし合わせて何か考えているのだろうか??
小さくコクリと頷いて、何も見えない真正面の暗闇へ端整な顔を向けていた。
「城の上に浮かぶ訳の分からない魔法陣。豚共の大軍勢。エルザード達だけでもかなり手を焼きそうだぞ??」
「まぁ、ね。レイド達、人間側もこの情報を手に入れたんでしょ??」
「上層部に簡単な情報は伝わっていると思うよ。詳しい情報は俺達の報告書で知るだろうな」
「そっかぁ。大変だったね?? お疲れ様っ」
正面の闇から端整な顔を此方に向けて親しき友に向ける明るい笑みを浮かべた。
「じゃ、じゃあ今度はそっちの話を聞かせてよ。早く滅魔とやらの情報を聞きたいし」
女神も思わず魅入ってしまう笑みを捉えて恥ずかしさを覚えたのか。
顔の体温がほんのりと上昇してしまいポリポリと鼻頭を掻いて視線を外す。
不意打ちは卑怯ですよっと。
「じゃあ、私達が過ごした時間を事細かく話してあげるわ。長くなるけど、いい??」
「構わないよ」
一つ頷いて吸い込まれそうな瞳を見返す。
「そんなに見つめたら……。孕んじゃうっ」
柔和な線の頬を朱に染めて卑猥な言葉を発す。
「孕みません。早く教えてよ」
「仕方が無い。休憩がてら話しましょうかね」
ふぅと息を漏らして楽な姿勢を取る。そしてエルザード達が体験した摩訶不思議な物語を美しい声色と共に奏で始めた。
北の森に突如として現れた奈落の遺産、その中に待ち構えていたおぞましい生物達の数々。そして……。
常軌を逸した力を持つ滅魔達の出現。
時間の流れが狂っている空間云々より俺はマイ達が惜敗した事に多大なる衝撃を受けてしまった。
あのマイ達が一方的にやられたのか??
エルザードの口から発せられる言葉に疑いを持ってしまう。
それともう一つ。
カエデが大敗を喫した事に驚きを隠せないでいる。弛まぬ努力、積算する知識、奢らぬ実力。俺達の中でも頭一つ抜けた存在の彼女が手も足も出ないなんて……。
嘘だろ?? とてもじゃないけど信じられないぞ。
「……それで、傷ついたカエデを抱えて。私達は三日前に帰って来たのよ」
「カエデは大丈夫なのか!?」
居ても立っても居られずついつい声を荒げてエルザードの肩を掴んでしまった。
「もぅ。女の子の肩をそんなに強く掴んじゃ駄目よ??」
「あ、ごめん」
慌てて細い肩から手を放す。
「安心しなさい。負傷して魔力も大分消費しちゃったけど。今はぐっすりといつもの寝所で気持ちよぉく眠っているわよ」
「そ、そうか。はぁ――……。良かった」
カエデの無事の一報を受け、肩の力を抜いて元の位置へ直った。
「何よぉ。カエデの心配はして私の心配はしてくれないのぉ??」
「エルザードと師匠は俺達が心配する程も無いだろ。マイ達は??」
「ぷいっ!! 知らないっ!!」
頬袋に御飯を詰め過ぎたリスみたいに頬を膨らませてそっぽを向いてしまう。
いやいや、貴女は我儘なお子様ですかね??
齢三百を超える御方がする所作じゃないですよ。
「あ――。エルザード?? 怪我はなかったの??」
これでいいのかな??
「違う――」
ちぃっ!! 我儘な女王様め!!
「う――ん……。マイ達を守ってくれてありがとう?? ね」
「それも違う――」
じゃあどう言えばいいのか教えて下さいよ……。
「え、えぇっとぉ……。エルザードと師匠の事は勿論心配していたんだぞ?? 苦戦した敵との再戦だったからな」
これでどうかお願いします。
「クソ狐は余分――」
「あぁもう!!!! エルザードの事が凄く心配だったんだぞ!! それはもう、毎日頭から離れない位な!!」
半ば自棄糞になって声を張り上げてやった。
お休み中の鳥さん、申し訳ありませんね。真っ暗な夜に大きな声を出してしまって。
「えぇッ!?!? うっそ――!? 私の事を毎日考えていて、夜も眠れないってぇ!? それは大変ね……。男女の営みを交わせば……。レイドの頭の中に居る私を、現実で体感出来る……。よ??」
四つん這いになり、猛った猛禽類の瞳を浮かべながら息を荒立ててこちらへと迫り来る。
月明かりを受けたエルザードの横顔は艶を帯び、彼女が話す様に。頭の中に浮かぶ美女そのものが幻想の世界から現実の世界へと降り立った錯覚をこちらへと与えた。
『うっひょ――!! お嬢ちゃん!! こっちにおいで――ッ!! 美味しく頂いてやるからよ――!!!!』
「それは、また後でお願いしま――す」
久し振りに封印を解いて現れたアホな性欲さんを全理性を以て抑え、ピンっと立てた人差し指で彼女の可愛い額を突いてやった。
「あいたっ。むぅ……。ちょっと寒いけど孕むには絶好の場所と雰囲気じゃない??」
「頼むから人の話を聞いてくれ……」
誰にでも分かる辟易を表現した溜息を吐く。
「仕方が無いわね。後でって言ってくれたから教えてあげる」
やっと本流へ戻ってくれた話の流れにほっと胸を撫で下ろし、エルザードの話に傾聴した。
彼女が話すにはマイ達も例に漏れる事無く重傷とまではいかないが負傷したらしい。
と、言う事は。
「――――。カエデの相手。つまり、クレヴィスが相当な使い手だった。って事か」
これは今でも信じられないんだよな。
あのクレヴィスだぞ??
言葉も真面に理解しているかどうか分からない人……。じゃなかった。滅魔なのに。
カエデ相手に完勝するのはおかしいだろ。
それだけじゃない。
ユウと激戦を繰り広げた猫の滅魔のクレプト。
リューヴとルーが大苦戦した犬の滅魔のシャン、メイロス、マール。
アオイ程の手練れが手を焼く蟷螂の滅魔のゼツ。
師匠やエルザードが現れたなかったらどうなった事やら。
「私程じゃないけど中々の使い手よ。現状のカエデじゃあ……。勝てない、かな」
「現状。つまり、何かきっかけがあれば勝てると??」
「そうよ。ここだけの話にしてくれる??」
「あぁ、勿論だ」
大きく頷いて真剣な表情に変わった彼女に肯定を伝える。
「カエデ達が勝てなかったのは超簡単に説明すると。覚醒の力を使用しなかったからよ」
「簡単過ぎだろ。でも、まぁ。分かり易くて助かるよ」
やれ魔法のここが駄目だ――。とか言われても分からないしね。
「向こうが退散してくれて実は助かったの。あのまま戦っていたら負けていたし」
「え?? 師匠やエルザードが本気を出しても敵わないのか??」
「本気を出したくても出せない状況に追い込まれるのよ。奴等の手がマイ達に及んだら否が応でも後手に回ってしまう。レイドも経験あるでしょ?? 守りながら戦う難しさを」
「あぁ、そうだな……」
今回の任務が良い例かな。
退却の途中、矢の襲来からトアを守り。突如として後方から発生した魔力の圧を受けて二人を突き飛ばし。
そしてルズ大尉を守る為に酷い矢傷を負った。
俺一人なら恐らく無傷とまではいかないが、酷い怪我を負う事も無かっただろう。
俺の場合は強化されたオーク、しかしエルザード達の場合は強さの高みにいる滅魔の相手。
苦戦処か彼女が話した通り、守るべき者の存在が必敗に繋がるのは目に見えていた。
「カエデ達、ううん。マイ達には休息を終えてから特訓を付けようと考えているの」
「それは覚醒に耐えうる体を構築する為の特訓か??」
「ん――。厳密に言えば違うかな。もう一段階覚醒を引き上げる特訓と言えばいいのかしらね??」
一段階、か。
「あの力を引き上げても大丈夫なの??」
甘い言葉に身を委ねればどうなるか、己の身で経験済みだ。
彼女達の中に潜む力はどんな甘い言葉を放つか、それにどれ程の力を持っているか未知数だからね。
「安心なさい。それ相応の対応は考えてあるし」
「それ相応ねぇ……」
師匠なら兎も角。
ど――も、エルザードから出て来る安心って言葉には何か引っかかる物を考えてしまう。
「今、こいつの事信じてもいいのかなぁ――って考えたでしょ!!」
「いいや?? 気の所為だろ」
「怪しいぃ……」
じぃっと上目遣いでこちらの表情を窺う。
「それは置いておいて」
「置くなっ!!」
「実は三日後に行われる訓練を終えたら三十日の休暇を貰えるんだ。俺もその特訓とやらに参加してもいいかな??」
ぷんすかと可愛く怒るエルザードを他所にこちらの予定を伝える。
「勿論よ。レイドも参加させようと考えていたし」
おっ。
そりゃ僥倖だな。
「何?? 私の為に休暇を取ってくれたの??」
「違います。軍規とやらで休暇を取らないといけないらしくてこうなった訳ですよ」
距離を大いに削って多大に距離感を間違えている淫魔の女王様から距離を取る。
「んもう。そこは嘘でもいいから、そうなんだ――って肯定するもんよ??」
肯定したら後々どこぞの怒れる龍と、尻尾が十本に増えてしまった狐の女王様からとんでもない痛みが飛んで来るので御了承下さい。
「しません。ふぅ――。これでお互いの情報は共有出来た訳だし。そろそろ出発しますか」
すっと立ち上がり、臀部に付着した土埃を払う。
「え――――。もう行くの――??」
「カエデ達が心配だからな」
これは本音中の本音です。仲間の怪我の状態を確認しておきたい。
特に、カエデの状態をね。
「はいはいっ。私は天才肌の魔法使いで、誰からも心配されない可哀想な孤高の存在なのよ。いいですよ――。誰からも心配されない程に強くて可愛いって事ですからね――」
何か不貞腐れるのには、似合わない単語が幾つか混ざっているけど??
このまま不機嫌になられても困るし。
ここは一つ……。
「そう怒るなって。ほら、これでも食べて元気だせよ」
背嚢から小さな木箱を取り出す。
「なぁにぃ?? それ」
ふふ、俺は学んだのだよ。女性は甘い物に弱いとね!!
木箱を開くと乾燥した空気の中にあまぁい香りがほんのりと香り出す。
「師匠、それとマイ達用に差し入れとして買って来たんだ。甘い芋の餡をクッキーで挟んだ食べ物とでも言おうか」
四角い木箱に沢山詰め込まれた小麦色の焼き菓子をエルザードの前に差し出してやる。
「わっ。良い匂い……」
ほらね??
不貞腐れた顔は甘さが忘却の彼方へと押し流し、代わりに彼女の顔には満面の笑みが浮かぶ。
まるで宝物を見つけたみたいな顔だな。
そんな嬉しそうな顔を浮かべて食べてくれれば、お店の人もそして買って来た本人も満足するってもんさ。
「食べていいの??」
「勿論。あっ。師匠には内緒にしてくれよ?? 先にエルザードが食べたって言ったら怒られそうだし」
三つの尻尾は五本程に増えて、怒髪冠を衝く勢いでピンっと天高くそそり立つ。
柔和な笑みも消え失せ、鬼も慄く憤怒を現した形相で俺を睨むんだよね……。
「どうしよっかなぁ――」
「そう。じゃあ、お預けだな」
蓋を閉じようとすると。
「あんっ。冗談よ」
木箱の端を細い手できゅっと掴み、そっちへ行くなと示す。
「じゃあ、いただきま――すっ。あ――んっ」
子供の手の平でも十分に摘まめる大きさの焼き菓子を指で摘まみ、小さな口の中へと迎え入れた。
あの人混みが本当にうざったくて、さっさと出て行きたくて試食していないし……。
どんな味か分からないんだよね。
店の雰囲気と並んでいた若い女性達の表情を参考に買ったんだけど。
口に合うかな??
「んぅ!! 美味しい!!」
一度、二度咀嚼すると誰にでも分かる笑みで満足度を表す。
良し。
どうやら俺の選別眼は間違いじゃなかったようだな。
「サクサク生地のクッキーに、トロトロのあまぁい味のお芋の味が良く合うわ」
「気に入ってくれて良かったよ」
木箱の蓋を閉じて背嚢の中に仕舞いながら話す。
「うん。これならまだ食べられそう」
指に付着したクッキーの残りを舌で舐め取る。
もうちょっとお行儀良くしなさい。
「これ以上は勘弁してくれ。木箱の中の空白が目立っちまうだろ」
「まっ。残りはクソ狐から奪い取ってやろうかしらね」
「喧嘩になるぞ」
「別に構やしないわ。さ――って!! お腹もちょこっと膨れたし」
おっ。そろそろ出発かな??
綺麗な二本の足を真っ直ぐ大地へと伸ばして話す。
「性欲は満たされていないけど、出発しましょうか」
「そうだな。宜しく頼む」
今度は前半を無視して背嚢を背負って言ってやった。
「え――っと。クソ狐の場所だから――」
すっと右手を伸ばして宙へ魔法陣を浮かべる。
まだ魔力を解放していないのに、この圧。
流石と言うか、見直すと言うか……。尊敬の前を素通りして只々呆れてしまう。
これであの性格じゃなければ敬服するのになぁ。
勿体無い。
「じゃあ、行くわよ――」
「おう!! 頼む!!」
「んっ!!」
勢い良く両手をぐんっと空に掲げると常軌を逸した魔力が体を包む。
カエデ、大丈夫かな。
話を聞いた分には命に別状は無いみたいだが……。やはり自分の目で確かめないと気が済まない。
後少しの辛抱で到着するのだ。今は逸るべきでないでしょうね。
腹の奥底をデカイ手で掴まれる感覚に顔を顰め、白く美しい霧が放つ光量に目を開けていられなくなりしっかりと瞼を閉じてこの感覚に身を委ねた。
お疲れ様でした。
いよいよこの御使いも残す所、一話とおまけになりました。
そして次の御使いなのですが。人間側は決戦へ向けての訓練、そして魔物側も最終決戦へ向けての特訓が開始されます。
詳しい内容はネタバレになるので言えませんが。本話でも触れた通り、狂暴龍達は覚醒の段階を引き上げる為に己が内に孕む者と対峙します。
今まで数名の者はチラっと登場していますが、それが一堂に会すのでかなり大変な作業になる見通しです。
そりゃそうですよね。七名分の物語を書かなければいけないので……。
どの様にして邂逅を果たすのか。第三章、最終の御使いを楽しんで頂ければ幸いです。
それでは皆様、お休みなさいませ。




