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第二百九話 忍び寄る魔の手

お疲れ様です。


本日の投稿になります。




 人の頭など一瞬で噛み砕いてしまいそうな獰猛な牙が生え揃った猛獣が突如として私達の前に現れて雄叫びを放つ。


 死力を尽くして猛獣を撃退したかと思えば仰々しい鎌を携えた死神が音も無く空から降臨して私達の魂を狩り取る。


 そんな下らない想像を掻き立ててしまう深い闇がそこかしこに存在する森の中、私達は息を顰めてひたすら北へと進路を取って行動を続けていた。



 別に怖がっている訳じゃないけども……。


 時折丁度良い機会でカサッ!! と枝が動くと否が応でもそちらへと気を配らなきゃいけないし??


 真っ暗闇の中に吹く風の音が亡者の唸り声に聞こえない事もないし??


 私達の周囲に敵の気配は無いからちょっとくらいなら、そう小鳥のさえずり程度の会話なら構わないわよね。



「そっちの敵は何体いたの??」



 私の隣を静かに歩く彼へ向かって声を掛けてみた。



「四体だよ。そっちは??」



 お――。御主人様の声に対して素直に反応するとは中々の忠誠心ではないか。


 これが本物の犬だったら頭をヨシヨシと撫でている所だ。


 まぁ、このワンちゃんは撫でられながらも。


『急に優しくして……。一体どういうつもりだ??』 と。


 物凄く訝し気な顔で見上げて来そうだけどね。



「こっちは五体と弓兵だったわ。あれ?? もうちょっと多くなかった??」



 気配から察した数は少なくとも五体以上は居た様な気がするけど。



「いんや。必死の思いで四体を倒して合流したんだ」


「ふぅん……」



 絶対嘘ね。


 言葉の端にちょっとだけ存在する違和感を私が見逃す訳が無い。


 大体、こいつは嘘を付くのが下手過ぎる。



 視線をちょっとだけ泳がせて言葉の語尾に何か引っかかる雰囲気が滲み出ちゃうのが良い証拠。



 でも、何で嘘つくのかしら??


 自分の腕前を隠したい……。んな訳ないか。


 きっと私達と大差無い腕だと主張したいんでしょうね。



「謙遜しちゃって――」



 飼い犬の頬をウリウリと指で突く。


 おっ、まだ戦闘の尾を引いているのか。意外と熱いわね。



「任務中だぞ。気を抜くなよ」



 微妙に強張っている顔と精神を落ち着かせてやろうとして、御主人様がわざわざやってあげた可愛い所作を邪険に手で払う。


 はは、こいつめ。


 トアちゃんのありがた――いお茶目な行動を無下に扱うとは、良い度胸してんじゃない。



「そうよ、トア。まだ森を抜けていないんだし。警戒は怠らない様に」



 何と先輩まで私を蔑ろに扱うではありませんか。


 だが、当然その点は抜かりない。


 今も注意力を高めて周囲へと視線を送り続けているし。



「分かっていますよ。――――。敵の気配はそこかしこで漂っていますけど。周囲に敵の気配は感知出来ません」



 腹の奥をずんっと重たくさせる気配は分隊の後方と右翼の先。


 少なくとも周囲には感じ取れない。



「流石に気付いているわよね。安心したわ」


「先輩……。安心ってどういう事です??」



 唇をこれでもかと尖らせて左隣の先輩を睨む。



「ふふっ。その唇が見られるのならこの先は心配なさそうね」


「あ――。そうやってまた揶揄う。ねぇ、レイドも言ってやってよ」



 唇の形を保ったまま右を振り向く。



「ふぅ――……。その何んと言うか。イリア准尉が仰るようにもう少し気を張ってくれ」



 私の可愛い唇を見ると、真夏に強く吹く風も思わずウンウンッ!! っと。大きく頷く程の溜息をついて項垂れてしまう。



「はいはい。私の唇はどうせ……」



 そこまで話すとレイドの遥か後方の闇の中で強烈な光が迸った。



 刹那に現れたのは昼間の太陽にも似た強力な光だったが、直ぐにそれはぽうっと橙の色に変色して何だか心が休まる温かい色に変化する。



 え?? 何、あれ?? もしかして……。お化け!?



「ね、ねぇ。レイドあっちに……」



 あの光の正体を確かめるべく彼の肩に手を伸ばそうとすると。



「ッ!!!!」



 レイドが瞬きする時間も与えられない程素早く私の体と先輩の体を両手で跳ね飛ばす。



「「わっ!?!?」」



 体が宙に浮き彼と体が離れて行く様を見つめていると、灼熱の炎が地面から立ち昇り一瞬で彼の姿を見失ってしまった。



「は、はぁっ!?!? な、何よ!! これ!!」



 まるで地獄の底から湧いた様な温度を保つ炎の熱から逃れる為に右腕で顔を隠し。


 目を疑う光景に驚愕の声を張り上げた。



「トア!!!! イリア准尉!! 無事か!?!?」



 よ、良かった!! 無事だったんだ。



「大丈夫よ!!」


「私も大丈夫!!!! そっちは!?」


「俺と大尉は無事だ!!」



 右を見ても左を見ても炎の壁に途切れ目は見当たらない。


 レイドと大尉を囲む様に大きな炎が円を描いて立ち昇る。私と先輩は彼の咄嗟の判断で包囲から抜け出せたのか。


 もしも彼が突き飛ばしてくれなかったと思うと……。己の体が灼熱の業火に包まれ、悶え苦しみながら死に絶える姿を想像すると背筋に冷たい汗が流れていった。



「コホッ!! ってか!! そっちはどうなっているのよ!!」



 息を大きく吸い込むと炎が放つ熱で喉の奥が悲鳴を上げる。


 一体何が起きたっていうの??



「良く分からん!! 大方、面妖な奇術を使用する敵がい……」



 そこまで話すとレイドの言葉が途切れてしまった。



『言葉が発せられない』



 その状況を想像した刹那、私の顔からサっと血の気が引く。



「返事をしなさい!!」


「トア伍長!! イリア准尉!! 私の命令だ!!」



 大尉の声だ!!



「何ですか!! 大尉!!」



 先輩が炎の熱波に負けじと声を出す。



「ここから一刻も早く脱出して帰還しなさい!!!!」


「で、出来る訳無いじゃないですか!!」


「そうですよ!! 大尉とレイドを置いては行けません!!!!」



 先輩に負けじと張り上げる。



「トア!! 頼む!! 俺達の任務の成果を届けてくれ!!」


「嫌よ!! この炎を何とかして、そっちに行く!!」



 置いて行ける訳がないでしょ!!


 ひょっとしたら、もしかして……。


 この会話が最後になるかもしれないってのに……!!




「言う事を聞け!! お願いだ、トア。任務の成果は俺達だけの問題じゃないんだ。この大陸に住む人達にとってどれだけ有意義な情報になるか、分からないお前でもないだろ??」


「分かっているよ!! でも……。でもっ!!!!」



 くそ!!


 炎の中に飛び込もうとしても、目の前の炎に対して体が無意識の内に拒絶してしまっている。


 動きなさいよ、私の体!! 一体何の為に鍛えているの!?


 仲間の危機を救う為でしょうが!!



「……。大尉、レイド伍長。私達は先行するわ」


「せ、先輩!?」



 二人の気持ちを汲み取り、個を捨てて誰が為に重大な決断を下す。


 先輩の声色は軍人としての使命感に満ち溢れていた。



「ありがとう、准尉」

「有難う御座います、イリア准尉」



 大尉とレイドの優しい声が炎の熱波の間から漏れて来る。



「ば、馬鹿ぁぁああ!! こんな時に何かっこつけてんのよ!! 絶対、置いて……。先輩!! 放して下さい!!!!」



 レイドを置いてなんか行けない!! 絶対一緒に帰るんだからっ!!!!


 私の右手を掴む先輩の手を振り切り、勢い良く炎へ向かって駆け出そうとすると。



「いい加減にしなさい!!」

「っ!!」



 私の頬へ先輩の叱咤が放たれた。



「大尉とレイドの気持ちを汲みなさい!! それに彼等ならきっとこの窮地を脱出するわ」


「そ、そんなの!! 分かる訳ないじゃないですか!!」



 ひり付く痛みを放つ頬を抑え、激情に駆られた瞳で先輩を睨む。



「貴女も私も軍属の者よ。任務は忠実に遂行しなきゃいけないの。レイドも言ったでしょ?? 私達が得た情報が人々にとってどれだけ重要な情報なのか」



 分かっているけど……。それを認めたくないもう一人の自分が肯定を拒絶してしまう。



「それにトアも気付いていると思うけど。敵が接近しつつあるわ。このままじゃ私達も包囲されてしまう。行くなら今しかないの!!」


「――――。分かり、ました」



 ふっと目の力を抜き、腹を括った表情の先輩を見つめた。


 レイドとルズ大尉が刹那に放った言葉は今際の際に放つ声色にそっくりだった。


 本当は絶対に嫌だけど、彼等の思いを汲む為。そしてこの大陸に住む人達の為に行動しなきゃいけないよね……。



「トア、有難う……。ルズ大尉!! レイド伍長!! 私達は出発します!! どうか、どうか御無事で!!」



 先輩が悲壮な声を出すと同時に私の手を取り炎から遠ざけてしまった。



「レイド――――!! 絶対、絶対!! 帰って来なさいよぉおおお――ッ!!」


「あぁ!! 分かった!! 前線基地で美味い飯作って待っててくれ!!」


「う、うん!!!! 待っているからね!!」



 レイドの明るい声が遠ざかって行くと炎の熱が徐々に弱まり再び闇に包まれてしまった。


 お願いします。


 御先祖様の英霊、神の御霊。何でもいい。


 どうか……。どうか、私の下へ帰って来る様に彼へ力を与えて下さい!!!!


 地面から立ち昇る地獄の炎の揺らめきの先に居る彼へ祈りにも近い心の声を送り、私は先輩に手を引かれ弱々しい足を引きずりながら退却を開始した。

























 ◇




「う、うん!!!! 待っているからね!!」



 大地から立ち昇る火炎の柱が放つ轟音に負けないトアの声が俺を鼓舞させた。


 俺と大尉の身を案じて残ろうとしてくれた事が本当に嬉しかった。だが、ここでこれ以上の足止めを食らえば任務達成は困難なものとなるだろう。



 俺達の願いを皆へ届けてくれ。そして、必ず帰るからまた元気な顔を見せてくれ。


 別れ際に放った望みを叶える為、こいつらを殲滅しなきゃな……。



「トア達は行ったわね」


「えぇ。向こうはどうやら、俺達に標的を絞ったようです」


「そのようね……」



「「…………」」



 俺と大尉の正面。


 一体のオークの強化種が堂々と地面に足を降ろし、周囲から放たれる熱波をものともしない筋力を呼吸に合わせて大きく上下に揺らす。


 全身ドス黒い肌、右手に持つのは切れ味が悪そうな武骨な剣。醜い豚の顔はそのままに体だけは立派な作りだ。


 ストースの鉱山で会敵した敵に酷似している。つまり、それなりに強敵であると容易に判断出来るな。



 そしてその奥には鉱山の中でアオイに完敗を喫した魔法を使用する個体が風景に溶け込む様に佇んでいる。


 ボロ切れの外蓑を纏い、深く被ったフードの顔の口元は歪に曲がり、俺達をどう料理してやろうか。そんな鬱陶しい余裕の笑みを浮かべていた。



「大尉。どうします??」



 大尉は魔法が使用できないから強化種の相手を務めて貰いたいのが本音だが。


 強化種相手に人がどの程度まで渡り合えるか未知数だ。


 いっその事、俺が二体を同時に相手にするか??



「私が正面のデカイ奴を相手するわ。レイド伍長は奥に居る薄気味悪い個体を相手にしなさい」


「はっ。ですが……」


「何??」



 俺の意思を汲み取ったのか、ちょっとだけ不機嫌な表情に変わる。



「私の腕を信用しなさい」


「了解しました」



 危険だと判断したら申し訳無いが助太刀しよう。


 みすみす仲間を見殺しには出来ないし。



 さてと……。


 互いの相手が決まったのだが、問題はどうやってアイツに接近するかだな。


 強化種が俺を素通りさせてくれる訳もないし。


 強化種の相手に手こずる様なら遠距離からの魔法が厄介だ。龍の力を僅かに解放して、魔法使いとの距離を一瞬で詰めるか??



「炎の包囲を早く抜けないと周囲の敵が群がって来て退路が断たれるわよ。残された時間は一刻の猶予も無い」


「えぇ、自分もそう考えています。この二体を撃破して炎の隙間を探し当てて退却しましょう」



 大尉の重量感のある重い言葉に一つ頷く。


 そして、腰に携えている短剣を抜剣しすると炎の眩い明かりが見事に磨かれている刃面の上を反射して大尉の横顔を怪しく照らした。



「了解です。では、作戦開始……。ですね!!!!」



 俺が口を開くと同時。



「グァァアア――ッ!!!!」



 ガタイの良い強化種が無策で此方へと突撃を開始した。



「行きなさい!!」


「はいっ!!」



 大尉が強化種の剣を受け止めて俺に発破を掛けてくれる。


 互いの得物同士が激しく衝突する乾いた音が開戦の狼煙となり、小汚い魔法使いの下へと脚力を解放して接近を開始した。



「キィシシ……」



 死角に紛れて俺を襲うつもりなのか。


 憎たらしい声と笑みを残して、後方の森の奥へと朧に移動を始める。



「見えているぞ!!」



 相手の魔力、そして憎悪。


 目を瞑っていても手に取る様に相手の位置が把握出来てしまう。それ程にお前達の気配はお粗末な物なんだよ!!



「そこだぁ!!」



 木の陰。


 そこから僅かにはみ出しているボロ切れの末端へ向かって走り出した。


 そして敵の胴体を確実に穿ったと思ったが……。



「貰った……!! はぁっ!?」



 右手に心地良い感覚は得られず。代わりに硬質な幹の感触が虚しく切っ先を通り抜けて腕に伝わった。



 おいおい。嘘だろ!? 幻術を使用しやがるのか!?


 畜生、どこに行きやがった……。



「……」



 無言のまま戦闘態勢を継続させて己の中心として三百六十度。全方位へ注意を送る。



 この感覚……。確実に俺を狙っているな??


 薄気味悪い感覚が闇の中に漂い俺の背を泡立させる。


 耳を澄ますとルズ大尉と強化種の激しい戦闘音を捉え、静かにそして一定間隔で呼吸を続けていると相手の殺気が手に取る様に理解出来てしまう。



 死角に身を顰め、隙に乗じて俺の命を奪い取る算段か。



 このまま見に回ったら後手に回り長期戦を余儀なくされてしまう。俺と大尉を足止めして完全無欠の包囲網を完成させてから確実に命を狩る。


 全く以て厄介極まりない作戦だな。


 集中力を高めたまま警戒を続けていると。



「……ッ!!」



 大木の巨大な幹を容易く両断出来てしまう威力を持った風の刃が俺の胴へと一直線に向かって来た。



「だぁっ!!!!」



 襲い来る風の刃に対し、右手に力を籠めて短剣の刃で打ち砕く。



 あぶねぇ……。


 少しでも気を抜いていたら胴体と下半身がさようならする所だったぞ。



「キキキ……」


「ちっ。調子に乗りやがって」



 風に漂い敵の嘲笑が耳に届く。



 いかん、心を乱すな。


 極光無双流の教え。いいや、師匠の教えを守るんだ。


 怒りで揺らぐ心を鎮めて澄んだ水面に敵の姿を映す。



「すぅ――――。ふぅ…………」



 強張っていた肩の力を抜き、静かに目を閉じて心の中に浮かぶ清らかな水面の円を広げて行く。


 いつか、アオイが組手の最中に教えてくれたな。





『ふふ、レイド様。私の幻術に戸惑っていますわね??』


『そりゃそうだよ。瓜二つの姿が四方八方から現れたら誰だって焦るでしょ』


『己の姿を空へ投影して相手を惑わす。幻術の基礎ですわよ??』


『そうなんだ』


『ほぅら……。こうすればたわわに実ったアオイの果実をたぁくさん堪能出来ますわよ……』




 違う。


 もうちょっと後でしたね。




『幻術を打ち破る基礎。それは相手の魔力の痕跡を追う事です』


『痕跡を追う??』


『はいっ。己の魔力を空へ投影して幻術は作られます。つまり、本体から投影した拙い一筋の魔力を追えば宜しいのですわ』


『追う、ねぇ。そこまで器用に出来るかな』


『上位の使用者はこの痕跡を幾重にも張り巡らせて相手の追跡を惑わします。しかし、基本は基本です。幻術の対処方はこの点を突き詰めれば自ずと解決致しますわ』


『ありがとうね。魔法初心者の俺に、わざわざ叮嚀に指導してくれて』


『い、いえ!! アオイの体はレイド様の所有物ですわ!! ですからお好きな様に使用して頂いても構いません!! それより……。これから夜の御指導をアオイに……』



 はいっ。回想はここまで。


 男性の性をグンっと刺激してしまう如何わしい女体が頭の中に浮かんでしまったので強制的に回想を遮断してやった。



 魔力の痕跡を追う、か。


 誂えたような状況に物は試しと考えて深く呼吸を整え、全神経をその一点に集中させていくと。



「すぅぅ……。ふぅ――……」



 闇の中に小さな点が現れ、人の心を不安にさせる怪しげな光を放ちつつ揺らめいている姿を捉えた。


 そしてそれは俺を囲む様に幾つも点在して今も増殖し続けている。



 マイ達が放つ温かい魔力では無く体の芯を貫く凍てついた魔力に一つ顔を顰める。


 それ程まで……。俺の命を……。いいや、人間の命を奪いたいのか?? お前達は。


 憎しみ、憤怒、慟哭。


 こちらに向けられている負の感情が膨れ上がり幾つもの点が今にも爆ぜそうだ。



 一つの点に囚われるのでは無く点と点を繋げるんだ。



 アオイの教えを咀嚼し、反芻しながら集中力を高めて行くと。矮小な点から一筋の拙い線が静かに伸び始めた。


 一つの点、そして同時に点在する点から線が伸び絡み合ってある一点の方向へ目指す。



 これ、か??


 アオイの言っていた痕跡ってのは。


 一筋の拙い線は混ざり合い太くそして頼れる線となって道を照らし、それが終着点に到達した。



 たった一粒の水滴が鎮まり返った水面に零れ落ち、美しい音色と共に円を描き波紋が広がって行く。


 心に浮かぶ清らかな水面。


 その水面の上には微かに波紋を発生させる存在が静かに移動を継続させていた。



 幾つもの点から伸びる拙く儚いものが確実な一本の線となり、心の水面を揺らす邪悪な存在を結び付け遂に幻影の本体を捉える事に成功した。



 見えた……。見えたぞ!!



「ふぅぅぅ……。はぁぁっ!!!!」



 目を開いた刹那。



「「「グルァァアアアア――――ッ!!!!」」」



 虚像の豚共が襲い掛かって来るが、それら全ての存在を無視して目の前に開かれた道を信じて愚直に進撃を開始した。



 正面。いや、右に移動したな??


 俺の気配を察知した敵が移動を始めるが……。


 お前さんが俺の位置を把握出来る様に、こちらもお前の位置を把握出来ているんだよ!!



「――――。ッ!!」



 いたぞ!!


 あの薄気味悪いオークが目の良い鷹でさえも見逃す程、上手い具合に木に同化している姿を捉えた。


 その位置へ向かって駆け始めると。



「ギィヤッ!!!!」



 俺の目を真正面で捉えた醜い豚は魔力を急激に上昇させ周囲の空気を焦がす火球を此方に向けて放った。



 やばいっ!!!!



「ぐっ!?」



 微かに龍の力を発動させて防御態勢を取ると火球が右腕に着弾。


 皮膚を焦がす熱波と衝撃が全身を襲う。



「キキキ……」



 薄気味悪いオークは炎の着弾を見届けて勝利を確信したのか、歪に唇を曲げて薄ら笑いを浮かべた。



 耳障りな笑い声を上げやがって……。勝利を確信するのはまだ早計なんだよ!!!!


 腕に残る痛み、鼻腔を突く黒煙の香、そして眼の奥を刺激する閃光。


 こんなもの……。こんなもの!!!! 中尉の痛みや悔しさに比べればどうって事は無いっ!!



「はぁぁああっ!!!!」



 体の正面に浮かぶ爆炎の中を突っ切り、一陣の風を纏って薄気味悪いオークの下へと瞬き一つの間に到達。



「シァッ!!!!」


「くらぇええっ!!!!」



 再び魔法を詠唱する前に激情を籠めた渾身の右の拳で敵の胴体をぶち抜いてやった。



「ア……。アグァ……」



 龍の力を宿した右の正拳がオークの腹を穿ち背へと貫通。


 俺は右腕に力を籠めてこいつの体を宙へと浮かせてやった。



「中尉の仇だ。苦しみながら……。死ね」


「アィッ……。アァッ……」



 常軌を逸した苦しみから逃れる為に俺の腕を掴んで必死に引き抜こうとするがそれは叶う事は無く。


 無意味に足をばたつかせ、気色悪い声を放つと土へ還って行った。



「ふぅ……」



 腕に付着した黒い土を払い一つ大きく呼吸を漏らす。


 炎を発生させていた本体が倒れた所為か、俺達を包囲していた炎が鎮火し始めて肌を刺す熱が和らぐ。



 中尉、貴方の仇は討ちましたよ。どうか心安らかに静かに眠って下さい。


 燻ぶる炎から放たれた漂う漆黒の煙を見つめて亡き彼へと静かに決着を報告した。




お疲れ様でした。


漸く今回の御使いの終わりが見えて来てほっとしていますね。


ですが、ここで気を抜いてはいけません。家に帰るまでが遠足と言われている様に話を書き終えるまでが私の務めなのですから。


今回の御使いを終えたら新しい番外編を始めようかなぁっと考えております。


淫魔の女王様の勝手気ままな御散歩。そして彼の同期の彼女がどういった経緯で今回の御使いに召集されたのか、その前日譚。


実はこの二話をチマチマと書き綴っていまして……。時機が来たら連載をしようかなと考えているのです。


二話の構成としては、淫魔の女王様が各地に訪れて起こすハプニングでしたり。


人間側のヒロイン達についてもう少し踏み込んで書きたいなと考えております。





そんな事よりも本編を執筆しろ。読者様達の辛辣な御言葉が画面越しに届きますが、味変え。ではありませんが偶には趣向を変えないと継続意欲が、ですね……。



決まり次第また改めてご報告させて頂きます。



いいねをして頂き有難う御座いました!!


執筆活動の励みとなります!!



それでは皆様、お休みなさいませ。

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